第24話 決戦前夜
號の診察を終えた敷島博士は號の事を調べたい欲求を押さえ、竜馬達が殴り合いをしているのとは別の格納庫を訪れていた。
「どうじゃ、カーウァイ。ご期待には答えれたかの?」
「期待以上だ。敷島博士、ありがとう」
クジラで武蔵達が別行動をしている間に作成していた改造パーツを装着したタイプSの前でカーウァイは笑みを浮かべていた。
「追加装甲はゲッター合金。これは胸部や脚部、そして腕部を重点的に改造した、その分増えた重量は増設したバーニアで対応しておるが、恐らく少しばかり重いじゃろう」
エルドランドから持ち出した装甲や換装パーツを使い改造されたゲシュペンスト・タイプSは一目見るだけでも装甲の重厚さが増している。更にカラーをスモークブラックに変えたこともあり、より重厚な印象を与える。
「それは操縦しているうちに慣れる。あの背部のパーツは?」
「ああ、グランスラッシュリッパーとか言う、エルドランドにあった装備じゃ、規格が合うから付けておいた」
おまけ程度に言っているがスペックデータを見れば、それが規格外の装備であることは明らかだった。
「後は背中に背負うキャノンと腰部レールガン、これで武装面の追加は終わりじゃ」
「世話をかけた敷島博士」
「なーに、気にするな。未来の機体をいじれただけで十分じゃよ」
そう笑った敷島博士はもう1つのハンガーの前に移動する。
「そっちはどうだ?」
「期待以上と言わざるを得ない。間違いなく、お前は天才だ」
「がっははははッ!! 褒めても何もでんぞ!」
イングラムが渡していた設計図を元に建造していたパーツと、量産型R-SOWRDのパーツを組み合わせ、イングラムが望んでいた以上の性能にしてくれていた。
「この可変機能も良い。だがこのネーミングは気に食わんな」
「ケルベロスモードが不快か?」
改造された結果、R-SOWRDの装甲はあちこち改造されており。ブレードモードのほかに高機動モードのケルベロスモードなるものが追加されていた。
「実際に使ってから文句を言え、文句があるのならな! それよりもだ。お前達も早く飯でも食って来い、食いそびれても知らんぞ?」
真ドラゴンの決戦を控えているからか、タワーに備蓄している食糧を全部出しているのはイングラム達も知っていた。
「食料が無くなるなんて信じられないんだが」
「俺もそう思う」
食料が無くなるなんてありえないと笑う2人に敷島はちゃっかり確保していた握り飯をコンテナの上に腰掛け頬張る。
「判らんぞぉ? 武蔵達は常人の10倍は食う。あいつらが和解して飯を食いに行けば吹っ飛ぶぞぉ? 何度早乙女が嘆いていた事か」
そう笑われては、本当の事なのかもしれないと慌てて駆けて行くイングラム達を見て敷島博士は楽しそうに笑う。
「さーて、ワシも最後の仕事をするかのう」
ドラゴンセカンドはこのままでは操縦出来ない、武蔵が操縦出来るように各マシンの炉心にリミッターを掛け、OSを最適化する必要がある。
「はっはっはッ!!! いやあ、しかし楽しかった。ああ、本当に楽しかったッ!! 本当に楽しい、良い人生だったッ!!!」
この長い人生最後まで分からんなあと敷島博士は本当に楽しそうに笑い、ドラゴンⅡのコックピットに身体を滑り込ませるのだった……。
慌てて食堂にたどり着いたイングラムとカーウァイはその場に広がっている光景に絶句した。2つのテーブルを繋げ、竜馬、隼人、武蔵、弁慶の4人で食事をしているのだが、積み上げられている食器の数が半端ではない。
「豚カツ5枚!! 豚丼3杯!!」
「アメリカンクラブサンドを4つ!! ハンバーグを5枚ッ!」
隼人の注文を聞いた竜馬と武蔵が肩を竦め、隼人を指差して笑い出す。
「おいおい、聞いたか、竜馬。アメリカンクラブサンドだとよ!」
「はっ、また始まったなあ! 隼人の格好付けがよぉッ!」
竜馬と武蔵の言葉に隼人は一瞬眉を顰め、手を上げる。
「クラブサンドは止めだッ! カツ丼大盛り3杯! 豚汁を丼だ!」
「ははは。最初から格好付けてるんじゃねえよ! オイラもカツ丼大盛り3杯! 豚汁を丼でよろしくーッ!!」
「はっ、小食だなあ。てめえらは、カツ丼特盛り3杯! 豚汁も丼で2杯だッ!」
競い合うようにおかわりを続けている竜馬、隼人、武蔵の3人の姿に見ていた誰もが唖然、厨房は戦場の有様。出て来た料理は、直ぐ様無くなって行き……フル稼働している。調理担当も、運び手も「走っていた」走らなければ、4人の食欲についていけなかったのだ。
「牛肉のしぐれ煮と豚肉のムニエル。それと……鯵と鰯のフライを頼むぜ」
そして竜馬達ほどではないが、凄まじい量を注文している弁慶にこれは不味いとイングラムとカーウァイも慌てて夕食を注文していた。
「あ! こらあ、それオイラが頼んだ竜田揚げだろッ!」
「うっせえなあ、オラッ!」
「もがっ! あぐあぐ……美味いッ! なんだこれ!?」
「ステーキだよ、ステーキ! 食いたかったらお前も頼みな」
「全く餓鬼かよ、っておい!? 隼人ぉッ!」
「なんだ?」
「なんだじゃねえよ!? 何しれっと俺のフライ食ってるんだ!?」
「五月蝿い奴だ、これだけ並んでいるんだ。誰がどれを食おうと「「もーらいッ!!」」この馬鹿共があッ!!」
弁慶にうるさい奴だと高説を口にしていた隼人だが、竜馬と武蔵に骨付き腿肉の唐揚げを強奪され、怒鳴り声を上げている。
「ええい、鶏腿肉の唐揚げとステーキ追加だぁ!」
「あ、俺も、ステーキよろしく!」
「俺もだ!」
「俺も頼むぜ。疲れてると思うけどよ」
「「「「は、はい……」」
給仕の疲れ果てた声に同情する者はいない、ヘタに同情すれば自分達も食材運びに巻き込まれる。それが判ってるから誰も大丈夫かと声を掛ける事はない。
「竜馬、漬物くれ」
「あいよ、水とってくれ、水」
「全く五月蝿いやつだ、ほれ」
「おいおい、水を投げるなよ。全く」
さっき格納庫で殺し合いもかくやと殴り合いをしていた竜馬達がにこやかに食事をしているのも驚いたが、何よりもガーゼや包帯塗れの癖にあんなにドカ食いして良いのかと見ていた全員は呆然としていた。
「すげえ、大将もあんなに食うのかよ」
「……親父があんなに食べてるの初めて見た……」
長い付き合いの凱や渓ですら見たこともない、大食いをしている弁慶達……だけどその顔は楽しそうで、真ドラゴンとの決戦を前にギスギスした雰囲気が霧散している事に渓は安堵の溜め息を吐くのだった。
「……まさか神少佐があんなに食べるなんて……」
「食材の備蓄は大丈夫ですか?」
「……ぎ、ギリギリですね」
なお後にこの時の消費を山崎が計算した折に、4人の食欲の凄まじさにこれが3食続くなら、ロボットの整備費よりも金が掛かりかねないと深く、深く溜め息を吐いていたのだった……。
「ふぅ、食った食った。あー……満腹だぁ」
「流石に満腹になったな、げっふ……」
「久し振りに全力で食べた、いつも我慢してたしなぁ」
「……ふう。そうだな、俺も戦場には出ないから我慢していたから久しぶりに満腹まで食べた」
厨房の料理人5人、給仕が3人倒れた所で、4人は満腹だと笑い、食後の茶を啜っている。
「んん? おい、渓。俺の見間違いか?」
「なにが?」
カレーライスを食べていた凱が渓にそう尋ねる。ナプキンで口を拭ってから渓が何がと尋ねると凱は竜馬達を指差した。
「なんか凄い元気そうじゃないか?」
「……あ、確かに……」
そこで渓も凱が言おうとしている事に気付いた。竜馬達の顔がつやつやなのだ、気のせいかと思って腕とかを見てもやっぱりつやつやとしていた。とてもさっきまで殺し合いかと思わせる殴り合いをしていた人物達には到底思えず、思わず漏れた、は? の声。しかしそれだけでは済まなかった。
「邪魔だなこれ」
「ああ、邪魔だ」
「おう、邪魔だな」
「取っちまうか」
「おいおい! お前ら一応……は?」
4人は顔や腕、あちこちに張られていた湿布や、ガーゼ、包帯を解いてしまう。それに文句を言おうとしたステルバーのパイロット達と、渓と凱は――己が目を疑った。外されたそこから現れた肌は……「内出血も何も無い」状態だった。
「嘘だろ……」
内出血や切り傷でボロボロだったのは凱達も見ている。それなのに竜馬達には傷らしい物は何もない、凱の呟きは、ステルバーのパイロット達だけでなく、この船にいる全ての人達の声を代弁していた。
「後は風呂でも行くか」
「だな、久しぶりに垢でもおとさねえと痒くて仕方ねえ」
「だなあ、湯船に肩までどっぷり浸かるかあ」
「ならこっちだ。風呂場まで案内しよう」
隼人に先導され、風呂場に足を向ける竜馬達。今満腹まで食ってすぐ風呂に入ると言う竜馬達にも驚いたが、あれだけ食べても腹が出ているわけでもない、全員全く姿が変わっていない事に凱が目を見開きながら小さく呟いた。
「化け物か……」
その言葉に食堂にいた全員が頷いたのは言うまでもない……。
まだ日が昇る少し前に緊急招集の警報が鳴り響き、それに目を覚ました竜馬達はタワーの司令室にいた。
「太平洋上空のゲッター線の密度が低下している。この調子で行けば夜明けと共に出撃出来るようになる」
「なるほど、最終決戦って事か」
手の平に拳を打ちつけ獰猛な笑みを浮かべる竜馬。既に竜馬の中に早乙女博士への恨みは無く、自分達をバラバラにした挙句、ミチルを殺し、早乙女博士まで殺したインベーダー……コーウェンとスティンガーへの憎悪へと全て変わっていた。
「その通りだが、真ドラゴンに対抗出来るのは真ゲッターロボ、それとゲッタードラゴンⅡ……今後D2と呼称するが、D2だけになるだろう」
「ま、待ってよ。ゲッターロボがあるじゃないか! それならあたしと凱だって出撃出来るッ!」
自分達が置いていかれるということに気付いた渓が声を張り上げる。だが、武蔵と弁慶に肩を掴まれて黙り込んだ。
「渓。號を見てやっていてくれ、インベーダー共には俺達がきっちり落とし前をつけさせてくる」
「それに……もう元気ちゃんは早乙女博士を憎めないだろう?」
武蔵の言葉に渓は言葉に詰まった。武蔵達が見たと言う真実、D2に残された早乙女博士の遺言。それを見てしまえば、今まで渓を突き動かしていた憎悪や怒りは消えてしまった。怒りや憎悪は人を動かす原動力になる、だがそれを失った時人は無力感に襲われる。今の渓が正にそれだった。
「武蔵さん……」
「大丈夫。オイラ達に任せてくれ」
「……はい」
ここまで言われては渓は何も言えない、黙り込んだ渓を見た竜馬はぽんっとその頭に手をおいて、一歩前に出た。
「それで隼人、この大事な戦いだ。てめえもゲッターに乗るんだろうな?」
尋ねているような口調だが、それは乗るんだなと言う確信を得る為の言葉だった。だが隼人の返答はNOだった。
「俺には俺で敷島博士とやることがある。それが終わるまでは、俺はゲッターには乗れん」
「……そうかい、そうかい。判ったよ」
その目を見れば竜馬だからこそ判る。戦場には出ないが、隼人もまた命を賭けようとしていると……それを見れば何も言いはしない、だが無言で隼人の銃を隼人に投げ返す。
「竜馬……良いのか?」
「へっ、俺はそこまで馬鹿じゃねえよ。そいつは返す、その意味が判るな?」
「……ああ。判るさ、すまなかった」
「謝るくらいなら死ぬなよ」
竜馬と隼人にしかわからない会話、だが、その会話で長い間のわだかまりが消えたのは見ていて明らかだった。
「となるとやはりパイロットが足りない。武蔵、悪いがD2を単独操縦出来るか?」
「問題ないぜ、敷島博士がリミッターを付けてくれたお陰でなんとかなる」
「よし、では真ドラゴンに対しては真ゲッター、D2の2機で当たる。それ以外の機体はインベーダーから真ドラゴン、D2を守れ。良いか、これが地球の命運を分ける戦いだ。各員、奮起せよッ!!」
隼人の激励に返事を返し、竜馬達は格納庫に走る。
「へ、まさかまたこうして武蔵と戦えるなんてな。人生どうなるか判らないもんだぜ」
「そうだな。オイラもそう思うぜ」
「しみじみ言ってる場合かよ、竜馬! 出撃だッ!」
「おう! 武蔵も遅れるなよッ!!」
タワーから出撃する真ゲットマシンを見送り、武蔵は合体形態でハンガーに固定されているD2を見上げる。
「武蔵よ」
「うおっ!? な、何だよ。敷島博士か、何だ?」
背後から敷島博士に声を掛けられ、仰け反る武蔵に敷島博士は楽しそうに笑った。
「敷島博士?」
その何の憂いも、未練もないと言わんばかりの笑みに武蔵が怪訝そうな顔をする。すると敷島博士は笑いながら手にしていた物を手渡す。
「ワシの最後の作品じゃ、大事にせえよ」
「……最後って……敷島博士……あんた」
ゲッター合金で作られた日本刀にデザートイーグルを胸に抱え、武蔵は敷島博士を見つめる。口を開こうとした武蔵だが、それは敷島博士の手によって遮られた。
「ワシも良い歳じゃ。自分の引き際は判っておる、最後にまたお前達3人が揃ってる姿を見れただけで十分だ。ありがとうよ、お前達にあえてワシは楽しかったよ」
「……敷島博士……オイラこそ、楽しかったよ。ありがとう」
刀を背負い、デザートイーグルを腰のホルスターに身に付ける武蔵。それを見て敷島博士はもう1度満足そうに笑った。
「お前がどんな道を選ぼうと、ワシは責めぬ。後悔せん道を選べよ、武蔵ッ!」
「つっ! ああ、ありがとなッ! 行ってくるぜ! 敷島博士!」
昇降用のリフトに乗りポセイドン号に乗り込む武蔵を敷島博士は眩しそうに見つめる。
「さらば武蔵、もう会う事はこの世界では2度と無かろう……再び時を、世界を超えろ。お前の進む道はこの世界には無いだから」
ゲッターウィングを広げ飛び立つD2を見つめ、敷島博士は寂しそうに、しかしそれでいて楽しそうにその真紅の姿を見送るのだった……。
第25話 決戦真ドラゴン! 復活のゲッターチーム その1へ続く
今回は殴り合いの後の食事フェイズが書きたい話でしたので少し短めです。世界最後の日は3話くらいで終わる予定です、ここまでお付き合いをしていただきありがとうございました! それでは真ドラゴン決戦編にチェンジゲッターッ!! また明日の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い