純狐とヘカTのヒーローアカデミア   作:SKT YKR

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こんにちは!

二日目です。地の分多めで読みにくいかも

うみねこのなく頃に、漫画版で読んだけど面白いですね



神野?5

 

始まりは静かだった。近くにいた純狐でさえそれを事前に感知し予防することはできなかった。

 

「……ん?」

 

 それに初めて気が付いたのは純狐だ。背後から何か嫌な予感がするとオールフォーワンの入ったメイデンを見る。そこからは既に赤紫の光が漏れ始めていた。

 

 そして次の瞬間。そのメイデンは中からあふれる光によって破壊される。純狐は咄嗟にオールマイトをかばい、純化ではなくその霊力であふれる光に対抗する。その中で純狐は、相手が放つ光が純狐の持つ霊力と全く同じような性質を持つことに気づいていた。

 

(霊力……というより、霊力とかそういう名前が付く前の純粋な力?これ、私のと同じじゃないの)

 

 光の放出は数秒間続いたあと止まり、光を束ねるかのようにオールフォーワンの背後に収縮していく。幸いなことにその光に洗脳効果は無いらしく、光を浴びた人たちは気を失っているだけのようだ。

 

 純狐は背後にいる満身創痍のオールマイトに動かないよう伝え、収縮する光を興味深く見守った。光は小さな伸縮を繰り返しながら、最終的には大きな動物の尻尾のような形でオールフォーワンを取り巻く。

 

「何が起こっているのか分からないけれど……ああ、憎い。」

 

 声は間違いなくオールフォーワンのものだ。しかし、雰囲気は完全に違っている。ちょうどその時、純狐から数十メートルほど離れた場所に出久たちが現れた。勿論地球のヘカーティアも一緒だ。

 

「落月さん!大丈夫……」

 

出久たちが純狐に近づこうとしたのをヘカーティアが制す。異様な雰囲気を感じ取ったのだろう。出久たちも抵抗せずその場にとどまっている。

 

「おいおい、何だよ。何でそいつが復活してんだよ!オールマイトが倒したはずだろ⁉」

 

 切島が叫びにも似た声を上げる。オールフォーワンに乗り移った何かはその声に反応し、表情を消した。

 

「あなたたちは、月の関係者ではなさそうね。」

 

 この質問で、純狐は確信する。何故かはわからないが、オールフォーワンに乗り移っているのは自分だと。

 

(ヘカーティアに連絡を……いや、ここまで来て手だししてこないという事は、これは彼女が仕組んだものなのかしら。でも、気が立っている時の私なんて危険すぎる。いくら尻尾一本分のエネルギーしかないとはいえ、暴れられるとただじゃすまないわよ)

 

 純狐が臨戦態勢の際背後に出現する尻尾は大体7本程度。つまり単純に計算して今のオールフォーワンには、臨戦態勢の純狐の約七分の一の戦闘力があると見積もることができる。もしこの状態で急に暴れ出せば通常の十分の一の出力にも満たない今の純狐にはどうすることも出来ない。

 

「落月……少女……!下がりたまえ、あいつは私の敵だ!それに神獄、いや『神』!お前があいつと組んで様々なことを行っていたのは調べが付いている!今すぐそこから離れろ!」

 

 純狐がどうしたものかと思っていると、背後のオールマイトが立ち上がり純狐の前に出る。だが、もはや彼が戦えないことは明らか。失礼な言い方になってしまうが、万が一戦闘になれば足手まといにしかならない。それにヘカーティアに対して明確な敵対意識を持っている。ヘカーティアを敵視するのはどうでもいいが、今変に動かれると本当に困ったことになってしまう。

 

「オールマイト。落ち着いてください。そしてあいつに手は出さないで。あれは私の対処すべき案件です。そして後ろの神は……無視してください。今は敵対的ではありませんし、あれは私たちが手を出して何とかなるものではないです。」

 

 珍しく強い口調の純狐の言葉に、オールマイトはその足を止める。彼も、もう自分が戦えないことは分かっているのだ。だが、分かってはいても、オールフォーワンが立ち上がる姿を見て戦わないという選択を肯定できない。そんなオールマイトの心情を察して、純狐はさらに言葉を続けた。

 

「あなたにはまだ生きてやるべきことが残っています。ここで復活したヴィランにあなたがやられたとなれば、その混乱は想像を絶するものとなるでしょう。それはあなたも望んではいないはず。安心してください。ここにいる者は死なせません。これは絶対です。」

 

 背後に控える青い髪のヘカーティアに視線を向けながら、純狐はオールマイトを手で制する。ヘカーティアは面倒そうにしながらも首を縦に振り、出久とオールマイトたちの周りに結界を張った。

 

「ありがとうヘカーティア。ついでにオールマイトを病院に届けることはできるかしら。」

 

「できはするけど……あなたは良いの?別れの挨拶をしに来たのでしょう?」

 

 別れ、という言葉にオールマイトと出久たちが反応する。だがそれまでだ。純狐は軽くさよなら、と言うとオールマイトはヘカーティアの開いたゲートに落ちていった。

 

「おい、落月。まさかあいつ相手に特攻かまそうってんじゃねぇだろうな。」

 

「そんなことしないわよ。単純に、もう簡単に会えない場所に行くだけ。引っ越しみたいなものよ。急に決まったことだから、今まで説明する暇が無くて悪かったわ。」

 

「……それは嫦娥って奴に関係すんのか?」

 

 純狐の表情が固まった。今まで俯いて黙っていた爆豪が顔を上げて言葉を続ける。

 

「お前なのかあのヴィランの親玉なのか分からねぇが、目の個性を暴走させただろ。そん時俺らにも誰かの思考が流れてきたんだよ。聞こえてきた声はお前のものだった。説明はこんくらいでいいか?」

 

 爆豪のその目からは確信の色が見て取れる。爆豪だけではない、ここにいるクラスメイト全員がそれを確信しているようだった。

 

 ここまで冷静さを保ち、場を何とかしようと努めてきた純狐であったが、嫦娥の名が出たとなるともはやそれがいつまで続くか分からない。正直今すぐにでも口をつぐめと怒鳴りたい気分だが、ここで事を荒げるのは明らかに悪手である。だが、それはそれとして今すぐ嫦娥の名を出すことを止めないとオールフォーワンに憑依した純狐の方がどう動くか分からない。

 

「……ええ、そうよ。だから今すぐこの場を離れなさい。それ以上その名を……」

 

「今、何と言った?」

 

 寒気がする。その攻撃は声よりも速く届いていた。赤紫の槍のような光は、純狐の真横を通過して爆豪に向かってまっすぐ伸びている。ヘカーティアの張った結界があったからよかったものの、それが無ければ今頃爆豪は心臓を貫かれていただろう。

 

「嫦娥と言ったか?」

 

 その言葉と共に、オールフォーワンの背中にある尻尾から無数の光の槍が伸びる。それは奇妙にうねり、結界を攻撃し続けた。そのあまりに異様な攻撃に出久たちは顔を青くして結界の中心に身を寄せる。

 

「ハハハ、流石ヘカーティアの張った結界だ。私程度の実力では破れないらしい。良いだろう、あなたがそこまで守りに専念するのであれば、私はこれ以上彼らに攻撃しない。」

 

 ヘカーティアの様子を見て結界を解くつもりが無いことを理解すると、オールフォーワンからの攻撃はすぐに止まった。

 

「だから、代わりに!」

 

 視界が白く染まる。それが殴られたことによる衝撃だと気づくのに数秒かかった。

 

「私の姿をしたお前をストレスの発散先にさせてもらうぞ。本当なら今すぐ月に行きたいが、今の私では幹部たちに軽くひねられて終わってしまう。」

 

 ここまで感情が高ぶっていてもちゃんと理性はあるらしい。それは救いではあるが、同時に相手は現状の純狐よりも力が強く、かつ冷静に判断をすることができる強敵であるという事だ。ヘカーティアが不介入を貫いている以上、この場において彼女のストレス発散をまともに相手できる者はいない。

 

「私の本体様は今人間の体を持っているらしい。その体が死んだところで純狐という存在が消えるわけでは無いだろうが……もしその力が私と合わされば、それは面白い事になるのではないかい?」

 

 直後、純狐の脇腹を赤紫の槍が貫いた。咄嗟に自身の周りにも壁を張ることができたため追撃は免れたが、このままではじり貧である。それに純狐の壁はあくまで硬いという概念で作られたもの。相手がそれを超えるような、それこそ名の付く前の純粋な力による攻撃をしてきた場合その壁はやすやすと突破される可能性がある。

 

(今のところ霊力による攻撃だけだから大丈夫そうだけれど……それよりも、『私の力と合わさる』って……?)

 

 純狐は先程まで目の前の存在はオールフォーワンの体を持った自分自身のようなものであると理解していた。だが、最後のセリフは自分が言ったとは到底思えない。

 

(それに今攻撃してきているのもちょっと理解できないわね。いくら狂乱しているとはいえ、ここで私を攻撃するよりもヘカーティアに解決を依頼した方がいいことは分かるでしょう。私の敵はあくまで嫦娥だけなのだから)

 

 ◇  ◇  ◇

 

「よっし!私の予想当たりィ!」

 

 一方その頃、遠くのビルの屋上でその様子を見守っていた異界のヘカーティアはガッツポーズを取っていた。

 

「ご主人様さすがにまずいですって!どうするんですかアレ!元に戻るんですよね⁉」

 

 横にいるクラウンピースは気が気ではない。純狐の強さと恐ろしさは十分に理解している。もしその実力が本来よりも数段下回っていたとしても、この周囲一帯を文字通り不毛の大地にすることくらいはできるだろう。

 

目と松明を振り回すクラウンピースを落ち着かせながら、ヘカーティアはふふんと胸を張った。

 

「勿論。あれはあくまで純狐の子機というかバグみたいなもの。純狐の弱体化を解けば自然に純狐に回帰するわ。もしそうならなかったら私が何とかするだけよ。」

 

 それよりも、とヘカーティアは嬉しそうに続ける。

 

「やっぱりあの個性には人格のようなものが宿るのね!純狐がこの世界に来て、個性に目覚めたあたりから予想はしていたけれどまさかここまで成功してくれるとは!」

 

 彼女の考えはこうだ。今この世界にいる純狐の体は人間、しかしその本質は幻想の存在であり、その純狐の得た能力とこの世界の住民が思考の純化を恐れることで今の目の個性が覚醒した。

 

 そもそも純狐の目の個性は、ヘカーティアが考えるに、他人を意図的に操るというよりもその力の本質の一部を見せることで相手を委縮させ放心状態や半狂乱状態にしてしまうものだ。この世界では個性として処理され、そのルールに則った処理がなされているが、あれは純狐本来の気質と言った方がいい。このことはオールフォーワンが純狐の個性を盗んだ時に他人を暴走させる以外やらなかったことで確信した。彼はあのときは満足したようだったが、もっと意地の悪いことができると分かればそちらを優先しただろう。単純に他人を操る個性ではないのだ。

 

 ここまで分かれば後は大体の予想がつく。あの個性は他人の畏れなどに反応しながら成長をする、純狐の一部のようなものなのではないかと。

 

「いや、それが分かったところで何がいいんですか。」

 

 ヘカーティアがくるくる舞いながら早口で説明を続けるのをクラウンピースはジト目で見つめる。彼女からしてみれば何言っているかもよく分からないし、純狐がいたぶられ続けるのを見るのもあまり気分が良くない。

 

「うん?ああ、今の今まで、純狐の正体をいかにしてばらそうか考えていたのよ。ただ単に正解を出しても面白く無いじゃない?だから、今までとは比べ物にならない圧倒的な危機、しかもそれは純狐をもとに戻すことで解決できる、となればこれ以上ない舞台の完成よ!それにうまいことオールフォーワンの意識も上乗せされてさらに危機感を煽ってる!」

 

「まあ、確かにそうですけれど……。」

 

 腑に落ちない部分はあるが、確かに物語としては面白そうだと思い始めるクラウンピース。面倒くさがりであるヘカーティアが半年もの間この世界、特にほとんど動きの無いオールフォーワンに必要以上に肩入れしていたのも分からないでもない。

 

「すべてはこの展開のため……とは言えないけれど、まあ、行き当たりばったりで色々試してみた中ではいい旅の終わりじゃないかしら。純狐も満足したでしょう。」

 

 ◇  ◇  ◇

 

 攻撃は苛烈さを増していた。純化での壁であっても、それ以上の面で押され純狐の体力も限界が近づく。そしてその壁のほころびを相手は見逃してくれない。

 

「いつまでも籠ってないで出てきなさいよ。」

 

 その声と共に、今まで広範囲に展開されていた攻撃が一転、わずかなほころびに対し楔のように撃ち込まれる。その攻撃は、ついに純狐の壁を破壊しその内部の純狐に迫った。

 

 純狐はすぐさまその場を離れようとするが、楔形の光は急に光の粒子となる。嫌な予感がしたがすでに手遅れ。光の粒子は急に光ったかと思うと周囲一帯を巻き込み爆発した。

 

 それでも攻撃の手はやまない。爆発し消滅したと思われた光は再び収束。そのついでとばかりに煤にまみれた純狐の体を拘束し、新たな光の槍がオールフォーワンから放たれる。

 

 飛来する槍を避けるため、純狐はかすれる視界の中自分の周囲に“弾”の壁を張ってそれを反射するがその寸前で槍は霧散し、純狐を拘束していた霊力が内側に向かって棘を伸ばして体を傷つける。

 

 純狐がその拘束を解こうと力を込めると、再び霊力は粒子化し、純狐の顔の前で爆発する。顔を焼かれ完全に視界を失った純狐の体には、光の槍が迫り、その両手足を貫いて背後のコンクリート片に縫い付けた。

 

「張り合いが無いわ。何か面白いことしてみなさいよ。」

 

 あまりにも一方的な攻撃に出久たちは恐怖を通り越し唖然としている。助けに行きたいが、今この結界を出てしまえばその結果は火を見るよりも明らかだ。自分たちより数段強い純狐が手も足も出ないという事実は、出久たちを絶望させるのには十分だった。

 

(僕たちは結局何もできないのか……)

 

 そしてそれは純狐も同じであった。こんな存在、手に負えない。技量が優れているのは勿論だが、単純に保有している力が違いすぎる。霊力は回復に回す分しかなく、攻撃への転用などもってのほかだ。

 

「おい、落月ィ!」

 

 砂ぼこりも晴れ、オールフォーワンが純狐を見降ろす中、声が上がった。

 

「俺たちにできることを教えろ!このままお前が嬲り殺されるのを黙って見てろってんじゃねえよな。そんなこと俺は納得しねぇぞ‼」

 

「轟君……」

 

 ヘカーティアの張った結界を叩き割るような勢いで殴りながら、轟は声を荒げる。もちろん轟もこの状況を冷静に見ることができていないわけでは無い。自分がこの結界から出て、相手の敵意がこちらに向けば何もできずに倒されてしまう事くらいわかっている。だが、それでも彼はこの状況をただ見ていることができなかった。

 

「そ、そうだぞ落月さん!僕たちにも手伝えることが……」

 

 純狐は薄れる意識を何とかつなぎ留めその声を聞いていた。このまま倒れる自分をクラスメイトに見せることが彼らの成長にとって良くないことなのはわかっているが、敵はもはや彼女一人の手ではどうにもできない。そんな中、今まで事態を静観していたヘカーティアが口を開いた。

 

「異界の私から連絡が来たわ。ねぇ、オールフォーワン……と呼んでいいのかしら?あなたもそのままじゃつまらないでしょう?この子たちの相手もしてくれるかしら。」

 

 何を言い出すのだと、純狐は治りかけた目を見開いてヘカーティアを睨みつける。

 

「勿論致命傷は無しよ。私の結界を小分けにしてこの子たちを守らせてもらうわ。純狐もそれなら納得するでしょう。」

 

「それは提案ではなく脅しだろう。分かった、その案を受け入れよう。」

 

 その返事を聞くとヘカーティアは早速結界を解き、出久たちの体に保護魔法をかける。これで今のオールフォーワン程度の攻撃で彼らの体が傷つくことは無い。

 

「後は純狐に任せるわ。そろそろ異界の私も参入するらしいし。最後に楽しみなさい。」

 

 勝手に話を進めるなとでも言いたそうな純狐だが、使える駒ができたのはありがたい。後は相手の出方次第だが、追撃をしてこないところを見るに作戦を伝える程度は許してくれるだろう。

 

「落月さん!」

 

 結界が説かれ自分たちの安全が確保されたことが分かると、出久たちは真っ先に純狐の下に駆け寄った。出久と麗日が純狐の体に付いた血をふき取り、八百万がテーピングをしていく。

 

「ありがと。もう大丈夫よ。時間が無いから早速作戦を伝えるわ。」

 

 オールフォーワンを睨みつける轟たちは純狐の声を聞くとその声が聞こえる範囲にまで近づく。

 

「出久君と飯田君は機動力を生かして相手をかく乱して。轟君と爆豪君は相手の攻撃を相殺しながら、攻撃を。切島君と八百万さんは私のそばで防御と妨害を担当してね。私は戦況を見ながら指示を出したり皆の援護に回るわ。」

 

 純狐はそれだけ言うと自分を取り囲む皆の顔を見る。不安、怒り、焦り。様々な感情が入り混じってはいるが、皆覚悟は決まったようだ。

 

「作戦会議は終わりか?なら攻撃を再開させてもらう。」

 

 オールフォーワンを中心に無数の弾幕が放たれる。それを合図に出久と飯田は飛び出し、轟と爆豪が広範囲の技で弾幕を撃ち消した。それでも漏れた弾幕は切島が体を張って純狐に届くのを止めている。

 

 そして総力戦が始まった。出久と飯田がフェイントを混ぜながらオールフォーワンに近づき、それを爆豪と轟が援護する。だが、完璧に動けたとしてもその攻撃は届かない。オールフォーワンはすべての攻撃を受け止めたうえでそのすべてを破壊する。周囲に荒れ狂う霊力の風は追撃を許してはくれない。

 

 轟が小さく砕いた氷の礫をその風に紛れ込ませようとするも、取り巻く力が熱を放ち氷が届くことは無かった。それではと、すぐさま炎を飛ばし純狐も風を使ってそれを援護するがそれは純狐の特大のレーザーによって打ち消されてしまう。レーザーを展開した隙を突こうと出久と爆豪が霊力の風をこじ開け攻撃を試みるが、速度が足りない。あっという間に背後に回り込まれ、襟をつかまれ投げ飛ばされてしまった。

 

「こんなものか。」

 

 オールフォーワンの上空に赤い球が浮かび上がり、そこから無数の槍が降り注ぐ。出久たちを傷つけることはできないため、槍は彼らを拘束する檻のような形となって地面をえぐった。純狐は完全に拘束されてしまうのを防ぐために“弾”への純化や風を使ってその槍の軌道をずらすが、それでも完全に防ぐことはできない。八百万も純狐の後ろで銃を作り攻撃の妨害とオールフォーワンへの牽制をしてくれているが、拳銃程度の攻撃は全く通用していなかった。

 

「おい落月!埒が明かねぇ何か無いのか!?」

 

 再び放たれ始めた弾幕を防ぎながら切島が声を荒げる。傷はつかないが、体力が無限になったわけでは無い。この激しい戦闘の中で皆の体力はすでに限界に近づいていた。このままだと大きな技を入れる隙ができてもその技を撃てなくなってしまう。

 

「そうね……爆豪君!いったん引いて!轟君は視界を遮っても構わないからそいつを牽制し続けて!出久君と飯田君は轟君のカバー!八百万さんは切島君の後ろで狙撃を頼むわ。」

 

 純狐はそう言うと立ち上がってオールフォーワンと再び対峙する。そして目が合った瞬間、オールフォーワンを大氷塊が包み込んだ。勿論それは一瞬で破壊されてしまうが、既に目の前に純狐はおらず、爆豪のそばに移動して作戦を伝えていた。

 

 視界を遮る氷塊と外から飛んでくる炎の渦を霊力の風で強引に吹き飛ばしたオールフォーワンは、迫る出久たちを全く気にすることなく純狐に殴りかかる。純狐はそれを背後に張った壁で防ぐと、そのままその空気を“着”に純化し相手の拳を封じ、飛んできた蹴りは上空にはねることで避けきった。

 

「爆豪君!隙を見てさっきのお願いね!」

 

「うるせぇ女狐!」

 

 拒否反応を示している爆豪だが、彼はこの場でどう行動するのが適しているか理解することができる。純狐はその彼の判断力を信頼し、“速”への純化を使ってオールフォーワンに突っ込んだ。さすがにこの速度には反応できず地面にめり込んでしまうオールフォーワンに純狐は自分を巻き込むように大きな雷を落とす。

 

 オールフォーワンは何かに憑依されているとはいえ、その視界が回復したわけでは無い。今はおそらくセンサーの個性の他に、霊力を薄く広げて状況を把握しているのだろう。その為そのセンサーを狂わせるような強力な電磁波を受ければその索敵能力は格段に落ちる。そして、その分析は間違っていなかった。

 

 肌の焦げたオールフォーワンは雷に打たれたことが分かると、対象を絞らず弾幕を乱射し始める。そしてそれら一つ一つが先程まで放っていたものより高威力だ。さらにオールフォーワンを取り囲む霊力の風は強くなっていくが、その精度はやはり劣化していた。

 

 そんな状態もおそらく数秒で回復されてしまう。それは許したくない純狐は、先程と同じように“速”への純化でオールフォーワンに突っ込み、大きな雷を放った。そして今度は荒れ狂う霊力の風に自分の霊力を紛れ込ませる。

 

 その間、轟が遠距離から炎を飛ばしオールフォーワンを蒸し焼きにしようと試みるが、それはひときわ大きい弾幕によってかき消されてしまった。回復を終えたオールフォーワンは間髪入れず純狐に殴りかかる。純狐はそれを避けることはできず、吹き飛ばされるが、それと同時にオールフォーワンの頭の一部も吹き飛んだ。

 

 先程、オールフォーワンはセンサーを回復させるため自身の周りの霊力を取り込んでいた。そしてその中には勿論純狐の霊力も混ざっている。普通であれば他人の霊力を取り込めばすぐにわかるが、今回取り込んでしまったのは自分と同じ純狐のもの。故にオールフォーワンはそれが発動するまで気付くことができなかった。

 

「今よ!」

 

 純狐の声が響く。そしてその声よりも速く、出久と飯田の蹴り、轟の氷、そして八百万の銃弾がオールフォーワンに届いた。だがそれでもオールフォーワンは怯みさえしない。すぐに頭の回復を終え、目の前に立ちふさがる純狐を霊力で拘束するとその顔面に拳を叩き込んだ。

 

 ゴッ、という鈍い音が響く。頭蓋は割れた。だが、純狐はその場から一歩も引かない。その握りこぶしにはオールフォーワンもぎょっとするほどの霊力が一瞬のうちに集まっていた。

 

(こいつ!私の霊力を利用して!)

 

 先に説明したように、純狐とその分身の取りついたオールフォーワンの操る霊力は本質的に同じである。純狐は戦いの中でその性質に気づき、相手の霊力を何とかして利用しようと策を講じていた。そんな中、自分の霊力を相手の体の中に紛れ込ませることに成功したことでその方法を理解したのだ。

 

「さっさと倒れなさいよ!」

 

 その言葉と共に放たれた純狐の拳はオールフォーワンに直撃。纏っている霊力の鎧もこの攻撃の前に砕け散る。

 

「いい攻撃だが惜しかったな!私の鎧が割れただけ……」

 

「それが目的だったのよ」

 

 倒れる純狐の後ろ。純狐の怒涛の攻撃によりそれに気づくのが数舜遅れた。そこにあったのは弾ける火。すべてを破壊しようと荒れ狂う爆弾であった。

 

「榴弾砲着弾‼」

 

 押し込まれる、完全な隙に打ち込まれたその破壊力を受け切る自信は、オールフォーワンにも無い。だがその攻撃の軌道は回転があるとはいえ一直線で読みやすく、速度も対応できる程度のものだ。

 

(体を回して受け流せば……!)

 

 足を何とか動かし体を回転させようとするオールフォーワン。しかしそれは叶わなかった。足元が急に柔くなりそれに飲み込まれてしまったのだ。

 

(ここに来てか!?クッソ!)

 

 してやったり、純狐は血と泥にまみれた顔をオールフォーワンに向ける。そして、その場は大きな爆音に包まれた。

 





読んでくださりありがとうございます。

次回!最終話 1
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