第10話 写し身
太平洋を渡りきり、目的地としていたアメリカ大陸の最北端アラスカに辿り着いたギャンランドは基地に向かう前に着陸……いや、墜落する事となっていた。
「最悪だわ。エネルギーパイプを粉砕されている」
海中から姿を見せた龍に巻きつかれた上に噛まれたギャンランドの装甲は大きく凹み、エンジンに燃料を補給するパイプも破損していた。辛うじて太平洋は渡りきったがそれ以上の飛行は不可能に近かった。
「ギャンランドは動かせないか……低空飛行ではどうだ?」
「そうね、かりに低空飛行しても基地に辿り着くまでに70%の確率で墜落するわ」
ギャンランドで基地へ向かうのが一番の最善策だったが、そのギャンランドが飛翔出来ないとなるとギャンランドはこの場に放置するしかないとヴィンデルとレモンは判断した。
「そうなるとこの先にあると言う基地で修理物資を確保して戻ってくるのが最善か」
「ですが、連絡は依然回復しておりません、恐らくインベーダーに制圧されたと思われます」
イングラムの言葉にエキドナが基地へ向かう事の危険性を告げる。
「それにギャンランドを破棄する訳にも行かないぞ、もうこの世界で戦艦は殆ど存在しないのだからな」
「となると戦力を分散して、ギャンランドの護衛と基地へ向かうのか……」
「そうなるとインベーダーの襲撃のリスクがあるしねえ」
難しい話をしているイングラム達を見ながら武蔵はゆっくりと手を上げた。
「はい、オイラに良い考えがあります!」
武蔵の自信満々の顔にイングラム達は大丈夫か? と言う不安を抱きながらも武蔵の提案を聞いて見ることにしたのだった。
『方向はこっちですか?』
『いや、南西に後40度、方向転換だ。武蔵』
『えっとどれくらいって?』
『……こっちで指示する。私が良いと言うまでポセイドンの位置を移動させろ』
接触通信で聞こえてくる武蔵とエキドナの声にレモンは苦笑いを浮かべずにはいられなかった。
「ポセイドンの脚部をタンクモードにして、僅かに浮遊したギャンランドを牽引するとか普通の発想じゃないわね」
「確かにな、だが分散するよりかはよほど良いだろう」
武蔵の提案とはギャンランドのエネルギーを節約する為に僅かなホバーでその機体を浮かせ、フィンガーネットをギャンランドに巻きつけてポセイドンで引っ張るという余りに原始的な手段だった。
「だがこれは実際かなり効率的だと思うぞ」
エネルギー反応は極僅か、ポセイドンのゲッター炉心も出力を最低に絞っているのでインベーダーやアインストに発見されるリスクもない。
「直接飛んで向かうよりかはよっぽど安全だな」
「時間は掛かりますがね、しかし、これが今私達に出来る最善ですからしょうがないでしょう」
ギャンランドが飛べれば1時間も経たずに目的地であるアラスカのシャドウミラー基地に辿り着ける。しかしこの方法では最低でも半日の移動となる事にヴィンデルはげんなりとした様子だった。
「でも、あの化け物やベーオウルフについての考察が出来る時間を考えれば、この半日は決して無駄じゃないわよ」
言うが早くモニターにゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そして海中から襲ってきた龍の首の映像を映すレモン。移動に時間が掛かるのならば、その時間を有意義に使おうというレモンの意見に反対する者はおらず、アラスカのシャドウミラー基地に移動するまでの間対策会議が開かれる事となるのだった……。
モニターに映し出されるゲシュペンスト・MK-Ⅲ。ポセイドン、そして参式の2体を相手にしても有利に戦うその圧倒的な戦闘能力もさることながら、最も秀でた脅威は戦闘力ではなかった。
「この回復能力……いや、進化とでも言うべきそれが厄介だな」
戦闘中にサイズをPTから準特機クラスまで拡張させ、本来実弾であるクレイモアをエネルギー態にまで変化させた。ただ再生するのではなく、より強靭に再生している姿はイングラムの言う通り進化と言うのが一番ぴったりくる表現だった。
「今まで何度か交戦しているのだろう? そのときもこれほどに再生していたのかアクセル?」
「いや、ここまで化け物染みた回復能力は無かった。現に何度か俺達はベーオウルフを戦闘不能にして離脱している、トドメを刺そうにも邪魔ばかり入って押し切れなかったのが悔やまれる」
行動不能にして離脱している……いや離脱せざるを得ない状況に陥ってしまったというアクセル。
「その時と、今の違い……か、それは1つしかないな」
「ゲッターロボですね? カーウァイ大佐」
ラウの言おうとした事を先に言うヴィンデル。だがここにいる全員がそれを言うまでも無く理解していた。進化の使徒と武蔵とゲッターロボを呼び、執拗に追い回す姿を見ればその答えに辿り着くのは当然の事だった。
「武蔵の話ではゲッター線は進化を促すエネルギーって事らしいわね」
「より化け物に進化するためにゲッター線を求めていると言うことか……笑えないな」
今アクセル達の最大戦力はゲッターロボと武蔵だ。ベーオウルフの変化を止める為に武蔵を追放したとすれば、イングラムとカーウァイも当然シャドウミラーから抜ける。そうなればギャンランドの轟沈は避ける事が出来ない、だが武蔵が居ればベーオウルフは手の付けられないレベルに変化するだろう。
「この世界で好きに変異させれば良いだろう、俺達はこの世界を捨て新たな楽園に向かう。無理に倒す必要はない」
「……そうね。無責任って言われる筋合いもないし、テスラ研に辿り着けばなんとでもなるわ」
アクセル達の出した答えはべーオウルフを無視して、テスラ研に向かうと言うものだった。だがそれは当然ともいう答えだった、ダメージを与えても回復するのならば勝つ手段はない。勝てない相手に挑む道理は無いのだ、勝てないのなら逃げる。それは一種の答えだった。
「1つ気になっているんだが、この世界に「エクセレン・ブロウニング」はいないのか?」
「……いえ、いたことはいたわ、死に別れたけど私の妹の名前が「エクセレン・ブロウニング」よ」
少し間があってから返答をしたレモンにイングラムは引っかかる物を感じたが、今はそれを指摘せずに話を進めることにした。
「そうか、では次に聞くが、他のアインストに寄生されたと思われるPTや特機は殆どコアを外部に露出させているが……コアを内部に収納している個体はいたのか?」
ゲシュペンスト・MK-Ⅱ、アシュセイバー、ラーズアングリフ、グルンガスト参式……そしてゲシュペンストMK-Ⅲ……それら全てはアインストに寄生されていたが、外部に赤黒いコアを露出させていた。だがMK-Ⅲだけは、コアが露出させていない。それがイングラムには引っかかっていた。
「え、ええ。今まで何度も交戦しているけど、コアを内部に収納している個体は見た事が無いわ」
「……そうか、となると……ベーオウルフ……いや、キョウスケ・ナンブとMK-Ⅲの異質さの答えが出たな」
「どういう事だ! 何か思い当たる節があるのか!」
「アクセル!」
「っ、すまない」
イングラムの襟首を掴んで持ち上げようとしたアクセルにヴィンデルの叱責が飛び、腰を浮かしていたアクセルは謝罪と共に再び椅子に腰を下ろした。
「イングラム中佐。どういうことは聞かせてもらえるかしら?」
「俺は少佐なんだが……まぁ、良い。俺達の世界ではキョウスケとエクセレンは士官学校時代にシャトルの墜落事故に巻き込まれたが、2人とも奇跡的に生還した。その時の事件の調書を見たことがあるのだが……表向きは整備不良となっているが、裏では正体不明の生物と衝突したと言う話が実しやかに語られていた」
「……続けて」
話を止め、レモンに視線を向けるイングラム。レモンは真剣な表情をして話を続けるようにイングラムに促す。
「良いだろう。シャトルの回収をした整備兵が見たこともない生物の死体の一部を発見、それは植物のような生命体の肉片だったらしい……これがアインストと考えたらどうだ? この世界のキョウスケはその段階でアインストに寄生され、長い時間を掛けてアインストと完全に同化していると言うのは?」
それはあくまで推論だが、限りなく正解に近いとその話を聞いていた全員が感じていた。
「……ちなみに聞くけど、貴方の世界のエクセレンとキョウスケは?」
「2人とも生存し連邦に所属している。言っておくが、エクセレンにも、キョウスケにも異変らしい物は無い」
世界の違いによる差異……この世界では既に死んでいるエクセレン、そしてシャトル事件で唯一生存したキョウスケ。
「イングラム中佐の考えとしては、その士官学校での事故がアインストが引き起こし、その時にキョウスケ・ナンブがアインストに寄生されたとお考えなのですね?」
「ああ。他の寄生されたPTと余りにもMK-Ⅲは様子が異なっている。つまり他の存在とは根底から違うと考えるのが最も正しい筈だ。恐らくキョウスケに寄生しているアインストが親玉と考えて良いだろう」
「でもそれがわかっても対処法は無いんでしょ?」
「……いや、無い訳ではない。再生・進化するというのならば……残骸も残さず消滅させれば良い。と、言ってもそれほどまでの火力が無いのが現状だがな」
ゲッターロボならば不可能では無いが、それがより変化を促す可能性が高い以上。欠片も残さずに消滅させるというイングラムの提案は机上の空論に過ぎない。だがそれも確かに1つの手段であり、他のアインスト寄生体と異なるMK-Ⅲの事もある程度は推測が出来た。
「まぁ倒せない相手って言うのが判っただけだから、何の意味も無いけどね。それじゃあ、さっき海で襲ってきた化け物だけど……あれはインベーダーでもアインストでもないって事が判ったわよ」
機械から取り出された分析資料を見ながら口を開くレモン。
「インベーダーでも、アインストでもない? あの化け物が?」
「ええ、身体の構成物質がインベーダーでもアインストでもない、そうね。純粋な生き物よ」
「あの化け物がか!? 分析が間違っているんじゃないのか?」
「いいえ、間違いないわよ。ただ身体の構成物質はかなり年代が古いわね……先カンブリア時代よ」
「……つまりなんだ。生き残っていた古代生物が蘇ったと?」
「ありえない話じゃないわよ? ヴィンデル。海は全ての生命の源にして、人間の理解を超える場所。何が起きても不思議じゃないわ、それは今のこの状況が物語ってるでしょ?」
人間や機械に寄生する怪生物、そして時空の境目……それはありえないとされていたことであり、それが現実で起きている。今レモン達が生きているこの世界こそが、何が起きてもおかしくないという確かな証拠なのだった……。
建物やPTの残骸をポセイドンのキャタピラが押し潰すたびに激しい振動がドラゴン号に乗っているエキドナを襲っていた。
「うっ……」
思わず込み上げてきた何かを感じ咄嗟に口を塞ぐエキドナに気付いた武蔵から通信が入る。
『大丈夫ですか? 少し減速しましょうか?』
「い、いや、大丈夫だ。それよりも急ごう、もう少しでアラスカ基地が見えてくるはずだ」
吹雪の中で視界は劣悪だ。だがエキドナが持ち込んだレーダーで、正確な現在位置は判っていた。だから問題ないと言うエキドナに武蔵はそれ以上何も言えず、判りましたと頷いた。
『……大丈夫ならいいんですけどね』
通信を切る武蔵だが、その視線は最後までエキドナを気遣う色をしていた。土地勘の無い武蔵のオペレーターとしてドラゴン号に乗り込んだエキドナだったが、その顔色は非常に悪い物だった。
(……良くこんな物に乗れるな)
重力装備も、対衝撃装備も、振動装備も無い。更に言えば通信装置も索敵レーダーも質素な物で、ペダルと、操縦桿。そしてあちこちから突き出した無数のレバー……それで操縦していると知り、エキドナは素直に武蔵の技量に驚かされていた。ドラゴン号に持ち込んだ通信機とレーダーを確認しながら武蔵をナビゲートしているエキドナはレーダーに反応があったのを確認し、武蔵に止まるように指示を出す。
『え? もう着いたんですか? それらしい物は見えないですけど』
「いや、迎えだ」
吹雪の中を地響きと共に1機の特機が姿を現した。漆黒の装甲と巨大で無骨な刀を携えた機体に武蔵は驚きを隠せなかった。
『ぐ、グルンガスト零式!?』
それはあちこし破損し、粗末な応急処置を施され、その姿を大幅に変えていたが紛れも無くグルンガスト零式だった。
『何者だ。事と次第によっては斬る』
『ゼンガーさん?』
オープンチャンネルで告げられた警告に武蔵が困惑している間にエキドナはスピーカーのスイッチをONにする。
「ウォーダン。私だ、エキドナだ。レモン様達とギャンランドを牽引してきた』
『エキドナ……承知した。着いて来い、こっちだ』
「武蔵。ウォーダンに着いて行けば基地に着く、行こう」
地響きと共に歩いていく零式の後を着いて歩くように言うが武蔵は怪訝そうな顔をしていた。
『ウォーダン? ゼンガーさんじゃなくて?』
「ゼンガー・ゾンボルトならアインストに寄生されていただろう。あいつはウォーダン、ウォーダン・ユミル。シャドウミラーの構成員だ」
『そうですか、それなら良いんですけどね……』
武蔵が怪訝そうにしているが、それは当然の事かもしれない。ゼンガーの人格データを移植されたウォーダンはゼンガーのコピーと言える。向こう側の世界のゼンガーを知る武蔵が違和感を覚えるのは当然の事だ。
「アインストやインベーダーに発見されると厄介だ。早く基地へ向かおう」
『……うっす、行きますよ』
再び襲ってくる振動に顔を歪めながらエキドナはウォーダンの案内の元。アラスカのシャドウミラーの基地へと向かうのだった……。
険しい山岳の亀裂に隠された隠し通路を通り、ポセイドンとギャンランドは目的地だったシャドウミラーのアラスカ基地に辿り着いていた。
「ヴィンデル・マウザー大佐、アクセル・アルマー隊長、レモン・ブロウニング技術顧問のご帰還をお待ちしておりました」
グルンガスト零式から降りてきた仮面の男を見て、イングラム達は顔を顰める。その言動、立ち振る舞いはどこからどう見てもゼンガーにしか思えなかったからだ。
「すいません、やっぱりこの人ゼンガーさんですよね? それかゼンガーさんに双子の弟か兄貴っていませんでした?」
武蔵もそう感じていたのか、イングラム達にそう尋ねたが、それは即座にウォーダンによって訂正された。
「……俺はウォーダン・ユミル。ゼンガー・ゾンボルトではない」
「あ、すいません。本当に知り合いに良く似ていたもので」
武蔵の言葉を即座に訂正するウォーダン。だが謝罪の言葉こそ口にしたものの武蔵、イングラム、カーウァイの疑念の視線は薄れる事が無い。
「しかし本当に良くゼンガーに似ているな」
「よく言われます。しかし私はウォーダン・ユミルであって、ゼンガー・ゾンボルトではありません。カーウァイ少将」
敬礼と共に返事をするウォーダンを見て、ますます目が細まるカーウァイ達を見て、レモンがウォーダンと武蔵達の間に入る。
「疲れているだろうし、この基地で少し休みましょう。エキドナ、武蔵達を部屋に案内してくれるかしら?」
「了解しました。カーウァイ少将、こちらです」
強引に話の流れを切ったという事は判っていたが、ここで追求しても何も答えが出ないと判断したのか武蔵達はエキドナに案内され、格納庫を後にする。
「ウォーダン、調整室で待ってなさい。すぐに調整するわ」
ウォーダン・ユミル。正式には「W-15」と呼ばれるWシリーズの15番目にロールアウトされたその個体は他人のパーソナルデータをコピーし、今までのWシリーズと異なり、自我を確立させる事を目標に作られた固体だ。本来は人格などはなく、パーソナルデータの書きかえでどんな戦況にも適応出来ると言うコンセプトだったW-15は、ベーオウルフと言う規格外の存在に対するカウンターとして、この世界で有数の特機のパイロットである、ゼンガー・ゾンボルトの人格データを組み込まれた個体だった。
「感謝します、レモン様。人格データの再現率、および定着率既に限界域……活動限界まで3万6000秒……」
武蔵達の姿が消えると急に機械的になったウォーダンはギクシャクとした動きで格納庫を出て行く、その後姿にアクセルとヴィンデルは険しい視線を向ける。
「人形を迎えに寄越すから、必要ではない疑惑を抱かれる事になったぞ。これはお前の責任だ、レモン」
「まぁ、人形なんて酷いわね。彼は自我を確立してるのよ?」
責めるような口調のヴィンデルに訂正を求めるレモン。だがヴィンデルは自分の考えを変える事無く、蔑んだ視線をレモンへと向けた。
「テスラ研にソウルゲインの回収に向かわなければならないからな、今度は失敗は許されんぞ。レモン」
吐き捨てるように命じてアクセルと共に格納庫を出て行くヴィンデルをレモンは冷めた視線で見つめ続ける。
「……人形なんかじゃないわ、ウォーダンもエキドナも、そしてラミアも……新しい命、そして人間なのよ。ヴィンデル、アクセル」
どこまでも平坦な声が静寂に満ちた格納庫に響く、レモンの顔は能面のような無表情な物だったが、その目には強い激情の色が浮かんでいた。それは普段のレモンとはありえない様子であり、レモンが気付く事はなかったが、その身体はうっすらとゲッター線の光に包まれていた。
「あの子達は人形じゃない、私の可愛い子供達なんだから……人形なんかじゃないんだから……ゲッター線があれば……もっと……あの子達は人間に……近づける……私がもっと……ゲッター線を理解できれば……」
だがその激情の色は徐々に薄れ、ぶつぶつと呟きながらウォーダンが歩いていった方向にレモンも姿を消すのだった……。
【ここにもゲッター線に魅入られた者が1人】
【進む先は地獄か、それとも天国か……】
【見極めさせて貰おうか、完璧になれなかった者よ……】
そして誰もいないはずの格納庫に広がったゲッター線の輝きの中から複数の男性の声が響き続けているのだった……。
第11話 魂を乱獲する者 その1へ続く
ウォーダンを見れば、ゼンガーを知る武蔵達は違和感を疑念を抱くのは当然ですよね?なので今回はしっかりその描写を入れさせて頂きました。そしてレモン様、若干ゲッター線に引かれ、目グルグル寸前。でもレモン様ならば確実にゲッター線に選ばれると思うんですよね、ほら……武蔵艦長のシステムとWシリーズって良く似てると思うんですよね?似てないですかね?次回はインターミッション、武蔵とウォーダンの絡みとかやりたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い