第1話 暗雲 その1
第1話 暗雲 その1
新西暦187年……
連邦政府に対し反旗を翻したディバイン・クルセイダーズとの「DC戦争」。
そしてその影に隠された旧西暦に人類との生存競争を繰り広げた「恐竜帝国」の復活。
異星人エアロゲイターとの戦い「L5戦役」が開戦した。
巴武蔵とゲッターロボのアイドネウス島での壮絶な討ち死にから半年後……。
大戦によって中枢部や要人を失った地球連邦政府は組織の再編を余儀なくされた。
コロニー統合府大統領であったブライアン・ミッドグリッドが連邦政府大統領に就任した。
そして、彼は連邦議会でL5戦役の情報を公開する事に踏み切った。
後に「東京宣言」と呼ばれるこの発表で地球外知的生命体の存在が公式に認められ、
彼らが地球人類にとって脅威となるなることが示唆された。
そして「L5戦役」で終始先陣を切って戦い「MIA」となり行方不明になった武蔵のことも言及した。
シュトレーゼマン達によってあらぬ罪をかせられて、地球を守る為に戦い続けた武蔵。
アイドネウス島での特攻間際の映像も交え、如何に武蔵が地球の為に貢献したかを訴えた。
さらにミッドグリット大統領は地球圏の一致団結を訴え、連邦軍の組織改革と軍備増強計画「イージス計画」を発表した。
そして、その計画の名の下に人型機動兵器の量産や強化などが進められた。
「L5戦役」で最後まで主力となった「ATX計画」「SRX計画」の続行。
伊豆基地そしてテスラ研が主導になった「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」計画。
月のマオ社が主導になった「ヒュッケバイン・MKーⅢ」計画。
そしてブライ議員が主導となった「量産型ゲッターロボ計画」
様々な計画が立ち上げられ地球を守る為に人種、組織を超えて動き出す人類。
だが、それらの陰でうごめく者達がいた……。
かつて、ビアン・ゾルダーク博士が率いた軍事結社「ディバイン・クルセイダーズ」の名を騙るゲリラ。
連邦政府や連邦軍内で軍事政権の樹立を目論む者達……それらを繋ぐ「影」……。
突如過激派に転向する穏健派の議員達……。
そして、「アインストシリーズ」と呼ばれる謎の物体群……。
かつて地球を支配しようとした「百鬼帝国」の復活。
地球を自らの種族の楽園とするべき暗躍する「コーウェン」と「スティンガー」……。
地球人類は今、さらなる混迷の渦へ陥ろうとしていた……。
ワシントン……連邦軍会議場から背広のネクタイを緩めながら、壮年の男性が顔を見せた。「L5戦役」にも参加し、連邦軍有数のゲシュペンスト乗りであり、新・特殊戦技教導隊隊長「カイ・キタムラ」は太陽の光に目を細めながら外で待機していた2人の男女の声を掛けた。
「……待たせたな、2人共。随分と会議が長引いてしまったようだ」
「いえ……大丈夫です。カイ少佐」
「どうでした? イージス計画の定例会議の方は?」
カイと同じくL5戦役を潜り抜けた若いが優秀なパイロットである「ラトゥーニ・スゥボータ」と「ライディース・F・ブランシュタイン」がカイに会議の結果を尋ねる。
「前向きな背広組が増えたな。DC戦争前とは大違いだ」
「L5戦役でビアン・ゾルダーク博士の警告が正しかったことが証明されましたし……ミッドクリッド大統領の東京宣言の影響も大きいと思いますね」
L5戦役……いや、もっと前。ビアン・ゾルダークが現行政府に反旗を翻す切っ掛けとなった。地球外生命体による地球侵略――以前は夢物語と言われたが、それが事実となった今は状況が大きく変わっていた。
「お前達にも見せてやりたかったぞ! ゲシュペンストを旧型と抜かしていた背広組が手の平返しをする光景をなッ!」
「……カイ少佐。余り大声で言うべきではないかと……」
会議場の前なので誰かに聞かれるかもしれないとラトゥーニが注意するが、カイは上機嫌でラトゥーニの警告も聞き流していた。
「トライアウトはゲシュペンスト・MK-Ⅲの勝ちだ。ははははッ!! 良い気分だッ!!!」
時期主力量産機の座を勝ち取ったのは一度はトライアウトに敗れた「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」だった。L5戦役の主力として戦った「ゲシュペンスト・シグ」そしてカイとギリアムの「ゲシュペンスト・リバイブ」の戦闘力の高さと整備製、汎用性、拡張性の高さが認められた形となった。
「カイ少佐はそうはいいますが、量産型ヒュッケバインの性能もそう悪くはありませんよ?」
「む……それはそうだが……今の連邦のベテランはゲシュペンストに慣れている。お前の気持ちは判るが、やはり俺含めてベテラン勢はヒュッケバインよりも、ゲシュペンストの方が好きなんだよ」
トライアウトの最終段階は会議だけでは決まらないと、各国の連邦軍基地に10機ずつ「量産型ヒュッケバインMK-Ⅲ」「量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」とそれらの機体の拡張パーツ込みで運び込まれ、実際に操縦し、拡張パーツの装着による操縦性に変化、そして整備性などのテストを行った結果。実戦に出ていない若い兵士は操縦性の良い「量産型ヒュッケバインMK-Ⅲ」を熱望したが、1度でも実戦に出たパイロットは「量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」を望んだ。そしてそれは整備性もゲシュペンスト・MK-Ⅱに近いと言う事で殆どの整備兵も量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲを希望したのだ。その結果が量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲの正式量産機への決定と言う結果を齎した。
「ラドラもきっとこの結果を喜んでいるだろう」
ゲシュペンストをこのまま埋もれさせないために動き出し、L5戦役と言う恰好の舞台でゲシュペンスト・リバイブを送り出した立役者…
…元教導隊の「ラドラ・ヴェフェス・モルナ」も喜んでいるだろうとカイが笑うと会議室の扉が開いて、疲れた様子のサラリーマン風の男が姿を見せた。
「ああ、社長になんていえば良いのか……」
「メイロン常務。お気持ちは判りますが、これも現場の意見の形ですよ」
「ええ、ええ……判ってますよ。カーク博士の暴走を止めれなかった我が社にも問題があります」
マオ社の社長の「リン・マオ」に代わり、会議に出ていた「ユアン・メイロン」はヒュッケバインがトライアウトに落ちた事に肩を落としていた。
「俺は良い機体だと思いますよ。量産型ヒュッケバインMK-Ⅲは」
「……ありがとう、ライディース少尉。だがあの拡張パーツは正直どうかね?」
ユアンの問いかけにライは何も言えなかった。実際の所、量産型ヒュッケバインとゲシュペンストのスペック自身にそう大差は無かったのだ。勝敗を分けたのは拡張パーツの有無が大きかった……個性が少なく汎用性に秀でたゲシュペンストの強化パーツと、癖の塊の強化パーツ……これが勝敗を分けた要因の1つだった。
「お父様! 結果は……駄目だったのね?」
「あ、ああ……リオ。やっぱりカーク博士を止めるべきだったね」
止まった車から姿を見せたチャイナ服の美少女「リオ・メイロン」にユアンは肩を深く落として溜め息を吐いていた。
「しょうがないですよ、常務。お疲れ様でした」
「リョウト……久しぶりだな」
「ライ少尉、まさかこんな所で会うなんて思ってなかったですね」
ライ達と共にL5戦役を駆け抜け、リオと共にマオ・インダストリー社に就職した「リョウト・ヒカワ」も懐かしい顔を見て小さく微笑んだ。
「お前も休暇なのか?」
「ええ。でも、色々あって、成り行きでこうなってしまって……」
ははっと困ったように笑うリョウトにライは苦笑した。色々あっての部分が何を意味しているのか察してしまったからだ。
「……何となく想像はつくが」
「本当は1人で休暇を取るつもりだったんですけど……ね」
大人しい性格のリョウトの意見を強気な性格なリオが封殺した形で休暇にリオもついてくることになってしまったのだろう。
「付き添いが増えたのね」
「う、うん。断り切れなくて。結局、半分は仕事みたいになっちゃったんだ」
休暇の筈なのに、リオがついてくると聞いて、リンの代わりに会議に出席すると言ったユアンも同行した結果。リョウトの久しぶりの休暇は半分マオ社の仕事になってしまっていた。
「……あ~あ、のんびりと羽が伸ばせるいい機会だと思ったんだけどなぁ」
「伸ばすなら1人で! いや、保護者同伴でだッ!」
リオとすれば、邪魔者なしで恋人のリョウトと共に久しぶりの地球でのんびりと旅行をするつもりだった。だが親馬鹿のユアンがそれを許さなかったのだ。
「もう、父様ったら……いつまでも子供扱いするのは止して」
「何を言う。私はお前が心配でだな……」
年頃の、しかも嫁入り前の娘が男と旅行に行く……ユアンはそれを聞いて、黙っていられるような性格ではなかった。そしてユアンの言動に同じく娘を持つカイが同調した。
「判ります、判りますぞ、常務。年頃の娘を持つ親として、そのお気持ちは」
「おお、カイ少佐! カイ少佐からも言ってください! た、確かにリョウト君は好青年であると言う事は認めるのですが……それとこれとは話は別なのだとッ!」
「良いか、リオ。お前がいくつになってもだな、常務の子供であることに変わりはないんだ。そもそも、親というものは……」
完全に薮蛇で説教が長い事で有名なカイに掴まった事にリオは天を仰いだ。
「……所で、少尉達はこれからヒッカムへ戻られるんですか?」
「いや、その前にラングレーへ立ち寄る。特殊戦技教導隊の新メンバーの選考試験があるんでな」
カイが隊長を務める新特殊戦技教導隊の噂はリョウトも聞いていた、マオ社で最初のロールアウトした量産型ヒュッケバインMK-Ⅲの配属先だからだ。
「良い人材は見つかりそうですか?」
「ごく普通に優秀なパイロットなら、多くいる。だが、良く言えば独創的、悪く言えば無茶なモーションを構築し、それを実戦で使いこなす者は数少ない」
「独創的……例えば、リュウセイ君みたいな?」
リョウトの例え話にライは苦笑して頭を振った。
「あいつのモーションは、どちらかと言えば基地祭のデモンストレーション向きだ」
「ああ……凝ってますもんね、彼」
戦技隊のモーションデータとしては最悪だが、基地祭りのデモンストレーションとして、場を盛り上げるという意味ではリュウセイのモーションデータは極めて優秀だろう。
「……最近のリュウセイは凄く頑張ってる。ちゃんとしたモーションデータも作ってる」
想い人のリュウセイの事と言う事でラトゥーニがリョウトとライの話に割り込んできた。
「そうなのか? 俺はそんな話は聞いてないが?」
「……驚かせるって言ってて、偶に私に意見を聞いてきてる」
自分達の知らない所でリュウセイとラトゥーニの関係が良い物になっている事に驚きながらも、リョウトとライは微笑ましい物を見るような目でラトゥーニを見つめていた。
「……男親はな、娘に対しては不器用なものなんだ。色々と偉そうに言っていてもな、心の中じゃ結構気を使っているんだぞ。だから……」
そんなラトゥーニは恋する乙女の1人として、死んだ目をして説教を聞いているリオに対して助け舟を出した。
「……少佐、そろそろ時間です」
「ん? ああ、そうだな。では、常務。自分達はこれで」
ラングレー基地に向かう時間だと告げられ、カイは説教を切り上げた。リオはラトゥーニに助けられた事を驚きながらも、ありがとうと手を合わせていた。
「……あの、父様。父様はこれから仕事の打ち合わせよね?」
「ああ、ポールスター・システムズでな、それがどうかしたか?」
「じゃあ、その間、リョウト君と2人でラングレーに行ってもいいかしら? クスハやブリット君達に会えるかも知れないし…」
リョウトやユアンの意見を聞かず話を進めるリオ。その強気な態度と口調にリョウトが丸め込まれたのは想像するに容易い光景だった。
「いや、あの、そんなこと言われても……それに都合も悪いだろうし……」
カイにリオを止めてくれと言う視線を向けるリョウトだが、カイは腕を組んで何度か頷くだけだった。
「ふむ……今となっちゃ、あいつらと会える機会はそうないだろうからな。何なら俺達と一緒に行くか?」
「え? いいんですかッ!?」
「でも、任務の邪魔をする訳には……」
乗り気のリオに対して邪魔をしたら悪いというリョウト。だが話は既に進んでしまっていた。
「構わん。選考試験は明日だからな。ついでに仕事の1つや2つ、手伝ってくれると助かる。常務、お2人は私がお預かりしましょう」
「カイ少佐がいるなら心配ない。娘達をよろしくお願いします」
やったあと喜ぶリオと天を仰ぐリョウト……しかしまさかラングレー基地で地球に起きようとしている大きな事件に巻き込まれることになるとはリョウト達は夢にも思わないのだった……。
格納庫の前で上半身裸で日本刀を熱心に振るう青年――「ブルックリン・ラックフィールド」の姿は今や新しいラングレー基地の名物になっていた。
「シィィ……はッ!!!」
鋭い気合と共に振るわれた刃は凹んでガタの来たゲシュペンストの装甲版を両断する。
「ブラボーッ!!!」
「ジャパニーズ侍に修行を受けただけはあるぜッ!!」
「ヒュー♪ 見てくれよ、サムライブレードに刃零れ1つないぜッ!!」
ブリットの鍛錬を見ていた整備兵達が口笛を吹きながらブリットに歓声を向ける。
「は、はは……どうも」
さっきまでの引き締まった表情では無い。少し困惑したような表情でブリットは日本刀……武蔵の日本刀を鞘に納め、鯉口を紐で縛る。
(……まだ全然だな)
斬った後がぎざぎざでその太刀筋はブリットの求める物とは程遠い。小さく息を吐いたブリットの通信機が音を立て、それに出たブリットは顔色を変えてブリーフィングルームに向かって走り出した。
「……キョウスケ中尉! クスハが試験場にいるって、どう言うことなんですかっ!?」
ブリーフィングルームに駆け込むなり状況説明を求めるブリット。ブリーフィングルームにいた白いジャケットを羽織った金髪の美女……
「エクセレン・ブロウニング」も困ったように頬をかいた。
「なんていうか……どう言うもこう言うも、そう言うことなのよね……ブリット君に伝えてなかったっていうのは、私達の落ち度だけど…」
「急な話だったのは確かだ。T-LINKシステムのデータ取りということで申し入れがあった」
エクセレンが助けを求めるように、赤いジャケットを羽織っている青年――「キョウスケ・ナンブ」に視線を向けるとキョウスケは淡々と状況説明を始めた。
「でも、今のクスハは……それにデータ取りなら、自分だって!」
L5戦役をグルンガスト弐式に乗りブリット達と共に戦いぬいた「クスハ・ミズハ」はL5戦役の後、本人の希望もあり、正式な軍属となる為の訓練中だ。それなのになぜそんなクスハが再びグルンガスト弐式に乗っているのかとブリットは声を荒げた。
「タイミングの問題だ。お前にはマクディルでの任務があったからな……加えて、先方が欲しがっていたのは特機タイプのデータだった」
「だから、クスハとグルンガスト弐式だったと言うことですか」
ブリットもT-LINKシステムの適合者だが、その搭乗機はパーソナルトルーパーである。ヒュッケバインMK-Ⅱだった、データがあると言われればラングレー基地の新しい司令――「クレイグ・パストラル」。パストラルの性が示すとおり、DC戦争で殉職した「グレッグ・パストラル」の息子で32歳の若手の司令官ではその要請を断りきれなかったのだ。
「……運が悪かったとしか言えんがな」
「あんな事になるなんて、考えてもいなかったし……ねえ」
まさか試験場がテロリストに制圧されるなんてキョウスケ達も、そしてクレイグも想像もしていなかった。
「それは判ってます! でも、もしかしたら、クスハや試験場の人達は……ッ!」
「だからそれは君達に確認して来てもらう」
「え!? し、司令ッ!?」
ブリーフィングルームに入ってきたクレイグの姿にブリットは驚き、キョウスケ達から僅かに遅れて敬礼する。
「すまなかった、私の判断ミスと言わざるを得ない……キョウスケ・ナンブ中尉、およびATXチームに第4試験場を制圧したテロリストの鎮圧を命じる」
「了解しました。司令」
「ああ、頼む。それと……この鮮やかな手並み、内通者の可能性がある。救出作戦は慎重に行ってくれ、見慣れないアーマードモジュールの目撃情報もある――それに1つ気がかりな事がある」
「気掛かりな事とは?」
「ケネス・ギャレットの事だ」
ケネス・ギャレット……本来ならば、この新生ラングレー基地の司令となる男だったが、L5戦役中に政府高官に賄賂、女性兵士へのセクハラ、更にアードラーとの通信による情報漏洩……数多の犯罪で投獄された男だ。
「ケネスがどうかしましたか?」
「噂の段階なのだが……ヴァルシオンシリーズらしき物をラングレー基地に運び込んでいたと言う噂がある。そして運び込まれた場所が……廃棄予定の第4試験場だ」
新しく建築されたラングレー基地。その中で第4試験場は老朽化が進んでおり、近いうちに取り壊される事が決定しており。明日行われる筈の新生教導隊の入隊試験を最後に封鎖されるはずの場所だった。
「それはとてもきな臭い話ですね、司令」
「ああ、封鎖されるはずの第4試験場をピンポイントで制圧したテロリスト……お誂え向きに用意された人質……これを怪しむなと言うのは無理がある」
「第4試験場を指定したのは確か、イスルギ重工でしたね?」
「量産型ゲッターロボの試験としてな……」
イスルギ重工はDC戦争の時にビアン……いや、正しくはアードラーに協力した事もある会社だ。今回の件はイスルギ重工と癒着している軍上層部が手引きした可能性が極めて高い。
「了解しました、ではATXチーム出撃します」
「あくまで先行偵察だ、危険と判断したら一時撤退してくれて構わない」
グレッグと異なり慎重な性格のクレイグの指示にキョウスケ達は敬礼を返し、ブリーフィングルームから出て行った。
「頼むぞATXチーム。父さんが選んだお前達を私は信じている」
その背中を見つめていたクレイグはそう呟き、ラングレー基地のテロリストによる制圧の指示を取る為、自分も司令室に足を向けるのだった。
「中尉、あと10分で目的地に到着します」
レディバードで第4試験場に向かうキョウスケ達に操縦室からの通信が入る。
「了解した。こちらはいつでも出られる」
レイディバードの格納庫でパイロットスーツに着替えていたキョウスケが返事を返すと、エクセレンが通信端末を片手にキョウスケに声を掛けた。
「はぁい、キョウスケ。最新情報を聞きたくなぁい? どうもイスルギ重工の保安課長がぐるぐる巻きにされたみたいよ?」
「イスルギがぐるぐる巻き?……何の話だ?」
あまりに抽象的な言葉にキョウスケがそう尋ねるとエクセレンは両手を合わせて、キョウスケに突き出した。
「お縄を頂戴したってこと。ネットのニュースをね、ちょっとこっちで調べてたのよ、リオンタイプのパーツを4機分横流し……やるわねえ」
「件のテロリストに……ですか」
このタイミングでの横流しの情報……そして第4試験場を制圧したテロリスト……全てが1つに繋がる話だ。
「まあ、間違いないでしょ。占拠事件自体は、さすがに伏せてるみたいだけど……正規の命令系統より民放の報道から下りるソースの方が速いって、大問題じゃない?」
「……なるほど、今回の件は相当根深いな、テロリストに情報を横流しし、人質も取られたラングレー基地への責任追及、そして民放の利用……いやらしい一手だ」
「クレイグ司令を引き摺り下ろすつもりね。あーあ、やだやだ、どうして人間同士で争ってるのかしらねえ……」
若く基地司令になったクレイグへのやっかみを含めての民放への情報のリーク。明らかにこれはクレイグに対する政治攻撃だった。
「で、ではクレイグ司令は司令の任を外されると言う事でしょうか?」
「そうさせない為に俺達を司令は派遣したんだ。その信頼に応えるぞ」
グレッグの意志を継いでラングレー基地の司令のなったクレイグからの信頼に応えるぞとキョウスケが口にし機体に乗り込むと同時に、レイディバードに警報が鳴り響いた。
「0時方向、レンジ3に反応あり! リオンタイプが8機、所属は不明! こちらへ向かって来ます!」
「了解。ATXチーム、出撃するぞ。ハッチを開けてくれ」
解放されたハッチから外を確認しながら、青いカブト虫のようなPT……「アルトアイゼン」が出撃口に脚部をセットする。
「わお! リオンちゃんが……え? あれアーマリオンだし、しかも8機? あらら? パーツを半分ずつケチったのかしら」
「機体の調達ルートが1つだけではなかった……という事だろうな」
イスルギの保安課長が逮捕された案件は4機のリオンパーツの横流しだが、その倍のリオンがいる……それはイスルギ以外の協力者がテロリストについていると言う証だった。
「なるへそ。相手はアードラー派の残党……って感じ?」
L5戦役にビアン・ゾルダークとDC兵が参加したのは有名な話だ。地球圏を守りたいという思いで反乱を始めたビアン達がホワイトスター攻略戦に参加するのは当然の事だからだ。そしてDCの中でも悪逆を働いたアードラー一派……同じDCではあるが、ビアン一派とアードラー一派の世間の評価は余りにも違う。
「それだけとは思えんがな、アードラー一派が迎撃機を出せるぐらいの余裕を持っているとは思えない……別口の可能性が高いぞ」
「んも~、こんな近場にそんなのが出てくるなんて、私達の立場がないじゃない……」
L5戦役の英雄がいると言うラングレー基地なのに、まさかその膝元でテロリストが暗躍していたなんて冗談じゃないとぼやくエクセレン。
「手引きしたのは、捕まったイスルギの社員だろうな。……とにかく出るぞ」
レディバードから降下したアルトアイゼン、ヒュッケバインMK-Ⅱ、ヴァイスリッ
ターがフォーメーションを組むと同時にリオン達の姿がモニターに映し出される。
「なるほど錬度も悪くないか……L327、そちらは戦闘外空域へ離脱してくれ」
キョウスケの指示に従いレイディバードが戦闘区域から離脱する。
「来た……! でもあれはカスタムタイプじゃない……アーマリオンタイプじゃないですかッ!?」
確かに出撃してきたのはリオンだが、ただのリオンではなかった。PTの手足を持つリオン……L5戦役でも運用された「アーマリオン」の部隊だった。リオンタイプはリオンタイプだが……それは限りなくPTとAMの特徴を兼ね備えたカスタム機だった。
「わーお、本当きな臭いわねえ……キョウスケ、アーマリオンって図面って伊豆基地とテスラ研にしかないわよね?」
「……いや、L5戦役時にあちこちの基地に配布されている……それが流出したと考えて良いだろう」
「自分で言ってて納得してないことは言わないほうがいいわよ? それにしても……その色のアルトちゃん、馴染まないわねぇ……おまけに私のヴァイスちゃんだけ仲間外れみたい」
L5戦役で使用されたアルトアイゼンは強化装甲を装着していたが、今キョウスケが乗るアルトアイゼンの色は青そして強化パーツの姿もなかった……大破した強化パーツを取り外し、修理している段階だった為カラーが一部変更され、装備も一部変更されていた。
「仕方がない。今アルトは修理段階だからな、それよりも無駄話は後だ。アーマリオンが相手だとしても、時間を掛けてはられん」
「試験場にいるクスハちゃん達のためにもね。ちゃっちゃとね? ブリット君」
「了解!」
「試験場はこのすぐ先だ。4分で突破する。各機、散開!」
キョウスケの指示にエクセレンとブリットは散開する。だがこの時はキョウスケ達は想像にもしていなかった……この戦いが再び地球圏の存亡を掛けた大きな大きな戦いへの狼煙になるとは……この時のキョウスケ達だけでは無い、地球圏で生きるすべての人々が想像すら及ばない事だった……。
ラングレー基地で大きな戦いが始まろうとしている時――誰にも知られずもう1つの戦いが幕を開けていた。
「きゃあっ! くっ! 右舷弾幕を這ってください! 主砲、副砲3番から6番発射ッ!!!」
「了解ッ! ヴァルキリオン部隊は散開せよ! 繰り返すヴァルキリオン部隊は散開せよ!
一目見たら決して忘れる事のない艦首の超大型ドリルと、禍々しささえ感じさせる漆黒の船体……「クロガネ改」はいま未知の戦力の襲撃を受け、その船体を大きく揺らし、あちこちから黒煙を上げながら必死の逃亡を続けていた。
「シャアアアーーッ!!」
「キシャアッ!!」
「くっ、こいつらは一体何者なんだ!」
クロガネ改を守っていたAM――アーマリオンに良く似たシルエットだが、それよりも細身で可憐な装飾が施された装甲――まるで北欧神話の戦乙女のような印象を受ける新型AM「ヴァルキリオン」のコックピットの中で長いリハビリ生活を終え、やっとパイロットに復帰した「ユーリア・ハインケル」は苛立ちを……恐怖を隠すようにそう叫んだ。クロガネを襲撃する未知の機体は確かに機械だった、だが獣のような雄叫びを上げ、PTでもAMでも出来ない複雑な起動を描き、クロガネをゆっくりと、しかし確実に……嬲るように攻撃を繰り出していた。
「ぐっ、ぐうう……エルザムもゼンガーもいない時にこんな襲撃を受けるとはッ!! リリー中佐ッ! クロガネのゲッター線貯蔵率はどうなっている!」
艦長席で赤いコートを羽織った男性……「ビアン・ゾルダーク」が声をそう張り上げる。
「あの機体の攻撃でゲッター線貯蔵率更に低下ッ! バリアを維持出来なくなるのも時間の問題です!」
激しく揺れる船体でビアンは唇を噛み締めた。武蔵の特攻から半年……表立って動けないが、それでも可能な限りの戦力を集め、そして機体を強化してきたつもりだ。だが今はどうだ、用意してきた戦力はたった数10機の準特機によって壊滅寸前――クロガネの轟沈も時間の問題だった。
「くそっ! ビアン! クロガネだけでも離脱しろ! 俺達はどうとでもなる!」
「馬鹿を言うな! お前達だけでどうにかなる訳が無いだろう!」
ラドラの言葉にビアンはそう怒鳴り返した。あのゲシュペンスト・シグも度重なる被弾で黒煙を出し、ショートしている箇所もある。そんな状態で生き残れる筈がない……ビアンは必死に全員で生き残る術を考えるが、どう考えてもあの未知の特機達と戦うには戦力が不足していた。
(こんな時にゲッターVが使えないとはッ!)
武蔵がいなくなってからゲッターVは起動しなくなった……ゲッター炉心も最低数値のままで、起動する気配は微塵もなかった。そしてクロガネの戦力のゼンガー、エルザム、バンの3名は今クロガネには居なかった。
「陽動だったか……しくじったッ!」
グライエン・グラスマンへの襲撃の情報を受け、送り出したゼンガーとエルザム。
そしてイスルギ重工が怪しいと言う事で送り出したバン……。
今クロガネの戦力はラドラとトロイエ隊のみと言う状況……どう考えても、この状況を今のクロガネでは対処しきれない……。グライエンの情報も、イスルギ重工の動きも意図的に掴まされていたと言うことに今ビアンは気付いた。
(SOSが間に合うかどうかだ……ッ)
エルザム達に送ったSOS通信……それが届いてエルザム達が救出に来るまで耐えれるかどうかと言う状況にビアンは唇を強く噛み締めるのだった……。
第2話 暗雲 その2へ続く
えーのっけからボリューム満点の話となりましたが、オリジナルの話ではなく原型があるからある程度肉付け出来たと言う感じですかね。
暗雲の間はラングレーとクロガネの2つの場面で戦闘が行われていたと言う感じで話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い