落第生の舞台   作:ゴマ醤油

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IF 出会い

 巡り会いとは面白いものだ。

 ほんの少しずれてしまえば出会う人は出会わなくなり、会うはずもなかった人間同士が引かれ合うこともある。

 

 例えてしまえばそれは糸なのかもしれない。

 どれだけ絡み合おうともちぎれることのない生のレール。俗に言う運命の出会いだって、所詮は決まっていた必然でしかないのかもしれない。

 

 けれどまあ。あえて糸に例えるなら、もしかしたら違う道と結びつくこともあるかもしれない。

 何を言おうと確認などしようもない。私はそんな凄い目なんて持っていないのだから。

 

 だからこそ、私は何より今を大事にしたい。

 それが愚かなことだとしても、どれだけ難しい難題を前にしたとしても。

 諦めることだけは、なげだすことだけはもうしたくはないから──。

 

 

 

 転校先。それは唐突に起こる人生の急展開。

 親の都合やその学校に居づらくなった等々理由は人それぞれであろう。しかし、環境が大きく変わることだけは共通しているのではないだろうか。

 

 当然私こと星夢誘にもそれは当てはまる事例ではある。

 厳密に言えば私は転校ではなく編入なのでちょっと違うのだが。

 

 まあこんなニート一歩手前の女を引き取ってくれたこの学校──凛明館女学校には全力で感謝しかないのだ。

 一般的には専門から普通科に行くのはほぼ不可能とされる。事実この時期に編入出来る且つ生徒を選ばない学校がどれだけあるか。

 

 いっそもう一回一年生からやり直したほうが早いんではないかと思える程頑張った気がする。

 そんな中、偶然にもここを見つけられたのは本当にラッキーだったのだ。

 学費に関しては母さんが気にしなくても良いと言ってくれた。こんな親不孝者な私なんかには勿体ない素晴らしい人だとつくづく思える。早いとこ自立してお金を返していかなければ。

 

 そんなわけで今現在、勉学に励みながらバイトを繰り返す苦学生みたいなことをして生活している。部活に入れないのはもうしょうがない。

 格安で借りれるぼろ家に転がり込み、今日もせっせと働いているのだ。

 

「星夢さーん。また明日ねー」

「じゃねー」

 

 普通の学生らしく軽くキャピキャピしながらクラスメイトが教室から出て行くのを、日直の作業をしながら見送る。

 

 聖翔にいた時とは全く違う学校生活に今も少しは戸惑っている。

 朝から夕方までレッスン漬けに身を粉にしても届かないライバル達。毛布を被ればその日の後悔と反省がぐるぐると己を支配するそんな生活。

 ──それが舞台少女。全てを劇にかける女達。

 どれだけ舞台が好きだとしても、何かのきっかけで瞬く間に崩壊する可能性すらある場に私はいたのだ。

 

 だからこそ戸惑いが拭いきれないのだ。

 机に向かい勉学に励む。それだけで一日の半分が終わるこの生活はとっても楽で、少し退屈。

 

(……今日はバイトお休みかぁ)

 

 とはいえこんな生活に慣れつつある自分もいるのだが。

 さて日直の仕事も終わった。どうしようか。

 

 遊びに出たいわけでもない。金ないし。

 となれば家で惰眠を貪るか。……今日はそんな気分ではない。

 

 じゃあどうするか。鞄に入っていた大福を食べながら頭を回転させる。

 甘々うまうま。……よし、決めた。

 

 鞄を持ち教室を後にする私。

 目的地は特にない。やりたいことも特にない。

 

 ──つまるところ学校探検。今更ながらに始めるちっぽけな子供心の延長線なだけである。

 

 

 学校をじっと観察するというのは存外に少ないと思う。

 聖翔の時だって、正直使った教室ぐらいしか覚えていなかった自分だ。当然まだ知らないところが無数にある。

 

 使ってるのかもわからない部屋。鍵が掛かっていて入れない部屋。何室か名前すら張り出されていない部屋。

 

 流石は元名門。部屋の数だけは一流と言えるだろう。

 けれどここまで多くなくとも良いと思う。生徒の数の少なさがより明確に視覚化されてしまっている。

 

 自分でも意外なぐらいちゃんと見て回っていたので、いつのまにか窓から見える空が赤色を通り越して真っ暗に変わりつつある。

 

「……帰ろうか」

 

 お腹も減ってきたので夜ご飯のことに意識が向き始めたその時。何故だか一つの部屋に目がいった。

 数少ない明かりのついている部屋。人の気配が感じられ、小さくない音も耳に届いている。

 

 何だろう。不思議と心が熱くなる。

 理由は全くわからないのに胸の中が何かを訴えかけてきている。

 

「入ってみようか」

 

 何かの部活だろうか。

 少し興味が湧いた。入部は無理だが、一回ぐらい覗いてみようか。

 

「失礼しまーす」

 

 ゆっくりと扉を開ける。人の数はごく少数だった。

 最初に視界に入ったのは動きをつけながら台本の読み合わせをしている人の影。

 

「──────っ!!」

 

 こちらには気付いてないらしく演技に熱が籠っている。

 

 演劇部だろうか。それにしてはレベルの高い集まりだ。

 聖翔に別段劣っているとは思えないほどには気合が入った練習に、ついつい壁に寄りかかって見てしまう。

 

 ああなるほど。先程の昂まりは本能か。

 未だ諦めを知らぬ情熱が私に呼びかけていたのか。まだ舞台に立ちたいと叫び続けているのか。

 

 ──馬鹿らしい。実に愚かでくだらない思考の羅列。

 今の私には必要のない欲。そんな我が儘は勝手に聖翔を辞めた私のためにお金を出してくれている母さんに申し訳が──。

 

「あー! 誰かいるー!」

 

 その不意の声で現実に戻ってきた。

 気が付けば注目は私に集まるという意味のない感じになりつつある。

 

「えーと、貴女は?」

「ああごめんね。この部屋から賑やかな音が聞こえたからついね」

 

 艶やかな紺色の髪の少女が訝しげな表情で聞いてくる。

 ……とりあえず、自己紹介しとこうかな。

 

「私は星夢誘。良ければ貴女達の名前も教えてほしいんだけど」

 

 

 私が名乗った後、順に自己紹介をしてくれる面々。

 私に大きく反応した音無いちえ、眠そうに目を擦っている田中ゆゆ子、警戒した様子の秋風塁、多分だけど隣のクラスの夢大路文、そして巴珠緒。

 

 話を聞くとここは部活ではなく演劇科の集まりらしい。

 演劇科の存在は私も知っていた。

 

 ──曰く、堕ちた名門の象徴。かつての栄光の残滓。

 未だ過去の功績にすがって存続している凛明館の汚点とまで言われてしまっている学科である。

 

 クラスメイトによるとつい最近廃科が決定したらしいのだが、そんな彼女らが何で練習を? 

 

「実は私達、劇フェスを目指して練習しているの」

 

 巴が言うには秋の学内発表会に劇フェスの審査員が来てその人たちの目に止まれば選ばれるとのこと。

 劇フェス自体は聖翔でも聞いたことがあるのだが、あいにく一年だった私には関係なかったので完全に忘れていた。

 

 ……つまり外部の実績で持ち直そうという算段か。

 出来るかはどうともいえない。確かあれは学校による人数の上限がなかったはず。

 この業界は実力以上に環境も重要視されてしまう非情な世界。名の通っていない学校だと他よりも実力を必要とされるはずだ。

 

「劇フェスねぇ。……大変そうだね」

「でもやる前から投げ出したくないもん! それに、このチームならいけると思うし!」

 

 音無が自信満々に意気込みを語ってくれる。

 それは後ろの後輩と同じように不安を隠そうとしているだけなのか。……いや、多分本音だ。こいつからは愛城と似たようなものを感じるし。

 

 ……こいつらなら大丈夫だろう。不思議とそんな気がする。

 

「行けるといいな。劇フェス」

「ええ。ありがとう」

 

 もう邪魔になってしまうと思うのでそろそろお暇することにする。

 

「……あっ。そういえば」

「??」

「さっきの巴の台詞。あれもうちょい抑揚を意識すると良いかもな」

 

 去り際にさっきの演技で少し気になったことを伝えて部屋を出る。

 余計のお節介かもしれないが、あいつらにはもっと上手くなって秋に面白い舞台を見せてほしいと思えた。

 

 ──久しぶりに楽しみが増えたな。

 帰り際に足取りが軽いのは久しぶりだった。凜明館女学校演劇科か。

 

「──ああ、本当に」

 

 楽しみだ。あの頃みたいに。




 スタリラ一周年ということで。正直アニメと舞台見た人でも1割ぐらいしかもうやってないと思うけど作者はまだ続けております。

 
 ちなみにこの主人公の聖翔以外の相性はこんな感じです。
 フロンティア>青嵐、凜明館>>>>シークフェルト
 
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