作者の考えた『ゆゆゆ』世界の暗い部分のお話です。
読み終えて、作者殺すぞと思った方は感想などどうぞ。
昔、といってもそんなに前のことじゃない。小学校三年生ぐらいの時だったか。
祖父の家で教育番組を見ていた思い出は今でも心に残っている。
その日は確か終戦記念日だったと思う。俺の住んでるところは小さな村で、子供は多かったんだけど近所付き合いとか縛りも強くて、そういうのが嫌だった俺は、ずっと家でテレビを見てた。
そう、いつもは自分の家で観てるんだけど、その日は前の晩に母が癇癪を起こしてね………なんで怒ったのか今でも分からないんだけど、怒った結果としてテレビは壊れた。ひどいもんさ。力いっぱい木の椅子を叩きつけられて液晶はグシャグシャ、コンセントはハサミで切られたし、おまけに掃除は俺がやらされたんだ。
なんで、あの日は祖父の家に上がり込んでたんだ。昔は祖父も怒鳴り散らす怖い人だったけど、もう大分ボケた爺さんになってて亀みたいに動かないの。だから母のいる家よりも居心地は良くて…テレビは小さくて不満だったけど。
それで、そう。そのテレビでやっていた映像なんだがね。いや、これは心底心を打たれたよ、 あのキノコ雲。
まずアナウンサーの説明がいいよね。最初に橙色の火の玉が生まれて、熱と爆風が広島の街を駆け抜ける!濛々と上がったキノコ雲とその巨大な爆音は遥か彼方まで轟いた。
痺れたなーーーーあれは。
もう分かるだろ?原爆の…そうそう、有名なあれだよ。
すっごい衝撃だった。この目で直に見てみたいと思ってさ。色々と調べて、子供ながら活動資金なんか集めちゃって……
結局、広島に行く機会なんてなかったけどいい思い出だよ。それに…結果としていかなくてよかったと思うんだ。
何故って?
いや、実はね。小学校六年生の時に、ようよう広島に行く金が集まったんだ。行かなかったけどね。
何故って…分かるだろ。2015年の夏に何があったかなんて今更言わせる気か?
…へ、知らない?
おいおい、冗談はよして……いや、ああ、そうか。大赦の情報操作があったんだっけか。
ん、何のことかって?
ハァ…あんたは神世紀100年より後の生まれだろ。いわゆる戦争を知らない子供ってやつだ。
俺は西暦の生まれだからさ、色々と知ってんのよ当時のことを。おいおい、胡散臭そうな目で見るな。見た目はあんたと同じかもしれないが、これもちょっとした裏技があってだな。まあ、それはおいおい話すとしよう。
で、あんたはこんな辺鄙なところまで、俺の若かりし思い出を聞きにきた訳だろ。ま、理由がなんなのかは知らねーが。
ん?いや、さっきまでの話は前述譚だよ。いわば前フリだ。まあ、アイツのことを話す上でどうしてもこの前フリを使いたかったんだよ。何、初恋の思い出は楽しく聞いて欲しいだろ?
あー、で、そう…郡千景についてだったな。
成る程。あんたがここを探し出して、俺に話を聞いたのは正解だよ。今現在、俺より詳しくアイツを知ってる人間なんていないからな。厳密には俺も、アイツも人間を辞めてるわけだが。
さっきも言ったが俺の住んでた村は近所付き合いとか、そういう事に縛りが強くてね…特に悪い噂が広がると村の奴らは冷たかった。
そう、お察しの通り郡千景の家は悪い噂があったんだ。
ああ、そんなに構えなくていいよ。社会に出ればなんて事のないよくある浮気問題だから。
実際に浮気してたのは母親らしいけど、俺は母親の方は見たことがない。でも、父親とは何度か会ったことがあってね……いや面白い人だったよ。
子供のまま大人になったって感じでさ、承認欲求が強くて、ストレスに弱くて、欲望に流されやすくて……結局、郡千景が死んだ後どうなったのかは知らないけど。
で、問題の郡千景についてだが…一言で言えば暗い奴。いつも暗い顔で後ろの扉からコソコソ教室に入ってきて…誰とも話さずに休み時間は携帯ゲーム機で遊んでた。
まあ、クラスに一人はいるよなそーゆー奴。
お前、そーゆー奴がクラスメイトからどういう扱いを受けるか分かる?大抵はイジメられもしないし、持て囃されもしない。
いいとこ、いじられ役をやって失笑を買うのが関の山だろ。卒業すれば、すぐに忘れられるくらい希薄な存在だよ。
だが、まあ、それは普通の場合だ。
郡千景はイジメられたよ。そりゃもうメッタメタにイジメられた。
中心になったのは女子グループじゃないかな?まあ、その女子グループが男子をこき使うから結局全員関わってたけど.。
え、なんでイジメられたかって?
理由はいくつかある。
一つはご存知の悪い噂、母親の浮気問題だな。もう一つはやっぱりクラスでも浮いていたこと。さらに付け足すなら、これは俺のフィルターが入ってるけど、顔が整ってたからだと思う。
美少女って奴だな。
意外か?
イジメられる奴は不細工だと思った?
逆だよ逆。
イジメられる奴は、人より劣っていようと優っていようと悪意の集積する特徴を持ってるんだ。そういう所、男子は結構鈍いんだが…女子はすぐに見つけ出す。
怖いよな……自分にとって障害になり得る存在は率先して排除しようとする。生物として女性は男性より優れた生存能力を持ってると思うよ、ホント。
まあ、それはいいとして、ここまで揃えば数え役満だ。みんな大手を振って郡千景をイジメられた。
いや、実際にその場にいるとイジメってのは感覚麻痺の効果があるよ。
イジメの内容はさ、典型的な靴隠しから、机への落書き、給食汚染と様々で、もちろん俺もいくつか噛んでる。でも、罪悪感とかは一片も湧かなかったな。むしろ、なんて言うんだろ…イジメることで彼女と繋がってるみたいな?
初恋だったよ。
うん、そうそう、好きな子についチョッカイを出しちゃうあの感じだよ。実際は、男子の中で郡千景が美少女だって認識してたのは俺ぐらいだったし、それって言うのも…俺が考え出したイジメのアイデアがきっかけをくれてだな。
あ、もしかして不快に思ったかい?
続けていい?本当に?
分かったよ。
えっと、郡千景は髪の毛が前にも後ろにも長い奴でね、これがまた綺麗なんだ。サラサラでさ、近くによるといい匂いがするの。
俺は最初、あの髪に惚れたんだ。
平安時代の歌人みたいでかっこいいだろ。
で、なんとか一房欲しいと思って…いつも千景をいじめてる女子のところに行って「今度はあいつの髪を切るなんてどうだい?」って提案したんだよ。
女子達は俺の案に喜んで協力してくれたよ。散髪用のハサミなんて持ってなかったから文房具のハサミで切ったんだ。
経験不足ってのは怖いね。
知ってるか、文房具のハサミで髪を切ると涙が出るほど痛いんだ。頭皮を思いっきり引っ張られる感じでさ。
当然、千景は暴れたよ。
押さえてた女子も二、三人突き飛ばされたし、俺も腕を引っ掻かれた。え、気が引けなかったのかって?
いやいや、逆にすごく興奮したよ。イジメる側にとっては被虐者の反応が良ければそれだけ楽しい訳だからね。いつもより深く、彼女と繋がっている気がした。
まあ、それはそれとして、千景がそんなに暴れたから手元が狂ってさ、こう、髪切るはずの刃が耳まで切っちゃって…女子はビビってたなぁ。俺が音頭をとって逃さなかったら大変なことになってたよ。
俺?俺は違う。
丁度、髪を切った時に見えたんだよ。千景の顔。もう、びっくりするくらいの美少女なの。
それまでクラスで一番可愛いって言われてた子がいるんだけど、そんなの目じゃない。あれが母親に似てるなら、浮気に加担した男はさぞや満悦してただろうな。
それからはもうゾッコンだよ。郡千景のことを誰より調べたし、あいつの持ってるゲームは全部同じタイトルを揃えた。プールの授業中はずっと水着姿に見惚れて、下校中にストーキングして家までついて行ったこともある。イジメをやめさせるつもりはなかったけどね。
なんでって、当たり前だろ!
そんなことしたら彼女との接点がなくなるじゃないか!俺みたいな奴が、俺みたいなゴミが彼女と繋がるにはイジメ続ける必要があったんだ!
そうする限り、彼女はずーっと俺から離れられない。そう、思っていたんだ…。
でも、そう、忘れもしない2015年の7月30日だ。あの日、空からようやく俺の待ち望んだ終わりがやってきて……俺はあの中に天啓を見出して…なのに、なのに千景は去って行ってしまった。
グス、悪いな、思い出したら涙が…
郡千景が、よりにもよって、人を守る勇者なんてなあ…。
笑えるぜ…。
勇者、勇者、勇者…ああ、なんて嫌な響きだ。勇者は嫌いなんだ、特に赤嶺のあのクソガキは…あ、すまない話が逸れたな。
ふう、とはいえ少し喉が渇いたな。なあ、あんた少し外の自販機まで行って飲み物を買ってきてくれないか?
コーヒーがいいな。無糖の缶コーヒーだ……頼んだぞ。なーに、飲み終わったら続きを聞かせてやるよ。