投稿遅くて申し訳ないです。
その割にストーリーはあまり進んでいません。
初期と比べると誤字減ってるような気がする。嬉しい。
各々が今日のことを整理しながら、本格的に始まる職場体験に思いをはせる一日目の夜。移動の疲れから早めに寝る者や、訓練を夜中まで続ける者など人によって過ごし方はさまざまである。そんな中で、今のところ問題なく事が進んでいる純狐は平常運転であった。
(予想はしてたことだけど食事が不健康すぎる。明日の朝からは私が作りましょう)
純狐は動画を見ながら、夕食の冷凍食品オンパレードを思い出す。純狐は別に料理にこだわりがあるわけではない。だが、折角の貴重な時間を使って食事をするのならば、しっかりとしたものを用意したいという考えがあった。
(明日は朝から買い出しね。今のうちに買っておけるものは買っておこうかしら)
そう考え、財布をもって立ち上がったところでグラントリノの特徴的ないびきが聞こえてくる。まだ八時であるというにお早いことだ。
「あれ、落月さんどこか行くの?」
「ええ、明日の朝食でも買いに行こうかなと…。出久君もコスチューム着て今から訓練?」
と、ここで純狐はある重大なことに気づいた。
(しまった!明日の朝がフルカウルの習得か!)
外に向かっていた純狐の足が止まる。そう、職場体験二日目。出久は朝食に出された冷凍たい焼きと電子レンジでのことから、全身にまんべんなく力を行き渡らせるフルカウルのことを思いつくのだ。
(はぁ、朝食は残念だけど諦めましょう)
朝食よりも出久のフルカウル習得の方が重要事項であるため、踵を返し階段を上り始めた純狐。しかし、そんな彼女の背中に出久の声が届く。
「辞めちゃうの?あれだけ自信満々に投稿してたのに…。」
「え?私そんなことしてない…」
全く覚えのないことを言われて困惑するが、出久が嘘をついているようには見えないので、スマホを確認することにする。確認した画面には数件の通知が映っていた。そしてその内容はどれも純狐の作る料理を期待しているというものである。
(へ?ナニコレ?私なんかしたっけ)
純狐はクラスのLI〇Eグループを開き、自分の投稿を見る。
(『明日の朝食作ろうと思います☆作ったらここに写真上げるね~(^_-)-☆』)
「………は?」
あまりのショックに声を詰まらせる純狐。それと同時に、こんな悪趣味ないたずらを実行できる存在、つまりこんな怪文書を投稿した犯人が判明した。
(あのクソ―ティア…!)
純狐は怒りで肩を震わせる。今すぐその名を叫んで呼び出し殴りたい気分であったが、そばに出久もいるのでそれもできない。
このままではぼろが出かねないため冷静になろうと、深呼吸をして出久を見るが、出久は汗を流しながら目線を逸らすだけだった。かける言葉が見当たらない時、人はこのような行動をするのだろう。
純狐は通知音の攻撃に耐えながら、いくらか冷静になった頭でこの状況をどう切り抜けるか考えるが、何も思いつかない。こうなってしまってはもうどうしようもないので、純狐はこれ以上傷を広げることが無いように努めることにした。
「…やっぱり出かけるわ。」
地獄の女神に魅入られたような顔をして扉を開ける純狐を出久は苦笑いで見送る。そして数十分後、純狐は大量の荷物を抱えて戻ってきた。
「ら、落月さん…それ朝食にするの?」
出久は行っていた訓練をやめて、抱えられている袋を凝視する。純狐は驚きを隠せていない出久に疲れた笑みを見せ、無言で建物に入っていった。その笑顔の意味がよく分からない出久は、言葉を失ったまま呆然と建物の前に立ち尽くすしかない。
そうして出久が立ち尽くすこと数分。先ほどと比べればいくらか回復した純狐がコスチュームを着て建物から出てきた。
「さあ出久君。訓練を始めましょうか。」
純狐は出てくると同時に出久に向かって話しかける。出久はさっきのことについて追及したいと思っていたが、純狐の有無を言わさぬような態度を見て取りやめ、訓練を再開することにした。
「出久君。体育祭でワンフォーオールのイメージは掴めたかしら?」
「いや…まだまだだね。体育祭では、落月さんの力の使い方を参考にして五パーセントの力を体の各部に移してみたけど、それもまだ安定しないし、落月さんほどのスピードとパワーが出せないから対応が遅れてしまうんだ。」
出久の言葉を聞いた純狐は小さく頷きながら、どこまで教えてよいものか考える。
(フルカウルについては彼自身に気づいてほしいから下手にアドバイス出せないのよね。まあ、現状すでに原作より数歩進んでるしそこまで心配する必要は無い。でも明日の重要なイベントは欠けてしまうわけだし少しはアドバイスをしなきゃダメか)
そう結論付けた純狐は、再びビルの壁をジャンプで上ろうとしている出久を呼び止める。
「ねえ、出久君。オールマイトにヒップタックルされたら相手はどうなる?」
「…?吹っ飛ぶと思うよ。」
「じゃあ、オールマイトがヒップアタックしたのとまったく同じタイミングで、別の相手がオールマイトのパンチやキックを食らったら?」
純狐から出される問いの意図が分からない出久は首を傾げる。しかし、純狐が意味のないことをするとは思えないので、今回も何らかの考えがあるのだろうと思い質問に答えた。
「そっちも吹っ飛ぶと思うよ。」
「じゃあ、オールマイトはその時、ワンフォーオールをこの部位で使う、と思ってから行動していると思う?」
「いや、考えてから使うというより、元々どの部位でもワンフォーオールを使うことができるから…。ん?ああ!そう言う事か‼」
出久が気づいたのを感じ取った純狐は、心の中でガッツポーズをとる。かなり強引な誘導になってしまったが、最低限の仕事はできたという事なのだろう。
「うんうん。良い考えね。気づいたのなら後は慣らすだけだけど…もう遅いし明日にしましょう。」
純狐はそう言うと、フルカウルを始めた出久の肩を叩いて気を落ち着かせる。別にもう少し訓練を続けさせてもよかったのだが、朝食の準備も早々に始めないと間に合わないのだ。
「うん、そうだね。明日からも頑張らないと!」
一つの大きな壁を超えることができた出久は、明るい笑顔で建物に入っていく。純狐は、そんな風にぐんぐんと成長していく出久を少し羨ましく思いながら、明日の朝食のことに意識を集中させるのだった。
◇ ◇ ◇
職場体験二日目の朝。出久とグラントリノは騒がしい音と、香ばしい香りで目を覚ました。
事情を知っていた出久は、ああ、落月さんかと思い落ち着いていたが、事情を全く知らないグラントリノは何かあったのではないかと思い、急いで一階に降りて台所を見る。
「…は?」
だが、そこにあったのはグラントリノの予想のはるか上を行くものであった。高級ホテルの朝食を思わせるような料理の数々。見覚えのない、艶を帯びた机に掛けられた純白の布の上に載せられている装飾の施された皿。
唖然とするグラントリノは、とりあえず事態を把握しようとそれら一つ一つに目を向ける。
テーマは中華料理だろうか。まず目を引くのは、北京を代表する料理である北京ダックである。表面に垂れるたれが黄金色に焼き上げられたアヒルの色と絶妙に噛み合ってより食欲を引き立てる。
そして次にグラントリノが目をやったのは、その北京ダックの横に置かれた麻婆豆腐である。程よく聞いた唐辛子とニンニクの匂いに、グラントリノは無意識によだれをたらした。
その他にも、ギョーザや炒飯、シンプルな調味料で炒められた青梗菜などが人数分机に並べられていた。
グラントリノがその料理に見入っている間に降りてきた出久も、あまりの豪華さに階段の途中で足を止めてしまう。そんな二人に気づいた純狐は、調理器具を片付けながら二人の方に笑みを向けた。
「おはようございます、グラントリノ。そして出久君もおはよう。ちょっと作りすぎちゃったし、朝食には向かないけど皆に見せるんだからこれくらいしないとね。」
純狐はそう言うと、スマホを取り出して料理の写真を撮り、クラスのLI〇Eに載せる。そして、やっと終わったと呟きそのまま椅子に腰かけた。
(ふう、ヘカーティアが手伝ってくれたおかげで何とかこれだけは用意できたわ。いや、まあ元凶があいつだから何とも言えないけど、自分でも満足できたからこれでいいか)
何とも言えない達成感に包まれている純狐は、ヘカーティアへの怒りも忘れて手を休ませる。ヘカーティアに時間を停止してもらっていた間も、ほぼ休まず手を動かしていたため疲れていたのだ。
「…おい、落月。その…どうした?」
出久より一足先に硬直の解けたグラントリノは席に着きながら純狐に疑いの目を向ける。
「ちょっとしたミスで…気にしないでください。食べきれなかった分は昼食や夕食に回します。ほら、出久君も固まってないで早く食べましょう?」
純狐はグラントリノの視線が自分からが慣れたのを確認すると、グラントリノの横にいる椅子を指さして出久を呼ぶ。呼ばれた出久は、外れた顎をもとに戻しながらぎこちない動作で席に着いた。
「それじゃ、頂きます。」
「「い、頂きます…。」」
純狐の勢いに押されて手を合わせる二人。純狐はその様子を満足げな笑顔で見て、朝食を食べ始めたのだった。
◇ ◇ ◇
朝食を終えた三人は、少し休憩を挟んでから本格的に行動を始める。とは言っても二日目にしたことは、フルカウルの練習がほとんどであり、純狐が何かするという事はほとんどなかった。
「暇ねぇ。」
「小娘、暇ならちょっとついてこい。」
昼食後の訓練も終わり、夕方に差し掛かっていた頃。グラントリノは疲れて眠ってしまった出久をソファーに寝かせてから、自分の周りを“無重力”に純化して遊んでいる純狐に声をかける。
「どうかしました?」
「お前、今日何もしてないだろ。それじゃ、お前がここに来た意味がねぇ。お前は戦闘面に関しては問題ない。一足先に本格的な職場体験だ。」
グラントリノはそう言い終わると、簡単な準備を済ませて外に出た。純狐は変な事件が起こるのではないかという不安と、それ以上の好奇心を持ってグラントリノの後を追う。
「んじゃー行くか。とは言ってもただのパトロールだがな。」
戸締りを終えたグラントリノは純狐に向かってそう言うと、適当な道を指さして歩き始める。グラントリノの言った通り比較的大きな道でも人通りは少なく、細い道に入るとさらにその数は減って、最終的には視界に2、3人映る程度になっていた。
「特に何も無いですね。良いことですけど。」
「まあ、こんなもんだ。ちょっとジュースでも飲むか。」
一通りパトロールを終えた二人は、近くにあった小さな公園で休憩を挟むことにする。先にベンチに座った純狐にグラントリノは自販機で勝ったジュースを手渡し、その隣に座った。
「小娘。お前、勝負を楽しむ癖があるだろ。」
ベンチに座ったグラントリノは間髪入れずにそう切り出し、純狐の方を見る。
「俺はそれを全否定するつもりはない。戦闘を苦痛だとするよりはいいだろう。でもな、どこかでブレーキを付けとかないとただの戦闘狂になっちまう。争いごとを止めたり、予防したりするためのヒーローだ。俺は、お前のそんなところに危うさを感じた。」
グラントリノはそう言うと、缶コーヒーを一口飲んで純狐の反応を待つ。オールマイトから純狐位ついての説明を受けたグラントリノは、どうしてもこのことだけは言っておかなければならないと感じていたのだ。
(観察していたが全く底が見えねえ。どうアプローチしていくかの計画を立てるのが困難だが…これからの社会のためにも、俺がやれるだけのことをするしかない)
「グラントリノ」
凛とした声が夕日の指す公園に響く。グラントリノはその聞きなれない声に少し警戒をしながら、その声の主である純狐の方を向いた。
「確かに私は基本的に楽しむことを優先させます。察していらっしゃる通り、それは意識的にです。」
純狐はそこまで言うと、ベンチから立ち上がる。そして、2、3歩離れたところで振り返り、儚げに笑った。
「私の個性は時間制限付きなんです。ですので、私がヒーロー活動を表立ってすることは無いと思います。」
純狐の突然のカミングアウトに開いた口が直らないグラントリノ。純狐はそれを見ると、飲む終わったジュースを自販機の横のゴミ箱に捨てて、再びグラントリノの横に座った。
(私はどうせ途中退場するから、その時のための気持ちの準備をしておいてほしいのよね。他人に必要以上のショックを与えたら後味悪いし。まあ、今の発言もそれなりにショックなことだったかしら)
例えヘカーティアの作った模造品の世界であっても、そこにいる人たちの気持ちなどは本物である、というのが純狐がここでの生活で大事にしていることである。勿論それ以上に楽しむことを優先しているが、それでも他人の気持ちをないがしろにしたくは無かったのだ。
純狐が考えに浸っていること数分。その間もグラントリノは言葉を出すことができなかった。純狐はそんなグラントリノを見て、少し心配になり声をかける。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私はこのことを割り切ってますし、オールマイトもご存じです。それに私がいなくても、同年代の皆が立派なヒーローになってこの社会を支えてくれるでしょう。」
「…ああ、そうだな。」
純狐の明るい表情を見て、少しだけ気を緩めたような表情をするグラントリノ。もう時間も遅かったため、二人はそのまま事務所に帰ることになった。
「よっし!明日は小僧もつれて少し遠出するか!」
いつもの調子を取り戻したグラントリノは、杖をぶんぶんと振って歩く。純狐は何かしらの追及があると身構えていたが、それが無いのをありがたく思いながらその後ろをついて行った。
(明日はうまくいけばステイン戦か。とりあえず様子を見守りたいところだけど…私の場合、戦力を考えて脳無の方に回される可能性も大きいのよね。最終的にステインに会う事はできると思うのだけど)
どちらも面白そうなので、純狐はこのことに付いて考えないことにする。一つ心配なのはステインに強化が入って出久たちが負けてしまったり、轟の強化によってステインがあっさり倒されることで変な方向に話が進むことである。
その辺の調整を純狐がすることも考えたが、純狐は今あらゆる方面から疑われている状態だ。そのため、今変な動きをするとさらに疑いが深まってこれからの行動に支障が出かねないのであまりやりたくはなかった。
「そういやお前、料理どこかで習ってたのか?料理については全く知らんが、それでも相当なものだってのは分かったぞ。」
「まあ、昔からこういうのは好きだったので。運よく材料も用意できましたし。グラントリノも少しこだわってみては?」
「へっ、俺にゃ似合わねえよ。それにしてもお前の個性は誰譲りなんだ?」
二人はてくてくと歩きながら、調子よく雑談する。途中何個か答えにくいものもあったが、すでにパターン化してあるので、純狐は危なげなく答えたり、言葉を濁したりして乗り切っていくのだった。
◇ ◇ ◇
「なあ、焦凍。落月について他の奴が知らなさそうな、もしくは新しい情報を教えてはくれないか?勿論、話したくないことは言わなくていい。」
二日目の職場体験も終わり、事務所に帰ってきたエンデヴァーと轟は広い会議室に二人で集まっていた。
深刻そうな顔で轟に純狐のことを尋ねるエンデヴァー。エンデヴァー含め、ヒーローランキング上位のヒーローたちには純狐の対策マニュアルへの参加を呼びかけられていたため、情報をばれない程度で集める必要があった。
そんなエンデヴァーを前にして、轟はスマホをポケットから取り出し、少し操作をするとその画面をエンデヴァーの顔の前に持って行く。
「こ、これは…!」
エンデヴァーは思わず表情を崩す。その画面に映っていたのは…
「これ、落月が作った料理なのか!?」
轟は驚いた表情を直せていないエンデヴァーを一瞥して部屋を出る。そして、部屋を出たところで立ち止まり、小さく息を着いた。
「マジであいつ何もんなんだよ。」
読んでくださりありがとうございます!
次はサクサク話を進めたいです。
と、いつも言ってる気がする。
次回、職場体験三日目?