がばがばさに拍車がかかってます。
ひぐらし卒楽しみですね。
「マスキュラーがやられたか。このままだとムーンフィッシュもヤバいな。脳無を向かわせるか……だが、そっちに集中しすぎると、他の生徒の足止めが厳しい。ムーンフィッシュも惜しいが切り捨てるほかないか?」
「大丈夫だ、俺たちが控えてる。本当に大丈夫なのか?」
荼毘の持つスマホの画面には、仲間の位置を知らせる印が点滅している。その点の内、マスキュラーのものの動きが止まり、ムーンフィッシュのものも動きが鈍くなっていた。作戦開始から15分も経っていないのにも関わらず二人がダウンしてしまうのはさすがの荼毘も予想外だったようだ。
(まだ戦闘許可の命令も出ていないのに……血気盛んねあの子たち。このままだとヴィラン側が勝利できるか不安になってきたわ)
純狐は荼毘の戦闘報告を聞きながら、今後の展開を予想する。ちなみに純狐が今最も警戒しているのはオールマイトだ。強敵が来れば加勢に来る、という言葉を、純狐は自分が苦戦する程度の敵のことだと考えていた。しかし、冷静に考えてみればヴィランの中でも悪名高い奴らが襲撃してきているこの状況はオールマイトが来ても何ら不思議ではない。
(私もこのジャンプ漫画の世界にかなり毒されてるわね。オールマイトがくるとしても、止める手段はここにあるけど……)
そう、オールマイトへの対策はここに存在する。荼毘の操る脳無だ。弱個体の脳無であっても、脳無がいるという事実だけでオールマイトの足を鈍らせることはできる。敵の狙いが分からない以上、USJと同じようにオールマイトを倒すための作戦であると考えられなくも無いからだ。しかし、これだけでオールマイトは止まらない、と純狐は思う。彼なら戦闘で脳無を倒すことより、それを避けて生徒の保護を優先するだろう。
(無理にでも戦闘をさせて止めるしかないのだけれど……ここで出てきた脳無はおそらく中級の個体だからオールマイトには瞬殺されそう)
純狐が脳無を強化することも考えたが、脳無がどこにいるのか分からない。下手に動けば誰か見つかるかもしれないし、荼毘に脳無を呼び出してもらうにしても、八百万が発信器を付けた後だと致命的だ。また、隠への純化中は自身の肉体強化以外のことはできないため、脳無の前でいったん解除する必要がある。脳無の一挙一動を見る八百万の目を誤魔化せるとは思えない。
(今の私はかなり広範囲の人たちに疑いを持たれている可能性が高い。今戦闘をしていないというのもその疑いを加速させる原因となっているでしょう。まあ、このことはもうどうでもいいんだけど、折角今まで隠してきたし神野までこの姿勢を貫きたくもあるのよね)
もう学校でのイベントは無く、純狐が疑われることで行動しにくくなるようなことも無いだろう。だが、ここ数か月の間いかに自分の正体を隠しながら好きな行動をするか考えて、何とかしたのをこの林間合宿というタイミングで放棄はしたくない。
「荼毘、周辺への通信妨害は?」
純狐から急に声をかけられ驚く荼毘。だが、答えることにリスクしかないため、無視して状況確認に努めていた。
「言わないとあなたたち捕まえるわよ。」
「何もしないんじゃなかったのかよ。」
さすがに無視するわけにもいかなくなった荼毘は面倒そうに返事をする。警戒をほとんどしていないところを見るに、純狐を信用はしているのだろう。まあ、戦闘ではどうしようもなく、逃げ切れる可能性も低いため信用するしかないというのもあるだろうが。
「気が変わったのよ。それに、今あまりいい状況じゃないでしょ。生徒たちの戦闘力とか見て……」
と、その時。遠くで爆音が鳴り、その場所に砂嵐が立ち込める。遠かったため何が起こったか正確には分からなかったが、三人は何があったのか感覚で理解できた。
「まさかオールマイトか?クッソ、この作戦ガバばっかじゃねぇか死柄木!」
(いくら何でも速すぎるでしょ。マジで隣町でスタンバってたの?いや、起こったことはしょうがない、この状況どうするか……)
荼毘は珍しく語気を荒らし、純狐はすぐさまどうすればいいか考えだす。しかし、開闢行動隊は、戦力の余裕はあるとはいえ、劣勢である。そこにオールマイトが来たとなると、もはや作戦の続行は難しいだろう。
(このままだと作戦中断して撤退しかなくなる。それは避けたい。こうなったら私も賭けに出るしかないわね)
このままここで隠れていても状況は悪化していくばかりだろう。純狐は瞬時にそう判断して立ち上がると、焦る荼毘たちに落ち着くよう声をかけた。荼毘たちも焦ってばかりいられないと、若干冷静になっていたが、それでも状況を打破する作戦は思い浮かばないようだ。
「いい?あなたたちはここにいて。絶対に見つからないように。私は今からマスキュラー、そして脳無のところに行くわ。脳無の場所は……そこね。」
荼毘の持つスマホを覗き込み、純狐は最小限の強化をすると止める間もなく森の中に消えていった。残された荼毘たちは死柄木に連絡をし、とりあえず純狐の言った通り身を隠す。
「チッ、いよいよあいつが何をしたいのか分から無くなってきた。だが、今はあいつを当てにするほかねぇ。おいトゥワイス、お前もとりあえず隠れろ。分身の操作は最小限でいい」
「いいぜ!ホントに大丈夫か!?」
迷彩柄の布に身を覆い、二人は少し離れた場所で死柄木からの指示を待つ。遠くからは、オールマイトの大きな声と爆音が時折聞こえている。仲間から戦闘不能のマークが出ていないところを見ると、ヴィランと直接戦闘はしていないのだろう。だが、明らかにヴィランたちの動きは鈍くなっている。
(頼むぞ死柄木。そして落月は……ああ、もういい。あいつが今ヒーロー側につけばそれまでだ。信じるほかない)
◇ ◇ ◇
少し戻って、生徒たちが異変に対処し始めた頃。直前まで純狐と共に肝試しをしていた八百万は、戻らない純狐を心配しながら物陰に隠れガスマスクを作る等のサポートに徹していた。
(「ちょっと状況を把握してくる」って、一体どこに行かれたのでしょうか。彼女に限って危機的状況にあるとは思えないのですが……。特有の戦闘音は聞こえませんし)
八百万が純狐の心配をしていると、マンダレイの通信で戦闘許可が下りたことが告げられた。それとほぼ同時に、近くにいた泡瀬と合流し先生たちのいる宿舎を目指すことにする。
「しっかし、全く状況が分からねぇな。慎重に行動しないと……。」
「そうですね。しっかりと安全を確かめて……」
八百万の視界はそこで一度途切れた。そして次に見たのは目の前に迫るチェンソーの歯。咄嗟に鉄の棒を作り出し致命傷は避けたが、軽い脳震盪があり、足はまともに動かなかった。
「オイ、しっかりしろ!クッソ、なんなんだよ!」
泡瀬は倒れる八百万をすぐに担ぎ、チェンソーを体から生やす脳無から逃げ出す。だが森の中という慣れない地形、そして夜中であるという悪条件もあり、脳無との距離は近づく一方だ。
「ホネヒャン!!」
脳無の意味の無い声がすぐそこに迫る。ここまでか、と泡瀬が諦めかけた時、そこに大きな影が降ってくる。砂ぼこりに隠れよく見えなかったが、その大きな影は、目の前の脳無を吹き飛ばすと、泡瀬と八百万を抱えて走り出した。
改めてその顔を見るまでも無い。そこにはこの世で最も頼もしい笑顔がある。
「もう大丈夫!私が来た!!」
「「オールマイト!」」
森の中に響く大きなよく通る声。それは絶望を感じていた生徒たちを奮い立たせるのに十分であった。
「とりあえず、君たちを宿舎まで届けよう。そこに相澤君たちもいるはずだ。安静にして、皆にも落ち着くよう伝えてくれ。」
オールマイトがそう言い終わると同時に、三人は宿舎の前に到着した。二人を置いたオールマイトはニコッと笑顔を見せると、再び夜の森に駆け出してゆく。
(それにしても落月少女の姿が見えない。この場での最高戦力である彼女が動いてないとなると、力押しはできない状況なのだろう。ん?あれは何だ?常闇少年のダークシャドウに見えるが明らかに制御できていない。まずはあれを止めないとな)
近くにいた轟と爆豪の方も気になったが、戦闘面で二人が押しているようだったので後回しにし、常闇の方に向かうオールマイト。仲間間で傷つけあうというのは、もし大事に至らなくてもその後の関係などに大きく影響する。そういう意味でも常闇の個性の暴走は直ちに何とかしなければいけない案件であるとオールマイトは判断した。
「もう大丈夫!私が……」
「オールマイトだと!?」
常闇に向かって下降するオールマイトは横から飛んできた何かにぶつかり、遠くに飛ばされてしまう。だが、それでうろたえるオールマイトではない。すぐに体制を立て直し、そのぶつかったものがマスキュラーだと認識すると、すぐさま戦闘態勢に移った。
「俺の趣味じゃないんだが逃げることも出来そうにねぇな。さっきの緑谷といい、今日は似たような個性に会うな。」
マスキュラーは何とか逃げ道を探そうとするが、オールマイトに隙は無い。スピード、パワーそして何より個性としての格が違う。2、3撃は耐えられてもその後は無いだろう。
「緑谷少年!また無茶を……。マスキュラー、ここで投降すれば拘束だけで済ませるぞ。」
一応戦闘しない選択肢を出すオールマイト。しかし、マスキュラーはここで投降するような精神は持ち合わせていない。マスキュラーは今の状況と力で何とかしようと個性を発動させた。その瞬間、マスキュラーの腹に衝撃が走り、背後の木に打ち付けられる。それでも勢いは収まらず、マスキュラーは幾度も木にぶつかりながら吹き飛ばされてゆく。
「いってぇな……ッ!」
倒れ込んだマスキュラーは何とか体を逸らしてオールマイトの追撃を避けた。2,3撃は耐えられるとした予想は甘かったらしい。手足を振り回して何とかオールマイトに距離を取らせると、マスキュラーは森の中に飛び込む。だが、すぐにオールマイトに足首を掴まれ、地面に叩きつけられてしまった。途切れそうな意識を何とかつなぎとめるも、もはや逆転の目は無い。
「ここまでか……」
しかし、天はマスキュラーを完全に見捨てたわけでは無かった。オールマイトがとどめの一撃を放とうとする直前、空から脳無がやってきてオールマイトとマスキュラーの間に落ちる。
「くッ、脳無!」
どんな個性を持っているか分からないため、オールマイトは距離を取り体制を立てなおす。脳無はそんなオールマイトに向かって行こうと背中からチェンソーを出すが、一歩踏み出すとバランスを崩してその場に倒れた。よく見ると、脳無は再生途中であり、体の右半分は歪な形になっている。
この隙を逃すまいと、オールマイトは脳無の懐に潜り込んで拳を打ち込んだ。それだけで脳無は空に打ち上げられ、森の中に消えていく。が、致命傷に至っておらず、すぐさま暗闇からチェンソーの歯が迫った。
オールマイトは手刀でその軌道を逸らし、そのチェンソーの根元を掴んで引き寄せ、顔面に拳を叩き込む。これにはさすがの脳無も堪えたのか、四肢を投げ出し痙攣し始めた。オールマイトはすぐさま脳無を完全に気絶させ、逃げようとしていたマスキュラーにも手刀を叩きこむ。
「ふぅ、時間がかかってしまったな。次こそ常闇君の元に……」
オールマイトが再び森の上空に行こうとした時、背後から大きな足音が聞こえた。咄嗟に横に飛びのくと、オールマイトがいた場所に大きなチェンソーが振り下ろされる。そして、気絶している脳無と全く同じ姿をした脳無が暗闇から姿を現した。そして、その後ろからは疲れた様子の飯田が飛び出してくる。飯田の服は木の枝などが絡まっており、かなりの速度で走ってきたのが分かった。
「よかった!オールマイト、脳無を頼みます!」
「よく分からんが、とりあえず了解だ!飯田少年は危ないから私の後ろに隠れて外部のヒーローに救援要請を!」
オールマイトはそう言うと、飯田を守りながら脳無を撃破する。先程より時間はかかってしまったが、他のヒーローを呼ぶ時間を作ることができたという事で、戦力に余裕ができたとオールマイトは少し気を緩めた。だが、スマホを握る飯田の表情は芳しくない。
「オールマイト……通信が全く通じません!」
「何だって!?」
オールマイトは、念のために持って来ていた端末で連絡を取ろうとするが、飯田の言う通りどの通信手段も遮断されていた。この森につく前は特に問題なく電波を拾うことができていたため、ある程度情報を得てから連絡をしようとしていたのが完全に悪手になってしまった。
「飯田少年は宿舎へ向かって有線電話でまた連絡を試みてくれ。私は他の生徒の元へ向かう。くれぐれも気を付けて!」
オールマイトはそう言うと、飯田が見えなくなるのを確認して上空に跳び上がる。しかし、足に触手のようなものが絡みついており、想定していた高度には達することはできなかった。
「本当にしつこいな!君は!」
足に絡みついていたのは先程気絶させたはずの脳無から延びる腕だ。右半身も再生されており、この脳無の再生能力の高さが分かる。それに加え、チェンソーが武器という殺傷能力の高さ、飯田に追いつく機動力の高さを見て、オールマイトは優先事項を常闇からこの脳無2体に切り替えた。
(幸い常闇少年は、その個性が苦手とする爆豪少年と轟少年の近くにいる。彼らが止めてくれることを祈ろう。それにいまだに落月少女の戦闘音が聞こえないのが気になるな……。動けない状況なのか、それとも……いや、さすがにあり得ないか)
◇ ◇ ◇
「これで何とかオールマイトは拘束出来たでしょ……。あー疲れた。」
オールマイトと脳無の戦う姿を遠くで見ながら、純狐は肩の力を抜く。
荼毘と別れたのち、純狐はまずマスキュラーの元へ行き、力を分け与えて復活させた。そこで顔を見られるとまた面倒なことになりそうだったので、すぐにオールマイトのいる方へ投げ飛ばしたのだ。これがオールマイトを叩き落したのはただのまぐれである。オールマイトが移動したことを確認すると、純狐はその場に移動。そして倒れる脳無を二等分し、それぞれ傷口付近の細胞を生命力に純化させ、オールマイトが居そうな方向に時間差で投げた。そして、少し余裕ができた間に、奥の手である霊力を使い、この宿舎周辺の地域の通信を遮断したのだ。
「オールマイトの戦闘、霊力の大量消費……、ノルマ達成は出来なかったけど、まあ、うまくやった方でしょ……。」
そう言いながら何とか荼毘たちのいる場所まで戻ってくる純狐。オールマイトが不確定要素のある生徒たちを宿舎に連れて行ってくれたおかげで動きやすくなってはいるものの、まだ気は抜けない。
「何とかして来たわ。オールマイトは後10分くらいは拘束できるはずよ。その間に何とか作戦を遂行して頂戴。」
「あー、疲れているとこ悪いが落月。Mr.が轟に拘束されたらしい。」
化け物を見るような目で純狐を見る荼毘は、先程とは異なり、本当に申し訳なさそうに報告する。トゥワイスに至っては、もう頭を抱えて動けなくなっている。さすがに見積もりが甘すぎないかヴィラン連合さんよ、とツッコミを入れたい純狐だが、既にそんな体力も余裕も無かった。
「……うん。分かった。トゥワイス、私を増やすことはできる?」
「ちょっと試してみるか……。いや、できない。事前に準備しとかないと難しい。それに……俺はお前が全く分からない。うまく言えないができる気がしねぇんだ。何か本質的なところでお前のことが分からねぇ。」
自分が二人いれば何とかできると、期待を込めて提案したが、なんとも言えない理由で断られてしまった。だが、この程度は想定内。純狐は次の案として、荼毘を増やすよう命令する。
「プロヒーローたちを足止めする手段が無くなるが……仕方ねぇな。」
ここまで状況が悪くなっていると、爆豪回収という目的を速攻で達成するほかない。トゥワイスは既にやられかけの荼毘の分身を壊し、新たに分身を作った。純狐はその分身を強化しながら、これからの動きの説明を始める。
「分身の方はこの森の反対側に向かってちょうだい。そして、こちらからの合図で最大火力をこの森を囲うように放って。じゃあ、いってらっしゃい!」
純狐はそう言うと、めんどうそうな顔をする荼毘の分身を送り出す。送られた力が多かったのか、自分の身体能力に驚きながらも荼毘の分身は森の中に消えていった。
「荼毘、あなたも強化してあげるわ。あっちに合図すると同時にこちらも火を放つわよ。」
「了解だ。」
体を強化されながら、荼毘は冷静に仲間の位置を捉えて火に気を付けるよう連絡する。荼毘はこの場所なバレないように気を付ける余裕が無いことが分かっていた。それに、ここまでの異常事態が起こったにもかかわらず死柄木から連絡がこないことから、死柄木が自分たちが失敗しても特に問題ないと考えていることも理解していた。だが、できることなら成功させて帰りたい。
「よし、強化は終わり。三十秒後に作戦決行よ。あなたの仲間の命は保証しないから何とかしなさい。」
「もうできてるよ。燃やしたら、Mr.の方に行けばいいんだよな。」
荼毘は調子を確かめながら仲間の一の最終確認を行い、隣のトゥワイスにも自分たちについてくるよう指示する。そしてついに、この作戦はクライマックスに突入した。
◇ ◇ ◇
コンプレスを拘束した轟、爆豪、緑谷と障子そして常闇は、その場から動かず先生たちが来るのを待っていた。しかし、その場は急に炎に囲まれ、氷で拘束していたコンプレスには逃げられてしまう。
「クソ!煙で何も見えねぇ!」
「爆豪。あまり呼吸をするな。」
轟は何とか炎を避け、自分たちの周りに氷の壁を新たに作る。その中で皆の安全を確認しようと後ろを振り向くと、そこには爆豪と常闇の姿が無かった。
「かっちゃん!?常闇君!」
「3人は捕まえたと思ったんだが……さすが雄英生だ。だが残念だったな。開闢行動隊、回収目標達成だ!3分以内に回収地点に向かえ!」
持っていたガスマスクで何とか煙から喉を守ったコンプレスは、指先で小さなビー玉を遊ばせながら轟から距離を取る。その数秒後、そこに荼毘とトゥワイスも到着し、ヒーロー側にとっての状況はさらに悪くなる。
「よう、Mr.順調そうだな。落月も最初に捕まえたみたいだし、大手柄だ。」
詳しい話は聞いていないため、コンプレスは純狐のことに疑問を覚えるが、ここは話を合わせておくことにする。緑谷たちは純狐が捕まっていたという事を聞き、いざという時の救援は期待できないと改めて気を引き締めた。
「炎に気を付けながら回収地点に向かうぞ。じゃあなヒーロー。」
そう言うと、ヴィランたちはあっという間に森の中に入っていってしまった。緑谷と障子が近くにいた蛙吹にヴィランが向かった方に投げ飛ばしてもらおうとしたが、炎と煙があり危険すぎるという事で実行することはできなかった。
「……ッ!僕はまた……!」
「緑谷。悔しいのは分かるが、今は無謀な行動はすべきじゃない。オールマイトも来ているんだ。大丈夫さ。」
◇ ◇ ◇
「よし、何とかなったわね。」
先に集合地点に向かっていた純狐は、風を操って誰も大きなケガをしないよう炎の向きを調整しながら、荼毘たちの報告を聞いていた。そこに続々とヴィランたちが集まってくる。ちなみに集合地点付近には水を撒いており、火ができるだけ近くに迫らないようにしている。
「え、こいつ拘束できてないじゃないですか。」
純狐を何とかした、としか聞いていないトガは自由に動いている純狐を警戒し再び森の中に逃げ込む。そこに荼毘たちが合流し、仲間たちに今の状況を軽く説明した。完全に信じた様子ではないヴィランたちだが、この場に純狐を拘束できる力を持つ者はいないため従うほかない。
「皆さん。合図から3分。行きますよ。」
説明を終えるころ、黒霧が登場し、純狐が真っ先にその中に入っていく。その純狐の足がちょうど隠れた時、その場に衝撃が走り、ヴィランたちが吹き飛ばされた。
「おいおい、マジかよオールマイト……。」
その場に現れたオールマイトは服の端々が黒く焦げ、全身に切り傷が走っているような状態であった。そしてその手には、そんなオールマイトとは比べ物にならないほどにボロボロになった脳無が二体握られている。
「このまま帰れると思ったか、ヴィラン!」
その声には既に慈悲の要素など感じられない。それだけで精鋭であるヴィランたちもしり込みしてしまう。オールマイトはその硬直しているヴィランたちに対し手刀を叩き込んでいく。反応することができたのは、トガ、荼毘、コンプレス、そして黒霧の4名だけであり、他はすべて気絶してしまっていた。
黒霧は何とか気絶してしまった仲間の回収をしようとするが、すぐにオールマイトの拳が迫り、殴り飛ばされてしまう。勿論、オールマイトはそれだけでは止まらず、炎の用意をしていた荼毘の腕を蹴って折り、変身しかけていたトガを今度こそ気絶させ、コンプレスの持っていた玉の一つを奪う。
この間僅か5秒。ヴィランたちは自分たちが相手にしているものがどれほどの存在か改めて分かってしまった。
(無理だ。勝てねぇ)
荼毘は目の前に迫る拳を見て確信してしまう。が、その時、一瞬だけオールマイトの動きが止まり、隙が生まれた。
「ッ、黒霧!」
この機を逃すまいと、荼毘は黒霧に回収を指示する。オールマイトはそれを止めようとするが、手足がまるで糸に絡まったかのように動かない。
黒霧の中に入っていくヴィランたちを悔しそうに見るオールマイト。そしてその時、オールマイトは見てしまった。その黒霧の中から顔をのぞかせる人物を。
(あれは!落月少女!くッ、こんな気味悪い糸など……)
その顔を見て力が湧き出てきたオールマイトは、見えない糸の拘束を打ち破って純狐に接近する。そしてその手を掴もうと手を伸ばしたが、その手は純狐本人に払われてしまい、届くことは無かった。
「オールマイト。大丈夫です。私はもうすぐ……」
伸ばした手が弾かれたという事実に混乱するオールマイトに、純狐は優しく語りかける。そしてその姿がすべて黒霧に消えた時、ヒーロー陣営の敗北という形でこの林間合宿の襲撃は幕を閉じた。
読んでいただきありがとうございます。
体育祭編あたりでグダグダしすぎたと個人的には感じてます。
ここまで続くと読む側も大変そう……。
次回!林間合宿後