純狐とヘカTのヒーローアカデミア   作:SKT YKR

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こんばんは!

過去の自分に振り回されている主です。
やっぱ純狐さんの扱い難しすぎる。頭のいいキャラを書くのが主の頭では不可能なのです。
後半は日常回みたいなものです。

最近になって鬼滅の面白さに気づき始めた。



林間合宿後3

 会議が終了した後、相澤とオールマイトは話していた通り神獄に電話をかけた。しかし、その電話はつながらず、神獄と会話をすることはできなかった。固定電話だけではなく携帯の方もコール音が鳴り続けるだけという状況に若干の不審を抱きつつも、相手にも都合があるので仕方がないと割り切り二人は仕事に戻る。

 

 探りを入れることで状況が悪化するかもしれないとも考えていたが、根津曰く、もしそうであれば既に何らかの被害が教師陣にも出ているだろうとのこと。確かにオールマイトだけに見える文を用意できる者がこちらの行動を読めていないとは考えにくい。

 

 仕事を一段落させたオールマイトは、今日は学校に泊まろうと仮眠室に入った。丁度その時、手に持っていたスマホが鳴る。登録されている番号ではなかったため無視してしまおうかとも思ったが、何か緊急の連絡であるかもしれないため一応電話を取ることにした。

 

「あー、もしもし?私です……と言っても分からないわよね。まあ、あなたたちの言う神って者です。」

 

 神という単語を聞いた瞬間、オールマイトの身の毛がよだつ。やはり探りを入れたことで敵対者とされてしまったのか、宣戦布告なのかなど脳内で推測が飛び交う。電話の向こうの存在はその混乱を見抜いたかのようにクスっと笑い、変わらぬ調子で話し始めた。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。あなたたちに害をなすことはしないわ。今日は一つだけ伝えておきたい情報があるの。」

 

 そうしないと埒が明かなそうだし、と付け加える神。オールマイトは未だに混乱してはいたが、段々と冷静さを取り戻していた。

 

「分かった、君の話はちゃんと聞くことにしよう。だがその前に一つ確認させてくれ。君は本当に神なのか?」

 

 神のことを知っているのはヒーロー、警察のごく一部そしてヴィラン連合のみであるため、いたずらである可能性は低い。だが、不確かな情報をおいそれと信用することはさすがにできない。たとえ相手がまともに取り合ってくれなくとも何らかのアクションを起こさなければいけない。

 

「本物よ……って言っても信用しないわよね。ちょっと待ってて。」

 

 神がそう言うと、電話の向こうでガサゴソと音が聞こえ、その音がやむと同時にオールマイトの目の前に一枚の紙が落ちてきた。咄嗟に構え周囲を警戒するオールマイトだったが、勿論近くには誰もいない。

 

「その紙拾ってみて。朝見たものと同じ文が見えるはずよ。」

 

 オールマイトは警戒しながら真っ白に見えるその紙に触る。すると『神に全てを一任する』という一文が浮かび上がった。オールマイトがそれを確認すると同時に、その紙はパンッという音を立てて影も形も無くなってしまう。

 

「信じてくれたかしら。ま、どっちでもいいわね。じゃあ本題に入るわよ。」

 

 オールマイトはもう少し尋ねたいこともあったが、強引な会話の進め方に逆らうことができない。

 

「私は明日でいったんここから手を引くわ。今後関わることは基本無いと考えてもらっていいわよ。ナイトアイとの会話で既に察しているかもしれないけれど、純狐って子も明日以降関わることはほとんど無いと思うわ。」

 

 神はそれだけ言うと、何か証拠でもあった方がいいかしらと呟き電話を切った。オールマイトはあっけにとられたままスマホを握る手を下ろし、新たに目の前に落ちてきた紙を手に取る。そこには手描きで『明日以降特に関わりません』とあり、奇妙な印が押してあった。

 

 その数分後、相澤が休憩室に飛び込んできて、先程神から電話があったと奇妙な印の押された紙を掲げながら話す。奇妙に思ったオールマイトが相澤の携帯の着信時間を見ると、自分と全く同じ時間に電話がかかってきていた。奇妙な現象だが、今まで神のしてきたことや三人いるという仮説を考えるとさほど不思議なことではない。

 

「とりあえず校長に報告だな。そして会話の内容だが……目の前のことに集中しろという事だろうか。」

 

「それにしてもあの声……神獄さんに似ていた、というよりも本人ですよね。隠す必要もなくなったという事でしょうか。だとすれば明日以降関わらない、というのも全くの嘘という可能性は低い……?」

 

 神であれば、自分たちが神獄を疑っていることを知って変声しているという事も考えられる。しかし、そこまで考えていてはそれこそ埒が明かないだろう。その辺も考えて自分たちに余計な考察をさせないために神はこのタイミングで接触してきたのかもしれない。二人はそんなことを考えながら、まだ電気の消えていない校長室に急ぐのだった。

 

◇  ◇  ◇

 

「轟君……君の元にも連絡が?」

 

 教師たちが純狐の居場所を知った頃、時を同じくして一部の生徒たちにも純狐から連絡が届いていた。連絡が届いたのは轟、飯田、切島、そしてまだ目を覚まさない出久の四人である。

 

「クラス全員に送らなかったってことは、混乱を避けたかったのか……だがそれを考えるなら俺たちに送る必要も無いな。先生だけでいいはずだ。何かやってほしいことでもあるのか?」

 

「あのヴィラン連合の基地だ。奇襲をするにしても強力なヴィランが待っているのは間違いないだろう。そんな場所に行くとなると邪魔にしかならない気がするが……。」

 

 飯田と轟は頭を抱える。純狐の性格をそれなりに知っている二人は、純狐がこんなことを意味も無くやっているとは思えなかった。まあ頭のどこかには、こっちを混乱させて楽しんでいるのかもしれないという考えもあったが。

 

「今日はこの辺りにしておこうか。学校が無いからと言って忙しく無いわけでは無いだろうし。」

 

「ああ、そうだな。それじゃあお休み。」

 

 情報の共有という目的が互いに果たせたので、二人は適当な理由を付けて電話を切る。電話を切った後、轟は勉強机に座りながら純狐のことを考えていた。

 

(オールマイトが森の奥に向かった後、一瞬あいつの気配が強くなった気がしたんだよな)

 

 轟の感じたそれは、あの体育祭で爆豪に対し見せたものに似て、あまりいい気持のするものではなかった。飯田に聞いても特に何も感じなかったと言っていたのでただの勘違いだったかもしれないが、轟は何かあるような気がしてならないのだ。

 

(体育祭の時は驚きが勝って観察なんてできなかったが、昨日のはなんとなく分かった気がする。あいつは切島が言っていたように何かを憎んでいるんだ。普段は何事も無かったかのようにふるまう余裕がある……というよりも憎しみを上塗りするように過ごしているように見える)

 

 それは緑谷に自身ことを指摘される前には決して至れなかっただろう考え。そしてそれ以来、自分の考えや行動を客観的に見ることで段々と理解することができるようになったことだ。

 

(そうだとすればあいつは何を恨んでいる?俺には何ができる?)

 

 轟はまず純狐の過去を疑う。ヴィランに襲われたという本人談、そして意図せず先生たちの会話聞いた際に知った、両親が行方不明になっていることがまず思い浮かぶ。だが、これだけだ。ただの一生徒である轟は、純狐との付き合いはそれなりにあるものの本人が話すこと以上のことは噂程度にしか知らない。

 

(となると普段のあいつの行動から判断するほかないな)

 

 轟は早速出会いからこれまでの行動を思い返す。共通しているのは自分の力を誇示するような言動だろうか。実技試験での巨大ロボの撃破、戦闘訓練で真正面から迎え撃つ姿勢、体育祭での多種多様な力の使い方とインパクトのある自滅まがいの行動、純狐から聞いた期末試験も逃げ回ってはいたものの最大の決め手はやはり真正面からの戦闘での優勢である。

 

(力に関して何かコンプレックスがあるのか?ヴィランに襲われたとき何もできなかったとか……いや何か違うな。派手な行動は感情の上塗りというよりも一時的な楽しさを得るためだろう)

 

 その後も純狐の行動を思い返す轟。そして純狐の取った行動の中でも特に意味の分からなかったことを思い出す。それは職場体験でステインと戦闘になった際、その最後に純狐の取った行動である。

 

(傷だらけのステインへの抱擁……。唐突過ぎるし、あいつにしては珍しい行動だった……気がする)

 

 純狐はスキンシップの多い方ではない。というよりも皆無に近い。その純狐があんな行動をとったのだ。

 

(あの時、落月には余裕は無かったはずだ。ステインも弱っていたとはいえ、普段の用心深い性格からするととどめを刺すにしても遠距離攻撃を選択するだろう。あいつは更生を促す言葉をかけたと言っていたが、やっぱりあれだけのリスクを背負ってまでするとは考えにくい。緑谷じゃあるまいし)

 

 轟はこの行動から何かしら推測しようと、比較対象となりそうな出来事を思い返す。ヴィランに襲われお互いに重症、という状況はUSJが類似しているだろうか。

 

(USJの時、あいつは……なんか一人で脳無と戦ってオールマイトに引き継がせて最後に美味しいところを自滅しながら持って行ってたな)

 

 では何故ステインの時はそれをしなかったのか。USJの時、オールマイトの明確な危機や油断ならない状況であったという事に対し、ステインの時は、こちら側は負ける要素はほぼゼロであったという違いはあるものの、それがあれだけの行動の違いにつながるとは思えない。それにあの時のステインの気迫を考慮すれば、危機迫る状況であったとも言えるだろう。

 

 思い返す中で轟が考えたのは両事件でのヴィランの精神状態の違いであった。USJでのヴィラン連合は、まるでゲームのように攻撃を楽しんでおり、そこに一貫した正義のようなものは感じなかった。だがステインの時は違う。ステインには一貫した信念があり、それは轟でも全否定できなかった。

 

(となるとあいつもステインの考えに影響されたのかもな。だがその考えは人を傷つけるための理由付けにしているところもあって、実際たくさんの人を傷つけていたことを落月は分かっていた)

 

 そう考えると、純狐の行動はとても理性的なものである。相手の考えを完全には否定せず今まで行なってきたことの間違いに気づかせる。言うのは簡単だが、行うのはトップヒーローでも難しいことだ。では、やはりあの行動も純狐の計算の内だったのだろうか。

 

 煮詰まってしまった轟はラジオを流し始める。テレビよりも気軽に気分転換をできる手段として重宝しているものだ。だが流れる番組はあまり気分のいい内容ではなかった。

 

『……色々難しいことはあると思いますが、雄英高校にはしっかりと現実を受け止めて反省してほしいですね。数か月前にはUSJの件などもあって警備体制を万全にしていると豪語してからのこれですから。これではPlus Ultraなんてのも理想でしかありませんよ。』

 

 世間から批判されるのは仕方の無いことなのは理解している。天下の雄英でさえもヴィランの襲撃を防げないという事実は市民の不安を煽るには十分すぎるだろう。

 

「現実と理想ね……。そう言えば、あいつも理想との乖離に苛まれる、みたいなことを言ってたな。」

 

 言われたのは確か体育祭だったか、と轟は懐かしく思う。その時は何を知ったようなことを、と思っていたが今考えれば言いたいことも分かる気がする。

 

 と、そこで轟はある考えが浮かんだ。純狐の言っていたこちらを諭すような言葉は、彼女の経験から来ているのではないか。

 

 今までは、頭のいい落月がそれっぽいことを言って相手を諭しているだけだと思っていた。だが、あのような言葉を咄嗟に考えられるだろうか。

 

(あいつは理想に届かなかった自分を憎んでいるのか?いや、自己嫌悪のようなものは……力の使い方とかから察するに何か憎むものがあると考えるのが妥当か)

 

 誇示するかのような力の使い方から轟はそう判断する。もしただの自己嫌悪であればあれ程楽しそうに力を振るうことは無いだろう。これは自身の力を忌み嫌った轟の経験に基づく考えだ。世の中には過去のトラウマを上塗りするため、強くなった自分を見せつける、という考えもあるが、それにしても力を振るう純狐には後ろめたいものが感じられない。あの洗脳まがいのものを除けばだが。

 

(俺がとやかく言えたことじゃねぇが復讐で満足するのは一瞬で、それ以外に産むものがほとんどない……。もしそれが分かっていても突き進む理由があるのなら、俺たちが何かしてやらないとな)

 

 轟がいくら考えても、純狐がどんな理由で何を憎んでいるのか分からない。まあ、純狐がヒントを全くと言っていいほど出していないため仕方の無いことである。ヘカーティアも友人のトラウマを簡単に暴露するほど畜生ではないためそちらからのヒントもない。

 

 ここで得た気づきを轟は神野でどう生かすのか。ひそかに轟のことを観察していたヘカーティアの関心は既にそちらに移っていた。

 

◇  ◇  ◇

 

襲撃後、ヴィラン連合の基地に最後に入った純狐を待っていたのは拘束具を持ったヴィランの皆さんだった。不意打ちならば拘束できると思ったのだろうが、その程度の事態はヴィラン連合の基地に乗り込もうとした時点で想定している。そしてここにいるヴィランは基本的に触れなければ危害の無い個性ばかりのため周囲に壁を張るだけで無力化できた。

 

「いい加減諦めなさいって。死柄木君も分かってるでしょ。」

 

 ヴィランの中で唯一手を出さなかった死柄木を見て純狐は言う。この中で最も純狐の実力を知っているのは死柄木であり、指揮権を持つのも彼である。そんな彼がこれを止めないという事は、ただ面白がって放置しているだけなのだろう。

 

「一回分からせられねぇと分からない馬鹿ばっかりだからな。許してやってくれ。そしてお前、早速だが先生がお呼びだ。向こうの部屋にあるパソコンで通話できる。二人で話したいらしいから俺たちは近寄らないぞ。」

 

 なかなか諦めないスピナーを締め上げる純狐に廊下の方を指さす死柄木。純狐はオールフォーワンと初対面するという事で気合を入れる。純化を取られることは無いし目の個性を取られたところで今更だが、相手は原作でも底が知れない悪の帝王である。警戒して損することは無い。

 

「了解。じゃあまた後でね。」

 

 純狐はそう言うとまだ暴れているスピナーと怪しげな動きをしている荼毘を気絶させてから部屋へ向かう。部屋に入っても強制ワープのようなことをされていないので、向こうもこちらを警戒、若しくは正体に感づいて手を出さないことにしているのだろうと予測する。

 

「初めましてだね、落月純狐。君も私のことを知っているだろうし自己紹介は不要かな。」

 

「そうね。あなたも協力者から色々聞いているでしょうし。」

 

 純狐とオールフォーワンはお互いに黒い笑みを浮かべる。

 

「とは言ってもお互いの認識に齟齬が無いかどうかの確認は必要だ。まず、君は近日中に私たちの前から消える、という認識はあっているかな?力も落ちてきているようだし、楽しむこと最優先の君はこの先満足できないだろう。」

 

 入学前の巨大ロボの戦闘から比較するに、純狐の身体能力強化は半分以下にまで落ちているとオールフォーワンは考えていた。残念なことに、その時は縛りを緩めていたため比較対象とはならないが、その計算違いを抜きにしても純狐の力が落ちてきているのは確かである。

 

 だが純狐が驚いたのは力の低下や行動原理に気づかれたことではない。まるで純狐が別世界の住民であることが分かっているかのような口調の方である。別世界の存在が証明されていないにも関わらず、そんな突拍子も無いと言える考えに至ったオールフォーワンの思考の柔軟性に驚いたのだ。

 

「その認識であっているわ。でも驚いたわね、ヘカーティアも私との関係をほのめかすようなことは最小限に止めているでしょうし、少ないヒントでよく考えたものだわ。」

 

「……お褒め頂き光栄だよ。そしてやはり君はヘカーティアさんと繋がりがあるみたいだね。安易に手を出さなくてよかった。」

 

 オールフォーワンとしては予測が外れ純化を奪うというのが理想だったのだが、予想が当たったのであればそれも大きな収穫である。そしてここまで予想が当たったのであれば後は消化試合だ。

 

「一つ聞きたいことがあるんだ。君は何を憎んでいるんだい?君の歪みは、私が今まで見たことが無いほどだ。もはや歪みすぎて純粋なものとなっているようにも見える。私はその力の一端を見ただけだが、それでもここまで感じられるという事は、本来はもっと大きなものがあるのだろう?」

 

 地雷を踏みぬきかねない発言だが、今の純狐はオールフォーワンが満足のいく答えを出してくれたという事で気分がよかった。おそらくどこかで見ているだろうヘカーティアも、それを察してオールフォーワンの話を止めなかったのだろう。

 

「この話は秘密にしておいてね。私、もう何を憎んでいるのか覚えていないの。ただ憎い。それだけが私の行動原理よ。」

 

「……もしかしてそれは月に関係が?」

 

 言葉を選ぶオールフォーワンだったが、直接的なことを言われた純狐の表情には若干苛立ちが見え始めた。これはまずいと話題を逸らそうとするが、純狐の目は既に赤く染まり始めており、下手な話題転換は自殺行為となる可能性がある為見守るしかできない。

 

「あなた結構知ってるのね。イライラをぶちまけたいところだけど、いいわ。これも全てあいつのせいだし……!」

 

 そう言うや否や、純狐の雰囲気は普段のものに戻る。純狐の雰囲気を感じ取ったのか部屋の外からは死柄木の慌ただしい声が聞こえ始めた。今はこれで終わりにしましょう、と頭を冷やしながら純狐はオールフォーワンに提案する。オールフォーワンも話す内容を選びたかったのでそれを承諾し、二人の初めての通話はそれで終わった。

 

 その後、爆豪が目を覚ますまで、二人は夜通し語り合っていた。オールフォーワンが純狐の正体に気づいた理由やヘカーティアへの愚痴、時に地雷を踏みぬかれそうになったが、純狐としては満足の行く時間を過ごすことができた。

 

「おっと、爆豪君が目を覚ましそうね。あなたは私の嫌いな部類だけれど、ここで潰しても意味ないからね。私のいるうちは身の振り方に気をつけなさい。そしていつか、私のような復讐者やヒーローに倒されるがいいわ。」

 

「はは、手厳しいな。」

 

 通信を切り、純狐は原作よりも一日早く目覚めた爆豪の様子を見に行く。ヴィランと仲良くしているところを見られると色々面倒そうなので、あくまで遠くから見守るだけである。

 

「意外と落ち着いているわね。死柄木君が気に障るようなこと言ってないのかしら。」

 

 原作と違い、死柄木は特に何をするでもなく爆豪を監視しているだけであった。仲間に誘うのはこの環境にもう少し慣れさせてからにするらしい。

 

「お前ら、こいつの監視任せるぞ。」

 

 爆豪が何のアクションも起こさないことを確認すると、死柄木は興味無くしたのか部屋を出て廊下に立っていた純狐に付いてくるようジェスチャーを出す。このままだと何も起こりそうにないため、純狐は指示通り小部屋に入った。

 

「なあ、あいつは俺らの仲間になると思うか?」

 

 オールフォーワンと何を話したのか尋ねられると思っていたが、死柄木が気になっていたのはそこではないらしい。確かに、爆豪の琴線に触りそうなことを言う前に、純狐に意見を求めるのは正しい判断だと言えるだろう。急成長を遂げている死柄木に純狐は感心する。

 

「十中八九無理でしょうね。あの子は歪んでいるとは言ってもマイナス方向ではないもの。別に現状を変えようとかも思っていないだろうしね。」

 

「だよなぁ……。チッ、今のニュースの内容でも聞かせればその考えも少しは変わるか?」

 

 頭を抱える死柄木に、純狐は呆れたように呟く。今回、死柄木が爆豪をさらったのは、仲間に分かりやすい成果を与え、ヴィラン連合の評価を高めて内部分裂を防ぐ、というのが最大の目的である。勿論、世間から非難される雄英を見せて爆豪の心をヴィラン側に傾けようという試みもあったのだが、今までの爆豪を見るにそうなる可能性が低いことは分かっていたのだろう。

 

「ハァ、まあいいか。正直あいつに対する興味はあんまねぇしな。」

 

 死柄木はそう言うと立ち上がってバーの方に歩いて行った。爆豪にちょっかいを出しに行ったのかと思っていたが、そうではなかったらしい。小さなケーキと紅茶が乗ったお盆を持って部屋に帰ってくる。

 

「お前の分だ。」

 

「ありがと。この前のお返しってことでいいのかしら。」

 

 純狐はにっこりと笑ってそれを受け取る。おそらくオールフォーワンが、自分との話で気を悪くした時のために用意させていたのだろう。

 

「……あら、結構美味しいじゃない。」

 

「食いながらでいいからちょっと答えてくれないか?先生からお前のことを少し聞いた。それを踏まえてだ。俺たちの仲間になる気は無いか?」

 

 オールフォーワンからどこまで話を聞いているかは分からないが、おそらく純狐の抱える歪みについて軽く知ってしまったのだろう。死柄木なりに同情しているのかもしれない。このような点も自分の事しか考えられなかった死柄木の成長なのだろう。

 

「仲間にはならないわ。物理的に会いにくいところに帰るしね。」

 

 死柄木はその答えを聞き、そうか、と短く呟くとまたバーの方に歩いて行く。その背中は寂しそうでもあったが、それ以上に覚悟を決めたようなものが見て取れるものであった。

 

(何だかんだ大人になっているのね。自分の過去のことを思い出せばまた色々変わりそうだけど……。ま、関係ないか)

 

 




読んでくださりありがとうございます。

はい。先に純狐さんたちを満足させることができたのはヴィランサイドでした。
まあ、純狐さんの設定的にヴィランとの相性が良すぎるので仕方ないですね。
因みに死柄木君の持ってきたケーキなどは彼が選んで買ったものです。
保険という意図ももちろんありましたが、それ以上に自分を成長させてくれた純狐にお返ししたかったみたいです。

次回、何とか神野直前まで行きたいけど間延びするかも。

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