純狐とヘカTのヒーローアカデミア   作:SKT YKR

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こんにちは!

すみません、遅くなりました。

今回、原作キャラとの絡みはほとんど無いです。


職場体験 3

「よし小僧、職場体験に行くぞ!小娘も準備はいいな?」

 

 職場体験の三日目も夕方を迎えた頃、グラントリノはボロボロの出久と、その近くで読書をしていた純狐に声をかける。

 

(16時半か…。原作では17時だったから少し早いけれど、時刻表を見る限りこの時間に出る電車は一本しかないから大丈夫そうね。私の準備に気を使ってくれたのかしら)

 

 時間を確信しながら立ち上がった純狐は、服のしわを直しながらグラントリノの方を見てクスリと笑う。その視線を感じ取ったのか、グラントリノはフンと鼻を鳴らして純狐の方から目を逸らし、足早に出入り口の方へ向かった。

 

「俺は諦めさせないからな。」

 

「昨日も言った通り、完全に諦めはしませんよ。前線での活躍などから身を引くだけの予定です。」

 

 グラントリノと純狐は短く言葉を交わす。昨日の夜、出久が寝た後で、純狐とグラントリノは今後のことに付いて少し話し合っていた。グラントリノは民衆の声やオールマイトの現状から純狐を完全にヒーローから遠ざけることは避けなければならないと考え、それを純狐に伝えた。それに対し純狐は、とりあえず前線から身を引く、との答えを用意したのだ。

 

「お待たせしました!」

 

「それじゃあ出発だ。向かう場所はヴィランの出やすい渋谷。気を付けておけよ。それと勝手な行動は禁止。非常時は俺の命令に従ってもらう。」

 

 出久が出てきたのを確認すると、グラントリノは純狐との話を終えて近くを通ったタクシーを呼び止めて駅に向かった。

 

  ◇  ◇  ◇

 

「ヘカーティアさん…?この脳無は?」

 

「私が作ったものよ。この後、死柄木が脳無の要請をするはずだからその時使ってもらっていいわ。」

 

 ヘカーティアは、完全に拘束された脳無をオールフォーワンの方に突き出しながら言う。急な話で、尋ねたいことが山ほどあるオールフォーワンであったが、最近磨かれて来たスルースキルを最大限使用し、この場において最も重要だと思われることを割り出した。

 

「この脳無の個性は何ですか?範囲攻撃などで死柄木やステインを負傷させられては困りますよ。」

 

「安心していいわ。これはイレギュラーにぶつけるためのものよ。彼女以外には攻撃しないようにしてある。個性はその時になってのお楽しみね。」

 

「私としてはそのイレギュラー…落月が関わることは避けたいんですけどねぇ。」

 

 オールフォーワンはおそらく叶わない願いを抱きながら、いつもの椅子に座って死柄木から届いた脳無を要請する電話を取るのだった。

 

  ◇  ◇  ◇

 

「保須市って意外と栄えてるのな。」

 

 脳無の要請を終え、新規加入の脳無のことも説明を受けた死柄木は、黒霧から顔をのぞかせ辺りを見渡す。

 

「この街を正す。そして変な服装の奴も出来れば見つけ、消す。」

 

「あの方たちには関わらない方が吉だと思いますが…。」

 

 黒霧の呟きに舌打ちをしたステインは、体の調子を確かめ眼下の街を睨んだ。

 

(あのピエロに何かされたときから異常に調子がいい。あいつらの目的はこれだったのか?いや、今は考えるな。この街を正すのが優先だ)

 

 ステインは疑念を振り払い、いつものように自分の思う事を話すと町に飛び込んだ。

 

  ◇  ◇  ◇

 

(外が騒がしい…、成功ね)

 

 新幹線の中で、純狐は目の前の二人にばれないように小さくガッツポーズをする。そしてその数十秒後、ついに電車が急停止し、脳無が壁を突き破って車内に侵入して来た。

 

「小僧は座ってろ!小娘は壁を張って皆を守れ!戦闘は自分の身が危ないと思ったときのみ許可する!」

 

「了解です、グラントリノ。」

 

 純狐は心を弾ませながら、飛び出して行ったグラントリノを見送ると、どう抜け出すか考える。ちらりと隣の出久を見ると、すでに電車から身を乗り出しており、飯田の方へ向かう直前であった。

 

「落月さん!ごめん、飯田君が!」

 

 純狐の視線に気づいたのか、出久は必死の表情で訴える。元々止める気もないし、自分も途中で合流する予定だったため、純狐は出久に見て見ないふりをするという旨のことを伝えようと口を開いた。

 

「構わないわよ。行って…」

 

 その瞬間、誰も反応できない速さで黒い影が現れ、純狐を掴んで投げ飛ばした。投げ飛ばされた純狐は、その黒い影が自分の方に向かってきていることを確認し、自分の前に壁を張って攻撃を防ぐ準備をする。

 

「…はッ!?」

 

 しかし、その黒い影は一瞬で純狐の視界から消え失せ、それと同時に純狐をとてつもない衝撃が襲う。これにはさすがの純狐も反応することができず、そのまま地面に叩きつけられてしまった。

 

 地面に落ちた純狐は、体制を崩したまま自分を覆うように壁を作り、土煙の中に浮かぶ黒い影に目を凝らす。しかし、その黒い影は周りの土煙を吹き飛ばしながら高速で純狐の真後ろまで移動し、その姿を現した。

 

「…脳無!?」

 

 そこにいたのは真っ黒で細身の体にジェット機のエンジンのような部品の体から生えている脳無であった。先程の超高速移動のせいか、肩が外れていたり、体の一部がえぐれたりしているが、それもお得意の超再生によって瞬時に回復している。

 

(こいつの狙いは私か?もしそうでなかったら不味い。さっきソニックブームを出していたし、このスピードには誰も対処しきれない)

 

 脳無の動きを注意深く見ながら純狐は考える。幸いにも近くの民間人の避難は終わっているため範囲攻撃も存分に行うことができるのだが、如何せん速すぎて手が出せないのだ。

 

(どんな個性を持っているかも分からないし、今霊力を消費するわけにはいかない。だからといってこのままでいるわけにもいかない…)

 

 純狐はゆっくりと自分の周りの壁を解き立ち上がる。それを見た脳無はここぞとばかりに縦横無尽な動きを行いながら純狐に突進を仕掛けた。

 

(高速移動中は直線状にしか動けない。ならば!)

 

 脳無の突進の軌道を読んだ純狐は、脳無の向きが自分に来ると分かった瞬間に足を強化し、足元のアスファルトを叩き割りながら飛び退く。

 

 その時、浮き上がったアスファルトにスピードを落とすことなく突っ込んだ脳無は、血を周囲にまき散らせながら転がり、ビルの壁にぶつかった。

 

 流石の脳無もダメージが大きすぎたらしく、すぐに立ち上がりはしたものの一瞬動きを止めてしまった。純狐はその隙を見逃さず、脳無に“速”への純化、つまり瞬間移動を使って近づき、“縛”への純化で完全に動きを封じ込める。

 

「超スピードは防御力が伴わなければ諸刃の剣ね。空中を飛ぶ虫に当たるだけでも大ダメージとなりうる。アスファルトならばなおさらでしょ。」

 

 跳ぶ直前の姿勢のまま動かない脳無を見ながら、純狐は霊力を使ってケガを治す。勿論、外傷は監視を受けているかもしれないので治さず、ソニックブームで傷ついた内臓を重点的にだ。

 

(久々に戦闘で焦ったわ。問題なのはこれを作ったのがヘカーティアなのか、オールフォーワンなのかよね。ヘカーティアならいつものことだからいいのだけれど、オールフォーワンの方なら対策を早急に練らないと)

 

 純狐はそう言うと、四肢をもいで地面に埋めるため脳無に近づく。その時…

 

「―――ッ!?」

 

 バンッ、という大きな爆発音と共に、純狐は近くのビルの一階部分に叩きつけられる。混乱していたのもつかの間、再び同様の衝撃が襲い、コンクリートの壁を突き破って内部の駐車場の柱に叩きつけられた。

 

 これ以上のダメージは避けなければならないと体が判断したのか、純狐は柱に叩きつけられると、反射的に身をよじって地面に張り付いた。それとほぼ同時に、脳無が純狐のいた場所に突っ込み、柱を破壊する。

 

 純狐はそれを確認すると、真上にいる脳無に対して足蹴りを放つ。流石の超スピードでも死角からの攻撃を避けることはできず、脳無は足蹴りをもろに食らって建物の奥の方へ飛ばされていった。

 

 その隙に純狐は自分を“隠”に純化し、脳無の攻撃が直接は当たらない場所に身を隠す。地面には血痕が付いており、脳無にばれてしまう可能性も捨てきれなかったが、今はそんなことを気にしている余裕は無かった。

 

(何が起こった?“縛”は解いていないのに。これも個性か?だとすれば何という個性なんだ?)

 

 いたるところで脳無が暴れている音が聞こえる中、純狐はできる限り冷静に脳無について思考を巡らす。しかし、純化が破られるという事はこの世界に来てから初めてであり、内心かなり焦っていたため、なかなか意見が固まらない。

 

(ヘカーティアが個性以外の力を与えた線は神力が感じられなかったから薄い。束縛無効の個性か?いや、無効ならそもそも“縛”にはかからない。何か条件付きの個性打消し?いや、そもそも発動系の個性ならば、その発動さえも縛っているから発動不可。だとすると、異形系の個性か…ますます分からん)

 

 異形系だとしても、脳無はそもそも普通の人間とは違う姿をしているため判別しにくい。今回の脳無は、人間とかけ離れているというほどでもなかったが、体にいくつかのエンジンが付いていただけで他には確認できていなかった。

 

 そんなことを考えている内に、破壊音が近くに迫ってくる。そしてついに、純狐の隠れていた場所に脳無が突進を行い、それを避けるために姿を現さざる得なくなった。

 

 脳無の音速を超えた突進を数回食らった純狐のダメージは霊力で回復させてはいたものの致命的である。すでに鼓膜は両方とも破れており、あばらの骨も数か所折れている。内臓へのダメージも蓄積しており、後数回突進を食らえばもう戦闘は不可能だろう。

 

(人は勝ちを確信した瞬間が最も油断しやすいだっけか。体育祭といい、私はそこまで油断してるかしら?まあ、反省は後回し。今は目の前の敵に集中しましょう。手を抜いて勝てる相手ではない)

 

 純狐はとりあえず自分の周りに壁を張って安全地帯を確保し、そこから脳無の動きを観察する。

 

(動きに一貫性は無いか…。動きは予想できないことは無いけど、予想したところで完全に避け切れる速さではない。目はあるから目くらましは効くと思うけれど、私も目を閉じないといけない。どうしましょうか…)

 

 脳無は純狐に自分の攻撃が通していないことが分かったのか、いつの間にか動きを止めている。その場所も、純化の範囲から少し離れているため、咄嗟に攻撃をすることも出来ない。

 

(うん………、何通りか方法は思いついたけれど、霊力を使わない場合どれも運が絡む。フフフ、面白そうじゃない!)

 

 純狐はいつもとは違う笑みを顔に浮かべる。この世界に来てから全力を出して戦ったことがほとんどない純狐は、久しく忘れていた高揚感に包まれていた。

 

「今度は私から行きましょうッ!」

 

 自分の周りを覆う壁を解除し、脳無がそれに反応する前に、脳無の目前に風の爆弾を作り出す。それを気にせずに突進する脳無だが、さすがにその風圧を無視することはできず、速度は低下し軌道もずれてしまった。

 

 脳無の動きに合わせて移動した純狐は、手を“斬”に純化し、迫りくる脳無に向かって振り下ろす。脳無はその動作に危険を感じたのか、体を回転させて、自身の上半身を両断させようとしていた純狐の手を避けた。

 

「甘い!」

 

 脳無が避けたことを気にすることなく純狐は手を振りぬく。その破壊力は脳無の予想を上回り、手の延長線上にあるものすべてを切り裂いた。それには、避けきれなかった脳無の足首も含まれる。

 

「ちッ、足首だけか!ならば!」

 

 純狐は脳無が着地に失敗している間に、伸ばしきっていた手に風を纏わせ、後方の脳無に向けて瓦礫を巻き込みながら叩きつける。そしてすぐに、その付近を“弾”へ純化した壁で囲った。

 

 それによって、風はそこで渦巻いて再び大きな爆発を起こす。これで脳無は動きを止めるかと思われたが、その爆発からは逃れていたようで、血をまき散らしながら建物の奥の方に入っていった。

 

「逃がすわけには…!」

 

 回復をされてはたまらないと、純狐は脳無の後を追うように暗闇に入っていく。しかし、いくら純狐でも光がほとんど差し込まない場所で、黒く細身の脳無を探すことはできない。

 

「めんどくさいわね…。」

 

 純狐はイラつきながらそう言うと、指先だけに光を灯してそれを頼りに走り出し、身を隠すことができるような場所を徹底的に壊していく。

 

 しかし一向に手ごたえはなく、脳無を見逃してから一分ほど経ってしまった。純狐は、これ以上探し回るのは得策ではないと考え、いったん引いて元居た場所に戻る。

 

 と、その時、純狐の真上のコンクリートが砕け散った。純狐は急いで自分の周りに壁を張り、それをやり過ごすと同時に、目の前に降りてきた脳無を睨みつける。脳無の状態は、万全には程遠いものの、戦うことができる位には回復していた。

 

 つまるところ、振出しに戻ってしまったという事だ。ステインの方のイベントも回収しておきたい純狐としては、この状況はまさに絶体絶命といえるだろう。

 

 しかし、こんな状況でも純狐の口元には笑みがこぼれていた。

 

「そろそろ終わらせましょう、脳無。」

 

 純狐はそう言うとおもむろに自分の周りの壁を解く。勿論脳無はそれを見逃さず、限界に近い純狐の体目掛けて突進した。

 

 だが、純狐にとどめを刺すと思われた突進は不発に終わり、代わりに脳無から白煙が立ち込める。脳無は体も満足に動かせないようで、全身の筋肉が痙攣をおこしていた。

 

「私があなたを探している間に何もしていないと思った?」

 

 純狐はそう言うと、腕を前に突き出し、服の裾をこすり合わせる。そして、そこで小さく静電気が発生したかと思うと、それは極大の雷となり、脳無に突き刺さった。

 

 その脳無の後ろにあったのは、鉄の球体であった。それはその場所だけではなく、その駐車場のいたるところに設置されている。

 

 勿論これは元からそこにあったわけではない。脳無を探す途中で、今まで流れていた血を利用し、純狐が設置しておいたものである。

 

(この脳無はパワーはそれほどないからこの鉄を利用されることは無いし、障害物が増えることでスピードも出しにくくなる。さらにこんな使い方もできる)

 

 純狐は、皮膚がただれ始めた脳無に対し、容赦なく雷を打ち込んでいく。雷は扱いが難しいものの、あくまでただの物理現象である。ちゃんと準備をしておけば、純狐に扱えないものではない。

 

「ふう…、このくらいやっておけば再生にも時間かかるでしょう。」

 

 腹部の肉がほぼ無くなり、露出した背骨が黒く焦げ始めたところで純狐は放電を止める。少しやりすぎな気もしたが、まだ息はあるのでヒーロー的には問題ないはずだ。

 

「ステインの方に行きたいけれど…この状態じゃあ急げないわね。」

 

 純狐は自分の体を見てそう呟きため息をつく。脳無から突進をまともに受けたのは数回とはいえ、それはどれも音速を超えるものであったため、蓄積しているダメージはかなりのものであった。

 

「仕方ない。回復しながら歩きましょう。脳無は……そこの人、お願いするわ。」

 

 そう言うと、純狐はビルの外の瓦礫に隠れていたプロヒーローに声をかけて先を急ぐ。そのヒーローが後ろで何か言っていたが、純狐はそれを無視して、混乱する街の中心に向かって行った。

 

 

― ヘカーティアside ―

 

 

「これでもダメなのか…。」

 

 オールフォーワンは、黒焦げになった脳無が拘束されていく画面をみて唸る。いつも冷静沈着な彼としては珍しいことだ。それだけ純狐のことを危険視しているという事だろう。

 

「フフフ、私としては満足よ。知りたかったことは分かったし。」

 

 そんなオールフォーワンを横目に、ヘカーティアはいつもとは少し違った、安心したような笑みを浮かべる。だが、感情の高ぶっているオールフォーワンにはその表情は読み取れない。

 

「知りたかったこと…?教えて頂けますか。」

 

「あの子…仲間を呼ばなかったでしょ?まあ、今回の脳無に関しては他の人を呼んでも役に立たないっていうのはあるけど、仲間を呼ぼうというそぶりも見せなかった。これであの子が周りの人と自分のことをどう思っているのか分かるんじゃないかしら。」

 

 ヘカーティアの言葉を聞いて、オールフォーワンは考え込む。何のためにヘカーティアがそれを知りたがったのかは分からなかったが、この情報は彼自身にも有用なものであったため、そちらを優先させたのだ。

 

(変わってなくて安心したわ。あの子が誰かに頼るなんてらしく無いからね。最悪彼女の性質が変わってしまう。体育祭で生徒との協力が上手く行っていたという事を聞いてヒヤッとしたけど、杞憂だったか)

 

― side out ―

 

 




読んでいただきありがとうございました!

次で職場体験編は終わると思います。
戦闘シーンへたくそなのはもはや伝統芸。

次回、ステインに会えるといいなあ
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