純狐とヘカTのヒーローアカデミア   作:SKT YKR

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こんにちは!

三日目です。この辺りでめちゃくちゃ時間かかりました。

デルフィニア戦記、おすすめです



最終回 1

 

音は無い。爆豪も最後の力を出し切ったのか、砂ほこりの中から立ち上がる者はいない。出久たちは今すぐにでも駆けだして純狐と爆豪を救出したい気持ちを抑えながら事態がどう動くかを冷静に見ていた。

 

「ハハッ!」

 

 何時間にも感じる沈黙が破られた。その声は確かに純狐の声だった。だが、出久たちは動けない。明らかに雰囲気が違う。それに中から見えるそのシルエットは純狐のものではない。オールフォーワンだ。

 

「不倶戴天の敵!嫦娥よ見ているか!」

 

 憎悪をまき散らし、聞くもの全てを憎くしむような声。聞くだけで生きている者の戦意を消滅させるような声。攻撃を受けたわけでもないのに出久たちはその場にへたり込んでしまう。

 

「共に天を戴かずとも憎しみだけが純化する‼ハハハッ!憎いなぁ!憎い‼」

 

 それはもはや声ではない。暴力的なまでの感情だ。あの赤い光を浴びた時の感覚に似ているがそれとは比にならないレベルの暴力性をひしひしと感じる。覚悟を決めたはずなのに、気を抜けば体は勝手にこの場から逃走を始めてしまうだろう。

 

「ケホッ……チッ、やっぱり、仕留め切れなかったか……」

 

 数秒経って今度こそ純狐が立ち上がる。肩から骨が飛び出るほどの重傷だ。戦闘の継続はできない。

 

「生きていたのか私の本体!今その力を……」

 

「何言ってるの、あなたも気づいたでしょう……クッソ、時間切れよ。」

 

「ハァイ、純狐。元気してる?」

 

 荒れ狂う霊力の中、それは平然と立っていた。純狐以外の全員があまりにも唐突なその者の登場に度肝を抜かれる。

 

「どこぞのピエロみたいなセリフ言ってるんじゃないわよ。これどうするの。そろそろ限界なんだけど。」

 

 そんな純狐の言葉が聞こえているのかいないのか、赤髪の女性は周囲を見渡すとオールフォーワンを光の鎖で拘束し、指を振りながら地球のヘカーティアの方を向いた。

 

「地球の私。後は私が引き継ぐわ。」

 

「やっと終わった……。仕事の合間縫ってきてあげたんだから感謝しなさいよね。報酬はいつものお菓子で。」

 

「あなた、仕事は月の私に投げてきたって言ってたような……」

 

「あー、聞こえない。じゃあね!」

 

 純狐の話には耳も貸さずヘカーティアは自分同士の会話を終わらせる。この辺りは本当に意地の悪い女神だな、と思わずにはいられない。新たな敵なのかと身構えていた出久たちも、思考が追い付かずフリーズしてしまっている。

 

「お疲れ純狐。あいつはあなたが本来の力を取り戻した時点で消えてなくなるはずよ。」

 

 ポケットから取り出した鍵をくるくると回すヘカーティアの言葉を聞いてやっと一息つく純狐。背景に似合わないやり取りが続く中、いつの間にか再登場していたオールマイトが口を開いた。

 

「やはり、あなたが……神獄さん。いや、ヘカーティアと言った方がいいか。あなたが黒幕だったんですね……。三人いるという報告も……腑に落ちましたよ。」

 

 消え入りそうな声のオールマイトの傷を少し治癒してから、ヘカーティアはニコニコ笑ってオールマイトに近づきお辞儀をする。

 

「初めまして、オールマイト。私は地獄の女神、ヘカーティア・ラピスラズリよ。黒幕ってわけじゃないけれど、オールフォーワンとはそれなりに付き合いがあったわ。まあ、今はもう関係ないし、今後関わることも無いって約束したから安心してね。」

 

 後ろでそれを聞いていた出久たちはやはり敵だと警戒心をあらわにしてヘカーティアの前に立つが、彼女はそれを相手にもせず純狐の方に向き直る。オールマイトもこれ以上追及する気力が失せたのだろう、出久たちに下がりなさいと言って自分も陰から見守ることに徹していた。

 

「じゃあ、純狐。名残惜しいと思うけれど、その人間の体にもお別れよ。いやー、でも感謝しなさいよね。この鍵最近全く触ってなかったから無くしたかと思っていたわ。」

 

「……一応聞いておくけれど、そのカギ無かったらどうなってたの?」

 

「え?いや、元には戻れるわよ。また脳みそ爆発する危険があるだけで。」

 

 ふざけんじゃねぇよと腕から突き出した骨でヘカーティアに殴りかかる純狐。勿論その攻撃は当たらず、ヘカーティアはその腕を掴むと無理やり鍵穴にカギを突っ込んだ。すると、純狐の体の内部から光の鎖が現れ、その拘束を解くように空に消えていく。神秘的と言っても過言ではなく見惚れそうになる光景だが、純狐があまりにも気持ち悪そうにしているため誰もそのことを口にはしなかった。

 

「はい、終わりよ。」

 

 ヘカーティアが純狐から出てきた最後の鎖を自らの手で砕く。

 

「はぁー、あの感覚慣れないわ。もうしたくはないものね。」

 

「元はと言えばあんたが始めたことじゃないの。」

 

 純狐の見た目は元の大人びたものに変わっていた。出久たちの驚きはそれだけでも相当なものであったが、最も衝撃的であったのは、やはりその背に見える大小10本弱の尻尾のような赤紫の靄だ。

 

「ねえ、落月さんそれ……」

 

「あ、みんなもう、落月なんて言わなくていいわよ。私は純狐。それ以外の名は無いわ。」

 

 出久たちは聞かずとも、その雰囲気から理解できてしまっていた。それが先程オールフォーワンに生えていたものと同じものであることを。だが、あの赤い靄から感じたものは、どこまでも悲しい、憎悪の感情である。それを純狐が持っていたものであると認めたくない。

 

「色々言いたいことがあるみたいだけど、私は私よ。私が誰を恨もうと、それは自由でしょ?」

 

 言っていることはもっともだ。他人に迷惑をかけなければその人が内心どう思っているかは自由であるべきだろう。

 

「で、でも!落月……純狐さんの感情は、私が読み取れただけでも、絶えられないほどのものだったのは想像がつきます!」

 

「ああ、そうだぜ!そんな暗い感情を抱いたままヒーローになるのは……不可能じゃないが……ああ!うまく言えねぇが俺は嫌だ!」

 

 純狐の感情に触れた経験は、彼らにとってよっぽど衝撃的だったらしい。離れた場所でオールマイトを支えていた八百万と切島も声を大にして純狐に熱弁する。

 

「女狐。お前が何考えていようが、俺の邪魔しなけりゃ関係ないけどよ、単純に不快なんだよ。あんなの知らされたら。」

 

 爆豪も珍しく暗い顔をしてこちらを睨みつけてくる。割と本気で不快だったらしい。お互い精神的にも肉体的にもフェアな状況で戦って勝ちたいという爆豪らしくもある。

 

「僕も、君にそんなこと考えるななんて言わないし、言えないよ。だけど……」

 

「知ったからには放っておくわけにはいかない。」

 

「だから、俺たちに……なにか手伝わせちゃくれねぇか?」

 

 出久、飯田、そして轟が前に出てくる。

 

「勿論、休養を取ってからだよ。もう少しで救護班も来てくれるはず。またお見舞いで会った時にでも……」

 

「あー、ごめんね、みんな。気遣ってくれてるとこ悪いんだけど、私はもう帰るから。」

 

 純狐の急な言葉に、その場が静まり返る。帰る、という言葉が、家に帰るという意味でないことは、そのニュアンスなどからこの場の誰もが察していた。唯一、オールマイトだけがその意味を正しく理解し、軽く俯いていた。

 

「ほら、さっきヘカーティアも言っていたでしょ。今後関わることは無いって。私も本当はこの世界の住人じゃないから、そろそろお暇させてもらおうと思っていたのよ。急な話でごめんね。」

 

「そんなこといきなり言われて信じろってのか?」

 

 轟の反応はもっともだ。今まで親しくしていた人間が、急に自分はこの世界のものではなく帰らなければならないと言い出すなど、おとぎ話の中の話でしか聞いたことは無い。しかし同時に、どこかで納得できてしまっていた。純狐はこの世界には存在し得ないものだと、存在してはいけないのだとどこかで分かってしまった気がしたのだ。

 

「……なあ、落……純狐でいいんだけっか?こんな場面で茶化すような奴じゃないことは分かってるが、一度だけ聞かせてくれ。それは本当なのか?誰かに……それこそお前の後ろにいるヘカーティアってのに騙されてるだけじゃねぇのか?」

 

 純狐の内面に鋭かった切島も、轟と同じように考えていた。何処かで納得してしまう。でも、否定してほしいことも本心だった。

 

「無理に信じろとは言わないわ。こんなこと言っておいて、実は転校しただけとか、それこそヴィランに寝返ったとか、考えるのは自由よ。一つ言えるのは、今後私があなたたちと関わることは無くなる……いや、無理言えば会えるかもしれないけど、今までのような関係でないことは確かね。」

 

「聞いてりゃグダグダ意味わかんねぇことを……」

 

「爆豪少年、やめなさい。」

 

 純狐の話を聞きながら、怒りを募らせていた爆豪の拳をオールマイトが言葉で止める。

 

「時間がない、彼らには後で私からも説明をしよう。だが、落月少女。君からも彼らに説明を、あちらに帰ってからでもいいのでしてほしい。その程度のことをしてくれてもいいはずだ。」

 

「そうですね。そうさせてもらいます。じゃあねみんな!あなたたちと過ごせた時間、とても楽しかったわ。」

 

 純狐はそう言うとヘカーティアの方を見てゲートを開くよう目で伝える。ヘカーティアも特にこの世界に未練はないため、惜しむことなく元の仙界につながるゲートを広げた。

 

「……ちょっと待って。」

 

 開いたゲートに入ろうと移動を始めた純狐に出久の声が届く。今まで俯いて話を聞いていただけだった彼だが、何か思う事があったらしい。

 

「さっきの答え、まだ聞いてないよ。僕たちに何か手伝えることは無いの?」

 

 こうなると出久は割と頑固だ。勿論こちらが本気で会話することを拒否すれば引いてくれるが、折角の最後の会話をそんな形で終わらせることは純狐も避けたい。それに、答えはもう決まっている。

 

「無いわ。単純に力不足ってのもあるけれど、あなたたちはこちら側に来てはダメよ。」

 

 容赦のない断言に出久は怯む。理由の説明もほとんど無しで拒否されるとは思っていなかったのだろう。

 

「俺たちだけじゃなくて、オールマイトとかプロのヒーローたちでも無理なのか?」

 

「そうね。いや、世界観が違うから単純に比べようがないのだけれど、物理的なものだけで見ると不可能よ。」

 

 切島も出久に続くが、純狐から見ると出久たちとプロのヒーローたちの実力はほとんど変わらない。もし月との戦いに連れて行ったとしても、月の科学を見ることすら叶わず死んでしまうだろう。

 

 出久たちはここでやっと物理的に手助けすることは不可能だと考えてくれたらしい。その力を目の前で見たことが無いのに理解をしてくれたことはありがたいことだ。苦虫を噛みつぶしたような顔でその場に佇んでいる。

 

「せめてお話だけでも聞かせてはくれませんか!?純狐さんのあの感情……あれを一人で抱えるのはあまりにも辛いものと察します。だから、せめて……」

 

「気遣いありがとう、でもいいの。」

 

 純狐の口調は鋭く、八百万の話を遮る。出久たちが知ったのは、純狐の根幹をなす部分の一部、これ以上首を突っ込んでほしくないのだ。

 

「でも……」

 

 ここまで言っても分からないか、と純狐は話し出した出久の口を無理やり閉ざそうとするが、その手は途中で止まった。

 

「……いい目をしているわね。はぁ、私から言えることなんてあまりないのに……。」

 

 出久たちの志も、その救いの手も純狐には全く届かないことは分かり切っている。純狐も今更救いなど求めておらず、救いを求める心も遠い彼方、純粋な憎しみの前に塗り潰され消えている。文字通り、今の純狐には憎しみしか残っていない。それを理解してなお純狐と付き合うことができるのは、今のところヘカーティアだけである。

 

 だが、純狐も常に嫦娥への憎しみだけで行動をしているわけでは無い。芯の部分が揺れることは無いが、心の表層部分はそれなりに動いている。出久たちの声とその強い意志の宿った目は、純狐の心の表層部分を軽く揺さぶった。

 

「純狐、ゲートに時間制限とかは無いから適当に話してきなさい。心残りが残るのも嫌でしょう。必要なら私たちは席を外すわよ?」

 

「そうね、このまま放置するのも後味悪いし、もう少し別れの挨拶をしてから帰りましょうか。あなたたちは居てもいなくてもいいわよ。」

 

 そう言うと純狐は、ゲートに入ろうとしていた足を止め、ふわりと浮いて出久たちの目の前に迫った。その表情は、いつもの余裕のある笑顔だが、そこには何か意思が感じ取れた。

 

「出久君、それにここに集まってくれた皆。私から……人生の先輩?からのお話よ。」

 

 出久たちは黙ってその言葉に耳を傾ける。

 

「皆はとてもやさしいわ。こんな見ず知らずの、どこから来たかもわからない私にも過度におびえることは無く接してくれた。多分、あなたたちは私で無くとも……言い方悪いけど、私ほどの力も能力も無い人にも同じ態度で接したと思うわ。」

 

「それができるのは、誇るべきことだよ。今後、プロのヒーローになる時も、あなたたちはこの思いを忘れはしないでしょう。」

 

「だからね、私から言えることは、一人でいる人を見つけて、できる限り……話を聞くことだけでもしてあげてほしいの。それだけで救われる人間は大勢いると思うわ。そしてあなたたちはそれを恐れずすることのできる心と、外敵を排除して人を救う力を持っている。」

 

 純狐はそこまで言うと、真剣な顔でこちらを見ている出久たちを見下ろして、フッと息を吐いた。

 

「ま、こんなこと言わずともあなたたちは分かっているでしょうけどね。私が言いたいことはこれだけよ」

 

 出久たちは何も言わない。各々今の言葉を理解しようとしているのだろうか。

 

「……その言葉は、てめぇの経験からか?」

 

 何とも言えない沈黙を破り、爆豪が純狐に問いかける。出久たちも答えが気になるのか、はっと顔を上げた。

 

「さぁ、どうでしょうね。私はもう過去のことはあんまり覚えていないの。もしかすると、その残滓から来た言葉かもしれないわ。」

 

 爆轟は答えをはぐらかされたと思って訝しげな顔をしているが、純狐の言ったことは本当である。純狐は人であった時代のことを忘れ、その身には憎しみしか残っていないが、その憎しみは人間の頃抱いたものが元となっている。その憎しみの中にあった過去の僅かな残滓から何か出力されることが全く無いわけでは無いだろう。

 

 純狐は話したいことを話し終え、満足したのか今度こそ振り返ることなく出久たちのもとを去る。だがその離れていく背中に、再び出久の声が届いた。

 

「落月さん……いや、純狐さん自身のことも僕は救いたい!あなたが何を体験してここまで憎しみを募らせたのか分からないけど……その感情を少しでも和らげてあげたいんだ!お節介で迷惑かもしれないけれど、それでも……!」

 

「出久君。」

 

 純狐はいつの間にか、出久たちの目の前にいた。

 

「世の中にはね。もう救えない人もいるのよ。肉体的にも精神的にも。死んでしまった人は生き返らない。心が一度折れてしまった人は、もう元のようにはなれない。他にも、救いを求めていない人は救えないわ。」

 

 純狐の表情は何故か見えない。いや、物理的には見えているが、その雰囲気に呑まれてしまい脳が正確に機能していないのだ。それだけ今の純狐の放つ霊力は強くなっていた。

 

「もう分かるでしょ?私はあなたたちには救えないのよ。あなたたちにできるのは、何もしないこと、復讐を手伝うこと、私という存在を亡ぼすこと、もしくはそれができずに死ぬことだけよ。これは未来永劫変わらないわ。私はそういう存在なの。寒いとか、熱いとかの概念と同じ、憎しみという概念が私という形をしているだけ。」

 

 冷や汗が止まらない。呼吸も出来ているのか怪しい。純狐の存在はオールマイトを含め、その場の全員を委縮させるには十分だった。ヘカーティアだけはその様子を面倒そうに眺めている。

 

「ふぅ……これ以上脅すのもかわいそうね。これで私を救うなんてもう考えないでしょう。じゃあね!色々楽しかったわ!」

 





読んでいただきありがとうございました。

この辺り、あまり推敲できていないので誤字脱字多いかもです。

次回!最終回2
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