進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第2話 暗雲 その2

第2話 暗雲 その2

 

アルトアイゼン・ナハトのコックピットの中でキョウスケは小さく舌打ちをしていた。それは決してアーマリオンのパイロットの操縦技能が高いからの物ではない。自分の動きについて来れないアルトアイゼンに対しての苛立ちの証だった。

 

(反応速度が遅い……)

 

アルトアイゼン改の速度と機体反射速度に慣れていたキョウスケは、ノーマルのアルトアイゼンの操縦感覚を掴めないでいたのだ。アルトアイゼンの修理中はゲシュペンスト・MK-Ⅲのテストパイロットをしていたが、MK-Ⅲの反射速度もアルトアイゼンを上回っていた。それらの機体に慣れていたことがつまらない被弾を増やしていた。

 

「……悪いが、時間がない。お前達に付き合う暇は無い」

 

3連マシンキャノンを放つと同時に突っ込み、強引に射格を確保し、クレイモアを打ち込んだ。

 

「エクセレン! ブリットッ!!」

 

クレイモアでアーマリオンを誘導し、そこにオクスタンランチャーEモードのビームと、M-13ショットガンが打ち込まれアーマリオンはその動きを沈黙させる。

 

「ちょいちょい、キョウスケらしくないんじゃないの?」

 

「中尉もしかして、操縦の感覚が……」

 

「泣き言を言う趣味は無い、行くぞ」

 

操縦感覚が掴めない等と言う泣き言を言っている場合ではないとエクセレンとブリットに告げ、キョウスケは先陣を切って第4試験場へとアルトアイゼン・ナハトを走らせた。

 

「ブリット君、ちょい悪いけど今日は貴方のフォローは出来ないわ」

 

「……大丈夫です。キョウスケ中尉のほうをお願いします」

 

失った機体感覚を取り戻すのは難しい、それでも泣き言を言わないキョウスケ。だが操縦感覚の違和感は、例えエースパイロットだったとしても致命的なミスを生みかねない、先陣を切って進み続けるアルトアイゼン・ナハトの背中を神妙な顔で見つめながら、エクセレンとブリットも機体を走らせ、キョウスケの後を追うのだった……。

 

 

 

占拠したラングレー基地第4試験場の司令室に腰掛けた。モノクルを嵌めた老紳士と言う風貌の男……「ロレンツォ・ディ・モンテニャッコ」は無意識に髭を撫でながら、古い友人から送られてきたメールを何度も見直していた。

 

(……すまない、バン。私には私の正義がある)

 

コロニー統合軍からDCに出向していた軍人であるロレンツォはバン大佐から送られてきたメールを見て首を左右に振った。ビアン博士が生きていると言うこと……そしてビアンの掲げる地球圏を守ると言う願いに協力して欲しいと言う内容のメールにロレンツォはただの1度も返信をした事がなかった。ロレンツォにとっては地球よりも、コロニーこそが守りたいものであり故郷なのだ。地球の為に粉骨砕身で働くことは出来ない……それに自分に賛同し、着いて来てくれている部下の存在――それがビアン達とロレンツォの道を悲しいほどに遠ざけていた。

 

「ロレンツォ中佐、ランカスター隊が全滅しました」

 

「敵は3機だった筈だ。倍以上の数を回して、その結果か?」

 

アーマリオンを8体も回して、3体の機体も倒す事が出来なかったのか? メールを映していた画面を消して詳しい報告を部下に求めるロレンツォ。

 

「は、はい。 これが敵機の映像です」

 

「ヒュッケバイン……それに、ゲシュペンストのカスタム機が2体……1機はデータと色が違うようだが……ATXチームだろうな、これは」

 

メインモニターに回された画像を見てロレンツォはランカスター隊が全滅した理由を悟った。その可能性は考慮していたが、最初から最強のカードを切ってくるとはロレンツォも考えてはいなかった。

 

(なるほど、攻撃は最大の防御か……クレイグ・パラストルの評価は改めざるを得ないな)

 

ラングレー基地の新しい司令官……グレッグ・パラストルの息子のクレイグは慎重と聞いていたが、ラングレー基地の最強の札である「ATXチーム」を出撃させた所から、想像以上に強気な性格かとロレンツォは評価を改めていた。

 

「場所が場所だ、予測はしていた。奴を呼んでおいて正解だったな」

 

ラングレー基地の第4試験場に安置されている「ヴァルシオン奪取計画」……ラングレー基地の敷地内での攻撃に出たのだ、ATXチームが出てくるのは想定内だ。

 

「……人質はどうなっている?」

 

「所定の位置へ移動済みです」

 

イスルギ重工からの情報を得ていたロレンツォは第4試験場に技師とパイロットがいること把握していた。正直人質を取るような真似はロレンツォの趣味ではなかったが、目的の為には非道を成す覚悟がロレンツォにはあった。

 

「タイプCF起動までの時間は?」

 

「あと20分ほどです」

 

第4試験場の地下に安置されていたヴァルシオンタイプCFの組み上げ状況を尋ねると組み上げは完了し、今はエネルギーの充填中と言う返答が帰ってくる。

 

「広範囲ASRSの取り付け作業はどうか?」

 

「起動までには間に合うそうです」

 

起動した後の脱出の手筈も整っていると聞いて、ロレンツォは再び司令席に腰を下ろした。

 

「了解した。ムラタを呼び出せ」

 

ロレンツォの指示で第4試験場を制圧しているチームのリーダーであるムラタと通信が繋がる。

 

『……何だ、中佐?』

 

「ランカスター隊が全滅した。敵はATXチーム……お前向きの相手だ」

 

ロレンツォの言葉にムラタは興味深そうに眉を上げた。

 

「連中はまもなくここへ現れる……だが、目的はあくまでもタイプCFの移送だ。ここで敵を殲滅することではない、判っているな?」

 

『判っている。時間を稼げばいいのだろう?』

 

傭兵であるムラタはロレンツォの部下では無い、あくまで金で雇われた腕利きだ。だからこそ、ロレンツォは敵を倒す事が目的では無いと念入りにムラタに釘を刺した。

 

『ATXチームは食いでがありそうなんでな……真剣勝負が望む所なのだがな』

 

「後の楽しみにとっておけ」

 

ロレンツォの意見は変わらず、適度な所で身を引けと言われれば雇い主の意向に逆らう訳にも行かず、ムラタは小さく判ったと返事を返した。

 

『客が来た。戦うなと言うのだから早く準備を済ませるんだな』

 

ムラタはそう言うと乱暴に通信を切り、先陣を切って現れたアルトアイゼン・ナハトを見て、自分専用のガーリオン……鎧武者を思わせる装甲を身に纏った「ガーリオン・カスタム・無明」の中で獰猛な笑みを浮かべるのだった……。

 

 

 

 

 

第4試験場に辿り着いたエクセレンは試験場の一角に陣取っているガーリオンを見て顔を顰めた。明らかな指揮官機、そして相当な改造を施されているガーリオンを見て試験場にいたはずの護衛隊が全滅したのも一目で納得した。

 

「あのガーリオンタイプ……どう見ても堅気じゃないし……」

 

「なるほど、あれが指揮官機か……決まりだな。今回の一見はテロリストの暴走では無い、緻密な計算がされた作戦だ」

 

キョウスケ達が来たのに動く素振りを見せないガーリオン・カスタム・無明とアーマリオンの部隊にキョウスケは顔を顰めた。たった3機で乗り込んできたのだ、定石ならば数で上回るアーマリオンによって制圧に出る筈が動く素振りがまるでない。

 

「……動かんか。何かを待っているようにも見えるが、気に入らんな」

 

「確かにね。余裕シャキシャキって感じよねえ……逃走ルートはもう確保済み……とか?」

 

全く動く事無く、しかしキョウスケ達に対する警戒も緩めない。その動きは明らかに訓練された軍人の動きだった……。

 

「クスハ達の件もある……どの道、俺達も下手に動けん。その場で待機。油断はするなよ?」

 

「了解……う~ん、せめてクスハちゃん達の状況が判ればねえ」

 

ここで下手に動いて人質になっている試験場の所員やクスハ達を危険に晒す訳にはいかないとキョウスケは待機命令を下す。

 

「ク、クスハ……! クスハがあそこにいます!!」

 

第4試験場の様子を窺っていたブリットが声を上げる。その声にエクセレンは驚いた様子で目を見開いた。

 

「へっ!? いや、そんなに都合よく……」

 

「座標を転送します」

 

人質の場所があれば動けると考えていたが、そう都合よく人質の場所は判らないと言おうとしたエクセレンだが、ヴァイスリッターに送られてきた座標データを見て沈黙した。

 

「キョウスケ~、クスハちゃん達の状況を確認~!」

 

「……見れば判る。人質にされているらしいな」

 

アルトアイゼンにも同じデータが送られていたのか、キョウスケも不機嫌そうに顔を顰めた。

 

「それも判りやすくね……余裕があるのは、あのせい? 身代金でも要求するつもりとか? キョウスケはどう思う?」

 

あからさまの人質、そして余裕のある態度……出撃前にクレイグから告げられた第4試験場に安置されていると言うヴァルシオンタイプの存在。

 

「読めたぞ、あいつら人質を盾にヴァルシオンを組み上げるつもりだな」

 

人質がいれば強攻策に出る事も出来ない。そしてその間にヴァルシオンを悠々と組み上げるつもりだとキョウスケは当たりをつけた。

 

「んーじゃあ、あの余裕な態度は人質だけじゃなくて……」

 

「ヴァルシオンの存在だろうな」

 

DCのフラグシップであるヴァルシオンタイプ……その戦闘能力を考えればあの余裕な態度も納得だ。

 

「……あのガーリオンを何とか出来れば、人質は解放出来そうですね」

 

「馬鹿な事は考えるなよブリット。下手に動けば、人質が危ない」

 

「……判ってます」

 

直情型のブリットだが、何とか飛び出す寸前で堪えていた。これが以前までのブリットならば、何も考えずに飛び出していただろう……だがゼンガーから託された武蔵の日本刀……それに恥じない男になると言う決意が、爆発しそうなブリットを押さえ込んでいた。

 

「ほう? あの刀……シシオウブレードか」

 

だがブリットの決意を嘲笑うかのようにガーリオン・カスタム・無明の中のムラタが笑った。ヒュッケバイン・MK-Ⅱの腰に携えられたシシオウブレード……それを見て獰猛に笑うと、見せ付けるように己のシシオウブレードを抜き放った。

 

「どれ、俺が相手をしてやろう。お前達は人質を逃がすなよ」

 

ロレンツォの部下にそう指示を出すと同時にガーリオン・カスタム・無明は爆発的な加速でヒュッケバインMK-Ⅱに向かって斬り込んだ。

 

「こいつ、早いッ!?」

 

「ほう、今のを弾くか……面白い」

 

抜刀でガーリオン・無明の太刀の側面を払い攻撃を弾いたヒュッケバイン・MK-Ⅱを見てムラタはますます笑みを深める。

 

「ちえいッ!!!」

 

「ぐっ!? こいつ何者だッ!」

 

「これも防ぐかッ!! ははははッ!! いいぞッ!!」

 

横薙ぎの一閃を鞘を使い受け流したヒュッケバイン・MK-Ⅱを見て、ムラタはますます口角を吊り上げた。

 

「ブリット君!?」

 

「ブリット!」

 

「おっと貴様らは動くなよ。俺の楽しみを邪魔したら、人質がどうなるか判らんぞ?」

 

ムラタの脅しの通信にキョウスケとエクセレンは動きを封じられた。

 

「むんッ!!」

 

「せいッ!!」

 

ガーリオン・無明とヒュッケバイン・MK-Ⅱが切り結ぶ速度は恐ろしいほどに速い、白刃が何度も何度も煌き、掠れっただけでも命を刈り取りかねない剣戟の応酬。それでもブリットはギリギリでムラタの攻撃に対応する事が出来ていた。

 

「負けるものかよッ!」

 

短いやり取りだったが、ブリットはムラタの腕前が自分よりも上だと悟ったが、それでも諦める事はせずシシオウブレードを鞘に納める。

 

「ふん、敵を前に剣を鞘を納めるとは臆したかッ!!」

 

ムラタはその動きを見て、ガーリオン・カスタム・無明でヒュッケバイン・MK-Ⅱに向かって斬りかかった。

 

(こいつ……まさかッ!?)

 

後一歩で間合いに入るという段階でぴくりとヒュッケバイン・MK-Ⅱの腕が動いたのを見て、ムラタはガーリオン・カスタム・無明をギリギリで踏み止まらせた。

 

「外したッ!」

 

「……読みが甘いな、小僧ッ!」

 

甘いと言ったが、遊ぶつもりだったのならばあの一閃で両断されていた……思った以上に歯応えのある相手に意識が切り替わっていたからこそ、ギリギリでその一太刀をかわせたムラタはコックピットを両断する事も出来たが、あえてそれを外し、ヒュッケバイン・MK-Ⅱの頭部からコックピットの上を掠めるように切り裂き、蹴りを叩き込んで背を向ける。

 

「ふん。ATXチーム……あのゼンガー・ゾンボルトに鍛えられた連中だと聞いていたが……想像以上に歯応えのある獲物だな」

 

油断していれば自分が切り裂かれていた……そのギリギリの感覚を楽しんだムラタはアルトアイゼンとヴァイスリッターに背を向けて、悠々と第4試験場へと引き返していくのだった……。

 

 

 

地球連邦軍ラングレー基地の司令室で神妙な顔をしているクレイグの背後で扉が開く音が響き、クレイグはちいさく安堵の溜め息を吐いた。

 

「特殊戦技教導隊、カイ・キタムラ少佐以下2名、ただ今到着致しました」

 

「ご苦労様カイ少佐。申し訳無いのだが、疲労具合はどうだ? すぐに出撃は出来るだろうか?」

 

クレイグの問いかけにカイは敬礼と共に返事を返す。

 

「問題ありません。それで一体何があったのですか?」

 

「実は今第4試験場がテロリストに制圧され、技師と所員の何名かが人質に取られている……ATXチームを現場に派遣したのだが……人質がいて思うように行動出来ず、睨みあいとなっている」

 

「私達への任務はATXチームの支援と言う事で宜しいでしょうか?」

 

「その通りだ、キョウスケ・ナンブ中尉の報告では敵はカスタムタイプのガーリオン1機。アーマリオン8機、リオン12機の大部隊だ。必要ならば、明日の教導隊試験に参加するパイロットを同行させても構わない。1時間以内に出撃準備を整えてくれ」

 

「了解しましたクレイグ司令」

 

「頼んだぞカイ少佐。テロリスト側の要求があれば可能な限り飲んでくれても構わない。民間人の保護を最優先にしてくれ、詳しい指令書はここに用意してある。頼んだぞ」

 

差し出された書類を怪訝そうに受け取り、カイはブリーフィングルームに足を向けた。そこで待っているライ達とリオ達に状況説明をする為に早足で歩きながら、クレイグから渡された指令書に目を通し、想像以上に面倒な事になっていると言う事を悟った。

 

「クスハが派遣された試験場がテロリストグループに占拠された。キョウスケ達が現場へ向かったが、救援が必要な状況らしい」

 

クスハ達がいる試験場がテロリストに制圧されたと聞いてリョウト達は勿論ライ達の顔に険しい色が浮かんだ。

 

「ライ、ラトゥーニ、直ちに出撃準備を」

 

部下であるライとラトゥーニに出撃命令を出し、カイはリョウトとリオに視線を向ける。

 

「リオ、リョウト、お前達はワシントンへ戻れ」

 

民間人であるリョウト達にワシントンへ戻れとカイは言うがリオは強い意思が込められた目で声を上げる。

 

「いえ、私もお供しますッ! 機体を貸して下さい! ブリット君やクスハ達が危機に陥ってるんでしょうッ!? それを放っておくことなんて出来ません!」

 

「少佐、僕も行きます。マオ社で新型機のテストをやっていますから、ブランクはありません」

 

リョウト達はクスハを助ける為に機体を貸してくれと頼み込んだ。だがカイの反応は芳しくない、だがそれは当然だ。マオ社のスタッフであるリョウトとリオに機体を貸し与える事は難しい。

 

「キョウスケ中尉達が手こずる程の相手なんでしょう? 戦力は多い方がいいと思います」

 

カイはリョウトとリオの言葉に込められた本気具合を見て、止める事が出来ないと判断し溜め息を吐きながらも2人の同行を許可した。

 

「……判った。選考試験用として持ってきた量産型ヒュッケバインMk-ⅢとゲシュペンストMK-Ⅲが1機ずつある。立ち上げは……」

 

「僕がやります。開発にも関わった機体です。裏コードを使えば、短時間で立ち上げられます」

 

カイの言葉を遮り、すぐに出撃しましょうと言うリョウトとリオに頷き、カイ達はキョウスケ達の支援に向かう為にラングレー基地から出撃して行った。

 

「はぁ……はぁ……ふー……ここか」

 

その頃ガーリオン・カスタム・無明によって乗機であるヒュッケバインMK-Ⅱを大破されられた物の、爆発する寸前で脱出に成功したブリットは森の中に隠れながら第4試験場に向かっていた。

 

(……見張りは……2人? 少なくないか?)

 

さっきまではもっと人数がいたのに、急激に人数が減っているを見たブリットは表情を険しくさせた。それに慌しい足音を聞いて何かあるとブリットは判断し、裏口からゆっくりと試験場内部へと侵入するのだった。

 

 

 

 

 

(……何とか忍び込めた。いや……忍び込まされたという所か……クスハ達がいるブロックは、格納庫の先か)

 

気配を殺しながら通路を進むブリットの脳裏には、ヒュッケバインMKーⅡのコックピットを切り裂く事も出来た筈なのに、それをせずにこの試験場に侵入させるのが目的と言わんばかりに敢えてコックピットを外したガーリオンの刃の光景が鮮明に浮かんでいた。

 

「うっ……」

 

脱出の時に痛めた脇腹に顔を顰めながらも、歯を食いしばり通路を巡回しているテロリストに視線を向けた。

 

(……やっぱりだ)

 

試験場を制圧したのはテロリストなどでは無い、その動きはどう見ても訓練を受けた兵士の物だった。

 

「おい、撤収命令が出たぞ!」

 

「人質はどうするんだ!?」

 

「室内に閉じ込めたままにしておけ! 見張りも撤収だ!」

 

人質を残して撤収の手筈を整えている兵士を見てブリットは今がチャンスだと悟った。

 

「うおおおっ!!」

 

雄叫びと共に駆け出し、峰を返した武蔵の日本刀で3人の兵士の胴を払い、意識を刈り取る。流石に武蔵のように気絶だけさせるという器用な真似は出来ず、骨を砕いた感触があったがしょうがない事だったと首を振り、格納庫の奥へと走り出した。

 

「……あ、あれはッ!?」

 

格納庫に置かれている2機の特機を見て険しい顔をしたブリットは無人の整備室に忍び込み、通信コードを入力した。

 

「こちらブリットッ! キョウスケ中尉、聞こえますか!?」

 

『ブリットか。無事だったようだな……状況は?』

 

通信妨害などがなかった事に安堵し、ブリットは自分が見たことをキョウスケへ報告する。

 

「奴らは人質を部屋に閉じこめ逃走する気ですッ!それと、格納庫の中に見慣れぬ機体とゲッターロボがッ! 両機とも発進態勢に入っています!」

 

『何……?』

 

『キョウスケ、あれ!』

 

通信機から聞こえてくるブリットの報告を最後まで聞くよりも先に、試験場に2機の特機が出現した。

 

「……同志諸君、ロレンツォだ。見ての通り、タイプCF、そして量産型ゲッターロボの起動に成功した。地上部隊は撤収。人質はそのまま室内に閉じ込めるのだ。アーマードモジュール隊は広範囲ASRSの準備が終わるまでその場で待機せよ」

 

悠々と通信を繋げる特機を見てキョウスケとエクセレンは険しい表情を浮かべた。第4試験場にヴァルシオンタイプがあると言う事は聞いていたが、まさかゲッターロボを駆りだして来るとは想像もしていなかった。

 

『キョウスケ……どうしよう、切れそう』

 

「……言うな、俺も気持ちは同じだ。今はヴァルシオンを優先しろ……良いなッ」

 

アイドネウス島で特攻し散ったゲッターロボ。そのあの鮮やかな赤と違い、グレーに塗装された機体を見てさすがのキョウスケとエクセレンも冷静さを失いかけていた。ゲッターロボの存在はL5戦役に参戦した軍人にとっては自分達が犠牲にした人間の証にして、地球を守った英雄機である。それを自軍の戦力として運用しようとするテロリスト達に顔を顰めるのは当然の事だった。

 

「該当データはなし……あれがどうやら運び込まれていたヴァルシオンタイプのようだな」

 

『全然ヴァルシオンに似てないけど、発展機かしら?』

 

映像データで見ただけだが、ビアンの乗っていたヴァルシオンとはまるで違う。アードラーが改造した機体か? とキョウスケが当たりをつけているとアルトアイゼン・ナハトに文章通信が繋げられた。

 

「……頃合だな」

 

『何の?』

 

キョウスケの言葉に真面目に判らないと言う声を出すエクセレンにキョウスケは眉を顰めた。

 

「何をしに来たんだ、お前は」

 

『やーねぇ、わかってるわよ。ホントよ?』

 

「……本命が姿を現した。ブリットの無事も確認できた。次は奴らの出方を見るぞ」

 

『オッケ~イ……と言っても、向こうさんの反応はだいたい予想出来るけどね』

 

試験場を制圧し、目的の物を手に入れた。後は相手がどう出てくるかは明らか……それでも様子を見る為にアルトアイゼン・ナハトたちが前に踏み出すと即座に広域通信が繋げられた。

 

『ATXチームに告ぐ。私はDCのロレンツォ・ディ・モンテニャッコだ』

 

「モンデニャンコちゃん? いやん。どこモミモミして欲しい? ニクキュー?」

 

『……モンテニャッコだ。肉球などない』

 

エクセレンの挑発に冷静に返すロレンツォにキョウスケは軽いジャブを繰り出す。

 

「DCはビアン・ゾルダークの思想に集まった兵士達だ。今のお前達にビアン博士の大義があるとは思えないが?」

 

『確かにその通りだな、DCの名を名乗るべきでは無いか……DCと名乗った事は訂正しよう。無名のテロリスト……とでも思ってくれたまえ』

 

キョウスケの挑発にも冷静に対応するのを聞いて、ヴァルシオンタイプに乗っている男がテロリスト集団のリーダーだと確信した。

 

「お前は俺達に何をさせたい」

 

『話が早いな、キョウスケ・ナンブ中尉――我々が試験場を脱出するまで動くな、そうすれば人質は無事にお返ししよう、我々の目的はこのヴァルシオン改・タイプCFと量産型ゲッターロボだ。これを入手出来れば、無駄に争うつもりは無い』

 

「人質の命と交換……つまり、このまま見逃せと?」

 

『そうだ。悪い話ではあるまい』

 

無理に侵入し人質を殺害されるのと、このままヴァルシオン改・タイプCFと量産型ゲッターロボを見逃す……それらを計りにかけるキョウスケにロレンツォがダメ押しの一言を告げる。

 

『それとも、人質を犠牲にし、我らと戦うか?』

 

ヴァルシオン改・タイプCFとアーマリオンが試験場に視線を向けたのを見て、キョウスケは白旗を上げざるを得なかった。

 

「……そちらの要求を呑もう……エクセレン」

 

『……しょうがないわね……』

 

クレイグからも民間人の保護を最優先という指示を受けていたキョウスケはロレンツォの要求を呑む事しか出来なかった……。

 

 

 

 

 

無事に新西暦に戻って来たイングラム達はこれからどうするかと言う事を考えていた。

 

「こうなんかとんでもないもんを見た気がするんですけど……全然何も覚えてないんですよ」

 

目を覚ました武蔵は何故自分が気絶したのかを覚えていなかった。ただ何か言葉に出来ない何かを見た……それだけが武蔵の覚えている事だった。

 

「武蔵が記憶を失うほどの何かか……禄でもないものは確かだな」

 

「だろうな、しかしだ。それが何かを思い出している時間も、それを探っている時間もない」

 

武蔵が覚えている事を拒否する何か……それだけで、武蔵が単独で転移した世界は精神的にダメージを与える物だったのだろう。

 

「えっと……何の話をしているんですか?」

 

そしてそれは恐らく記憶喪失のエキドナにも何か関係しているのだろう。人造人間であるエキドナにはそれに耐えるだけのバックボーンが無く、そのまま全ての記憶を失うと言う事になったのだろう。

 

「大丈夫。エキドナさんは何も心配しなくて良いよ」

 

記憶を失っていると聞いて、安心させるように笑う武蔵。鉄面皮の2人よりも感情を表にする武蔵にエキドナは安心感を抱いた。

 

「貴方の名前は?」

 

「オイラ? オイラは巴武蔵って言うんだ」

 

武蔵、武蔵と反芻するように何度も呟くエキドナを見て、イングラムとカーウァイは頭を抱えていた。

 

「エキドナがこっちにいるのはプラスだと思ったんだが……」

 

「何もかも良い流れになるとは限らないという事だな」

 

一緒に転移したはずのシャドウミラーの事も気がかりだが、ここにいる3人は公には死人になっているので大々的に調べる事も、連邦軍に警告するのも難しい。それに加えてシャドウミラーの証人である筈のエキドナは記憶喪失だ。シャドウミラーの事を説明させるのは不可能だし、なによりも……今のエキドナは幼い少女であり、そんなエキドナに尋問をすれば武蔵の反撥を買う……それが判っているから強引な手立てに出ることも出来なかった。

 

「武蔵……武蔵……ふふ、私は貴方を知ってるような気がします」

 

「そうですか……それは良かったです」

 

記憶喪失のエキドナを見てどうすればいいんですか? と言う顔でイングラム達に視線を向ける武蔵に2人はそっと目を逸らした。確かに2人は歴戦の軍人ではあるが、女の扱いは不得手としていたからだ。

 

「……とりあえず、どうするか話し合うんで、少し待っててくれますか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

……誰だ、あれは……とイングラムは思った。冷静――と言うよりかは機械のようだったエキドナが華の咲くような顔で笑った。それだけで印象はまるで異なる物となっている。

 

「……なんで助けてくれないんですか?」

 

「……すまん、私は女性の扱いはどうも苦手でな」

 

「俺も似たようなものだ。許せ」

 

対処法が判らなければ助けようがない。人間誰しも、得手不得手があると言うものだ。

 

「それでどうするんですか?」

 

「クロガネと合流したいと思う」

 

「……ダイテツさん達じゃなくてですか?」

 

「ああ、ダイテツ達は確かに信用出来るが……やはり軍属だ。上官命令には逆らえない、それならばビアン・ゾルダークの率いるクロガネのほうが活動しやすい」

 

イングラムの言葉に武蔵はなるほどと頷いた後、首を傾げた。

 

「クロガネの場所は判るんですか?」

 

「……人気のないところを探すか、武蔵。お前ビアンに世話になっていたんだろう? アジトの場所くらい覚えてるだろう?」

 

「あーそこまで気が回らなかったですね。伊豆基地に行けばいいと思ってましたし……」

 

「……表立って動く訳にも行かないからな。正規の軍基地に向かうのは最終手段にしよう」

 

「ヴィンデル達の事も調べないといけないからな……問題はエキドナか……、俺か、カーウァイが運ぶのがベストだな」

 

「ゲッターは安全性とか皆無ですからねえ……」

 

そこまで気が回らなかったですねと苦笑する武蔵にイングラムとカーウァイは溜め息を吐き、ビアン達の基地に向かって移動する事を決め、エキドナをR-SWORDのタイプSどちらで運ぶかと言う話をしていると、凄まじい爆発音が周囲に響き渡った。それを聞いて弾かれたように走り出す武蔵。

 

「待て武蔵! 慎重になれ!」

 

「状況を把握してからでも遅くないッ!」

 

イングラムとカーウァイが静止し、一瞬足を止めた武蔵。

 

「でもオイラは黙って見てられないんですよ! ゲッターなら囲まれても離脱出来ますから!」

 

振り返ってそう叫ぶとゲッターD2に乗り込み、翡翠色に包まれゲッターD2は上空に幾何学模様を描きながら爆発音の元へ飛んでいった。

 

「あ……」

 

飛び去るゲッターD2に向かって寂しそうに手を伸ばすエキドナ。それを見てイングラムは深く溜め息を吐いた……。

 

「カーウァイ、武蔵を追ってくれ、俺はエキドナを連れて行く」

 

「すまん、助かる」

 

R-SWORDとタイプSでは操縦性はR-SWORDの方が上だ、開け放たれたままのコックピットに乗り込み武蔵の後を追って飛んでいくタイプSを見送り、イングラムは半分泣きそうになっていたエキドナに視線を向けた。

 

「武蔵の所に行く、機体に乗り込んでくれ」

 

「は、はい! 判りました」

 

武蔵の所に行くと言うと顔を輝かせたエキドナにイングラムはもう1度心の中で溜め息を吐いて、エキドナと共にR-SWORDに乗り込むのだった……。

 

 

第3話 帰って来た男 その1へ続く

 

 




記憶喪失によりエキドナさんがただの萌えキャラになっております。これがきっと、ギャップ萌えって奴なんですね。かなりの文字数となりましたが、これでインターミッションは終了、次回はラングレーと武蔵の戦闘を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

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