可愛い響きを選んだんですけど、そりゃあ小鳥遊空ちゃんは可愛いでしょ。
軍学校を卒業する日、青春を終えて軍人になる若者が2人、校舎の裏側で逢瀬を重ねていた。
「小鳥遊……俺、お前のことが好きなんだ!」
「え、えっと……無理、かな?」
とても甘酸っぱい告白の果て、青年の願いは残念ながら報われることはなかった。
「な、なんで?」
なぜなら………。
「だって俺、男だし」
小鳥遊空は男である。
空軍所属の父と、主婦である母の間に生まれたまぎれもない男の子である。
ただまあ、両親の優れた容姿を受け継いだのか彼自身は成長しても成長しても男の子らしい成長は全く望めず、むしろ中性的な部分ばかりが注目されることに、少なからず彼はコンプレックスを抱いていた。
そんな矢先、彼がまだ小学生の頃。
突然深海棲艦と呼ばれる怪物達が海から現れて人を襲い始めた。
この深海棲艦に現代兵器は通じないため、制海権は深海棲艦に奪われてしまい、人々は海に出ることが出来なくなり世界は恐怖の中に生活していくことを強いられるようになった。
しかし、そこで深海棲艦と対等に戦える存在〝艦娘〟と妖精が現れた。
妖精は艦娘を生み出し、艦娘の武器を作り、彼女たちの集う鎮守府を作り出した。
そして艦娘を指揮する適性を持った提督と共に、人類の反撃は漸く始まる。
対空砲火が火を噴き、雲の中を切り裂いて艦載機同士がしのぎを削る。
質より数と撃って撃って撃ちまくる主砲に水平線に大きな水飛沫を上げる魚雷。
艦娘の他にも囮として航空隊が出撃したこの戦いで、人類は、否、日本は僅かばかりの制海権と引き換えに、保有していた艦娘の殆どを沈め、有望な提督達を失い、小鳥遊空は愛する父を亡くした。
(今でも思い出せる。街中に響くサイレンを、主砲を撃つ怒号を、父さん達の乗る戦闘機が飛ぶ音、墜ちる音)
その後小鳥遊空は中学、高校を経て海軍の適性検査に合格し、軍人を育てるというよりかは将来有望な提督を育てる軍学校で艦娘を指揮する勉強に努めた。
そして今日は軍学校からの巣立ちと共に大本営からの命令で配属先が決まる日でもあった。
「俺の配属先は、北部海域か。母さんがまた煩いかも」
こう言ってはなんだが日本の海域は近年の提督の補充と艦娘の頑張りによって、ガチガチに固められた鎮守府のおかげで比較的安定をしている。
無理のない間隔で設けられた鎮守府から艦娘達がパトロールをする事で深海棲艦側の早期の発見及びその周辺鎮守府による侵攻迎撃を繰り返すことで被害を食い止めているからだ。
そのため、日本に新しい提督達の居場所はない。
かといって有望な若人達を余らせておく理由にもならないため、最近では奪い返した制海権の前線にベテランと共に新人を派遣したり、外国へ派遣して日本と輸送線を繋ぐ架け橋となっている。
「小鳥遊空様ですね。こちらでお迎えにあがりました。では、参りましょう」
黒塗りの高級車に乗り、その後輸送船と共に艦娘に護送され、一度や二度の襲撃こそあったものの相手の艦隊は駆逐艦のみだったので大きな被害もなく切り抜けることが出来た。
「ありがとう。助かったよ」
「い、いえ!これも私たちの仕事ですから!そちらも頑張って下さい!新しい提督さん!」
護送任務を終えて帰還していく艦隊に手を振り、着任先の鎮守府に向かう。
空が配属される鎮守府は分かっていることだが、前線真っ只中に立てたられた鎮守府だ。
そのため、最初期の艦娘は新人提督と相性の良い艦娘が何隻か配属される決まりになっている。
「?……門の前に女の子が」
守衛のつもりだろうか、門の前で直立不動の姿勢を保つ少女が、空が見つけた第一村人……もとい北海にある鎮守府に所属する艦娘、陽炎型駆逐艦の不知火であった。
「ええと、ご苦労様です。本日着任する小鳥遊空です」
「恐縮です。陽炎型駆逐艦2番艦不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです」
そう言い、不知火は提督を案内するために待っていたと言った。
「その他の艦娘は現状待機中です。先ずは執務室に案内しますーーー『深海棲艦を発見!!』っ!」
配属された矢先に鳴り響く警報。
不知火は一瞬硬直したものの、空を執務室に案内するために早足で鎮守府内を駆けた。
「初日から……!」
「ご安心を。司令の他に鉄壁で知られる相澤艦隊が先に迎撃する手筈ですので、先ずは執務室に行って、不知火達の出撃準備をしましょう」
配属初日の侵攻に焦りがちな空を不知火が冷静にフォローする。
その気遣いに一息安堵をつき、執務室に到着した。
事態は一刻を争うため、早急に中に入る。
「ん、君が提督か」
「お前が提督か!」
執務室にいたのは不知火を除いた2人の艦娘。
「響だよ」
「オレの名は天龍だ」
駆逐艦の響と軽巡洋艦の天龍だ。
この3人が空の最初期の艦娘達となる。
「これから君たちの司令官になる。小鳥遊空だ。さて、諸々の話は後にして先ずは迎撃準備に入ってくれ」
敵艦は駆逐艦と軽巡洋艦で構成されているようで、先に出撃している相澤艦隊は艦娘の練度向上のために主力艦隊ではなく最近着任してきた艦娘を自身もボートで海に入って指示を出しているようだ。
「って、ええ?自分も海に?」
「相澤艦隊は最初期の生き残りですから。そういう気質があるのでは?」
一応主力艦隊も出撃準備をしたままで待機してるようだけど、凄いなぁ。
「それじゃあ天龍を旗艦に、不知火、響。迎撃を開始してくれ」
「おう!」
「了解したよ」
「期待に応えてみせます」
敬礼を返し執務室から去っていく天龍達を見送る。
「さて、と」
「わーみつかりましたー」
「わーあたらしいていとくさんー?」
「うん。小鳥遊空って言うんだけど、よろしく」
机の下を覗くと、そこには妖精と呼ばれる小人さん達が不思議そうにこちらを見上げていた。
「よし、戦況は……流石最初期の提督だ。鉄壁の名は伊達じゃないな」
ボートに乗りながら、それでも柔軟に適切な指示を繰り出す姿に周りの艦娘達も士気を高く維持している。
「鉄壁って言うからには足を止めた撃ち合いを想像したけど、柔軟に陣形も隊形も変えて撃ち漏らしを無くしているなんて」
一人一人がバラバラに動いているように見えるが、その実予め決められていたかのように1人の誤差もなく綺麗な陣形を組み替えている。
それを一人一人に指示を出す相澤提督も凄いが、彼の意図を汲み取って行動出来る艦娘でさえ練度が低い艦隊というのが信じられない。
「このままじゃ出番はないかも。相澤さんは新人に初陣を飾らせる人でもなさそうだし」
むしろ下手に撃ち合えば邪魔になるだろう。
そう思っていた俺は画面の向こうに一つの人影が見え時、背筋がゾクリと凍りついた。
『ケヒッ』
そいつはこちらを見て笑っていた。
「アレは、ヤバイ!!」
その直後に相澤提督の乗っていたボートが爆発した。