「まさか、馴れ初めを話す事になるなんて…」
「私もよ…」
ゲンナリしながら、顔を真っ赤にしたままのアンとシャロは昨日の馴れ初めを暴露した事を引きずっていた。
アンの馴れ初めとは、士官学校では女である事を秘密にして男装していた。無論、同室だった同性の親友以外には女だとは思われず、ライバルだったイチカにはアンを男だと思われていた。
ところが、お互いのバディが操縦訓練での事故死を機に、新しいバディとして同室になった当日にアンは、イチカが来る前に先にシャワーを浴びていたがボディーソープが切れている事にアンは気付いたのだ。
逆に、夕飯の材料やボディーソープなどの買い物から戻り、買って来たボディーソープを補充しようと浴室に来たイチカと全裸だったアンが浴室内で鉢合わせをした事が要因だった。
無論、アンの両親が死亡した事により、欧州連合の貴族としては没落していたが、未婚の貴族の女性の全裸を見たのだから、男して責任を取る様にイチカに迫り、責任を取らせて婚約者として付き合う様になった事が始めだった。
その後は、幾度も戦闘でピンチの時に何度も助けられて、アンがイチカにベタ惚れした事やドズル閣下の前でイチカの女宣言した事までも話す羽目となり、アンが羞恥心から未だに顔を真っ赤にする理由だった。
逆にシャーロットは、ソロモンでオリムラ中隊に配属になってからがイチカとの出会いの最初で、当初は大嫌いな父親の居るサイクロプス隊に配属予定だったが、隊に来る事を聞いた父親が軍にいる事自体を反対する事に反発して、親子での取っ組み合いの喧嘩となったのだ。
シャーロットが地上戦線ではベテランパイロットだった事もあり、イチカとは年齢が一緒だった事もあって、ドズル閣下の直下の新規編成部隊の隊員として選ばれて、新規編成されたオリムラ中隊へとドズル閣下の命により転属となった。
そして、隊長のイチカと副隊長のアンの二人の仲の良さに憧れ、自分も変わられたらと羨ましく思って訓練に勤しんでいた所に、転属を知り軍を辞めろと迫る父親と再び取っ組み合いの喧嘩をしていたら仲裁に入ったのが隊長のイチカだったのだ。
無論、終いには私を優秀なパイロットと認めるイチカと軍を辞めさせて普通の女性の幸せを願う父親との殴り合いの喧嘩となり、父親に対して臆せずに堂々と殴り合うイチカの姿に完全に惚れたのだ。
この時から、アンとはイチカを慕い取り合うライバルとなり、ミチルも参戦する事態となったのは言うまでもない。
そして、父親の顎にアッパーを入れて下したが、倒された父親にまでイチカを私の婿にと大層気に入られてしまい、違う意味(将来の婿)で『娘を守れよ』と言って『はい』と答えてしまった事で、早く花嫁衣装を見たがる父親とは、別の意味でややこしくなったのは言うまでも無かった。
そして、アンと共に行方不明となったイチカの事が大好きな気持ちを抱えたまま終戦となり、アステロイドベルトのアクシズに撤退する様に拾い主のシーマ大佐と艦隊ごと亡命した。
あの日、イチカとの再会に自分の気持ちが爆発して告白し、受け入れてくれたイチカの妻になれたのだ。
一応、余談だがイチカとシーマ閣下との間に出来た娘のナツキが居るのは知っている。無論、アンには秘密にする様にとシーマ閣下から厳命されている。
何故なら、私は二人の行方不明のショックから立ち直り、教練部隊の教官であり少佐として軍に復帰するまでは、シーマ閣下の自宅でメイド兼娘のナツキの護衛をしていたからだと言って置く。
そして、最後にアンとシャロの二人がお嬢様だった事実を一同に驚かれたのが最大の要因だった。そう、セシリア以外には『全く、お嬢様には見えない!?』と言われたらしい。尚、千冬姉には『お転婆娘だったからでは?』と言われたとか言われないとかは定かではない。
何とか、赤面した二人も落ち着き、他の生徒が協同訓練をする中、専用機持ちは浜辺へと集合する。
それは、国や企業から送られて来た専用機や追加パッケージの試験をする為だったりする。無論、あたし達にもブラックローズが支給されて実地訓練と慣熟訓練が待っていたりもする。
「全員、集合した様だな」
「織斑先生。何故、箒がいるのよ?」
「それは、今日が箒の誕生日だからだ」
「でも、社長的には、あり得ない話ね」
「ミューゼル先生、どういう事だ?」
「あら、ホワイトラビット社の関係者なら有名な話よ。箒さん、社長から姉妹としての縁が切られてるもの」
「「「「「「なっ!?」」」」」」
ミューゼル先生からのカミングアウトに驚く生徒達や教師達に証拠にと、ミューゼル先生は待機状態の『紅椿』を見せて部分展開する。
「これが証拠よ」
「何故だ!!」
箒が待機状態の紅椿を持つミューゼル先生に食って掛かる。
「貴女、アレだけの事を仕出かして置きながら、社長から誕生日で専用機でも貰えると思っているの?
それに、貴女、社長が大嫌いでしょ?」
「それは、一夏を叩き直そうとしてやった事だ!!
姉さんの事など、言われたくない!!」
「ハァ…本当、未だにお子様だなんて、呆れて何も言えないわね」
ミューゼル先生に呆れられて、あしらわれた箒は拳を握りプルプルと怒りを露わにしながら睨むが、ミューゼル先生は元アメリカ国家代表であり、千冬姉と同等の技量と格闘センスがある彼女には、一切勝てる要素が無いのが判っていた為に襲う事は無かった。
事実、ミューゼル先生の事は何度も書く様だが、4世代機として極秘に完成していた紅椿は、ブルーローズに搭載された展開装甲のエネルギー効率を調べる試験の為にミューゼル先生がテストパイロットとして使用し、本来なら箒への極秘開発した誕生日プレゼントだった。
しかし、箒がした目に余る出来事やタッグトーナメントでは、放送室で起こした放送部員への殺人未遂により、姉である社長にまでも被害を受けた生徒の両親に責められる事態となって両親と一緒に謝罪したり、事前に何か起こる前にとIS委員会を通じて日本政府へと箒との姉妹としての縁切りをしたのだが、箒の様子から察するには委員会で握り潰されたのが実状だと思えた。
無論、紅椿はブルーローズ開発の為の『青薔薇計画』の各試験が紅椿をテストヘッドにして行い、試験の終わりと箒の一件により解体予定だったが、各試験でテストパイロットを努めたミューゼル先生が紅椿を気に入り、テストパイロットとしての報酬としての1500万円を断り、自身の専用機を指名手配犯の容疑を解くためにアメリカへと返却して今は無い為に、専用機として受領したのだ。
そんな、箒とのやり取りをしていた時に浜辺へと降り立つ数機のオスプレイは、ホワイトラビット社が個人で所有する軍用の輸送機だった。
無論、先に着陸したオスプレイの扉が開き、降り立つのはスーツ姿で茶髪の髪をした一人の女性はホワイトラビット社の社長の束さんだった。
「やっほぉ、ちーちゃん!!」
「本当に仕事で来たんだよな?」
「ちーちゃん、モチのロンだよ。朝一で旅館から本社に戻ってから、君達に渡す機体を積んで戻って来たんだよ?
それに、いっくんのブルーローズの最後の武装も運んで来たんだよ」
「束がこんなにも真面目だと、違和感しか感じんな…」
「あっ、ちーちゃん酷い!?」
束さんは、箒を一切認識せずに淡々と仕事を始め、オスプレイから作業員が下ろすのはアン達専用のブラックローズが入るコンテナや俺のファンネルが入るコンテナばかりだった。
「さて、君達の新たな専用機、ブルーローズの簡易量産機で4.5世代型のブラックローズなのだ!!」
「「「「これが、ブラックローズ…」」」」
コンテナが開かれて、出てきたブラックローズはブルーローズの基本的な姿はブルーローズと変わらないが、頭部にあるハイパーセンサーと一体化した指揮官用ブレードアンテナが無く、ファンネルの代わりには非固定部位には固定型で、打鉄弐式の山嵐を参考にしたマイクロミサイルポット内蔵式の大型スラスターに変更されていた。
無論、副隊長機のアンと鈴の専用機には色が変更され、アン専用にはライトブルーと白に変更し、鈴専用には赤と白を、シャーロットと他はブラックローズ本来の赤紫と白となっているが、アクシズの教官時代からのパーソナルマークのハートに砲弾が刺さるロゴマークが入れられていたのだ。
無論、忘れていたとは言わないが、マドカのブラックローズは少しだけ仕様が違い、高いBT適正を利用すべくサイコミュの代わりにBT兵器仕様のファンネルが積まれており、大型スラスターはマザーファンネルとなり中には小型のレーザー砲搭載型の小型のファンネルが多数積まれている。
「じゃあ、早速だけどフィッティング作業に入るよ!!」
「「「「「は〜い!!」」」」」
機体に割り振られた機体番号に基づいて、アンは「343-116」の番号の機体に乗り、シャロは「343-121」へ、鈴は「WR-101」へ、セシリアは「WR-102」へ、シャルは「WR-103」へ、マドカは「WR-104」へ、簪は「WR-105」のブラックローズに乗り込んだのだった。
全員が乗り込むのを束さんが確認するとブラックローズからケーブルに繋がれた先はオスプレイの中に積まれた移動式ラボのコンピュータへと繋がれ、素早いタイピングでデータを入力して行き、フィッティング作業に取り掛かる束さんだった。
無論、俺のブルーローズを展開し、女権の襲撃事件では未完成のままでの緊急出撃で搭載を見送った、4基の大型スラスター兼ファンネルのインストールとサイコミュの脳波を感知するための専用のヘッドフォンを頭に被り、サイコミュの最終調整を行っていたのだ
「姉さん!!」
「何かな?
いっくんのサイコミュの最終調整と社員の専用機のフィッティング作業で忙しいだけど?」
「何故です!!
何故、ミューゼル先生に私の誕生日プレゼントを渡すのです!!」
フィッティング作業の最中なのに、箒は束さんに食って掛かり都合がいい事ばかりを言う箒に、ついには束さんがキレたのだ。
「あぁん?
てめぇは、都合がいい事しか言えねぇのかよ?
なぁ、束さんは忙しいんだよ?
殺人未遂までして、やった生徒にすらも謝りもしない。
あの事件のせいで、泣きたいのは束さんなんだよ。
てめぇが殴った生徒の両親にまで、こっちは両親を引っ張って行って三人で頭を下げて土下座までしてんだよ!!
それに、束さんの会社に損失まで出させて、各国の能無しとの嫌な話し合いとか会食とかでスケジュールが半年先まで一杯なのに、てめぇが仕出かした事で時間を取られてさ、もしも、可愛い社員達を路頭に迷わせたら責任取れんの?
てめぇの一件で、軽く億超えの損失を出したの理解してるの?
それだけの事をして、専用機が誕生日だからって貰えると思ってんじゃねぇよ!!」
「犯罪者の姉さんに言われたくない!!」
「残念だね。束さんの今は、日本政府との司法取引で指名手配犯としては解除されてるし、両親に謝って束さんの自宅に住んで居るし、束さんもやった事にはキチンと責任を取って償っている最中だよ。
全く変わろうとしないし、子供のままなのはあんただけだよ」
事実、束さんは償っている最中だった。
医療関係には、無償でナノマシン医療カプセルを提供したり、ドイツから引き取った子供達には孤児院を建てて子供達の面倒を見ていた。それに、日本政府との司法取引と言う名の裏取り引きでは、ホワイトラビット社の本社を日本国内に置く事と、国家代表選手用の専用機の開発と技術提供を名目とした代表候補生専用の専用機の開発と製造は全て無償提供を条件に国際指名手配の解除を日本政府にして貰っていた。
「なら、束。篠ノ之は邪魔だな?」
「うん、仕事の邪魔だね。
ちゃんと成長していたら、専用機を上げるつもりだったけど、心の中身は未だに餓鬼で人には一切の悪い事した自覚すらない馬鹿には専用機を上げるつもりないよ。
ちーちゃん、この先の作業は、悪いけど関係者以外には見せたくない作業だから、そこのお馬鹿さんを摘み出してくれると助かるかな?」
「篠ノ之、来い!!」
「なっ!?」
千冬姉に引き摺られて、箒は浜辺から摘み出されて旅館へと連行されたのだ。無論、ホワイトラビット社の整備士の面々は黙々と各機体の武装のチェックや個人に合わせたセッティングに合わせて行き、十数分後にはフィッティング作業が終了したのだ。
「さて、いっくんのサイコミュの最終調整は完了したから、的を射抜いてくれるかな?
もう少し、脳への負担が少なくなる様にデータを取りたいんだけど良いかな?」
「判りました」
沖合いにいる船舶から、ミサイルやドローンが射出される。無論、サイコミュを起動させると、ブルーローズは赤紫色のオーラに包まれた。
「んっ、見える!?
行け!!
ファンネル!!」
4基のファンネルがブルーローズから分離して目標に向かって凄まじいスピードで向かって行く。無論、脳波から感じるのはミサイルの形成炸薬の弾頭。
そして、サイコミュとISのインターフェイスが合わさり、脳がイメージした通りにファンネルから放たれたビームがミサイルの弾頭だけを正確に撃ち抜き爆散させていた。
無論、モニタニングする束さんは真面目な表情をしながらキーボードを打ち、サイコミュとインターフェイスが上手く機能しているかを事細かにチェックしていた。
「うん……全く、問題なしだね…」
多分、束さんが苦虫を噛んだ様な表情なのは、サイコミュのデータを送り付けただろうシャア大佐にだろう。そして、偶然の産物とも言えるサイコフレームとの高い連動率の高さと相まってブルーローズのサイコミュのデータ取りが終わりを見せたのだ。
だが、慌てた表情の千冬姉と山田先生が俺達のホワイトラビット社のブラックローズの慣熟訓練をする岩場へと走って来たのだった。
「全員、送られて来た武装などはコンテナに仕舞い、専用機持ちは集合しろ!!」
「まさか、ちーちゃん?」
「どうした、束?」
作戦室へと移動し、千冬姉と束さんの二人が話していた。
「アメリカの馬鹿が仕掛けて来たかな?」
「なっ!?」
「やっぱり…」
「いっくん」
「はい」
「学園防衛中隊、オリムラ中隊に出撃命令だよ」
「了解」
束さんから無表情に淡々と下された出撃命令に千冬姉は唖然としながら止めに入る。
「束、待て!?
まさか、銀の福音の事は…」
「うん、アメリカへの監視対象だったから監視してたよ。アメリカの馬鹿の事だから、暴走した無人機だから撃墜しろって来てんだよね?『あぁ、そうだが…』あれ、有人機だよ。ちーちゃん」
「何だと!?」
「ついでに、パイロットはちーちゃんやメアリー、クラリッサと同じ、束さん達の大切な学園の同期でお友達のナターシャちゃんだよ?」
「何故、束は!?」
「アメリカとの関係がきな臭くなって来たからナターシャちゃんを保護しようとしたけど、一足先に無能共に捕まったか、束さん達が知らない内にいっくん達に撃墜させて、ナターシャちゃんを消そうとしたかだね」
「判った。
なら、一夏達には銀の福音のパイロットの救出を頼みたい」
千冬姉から言われ、出撃準備をしようとした矢先だった。
「たっ、大変です!!」
「どうした、山田先生?」
慌てた様に作戦室へと走り込む山田先生。
そして、山田先生の一言でホワイトラビット社の面々には背筋が凍る一言だった。
「学園の生徒のホワイトラビット社のテストパイロット用に運ぶ予定でした、ブラックローズを篠ノ之さんが奪って銀の福音に向かいました!!」
「山田先生、奪われた機体番号は!!」
「えっと、たしか「WR-110」です!!」
「束さん、学園の誰の専用機だ?」
「いっくん、2年生で元イギリスの代表候補生のサラ・ウェルキンさんの専用機だよ」
「ちぃ」
最悪、ホワイトラビット社とアメリカとの前哨戦になるかもしれないのに二面作戦を強いられる俺は舌打ちをして、箒を恨めしく思うのだった。