蜂のTS短編   作:飛び回る蜂

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 TSを書きたいと思ったときッ!すでに書き終わってるんだッ!


 だから書きました。



シノビ (17♂→♀ 前世での享年28歳 165cm 一人称わたくし)

ヒーロー(14♂  163cm 一人称僕)


従者と主の身分差、いいよね・・・

いい・・・(自問自答)




TS忍者(♀)と少年ヒーローの話

 

 

 

酒場はがやがやと賑わいを見せている。衛兵、傭兵、商人、町人、町の荒くれども。それら全てを綯い交ぜに、下世話な噂と酒を肴に盛り上がる。

 

 

 

「なぁ、あの噂は聞いたか?」

 

 

「聞いたぞ、ヒーローのことだろう。」

 

 

 

 この街では小さなことから大きなことまですぐに噂話になる。近所の旦那の浮気話から果ては遠い都の英雄まで。娯楽が少なく、だからこそ酒とつまみに噂話があれば十分な男達。そんな奴らの馬鹿話。

 

 

 

「その通り!最年少冒険者にして深淵ダンジョン踏破者っ!」

 

 

「深淵!?深淵といやぁ王国の一流パーティが手を拱いている、ってぇ話じゃぁないか!そいつがやったのか!?」

 

 

 

 テーブルを囲むのは三人。禿頭の建築屋、鎧を外して軽装な衛兵、商人の中年男の三人組。彼らはこの街で活動している町人達。冒険者ではないが経済を支える大切な役割を持った男達だ。

 

 

 

「おうよっ!あのヒーロー様が背負う剣でダンジョンの主をズバッ!とやったに違いねぇ!いやーっとうとう俺達の街から最優冒険者様の誕生かぁッ!こいつぁめでてぇぜ!!」

 

 

 

 この街は規模で言えば決して大きくない。街というには聊か大げさ、しかして町と呼ぶには小さすぎ。そんな街では新たに生まれた英雄の話で持ち切りだ。

 

 

 

「俺ァ攻略後のアイツを見たぜ!まー見た目ほんとガキみたいでな、俺のガキとおんなじくらいだ。ちっちぇーのに、きっとあの背とおんなじくらいの剣振り回しやがるんだ。ありゃただもんじゃないね。」

 

 

「私の店に買い物に来てましたよ。消費してしまった布を補充したいと。衛生にかなり気を遣うあたり少し潔癖のきらいがあるかもしれませんね。買ってくれるんなら何でも構いませんがっ!」

 

 

 

 そう豪語するのは商人の男。彼はこの街の経済を一手に担う中々のやり手。惜しむらくは金にがめつく、酒が入ると少々口が軽いこと。もっとも本当に重要なことは絶対に言わないのは商人そのものの性か。

 

 

 

「しっかしこの辺も最近物騒になったな。こないだ最優パーティのやつらがグリフォン三匹相手にしたのは知ってるよな?」

 

 

「おお知ってるぞ。そんときは俺も加勢したしな。いやしかしありゃ凄かったぜ!敵も恐ろしかったが、前衛二人の大立ち回り!後衛二人の精密な狙い!最短最優のパーティに違い無しってな!」

 

 

「スカウトさんや弓手さんはよく消耗品を買いに来ますからね。うちの商会も鼻が高いですよ。宣伝効果にもなりますしねっ!ホッホッホ!」

 

 

 

 それを聞いた野郎共はガハハッ!と大声を上げ、質問した男は憂慮した顔を浮かべる。

 

 

 

「最近、どうにも魔物の動きが活発だ。近々またダンジョンが生まれるかもな。」

 

 

「へへっ、そうは言うけどよ。新進気鋭のヒーローズ!それにこの街には最優パーティだっている!そうそう大事にはなるめぇよ。」

 

 

「まーなぁ。ところでその、ヒーローだったか?あいつは二人組じゃなかったか?誰か一緒にいたような・・・」

 

 

「おっ、耳が早いね。そうさ、あいつが連れてんのは女さ!!」

 

 

「カーッ!!かのヒーロー様も女にゃ勝てないってか!」

 

 

 

 彼らの話題は同行者に移る。女の話となると人柄が出るのはご愛敬。女日照りの衛兵隊にとってはなおのこと、建築屋と商人にはすでに妻も子もいる。それがまだ若い衛兵の心に冷たい風を吹かせていた。

 

 

 

「いやいや待てよ!その女もダンジョンに行って、しかも一緒に踏破したってんだろ!つまりヒーローに匹敵するってことか!?」

 

 

「どうだかな、見た感じかなり軽装だったように見えた。スカウトか、シーフか・・・」

 

 

「最近盗賊ギルドにシノビとかいう連中が幅利かせてると聞きます。案外そこだったりしますかな?」

 

 

「シノビ。ああ、ニンジュツとかいうあのけったいなもん使うやつらか。」

 

 

「まるで影みたいなやつらだ。まったく、狙われたくないものだな。」

 

 

「ここだけの話ですが、彼らは暗殺と要人警護の請負が多い。だからヒーローというのも案外・・・」

 

 

「・・・重要人物、ご貴族様ってことか。まったく、彼らが戦うような相手では我らには荷が勝ちすぎる。」

 

 

「よーく言うぜ衛兵さんよぉ!あの最優の重装戦士相手に試合で勝ち越してんだろぉ?謙遜は良くねぇぜ!」

 

 

「それはあいつの経験が少ないからだ。その内俺では力不足になる。遠くない内に、な。」

 

 

「しかし最近になって優秀な冒険者が増えましたな。急に、という印象を受けます。衛兵殿の不安が当たらぬといいのですが・・・」

 

 

「おいおい酒を飲むときに不安を煽るようなこと言うんじゃねぇよ。ヒーロー様のことも話したりねぇんだ、パーッとやろうぜ!」

 

 

「そうだな、今不安がっても仕方ない。そうさな、ヒーローが女連れなら意外と、恋人という線もあるんじゃないか?」

 

 

「おお!なるほどなるほど。本人はやんごとなき身分、それを守護するシノビ。そして二人は共に旅をして仲を深める・・・!」

 

 

「なんだいそりゃあ、盛り上がりそうなテーマじゃねぇか!おうい詩人さんよぉ!」

 

 

「はいはい、この詩人めになんの御用でしょうか?」

 

 

 

 声をかけたのは酒場の詩人。時折情報を仕入れてはそれを詩にしおひねりを貰う、謂わば芸人である。彼らは耳がいいのか、多くの報せを聞きつけては詩にする。

 

 

 

「実はな───ってぇことなんだ。」

 

 

「ほほう!成程成程、それは燃えますね。ようし、即興で拙くはありますが一つ歌わせていただきましょう!」

 

 

「おお!やってくれるか!ようし皆、詩人さんが歌ってくれるぜ!タイトルはそうだな、何にしようかね。」

 

 

「そうだな。影の恋文、なんてのはどうだろうか。シノビの女が主であるヒーローに手紙を書くんだ。しかしそれは秘めるべき思いで・・・」

 

 

「いいですねえいいですねえ!古今東西、身分違いの恋ってものは人気ですからな!」

 

 

「では早速───」

 

 

 

 

 その話題になった時、一人の酒飲みが席を立つ。誰に知られるでもなく気配を絶ち、会計に向かう。

 

 

 

「・・・お会計、お願いします。」

 

 

「あん?いいのかい、聞いていかなくて。」

 

 

「いいです。早く。」

 

 

「ハイハイ、確かにちょうど。・・・もういねぇや。さて、俺も聞くとするかね。」

 

 

 

 

 

 とりとめのない日常、かけがえのない親友。彼らに貴重な語らいの時を与え、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らが友と語らい下世話な話に花咲かせる中、街を駆け宿を目指す影が一つ。

 

 

 

 

 

 

「・・・しっかりしろ私。そもそも私は男だった。主殿にもそれは伝えているし、私が選ばれるなんてことはあり得ない。」

 

 

 

 独り言を吐き出しながら帰路に就く彼、いや今は彼女は先の話題に挙がったヒーローの仲間。シノビの一員、クノイチである。

 

 

 彼女こそシノビ。陰に潜み、手段を選ばずあらゆる技術をもって目的を達する。その為ならば自死も厭わず、殺人も躊躇わない。仕えるものの命とあらば、文字通り命懸けでそれを成すだろう。

 

 

 彼の人生は決して明るいものではなかった。現世で命を失い、読み書き計算が出来る子供として生まれたまでは良かった。だが早熟の娘を気味悪がられ親に売られてしまい、悪質な人身売買によって価値ある奴隷として売られていたところを今の主に助けられた。

 

 

 主殿はさる国の王子であり、王位継承権こそ無い為兄達に代わりこの国の実情を見て回っているらしい。その結果私が助けられたので感謝しかない。思わずその旅路に同行し、御身をお守りしたいと願い出た。

 

 

 せめて付き従うなら華奢なこの身でも役に立とうとスカウトになろうとした。しかしマンガ好きな彼がシノビという名を聞いた時、心の中の少年が疼いてしまい今に至る。幸い適正もあったし良いことづくめだ。

 

 

 

「そもそも主殿は未だ14。倫理と法のもとで生きてきた私が少年に対して劣情を催すなんてことは決してあり得ない。あんなにも愛らしく、可愛らしく、そして美しいあの方に・・・」

 

 

 

 酔ってめちゃくちゃなことを言っているが本人は全く気付いていない。余談だがこの世界のシノビは「忍」というわけでなく、装備や概念的な「職業」であって組織ではない。よってこういう私欲にまみれたシノビもかなりいる。

 

 

 ブツブツと独り言を呟きながら夜の闇を歩むこと十数分。目的の宿、目的の部屋にたどり着く。念のためノックして入室を問う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主殿、戻りました。」

 

 

 

 中から返事は聞こえてこない。どうやら眠っているようだ。なるべく音をたてないようにゆっくりとドアが開かれる。

 

 

 

(・・・相変わらずお美しい。私とは大違いだ。)

 

 

 

 ベッドに横たわる彼女の主は見目麗しい。金の御髪、今は隠れているが翡翠の瞳、立ち居振る舞いは正しく王子のそれ。女の身となったクノイチよりも綺麗なのは少々複雑な思いを彼女に浮かばせるようだ。

 

 

 主殿はさる国の王子であるからして、老若男女を問わず魅了する見目麗しさは正しく三千世界を照らす希望の灯台の如く。そう、だからこそ、だからこそ。

 

 

 

「私が魅了されたとてなんら不思議ではない。そう、そうに違いない。この顔が悪いのだ。私は悪くない。」

 

 

 

 衣装は既に軽装に着替えてある。後は睡眠を取るだけだ。口のあて布も外しベッドに向かう。

 

 

 

「・・・失礼いたします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()、向かい合うように懐に潜りこむ。そもそもこの部屋はベッドが一つしかないのだから当然の帰結。だから何も悪くない。そう自分に言い聞かせて同衾を行う。

 

 

 

「ふあぁ、あたたかい・・・」

 

 

 

 その温かさに安心したのか、彼女の口は独り言ちる。

 

 

 

「あるじ殿は私のことをいつも愛しい猫の子の様に扱う。私の気も知らず、斯様な愛らしい寝顔を私に見せる・・・ズルいです・・・」

 

 

 さっさと寝るべきなのに口は止まらない。つらつらと主への文句、聞きようによってはただの惚気を垂れ流している。

 

 

 

「・・・それに主殿は豊満な方が好みだし、私はぺったんこだし。髪だって私は短いし、主殿は長い方が好きだし。この間だって長髪巨乳の娘をジロジロ見てたの知ってるし・・・。この間娼館の方を見ていたのも知っている、どうせならこの身体を使えばいいものを・・・」

 

 

 

 ブツブツと独り言ちる。どうせ主殿は眠っているのだ、多少の文句は耳に残るまい。そう思う彼女の独り言は夜の闇に消えていく。

 

 

 酒も入ってるからか、すぐに眠気が襲う。明日はこの街に滞在する最優パーティとの顔合わせだ。少し、楽しみにしている。

 

 

 

「おやすみなさいませ、あるじどの・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 就寝のあいさつは誰に聞かれるでもなく、夜闇に溶けて消えていく───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(寝れるか──────ッ!)

 

 

 

 ───わけでもなく、起きている主に全て伝わっている。シノビともあろうものが何たる迂闊!ポンコツ!そもそも従者もつけずに一人で眠りこける等王族ならば絶対にしない。彼女が来るまで起きていただけである。

 

 

 

(いやいやいやいや、めっちゃ見てるけど!?めっちゃ好きな女の子として見てるけど!?)

 

 

 

 そもそも彼が彼女を従者にしてるのは、彼女を助けた後に強く嘆願されたのを王族ともあろうものが断り切れずのことだ。決して義理人情だけではない。

 

 しかもそれが最近になってシノビ、それもクノイチになってから軽装が目立つ魅力的な女性になったのだから思春期の彼にはたまったものではない。

 

 

 

(絶対僕を異性だと思ってないよ!じゃなきゃこんな無防備にベッドに来るわけないじゃん!誘ってる?もしくは僕を破滅させたがってる?どっちにしろ眠れるわけないだろこんなのー!)

 

 

 

 彼は確かに、彼女の前世が成人男性であったことは聞いてる。しかし、彼からしたら前世なんてものは証明できないもの。今の彼女から見て判断するしかない。

 

 だが彼はその慧眼から間違いなく前世は男だと確信していた。立ち居振る舞い?言葉遣い?否、否である。

 

 

 

(油断しすぎなんだよー!け、軽装って言うのは分かるけどハダジュバン?一枚はいくらなんでもおかしいだろっ!体が当たってるっ、当ててんのよ!?)

 

 

 

 彼は非常に混乱している。明日には他パーティとの面談を控えているにも関わらず、彼にはそれに寝坊するという確信があった。

 

 

 

(長髪巨乳?ごめん少し見てましたっ!でも君の愛らしさの方が万倍上だ!それは覆らない!でも娼館を見てたってなんだ?僕には覚えが・・・いや待てあの建物か?いや分かるかッ!昼間は分からないようにカモフラージュされてるじゃないか!そもそも線が細いのを好きになったのは君のせいだ───ッ!!)

 

 

 

 彼も彼で中々に末期だ。それを言葉にしようものならもう少しこの状況も変わっていたかもしれない。性的な意味で。

 

 

 

(つ、使う?使うってそういうことだよね?いやそれは彼女が望むなら・・・って待て待て待て王族の血をばらまいていいわけないでしょ!するなら、そう!ちゃんと迎え入れられるようにするか王族やめるかだし、でも彼女と冒険者として生きるっていうのも中々悪くないな・・・)

 

 

 

 齢14の少年に秘めたる想いに気づけというのが無茶かもしれない。しかし両想いであることが分かったのだけが彼にとっての僥倖であろうか。既に彼は王族としての義務より個人の感情の方が勝ちつつある。兄達が聞けば苦笑い応えるだろうが。

 

 

 

(どうすればいいんだ。明日には早朝からギルドを交えて彼らと情報交換、それが済んだら父上の元に一度戻って報告。それが済んだら・・・ああやらなければならないことが多いのにこのままじゃ眠れない。うぅ、恨むよクノイチ・・・。いっそ父様に紹介して逃げ道をふさいでやろうか・・・)

 

 

 

 思春期真っただ中の彼の心境など気にしないまま、そんなことは関係なく時間は進み、夜は明ける。誰にも止めることなどできず、全ての人間に夜明けは必ず訪れる。慈悲深く、そして容赦なく───・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はお招きいただきありがとうございます。ヒーロー等と呼ばれていますが、お好きにお呼び下さい。重装騎士殿。」

 

 

 

「ああ、よろしく・・・大丈夫か?隈がひどいぜ?」

 

 

 

「ああ、いや、気にしないでください。そう、猫のせいで眠れないのです、ええ。」

 

 

 

「猫ぉ?(・・・こいつもまだまだ子供ってわけか。俺達が一層頑張ってやらねぇとな。)」

 

 

 

「(結局一睡もできなかった・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む・・・ではあなた方も前世を・・・」

 

 

「ああ、あんたもか。苦労して・・・るのはあいつの方か、ご愁傷さん。」

 

 

「?」

 

 

 

 





 精神的BLの精神的年齢差によるおねショタっていいよね・・・

 いい・・・(再自問自答)



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