空も青く速やかに晴れ渡るこの日。星夢誘は両手に荷物を抱え、ある場所に向かっていた。
死ぬ木で勉強し新しく高校に編入しそこでのクラスメイトに紹介されたライブハウスのバイトもこなしながら頑張る彼女だが、今日は予定をすべて開け見に行きたい物があった。
「……うん。ついた」
到着した場所には看板が立てられている。聖翔祭と書かれたそれを懐かしそうに見る。まだ一年ぐらいしか経ってないのに、随分と久しぶりに見た気がする。……いや、久しぶりか。
聖翔音楽学園。かつて通っていたその学び舎に足を踏み入れる。今度は舞台少女としてではなく、観客として。彼女らの聖翔祭をこの目で見たいと思ったため。
舞台の会場に歩く。九十九回の時も思ったが、見に来る客が多い。もしかしたら去年より多いかも知れない。まあ百回ということで見に来る人もいるのだろうしと納得しとく。 まあ、ゆっくり見たかった気もしなくはないが今の私は観客の一人。そう勝手なことはしてはいけない。
懐かしいその廊下を通り、ステージに到着する。相変わらずの広さに驚きながら席に座る。割とぎりぎりの時間に来てしまったためかほとんど満員。
二年生の舞台にこれだけ来るのはやはり天堂真矢がいるからだろうか。
ならば、覚悟して見てほしいと思う。この舞台には彼女に負けず劣らずの舞台少女達がたくさんいるのだから。
入り口でもらったチラシを見る。スタァライト。毎年やっているそれの内容が変わることなど無いと思うが、脚本者の名前の一覧に大場ななとあるのがとても気になる。
彼女はA組だったはずなのだが。……まああいつならどっちも上手くやってるのだろう。
そうこう考えている内に会場の明かりが消え始める。
いよいよ始まる。第百回聖翔祭が。あいつらの舞台が。
幕が上がる。内容はあまり変わらず。フローラとクレールが星摘みの塔を登る。そして、中にいる魔女を乗り越えついに掴もうとするまでは同じだった。
けれど、そこから全く違った。一度落とされ、クレールと分かれる事になってしまったフローラ。
彼女は諦めずにもう一度、一人でこの塔を登る。そこには、変わらず魔女が。
その魔女達と接することによって開放し真実へ到達する。星積みは罪の許し。星積みは夜の奇跡。クレールは開放され、二人は二つの星を掴み、幕が降りる。
正直、驚くところが多かった。
まず悲劇で終わらなかった点。まあでもこれは納得。あの大場ななが脚本に参加しているのだ。
ありふれた悲劇など、彼女には似合わない。
二つ目は、主役が天堂じゃないこと。まさか、あの愛城が主役をやっているとは想像すらしていなかった。クレールをやっていた少女は見たことなかったが、あの二人は息が恐ろしいほどに合っていた。
二人で一つ。まさにそれを体現している彼女らだからこそ、天堂達も納得したのだろう──まあ、ちょっとだけ天堂達の主役も見たかったけど。
大体の人は帰っただろうか。私も席を立つ。まあいろいろな感想もあるけど、凄かった。きらめきに満ちていた。それだけははっきりと言える。
もし叶うなら、私もあの舞台に立ちたかったけど。例え、あのまま在籍していても出れるかはわからなかっただろう。
ゆっくりと感傷に浸りながら歩く。たった一年、それしかいなかったのにこの学び舎がどうにも懐かしい。花柳をおぶって運んだり、星見としゃべったり。思い返すと、意外と舞台以外のことも思い出せる。
「──星夢?」
ふと誰かに呼ばれたような気がする。そちらを振り返って見てみると、そこにはかつての担任。櫻木先生がそこに立っていた。
「──櫻木先生。お久しぶりです」
「……ああ。久しぶり」
挨拶を返し、近寄る。思えば、担任だったこの人とも話すことはそう無かった。授業だけでしか関わることのなかった昔。
今にしてみればなんてもったいないと思える。それにしても、よく気づいたな。今は帽子も被っているのに。
先生に伝えた。学校を辞めてからのことを。いろいろあって今は勉強をしながら大学を目指していることを。今日の舞台が素晴らしかったことも。
先生は、それをなんでか感慨深そうに聞いてくれた。
「──お前のことはずっと気になっていた。何せ事情が事情なだけにな」
「まあ、あの時は本当に急でしたからね」
「本当だよ。けど、本当に元気そうで良かった」
本当に、本当にほっとしたように今の私を喜んでくれた。良かった。これだけでも、今日来た甲斐があった物だ。
「星見や大場も理由を聞きに来たしな」
「……そうですか」
私の退学にそこまで反応してくれたのか。やっぱり、私は恵まれていた。あんなに強くて優しいやつらと一緒に学べたのだから。
「……そろそろ行きます。先生も、仕事があるでしょう」
「そうか。……会っていかないのか」
「まあ。来年も来ますよ」
そう言って腰を上げ、この場から去ろうとする。数歩歩いたところでふと思いつき、先生の方を向き一礼をする。
「先生。ありがとうございました!」
「──ああ。これからも頑張れよ」
ずっと、ずっと言えなくて後悔していた。学校辞めると言った日には押しつけるような形で辞めてしまったからなおさら。先生の顔は見えなくとも、その激励だけで救われた気がする。
その場を去り帰ろうとしたところで、持ってきた荷物に気づく。そういえば、渡すのを忘れていた。さてどうしよう。これはさすがに持って帰っても食べきれない。
どうするかと迷っていた所で、二人こちらに歩いてくるのが見える。
さっきまで主役をやっていた二人。愛城華恋と知らない誰か。確か、紙には神楽ひかりとあった気がする。ちょうどいい。
帽子を深く被る。愛城に気づかれるとうるさいし、せっかくの聖翔祭に気まずくなってしまうだろう。
「──そこの主役お二人さん。ちょいと待っておくれ」
「──ええっと。何か?」
黒髪の方が怪訝な顔で答える。まあ、いきなりこんな変なしゃべり方で止められたら怪しむだろう。まあ気にせず行こう。
「さっきの舞台。本当に素晴らしかったよ。よければこれを。皆さんで食べてほしい」
「わー。大福! ありがとうございます!」
「あっ! ちょっと華恋!」
黒髪がちょっと止めようとするが、愛城がまったく疑うことなく受け取ってくれる。……もうちょっと疑ってくれないと不安になる。
「大丈夫だよひかりちゃん! この人はなんか大丈夫!」
相変わらずの感覚論。まったくわからないが、その直感に大丈夫と断言されるとちょっと照れる。
「ではさようなら。来年も楽しみにしてるよ。愛城」
「はい! ってあれ?」
そう見えないように急いでこの場を去り、学校を出る。まったく、最後まで楽しませてくれる。本当にいい学校。
「お世話になりました」
去り際にふと呟く。その一言でようやくこの学校に、舞台という道に区切りが付けられたような気がする。
もちろん舞台は好きだし、これからも見たりはしていく。けれど、舞台少女としての星夢誘はこれでおしまい。
かくして少女は次に進む。それがどういう結末に陥るかは誰にもわからない。再び舞台に戻るのか。それともこのまま違う道を進むのか。けれど、この舞台はここで幕引き。続きは、彼女がこれから紡ぐのだから。
最終話です。ここまで読んで下さっていた方ありがとうございます。
活動報告を載せるので興味があればご覧下さい。
最後に、お気に入りして下さった方。評価を入れて下さった方。読んで下さった方。本当にありがとうございました。