落第生の舞台   作:ゴマ醤油

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第一劇
開演前


 ふらりと外を歩く。特に何でもないこの街中を。たった一人この活気溢れる街に合わぬ雰囲気を醸し出しながら、もう通ってもいない制服を見に纏いながら歩く少女。

 整った容姿のはずなのに、まるで亡者のような目をしているその少女。

 

(……ああ、だるい)

 

 負の感情が身体を巡る。ここ最近ずっとだ。父が死に、母が目覚め無くなって一ヶ月。大好きだったあの家も無くなり、あの夢を追う為の何もかもが馬鹿高い学校に通えなくなってしまった。

 もう何もかもがどうでもいい。ただただ無気力だ。決して変わることのない感情を抱きながら、どこかの建物に入る。

 

「――はあっ」

 

 階段を登る。息を切らすことはなく、けれどため息は途切れることはなく無気力に進む。

 階段を登りきり、付いている扉のノブに手をかける。此処が四箇所目。

 さあ開くかどうか。

 

「――あっ」

 

 ノブが回り、寂れた金属音をたてながら扉が開く。どうやら管理をしてないようだ。

 不用心だと思いながら中に進む。少しばかり風が吹き肌寒く感じるが気にしない。どうせ、何も変わることはない。

空を見ながらこの狭い空間を歩く。すっかりと暗くなり、星も見えるこの空。珍しくよく見える月とは違う空の光。

 あの学園で演じた二人の少女が求める星の輝き。あの光はそれよりも劣るだろうが、それでも自分にはあの少女達より眩しく見えている気だろう。

 端まで行き、付いている壊れかけの鉄格子に手をかける。

 少し錆びついているそれを跨ぎ端に立つ。

 狭い足元に座り空に目をやりながら考える。家族との楽しかった時間。あの学園での一年間。

 そして、最も輝いていたあの舞台。あの天才に負けて自分はメインキャストでは無かったが、それでも自身が舞台少女として最も充実していたあの瞬間。

 

「あーあ」

 

 振り返っても全く意味のないそれを思い出し、自分に嫌気がさす。結局、どんなことを考えてもこの結果は変わらないというのに。

 少し冷えてきた。そろそろ、この下らない現実に幕を引くとしよう。目覚めないとはいえ、まだ生きてはいる母には申し訳ないが自分にはもう耐えられない。

 好きなだけ責めてくれ。弱いと罵ってくれ。

 けれど、もうどうでもいい。疲れたのだ。

 立ち上がり、踏み出そうとする先を見てみる。何もない。ただ、遠くの下に地面が見えるだけ。

 それでいい。後はここから踏み出せばここで終わり。――もう苦しまなくても済むはずだ。そう思った。

 

「――っ」

 

 さて行こう。そう思い踏み出そうとする。

 その時、一人の少女が終わってしまうその時その静かな空間に突如ととして音が鳴り響きつい動作を止め、辺りを見てしまう。聞いたことのない電子音。一体どこから?

 

「……これか」

 

 音と同時にわずかにポケットから振動を感じたので手を入れる。

 出して見ると、自身の携帯が音を出しながら震えている。なるほど、正体はこれか。びっくりした。

 

「……なんだろ?」

 

 見ても見なくても変わらないが、まあ最後ぐらい見ても損はないだろうと画面に目を通す。まあ、多分迷惑メールだろう。連絡を入れてくる知り合いなんていないんだし。

 そう思っていた。しかし、画面に映されていたのは全く違う物だった。黒い画面に回るキリン。そして、オーディションという文字。一体何だろう。新手のウイルスか?

 馬鹿馬鹿しい。無視してさっさと続きをしようと携帯を仕舞う。そして再び顔を上げると信じられない光景が広がっていた。

 舞台だ。とてつもなく大きな舞台に立っていた。一瞬、たった一瞬であのどこかもわからない廃ビルから移動したのか。

 思わず息を呑む。わからない。どうしてこんな場所にいるのか。ここは一体何処なのか。

 

「わかります。あなたが今、何を思っているのかを」

 

 どこからか低くねっとりとした声がする。素早くそちらを振り返る。

 そこには一匹。草を食べている生き物がいた。長い首の動物。キリンがその場で草を食べながらこちらを見ていた。他には何もいない。

 ――では一体あの声はどこから?

 

「ここは運命の舞台。貴方はこのオーディションに選ばれたのです」

 

 再び先程の声がする。気味が悪いことにあのキリンの方から。あのキリンの顔らへんから。スピーカーでも付けてるのか。

 なんにせよ、ここについて何か知っているのだろう。

 

「――ここは何処? オーディションって何?」

「ここは運命の舞台。星夢 誘(ほしゆめ いざな)さん。貴方は選ばれたのです。あの運命の舞台に」

 

 さっぱりわからない。全く説明になっていない。

 聞きたいのはそんなことではない。まず、なんでこんな場所に私はいるのか。

 

「レヴューとは選ばれた舞台少女だけが参加できる魅惑の舞台。最もきらめいてくれた舞台少女にはトップスタァへの道が開かれるでしょう。あの星のティアラを手に入れて」

「トップ……スタァ?」

 

 キリンの奥を見る。長い建物。塔らしき物の頂きに一つの光が輝いていた。

 あれが、星のティアラ。あれを賭けて戦うのか。

 

「レヴューに勝てば貴方が望む運命の舞台に立つことができるのです。そう。自身が望むどんな舞台にでも」

「――どんな……舞台でも?」

「はい」

 

 どんな舞台でも。それは、つまりあの輝きに満ちた舞台に戻れるということか。

 あの頃の。自身が最も輝いていた、そして最も幸せだったあの頃の舞台に。

 

「すべてを焼き尽くし、遙かな煌めきを目指す。それが舞台少女。貴方にその覚悟はありますか?」

 

 キリンが問う。馬鹿馬鹿しいと否定するにはあまりにも、あまりにも甘い誘惑。

 何度も考えた。あの日に戻れたら。あの日が無かったことになれば。

 そんな幻想が叶ってしまうというのか。

 少し、ほんの少しだけ考える。そして決断する。自身でもあっさりだと思えてしまうほどに。どうせ、致命的に自分は終わっているんだ。

 ならば、少しぐらい夢を見たって良いじゃないか。たとえ、どんな結末に終わるとしても。

 

「――受けるよ。そのオーディションってやつ」

「わかります。貴方の気持ち」

 

 どこまでも、見透かされたようなその返しに少し苛立ちを覚える。

 しかし、気にすることはない。こいつがどんな魔法でここまで引っ張ってきたのかなんて知らない。どんな思惑があるのなんて知ったことではない。

 けれど、私――星夢誘は決意した。このオーディションに参加することを。自身の望む運命を掴むために。

 

 

 

 これより始まるはとある運命の舞台。そのオーディションでこの落第生がどんな終わりを遂げるのか。

 どうか見ていただきたい。その末路を。その結末を。

 この少女がどんな答えを見つけるのかを。

 

 

 




これの他にレヴューの実況スレ方式の書こうと思ったけど断念。こっちはもし誰か読んでくれるなら書いてみたいと思います。
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