「再びお迎えに上がりました、聖処女よ。どうかっ、どうか目をお覚ましください!あなた様はそんな―――――そんな!!!」
『キャーン☆わたしジャンヌ!今日もあなたのハートをイチコロよ♡』とか『もう、ジル君ったら、わたしが面倒みてなくっちゃ本当にダメダメさんなんだからっ。』とか『あんたって、ほんっとうに愚図よね、わたしを迎えに来るのにどれだけ時間をかけているのよ!…べ、別にずっとジルを待ってたわけじゃないんだからねっ!!』とか――――
「どうか正気に戻ってください!!聖処女(ジャンヌ)よ!神ですか!?神めがあなたをここまで壊したのですか!??」
キャスターの悲痛なまでの叫びは精神汚染のスキルを感じさせぬ絶望感と同情が滲み出ていた。
セイバーはその反応に、内心舌打ちをした。
前回までのアプローチは失敗に終わっている。セイバーがアイリスフィールと共に推測したジャンヌダルクの人物像(キャラクター)は全て試してみたが、敢え無くすべて空振りに終わった。
どうやら、日本文化の系統では彼を謀ることは難しそうだ。
「(マスター、今回はどうしましょうか?)」
幸いにも相手は正気を失っている。
多少、強引にキャラクターを変えても猜疑心のかけらも抱かぬだろう。
『……ここはひとつ、正統な清楚で勇敢さ溢れる姿にしてみよう。』
このとき、切嗣の声は心底疲れ切って、摩耗した心が滲み出ていた。
当然だ、彼にはそんなサブカルチャーを具現化した様な場面の策謀など今まで経験したこともなく、知識もなかったのだ。
―――――あの世界は、アラサーが初めて挑むには過酷すぎる戦場だった。
「(――――!そう言えば、最も鉄板で可能性のありのうなキャラクターのを実験をしていなかったか…っ!)了解しました、シナリオ(台詞)のオペレートをお願いします。」
そう決まるや否や、セイバーは無理矢理顔を優しそうな表情に変え、凛とした姿勢に優しそうな笑みを浮かべる。
とたん、場の空気が変わったためか、キャスターがその表情に気が付き、同時に感動の波が押し寄せているのか
「まさか、……おお!お戻りになられましたか、ジャンヌ……!!」
涙を両の頬に流しながら、禍々しく穢れた手を救済の聖女へと伸ばそうとする。
―――――どうやらこれは当たりの様だ。
油を売っていたためか、セイバーの背後から登り射す朝日が、一瞬見せたその釣り上げ歪んだ口元を影にて隠す。
「さあ、ジル・ド・レエとやら。時の彼方まではせ参じたその忠誠に心から賛辞を贈ろう。」
「おおぉ!!勿体なき……っ!勿体なきお言葉にございます!ジャンヌゥ―――――神は!神はいらっしゃったっ!!!」
「ああ、信仰深き勇者よ――――――」
セイバーは優しい笑みと共にキャスターに近づき
「ここで死ね。」
「ジャン―――」
涙を流し歓喜に浸る無垢な笑顔に、真一文字振り下ろす聖剣は善人のようにに無防備な怨霊を両断した。
「マスター、予定通りキャスターを殺りました。」
『…………、よくやった。丁度こちらもランサーのマスターが死亡したのを確認した。』
「これで令呪の追加は――――そうですか、やはりあの件は取り消しとなりましたか。」
『たった今、教会から暫定ルールのさらなる変更があったよ。どちらにせよ僕は表に出ないから貰う心算もなかったがね。』
「では、私は引き続き城門前で待機します。アイリスフィール、何か異変を感じたら、その…パソコンとやらの画面に映っている地図でナビゲーションをお願いします。地図上に光る点が私の現在位置を示しています。」
『分かったわ。でも、何だか慣れないわね。――――このインカムって……』
「意識していない状況では、パスの繋がっていない、あなたからの遠隔交信は抗魔力で打ち消してしまいます。申し訳ありません。」
『いいのよ。それとごめんなさい、いくらキャスターが勘違いしていたからと言っても、騙し打ち同然のことをあなたにさせてしまって……』
「いえ、あれはあれで、なかなか背徳感を味わうことのできる良いものでした。」
『…………』
「ランスロットも正体を隠して武勲を立てていましたが――――成程。これほどまでに感情が高揚するものとは思いませんでした。」
癖になりそうな趣向だとつぶやくセイバーに、流石の切嗣やアイリスフィール、久宇舞耶もドン引きだった。
その後、アイリスフィールはランサーとキャスターが脱落した影響で、床に伏せる。
* *
「キ、キャスターのマスターを始末した者に追加の令呪を授けることとするっ!」
「よ、よしっ!ならば、ここは私も動こうじゃないか!……綺礼、最早我々が同盟を隠す理由も無くなった訳だ。――――手伝ってくれるかな?」