潮の香りに波の音。
「んっ…」
「イチカ、目覚めた?」
「アンか…確か、連邦軍の艦隊に…」
ゆっくりと起き上がり周りを見渡せば、白い砂浜と蒼い海が見えていた。俺の服装と言えば、ジオン軍の俺用の白いノーマルスーツ。
「イチカ、あたしは生きているんだよね?」
「足が見えるから、死んではいないな」
あの時、各々の武器を拾い俺達の高機動型ゲルググカスタムで連邦軍のモビルスーツ隊を駆逐しながら艦隊に突撃した。
マゼラン級戦艦のブリッジを破壊して二隻を撃沈して、離脱しようとするが敵艦隊からの濃密な弾幕で機体が大破してしまい、それで全ての推進系が破壊されて、アンとは離れなくないからアンの機体を抱きながら暗礁宙域に流された。
「ゲルググから脱出して黒い穴に吸い込まれたか…」
「じゃあ、ここは何処かな?」
「ちょっと、試したい事がある」
「それって…」
「あぁ、元の世界で使用してた携帯だ」
まさかだと、思いながら元の世界で使用していた携帯に電源を入れると携帯が勝手に更新して行く。
「なんか、メールが更新されてるよ?」
「あぁ、電池がなくなる程ヤバイな…」
携帯が更新しているのは無着信の大量のメールだった。その送り主は全て鈴からのメールが殆どで、内容は同じ内容で『一夏、何処?何処に居るの?』と多分だが、泣きながらメールをしたのだとあいつの性格だから判る。
大量に更新され、鈴からのメール。
俺はこの世界に帰って来たのだと、鈴が教えてくれる。そして、離れていても鈴の悲しみと寂しさが俺の心に響くのだ。
「鈴?」
一瞬だけど、宇宙空間に俺が居て鈴も同じ空間に蹲り泣きながら居たが、俺の姿に気付いて『一夏!!』と叫び泣きながら抱き締められた瞬間に元の現実に戻っていた。
「イチカ、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
あぁ、これがシャア大佐の言っていた宇宙での人類の革新による心の繋がりなのかと理解出来たのだ。
「なぁ、アン。
どうやら、俺達は俺の元の世界に来たみたいだ」
「えっ…マジで?」
「あぁ、鈴が戻って来たと教えてくれた」
「まさか、イチカがニュータイプに覚醒したの…」
アンの最後の呟きは聞こえなかったが、一番新しい鈴からのメールをアンに見せる。
『なんか、一夏が帰って来た様に感じた。
だから、一夏おかえりで良いのかな?
再会したら、まずは一発ぶん殴るから』
「うん……えっと、頑張ってね………」
どうやら、鈴と再会したら殴られるのが確定した瞬間だった。アンも苦笑しながら、メールの内容から鈴にどう説明したらいいのか不安になるのだった。
ジオン軍のサバイバル訓練の経験から、岩場に寝床を作っている時だった。
「んっ!?
アン、誰か来る!!」
「誰!?」
「判らないけど、来る感じがする」
俺が来る方向を向くと、物凄いスピードで飛んで来る物体はISだった。
「お〜に〜い〜ちゃ〜ん!!」
「「へっ?」」
「やっぱり、お兄ちゃんだ!!」
少女からの叫び声に抜けた様な声を出してしまう。
そして、ISを解除して砂浜に着地すると、少女は猛ダッシュで俺が反応出来ないスピードで飛びついたのだ。
だが、ここで考えて欲しい。
猛スピードで人に抱き着くとどうなるかと言うことに
「お兄ちゃん!!」
「グッヘェ!?」
ドッボォォォォン
「イチカ!?」
「アレ?
お兄ちゃんは?」
少女の猛スピードからの体当たりにより吹き飛び、俺は海へと落下したのだ。当然、少女の前から俺が消えて少女が探すのはオチとも言える。
アンから浜に引き上げられると、千冬姉そっくりな少女がシュンとして反省していた。
「お兄ちゃん、吹き飛ばしてごめんなさい。
だって、お兄ちゃんが生きていたのが嬉しかったから」
「もしかして、屑親に連れて行かれたマドカなのか?」
千冬姉の部屋を掃除した時に見付けた一枚の写真には幼い頃の三人が一緒に写った写真が在り、裏には俺達三人の名前を見た記憶がある。
「うん、お兄ちゃん!!」
歓喜極まり、涙目になりながら抱き着くマドカ。
やはり、屑親に連れて行かれた妹のマドカだったのだ。
「で、鈴お姉ちゃんが居ながら、隣の女は彼女かな?」
瞬時にマドカの雰囲気が代わり、殺気を丸出しでアンを睨み付ける。だが、戦場を経験したアンには全く効かない。もしも、マドカの『鈴お姉ちゃん』に気付けば良かったと後で後悔する。
「マドカちゃんだったかな。あたしは確かにイチカの彼女だけど、イチカの一番になるつもりは無いわよ。だって、イチカの心は常に鈴って女の子が一番だから…」
「むぅぅ、そんな言い方ズルいじゃん!!
怒るにも怒れないよ…」
殺気が消えて頬をムックゥと膨れながらアンにポカポカ殴りながら抗議するマドカはまるで姉にじゃれつく妹の様に見えたのだ。
キィィィィン
「「「!?」」」
突然、空を切るような音に反応した俺とアンはジオン軍の士官用に支給されるレーザーガンを抜き、音がする方にレーザーガンを乱射する。
ビュンビュンビュンビュンビュンビュン
「ちょ、あれは、お兄ちゃん!?」
チュドォォォン
マドカが止めるのが遅く、ステルス機能が壊れたのかニンジンの様なロケットが現れてレーザーガンのレーザーにより蜂の巣にされてロケットは小爆発を起こしながら海へと落下したのだ。
暫くして、全身がずぶ濡れでウサ耳を着けた不思議の国のアリスの格好した女性が浜に上がって来たのだが、ウサ耳にワカメやら海藻やらがカツラのように絡み付いていた。
「いっくん、酷いよ!!
束さんは危うく焼き兎になる所だったよ」
「普通に現れて下さい。
束姉さん。
そして、ただいま」
「うん、おかえりいっくん!!
うわぁぁぁぁぁぁぁん」
ただいまと束さんに言うと、泣きながら俺に抱き着き俺の胸の中で声を上げて束さんが泣いたのだ。
そして、丸太で筏を作りロープでマドカの専用機に吊るして乗り込むとマドカに運んで貰い、束さんの秘密基地へと移動したのだ。
秘密基地の内部はまるで俺とアンが配属されていた宇宙要塞のソロモンの様な過ごしやすい造りだった。
そして、応接室で束さんに俺が居なくなった一年間の出来事を大まかに説明し、逆に束さんからはその間の出来事を知った。
「そっか、いっくんは戦争を経験したんだね……」
「俺はシャア大佐に拾われなければ死んでたのは確実でしたし、士官学校に入学しなければアンとも出逢えなかった。だから、全てはシャア大佐のお陰かな。」
俺の経験した話が終わると束さんが悲しそうな顔をしていた。
俺が行方不明に成ってからの出来事を簡単にまとめるとこうだった。
まず、俺は日本政府により死んだ事になっている。
束さんが日本政府にOHANASHIをして、死亡した事を取り消しさせて織斑一夏を名乗れる様にしてくれるらしい。
日本の女性権利団体は束さんの手により壊滅している。
所謂一つの有難迷惑の一言に限る。
だけど、そこまで怒ってくれた束さんには感謝している。
千冬姉はIS学園の教師をしている。
俺には一番どうでも良い話。
束さんからモンドグロッソでの千冬姉の事情は全て聴いたが、全てが当たり前と考える千冬姉に家族に付いて考え直さなければ許す気も無いし寄りを戻す気は全く無い。
そして、鈴の事を聞こうとした途端に応接室の扉が勢いよく開いたのだ。
ガッバン
「一夏!!」
「鈴!?」
転校して中国に居るはずの鈴が居たのだ。
そして、鈴は叫びながら走り、ジャンプすると俺に飛び蹴りをしたのだ。
「この、馬鹿一夏ぁぁぁぁ!!」
「グッハァ!?」
メールでは殴るのでは無かったのか?
そう、思いたくなる様な見事な飛び蹴りだった。
そして、ミニスカートを履いていた為に飛び蹴りで中身の白い紐パンが丸見えだったのは黙っておく。だが、見えていた事をアンは俺の視線がスカートの中身の紐パンに向いていた事に気付いて俺の脇腹を抓るのは辞めて欲しい。
鈴の飛び蹴りをまともに食らい俺は壁に激突するが、鈴は追撃する事なく俺に走って来て抱き締められたのだ。
「確かに、一発いれたからね。
一夏、おかえり」
「あぁ、ただいま鈴」
しかし、抱いていると鈴は俺を見るアンに気付いて、豹変して睨む。
「で、いぃぃちぃぃかぁぁぁ?
誰よ、あの女は!!
新しい女じゃないでしょうね!!」
後ろの影に般若が見える様な凄い剣幕で詰め寄る鈴。
しかし、マドカがアンとの関係を口走った事で鈴がキレた。
「お兄ちゃんの向こうで出来た彼女?」
「なっ、何ですってぇぇぇ!?」
ドッゴン
壁ドンでは無く、壁を殴り詰め寄る鈴。
「いや、鈴?」
「そう、一夏の向こうの彼女ね?
で、あんたの名前は何よ!!」
「えっ、アンです」
「何処までの関係よ!!
ABCの内、さぁ、どれよ!!」
「小学生かよ!!」
「誰が、小学生よ!!」
恋愛に関しては小学生さながらの質問になる鈴。しかし、鈴は別の意味(ロリ貧乳)に捉えて更にキレた。
そう、小学生の様な質問に思わず突っ込んでしまったからだ。
しかし、アンは答える。
「決まっているじゃない。
答えはして無いわよ。
だって、全ての一番は鈴に譲るから」
アンの返答に激昂する鈴。
たが、アンも覚悟の上で決めていた事だった。
「どうしてよ?
どうしてなのよ!!
だって、さっきの話だとあんたと一夏は沢山の人が死ぬ様な戦争経験者でしょうよ!!
いつ、どちらが死んでも可笑しくない戦場だったんでしょ!!
だったら、あたしに関係なく一夏の一番を奪えたのはあんたでしょが!!」
泣きながら、力無くポカポカとアンに殴りながら噛みつく鈴は隣の部屋で見聞きしていたらしくて全て知っていた。
確かに、あの戦場は死んでも可笑しくない戦場だった。アンと付き合いながらもデートまでしかしていない。それは、鈴とデートをしているからであると言えるからだった。
アンも心に溜めていた事を鈴の胸倉を掴み引き寄せると鈴にぶつけていた。
「それでも、一番は鈴なのよ!!
だって、悲しいじゃない!!
あたしも、イチカを愛してる。
でも、彼の心は常に貴女だった。
そんな彼を、あたしは貴女から奪えないわよ!!
だから、決めたの。一番は鈴で二番はあたしだって。
これは、元貴族であるあたしの矜持よ。
嫌とは言わせないわよ!!」
アンも鈴の胸倉を掴み、泣きながら自分の思いを全てぶつける。そして、お互いの気持ちをぶつけ合ったのか、鈴はアンを認めたのだ。
何故、二人が手をガッチリと握手して俺を見るのかが判らん。
「アン、あんたには負けたわ。
だから、二人で一夏を愛すわよ!!」
「あの、俺の意見は?」
「「あんたは、あたし達に素直に愛されなさい!!」」
「いっくん、二人に愛されてるね。
束さんは嬉しいよ」
こうして、二人とも俺の彼女となったのだ。
「ところで、何で鈴がここに居るんだ?」
「あたしね、中国の代表候補生を受けて主席だったんだけど、二位の糞野郎が金で監督官を買収して、あたしは代表候補生の主席の座も候補生としての道も無くしたのよ。
そんな時に、一夏の彼女だからって束さんに拾われてテストパイロットをしているのよ」
「ねぇ、イチカ。
もし、MS-06Cがあったら中国に核弾頭バズーカをぶっ放して構わないかな?」
「アン、物騒な事は言わないでくれ」
「一夏、MS-06Cって、何よ?
それに、最後の方に凄く物騒な単語が聞こえたわよ?」
「あぁ、俺とアンが居たジオン軍のモビルスーツでザクⅡ型の核弾頭バズーカ搭載型だよ。
俺がシャア大佐に拾われて士官学校に入るかなり前に起きた大作戦らしいけど、ジオン軍が連邦の軍事コロニーに核を撃ち込んで破壊する為に使用した機体らしい」
「「「核弾頭バズーカ!?」」」
「イチカ、付け足すと南極条約で核の使用と毒ガスの使用が禁止になったけどね」
そして、シーマ大佐は俺達と初めて会った時は未だにこの事を悩み苦しんでいた。
何故なら、その作戦の当事者だからだ。
理由はシーマ大佐との約束で詳しくは言えないが、胸くそ悪くなる様な内容だった。
当時、シーマ大佐の上司が用意したのは暴徒鎮圧用に用意した睡眠ガスでは無く、今でも猛毒の毒ガスであり無色無臭のG3ガスを使わされたのだ。
それだけでは無く、宇宙港を潰す為に開発中のザクⅡ用の280ミリバズーカを用意したが弾頭が核弾頭にすり替えられていて多数の部下を被爆で失っただけで無く、この作戦の責任まで上司のシーマ大佐に押し付けられたのだ。
気に入られたのは、ソロモンで出会った時に悩み苦しむシーマ大佐から話を聞いて悩みを吐き出させて、ドズル閣下に全てを報告。
その上司の話を聞いて激怒したドズル閣下は殺害命令をだして、その上司は親衛隊に捕まり、その場で銃殺刑となった。
その上司の執務室から様々な証拠が見つかり、シーマ大佐の責任ではない事をドズル閣下が証明して解消したからだ。
そして、シーマ大佐は(0083の様に腐らず)元の明るい女性に戻ったのだが、問題はショタコンに目覚めてしまい、ソロモンの士官室でお風呂に突入して来たシーマ大佐に浴槽内で背中を抱かれながら一緒に風呂に入った事はアンにすら秘密にしていた。
(そして、名誉を回復してジオンへの忠誠を戻したシーマ大佐は後にアクシズへと自身の艦隊をお土産に向い、アクシズが地球圏帰還への足掛かりとしてルナ2攻略戦の際に連邦軍を相手に大いに苦しめる指揮官へとなる)
「いっくんはこれからどうするのかな?」
鈴の騒ぎも落ち着き、これからの事を考える。
「どうしたら良いのかは判らないですね。
ただ、束さんが良ければ、ここでアンや鈴と暮らしながら働いても良いかなって」
「いっくんはさ、若いんだからさ、IS学園に通ってみるかな?」
「「はっ?」」
俺とアンは何故と思ってしまう。
一応だが、ジオンの士官学校は短期間ではあるが大学並の授業内容であり、卒業すれば大卒の資格すら貰える。
「束さん、一夏にIS学園に行かせるって、一夏にISが使える訳が「いっくんなら問題無くISが使えるのだよ」はぁぁぁぁマジ!?」
束さんのカミングアウトに鈴が驚くのも無理は無い。
ISは女性にしか使えないのだ。
だが、束さんの研究室に入り浸りになった時に作っていたコアに俺の生体データを入れていたのは知っていた。
だからって、俺が使えるとは限らないのだが…
「だって、束さんがコアを作った時に何個かはいっくんの生体データを入れてるのだ。だから、いっくんはISを使えるのだよ」
「「「マジで!?」」」
束さんの熱弁に呆れるしかない三人。
「じゃあ、いっくんは試しに、このコアを触って見てね」
と束さんの胸の谷間から取り出して、目の前に置かれたコアに触る。
「つっ!?」
頭の中に流れ込む大量の情報に思わず、頭が痛くなる。
「「マジで反応してる!?」」
アンと鈴が驚いているが、俺はいつの間にか意識を失い気付けば水面が何処までも広がる場所に立っていた。
「ここは、何処だ?」
「やっと逢えた!!」
「えっ!?」
いきなり、目の前に白いワンピース姿の少女が現れて俺に抱き着く。
「君は?」
「私は■■■だよ」
少女の名前だけが聞き取れずに判らず、現実に戻ったのだ。
「イチカ!!」
「一夏!?」
気付けば、床に倒れていたしい。
心配する恋人を軽く抱き締めて、二人の温もりを感じたのだが
「マジかよ。仕事から戻れば、餓鬼がイチャコラしてんのかよ…」
「あらあら、若気の至りかしら?」
「「はぅ////」」
二人の女性に見られた事に鈴とアンは顔を真っ赤にしていたのだった。
「じゃあ、このコアでいっくんの専用機を作るから、いっくんの仕様をどのようにしたいか聞きたいから後で研究室に来てね」
二人の女性の帰還で気不味くなった束さんは逃げる様に研究室に逃げ込んだのだ。
「駄兎、逃げんじゃねぇ!!」