第15話 悪魔王の名を冠した戦神 その1
レディバードを背にして立つトリコロールカラーのPTと右腕が巨大なクローと一体化したオレンジ色の機体をR-1カスタムのコックピットからラトゥー二は観察する。
(フレームを変更する事でどんな戦況にも対応可能な万能型人型機動兵器エクサランス……か)
あの基地の司令が目の色を変えて確保したがった機体だが、その万能さも近接戦闘特化のフレームさえなければ、万能の名に偽りありだろう。
『今ギャンランドから通信がありました。ギャンランドが到着するまで最短で8分掛かるそうです』
「最短で8分って事は向こうも戦闘中って事ね? ラージ」
『はい、あの化け物……インベーダーと呼称しているそうですが、それの群れと戦闘中との事。先に1機だけ応援に送ってくれたそうですが……それも4分ほど掛かるでしょう』
「1機だけって……いや、応援を送ってくれるだけでありがたいよな。贅沢はいえないか、フィオナ、ラトゥーニ。応援が来るまで何とか持ち堪えるぞ」
「判ってるわよ、でも正直……どこまで耐えれるかな……」
「気持ちで負けたら終わり。まずは気持ちで負けない事」
地響きを立てて着地する化け物――インベーダーとやらに寄生されたゲシュペンストMK-Ⅱ6体を見て弱気なことを言うフィオナにラトゥーニが声を掛ける。
「センターは私がやる。フィオナとラウルはバックアップをしてくれればいい」
指示を出しながらペダルを踏み込みバーニアを噴かせるラトゥーニ。
「いや、フォローって言ってもストライカーには飛び道具はあんまりないんだぜ?」
「1人で大丈夫なの?」
「……良い。アレ相手は慣れてる。それより、2人はレデイバードを守って、もうすぐ敵が来る」
「さっきもレーダーが探知するより早く気付いてたよな? それって何か「話をしてる時間は無い」
ラウルの問いかけを強引に切り上げると同時にR-1カスタムの背部バーニアが火を噴き、止める間もなくメタルビースト・ゲシュペンストにR-1カスタムは向かって行くのだった。
「……遅い」
左右から伸びる触手をバックステップでかわし、太腿部にマウントしてあるコールドメタルナイフで触手を地面に縫いつけ、2機のメタルビースト・ゲシュペンストの動きを短時間だが封じ、その間に腰にマウントしてあるブレードレールガンを両手に持ち、ビームソードを手に切りかかってきたメタルビースト・ゲシュペンストを逆に引き裂き、その銃口をコックピット部に突き刺し引き金を引く。
「……この程度で止まらないのは判っている」
生身のパイロットが乗っているのならば、コックピットを破壊されればその動きを止めるだろう。だが、インベーダーに寄生されたゲシュペンストはその程度では動きを止めない。コックピット部を破壊されながらも、拳を伸ばしてくるメタルビースト・ゲシュペンスト。破損部からインベーダーが顔を出しているが、ラトゥーニは一切怯えることも恐怖することも無く右手に持っていたブレードレールガンを腰にマウントし、右手をインベーダーに向ける。
「念動集中……T-LINKバーストッ!!」
右手から放たれた指向性を持った念動力によってメタルビースト・ゲシュペンストは吹っ飛んだ。吹っ飛んだ先にいたほかのメタルビースト・ゲシュペンストを巻き込み転倒する。だがラトゥーニはそれを最後まで見ることは無く、R-1カスタムに地面を蹴らせ、背後からの一撃を回避させ、空中でのGリボルバーの乱射でメタルビースト・ゲシュペンストの頭を吹き飛ばし、再び腰のブレード・レールガンを構えさせると同時に、接近して来ようとしたメタルビースト・ゲシュペンストに向けて何度も引き金を引かせる。
「ギャァ!?」
「がぁッ!?」
その射撃は正確無比で的確に装甲部分ではなくインベーダーの細胞を撃ち抜く、しかも足を止めての射撃ではなく高速で後退しながら、縦横無尽に伸縮する触手をまるで背中に目があるかのように避け、反撃し続けている。その光景をエクサランスのコックピットから見ていたラウルは目を大きく開き、食い入るように見つめていた。
「……すげえ、これがエースかよ……」
「あたし達とは根底から違うわね……」
ラウルとフィオナも決してパイロットとしての技量が低い訳ではない。だが、ラトゥーニとは雲泥の差があった。下手に一緒に戦おうとすればそれこそラトゥーニの足を引っ張ってしまうと言う事がこの短時間で判った。
「しかも、俺達の方に来ないようにまでしてくれてる……」
「完全に足手纏いになってるわよね。あたし達……」
レディバードとエクサランスにインベーダーが視線を向けると頭部のバルカンで威嚇射撃をして、注意を自分に引きつける。自分達より幼い相手に守られていると言うことにフィオナもラウルも僅かに落ち込むが、そんな暇は無いとレディバードのラージから通信が入る。
『フィオナ、ラウル、感心している時間も、落ち込んでいる時間もないですよ。2分後に飛行型のインベーダーが降下して来ます。そちらの相手をお願いします』
「ストライカーで空中の相手は厄介すぎるぜ、せめてフライヤーがあれば……」
「ないもの強請りをしてもしょうがないわ、それに空を飛ぼうが、地面を走ろうが結果にそう大差は無いわ」
破壊されたゲシュペンストの身体を捨て、トカゲのような本来の姿に戻るインベーダー。威嚇を繰り返すその姿にダメージを受けた素振りは無い。
「そうだな、互いに喰われない様に注意しようぜ」
「ええ、あたし達のお相手も来たようだしね……」
空に現れる漆黒の影……メタルビースト・クロガネから飛び立った飛行型インベーダーの先遣隊を見て、ラウルとフィオナは気を引き締めるのだった……。
エクサランスとレディバードからメタルビースト・ゲシュペンストを引き離したラトゥーニだが、その額には既に大粒の汗がいくつも浮かんでいた。
『あまり無茶をするな、ラトゥーニ……』
「ふう……ふう……だ、大丈夫……それにエクサランスはともかく、レディバードを失う訳には行かないから」
ラトゥーニは生まれつきの念動力者ではない、実験の結果念動力を得た後付の念動能力者だ。死んだマイの思念が身体の中にいるから念動力を攻撃に転用出来ているが、その負担は通常の念動力者の倍……いや、数倍と言っても良いだろう。それでも念動力を使ったのはインベーダーを引き寄せる為で、唯一の移動手段でもあるレディバードを失わない為の物でもあった。
『それは判るが……これ以上のT-LINKバーストの使用は危険だ、勿論T-LINKナックルもな、T-LINKリッパーや、通常武器を使え』
「……」
マイの言葉に不服そうなラトゥーニだが、次のマイの言葉で頷いた。
『私達の敵はこいつらじゃない、仇を打つ前に力尽きるのか?』
「……違う」
『なら念動力を使うな、お前ならそれを使わなくても勝てる』
マイとラトゥーニの敵はインベーダーなどではないのだ、倒すべき敵は……命を引き換えにしても殺すべき相手はベーオルフ……キョウスケ・ナンブだ。こんな所で力尽きている場合ではないのだ。
「ラウル! トドメは任せるわよ!」
「おうッ!!」
フィオナのエクサランスのクラッシャーアームが展開し、その中央のクリスタル状のパーツから放たれた光線がインベーダーの翼を撃ちぬいた、翼を失い高度が落ちたインベーダーに向かってラウルのエクサランスが飛び掛る。
「間合いを詰めるッ!!!」
閉じた状態のクラッシャーアームを何度もインベーダーを殴りつけ、その細胞を容赦なく削る。その光景を見てラトゥーニは眉を細めた。
(再生していない?)
インベーダーが脅威なのはその回復力となんにでも寄生するその能力だ。その性質上打撃武器などの効果は極めて薄く、高出力のビームで焼き払う、ミサイルで焼き尽くすと言うのが有効な手段である。だがエクサランスの攻撃を受けたインベーダーは再生しておらず、それ所かぐったりとしているように見えた。
「……時流エンジン……?」
エクサランスとR-1カスタムの違いはその動力だ。時の流れでエネルギーを発生させる……そんな眉唾物の動力を実用化段階にまで持って行ったラージ・モントーヤとミズホ・サイキ……時流エンジンは正直未知数な所が大きい。もしかすると、インベーダーには有効な手段なのかもしれない。
「シャアア!!」
「何処を狙っているの?」
R-1カスタムの首を傾けさせ、視界を潰そうとしたインベーダーの触手を回避しM-13ショットガンを叩き込み、メタルビースト・ゲシュペンストの装甲を凹ませる。
「テレキネシスミサイル……発射ッ!!」
背中のコンテナから発射された念動力によって誘導されるミサイルが、メタルビースト・ゲシュペンストを飲み込む。だがこのミサイルはインベーダーを倒す為に放ったのではない、時流エンジン、そしてエクサランスがインベーダーに有効なのかどうかを見極める為に、一時引き寄せたメタルビースト・ゲシュペンストから離脱する為に撃ち込んだのだ。
「ギギィ……!!」
「シャアアッ!?」
ダメージが蓄積したインベーダーは味方を喰らう。そうすることでインベーダーは傷を回復させ、より強くなる。だがより強くなったとしてもゲシュペンスト・MK-Ⅱの性能を十分に引き出すことも出来ず、あくまで喰らう為に襲い掛かってくるインベーダーは大した脅威でもない。
「こいつでトドメだッ!!」
エクサランスの頭部ブレードでインベーダーを切り上げ、展開したクラッシャーアームでインベーダーを掴み上げそのパワーとビームでインベーダーを地面に叩きつけるエクサランス。確かにまだパイロットとしての技量はラトゥーニと比べて格段に劣るだろう……だがエクサランスの攻撃を受けたインベーダーは再生しない、それは間違いなくインベーダーと言う脅威に対して有効な武器だ。
「行くわよ、チェストスマッシャーッ!!!」
展開されたエクサランスの胸部から放たれた光線による薙ぎ払い、それを受けたインベーダーはまるで消しゴムで消された絵のように、その部分だけが消失し、しかも再生も出来ずどす黒い体液を流し地面にのた打ち回っている。
「なるほど、これか」
これがあの司令がエクサランスを手放す事を渋った理由だとラトゥーニは判断し、のた打ち回るインベーダー目掛けてテレキネシスミサイルを撃ち込み、ラウルとフィオナと合流する。
「エクサランスの攻撃がインベーダーには有効みたい。あのゲシュペンストの装甲破壊するから、トドメをお願い出来る?」
「OK! 任された!」
「あたしもOKよッ!」
元気良く返事を返すフィオナとラウルの姿にラトゥーニは今はいない、リュウセイと顔を見て話す事が出来ないマイの姿を思い出し、かつて3人でいたことが脳裏を過ぎりリュウセイとマイが死んだ後は浮かべることのなかった笑みを浮かべた。
「皆で生き残ろう」
「「おうッ!!」」
最初は打算だった。そしてそれは今も変わらない――だけどそれでもフィオナやラウル達に死んで欲しくないと復讐に狂う心でもそう思うのだった……。
レディバードのコックピットでラージは眉を顰めた。エクサランス……強いて言えば、時流エンジンを用いた攻撃がインベーダーに有効なのはラージは勿論、操縦しているフィオナ達にとっても嬉しい誤算だっただろう。現にR-1カスタムと合流してからは、インベーダーの数は確実に減っていた……だがそれにも限界が来てしまった。
「補助エンジンに切り替えてください、これ以上は時流エンジンをメインにすればエンジンが焼きつきますッ!」
『くそッ! もう時間切れかよッ!』
『不味いわね、これはッ!』
あくまで時流エンジンは開発段階の試作エンジンだ。それをフルパワーで使用していればどこかでガタが来る。本来はサブのプラズマジェネレーターでフォローしつつ使用するのが今の時流エンジンの運用方法になる。しかしそれではインベーダーに有効打撃にはならないと時流エンジンの出力を上げた。いや上げてしまった……その事でエンジンは焼きつきを起こしかけていた。
「ラージさん、でもここで時流エンジンの出力を下げたらインベーダーは倒せませんよ!?」
「オーバーヒートして活動停止したら、それこそ終わりです。それに……もうすぐシャドウミラーの援軍が来る筈。僕達はそれを信じるしかないんです」
4分ほどで到着する。その言葉を信じたからこその時流エンジンのフルパワーだった……ラージの計算では5分はフルパワーで活動出来る計算だったが、それよりも早くエクサランスが限界を迎えてしまった。
『ラージ、もう1度フルパワーで回転させるには何分いる?』
「……5分……いや10分は必要です。元々試作機でまだテスト段階でフルパワーなんて使う前提ではなかったんです」
泣き言を言うつもりはなかった。それでも、言わざるを得なかった。これ以上フルパワーで動かせばエンジンが止まる、そうなれば、動かない機体を2機も守りながらはエースと言われるラトゥーニであっても無理だろう。
「ミズホ。ギャンランドの反応はありますか? いえ、もしくはPTでも構いません」
「い、いえ。まだ反応はありません……」
もうすぐ4分が経過しようとしていた。それでも応援の影は無い、もしやここに辿り着く前にインベーダーに撃墜されてしまったのかと言う考えが脳裏を過ぎった時、凄まじい振動が周囲を襲った。
「じ、地震ですか!? このタイミングで!」
「きゃあっ!?」
その凄まじい振動に耐え切れずミズホは勿論運動神経の悪いラージも立っていられず、レディバードのコックピットの中に倒れる。
『うおおっ!? 姿勢が維持出来ないッ!』
『ちょっ、ちょっとこの地震は大きいなんてもんじゃないわよッ!?』
『不味いッ!? フィオナ危ないッ!?』
そして人が立っていられないほどの大地震にエクサランスやR-1カスタムが耐え切れる訳が無く、その場に膝をついた。インベーダーが隙だらけのエクサランスにその牙を突き立てようとした時。大地が割れ、そこから現れたドリルがインベーダーを貫き、その身体を細切れの肉片へと変える。そして大地を砕きながらドリルの先に現れたのは眩いまでの蒼い装甲――大地を砕き地震を起こしながら円錐状の頭部パーツが姿を見せた。
「と、特機!? これがシャドウミラーの応援ッ!?」
応援が特機などと想像しているわけが無い、しかも地震を起こすほどのパワーを持っているなんて夢にも思っていないラージは驚愕に声を上げたが、それを上回る驚愕と衝撃をラージ達は受ける事となる。完全にその特機が姿を現す前にインベーダー達が触手を伸ばした、いかに特機とは言え、自由に動けないところに触手の集中砲火を受ければ少なくないダメージを受ける。ラージ達はそう考えていた……だがそれは蒼い特機……「ゲッターライガー」を知らないからこそ頭を過ぎった事だった。そして武蔵にとって、この程度の速度で迫るインベーダーの触手などそれこそ目を瞑っていても避けれるほどに鈍重な物だったのだ。
『オープンゲットォッ!!!!』
青年の声が響くと蒼い特機は自らその身体を爆発させた。ラウル達には少なくともそう見えた……だがそれはすぐに違うのだと判った。
「ぶ、分離した!?」
「あ、あんな特機があるのか!?」
80m近い特機は自ら分離し、3つの戦闘機となりインベーダーの触手をかわす。そして機首を反転させ、インベーダーへと突っ込んでいく。
『チェンジッ!! ドォォラゴォォンッ!!!!』
赤・青・黄色の順番で追突したと思った瞬間。戦闘機は一瞬で別の特機へとその姿を変えた。
「か、可変合体式の特機!?」
「信じられない……あんな事を可能にするだけの動力をどうやって確保しているんですか……」
メカニックであるミズホは目の前の光景に目を見開いた。特機と言う段階で機体の各所には複数の繊細な部品が多くある、そんな特機が変形するだけでも大変なことなのに、それが更に分離し、別の形態に変形する。そんな事はミズホの常識ではありえない事だった。
そしてエンジニアのラージも驚愕を隠せないでいた。80m近い特機を稼動させるのに必要なエネルギー、そして地震と思わせるほどの移動の振動……そして、
『くたばれメタルビースト共ッ!! ゲッタァアアッ!! ビィィイイイムッ!!!!』
インベーダーを焼き払い、回復すらも許さない大出力のビーム。可変、合体ならまだ判る。理論的には限りなく不可能に近くても、不可能に近いというだけで出来ない訳ではない。現に、グルンガスト参式と言う実例があるのだから、可変、合体が不可能ではないという事は知っていた。しかしあれだけの特機の動かすだけの出力を得れるエンジン、そしてそのフレーム……それら全てがラージの理解を超えていた。
『どっせーいっ! あんたらが時流エンジンの開発チームで良いんだよな! 助けに来たぜッ!!!』
通信ではなくスピーカーから響く大きな声。それは普段なら五月蝿いと思うほどの声だったのだが、今は何故か、その大声が自分達を鼓舞し、そして助けが来たのだという安心感をラージ達に与えているのだった……。
第16話 悪魔王の名を冠した戦神 その2へ続く
今回は武蔵合流までで区切りがいいので話を切りたいと思います。次回はギャンランドを出発する前の武蔵から話を書いて行こうと思います。その後はラウル達とゲッターでインベーダーとの戦い、そしてギャンランドの合流、メタルビースト・クロガネの出現までを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い