進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第8話 敗走

 

 

早乙女研究所の爆発に煽られ、ギャンランドは激しく船体を揺らしながら早乙女研究所から少しでも距離を取ろうとしていた。永遠とも思える激しい振動を耐え、ブースト・ドライブを解除したギャンランドはゆっくりと速度を落としていた。

 

「……ふう。何とか逃げ切れたみたいね」

 

ただ1人ブリッジにいるレモンは深く溜め息を吐いて、オペレーター席に腰を下ろした。

 

「作戦成功って所かしらね、本当にギリギリだったけどね」

 

普通にブースト・ドライブを使ってしまえば、ギャンランドはそのまま日本海へと出て、その周辺に陣取ってる巨大インベーダーやアインストの襲撃を受けてしまう。そうならないために、レモンは無謀に近いがブーストドライブ中のマニュアル操作を行っていたのだ。

 

「未完成のASRS(アスレス)じゃあ、突破できないだろうしね……」

 

DCが理論を作り、アースクレイドルで作られたシステムで、周囲に電磁波を発生させてレーダーに感知されないと言う性質を持ち、PTやレーダーならば潜り抜けられる。だが生き物であるアインストとインベーダーの視界を誤魔化せるとは思えず、ASRSとブーストドライブを併用して日本を無理やり脱出するのではなく、早乙女研究所から斜め上の方向に向かって加速し、直線距離で加速するのではなく、斜め上に向かって移動することで日本上空に留まりつつ、早乙女研究所から離脱すると言う奇策に成功していた。

 

「皆、ボロボロね……いえ、生き残っているだけよしとするべきね」

 

唯一無事なのはゲッターD2だけで、それ以外の機体は最低でも中破、大破ばかりだ。特に酷いのはベーオウルフと対峙していたグルンガスト参式だ。右腕を肩から失い、装甲版も破損している。

 

「まさか1回の戦闘で駄目になるなんてねえ……」

 

アインストやインベーダーとの戦闘なら耐え切れると考えていたが、まさかのベーオウルフの襲撃に加え、アインストを率いていたのはアースクレイドル攻防戦で消息不明となったゼンガー・ゾンボルト……そう考えればたった6機で良く退ける事が出来たと思うべきだろう。

 

「負けは負けだけど、状況的に考えれば十分に勝ちね」

 

自分達が不利な状況で、誰1人死傷者を出さずに逃げることが出来、更に敵の情報もある程度得る事が出来た。敗走はしたが、結果的には十分に自分達は勝利と呼べるだけの情報を得る事が出来た。

 

「ゲッター線……ね」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲは元々本当にPTかと思うような性質を持っている事はレモンも気付いていた。それはアインストに寄生されていると言う事でそれが理由かと納得する事も出来た。だが今回の事で新たな特徴が判明したのだ。

 

「ゲッター線が近くにあるとあんな事になるのね」

 

破壊された箇所から全く別の存在に変化していた。そしてゲッターと隣接しているとその回復力と変異力は文字通り異次元のレベルだった。武蔵を戦力として数えるのならば、ゲシュペンスト・MK-Ⅲと戦わせないのが一番変異のリスクを抑える事が出来る。だが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲがゲッターを狙っているので、武蔵から遠ざけるというのも難しい。

 

「……あえて攻撃にゲッター線を使うのもありかもしれないわね」

 

インベーダーがゲッター線の過剰供給で死ぬのならば、アインストにもある程度の有効打になるのではないか? 進化の行き着く先は袋小路による自滅、ゲッター線の過剰供給がベーオウルフを倒す鍵なのではないかとレモンが顎の下に手を当てて考え込んでいるとブリッジに通信を知らせる音が鳴り響いた。

 

『レモン、作戦会議を行う。航路設定が終わったらブリーフィングルームへ来てくれ』

 

「了解、すぐに行くわ」

 

今までのアインストにない変化を遂げたゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてアインスト・参式……それらの対策を考えなければ、日本を脱出しても、その先を見る事は出来ないだろう。向こうはゲッターを、シャドウミラーを狙って追いかけてきている。例え日本を脱出しても、終わりではない。むしろそこからが始まりなのだ。

 

「ウォーダンがいればね……」

 

アメリカのシャドウミラーの基地で調整していた、人格をコピーするタイプのWシリーズ「Wー15」……いえ、「ウォーダン・ユミル」がいれば、あるいは……あのゼンガー・ゾンボルトと戦うことも出来たのかもしれない。

 

「まぁ、それも今は叶わぬ夢ね……」

 

ウォーダンの為に用意していたグルンガスト参式は大破、予備パーツはあるがギャンランドの設備で修理するのは無理。折角6機そろえた戦力も行き成り5機になってしまった。

 

「戦力と人員の確保が急務ね……」

 

アインスト側が保有しているハガネが動き出してくる事はなかった。だがそれも時間の問題だろう、早乙女研究所の爆発に飲まれたゲシュペンスト・MK-Ⅲとアインスト参式が修復するまでは動き出してくる事は無いだろうがそれも数日……ひどければ1日や2日で動き出してくるだろう。つまりこの疲弊した状態で海際に潜む巨大なインベーダー、アインストを撃破しなければならない。

 

「一難さってまた一難って所かしらね……」

 

レモンは肩を竦め、ブリーフィングルームに足を向けるのだった……。

 

 

 

 

出撃したばかりの疲労の色はまだ残っているが、武蔵達はブリーフィングルームに集まっていた。

 

「ごめんなさいね、ギャンランドの航路設定をしていたのよ」

 

遅れて入ってきたレモンが頭を下げる。だがこの中で細かい設定が出来るのはレモンだけなので、その事を責める者はいない。

 

「いや、構わない。ではブリーフィングを続ける」

 

ヴィンデルが作戦会議の進行を進め、カーウァイ達はその話に耳を傾ける。

 

「話を再開しますが、我々はこのまま日本脱出作戦へと向かいます。レモン、映像を」

 

「はいはーい」

 

ブリーフィングルームのモニターに写されるのは2体の異形の姿だった。

 

片方は巨大な大木のような身体に両腕が口になっている巨大なアインスト

 

もう一体は様々なPTや戦車などを取り込んだ巨大なインベーダー。

 

「こいつらが海岸を埋め尽くしているって言う?」

 

「その通り、アインストの方がトレント、インベーダーのほうをキメラと呼称している。トレントが海から進撃してくるインベーダーを防ぎ、インベーダーはアインストを突破して日本に乗り込もうとしている。そして勿論人間が近づけば、人間を攻撃してくる」

 

「数は?」

 

「ざっと30……正直正面突破するのは非常に厳しいです」

 

これらが1体しか存在しなければ突破する手段もあるだろう。だが、日本脱出が困難になっているのはこの巨大インベーダーとアインストが群れを成しているからだ。

 

「トレント同士が強固なバリアを発生させているから、数体のトレントを撃墜してバリアを破壊した後に」

 

「取り囲まれる前に強行突破と言うことか……だがインベーダーが海から来ているといったが、海上は……もしや?」

 

「ええ。インベーダーの巣窟ね。目撃情報だけだど、かつての戦艦に寄生して、通りかかる物全てを襲ってるみたいね」

 

レモンの他人事のような口調だが、それは日本を脱出しても戦闘続きであると言う事を示していた。

 

「疲弊した状態で海へ出るとしよう、海で戦える機体は1体しかないぞ」

 

「あ、ポセイドンですね。確かに海の中はポセイドンのホームグラウンドですけど……数が多ければやっぱり物量差で押し込まれますよ」

 

日本から脱出するのも地獄、脱出したあとも地獄。だが武蔵達は何としてもアメリカのテスラ研に向わなければならない。

 

「作戦としてはブースト・ドライブでアメリカ大陸まで強行突破をします。トライロバイト級はステルス性能に特化した戦艦なのでレーダーなどからは極めて発見されにくい性質があります」

 

「なるほど、メタルビースト化しているからレーダーなどをインベーダーが使う前提か」

 

「はい、そして発見された場合はウィングガスト、プロトアンジュルグ等の空戦が可能な機体で強行突破する事になりますね」

 

それは作戦ともいえない、特攻に等しい作戦。しかし今のヴィンデル達にはそれしか出来る手段が無いのも事実だった。

 

「作戦は了解した。だがヴィンデルよ、アメリカに辿り着いた後はどうする? テスラ研に向かうのも難しいぞ」

 

「ああ。それは私も把握している。テスラ研はシャドウミラーに協力していたと言う事で、連邦の生き残りに包囲されている。無理に突破を狙えば……」

 

「テスラ研が破壊されるということか……いや、もう破壊されている可能性も捨て切れないと言う所だな?」

 

イングラムの指摘にヴィンデルは顔を歪めながら頷く。

 

今アメリカはメタルビースト・クロガネを始めとしたインベーダー軍

 

アメリカを制圧しようとするアインスト軍。

 

シャドウミラーの捕縛を狙う連邦軍。

 

シャドウミラーの生き残りとレジスタンス。

 

4つの陣営の戦力と思惑が入り乱れる地獄のような環境になっている。

 

「連邦軍はやっぱり襲ってくるんですか?」

 

「間違いないな。奴等は全ての責任を俺達に押し付けたい、どうせ今の状況ではどうにもならんと言うのにな」

 

愚かな事だと鼻を鳴らすアクセル。だがそれも判らなくも無い、インベーダーが蔓延り、そしてアインストがわき続ける今の地球は人間にとって暮らせる世界ではない。それなのにシャドウミラーを追うのはただの自己満足、そしてシャドウミラーがイージス計画のシステムを暴走させたと信じている一部の軍人だけだ。むしろ現実を見ている兵士達はシャドウミラーに協力し、インベーダーやアインストの討伐を初めていると言うのが今のアメリカだ。

 

「今はそんなことをしている場合じゃないのに……皆で協力してジュネーブに向かえば……」

 

武蔵はジュネーブで暴走しているイージス計画の装置を破壊すればと考えているが、それはこの世界にいる全員が1度は実行している。

 

「武蔵、イージス計画の装置は既に破壊されている。だがそこから無限に出現するインベーダーがそれを維持しているんだ」

 

「え、じゃあ、エキドナさん。もう時空の穴を閉じる手段は……」

 

「無い。このまま地球はそう遠くない内にインベーダーに埋め尽くされ、滅びる。そうですよね? レモン様」

 

「え、ええ……試算で1年も持たないわね。だから私達は時空転移システムを使う事を決めたのよ」

 

滅びる世界を見捨てるという選択をしたのは、もうこの世界が完全に詰んでいるからだ。もう誰にもこの世界を救うことは出来ない……ならば僅かな生き残りを残し地球を捨てると言う選択をするのは当然の事だった。

 

「つまりだ、我々は生き残る為に日本を脱出して、アメリカ、そしてテスラ研に向かう必要がある。苦しく、厳しい作戦が続きますが、どうかお力添えをよろしくお願いします」

 

ヴィンデルのその言葉を最後にブリーフィングは終わりを告げ、日本脱出の戦いに備えほんの僅かだが、身体を休める事となるのだった……。

 

 

 

 

 

イングラム、そしてカーウァイが部屋の中を確認し、盗聴器などが無いのを確認してから、武蔵達は与えられた部屋で身体を休めていた。

 

「あの巨大アインスト……トレントでしたっけ……あれそう簡単に撃墜できるんですか?」

 

「ゲッターとグルンガストが頼みの綱だな。PTでは攻撃力が足りない」

 

「……参式が壊れたのが非常に厳しい所だな」

 

日本脱出作戦を決行するまでに参式を修理するのは不可能。特機であるグルンガストとゲッターが日本脱出の鍵を握っていた。

 

「アメリカに辿り着けばそこでも戦い続きか……」

 

「テスラ研を奪還したとしても……」

 

「攻撃は続くだろうな」

 

テスラ研に転移装置があることを知っているのはシャドウミラーだけらしいが、シャドウミラーに協力したと言う事で反逆者として扱われているらしい。となれば、テスラ研に近づけば連邦軍との戦いになるのは明らかだった。

 

「でも、テスラ研って優秀な技術者の集まりなんですよね? この状況で拘束してるんですか?」

 

「……そうだな、既に無人と言う可能性も捨て切れない」

 

「上層部のことを考えればな」

 

既に上層部はテスラ研の技師を無理に連れ出し、宇宙船で地球を脱出している可能性もあると告げると武蔵は深く深く溜め息を吐いた。

 

「偉い奴って最悪ですね」

 

「ああ、だがまぁ……因果応報宇宙に出たところでインベーダーの巣窟と言うオチで終わりだろう」

 

元々インベーダーは宇宙生物なのだ、宇宙に巣を作っている可能性は極めて高い。更に言えば、ゲッターD2のゲッター線が回復している点から宇宙にはゲッター線が満ちており、地球より凶暴化したインベーダーが多数生息している可能性はある。

 

「どっちにせよ、地獄ってことですね」

 

「そうなるな……だがレジスタンスがいると言うのは良い情報だった」

 

「味方が増えるってことですか?」

 

「可能性だがな、今のこの状況を変えたいと思うのは人間であれば当然のように思うことだ。その可能性があればそれに縋るのは当然だ」

 

溺れるものは藁をも掴むという奴だと笑ったイングラムはそのまま、パックのレーションを口にする。

 

「不味いが腹に入れておけ、この後は身体も心も休める時間などないぞ」

 

「そうですね……はぁ……こんなの想像もして無かったですよ」

 

「全くだ、だがそれでも私達は歩みを止める事は出来ない」

 

例え悪と罵られても……。

 

例えこの手で人を殺めたとしても……

 

武蔵達はその歩みを止める事は出来ない。

 

自分達が元いた世界に戻る為に……。

 

今も悲しんでいるであろう友人達の元へ戻る為に……。

 

「辛いか?」

 

「まぁ確かにそれでも……自分のやるべき事は判ってますよ。戦わないと……生き残れないんですからね」

 

武蔵の甘さを危惧していたイングラムとカーウァイだが、武蔵は覚悟を決めていた。この世界では戦わなければ生き残れないのだ、インベーダーとも、アインストとも、そして人間とも戦わなければならない、いつかその道が分かれるとしても、それでも今は味方なのだ。

 

「だから……オイラは戦いますよ。大丈夫です」

 

首元に巻いた竜馬のマフラーに触れながら武蔵は強い決意の色を宿した目で2人にそう返事を返すのだった。

 

「レモン、どうにもならんか?」

 

「無理に決まってるでしょ。アクセル、この短時間で参式を修理するなんて私でも無理よ」

 

「……チッ。ソウルゲインさえあれば……」

 

「そうよね。受け取りに行く道中だったのが惜しいわ、アースゲインでもあれば話も違ったんだけどね……」

 

テスラ研で開発されたアースゲインを元に大幅に改修され、その結果操縦者がいないからと放置されていたソウルゲイン。それを受け取る道中のSOS信号を見捨てられなかったのが、この劣勢に追い込まれた理由だ。

 

「でもアメリカに行けば何とでもなるわ。シャドウミラーの基地は沢山あるんだからね、その為にはアクセルにも頑張ってもらわないとね」

 

「参式は使えないのだろう?」

 

「ええ、参式は使えないわよ。参式はね?」

 

含みを込めた言葉にアクセルは同じ様に笑みを浮かべた。

 

「俺が使えるような機体があるのか?」

 

「ええ。あるわよ、プロトヴァイサーガ。早乙女研究所で組み上げておいたわ」

 

シャドウミラーの幹部クラスが使う為に建造される予定の特機のプロトタイプ……プロト・アンジュルグ同様のシャドウミラーの最後の切り札と言うべきものだ。それのテスト機でバラバラの状態で、ギャンランドに保管されていたそれをレモンは早乙女研究所で秘密裏に組み上げていたのだ。念の為の備えだが、まさかこんなに早く使う事になるとはレモン自体も予想していなかったが、戦力が少しでも必要な今プロトタイプでありながらも、その戦力は重要な物になる。

 

「なるほどな、ありがたく使わせてもらうぞ。これがな」

 

「ええ。頼むわよ、日本を脱出しない事には何にも始まらないからね」

 

レモンに手を振り、部屋を出て行くアクセルを見送るレモン。暫くそうして見つめていたが、その視線をモニターに向ける。

 

「さてと……急ぎますか」

 

遠隔操作でアメリカのシャドウミラー地下基地の製造プラントを稼動させるレモン。モニターにはエキドナの駆るプロトアンジュルグと異なり鮮やかなカラーリングが施された装甲を組み込まれているアンジュルグ。そして骨組みの上に装甲を取り付けられ始めているヴァイサーガ、そしてアサルトドラグーンシリーズの「アシュセイバー」を改造したレモン専用機の組み上げが始まっていた。

 

「ふふ、もうすぐ会えるわ。楽しみにしてるわよ、ラミア……」

 

そして最後に映し出されたモニターには培養液の中に眠る緑色の髪をした、美しい女性の姿があるのだった……。

 

 

 

第9話 邪悪な大樹/太古の魔龍 へ続く

 

 

 




次回は連続バトルで話を書いて行こうと思います。太古の魔龍は判ると人はきっと判ってくれる筈ッ!!と言うか判ってくれないと私が泣きます。きっと、いや多分きっと……メイビー大丈夫な筈だと信じております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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