進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第4話 帰って来た男 その2

第4話 帰って来た男 その2

 

クロガネを執拗に追い回し、防衛隊であるヴァルキリオン達を壊滅させた異形の特機である、独眼鬼に組み付かれ抱き締められる形で圧壊するヴァルキリオンの中でユーリアの脳裏には25年の己の人生が過ぎっていた。

 

(これが走馬灯か……)

 

ユーリア・ハインケルと言う女性はコロニー統合軍に入隊した時に「女」である自分を捨てたと思っていた。コロニー統合軍で常に指揮官、隊長として活躍していた祖父や父の活躍を聞いて育ち、ユーリアを産み落とすと同時に死去した母を思い、後妻を取らず自分を鍛え上げてくれた父の期待に応える為にストイックに己を鍛え続けた。その努力の成果が25歳と言う若さでの少佐の地位とトロイエ隊の隊長の役職だった。輝かしい経歴とその美しい美貌から言い寄ってくる男は多かったが、それらを歯牙にもかけず、どこまでも自分を追い込み鍛え続けてきた。ビアンとマイヤーの願いの為に死ぬと覚悟していたユーリアだったが、恐竜帝国のメカザウルスと戦い死に掛けた時に助けてくれた武蔵と出会ってからその鋼の決意は僅かに緩み始めていた。武蔵は決して戦士ではなかった、どこにでもいる普通の少年だった。本来ならば軍人である己の庇護にいるべきはずの子供だった。それでも武蔵は地球を守る為に戦い、そしてその為に死ぬ覚悟もしていた。

 

(ああ、そうだったんだな)

 

その誇り高い覚悟を尊敬しているのだと思っていた。

 

もう戦えない自分は補助をするべきと思っていた。

 

ゲッターロボに乗っている武蔵は死なないとどこかで思っていた。

 

だからアイドネウス島で武蔵が特攻した時、破片も残さず消えたゲッターロボを見た時に自分の胸にぽっかりと穴が空いたのを感じた。

 

そしてその時初めて知ったのだ、自分が武蔵に向けていたのは恋慕の感情だったのだと……だが気付いた時にはもう遅い、想い人は死にほんの僅かの希望に縋る日々にも疲れ始めていた……そして何時の日からかユーリアは生きる事に疲れ始めていた。幾度にも及び手術とリハビリを終え、歩けるようになってすぐにヴァルキリオンの訓練を始めたのも、今思えば死を望んでいたからかもしれない……外から掛けられる圧力で自分に迫ってくるヴァルキリオンの内部装甲を見ながらユーリアは自嘲気味に笑いながらそう感じていた。

 

(……これでいいか……)

 

もう何もかも疲れてた。火花が散るコックピットの中でユーリアはゆっくりと目を閉じた……。

 

(……おかしいな。こんなにも……死と言うのは長く感じるものなのか?)

 

圧壊するのも時間の問題だと思っていた。それなのに、いつまでもユーリアに終わりは来ない。それを不思議に思っていると一際大きな振動がユーリアを襲った、それを感じて自分に恐怖を与える為に嬲る為にかとコックピットの中で呟いた。だが次の瞬間聞こえてきた声にユーリアは大きく目を見開いた。

 

『間に合って良かったぁッ!! ビアンさん! 助けに来ましたよッ!!!』

 

それはもう聞けないと思っていた、生きていると願っていても、それがありえないことだと頭が判断してしまうほどに疲弊するほどに捜し求めた少年の声だった……。

 

「む、武蔵……か?」

 

『ユーリアさん? ユーリアさんですか?』

 

「あ、ああ……私だ。い、生きて……生きていたのか……武蔵……い、今までどこにいたんだ」

 

信じられないと言う気持ちと、信じたい気持ちが交互にユーリアの心を埋め尽くす。

 

『まぁ色々と訳ありでしてね……それよりも間に合って良かった。積る話もありますけど……まずはあいつらを蹴散らしてからにしましょう』

 

「そうだな……気をつけろ、あいつら……強いぞ」

 

『大丈夫ですよ、オイラもゲッターも負けませんからッ!』

 

武蔵の力強い声を聞いて、もう大丈夫と安心した……そして武蔵が生きていた。助かったという安心感、そして武蔵が目の前にいる……その事に気付いた時……ユーリアの目からは涙が零れていたのだった……。

 

 

 

 

 

轟沈寸前のクロガネと大破したアーマリオンに良く似た女性的なシルエットの機体……「ヴァルキリオン」と右腕と特徴的なバイザー型のセンサーアイが砕け、カメラアイが露出している「ゲシュペンスト・シグ」を背後に庇いながら武蔵は間に合って良かったと思うとの同時に、目の前の敵……「百鬼獣」を見て何故と言う言葉が脳裏を過ぎっていた。

 

(一角鬼、針千本鬼、白骨鬼、大輪鬼……か)

 

ゲッターD2のモニターに映し出される敵のデータ……武蔵は知らないが、ゲッターD2……いや、早乙女博士が知っている。それが何を意味するかは武蔵でも判った。

 

(百鬼帝国……まさか復活しているとでも言うのかよ)

 

自分の死後竜馬達が戦ったと言う「百鬼帝国」……その尖兵が新西暦にいる。それはL5戦役時に恐竜帝国が復活したのとは訳が違う、あの時は恐竜帝国は瀕死だった。だが今目の前にいる百鬼獣は万全であり、ランドリオン達も併用している。恐竜帝国とは異なり、この時代に深く百鬼帝国が根付いていることを示していた。

 

『武蔵! 貴様!!! 生きているのならば連絡くらい入れろ! この馬鹿がぁッ!!!』

 

「つつうう! 口で説明するのは難しいくらい立て込んでたんだよッ!! それよりも無理するなよ、ラドラ。オイラ以外にも応援は来るんだからよ」

 

ラドラからの返事を聞かずに武蔵はペダルを強く踏み込んだ。左右から放たれるミサイルとビームガトリングをかわすと同時に再びゲッターD2の姿がゲッター線の光に包まれる。

 

「舐めるなよ! てめぇら見たいな雑魚が何匹群れようがなあッ!! ゲッターの敵じゃねえんだよッ!! ダブルトマホークッ!!」

 

急降下し、両手に持った戦斧を振るい一角鬼をバラバラに切り刻むと同時に反転し、ダブルトマホークを背後に向かって投げつける。

 

「ギガア!」

 

「へっ、1発防いだくらいで勝ち誇ってるんじゃねえ!」

 

ダブルトマホークを弾いた大輪鬼に飛びかかり両腕のチェーンソーで大輪鬼の胴体に深い切り傷をつける。だがその代りに胴体から伸びた鎖がゲッターD2の胴体に巻きついてその動きを封じる。

 

「シャアアッ!!!」

 

「キアアアアーーッ!!!」

 

背後から放たれた白骨鬼のガトリングと針千本鬼の全身に生えた棘の嵐――鎖で拘束されているゲッターD2が回避出来ないと勝ち誇った笑い声を上げている大輪鬼に武蔵は馬鹿がとつぶやいた。

 

「言っただろうが、お前らが何匹居ようがなあッ! ゲッターの敵じゃねえッ! オープンゲットッ!!!」

 

合体形態からゲットマシン形態に分離し、鎖から脱出するのと同時にガトリングと棘の嵐を回避する。

 

「グギャアアアアーーッ!!」

 

そして白骨鬼達の攻撃は目標を失い大輪鬼へと突き刺さり、大輪鬼の苦悶の声が周囲に響き渡る。

 

「チェンジッ! ドラゴンッ!! ゲッタァアアビィィイイイムッ!!!」

 

「ギャッ!?」

 

短い悲鳴を最後に大輪鬼はゲッターD2の頭部からのゲッタービームに飲み込まれ消滅する。

 

「!?」

 

「ゲゲッ!?」

 

「逃がすかよッ!! ダブルトマホークッ! ランサアアアアーーーッ!!!」

 

ゲッターD2が只者では無いと判断したのか逃げに入る白骨鬼と針千本鬼。だがそれはあまりに遅すぎた。逃げようと背を向けた瞬間ゲッターD2の投げつけた無数のダブルトマホークが背後から白骨鬼達を貫き、クロガネを轟沈寸前まで追詰めた異形の特機達はまるで鳥葬のようにその場に縫い付けられると同時に爆発炎上した。

 

「な、何と言うパワーだ……し、信じられん」

 

ゲッターD2が戦い始めてから僅か1分にも満たない時間で、クロガネを追詰めていた異形の特機達は全て破壊されていた。その圧倒的なパワーにビアンは驚愕し、大きく目を見開いた。

 

「……ちっ、ラドラ。ユーリアさんを頼む」

 

『……なるほど、ここで確実にクロガネを沈めるつもりだったか……すまんが、俺は戦えない。ユーリアを守る事としよう』

 

本当ならクロガネに帰還したほうが良い……だが、敵はそんな余裕をラドラ達に与えてはくれなかった。

 

「ああ、そうしてくれ……どうもやっこさんも本気みたいだ」

 

空から急降下して来た茶色の船体をした巨大な百鬼獣――「百鬼獣 要塞鬼」の左右のブースターから半月状の胴体をした一つ目の百鬼獣……「百鬼獣 半月鬼」が1機ずつ、そして胴体部から水晶……いやダイヤモンドで出来た鎧と剣と槍を持った「百鬼獣 金剛鬼」が2機

地響きを立ててゲッターD2の前に立ち塞がる。

 

『半月鬼、金剛鬼……クロガネとあの目障りな赤い機体を倒せ』

 

「「「「シャアアアーーーッ!!!」」」」

 

要塞鬼から響いた男の声に4機の百鬼獣が雄叫びを上げ、半月鬼が空に浮かび上がり、金剛鬼がその手にしている剣と槍を振り上げた。

 

「あの声は私だ……どうなっていると言うんだ!?」

 

しかしビアン達には敵の応援よりも、要塞鬼から響いた声の方が問題だった。その声に全員が驚愕し、目を見開いていた。

 

『初めまして、そしてさようなら、今日から私が「ビアン・ゾルダーク」となる。偽者は、早々に死んでくれたまえ』

 

何もかも見下した冷酷な口調だが、それは紛れも無く「ビアン・ゾルダーク」の声だったからだ……。

 

 

 

 

 

大地を疾走する黒い影……グライエン議員を救出した黒いゲッター2……「ゲッター2・トロンベ」はクロガネからのSOS通信を傍受し、最大速度でクロガネへと向かっていた。

 

「ゼンガー、グライエン議員は大丈夫か?」

 

『ああ。止血もすんでいる、今は鎮静剤が効いているのか眠っている』

 

ゲッター2・トロンベはバミューダトライアングル近辺に沈んでいた早乙女研究所で発見されたゲッター2を改良し、エルザム用に再調整した機体だ。ゲッターの劣悪な操縦性を改善する為に搭載された「テスラドライブ」を応用した重力装備によって、その操縦性は大幅に改善され、操縦時の膨大なG等はPTやAMクラスにまで迫っている。

 

『クロガネが轟沈寸前とは信じられん……バン大佐が居なくても万全な警備体制だったはずだが……』

 

「そうだな、それに今クロガネに連邦軍やアードラー一派の生き残りが攻撃してくるとも思えない……やはり第三陣営か……」

 

グライエンを襲った謎の集団……それらの持つ機動兵器に襲われているとゼンガーとエルザムは考えていたが、それでも漸くパイロットとして復帰できたユーリアの率いるヴァルキリオン隊とラドラのゲシュペンスト・シグが追詰められるとは想像も出来なかった。

 

「見えた。ゼンガー、恐らくこのまま戦闘に入る。グライエン議員を頼む」

 

『承知した』

 

グライエンは今地球に起きようとしている何かに気付いている。だからこそ命を狙われたのだろう――偶然傍受した通信によって救出にエルザムとゼンガーが動いたが、今思えばそれも陽動だったかもしれない。そんな事を考えながらエルザムの駆るゲッター2・トロンベは戦場に躍り出た。

 

「ビアン博士、ご無事ですか!?」

 

『エルザムかッ! 良く間に合ってくれたッ! クロガネの護衛を頼むッ!』

 

クロガネを守っている筈のヴァルキリオン達の姿は無く、大破したユーリアのヴァルキリオンを大破寸前のゲシュペンスト・シグが守っていた。

 

『エルザム、ゼンガー、早くクロガネの前に移動しろ! 巻き込まれるぞッ!』

 

巻き込まれる? その言葉の意味をエルザムは理解出来ず。クロガネに攻撃を仕掛けようとしていた鎧を纏った異形の特機に万力状のゲッターアームに仕込まれた銃口を向けた瞬間。

 

「ギャァッ!?」

 

苦悶の声を上げて鎧を纏った異形の特機が吹き飛ばされた。その光景にエルザムは目を見開いたが、次の瞬間ゲッター2・トロンベに走った衝撃に無意識に操縦桿を強く握り締めていた。

 

「な、何が起きて……うううっ!?」

 

『ぐっ!? 何だ! 敵の攻撃か!?』

 

驚いている間にゲッター2・トロンベに強い衝撃が走った。

 

『早くこっちへ来い! 支援をするのならば俺の前に来いッ!!』

 

再び繋がったラドラからの通信に従い、今度こそゲッター2・トロンベはクロガネへと移動する。

 

「ラドラ、一体何が起きているんだ」

 

『口で説明するよりも見たほうが早い、もうすぐ現れるはずだ』

 

「現れる? 何が現れると……」

 

現れるの意味が判らずラドラに尋ねていたエルザムだったが、地面を抉りながら現れた2機の特機を見て言葉を失った。太陽の光を反射する蒼い装甲……背中に背負っているブースター付きの翼……右腕がドリル、左腕が花の蕾のような特徴的なマニュピレーターアーム……。

 

「ライガーなのかッ!?」

 

それはアードラー達が使い、L5戦役ではエアロゲイターによって運用された「ゲッターライガー」に酷似した特機と、ズタボロの半月状の胸部装甲を持つ異形の特機だった。見覚えの無い異形の特機にも驚かされたが、エルザム達にとってはゲッターライガーに似た特機に対する衝撃が凄まじかった。

 

『あれがクロガネを攻撃したのかラドラ』

 

『いや、違う。俺達はあのライガーに助けられたんだ』

 

「ライガーに助けられた? それはどういう『へっ! 言っただろ! てめぇらじゃ何匹来てもゲッターの敵じゃねえってなあッ!! ドリルアタックッ!!!』」

 

状況説明を求めるエルザムの声を遮って響いた大声……その声を聞いて、エルザムは目を見開いた。

 

「む、武蔵君! 武蔵君なのか!?」

 

『その声……エルザムさんかッ! 良かった無事だったんですね! こいつらに襲われてるのかって心配してましたよッ!』

 

「シャアアッ!!」

 

半月鬼とライガー2が鍔迫り合いをする中、武蔵の良かったと言う声が響いた。間違いない、武蔵の声だ。生きていると信じていた、だがこうして目の前にすると何を言えばいいのか判らない上に、良かったという安堵の気持ちで動きが完全に止まった。確かにエルザムは歴戦のエースパイロットだ。だが決して機械では無い、どれほど自分の感情を殺す術に秀でていても生きている血の通った人間なのだ。自分の理解を超える光景が立て続けに動けば僅かでも思考は鈍る。そしてその隙を半壊している金剛鬼は見逃さず、ダイヤモンドで出来た剣をゲッター2・トロンベに向かって突き出そうとした……

 

『究極ぅッ!! ゲシュペンスト……キィィイイクッ!!!!』

 

 

だがそれはゲッター2・トロンベには届かず、金剛鬼の目の前には漆黒の機体の足が目前に迫っていた、その光景を認識したと同時に金剛鬼のカメラアイは2度と光を映すことはなかった……ゲシュペンスト・タイプSの蹴りによって頭部パーツごと胸部パーツを押し潰された金剛鬼はそのまま、全身からオイルを撒き散らしその活動を停止させたのだった……。

 

 

「い、今の声は……」

 

『そ、そんな馬鹿なことが……』

 

『は、ははは……俺は夢でも見ているのか……』

 

金剛鬼の顔面を蹴り砕いた漆黒の流星がエルザム達の目の前に着地した。そして目の前に現れたのは漆黒のPT……だがそれはこの世に存在しない筈の機体だった。重厚な装甲、背部に背負っている装備は間違いなく違う……だがその存在感をエルザム達は決して忘れない、いや忘れられる訳がない。自分達が手を下した恩師の機体……エアロゲイターによって生身の肉体を失い、救う為とは言え恩師を手にかけたのはエルザム達にとっての最悪の記憶だった……嘘だと、ありえないと思っていてもゲッター2・トロンベの識別信号は無慈悲に目の前の光景が真実だと告げている。

 

【PTX-002……ゲシュペンスト・タイプS】

 

『間に合ったか? 武蔵』

 

『バッチリですよ。カーウァイさん、助かりました』

 

タイプSから響いた声と武蔵の声……それがタイプSに乗っている人間が「カーウァイ・ラウ」であると言う事を現していて、エルザム達は完全に思考停止に陥ってしまったのだった……。なお、これは完全に関係ない話だが、戦場で呆けている事にカーウァイは気付いており、その眉を寄せ怒り顔をしていた。

 

「どうも相当弛んでいるようだな、きっちり絞り上げてやるとするか」

 

カーウァイとエルザム達の再会は感動の再会とはならない事が決定した瞬間だった……。

 

 

 

 

要塞鬼の司令室で大帝に命令を受けて、ビアン・ゾルダークに整形した鬼は驚愕に目を見開いていた。

 

「何故だ、何故何故何故ッ! 何故こんなことになるッ!!」

 

大帝は鬼に言った、期待していると、そして確実にクロガネを沈め、ビアン・ゾルダークを殺して成り代わるだけの戦力も用意してくれた。だが実際はどうだ? 突如現れたたった2機の特機とPTに要塞鬼に搭載していた百鬼獣も、先遣隊も全滅させられていた。

 

「どうしますか! 5本鬼様! 帰還いたしますか!?」

 

「ふ、ふざけるなッ! おめおめ逃げ帰れる物かッ! 半月鬼! 金剛鬼! やつらを殺せええッ!!」

 

ビアンの声で怒鳴り散らすように叫ぶ5本鬼――その命令に従い、半月鬼と金剛鬼はゲッターD2とゲシュペンスト・タイプSに向かって攻撃を繰り出す。

 

『早いだけの攻撃など何の意味もない。失せろ』

 

『ギギイッ!?』

 

ゲシュペンスト・タイプSが腰に携えていた日本刀の一閃で半月鬼の首が飛んだ。

 

「ば、馬鹿なぁ……あ、ありえん……こ、こんなことがありえて良い訳がないッ!!! 半月鬼の速度はマッハ2だぞッ!?」

 

マッハ2で動く半月鬼が何故あんな緩やかな動きのPTの攻撃で敗れるのだと5本鬼は信じられない光景に半分発狂していた。だがそれも当然だ――他の幹部鬼達が政治家や軍上層部の人間に成り代わる中。5本鬼だけが百鬼帝国の暗躍を覆い隠す為に、ビアン・ゾルダークを抹殺し、クロガネを奪い、新生DCを結成し地球に騒乱を起せという命令を受けていた……頭脳に優れ、戦略眼を見込んでの大帝からの大抜擢だった。その期待に応えるべく、磐石の戦術を考え、そして王手目前まで追い込んだ。チェックメイトと言う所で盤外から突如割り込んできた駒に自分の戦略を全て無にされたのだ。優秀な頭脳を持つからこそ、そのありえない光景を信じられなかった。

 

『フィンガーネットッ! こいつでトドメだぁッ! 大ッ! 雪ッ!! 山ッ!!!』

 

あの可変する特機のせいだと5本鬼は憎しみさえ篭もった目でゲッターを睨みつけた。あれが居なければ、自分の戦術は完璧だった。クロガネを奪い、ビアンに扮し大帝の期待にも応えれる。もっと上役に抜擢されると信じていた……。

 

「主砲をあの化け物にあわせろッ! せめてあいつだけでも! あいつだけも破壊しろッ!!!」

 

「りょ、了解ッ!!!」

 

要塞鬼の主砲がゲッターポセイドン2に向けられる。

 

「ひ、ひひっ! 死ね! 死ねぇッ! 俺の戦略をぶっ潰しやがって!! 死んで詫びろぉッ!!!」

 

フルパワーに充電された主砲が放たれようとした瞬間。要塞鬼の船体は激しい風に揺さぶられ、照準を合わせる所の話ではなくなった。

 

「な、何が、何が……ひ、ひいいいッ!?」

 

ポセイドン2が振り回す腕によって生み出された竜巻……それが要塞鬼に迫っているのに気付き、5本鬼は聞いている者が憐れに思うほどに引き攣った悲鳴を上げた。

 

「て、てて……撤退だぁッ! 大帝に伝えるのだ! あの特機の脅威をッ! 我ら百鬼帝国を脅かす脅威があると伝えるのだぁッ!」

 

「りょ、了解! ASRS展開、オーバーブースト発動10秒前ッ!!」

 

10秒……その10秒が5本鬼には永遠にも思えた。

 

『おろしぃぃいいいいいいッ!!!』

 

(早く、早く早くッ!!!)

 

あんな台風に飲み込まれたら死んでしまう。カウントダウンをしている部下の声がやたらスローに聞こえる……任務の困難さから用意された最新鋭機である筈の要塞鬼であったとしてもあんな暴風に飲み込まれたら跡形も無く消し飛んでしまう……。

 

「オーバーブーストチャージ完了!」

 

「離脱だぁッ! この場から逃げるぞぉッ!!」

 

悲鳴にも似た……いや、実際悲鳴だったのだろう。5本鬼の叫び声と共に了解の返事も無く、要塞鬼は急加速し台風から逃げるようにその場から飛び去る。

 

「つ、伝えるんだ。大帝に……恐ろしい特機が存在するとッ!!! う、うわあああッ!? な、何だ!?」

 

「こ、金剛鬼の残骸ですッ! 金剛鬼の残骸が追突し、左エンジンが破損しました!」

 

「ば、化け物めッ! お、覚えていろ紅い特機ッ! こ、この恨み! か、必ず晴らしてくれるッ!!」

 

5本鬼はブリッジの中でそう叫びながらも本心は2度とゲッターロボに出会いたくないと思いながら、海上に浮かぶ百鬼帝国へと逃げ帰るのだった……。

 

 

 

 

金剛鬼の残骸を逃げさる要塞鬼にぶつけた武蔵だが、実際は狙った訳ではなく逃げてしまった相手に八つ当たりに近い感じで投げつけたのが、運よく要塞鬼に命中したに過ぎなかった。

 

「ちくしょうめ、逃がしちまったなあ」

 

ビアンの声で喋る誰か……そしてクロガネを攻撃していた百鬼獣……それらから新西暦に復活した百鬼帝国の目的が、ビアンを殺害し、クロガネとビアンの姿をした影武者を使っての暗躍工作だというのは武蔵でも判っていた。だからここで要塞鬼を撃墜したいと思っていたが、逃げられては仕方ないと武蔵はポセイドン号の中で舌打ちした。

 

「終わったようだな。大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ。クロガネもちゃんと守れました」

 

戦闘終了と共に姿を見せたR-SWORDからの通信に大丈夫だと武蔵が返事を返す。

 

『すまない、助かったよ。武蔵君……で良いんだよな?』

 

「ビアンさん……はい、正真正銘ドジで間抜けの武蔵ですよ」

 

『よ、良く……良く生きていてくれた……私達が……どれだけ……探したか……』

 

この場の緊迫したムードを和らげる為の冗談でそう言った武蔵だったが、嗚咽交じりのビアンの声を聞いてすいませんと謝罪の言葉を口にした。

 

『か、カーウァイ大佐……なのですか?』

 

『い、生きておられたのですか?』

 

「まぁ、色々あってな。冥府から追い出されて、現世を彷徨っている様だ。しかし、エルザム、ゼンガー、ラドラ。なんだ、あの腑抜けた様はッ! 教導隊の名が泣くぞッ!!!」

 

『『『も、申し訳ありませんッ!!!』』』

 

カーウァイの一喝にコックピットの中で背を伸ばし、謝罪するエルザム達。どれほど実力をつけたとしても、カーウァイの存在は大きく、その一喝に全員が額から冷や汗を流していた。

 

「説教は後にしろカーウァイ。ビアン所長……すまないが着艦許可を貰えるか? こちらにも負傷者がいる上に、俺達の姿は目撃される訳にはいかない筈だ」

 

クロガネは勿論、ゲシュペンスト・タイプS、シグ、ヴァルキリオン、ゲッター2・トロンベ、ゲッターD2、R-SWORD……その何れもが今は表舞台に立つ訳にはいかない機体だ。

 

『そうだな。勿論着艦してくれ、イングラム少佐。話はこの場から逃れた後に聞かせてもらうとしよう』

 

ビアンからの着艦許可を得てゲッターD2達はクロガネへと着艦し、この空域から離脱して行くのだった……。

 

「武蔵君……本当に生きていたのだな」

 

格納庫にはクロガネのクルーの殆どの姿があった。武蔵は自分を出迎えてくれたビアン達に恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「まだ地獄に行くにゃあ早いって追い返されたみたいなんですよ。オイラ達」

 

「ば、馬鹿を言うな……君が地獄に行くのなら、この場にいる全員が地獄送りだよ……良く、良く生きていてくれた……い、今まで何処に……?」

 

「ん、んー説明するのはすっごい難しいんですけど……えーっと?」

 

「連邦が隠し通していた失われた時代で戦っていた。カーウァイもそこで出会った」

 

イングラムがゲシュペンスト・タイプSに視線を向け、それにつられて其方を見るとタラップから降りてきてヘルメットを外したカーウァイの素顔を見てビアンも驚きに目を見開いた。

 

「あの時のままだな。カーウァイ大佐」

 

「ビアン所長は歳を取りましたね……」

 

「ふっふ、何を言うか。まだまだ私は現役さ」

 

ゲシュペンストの設計時にビアンとカーウァイは何度も顔を合わせていた。カーウァイの外見はゲシュペンストが完成した当時……カーウァイが20代後半の姿のままだった。

 

「武蔵君……カーウァイ大佐……またこうして出会うことが出来るなんて夢にも思っていませんでした」

 

「大佐……本当に大佐なのですね」

 

「ご無事で何よりです、カーウァイ大佐」

 

敬礼するエルザム達にカーウァイも敬礼をし返したが、やはり戦場で気を抜いたのは許すつもりがないのかすぐに眉を細める。

 

「戦場で気を抜くとは弛んでいる証拠だ! 後できっちり鍛えなおしてやるから覚悟しろッ!」

 

「「「りょ、了解ッ!!!」」」

 

その一喝と鋭い眼光……自分達の方が年上になったが、カーウァイには頭が上がらないのか青い顔で敬礼し返す。だがその顔にはもう会えないと思っていた恩師に会えたと言う事による、歓喜の涙が浮かんでいた。

 

「武蔵、無事で良かった……生きていて……本当に良かった」

 

「ユーリアさん! もう歩けるんですね……良かった! それに長い髪も似合ってますね」

 

「そ、そうか……」

 

武蔵の記憶の中ではユーリアは車椅子だった。そんなユーリアが自分の足で立って歩いているのを見て、武蔵も嬉しそうな表情を浮かべる。武蔵を見つけると言う願掛けをして伸ばしていた髪を褒められ、表情を柔らかくさせたユーリアだが、すぐにその顔が凍りついた。

 

「……む、武蔵? その後の女性は?」

 

「え、えーっとなんて言えば良いんですかね……オイラを助けてくれた人なんですけど……どうも記憶喪失みたいで……エキドナさんって言うんです」

 

「え、エキドナ……い、イーサッキです」

 

武蔵よりも背の高い大人の女性が武蔵のマントの裾を掴んで、身体を小さくさせ頭を下げる姿は年上の筈なのに、何故か可愛いと思わせる不思議な印象をユーリアに与えた。

 

「そ、そうか……き、記憶喪失ともなれば不安にもなるな……う、うん……しょうがない、しょうがない」

 

「だ、大丈夫ですか? 足元がふらついてるみたいですけど」

 

「だ、大丈夫だ。し、心配ない……ただ少し気持ちを整理する時間をくれ……」

 

武蔵への恋心を自覚した瞬間に、武蔵の側に美女がいるのを見てユーリアはふらふらとトロイエ隊の部下の元へ向かった。

 

私はもう駄目かもしれない……

 

がんばれ隊長。

 

武蔵は良く判ってない感じですよ。

 

まだ大丈夫です! 諦めない限り試合終了じゃないですよ!

 

部下に励まされているユーリアをリリーは遠い目で見つめ、せめてもの情けとその背中でユーリア達を不思議そうに見つめている武蔵から覆い隠した。

 

「ん、んッ! 積る話もあるでしょうからブリーフィングルームに向かうのはどうでしょうか?」

 

「そうだな。武蔵君、カーウァイ大佐、イングラム少佐。何があったのか、そして今まで何をしていたのかを教えてくれ」

 

リリーの言葉に頷きビアン達が格納庫から消えると、ユーリアは今度こそ膝をついて蹲った。それを見てリリーは前途多難ねと呟いて、ブリーフィングルームで会議を行うビアン達の下へお茶を運ぶ為に格納庫を後にするのだった……。

 

 

第5話 帰還 へ続く

 

 

 




次回は状況整理の話とラングレーの制圧事件の後始末の話をしているキョウスケ達の話を書いて行こうと思います。ユーリアさんが尋常じゃないポンコツ属性になっているのは、ギャグ要因と言う事で温かい目で見てあげてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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