転生先はファンタジーではなく、宇宙最強でした!   作:リーグロード

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小説家になろうでも投稿しています。
是非とも続きが見たいという方達は、このサイトとなろうで過大評価をしてくれることを願います。


プロローグ

 俺は何ということのないただの一般人である。特徴を一つ上げるとするならば、普通の人よりもオタクだということだ。

 少年が飛び上がる週間雑誌は毎週欠かさず買っている。好きなアニメのキャラのフィギュアは買って部屋に飾りつけているし、本棚には入りきらない程の小説と漫画が詰まっている。

 

 そんな俺は、今日も今日とてコンビニでお気に入りの雑誌を買って、家へと帰宅を急ぐのであった。

 先週の漫画の続きが気になって、帰り道の途中で見ようとカバンの中に入れた雑誌に手を伸ばしかけるも、雑誌を読む際の最高のアイテムであるポテチ&コーラが家で待っていると思うと、伸ばした手を引っ込めて早足で家へと帰るのだった。

 

 そして、その伸ばした手を引っ込めた事に後悔することになるとは、この時は夢にも思わなかった。

 

「あれ?なんかおかしいな?」

 

 俺は今現在一軒家の一人暮らしをしている。それなのに家の中から人の気配を感じる気がするのだ。

 玄関の鍵は掛かっている。家の中から物音もしていない。だが、何故か誰かいるという気配を感じてしまうのだ。

 

「はぁ、まいったなこりゃ、仕事疲れでおかしくなっちまったか?」

 

「やばいなぁ」っと1人ごちりながら我が家の玄関の鍵を開け、薄暗い廊下の電気をつけてリビングの部屋の扉を開ける。

 当然部屋の中も真っ暗でよく見えないが、長年住んでいた我が家なのだ。どこに電気をつけるスイッチがあるのかは熟知している。

 手慣れた動作で、壁に設置されているスイッチをONにする。

 

「さてさて、一日の終わりのご褒美タイムに…、ってなんじゃこりゃ!!!」

 

 電気をつけてまさかのビックリ!リビングの部屋に飾られていたフィギュアの棚が滅茶苦茶に荒らされていた。具体的には部屋の端に備え付けられていた棚に置かれていた埃一つついていなかった数多くのフィギュアが、今や床の上に乱雑なまでに落とされているのだ。

 他にも荒らされている場所もあるが、そんな所よりも、俺の宝を飾られている棚が無茶苦茶になっていることの方が重大だ。

 

 まさに、天国から地獄と言えるだろう。ウキウキ気分で家に帰ると、部屋の中が泥棒に荒らされていたのだ。

 許せるか?否である。我が人生の大半をアニメやゲームに捧げ、俺の心を射止めたキャラのフィギュアを見つけては、金に糸目を付けず週一の細かな手入れすら怠らなかった我が宝が、ここまで無惨な姿に貶められたのだ。

 必ずや、必ずやこの大罪を犯せし悪徳犯罪者を警察に突き出す前に、我が正義の鉄拳を5~6発は喰らわせなければ気が済まない。

 怒りに震えるこの拳と脳が、今の俺から冷静さを失わせ、代わりに人間が元々持っている本能と呼べるものが、二階で僅かに起きた音を拾い上げた。

 本来ならば、すぐさま警察に連絡をして、お巡りさんを連れてくるべきなのだろうが、怒りによって冷静さを失った俺は憎き怨敵に正義と怒りの鉄拳を喰らわすべく、何の躊躇もなく二階への階段に足を踏み出した。

 

「冷静さを欠いてここまで来たことに後悔はないが、せめて武器のひとつも持ってくるべきだったか?」

 

 しかし、もう後には引けない。ここの先に俺の宝である秘蔵のフィギュアを滅茶苦茶にした薄汚い犯罪者が潜伏しているのだ。

 覚悟を決めて二階の階段を登り切った瞬間に、コトッと寝室の方から小さな音が聞こえた。

 

 さっき確かに聞こえた寝室からの物音に日常からかけ離れた緊張が全身を駆け巡る。

 喉が異常なほどに渇くのが分かる。これから行う行為に心の底で恐怖しているからなのだろう。

 

「迷うな!許すな!怖じ気づくな!俺は絶対に犯人を叩きのめす!」

 

 自分に言い聞かせるように、寝室のドアを勢い良く開ける。

 それと同時に、暗闇から人影が突如として襲いかかってきた。

 

「「うおおおぉぉぉぉ!!!」」

 

 俺は襲われたことに悲鳴を上げ、泥棒は威嚇するように雄たけびを上げた。

 当然、俺はこの事態をある程度予測できていたため、右手に持っていたカバンで泥棒からの攻撃をガードすることができた。

 

「そらやっぱり、ドア開けた瞬間に襲いかかってくるとかテンプレすぎるんだよ!」

 

「グエェッ!」

 

 そのまま胴がガラ空きになった所に回し蹴りを叩き込む。うまく鳩尾部分に当たったのだろう。泥棒野郎は息を思いっきり吐き出す。

 床に大量の唾液を落としながら、数歩後ろに下がる。その際に、こちらを悪鬼のような目でにらみつけてくる。

 

「くそが!大して価値のある物もないくせに、この俺が何でこんな目に合わなきゃならないんだよ」

 

 忌々しげに呟いたその一言に、俺は頭の血管が吹き飛びそうな感覚に陥りながら、目の前のクソ野郎に飛び掛かった。

 俺のいきなりの行動に驚いて対処できなかった泥棒は、そのまま床に押し倒され馬乗りにされる。

 

「何でこんな目に合わなきゃならないだ?そんなら教えてやるよ!それはお前が俺の宝をぶっ壊したからなんだよ!!!」

 

「ウゲェ!」

 

 声を荒げながら、俺が馬乗りにしている野郎の右頬を握りしめた拳で思いっきりぶん殴る。肉と骨の感触がとても強く感じた。

 こうやって本気で人を殴りつけたのは、小学生の頃にマジギレして同級生を殴り合った時以来だ。

 

「このクソオタクが!気持ち悪いもん集めやがって、趣味が悪いんだよ」

 

 殴られたことにキレたのだろう。手足をバタつかせながら必死に抜け出そうと俺を罵りながら暴れる。

 当然、俺もそんなことはさせまいと全体重をかけて抑え込む。

 それにしても、こいつはどれだけ俺を怒らせば気が済むのだろうか?もう、今のコイツに可哀想なんて一般的な道徳は湧きはしない。

 

 必死に暴れるコイツの顔にさらに数発拳を叩き込む。殴りつけた拳が痛む。恐らく拳の皮がめくれたのだろう。

 けれど、それよりもこの泥棒の顔の方がもっとダメージが酷いだろう。殴るたびに口から血が飛び出す。

 

「オラ!オラ!オラ!お前が、趣味が悪いと言ったアレは、俺の大切な宝だったんだ!」

 

「この!調子に乗りやがって!!!」

 

 怒り任せの拳が何発も泥棒の顔に叩き込んでいると、脇腹辺りに異様な違和感が沸き起こる。

 恐る恐る脇腹の方に目を向けると、暗闇でも鈍く光るナイフが深く俺の体に刺さり込んでいた。

 その光景を目にした瞬間に、違和感が痛みへと変わっていった。

 

「う…、ぐああああ!!!い、痛い、痛い、痛い!!!」

 

 転げまわりそうな痛みが遅れて全身を駆け巡る。それでも、体は泥棒の上から動かないように、必死に歯を食いしばって耐え抜いてみせる。

 

「こいつで終わりだよ!このクソオタク野郎が!」

 

 俺の脇腹に刺さったナイフを掴み取り、抜くのではなく傷口を広げるために横に切り払った。

 更に強烈な痛みと傷口から火傷でもしたのではないかと思えるほどの熱さが襲い掛かる。

 これは不味いな。傷口からドクドクと溢れ流れるように、真っ赤な血液が床を染め上げていく。

 

 痛みと熱さが傷口の辺りを絶え間なく襲い続ける。その反面に、体から血液が流れ過ぎたのせいなのか、それ以外の部分が吹雪に当てられたように、途轍もない寒さが襲う。

 

「はっはっ…、あ~あ~やっちまったな。これで窃盗罪に加えて殺人罪もやっちまったな」

 

 ヘラヘラと笑いながら、いや、開き直ったこの男に鼬の最後っ屁にと、もう余り力の入らない腕を無理矢理に持ち上げて、拳を振り上げる。

 

「へ?」

 

 もう終わったと油断した男は、俺の行動に素っ頓狂な声を上げる。

 そして、俺はそのままアホ面晒した顔に本気の下段突き打ち込んでやった。俺の拳は奴の顔面をぶっ壊した。

 歯は折れて吹き飛び、鼻は恐らく折れ曲がったのだろう。ほんの一瞬遅れて、口と鼻から俺と同じ真っ赤な血が吹き出し、俺の拳と顔に降り注ぐ。

 

 拳をどかして男の顔を見ると、白目を向いて気絶していた。それを確認した俺は安心したと同時に、眠るように目を閉じて倒れ込む。

 ぼんやりとした意識が混濁して薄れていく。俺の怒りを全てぶつけられたからなのだろうか?これから死ぬかもしれないというのに、ひどく満足した気分だった。

 怖い筈なのに、恐ろしい筈なのに、こんなつまらないことで死んでしまうことに後悔すべきはずなのに、俺は何か偉業を成し遂げた英雄のように、誇らしい気分に浸っている。

 

 もう体からは痛みも熱さも寒さも感じることはなかった。透明な水の中に沈み込んだように、不思議な感覚だけが支配していた。

 手も足も口すらも動きはしない。考える思考はまだ存在するが、それがいつ途切れるか分からない。

 後悔は何もない…、ああ!!!しまった!?まだあの漫画の続きを見ていない。

 さっそく思い出してみると、後悔することはあった。あの漫画は行儀が悪くても帰りながら読めば良かったな。

 後悔の念を吐き出しながら、いつまでも続くこの奇妙な感覚に浸り込んでいる。

 

 もうどれだけこの奇妙な感覚に浸り込んでいたのだろうか?このままずっとというのならば、本当に死ぬよりも先に精神が逝ってしまうだろう。

 あがくように手足を動かそうと試みるも、感覚がないのだ。まるで変わらない現状に嫌気がさしてきた。

 口も動かすこともできないから叫ぶことすらできない。

 もしかして、俺はもう完全に死んでしまったのだろうか?他の死んだ人もこんな奇妙な感覚を味わい続けているのかもしれない。

 

 何もできずに、考えることしかできないのならば、せめて面白いことを考えよう。

 そうだ、俺は死んだのならばラノベみたいに転生することを考えよう。いや、二次創作みたいに俺が読めなかった漫画の世界に転生したいな。

 そんでもって、完結まで主人公の隣に立って戦い続けていたいな。

 

 俺の願望をひたすらに垂れ流しながら、ずっと主人公となって無双する自分をイメージしながら暇をつぶしていると、少しだが、ほんの少し程度だが、手足の感覚が戻ったような気がした。

 試しに動かしてみようと意識を向けると、やはり先ほどまでと変わらず手足が動く気配は全く無かった。

 

 それからも、ず~っと長い間考え事をし続けていた。主人公となった自分や、俺が続きが読めなったあの漫画の主人公と敵対した自分など、様々な自分を考え続けた。

 途中で飽きて何も考えなかった時間もあったが、それでも静寂の寂しさに耐え切れず考えつくした最強の自分をイメージし続けた。

 

 目の前には敵と呼べる者は存在せず、あらゆる不条理も己の理不尽とも呼べる強さではじき返していく。

 そんな強さばかりを持った自分の姿ばかりを想像していると、気のせいだと思っていた手足の感覚が戻ってきた。動かそうと思えば、ほんの僅かに動かせるようになった。

 もしかしたら、俺はまだ死んでいなくてずっと長い夢を見続けていたのだろうか?

 実は、今俺の体は病院のベッドで眠っていて、少しづつ回復に向かっているのだろう。ということで、そのまま意識がはっきりと回復して目覚めるまでもう少しこのまま待とうという結論に達した。

 

 

 そして、俺がこの奇妙な感覚から抜け出し、目が覚めて驚くことになるだろう。自分が一体どうなってしまったのか?これからの人生が今までのものとまるで違うものになりかわってしまうことに。

 これが、宇宙最強の種族の頂点に君臨するガルド・マルク・ギルストファーの前世の話であった。

 


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