進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第21話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その3

第21話 砂上の楼閣/狂う孤狼/太古の邪龍 その3

 

 

雲を裂き急降下してきた異形の影……誰もが混乱する中。イングラムだけが、その生物の事を知っていた。フラスコの世界――に辿り着く前に、その生物と戦った事があったからだ。

 

「ドラゴノザウルス……ッ! まさかこんな所で見ることになるとは……」

 

超古代生物であるドラゴノザウルスは重油やPT――いや、かつての世界で言うモビルスーツなどの動力などを好んで捕食し、恐ろしい回復能力と、攻撃を受け流す独自の体組織を持ち極めて厄介な存在だった。ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてアインスト参式だけでも手に負えないのに、そこにドラゴノザウルスは加われば、全滅は間逃れない。普通はそう考えるだろう……だがイングラムは違っていた、R-SOWRDのコックピットで薄く笑っていた。

 

「エキドナ、協力しろ。あのドラゴノザウルスの注意をゲシュペンスト・MK-Ⅲとハガネに向ける」

 

真っ向から戦えば、勝ち目は0だ。だが何も馬鹿正直に真っ向から戦う必要は無い、利用できるものは何でも利用する。ドラゴノザウルスもイングラムからすれば簡単に利用でき、更に強力な戦力に過ぎなかった。

 

『し、しかし、そんな事が出来るのですか?』

 

「出来るさ。武装の威力を絞って、目の前を飛び回るぞ。そうすれば簡単に掛かる」

 

人間だって目の前で虫が飛び回ればいらつく。そしてドラゴノザウルスは飢えていて、その上凶暴だ。誘導するのはそう難しい事はでは無い。

 

『し、しかしアインストを喰らえばどうなるか判りませんよ!?』

 

「そこは賭けだな、しかも飛びっきり分が悪い」

 

アインストを喰らい、キョウスケの支配下に落ちればその瞬間に詰みだ。だが、真っ向に戦えばドラゴノザウルスを倒すには手数が足りない。それならば化け物同士を戦わせるのが最善の一手だとイングラムは考えたのだ。

 

『エキドナ、イングラムにしたがって、私も同じ考えよ』

 

『れ、レモン様……は、はい。判りました』

 

最後まで渋っていたエキドナだが、レモンからの通信でイングラムの作戦に賛同した。

 

「お前も同じ考えか、レモン」

 

『ええ、最悪のケースは考えたけど……これが最善よ。あのクラゲみたいな、龍みたいなわけの判らない化け物を上手く焚きつけて、ベーオウルフにぶつける。その後はテスラ研に急行するって言うのがね』

 

インベーダーはSRXが消え勢いが弱まっている。そしてシャドウミラーを追っていた連邦軍は壊滅した、部隊の再編成にはかなりの時間が掛かるだろう。残る懸念はアインストとアインストに寄生されたキョウスケだが、ここでドラゴノザウルスをぶつけ相打ちになってくればベスト。最悪、キョウスケの支配下に落ちたとしてもテスラ研に向かい、転移システムを起動出来ればその瞬間にヴィンデル達の勝ちが決まる。

 

(そうなれば、俺達がヴィンデル達と敵対する事になるが……仕方あるまい)

 

あくまでこの共闘はテスラ研に辿り着き、時空転移をするまでの仮初の物だ。それはイングラムもヴィンデル達も判っている、何時裏をかかれるか判らないが今は協力しあわなければ、イングラム達は元の世界に戻る事も出来ない。互いに騙しあいながら、ここまでやってきたのだ。しかし、仮初とはいえ協力関係にあったのが敵対する事になる事に僅かにイングラムは悲しさと寂しさを感じていた。

 

(俺もまだまだ甘いな)

 

今の自分の状態はストックホルム症候群に近いと感じていた。自分でもまだこんな甘さがあったかと苦笑するイングラムだが、その甘くなった自分をイングラムは嫌ってはいなかった……むしろ好ましいとまで感じていた。目的の為だけになにもかも切り捨ててきた。だからこそ、この甘さは人間らしさの証とまで思っていた。

 

「行くぞ、武装の威力は最低に絞れ、ハガネへと誘導する」

 

『了解しました』

 

R-SOWRDの隣を飛ぶプロト・アンジュルグを見て、イングラムは思うのだ。エキドナ……W-16と呼ばれる彼女と、自分は良く似ていると……そして自分にはリュウセイ達がいた。そしてエキドナは武蔵の側に在ろうとする……。

 

(お前はW-16等では無い。エキドナ・イーサッキという個人であると気付け……)

 

エキドナは今変わろうとしている、後はエキドナ自身はそれに気付くか、気付かないという瀬戸際だ。だがイングラムは敢えてそれを指摘しない、この世界ではバルシェムとして生を受けた。他人に与えられた個など、何の意味もない。自分で考え、迷い、苦しみぬいた先にしか己と言う「個」は与えられない。似たような存在だからこそ、イングラムは何も言わない。与えられた番号を越え、己を見出せとエキドナを見て、声無き声でそう激励するのだった……。

 

 

 

 

ゲシュペンスト・タイプSと共に戦場を駆ける――それはウォーダン、いや。W-15が知らない筈の事なのに、酷く懐かしく、そして心を高揚させる物だった。

 

(これがゼンガー・ゾンボルトの記憶か……)

 

W-15と言う固体はプロトタイプのW-05と同じく、他者の人格を移植する事で優れた戦闘技術を即座に発揮出来るとい言う前提で作られたWシリーズだ。そしてウォーダン・ユミルはゼンガー・ゾンボルトの人格データ、戦闘技術を与えられた固体だ。故にウォーダンはゼンガーのコピーとも言える存在だ。

 

(……何を迷う。敵は倒す……それだけであればいい)

 

しかし完全に人格データをコピーすれば欠陥が生まれる。故に、中途半端に与えられたゼンガーを形作るデータ……いや、記憶とでも言うべき存在がウォーダンを乱していた。

 

『突っ込みすぎるな! ウォーダン! 時間は無いが、無茶をして撃墜されては意味がないぞッ!!』

 

「……はッ! 申し訳ありません」

 

空を裂き現れた異形に襲われているギャンランドを見て、W-15としての部分がギャンランドの支援に向かえと叫び、ゼンガーとしての部分がカーウァイに従えと叫んでいる。どちらも正しく、そしてどちらも間違っている……その二律背反に苦しみながら、W-15……いや、ウォーダン・ユミルが出した結論それは……。

 

「立ち塞がるものは全て粉砕するッ! 貫けッ!! ドリルブーストナックルッ!!!」

 

ギャンランドから引き離されていく異形をイングラムとエキドナに任せ、ギャンランドを破壊出来るだけの力を持つアインスト参式を打ち倒す事だった。

 

「……邪魔だ。穿て……ブーストナックルッ!」

 

アインスト参式から射出された拳がドリルブーストナックルのドリル部を完全に破壊する。だがそれはウォーダンにとっては想定内の事であり、想定外ではなかった。

 

「アイソリッドレーザーッ!!!」

 

「ぬ……」

 

ドリルブーストナックルの動力部にアイソリッドレーザーを当て爆発させる。それはアインスト参式にダメージを与えるまでには至らない、だが、ウォーダンの目的はダメージを与えることでは無いのだ。

 

「行けッ! ブーストナックルッ!! アイソリッドレーザー!!」

 

「……笑止……ッ」

 

僅かによろめいた所に再びブーストナックルを撃ち込み、アイソリッドレーザーで爆発させる。ダメージを与えることも出来ず、両腕を失った……それは普通に考えればありえないほどに愚かな一手だった。

 

『……すまない、感謝するッ!!』

 

だが、アインスト参式を倒すのはウォーダンでは無い、それをやるのはカーウァイのための露払いであり、その為の道を作る。それがウォーダンが考えたアインスト参式を倒す最善の一手だった。

ーダンが考えたアインスト参式を倒す最善の一手だった。

 

『……行くぞッ! ゼンガーッ!!!』

 

破壊されたブーストナックルの煙幕を利用し、高速で地面を駆けるタイプSの背中のコンテナが開きスプリットミサイルの雨が降り注ぐ。

 

『面攻撃で制圧し、即座に点攻撃に切り替えるッ!!』

 

「効かん……ぬっぐうっ!?」

 

スプリットミサイルの弾幕が消えた直後に、爆煙を引き裂いて弾頭が2発的確にアインスト参式の露出したコアに突き刺さる。

 

(……信じられん、こんな事が出来ると言うのかッ!?)

 

それはタイプSの背負っている大口径のショルダーキャノンだった。その超巨大な大口径カノンによる、精密無比な射撃にウォーダンは目を見開いた。あの大口径であれだけの精密射撃はWシリーズでも不可能な代物だった。だが当然ながらアインスト参式を倒すには攻撃力が足りず、怒りに油を注ぐだけにしかウォーダンには見えなかった。だがそれはウォーダンの経験が足りないからこその判断であり、これがイングラムならばその神技とも呼べる操縦技術に感心していただろう。

 

「斬……艦……がぁッ!?」

 

斬艦刀を振りかぶった瞬間。アインスト参式の背中が爆発し、たたらを踏んだ。その瞬間にバーニアを全開にしたタイプSがアインスト参式の懐に飛び込んだ。

 

『敵を幻惑し、懐に切り込むッ!!!』

 

アインスト参式の背中を爆発させたのは、地面を切り裂いて迂回してきたグランスラッシュリッパーだった。スプリットミサイルを射出すると同時に、特殊なパターンを入力し、迂回させて背後を狙い。グランスラッシュリッパーの反応を感知させない為に大口径の実弾を雨霰のように撃ち込んだのだとウォーダンはこの時初めて理解した。

 

『ふんっ!!!』

 

「がっ!?」

 

飛び込み様の膝蹴り、着地と同時に回し蹴りを叩き込み吹き飛んだアインスト参式に向かって、ネオ・プラズマカッターを装備し素早く切り込んでいくタイプS。その姿、そのモーションデータはゼンガー・ゾンボルトの作り上げたPTによる刀や剣を使ったコンバットパターンだった。

 

「……その動き……はッ!?」

 

『思い出せゼンガーッ! これはお前の物だ、お前が作り出した。お前だけの物だッ!!』

 

ネオプラズマカッターを柄の部分で持ち回転させながら縦横無尽に切り裂き、袈裟、逆袈裟と流れるように叩き込まれていく斬撃……それはウォーダン、そしてアインストに寄生されたゼンガーを強く刺激した。仲間達と競い合い、そして師によって鍛え上げられた、恩師と仲間に答えるために作り出したPTの戦闘モーションだった。そしてそこまで理解した所でウォーダンは今までの動きが何なのかを理解した。

 

面制圧による開幕攻撃は「テンペスト・ホーカー」の得意とした戦闘モーションデータだ。

 

そしてデータにだけ残されていたが、大口径ライフルによる超精密射撃は「エルザム・V・ブランシュタイン」の得意とした戦闘技術。

 

アインスト参式の動きを完全に封殺する斬撃モーションは言わずもがな、「ゼンガー・ゾンボルト」……。

 

『はぁッ!!! うおおおおおおおーーーーッ!!!』

 

飛び膝蹴りからの蹴りと拳のラッシュ、そして迂回させるグランスラッシュリッパーのモーションはウォーダンは知らないが、あちら側の教導隊にいたと言う「ラドラ・ヴェフェス・モルナ」そして「ギリアム・イェーガー」の物だろう。

 

「がっぐああ……こ、これは……たた、大佐……?……カーウァイ……大佐……なの……ですか?」

 

アインストに浸食され意味不明な事を言っていたゼンガーが初めて明確な感情、そして言葉を発した。

 

『そうだ。すまないな、ゼンガー……もう私達にはお前を救う術は無い、せめて……私の手で逝けッ!!!』

 

アインスト参式の鬼面の中に腕を突っ込み、鋭く、そして早く回転する……それは背負い投げと呼ばれる柔道の技だった。そしてPTに柔道の技を使わせると言うのは「カイ・キタムラ」の得意とした戦術だった。

 

『フルパワー充電完了……許せゼンガー……ッ』

 

脚部の装甲が展開し、4つの鉤爪でタイプSを完全に固定する。いや、それだけではない、背部の大口径キャノンも地面に突き刺さり、タイプSの姿勢保持に利用される。そして肩部、胸部、腕部の装甲が展開し排熱口が露になった。

 

『ブラスターキャノン……発射ぁッ!!!!』

 

「……ああ……すいません……大佐……そして……ありがとうございます……」

 

タイプSの放った熱線の中にアインスト参式は呑まれて消えた……最後にトドメを刺してくれたカーウァイに感謝を告げながらその姿は細胞の一欠けらも残さず青白い光の中へと消えていった。

 

「……カーウァイ『ウォーダン、お前はギャンランドへ戻れ、お前に出来る事は無い』……承知」

 

今カーウァイはウォーダンの声を聞きたくなかった。その声が、その言動がどうしてもゼンガーを思い出させたからだ。

 

「……許せよ。ゼンガー……こんな事でしかお前を救えなかった私を許してくれ……」

 

部下を手にかけた……たとえ化け物に寄生されたとしていても、殺すと言う手段しか取れなかった己をカーウァイは責めた。だが、そうではない、そうではないのだ。確かにゼンガー・ゾンボルトは救われたのだ……かつての己と同じく……肉体は失われたが、魂は確かに救われたのだ。

 

「これは……ゼンガー……ああ、お前の意志、お前の願いは私が継ごう」

 

アインストと参式を跡形も無く消し飛ばしたフルパワーのブラスターキャノン……それに消されず、タイプSの前に突き立った参式斬艦刀……それはゼンガーからのカーウァイに対する感謝の証だった。地面に突き刺さったそれを引き抜きタイプSは、ドラゴノザウルスの触手に執拗に襲われているギャンランドの応援にへと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

イングラムとエキドナによるドラゴノザウルスをハガネにぶつけるという作戦は半分は成功したと言えるだろう。ドラゴノザウルス本体はアインスト・ハガネにその牙を向け、アインストハガネも触手や主砲を使いドラゴノザウルスとの戦闘を始めていた。

 

「ったくッ! 食い意地の張った奴だッ!!」

 

『……くっ、早いッ!?』

 

しかしドラゴノザウルスの触手は執拗にR-SOWRD、プロト・アンジュルグを初めとしたこの戦場にいる全員を追い回していた。

 

『なろおッ!!!』

 

『武蔵そのまま押えていろッ!!』

 

ポセイドン2を丸呑みしようとした触手を両手両足で押さえ、飲み込まれるの防ぐポセイドン2を救出しようとソウルゲインが走る。そしてその隙をゲシュペンスト・MK-Ⅲが突こうとするが……。

 

『……そうはさせないッ!』

 

『ガアアアアーーーッ!!』

 

R-1改に誘導された触手が背後からゲシュペンスト・MK-Ⅲに喰らいついた。

 

『ぐうっ!? おのれっ! 邪魔をするなあぁああーーーッ!!』

 

その凄まじい力によってゲシュペンスト・MK-Ⅲの装甲が凹むが、アインストの力によって瞬く間に再生する。

 

『……お前はここで食われて死ねッ!! T-LINKナックルッ!! がぼっ!?』

 

『図に乗るな……この小娘ぇッ!!!』

 

脱出しようとしたゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体に青白く輝くT-LINKナックルが突き刺さる。だがカウンターのリボルビングステークがR-1改の胴体を掠める。

 

「ラトゥーニ! 大丈夫かッ!」

 

『……大丈夫ッ……それにあいつを倒せるのなら……死んだとしても本望ッ!!!』

 

ラトゥーニの言葉に込められた激情に武蔵は何も言えない、何を言ってもラトゥーニは止まらない。止まるつもりも無いのだ、自分にとって大事な全てを破壊したゲシュペンスト・MK-Ⅲを、キョウスケ・ナンブを殺すと言う憎悪だけが壊れかけの身体を動かし続けていた。それを失えばラトゥーニはも動けない。仮に無傷でキョウスケを殺したとしても、その精神も共に死ぬだろう。

 

今、ラトゥーニ・スゥボータを生かしているのはキョウスケへの憎悪であり、キョウスケが死ねばラトゥーニも死ぬ。それが判っているからラトゥーニは止まらないし、止まれない。そしてそれが判っているから武蔵達もラトゥーニを止めれない。

 

『何を言っても無駄だ、それよりもあの化け物がベーオウルフを狙っている内に決めるぞッ!』

 

ドラゴノザウルスは食い千切っても、即座に再生するゲシュペンスト・MK-Ⅲを餌として決めたのか、ポセイドン2やソウルゲインに対して反応が鈍くなった。

 

「「「「シャアアアーーーッ!!」」」」

 

『邪魔をするな! この下等生物がッ!!』

 

スクエアクレイモアで貫こうが、リボルビングステークで頭部を粉砕しようが瞬く間に再生し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲに執拗に食いつくドラゴノザウルスの触手。ドラゴノザウルスからすれば、ゲシュペンスト・MK-Ⅲは食べても食べても再生するご馳走だ。ほかの物を食べるよりもよっぽど効率が良い。

 

『このような形での決着は俺としても本望では無いが……果てろッ!!』

 

『ゲッタァアアーーキャノンッ!!!』

 

『……早く死ねえッ!!』

 

青龍鱗とゲッターキャノンがゲシュペンスト・MK-Ⅲの胴体を貫き、そこに追撃R-1改が容赦なく銃撃を撃ち込む。ただ殺すのでは無い、化け物に食われその胃袋の中で何度も再生し、何度も死ねと言う激しい憎悪を込めたジャイアントリボルバーが火を噴き続ける。

 

『……ぐぐう……ふざけるなあアアアアーーッ!!!』

 

触手に喰らいつかれているゲシュペンスト・MK-Ⅲは自ら手足を引き千切り、ブースターを全開にしてドラゴノザウルスの口から脱出する。その予想外の動きに武蔵もアクセルも反応出来ず、赤熱化したヒートホーンを翻し胴体部と頭部だけになったゲシュペンスト・MK-Ⅲが向かったのはR-1改の元だった

 

『え……げぽっ……』

 

『ははははあーーッ!! 身の程を知れッ!!』

 

ヒートホーンはR-1改のコックピットブロックの間近に突き刺さっていた。通信から聞こえてきたラトゥーニの声はくぐもり、口から溢れたであろう粘着質の水の音に武蔵の脳裏に最悪の光景が広がったその時……。

 

『ふぃ、フィオナアアアアアアーーーッ!!!』

 

身を裂くようなラウルの悲鳴が聞こえ、その声のほうに視線を向けた武蔵は顔を歪めた。ドラゴノザウルスの触手が地面から顔を出し、エクサランスの胴体にその牙を突き立てていた……一瞬、瞬き程度の時間で2人も仲間が同時に死に掛けている……その絶望的な状況下で空間が歪んだ。

 

「まだこれ以上何が起きるって言うんだよッ!!」

 

そう叫ぶ武蔵の視線の先で空間が歪み、そこから姿を現したのはメタルビースト・SRXと共に消えた筈のピンク色の謎の物体だった。

 

「ちい! またあいつかッ! 武蔵ッ! ゲシュペンスト・MK-Ⅲを引き離すぞッ!!」

 

『……い、良い……必要……ないッ!』

 

ヒートホーンで身を焼かれながらR-1改は動き出し、再生が進んでいないゲシュペンスト・MK-Ⅲの頭部を胸に掻き抱くようにして、飛翔する。

 

「なッ!? 何をするつもりだ!」

 

『……言ったでしょ? キョウスケ・ナンブを殺せるなら……死んだとしても本望だってッ!!!!』

 

血を吐きながらそう叫んだラトゥーニの叫び声に応えるように、R-1改の目が光り輝き、装甲を軋ませながら再起動を果たす。そして再生しようとしているゲシュペンスト・MK-Ⅲを抱えたまま、ドラゴノザウルスの本体へと向かう。

 

『貴様! 放せッ!!』

 

『『げほっ!? ごぷっ! ふ、ふふふふ……放さない……お前は……私と……私達と一緒に地獄に落ちろッ!!』』

 

血反吐を吐きながら叫んだラトゥー二の声は何故か2重に聞こえた。だが武蔵にとってはそれ所ではない、ラトゥーニを助けようと動き出そうとした時ソウルゲインがポセイドン2の肩を掴んだ。

 

『あいつは覚悟を持って行動している……それを止める事は出来ない』

 

「で、でもッ!」

 

『止めた所であいつはどうせ死ぬ、ならば……あいつの願いを叶えてやれ。ギャンランドに戻るぞ』

 

冷酷な判断だった。だが死ぬのならば……死んでしまうのならば刺し違えてもキョウスケを殺すと覚悟を決めたその意志を尊重してやれといわれ、武蔵は操縦桿を強く握り締め、噛み締めた唇の端から血を流しながら判りましたと返事を返し、ソウルゲインと共にギャンランドへと方向転換する事しか出来なかった。

 

『放せ! 放せえええええッ!!!』

 

ヒートホーンの熱に焼かれ、再生しつつあるゲシュペンスト・MK-Ⅲの腕に殴られ、コックピットの中にレッドアラートが鳴り響いているが、ラトゥーニの顔には安らかな笑みさえ浮かんでいた。

 

(もう少しだ、頑張れ)

 

(うん。大丈夫)

 

痛みも何も感じない、だから最後まで操縦桿とペダルを踏んでいられる。途切れ途切れになる意識もマイのおかげで途切れる事無く、最後まで憎い相手を恨んでいられる。

 

「シャアアアーーーッ!!!」

 

アインストハガネのブリッジを噛み砕いたドラゴノザウルスが自分に向かってくるR-1改とゲシュペンスト・MK-Ⅲを見て歓喜の声を上げる。

 

『貴様死ぬつもりか! 放せ!』

 

「放さない……一緒に地獄に落ちろッ! キョウスケ・ナンブッ!!」

 

半狂乱になって振るわれる拳にR-1改の頭部モニターが破壊され、コックピットも砕かれ、外の空気に晒される。それでも、ラトゥーニは操縦の手を一切緩めない。

 

『こ、こんな!? ふ、ふざけるなッ!! こんな事を許すものか!!』

 

「お前に許される必要なんてないっ!! 地獄に落ちろぉおおおおおーーーッ!!!」

 

『くたばれッ! 偽りの存在よッ!!!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲの拳がコックピットごと、ラトゥー二を貫いた。ラトゥーニは絶命してもなお、操縦桿を握り締める手とペダルを踏みしめる力を緩めない……。

 

『後は私に任せろ、ラトゥーニ』

 

死んだラトゥー二の肉体を精神だけのマイ・コバヤシが操り、離脱しようとしていたゲシュペンスト・MK-Ⅲを念動フィールドの中に閉じ込める。

 

『くたばり損ないがああああああーー!!!』

 

『ははは。死ね、皆の分も苦しんで死ねッ!! キョウスケ・ナンブッ!! ははははッ!!! ははははははははーーーッ!!!!』

 

マイとラトゥーニの2人の声が崩壊していくR-1改の中で響き、念動フィールドを破ろうともがくゲシュペンスト・MK-Ⅲと共にR-1改はドラゴノザウルスの口の中に飛び込み、その牙にR-1改とゲシュペンスト・MK-Ⅲは噛み砕かれ爆発の中に2機の姿は消えていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

壮絶なラトゥー二の死に様に悼む暇も、嘆く暇も無く新たな異常現象がギャンランドを襲っていた。

 

「こ、これはッ!? タイムタービンが……! 出力が勝手に上昇しているッ!?」

 

「ラージさん、この反応は!」

 

「時粒子が漏れている………! いや、これはッ……!」

 

あの謎の物体が出現してからエクサランスの時流エンジンが完全に暴走している。それに気付いたラージとミズホは席を立った。

 

「待って、何をするつもり!?」

 

「ここに居ても時流エンジンの暴走は止められない! 下手をすれば、この空域全域が吹き飛ぶッ!」

 

「だから、私とラージさんで外側から時流エンジンの暴走を止めます! 今の内にギャンランドはテスラ研へ向かってください!」

 

「待ちなさい! ああっ! もうッ!! どうして若い子って言う事を聞かないのかしらねッ!!! ヴィンデル!」

 

「仕方あるまい……各機ギャンランドへ帰還せよ。ギャンランドはテスラ研へと急行する、繰り返す、各員はギャンランドへ帰還せよ!」

 

ヴィンデルのギャンランドへの帰還命令と入れ違いでレディバードがギャンランドから出撃する。

 

「ラージ、ミズホッ!? 何をするつもりだ!?」

 

「何をって決まっているでしょう! 時流エンジンの調整ですよッ!」

 

ドラゴノザウルスの牙痕が痛々しく残るエクサランスにレディバードが近づく、それを見て武蔵は足を止める。

 

「……俺達の目的を忘れるな。今の内に離脱する」

 

「で、でも」

 

「……酷だが仕方ない。武蔵……戦場にいるんだ。こういうこともあると理解しろ。誰も死なない、皆生き残って戦いが終わるなんて都合のいい話はこの世界には存在しない」

 

この場に残ればフィオナ達が死ぬ。それが判っているから武蔵は足を止めた……イングラムもカーウァイも見捨てたいわけでは無い。だが安定するかもわからない時流エンジンの調整の為にこの場に残り続ける事は出来ない。そして命を賭けるほどラウル達と親交も無いと冷酷に、武蔵の甘さを断ち切るように告げる。

 

「……ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、ハガネが消えた今がチャンスだ。この好機を捨てるわけには行かない……酷な話だがな、今は自分が生き残る事を優先しろ」

き残る事を優先しろ」

 

「……はい。すいません」

 

ドラゴノザウルスとあの奇妙な物体が交戦している隙に離脱する。この決定は覆らないと判り、武蔵は後髪を引かれる思いでギャンランドへ乗り込み、ギャンランドは時流エンジン開発チームを残し、ピーターソン基地から飛び立ったのだった。

 

「ラ、ラウル……! 今の内に逃げて……ッ! 皆を連れて……早く……」

 

「馬鹿言え! お前を置いていけるかっ!!」

 

鋭い牙痕を残すエクサランスを抱きかかえ、龍の首の生えた触手を回避しながらレディバードに向かおうとするラウルにフィオナが自分をおいていけと言うが、ラウルは馬鹿な事を言うなと叫んだ。

 

「いいから……ッ! ラージやミズホ達と一緒に……ッ! 早く……ッ! あたしの機体は……もう……ッ!」

 

フィオナのエクサランスを抱えていたラウルのエクサランスが弾き飛ばされる。今も放電を繰り返し、爆発寸前のエクサランスが宙に浮かぶ。

 

「ラージ、ミズホ! これはどうなっているんだ!?」

 

自分の理解を超える現象を目の当たりにしてラウルがどうなっているのかとラージ達に答えてくれと叫んだ。だがラージ達もそれ所ではなかったから、ラウルの問いかけに答える事は出来なかった。

 

「ラ、ラージさんッ! 1号機の出力が!!」

 

「180……240……! 380……500……ッ! まだ上がるッ!」

 

今までの時流エンジンの出力をはるかに越える出力値をマークしている。それを見た2人の脳裏を過ぎったのは「暴走」の2文字。

 

「あの損傷でこの出力じゃ、機体が保ちません。ラウル! クラッシャーアームで1号機のコックピットブロックを引き抜いてください!!」

 

最終手段としてエクサランス1号機を破壊してでも、フィオナを救出する事を選んだラージだったが、それは余りにも遅すぎた。

 

「な、何だ!? エクサランスが!?ッ こ、こっちも出力がッ!! エクサランスが言う事を聞かないッ!?」

 

「ラウル! タイムタービンを止めて下さいッ!!」

 

「駄目だ、制御出来ないッ! タービンも、機体も!!」

 

「何ですって!?」

 

1号機に続き2号機のエクサランスも暴走した……今までなかった事にラージ達は完全に混乱していた。

 

「ラウルさん、フィオナさん、脱出して下さいっ!!」

 

脱出装置で脱出してくれとミズホが叫んだが、ラウルとフィオナはそれは出来ないと呟いた。

 

「無理……よ」

 

「完全にコンロトールが聞かない、脱出装置もさっきから何回も起動させてるけど、動かないんだッ!!

 

ラウルもフィオナもこの場で死ぬつもりはなかった。だからさっきから緊急脱出装置を起動させていたが、エラーと繰り返し表記されるだけだった。

 

「コントロールが利かないの……タイムタービンも止まらない……」

 

「それなのにエネルギーばかりが作り出されてる! くそッ! どうなっているんだよッ!!」

 

「くっ! こちらからの緊急制御も受け付けない!」

 

「なら、EリミットでET-OSを落とすのはどうですか!?」

 

「それは既に試しました! 完全に制御不能なんですよッ!」

 

ラウルとフィオナを救おうと必死に考えるラージ達だったが、何をしてもエクサランスの暴走は止まらなかった。

 

「ミ、ミズホ……ラウルの事、お願いね……あの人、頼りない所があるから……」

 

「フィ、フィオナさん、何を!?」

 

「ラージ……あたし達の研究を……必ず……」

 

「その先の台詞は言わせませんよ! 機体を前に! 何とかして回収を!」

 

遺言染みた言葉を聞いて、そんな言葉は聞きたくないとラージが叫び、遠隔操作ではなくレディバードの中に回収し、そこでの緊急停止を試みる為にレディバードをフィオナのエクサランスの近くに移動させる。

 

「くそっ! 言うことを聞け! エクサランス!!」

 

どんどん出力を上げるエクサランスにラウルは半分パニックになっていたが、それでもフィオナを救う策を模索する。

 

「ハ、ハッチも開かない……! まったくコントロール出来ない! ちょ、調整をミスってたのか……!?」

 

「ゴアアアアアアアアアアーーーーッ!?」

 

マニュアルでエクサランスから脱出を試みたが、それも出来ず自分達が調整ミスしたのではと言う考えが脳裏を過ぎった時。凄まじい咆哮が響き渡った、ドラゴノザウルスが全身からどす黒い体液を流し、その上で浮かぶ奇妙な物体……デュミナスから伸びた鎖にドラゴノザウルスは完全に動きを封じられていた。

 

『……須く過ちは存在する。過ちがあるからこそ、真実が存在する……そして、真実を知るため、私は行かねばならない……創造者の下へ……あの『鍵』を使い、そしてゲッター線の力を得て、私は今度こそ……』

 

脳裏に響くデュミナスの声にラウルは顔を歪めた。その瞬間にラウルのエクサランスはフィオナのエクサランスから突き飛ばされていた。

 

「フィオナッ!! お前、何をしてるんだッ!」

 

「ラウル……聞いて……あたしが……いなくなっても……しっかり……」

 

「お、お前、何を!? 諦めるな! 今助けるからッ!!」

 

「しっかりね……おにい……ちゃん……」

 

フィオナの乗るエクサランスから凄まじい光が走り、その光はピーターソン基地すべてを包み込み、光が晴れた時……そこには何も存在していないのだった……。

 

 

 

第22話 楽園と地獄への旅路 その1 へ続く

 

 




今回の話はイベント戦闘多目と言う感じでした。ラト(INマイ)も死亡。ラウル、フィオナは消息不明……と世界最後の日編に続き、武蔵のメンタルを抉っていく展開でした。次回の章でシャドウミラー編は終わりの予定です、その後はフラスコの世界へ戻って話を進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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