落第生の舞台   作:ゴマ醤油

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第三幕

 夢を見た。幼い頃の夢を。自身が舞台に憧れることになった一つの情景。

 親に連れて行かれた舞台。内容は覚えていない。当時は長い時間座ってることが辛く、始まる前は早く帰りたいと思っていた。

 けれど、舞台に幕が上がりその気持ちは一瞬でなくなった。

 あの輝きに魅せられた。目の前に広がるそのすべてが心に刻まれた。それが始まり。それは覚えている。覚えてはいる。けれど、ああ。今の私は一体。一体舞台に対して、どう思っているのだろう。

 

 

 

 

 

 目を開ける。眠気は取れることはない。当たり前だ。ほとんど寝れていないのだから。

 ソファに座り直し、自身の右手を見る。何故か傷はない。

 けれど、この焼けるような痛みは全く消えることはない。昨日西條の剣を掴んだその痛みがまだ残っているのだ。傷が残っていないのが気味が悪い。

 目をこすりながらそのまま洗面所に向かう。とりあえず顔を洗い気持ちを変えなければ。

 洗面所に到着し、顔を洗う。予想よりもだいぶ冷たい水に意識が覚醒する。目が覚めてきた。

 

「――っ」

 

 それでも、痛みが引くことはない。この痛みはしばらく消えることはないだろう。

 まあしょうがない。あの西條にこんな痛み程度で勝つことができたのだから。五体満足で勝つことができただけ運命に感謝しなければいけないのだから。

 リビングに戻り、とりあえず食事を取る。ここ最近コンビニのおにぎりしか口に入れてない気がするが、まあ料理は苦手なのだからどうしようもない――まあ、仮にできてもする気力など湧かないが。

 適当に食べ、少し休んだ後家にあったジャージに着替え、適当に外を走り始める。

 徐々に速度を上げていき、体を強引に動かしていく。手の痛みもそうだが、今の気持ちから目を背けるのにはちょうど良い。

 どれくらい走っただろうか。そう思った時、ふと家から持ってきた時計を見る。携帯は充電中。というか、あの家まだ電気が通っていることにびっくりである。

 

「……もう一時か」

 

 持ってきた時計の短い針が一の文字を指していた。出てきた時間は知らないが、随分と走ってしまったようだ。少しだけ、ほんの少しだけ気持ちも晴れたしそろそろ戻ろうか。

 家に帰るため再び走り始める。歩いても良かったのだが走ってた方が気持ちも紛れる。

 家に到着し、中に入る。相変わらず誰も居ないその家に大きな寂しさを覚える。

 けれど、慣れた方だ。帰ってくる前なんてこの家に居ることさえ本当に辛かったのだから。

 まだ水道も電気も止まっていないことに感謝しつつ、お風呂場で汗を流す。

 お湯で流す方が好きなのだが、今日は水で体を流すことにした。今の私にはこの冷たさがちょうどいい。

 

「――ふうっ」

 

 体を流し、適当に服を着て自室に向かう。自室に入り、自身のベッドに座る。随分と走ったからか疲れた。

 なんとなく部屋を見回してみる。思えばしばらく帰ってきていなかった部屋だ。なぜだか妙に懐かしく感じる。

 何となく感傷に浸っていると、机の上の写真立てに目が行く。家族三人で撮った写真。まだ小さい頃に連れて行かれた舞台の帰りに撮った写真だ。

 懐かしい。確か見たのはスタァライトだったか。自身の始まりであろう舞台と去った学校で毎年行われる舞台が同じだったのはどういう偶然なのか。

 まあ、辞めてしまった私には関係はないのだが。

 写真の中の私は笑っている。父と母もだ。三人ともこの瞬間が楽しくてしょうがないといった表情だ。未来でこんなことが起こるなんて全く思っていない笑顔だ。

 母の病院には一度しか行っていない。事故に遭ったと聞いて訪れた最初に時が唯一。

 あとは行ってない。怖くて行けない。自分が行ってその時に母が死に目だったらもう私には耐えられない。

 薄情なやつだ。母の方が辛いだろうに。それなのに、自分の事ばかり考えている私が何よりも醜く、許しがたい。

 意識が遠のいてくる。眠い。そういえば、全然寝れてなかったんだっけ。少し寝よう。 そうすれば、こんな地獄のような現実から少しでも逃げられるのだから。

 

 

 

 

 意識が覚醒し、飛び起きる。どうやら寝てしまっていたらしい。

 携帯から充電コードを抜き時間を見てみる。時間は、十七時二十五分。だいぶ寝たようだ。脳もすっきりしている。眠気も飛んだようだ。ちょうどいい時間だと思うし。

 予想はできている。おおよそ、あの不思議な舞台への案内状が来るとしたらこの時間帯だろう――。

 そう考えているとやはりというべきか。あの電子音が鳴り響く。

 やはり来た。レヴューの時間だ。

 

「……負けるわけにはいかない」

 

 あの日から。レヴューを持ちかけられてからのあの日から気持ちが変わることはない。すべては終わりのため。そのはずだ。そうではなくてはいけない。

 けれど、揺らいできてる気がする。自分は、私は一体――。

 

 

 

 

 舞台に招かれる。もう慣れたことだ。恐らくこの世界ではどんなこともあり得るのだろうから。さて、今宵の相手は一体――。

 刹那、舞台から明かりが消える。

 そして、一点に集中される。そこに写るのは――。

 

「月の輝き。星の愛」

 

 舞い降りてくるは白鳥。天に舞う白の輝き。

 その上に座るは一人の少女。空の白鳥を操り自由に空に君臨するかの如く。

 

「数多の光。集めて今。貴方の心に届けましょう」

 

 天から舞台の中心に舞い降りるは一人の少女。

 強く凜々しい声。その優れた容姿。舞台の上での輝き。

 どれをとっても一流であるとわかるその少女。

 

「九十九期生首席。天堂真矢」

 

 覚えている。覚えているとも。かつて、同じクラスに居たあの完璧を。

 自身を一番とはっきりと断じながらそれでも努力を辞めることを知らない怪物を。

 かつて、聖翔祭で自身が敗れたその少女を。

 

「今宵。きらめきを貴方に」

 

 天堂真矢。自身の知っている最強が、今明確に立ちふさがった。

 

 

 

「本日のレヴュー。開演です」

 

 開始の合図とともに全力で駆け出す。一瞬。一瞬でもあいつに動かせてはならない。そうでなければ。そうしなければあの怪物には絶対に勝てない!

 一撃でけりを付けるために斬撃を放つ。

 しかし、天堂は全く動じずその一撃に刃を合わせ受ける。連続で攻撃を繰り返すもあまりにも簡単に裁ききられる。

 

「星夢さん。貴方は何故このレヴューに?」

「――関係ねえよ。お前には!」」

 

 一旦距離を置く。そして、もう一度全力で斬りかかる。しかし、その刃は天堂に届くことはなく。

 彼女は足場ごと空に押し上げられ、刃はただ、空を切る。

 

「――!?」

 

 信じられない光景が目に入る。

 舞台が。そのすべてが組変わる。天堂を頂点に。天堂のための舞台に。あの少女がもっとも人を魅せられるように。

 

「貴方の目は朽ちた大地の様に干涸らびている。かつての輝きが見られないその瞳に一体何が見えている」

 

 階段を全力で駆け上がる。何か言っているがどうでもいい。舞台が、この世界がコイツの味方なら。自身一人でどうにかするまで――!

 長い階段を全力で上る。まるでこいつと私の差を可視化したような距離だ。こいつに届かないのだと、舞台に宣告されているようだ。ああくそ。くそがっ!

 

「――はあっ!」

「――っ」

 

 天堂がこちらに刃を振りかざす。早く重い一撃。その一撃だけで彼女の積み上げてきた物がわかるその一撃を全力で受ける。

 刃は軋み、体は悲鳴を上げる。容赦なく追撃をする天堂。そのどれもが先の一撃と何ら変わりなく、ただ上掛けを落とされないようにするだけで精一杯。

 ここから、どうすることも出来ず、西條にやったように、無理矢理どうにかすることも出来る気がしない。

 唐突に足場が崩れる。階段が坂となり、私だけを転がり落とす。

 それが現実。それが当たり前。地べたに這いずるのがお似合いだと言われているようだ。

 

「貴女が何故このレヴューにいるか、どんな気持ちなのか。それは星夢さんにしかわからないのでしょう。けれど、その目を見ればおおよその見当はつく」

 

 天堂が全力でこちらに駆け、上掛け目掛けその剣を振るう。

 その一撃は剣を振るうにはあまりにも遅く。無駄なあがきをするのにはあまりにも美しく。

 

「だからこそ。だからこそ、今の貴方にはこのオーディションはふさわしくない」

 

 一閃。天堂が放った銀の一閃は私の上掛けを落とす。

 勝てない。まるで歯が立たない。こんなところでこんなにあっさり負けるのか。

 

「ポディションゼロ。this is 天堂真矢」

 

 勝者が決まる。キリンが言うことなくはっきりと。その勝者を中心にきらめかせる。

 その圧倒的な輝きに。その絶対的な差を前に。目を背けることさえも叶わなかった。

 

 

 




 読んで下さってる方ありがとうございます。
 レヴューの日程については、アニメ版の通りにしてしまうとどうしても当てたい相手とぶつけられないので多少目をつぶっていただけると助かります。
 
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