ついに最終回です。思えば長いこと書いてきました。
純狐さんの小説、もっと増えてもいいのよ
皆も小説、書こう‼
ゲートは閉じた。遠くからは救急車の音や近づいてくる救急隊員などの声が聞こえてくる。まるで今まで別世界にいたような感覚に包まれていた出久たちは、そこでやっと正気を取り戻した。
「……帰ったか。」
轟が呟く。その声は緊張から解放されてほっとしているようでもあったが、それ以上に寂しさが含まれているように感じられた。それは轟だけではない、その場にいる全員が、なんとも言えない喪失感を覚えていた。
「皆、今日はありがとう。君たちの協力が無かったら、この程度の被害には抑えられなかった。色々思うところもあるだろうが、今は病院で治療を受けよう。」
オールマイトが近くにいたヒーローに手を振り、先に生徒たちを預ける。近づいて来たヒーローたちは何があったか尋ねようとしていたが、出久たちの雰囲気やオールマイトの容態を見て色々察したのか何も聞くことなく作業を進めた。
その後病院に運ばれた皆であったが、純狐の治療のかいあってオールマイトは見た目ほど内臓が傷ついておらず、命に別状はない程度の怪我になっていた。出久たちも色々怪我をしていたはずだったが、去り際に純狐が何かしたのか傷はほとんど残っていなかった。
そして次の日の夜。出久はオールマイトに呼び出されいつかの海岸に来ていた。
「君って奴は本当に言われたことを守らない!全て無に帰るところだったんだぞ!全く誰に似たんだか……」
オールマイトの第一声はそんな感じだった。本気で怒ってもいるのだろうが、それ以上に感謝や嬉しさが伝わってくる。
「落月……うん、どうしてもこの名で言ってしまうな……まあいいか!落月少女のおかげもあって私はある程度軽傷で済んだ。が、事実上の引退だ。もう戦える身体じゃなくなった。」
分かってはいた。だが改めて本人の口からそれを聞くとやはりショックではある。
「それなのに君は何度言っても勝手に飛び出すし!何度言っても身体を壊し続ける!だから今回‼」
オールマイトの声は段々と大きくなり、最後は怒鳴りつけるようだった。出久は次に何を言われるのだろうかとおびえ、その目を閉じる。しかし、次に聞こえてきたのは予想に反した、優しい声だった。
「今回、君が初めて大きなケガをせずに窮地を脱出したこと、そして自分を犠牲にしない方法で友を救おうともがいた事が、すごく嬉しい。」
出久を抱き寄せ、オールマイトは続ける。
「これから私は君の育成に専念していく。この調子で……頑張ろうな。」
出久の感情はそこで限界を迎えた。いくら止めようとしても目からは涙があふれてくる。
「うっ……オールマイト、僕……」
オールマイトの時代は終わった。出久はそのことを、やっと理解できた。
◇ ◇ ◇
その後の世間は、今までにない混乱が渦巻きながらもなんとか日常を取り戻していた。世間から、落月純狐という名の子供は完全に消え去っていた。彼女を覚えているのは、彼女と直接関りのあった1-Aの皆と、一部の者たちだけである。
純狐のことを覚えている者は、最初混乱していたが、彼女なりに跡を濁さず去っていったのだろうと、世間にその存在を訴えることはしなかった。
「なあ」
ある昼下がり、あの神野の悪夢に立ち合わせた生徒たちが集まっていた。
「俺なりに、あいつが最後話してたこと考えてたんだけどよぉ、やっぱりあいつは自分がああなったことをどこかで悔いてるんじゃねぇかった思ってんだよなぁ。」
「……そうかもな。ただ、あいつは今更そのことを気にしてないし、悲観もしていなかった。」
「自分のような存在をもう生み出さないために、孤独な人に寄り添ってあげて欲しい……彼女自身、本人も言っていたようにもう忘れているのかもしれませんが、根底にはそんな考えがあるように思えました。」
「僕も同感だ。彼女がステインと戦っていた時、彼女は僕の復讐心も、ステインの心も否定はしなかった。最後ステインが沈静化したのも、たぶん彼女が、彼の心に寄り添ってあげた結果だと、僕は思っている。」
「……あの女狐が何考えていようが俺のすることは変わらねぇよ。あいつもあの場で俺たちを殺したりしなかったってことは、少なからずそれを望んでたんだろ。」
「僕は……彼女の最後の言葉を大切にしたい。全く無関係だったのに、僕らが危険な時はどんな時も身を挺して守ってくれた。自分本位な行動だったとしても、そのことは変わらない。彼女はヒーローだったよ。その彼女が最後に、わざわざ時間を取ってまで伝えたことなんだ。八百万さんたちの言うように、彼女の悲しい憎しみの根幹を断つようなことを願ったのであれば、僕はその意思をできる限り継いでみせるよ。そして、彼女のような袋小路に追い込まれてしまう人を少しでも守ってみせる。」
純狐の存在を覚えているのはヒーローサイドだけではない。ヴィラン連合のアジトで、死柄木たちもまた純狐のことを考えていた。
「先生は捕まっちまうし、あいつは帰っちまうし……」
「その割には落ち着いていますね。」
死柄木は黒霧の予想に反して落ち着いていた。オールフォーワンという巨大な悪の力に魅かれて集まっていたメンバーたちの方が落ち着きがないくらいだ。
「先生に関しては……何か考えもあるんだろ。あいつに関しては、暇つぶしの相手が居なくなったくらいさ。」
死柄木はなんだかんだ言って、同世代の敵味方などではない関係の誰かと話せたことが嬉しかったのだろう、と黒霧は考える。その相手がいなくなってしまい、死柄木は大丈夫だろうかとどこかで心配していたところもあったが、この様子だと杞憂だったようだ。
「はぁ、寝る。」
「ええ、おやすみなさい。これからも忙しくなるでしょう。頑張って下さいね。」
死柄木は廊下を歩きながら思う。イラつくときもあったし、気味悪くも思った。だが、純狐の隣は彼にとって居心地の悪い場所ではなかった。もう少し時間があれば、友達と呼べるような関係になれたかもしれない。勿論それは、死柄木が死柄木である限り、純狐が純狐である限りありえないのだが、表面上だけでもそうなれる可能性もあった。
死柄木は今、自分が寂しく思っていることを知っている。だが、それもすぐ忘れるだろう。彼の覚悟は、その寂しさで薄れるほど脆くない。
「せいぜい見ていやがれ。俺はこのクソな世の中をぶっ壊してやる。」
◇ ◇ ◇
「帰ってきたー!」
仙界に、久しぶりの主人の声が響く。ヘカーティアは仙界を維持するための魔法を解き、仙界の管理権を純狐に返した。
「いやー、楽しかったわ。この経験を糧にまた月を攻めに行こうかしら。いえ、その前にオールマイトとかにお礼渡さなきゃね。」
純狐はそう言いながら、いち早く家に入り色々整理を始める。ヘカーティアには入らないでほしいとのことだったので、彼女は家の外でクラウンピースと雑談をしていた。
「ご主人様もお疲れ様でした。あの異界の管理については各所に話を通して正式に認めてもらってます。なので今後、運用を続けるも処分するもご主人様の自由です。」
「ありがとね。はぁ、私も疲れたわ。早く帰って寝ましょ。あ、そう言えばクラピちゃん。家の掃除ってしてくれてた?」
「いえ、してませんけど……」
家の中から悲鳴が聞こえてくる。まるで、家に遊びに来た妖精たちが遊んだ後の、片付けられていない廊下に散らかったレゴブロックを思いっきり踏んだような悲鳴だ。
「……ちょっと、やり残した仕事思い出したわ。先に帰……」
踵を返し急いでゲートを開くヘカーティアの全身に、赤紫色の糸が絡みついた。今にも絞殺さんとする威力だ。それに仙界全体に移動阻害の呪文がかかっている。いかにヘカーティアとはいえ、合法的な方法ではここから脱出できない。
「ヘカーティアァア!あんた前に言ったこと、忘れたとは言わせないわよ。部屋使うのはいいけど片付けろって何回言えば分かんのよ!」
「い、いや、ごめんなさい。」
ヘカーティアはふと隣を見る。クラウンピースは呪文がかかる直前に、運よく転移できたらしい。純狐の言う憎しみの感情の一部をヘカーティアは知った。
「まあいいわ。楽しんでた私の邪魔をしたつけと合わせて精算してあげる。ちょっとそこで待ってなさい。」
純狐の霊力はさらに濃くなり、呪文の効果も段々と強まっていく。こうなっては違法な方法でもこの異界を脱出できない。そして正座で待つこと数分。遠くから絶望の足音が聞こえてきた。
「あ、映樹さん久しぶりです。それに他の地獄の管理者の方もお久しぶりですね。後でお土産渡します。例のものはあそこで正座して、皆さんの有難い言葉を聞こうと待っておりますので、時間の許す限り説教してやってください。あ、彼女の周りだけ時間の流れを遅くしていますので時間の心配はさほどしなくてもいいですよ。」
もはや、悲鳴を上げることさえ許されなかった。自業自得と言えばそれまでだが、ちょっとひどすぎないかとヘカーティアは思う。
その後、現実の時間にして1週間程度しごかれたヘカーティアは、さすがに見かねた純狐に助けられ現世に帰還した。
◇ ◇ ◇
「……!」
私は暗闇の中で呪詛を唱える。親はいない。私を捨ててどっかに行った。今更そんな、顔も知らない他人のことなんてどうでもいい。今はただ、私をこの薄暗い地下の水槽に入れ、ぼろ雑巾のように扱う、あいつがただただ憎い。
私の友達も、みんなあいつに殺された。それもただ殺したのではない。私の目の前で、見せつけるように拷問しての衰弱死だ。何度もやめろと叫んだ。そしていつか、その声さえもあいつを喜ばせるだけだと気づき、反応することも無くなった。
でもそれは、あいつの行為を黙認しているかのようで、そんな自分にも嫌気がさした。舌を噛んで死のうとしたが、あいつが気付き、舌を焼き鏝で焼いたせいで失敗した。もう満足に話せもしない。
そしてやっと、私の番が回ってきた。私も、友達と同じように、私のような人間の前で殺されるのだろう。怖かった。悲しかった。でも、それ以上に憎かった。あいつも、それに抵抗できない私自身も、そして私を見て見ぬふりするこの世界も、すべてが憎い。
「……」
吊り下げられ、寝ることさえ禁じられ、どれほど経っただろうか。正気ではなかったと思う。もう私には憎しみしか残っていなかった。だけど、人は不思議なものだ。最後の最後に、友達と一緒に抱いた夢を思い出した。
(そうだ。私は空が見たかったんだ)
そんな、普通の願いももう叶わない。後数時間、私は空さえ見れずに人生を終えるのだ。
「もう大丈夫だ!」
天が、割れていた。いや、正確に言えば、天井が落ちただけだが、私にとっての天はその黒カビだらけの天井だ。その隙間からは、あれほど待ち望んだ、空が見えた。
(灰色だ……)
天を割った人間は、私を外に待機していた者に丁寧に渡し、数分するとあいつを捕まえてその場に帰ってきた。
「救えてよかった!」
ヒーローらしきその少年の顔は涙で顔をくしゃくしゃにしながら、必死に救命措置を続けている。水槽の中には私以上に瀕死の状態で放置されていた者もいたらしい。
病院で治療を受けている間、そのヒーローは度々顔を見せた。最初はその行為さえも憎く感じていた。何でこうなる前にそうしてくれなかったのだと、理不尽だと分かっていながら怒りをぶつけた。
今なら分かる。怒りを、憎しみをぶつけられる相手が目の前にいることがどれだけ幸運だったのか。水槽の中で怒りをぶつける相手は、ガラスに映る自分だけだ。
私は、私の孤独を救ってくれた彼に感謝している。彼は、誰かから教わったものだと言っていたが、それは間違いなく彼の心からの行動でもあっただろう。
だから、今度は私がそれをする番だ。懸命の治療により、私の声はある程度元に戻った。たまに滑舌が悪くなり皆に笑われるが、それもチャームポイントだ。
「一人にはさせない」
私の、彼からもらった意思を口にする。彼は今もどこかで活躍しているのだろうか。
◇ ◇ ◇
「あら、あなたの言葉で救われた人間がいるわよ。よかったじゃない。」
「ん?私何か言ったっけ?」
新調されたテレビに映し出された映像を、ポップコーン片手に観賞しながら二人は呟く。
「あなたホントに覚えてないの?」
「去り際に何か言ってたのは覚えてるんだけど、内容までは覚えてないわよ。あの時、急に力を戻したからかちょっと記憶が混濁してるのよね。」
ヘカーティアは今更ながらなる程と思った。そしてそれと同時に、あれが純狐の擦り切れてしまった記憶の中にあったのだと分かり、なんとなく物悲しくもなった。隣の純狐は、もちろんそんなこと気にせず休暇を楽しんでいる。
ヘカーティアは純狐の過去を、なんとなくではあるが知っている。もし、彼女の子供が死んだときに、誰かが彼女の話を聞いてくれていたら、子供を殺した男を殺すとなった時止めてくれる者がいたら、男を殺した後、晴れぬ憎しみをぶつけられる存在が居れば……。
純狐の去り際の言葉を聞いた後、ヘカーティアは映樹などから行われる説教を聞き流しながらそんなことを考えていた。しかし、どれも過去のことだ。今更できることなどない。
「あ、制圧できたみたい。よかったわ。」
優しい笑顔を浮かべる友人の横顔を見ながら、ヘカーティアも小さく微笑んだ。
読んでいただきありがとうございました。
失踪する予定のものでしたが、ここまで続けられたのは皆さんのおかげです。満足いっていない部分も多々ありますし、皆さんも色々不満あると思いますが、私としてはここまで書けて良かったと思ってます。
主の妄想する純狐さんの過去ももう一つの作品で書けたしね。純狐さんの過去は色々妄想が進むので各々思い浮かべてほしくもあります。
多分ないけど、またどこかでお会いいたしましたら!