期間が開いてしまいすみません。
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「おい、落月はどこに行った!?」
オールマイトとオールフォーワンの戦闘の余波は対純狐用の作戦本部にも及んでいた。純狐が脳無に吹き飛ばされ、廃倉庫の方向に移動したことまでは把握できていたが、それ以上の追跡ができていないのだ。
「あ!映りました!あそこです!」
運よく現場近くの監視カメラが生きていた。我先にと数人が画面をのぞき込み、その状況を確認する。
「前にいる奴は死柄木か?遠くてよく見えん!」
「だが、もしそうだとするとなぜあいつは攻撃しない?あ、逃げられたぞ!やはりあいつは死柄木だったか!」
緊迫する作戦本部。純狐の実力があればあの場で死柄木を捕縛することはたやすかったはずだ。何故それをせず、まんまと取り逃がしてしまったのか。疑惑が深まる中、ついに指揮官は決断を下す。
「……仕方ない。第一フェーズだ。現場近くに移動するぞ。現時刻より対落月純狐、その作戦を始動する!だが、あくまで現場近くで待機だ。オールマイトの邪魔をするわけにもいかん。そして、繰り返す!私たちはあくまで最終段階になるまで彼女に攻撃を加えてはならない!独断は決して許さないぞ!」
◇ ◇ ◇
「貴様の穢れた口で……お師匠の名を出すな!」
怒りに任せ倒れるオールフォーワンの顔面に殴りかかるオールマイトだったが、真正面からの攻撃は通じない。オールフォーワンは待っていました、と言わんばかりに個性を複数発動させ、上空のヘリに向かって吹き飛ばす。
咄嗟に身をひるがえし、そのトゥルーフォームがカメラに映らないようにするオールマイト。体制を整え再びオールフォーワンの前に躍り出るが、もはや正面から戦うだけの力が残っていない。そしてそれは彼自身が最もよく理解していた。
「弔がせっせと崩してきたヒーローへの信頼。決定打を僕が打ってしまってよいものか……」
各メディアがオールマイトたちの戦闘を中継し始めた頃、オールフォーワンは回復を終え、余裕綽々と語りだす。
「でもね、オールマイト。君が僕を憎むように僕も君が憎いんだぜ?僕は君の師を殺したが、君も僕の築き上げてきた者を奪っただろう?だから君には可能な限り醜く、むごたらしい死を迎えてほしいんだ!」
まるで筋の通っていない理論。おそらくこれもオールマイトの冷静さを欠かそうとする作戦の一つなのだろう。語り終わったオールフォーワンは再び腕で複数の個性を発動させそれをオールマイトの方に向ける。狙いはオールマイトではない。その後ろにいる小さな命だ。
「君なら避けないよね?」
背後から瓦礫の崩れる音が聞こえ、オールマイトもその存在に気づく。ここで攻撃を受けてしまえば、命の危機とはいかずとも力はほとんど使い果たしてしまうだろう。しかし、彼にとってそれは市民を見殺しにしていい理由にはならない。
「まずは怪我をおして通し続けたその矜持、みじめな姿を世間にさらせ。平和の象徴。」
オールフォーワンの攻撃による土煙が晴れ、その中身が大衆の下に晒される。そこにいたのは、トゥルーフォームとなり、もはや戦闘継続は不可能だと思われるオールマイト、そしてその背後にいる二人の市民の姿だった。
その市民二人はそれぞれ微妙に離れた場所にいたため、オールマイトは大の字でオールフォーワンの攻撃を受け止めることとなってしまっている。
驚愕、誰もがそれを信じられなかった。出久などオールマイトの本当の姿を知る人たちも、その内容は違うが大衆以上のショックを受ける。オールマイトの本当の姿やそのハンデを知っていても、どこかでオールマイトのいつも通りの勝利を信じていたのだ。いや、信じるなという方が無理だろう。彼は皆の前では常に無敗のヒーローであり続けたのだから。
「おやおや、二人いたのかい。気づかなかったよ。でも、腕一本分ならまだしも両腕を使ってしまっては君も限界だろう。」
オールマイトがここまでのダメージを受けたのは、単純に攻撃を受け止める面積が広かっただけではない。両腕を使う事になり、体のバランスを取ることさえ危うい状況では、その攻撃を馬鹿正直に受け止めるしか手が無かったのだ。勿論そのダメージは致命的である。
オールフォーワンの言葉通り、オールマイトは限界を迎えていた。ここにきて、終にオールマイトはその膝を折り、地面に倒れ伏す。その目から闘志は消えていないが、もはや拳を握ることさえできない。
「勝敗は決したようだね。ここで色々したいこともあるんだが、計画の遂行は焦っても良いことは無い。何処かに逃げたイレイザーヘッドの回収にでも向かうかな……。」
「待て……!」
地面を掻き、血を吐いてオールマイトは立ち上がろうと意気込むが、無情にもその足は言う事を聞いてはくれない。骨と皮だけの男が唸りながら身を捩り、それを不気味な大男が見下ろす。そのあまりにも絶望的な光景に民衆はもはや言葉を失っていた。
「じゃあね、オールマイト。崩れ去った平和の象徴。君が形作った社会が崩れていく様をそこで眺めているといい。ん?これは……」
オールフォーワンはそう言い放ち、その場を後にしようと歩き出す。しかし彼がその場から立ち去ることはできなかった。彼を囲むように透明の壁が展開されていたのだ。
「君は出てこないと考えていたのだけれど……気でも変わったのかい?」
「気が変わったというか……ただの軌道修正よ。それにあのまま引きこもってるよりこうして出向いた方が面白そうでしょ?」
確かにそうだね、とオールフォーワンは小さくこぼす。純狐含むヘカーティア一派の動きは彼をもってしても読めない。そんな彼女たちには動かないでほしいと願っていた彼だったが、今回も駄目だったようである。
「君とは真正面から戦いたくは無かったが、そちらがその気なら気が済むまで戦ってあげよう。と言うよりも、それ以外選択肢は無いのだろう。」
タンッ、と軽い音と共に体を浮かし、個性を複数発動させた腕でオールフォーワンは殴りかかる。当たれば痛いだろうが、それが本気でないことは誰の目から見ても明らかだ。
「君には話しておこうか。僕は今日ここで一旦、表舞台から去る予定だ。あまり詳しく話すことはできないし、その時間も無いため省かせてもらうよ。君としてもそちらの方が面白いだろ?」
適当に殴り合いをしながら、オールフォーワンは話し続ける。打撃音にかき消されるはずのその声がはっきり聞こえているのは、そのような個性を使っているのだろうか。
「元々部外者の私はあなたの計画を邪魔する予定は無いわ。でも……それだけじゃないでしょ?さあ、私にあなたの好きな嫌がらせをしてみなさいな。」
「流石だね。」
少し強い攻撃と共にオールフォーワンは純狐から距離を取る。
「僕としては不完全燃焼だが、仕方ない。殺されては元も子もないからね。だから、あくまで嫌がらせさ。」
オールフォーワンは手を純狐に向けてかざす。途端に純狐は体から力が抜け、それと同時に何をされたか悟った。最大限警戒し、純狐はオールフォーワンの動向を見守る。
「──ッ!」
視線の先のオールフォーワンは、もだえるように目の窪みを押さえてうずくまっていた。そう、オールフォーワンは純狐の目の個性を奪ったのだ。純化はヘカーティアによって、個性に近いがそうではないという中途半端なものとされていたが、目の個性はこの世界において発現したものである。
そうであればオールフォーワンに扱えない道理はない。実際今、個性を奪うことはできている。しかし、その個性は人の体になっているとはいえ、純狐から生まれたものだ。切島などが気付いていたように、そこには純狐の本質である感情やそれに伴う霊力などもわずかながら含まれている。故にその個性は劇毒。純狐の狂気ともいえる純粋な憎しみに少しでも触れてしまえば、その者は廃人になりかねない。オールフォーワンはその感情の一部を自身の体に直接入れてしまったのだ。
脳、そして何より無いはずの目を無限に焼かれるような痛みがオールフォーワンを襲う。体中の血管が浮き上がり息は荒くその劇毒を体外に排出しようと危機信号が体中を駆け巡る。
それがどうした。彼はオールフォーワンだ。ありとあらゆる個性を使い、その劇毒を体になじませ、その反応を力ずくで抑え込む。彼は、方向性は違えど、精神的な強さで言えばオールマイトに匹敵するだろう。彼の力に対する執着をその程度の痛みで奪うことができるはずがない。
「大丈夫……ではなさそうね。耐えられるうちに私に返した方がいいわよ、それ。あんまり体にいいものではないから。」
個性を抑え込み始めたオールフォーワンに若干安堵しつつ、純狐は彼の周りに壁を張る。対処法は分からないが、彼としても自分の計画を大きく壊すことはしないだろうと踏んでその場で無力化することは避けた。
「ハァ、ハァ……、少しは焦ってくれると思っていたが……これでもダメなのかい?一体全体君の正体は何なんだ。」
ワンフォーオールはやられただけで引く人間ではない。計画を散々に邪魔しかけていた純狐に対する嫌がらせも、死柄木を育成する過程でずっと考えていた。しかし、純狐の能力が明るみになるにつれ、その嫌がらせの多くは頓挫し、ヘカーティアと通じていることを察してからは、もはや策は無いと言った状態だった。
それでも何とかしようと、精神攻撃できる個性を持つ人間を捕まえ、純狐の持つというトラウマを刺激する脳無を作ろうともした。それは、ヘカーティアから猛反対を受け頓挫したが。
「僕も色々考えはしたんだ。君はいつも家に帰って月を見ていたね。それに君の衣装も、九尾の狐を模した模様があり、その形は袍服に似ている。そこから、中華系の何かではないかと思って探していたんだが、何しろ大陸の歴史は長い。」
目の光が落ち着くと、オールフォーワンはオールマイトとその後ろにいる市民を背に立つ純狐に対して話し始める。純狐は黙ってそれを聞きながら、気絶しているオールマイトを起こそうと力を与えていた。
「話はここまでのしようか。この個性を起用に使いこなすことは無理そうだが、使うこと自体は出来そうだ。」
オールフォーワンはそう言うと、再び目の光を輝かせ始める。その光は上空のヘリの運転手の目に入り、そのままヘリはあらぬ方向に飛んで行ってしまった。勿論、その行動はヘリを遠ざけることを目的にしたものではない。
「……面倒なことを。」
「そう言ってくれると嬉しいなぁ!」
物陰から音がする。そこから飛び出してきたのは、十数人のヒーローたちであった。だが、その目には生気がなく虚ろで、純狐たちの助太刀に来たわけではなさそうだ。
「おそらく君のことを怪しんで近くに潜んでいたのだろう。うまく操れるか不安だったが、君たちを襲う事を命令することはできたみたいだ。彼らも本望だろう。君と戦うという任務を果たすことができるのだから。彼らが望んだ形かどうかは知らないけどね。」
同時に襲い掛かるヒーローたち。狙いが純狐だけであれば楽だっただろう。しかし、彼らはオールマイトや市民さえも攻撃対象として無差別に攻撃し始める。純狐は仕方なく地面を“軟”に純化し、近づくヒーローの大半を封じる。続けて遠距離から攻撃している者に対し、衝撃波を放って気絶させようと構えた。
「僕を忘れてもらっちゃ困るな。」
その背後から、確殺とまでは行かないが、一般人が当たれば致命傷に至るだろうオールフォーワンの攻撃が放たれる。それに対し、純狐は構えた拳の方向を変える暇もない。
迫りくる風圧。だが、オールフォーワンが放った攻撃は相殺されてしまった。純狐の攻撃によって生まれた衝撃波が“弾”に純化された空気に当たり、跳ね返ってオールフォーワンを襲ったのだ。オールフォーワンがそれにうろたえているうちに、純狐は残りのヒーローを気絶させる。
「流石に洗脳を使いながら大規模な攻撃はできないのね。あの程度で威力を殺せてよかったわ。」
「洗脳は便利だがまだ慣れないな。」
両者は再び距離を置き、息を整え向かい合う。カメラも無くなり、ヒーローも消えた。もはや二人を邪魔できる者は存在しない。
「こうやって君の前に立って実感したよ。君はやはりこの世界の住民ではない。あり方がまるで違う。まあ、僕は憧れないし、そんなこと君からも願い下げだろうが、君のあり方は一つの到達点だろう。」
「あら、褒めてくれるの?確かに、そうと言うことも出来るかもね。私は私という存在に疑問を持たない。持てないと言った方が正しいかしら。私の名は純狐。憎しみの化身にして復讐者。これが、答えよ。」
「……そうか、それが答か。該当する名は思い浮かんだよ。言わないけどね。」
ちょっとした会話の後、二人は戦闘を再開する。純狐はオールフォーワンの攻撃をかわしつつ、その足元を軟化させて体制を崩す。オールフォーワンはそれが致命的な隙となる前に場を離脱しようとするが、その足には氷が絡みつき満足に移動できない。その間に純狐は“速”への純化でオールフォーワンの背後に回り込み拳を振るう。が、それは読まれていたらしく、全方位に放たれる衝撃波によって純狐は数十メートル程離れた向かいのビルまで吹き飛ばされた。
そして純狐の気配が完全に消える。その気配の消滅に感づいたオールフォーワンはまた全方位に衝撃波を放つが、それよりも前に純狐の蹴りがその顔面を捉えていた。何とか衝撃反転を発動させるものの、“弾”へ純化されたその足に衝撃反転は通用しない。
勿論その程度の失敗で冷静さを失うオールフォーワンではない。体をねじることでその衝撃を逃がしつつ、純狐の死角になる部分から、個性を強制発動させる黒い棘を生やし、二方向から純狐を狙う。純狐はそれを掴んでへし折ろうと手を前に出すが、当たる直前、その棘は方向を変え、純狐の後ろにいる市民二人の方に向かった。
棘の伸びるスピードは純狐が移動するより速い。それに加え、背中を向けることはオールフォーワンが許してくれないだろう。純狐はすぐさまオールフォーワンを蹴飛ばすが、フェイントも何もなしで放たれた攻撃は衝撃反転によって防がれる。しかし、それは純狐の狙っていたこと。衝撃反転によって生まれたエネルギーは純狐を弾丸のような速さで弾き飛ばし、市民不たちの周りに壁を張るのに十分な時間を与えてくれた。
市民の安全が確保されると、純狐は向かってくる棘をすぐさま切り刻み、オールフォーワンに向かって投げつけた。個性を複数使って生命を維持しているオールフォーワンにとってこの棘が当たれば大惨事だが、彼が焦ることは無い。冷静に転移の個性を発動させその棘を飲み込むと、純狐の横腹のあたりとオールマイトの眼前に転移させる。
失策だった、と純狐は自分のミスを認めつつ、オールマイトの方にだけ壁を張り、自分は甘んじてその棘を腹で受け止めた。棘が切り取られていたせいか、純化が個性と判定されなかったのか、個性が暴走することは無かったが腹に大きな穴を開けられたことに変わりはない。
「やっと攻撃が入ったな。君ももう少し落ち着いたら……ッ」
オールフォーワンは地面に倒れる純狐を見降ろしながら楽しそうに笑う。しかし次の瞬間、その腹には穴が開いていた。純狐が“貫”への純化を使い打ち抜いたのだ。
「勘違いしないでよね。こちとらその気になればあなたをただの人間に純化することも出来るんだから。」
「負けず嫌いだなぁ!」
幾度と交わされる攻防。もしこの戦いを見ている者が居れば、それは正に別世界のもののように映っただろう。氷や鉄が雨のように降り注ぎ、地面が踊るように波打ち、黒い液体から飛び出す巨大な腕や棘がそれらを破壊する。しかし、当の本人たちにとってこれはお飯事のようなものだ。純狐は先程も言ったように、一瞬でオールフォーワンを無力化できるし、オールフォーワンも力の落ちた今の純狐であれば、隙を突いて真正面から殴り倒すことができる。
そんな二人の戦闘は数分間続き、そして唐突に終わった。オールマイトが目を覚ましたのだ。勿論まだ戦えるような状態ではないが、数分もすれば戦えるようになるだろう。
「うぅ……」
「そろそろかしら。あなたの計画とやらも。」
「そうだね。だけど、折角の機会だ。もう少しだけ遊ぼうじゃないか。」
そう言うオールフォーワンの目の窪みから再び大量の光が漏れ始める。それの光度の上がり方は留まるところを知らず、塔のように上空にまで登っていった。
「この個性、君があまり使わなかったから分からなかったが、さらに上がありそうだ。僕の全身を流れる力をうまくかみ合わせることでさらに光は大きくなる。」
最初はあまり警戒していなかった純狐だったが、その光の輝きが異常なものになっていると気づき、自分たちの周りに霊力の壁を展開する。その後さらに目に力を込めるオールフォーワンを止めに行こうと動き出すが、少し遅かった。塔のように空に昇った光はつぼみが開花するかのように裂け、周囲一帯に降り注いだ。
「ハハッ、さすがに疲れて頭痛もひどいがやりたいことはできた。さあ、止めて見ろ。」
肩で息をしながら目を抑え、オールフォーワンは笑顔を作る。数舜の静寂、そしてそれは全方位から同時に聞こえる爆発のような音によってかき消された。
「半径1キロ……とはいかないが、それに相当する範囲の人間を暴走させた。君の強さは個の強さだ。いくら超絶した力を持っていようとも君が個人である限り同時多発的に起こるような騒動は止められまい。力を分け与えるとはいってもこれほど広範囲には無理だろう?」
確かにその通りだ。切島にも説明していたように、純狐の力はあくまで個の強さで広範囲の事件を解決するのには向いていない。が、純狐に焦る様子は無い。その必要が無いからだ。
オールフォーワンの背後に見える人影は、それを解決するだけの力を持っている。
「いい眺めになるぞ!地獄の始まり、まるで聡明期だ!一瞬だとしてもこの光景を……ッ!」
その男は布切れを引きずるような音と共に現れた。常時であればオールフォーワンはその接近に気づけただろう。だが、人一人が移動する程度の音は周囲の爆音にかき消され気づくことなどできはしない。それにオールフォーワンは彼自身が思っている以上に疲労状態にあった。その為、天敵ともいえる存在の接近に気づくことができなかったのだ。
「来てくれると信じてましたよ。先生。」
治りかけの目を手でこじ開けながら、相澤はその場に倒れる。彼はこの戦いが始まった時点でこうなることをある程度読んでいたのだろう。純狐が無理を通して自分を救い、強い意志を持つ死柄木を妨害した。林間合宿において聞いた話を信じるならば、今の死柄木は未完成ながら、純狐のお眼鏡にかなう存在だ。それを妨害してまで自分を助けたという事は、それでも許容しきれないだけの被害が出るのだろうと。
そう理解した後の彼の行動は早かった。手当をするヒーローたちの目を盗んでテントから抜け、戦闘音と手の感触を頼りにここまで這うようにしてやってきた。運よく、再生途中の相澤の目にはオールフォーワンの洗脳は効かなかったようだ。
「世話のかかる奴だ……」
そう言うと今度こそ相澤は目を閉じた。相澤が稼いだ時間はたった数秒。しかしそれは十分すぎる時間だ。そもそもオールフォーワンは個性によって命を繋げているような状態。その彼が数秒だけでも個性を使えなくなったというのはそれだけで致命的である。
「……ははは!かっこいいよイレイザーヘッド!」
「ええ、本当に。」
命の危機であるはずなのに、それでも笑顔を絶やさないオールフォーワンは、流石というべきだろう。純狐でさえ呆れるような精神力だ。
そんな中、純狐の足元の影が大きく動く。オールマイトの復活だ。その体はもはや見る影もないトゥルーフォームだが、その目の青い光はオールフォーワンの赤い目に対抗するかのように、今までにも増して輝いている。そんな彼に真っ先に話しかけたのはオールフォーワンだった。
「おはよう、オールマイト。自分だけ先に休憩するなんてずるいじゃないか。全く、フェアじゃ無いなぁ。」
「……色々言いたいことはあるが、落月少女。皆を守ってくれてありがとう。相澤君にもそう伝えておいてくれ。そしてオールフォーワン!」
空気を振るわせるような怒号と共にオールマイトはニヤニヤと笑う宿敵を睨みつける。
「皆が作ってくれたこの機会!今度こそ貴様を打ち倒す!」
「ああ、かかってくるといい。何回でも壊してやるよ。その仮初の平和とやらを。……っと、その前に君に伝えておこう。」
何か思い出したかのようにオールフォーワンは攻撃する手を止めてオールマイトを見る。丁度そのタイミングでテレビのカメラも回り始め、オールマイトたちが再び画面に写され始めた。
「死柄木弔は志村奈々の孫だよ。」
相澤を連れ、場を離れようとしていた純狐もいったん立ち止まりオールマイトの様子を見守る。純狐が回復させたとはいえ、それは気休め程度。今精神的に強いショックを受ければ倒れないという保障は無い。
「君が嫌がることをずぅっと考えてた。」
オールフォーワンは淡々と語る。オールマイトはその話に耳を貸さないと意思を強くしていたが、オールフォーワンのいやらしく人の精神を蝕むような声はその意思を貫通して襲ってきた。
そしてオールマイトの顔から笑顔が消える。その姿はテレビなどを通して全世界に不安という形で伝わった。
「オールマイト……救けて……」
オールフォーワンの笑う声だけが響く中、その声は背後から聞こえた。か細く弱い声だ。声が誰かの耳に届くことさえ奇跡とも思えるほど小さな声だ。
だが、その声はオールマイトに届いた。たった一言の小さな声。それだけで、彼の立ち上がる理由になる。
「ああ……!多いよ、ヒーローは……守るものが多いんだよオールフォーワン!」
もはや全身に力を込めることはできない。片腕だけにワンフォーオールを集中させたオールマイトの目には迷いなど無かった。
「だから、負けないんだよ」
その声に合わせるかのように、脳無を倒したヒーローたちが集まり始めた。エンデヴァー、エッジショット、シンリンカムイなどトップレベルのヒーローたちがオールマイトに言葉をかけ、倒れているヒーローや民間人を避難させる。
「応援に来ただけなら、観客らしくおとなしくしててくれ。」
自分たちの戦いに水を差され、若干イラついた様子を見せるオールフォーワン。ヒーローたちは何とかそれを抑えようと攻撃するがまるで意に介されていない。しかし、さすがに邪魔になってきたのか、オールフォーワンは再び大規模な攻撃をし、それらを吹き飛ばした。
「確実に殺すために、今の僕がかけ合わせられる最高最適の個性たちで」
服がはじける。鋲に覆われ、浮き出る血管さえ見えはしない。空間を軋ませるような重圧がオールマイトを襲う。それはもはや腕ではない、一つの人殺しの兵器であった。
「君を殴る」
そんな殺意の塊が、満身創痍のオールマイトに襲い掛かる。オールフォーワンは気付いていた。オールマイトに宿るワンフォーオールがもはや残りかすであることを。吹かずとも消えてしまう光であることを。
その譲渡先である緑谷出久についてもやはり見抜いていた。そして彼がまだ未熟であり、力を得る資格も無かった事も。
「先生としても、君の負けだ。」
その言葉と共に両者の拳がぶつかる。ぶつかった瞬間、オールフォーワンは衝撃反転を発動し、オールマイトにその衝撃を跳ね返す。
全身の骨が軋む。ぶつかる右腕はもはやまともに機能してはいない。ゴリゴリと削れるような気味の悪い音が伝わり精神を蝕み、沸騰していると錯覚するほど熱い血が顔に張り付く。
それでも、彼は倒れなかった。いかなる衝撃ももはや彼を倒すことはできない。そう思わせる気迫が民衆にも伝搬し、先程まで黙っていた人々も口々に声援を投げかける。
そしてオールマイトは右手の力を左手に移す。あくまで右は捨て駒、この期に及んでオールマイトは冷静さも失ってはいなかった。
「そこまで醜く抗っていたとは、誤算だった。」
炸裂する左フックをオールフォーワンは躱すことができない。
(お師匠が私にしてくれたように、私も彼を育てるそれまでは、まだ死ねんのだ‼)
「浅い」
だがその左腕の攻撃はオールフォーワンの体制を崩すに留まった。個性に依存してはいるが、オールマイトの不意打ち程度では彼にまともなダメージを与えるに至らない。
終わりだ、オールフォーワン含め、誰もがそう思った。一つ一つが全力の一撃。もはや力は枯れた。ワンフォーオールの火は消えた。
だが、これでは終われない。まだ足りない。誰かを、そして自身の後継を守るためには、まだ。その思いがオールマイトを突き動かす。そしてその願いに、力は応えた。
「そりゃア……腰が入ってなかったからな‼」
ワンフォーオールの火が、もはや刹那の時間も無く消えるはずだった火が、輝きを取り戻す。
世界が止まった。誰もがその水蒸気と土煙が早く晴れることを祈り、それと同時に晴れないでくれと願った。
絶望か、希望か。
そして決する。人々の目に映る人物は……
読んでくださりありがとうございます!
久しぶりにいろんな小説探し回ってましたが、純狐さんの結構増えとるやないか!
ありがたい。
次回、最終回かも?