第5話 帰還
謎の敵勢力を退けたクロガネは海中に一時身を潜め、イスルギ重工の暗躍の裏付けにでたバン大佐が戻るのを待つ間。武蔵達が何をしていたのかと言う話し合いを行おうとしていたのだが、それは前途多難な始まりだった。
「……」
「エキドナさん、ちょっと話し合いするだけですから、大人しく治療を受けてください」
「フルフル」
武蔵達と行動を共にしていた女性――「エキドナ・イーサッキ」が武蔵と離れることを非常に拒み、医務室の入り口の所で武蔵のマントを掴んで動かなくなってしまったのだ。こうなると、先にグライエンを医務室に入れたビアンの判断は英断だろう……なんせかれこれ30分はこの有様だ。
「すぐ戻りますから……ね?」
「……本当?」
「本当ですって、ね、こうしてエキドナさんがオイラを捕まえていると余計に時間が掛かりますから」
武蔵の懸命な説得でやっとエキドナは武蔵のマントから手を離し、あきれた様子で待っていた医務室の女医に手を引かれて医務室に消えていった。
「あー彼女は記憶喪失の前からあんな様子だったのかね?」
「ユーリアさんとかリリーさんみたいにキリってした格好良い人でしたよ……」
ふうっと溜め息を吐いた武蔵にビアン達はお疲れ様と声を掛け、改めてブリーフィングルームに足を向けたのだった。
「過去にいたと言うのか武蔵君達は」
最初の議題は勿論何故生きていたのならば連絡を取らなかったのかだった。だが武蔵達の話を聞けば、連絡を取りたくても過去にいては物理的に連絡が取れなかったと言う事、そしてクロガネが襲撃を受けている最中にこの時代に戻って来たとの話だった。
「失われた時代とはどんな物だったのですか、大佐」
「……酷い物だった。荒廃した大地と汚染され、太陽の光さえ届かぬ暗黒の世界だったよ。しかもあちこちに化け物だ、確かにあんな有様では政府が隠蔽しようとしたのも頷ける」
「映像記録もあるが……見てみるか?」
イングラムの問いかけに頷ずくとブリーフィングルームのモニターに失われた時代での武蔵達の戦いが映し出された。
「むう……ここまでとは……」
「酷い有様だな、恐竜帝国の進撃が子供の遊びに思えてくる」
「あれが地球の人口の殆どを殺したと言う化け物か……おぞましいといわざるを得ないな……」
荒廃した大地を駆けるインベーダーの悪辣な姿に歴戦の兵士であるエルザム達も顔を歪める。
「この時代ってオイラが特攻した後の時間だったらしくて、昔の仲間にも会えましたよ。短い時間ですけど……うん、会えて良かった」
自らの手の平に拳を打ちつけながら武蔵は良かったと楽しそうに笑った。
「……こんな事を言うのはなんだが……武蔵君は元の時代に残る事も出来たのではないかね?」
「いや、それが出来なかったんですよね。いや、別に新西暦に戻りたくなかったって訳じゃないんですけど……真ドラゴン、早乙女博士の作った最後のゲッターの暴走を止めたら身体が透け始めたんですよ。それを見て、唐突に理解したと言うか……もうオイラは旧西暦の人間じゃないんだなあって……漠然と理解しちゃって」
SF染みた話だが、アイドネウス島で特攻したはずの武蔵は旧西暦に再び飛んだ。だがそれは真ドラゴンと言う規格外の化け物を押さえ込む為の物だったのかもしれない。武蔵自身も良く理解していないと言う様子だったが……武蔵は何か大きな運命の歯車に取り込まれていたのかもしれない。
「ではあの新しいゲッターロボは……」
「ゲッタードラゴンセカンド……オイラはD2って呼んでますけど、早乙女博士の作り出した最後のゲッターロボです。真ゲッターと真ドラゴンの間の試作機みたいですね」
モニターに映っているゲッターロボをより戦闘特化にした大型ゲッターロボ「真ゲッター」
そして巨大な建造物にしか見えない異形のゲッターロボ「真ドラゴン」
その姿を見ると確かに意匠や装甲は真ゲッターロボとゲッターロボGに近く、後継機と言うのにも納得だった。
「ではお前達は失われた時代での戦いの後にすぐに、この時代に戻ってきたのか?」
ラドラの問いかけに武蔵達は首を振ってラドラの問いかけを否定した。
「失われた時代での戦いを切り抜けた俺達は、平行世界の新西暦に迷い込んだ。そこではインベーダーと機械と生物の融合態のような謎の生物群と人類の生存競争が行われていた」
切り替わった画面を見てビアン達は眉を細め、息を呑んだ。今度の光景はビアン達も良く知る新西暦の建造物が崩壊し、荒れ果てた有様だったからだ。
「旧西暦でトライロバイト級の「エルドランド」を発見した。だがビアン、お前なら判る筈だ」
イングラムの問いかけにビアンは腕を組んで小さく頷いた。
「トライロバイト級は開発者は死亡し、未完成の図面が残されているだけの戦艦だ。つまりありえてはいけない兵器と言う奴だな」
「そのとおりだ、だがこの通り俺達は旧西暦で殆ど完全な状態のトライロバイト級と破壊されたPT郡を発見した」
モニターに映し出された光景は海上に浮かぶ丸っこい特徴的なシルエットの戦艦と、穴だらけになったPTや見た事のない人型機動兵器の残骸だった。
「む? イングラム。その機体の破壊の跡は……アルトアイゼンか?」
「流石ATXチームの隊長だな。ゼンガー……ああ、この破壊を行ったのはアルトアイゼンだが……それはもう少し後で詳しく説明しよう。今はエルドランドの話を続けさせて貰うぞ」
ATXチームの隊長であり、何度もアルトアイゼンと戦ったゼンガーはエルドランドの周辺の破壊されたPTを見て、それがアルトアイゼンの仕業であると見抜いたが、イングラムは今はエルドランドの話を優先したいと言った。
「エルドランドには俺が乗っていた機体の原型になった「量産型R-SWORD」と「量産型SRX」が存在していた、だが量産型SRXはインベーダーに寄生されメタルビーストSRXとなり、俺達と真ゲッターロボと戦った。その時は俺達が勝利を収めたが、量産型SRXの残骸は確認出来ず、恐らくだが……膨大なゲッター線によって時空を越えて建造された平行世界の新西暦……この場ではあちら側と呼称するが、あちら側へと転移した。あちら側についての詳細は俺達も完全に把握している訳では無いが……エアロゲイターではなく、別の敵性異星人の襲撃を受けて分岐した世界だった」
「なるほどとんでもない世界を生き抜いてきたという訳だな」
イングラムの話を聞いていたビアンはほんの触り程度だが、武蔵達がどんな戦いをしてきたのかを察した。少しでも判断を間違えれば、死ぬ……燃料や弾薬の補充もままならない世界で必死に生き延びて、この時代に帰って来たのだと察するに余りあった。
「私達はそこでシャドウミラーと言う連邦部隊と遭遇し、共に生き延びこの時代へと転移してきたが……あの世界では私達は味方だったが……この世界では敵同士となるだろう」
「それは何故だ? 共に戦ったのだろう? 何故敵対する理由がある?」
「その理由は簡単だ。シャドウミラーが掲げるのは「永遠の闘争」。永続的にコントロールされた戦争を続け、発展を目指すという物だからだ。その思想に共感出来るか?」
イングラムの問いかけに首を縦に振るものはいなかった……エルザム達は確かに兵士だが、戦争を望んでいるわけでは無い。永遠の闘争など受けいられる訳がないからだ。
「エキドナはシャドウミラーの構成員にして……人造人間だ。シャドウミラーは戦い続ける為に命を作り出すという禁忌にまで手を伸ばした。そんな集団がこの時代に紛れ込んでいる……本当ならば姿や名前を言えればいいんだが……それも叶わない」
「どういうことかね? 一緒に戦ったのだから名前や容姿を教える事は出来るのでは無いか?」
「……世界を超えるというのは非常にデリケートなことなんだ。そして世界には修正力と言うものがある……カーウァイとは話し合って情報のすり合わせをしたが……武蔵……お前あいつらの事を覚えているか?」
イングラムの問いかけに武蔵はすいませんと謝ってから首を左右に振った。
「……すんません、全然思い出せません。エキドナさんの事は覚えているんですけどね……」
「つまりなんだ……。お前達はあちら側からこちら側に戻ってきたときに記憶を封印されたとでも言うのか?」
「そうなるな……言いにくい事だが……シャドウミラーが起す筈の騒乱が起きる前に俺達に止める術は無いと言うことだ」
脅威があるとそれを伝えるべく戻って来たイングラム達だが、その事を話す事は出来ず構成員もどんな機体を運用しているかもビアン達に教えることが出来ないのだった……。
イングラム達が覚えていた「あちら側」の話はあやふやで、そして継ぎ接ぎだらけのものだった。武蔵とカーウァイとイングラムの3人で話し合い、情報のすり合わせを行い、覚えている内容を纏めるとはっきりと覚えている事は決して多くはなかった。
1つ エキドナ・イーサッキが人造人間であると言うこと。だが、武蔵に救われたからか、人間性を帯び始めておりそれが判っているからイングラムとカーウァイも警戒はしつつもクロガネに連れて来ることを決めた。
2つ あちら側の世界では生物と機械の融合態のような奇妙な生物とその生物に寄生された「キョウスケ・ナンブ」とアルトアイゼンが猛威を振るっていたと言うこと……。
3つ 連邦政府が計画した地球を覆うバリアを作り出すシステム……「イージスシステム」の暴走がキョウスケに寄生した生物とインベーダーの出現を齎した、故にイージスシステムの起動はこの世界でも何か大きな事件を呼び込む前兆になりかねない。
4つ 時空を越える奇妙な生物の存在
5つ 武蔵達が転移に成功しているので、確実にシャドウミラーもこの世界にいるであろうと言うこと……。
大きく纏めるとこの5つがイングラム達から与えられた情報だった。
「教えてもらえた事はありがたいが、あちら側の情報に関しては俺達の不安をあおるだけだな」
「それに関してはすまないとしか言えないな……シャドウミラーの構成員と出会えば……あるいは、シャドウミラーが大きく動けば……俺達も記憶を取り戻す可能性はあるとしか言いようがない」
あやふやで不明瞭な記憶では、警戒を強めろとハガネやヒリュウ改に伝える事も出来ない。
「なるほどな。では今度はこちらの番だ。まずだが……武蔵君達が過去に飛んだ後は、連邦政府もその方針を大きく変え、地球防衛の為の新機体の開発などに力を加えている。その中でももっとも大きな事業と言えば……「量産型ゲッターロボ計画」だ」
「……すいません、あの何処の馬鹿がそれを計画したんですか?」
「ああ、それは俺も思う。あんな物を量産してどうするつもりだ? それともビアンお前ゲッター炉心の情報を連邦に流したのか?」
「いや、ゲッター炉心の情報は流していない、ただアメリカの議員の1人「ブライ議員」が先導になった計画とは聞いている」
ゲッターロボは戦闘能力こそ高いが、それはゲッター炉心による膨大なパワーが前提となっている。ゲッター炉心もない、ゲッター合金もない……それではゲッターロボの戦闘力を再現する事は出来ず、正直言って予算と材料の無駄と言わざるを得ないだろう。
「ブライ……百鬼帝国の大将がブライって言うんですけど、そのブライ議員って言うのオイラと同じなんじゃないですか?」
隼人や弁慶から百鬼帝国の長はブライという鬼だと聞いていた武蔵はブライと聞いて、自分と同じで転移してきた人間じゃないか? とビアン達に尋ねた。
「いや、連邦議員だから国籍や経歴はしっかりしている。旧西暦の存在だとしたらそこまで完璧な経歴は準備出来ないだろう、一応簡単なプロフィールならすぐに見せれるぞ」
ビアンがコンソールを操作し、モニターにブライの経歴を呼び出した。年齢65歳、ジュニアスクールから大学まで一貫して神童と呼ばれた天才児で、高校、大学ではアメフトの選手として活躍。大学卒業後は就職し、32歳で独立、その後40台後半で選挙に立候補し、無事に初当選を果たし、そこから約20年間ずっと議員を続けており、アメリカの南西部で絶大な支持率を持つ連邦議員――それがブライの経歴だった。
「ここまでしっかりしていると武蔵と同じという線は薄いな」
「ああ、親との血縁関係も確認されている。同姓同名の別人と見て良いだろう」
「……そうですか、オイラの考えすぎですかね?」
自分の考えすぎと言いながらも、武蔵の目からブライを疑う光は消えなかった。それだけブライという名前が武蔵の頭の中で引っかかっていた。
「まぁブライ議員に関してはおいおい調べていけばいい。話を戻すが量産型ゲッターロボ計画自体は私も失敗すると思っている……量産型ゲッターロボの為にマオ社、テスラ研、イスルギ重工などのありとあらゆる企業の技師が集められているのが気掛かりだ」
「確かにな……それは怪しいな」
技師を一箇所に集める……量産型ゲッターロボ計画の裏側で何か、別の計画が動いている可能性は極めて高い。
「あ、そうだ。ビアンさん、百鬼獣ってかなりの数が出現してるんですか?」
「百鬼獣とはクロガネを襲ったあれかね? 武蔵君が言っていた百鬼帝国というのを何か関係があるのか?」
武蔵の問いかけにビアンが逆に尋ね返すと武蔵は自分が知っていることを話し始めた。
「オイラも詳しく知っている訳じゃないんですけど……どうもオイラが死んだ後にリョウ達が戦っていた組織の兵器みたいで、生物と機械の特徴を持ってるみたいです」
「……なるほど、道理で歯が立たない訳だ……恐竜帝国の同類と言う事か」
クロガネの戦闘班が壊滅寸前に追い込まれたのも納得だ。旧西暦の技術で作られたオーバーテクノロジーがふんだんに使われた特機が集団で襲ってきたのだ。腕の良いパイロットが揃っていても、劣勢に追い込まれたのも納得だ。
「それよりもだ。あの戦艦に乗っていた男の声はビアンの物だったな」
「その件についてだが、グライエン議員を襲っていたのもグライエン議員と同じ顔をした男でした」
エルザムの報告を聞いてクロガネを襲った敵勢力とグライエンを襲った敵勢力は恐らく同じ存在であるという事が明らかになった。
「私を殺して今日からあいつがビアン・ゾルダークになると言っていたな……」
「考えたくない話ですが……百鬼帝国とやらは相当根深く活動しているようですね」
「問題はどこに敵がいるか判らないと言うことだな」
あそこまで完璧に変装出来るのだ、連邦軍にも、そして政治家の中にも百鬼帝国の手が伸びている可能性は極めて高い。だが敵と味方の区別がつかないのでは公にすることも出来ない。疑心暗鬼となれば、内輪揉めで人類は追詰められることになるからだ。
「頭が痛い問題ばかりだ……ラングレーの事もあるのに」
「ラングレー基地の事か? あの基地はDC戦争で廃棄されたのでは?」
イングラムの記憶ではラングレー基地は壊滅した所で止まっている、ラングレー基地が再稼動していると思っておらず、どうなっている? と尋ねる。
「いや、先日ラングレー基地は司令部の場所を一部移転して復活したんだが……そこにヴァルシオン改の発展機が隠されていたらしくてな……テロリスト、間違いなくアードラー一派の生き残りだろうがそれに奪取された」
「あのくそジジイくたばってても余計なことしかしねえな」
武蔵がポツリと呟いたが正しくその通りである。アードラー・コッホは既に死去しているが、死んでいても余計な事をする相手と言うのは少ないが存在している物だ。
「あの戦いの後地球は平和に向かって居たんだがな……すまない、こんな事になってしまった」
「ビアンさんが悪いんじゃないですよ、それに何よりも大きな騒動が起きる前に戻って来れて良かった」
また地球を守る為に戦えると笑う武蔵、今回の戦いは前回よりも激しい物になると全員が黙っていても察していた。戦いが本格的になる前に武蔵やイングラム、そしてカーウァイが戻って来たのはクロガネにとって間違いなくプラスだった。
「表舞台に出るつもりは無かったが、裏で動くとしても相当に疲れることになりそうだな。カーウァイ」
「望む所だ、今度こそ私は最後まで地球を守るために戦える」
「……それは嫌味か?」
「思い当たる節しか無いだろう?」
にやりと笑うカーウァイにイングラムは肩を竦めて笑った。イングラムとカーウァイの間に不穏な空気は無く、仲間として協力し合える関係であると言うことが判った。
「これから苦しい戦いになるがよろしく頼む」
ビアンの言葉に武蔵達は勿論だと笑い、再び武蔵達は地球を、仲間達を守る為に動き出すのだった……。
「エルザム、ゼンガー、ラドラ。鈍りきったその身体を鍛えなおしてやる、来い」
「「「ご指導ありがとうございますッ!!!」」」
新兵かと言う勢いで返事を返すエルザム達はカーウァイに連れられてブリーフィングルームを出て行く、武蔵とイングラムはその姿を溜め息を吐いて見送る。
「もう少しゆっくりすれば良いのに」
「カーウァイも部下に会えて嬉しいのさ、俺はR-SWORDとタイプSから情報を可能な限り吸い出してくるとしよう」
イングラムも端末を片手に手を振り、ブリーフィングルームには武蔵とビアンだけが残された。
「武蔵君、いきなりで耳が痛いと思うが……アイドネウス島での特攻のような真似はしないと約束してくれ」
「……判ってます。過去に行った時……皆に怒られて、あの時はあれでよかったと思ってましたけど……自分の行いが間違ってたっていやって言うほど思い知りましたよ。だから今度は皆で生き残る為に戦いますよ」
「……そうか、それなら良かった……武蔵君、改めて言おう。お帰り、良く戻って来てくれた」
差し出されたビアンの手と握手を交わした。これからの戦いを今度こそ最後まで戦い抜いて、皆と共に笑って大円団を迎えてみせると武蔵は改めて誓うのだった。クロガネを襲った百鬼帝国……、そしてラングレー基地を襲い、ヴァルシオン改・タイプCFと量産型ゲッターロボを奪ったテロリスト集団……それらの影で暗躍するであろうシャドウミラーと戦う為に再び武蔵はビアンの手を握るのだった。
「所で武蔵君、エキドナ君だったかな? 彼女とは付き合っているのかね?」
「……あのビアンさん、急に何の話ですか?」
「いや、随分と親しいように見えたのでね」
「別にそういう関係じゃないですよ」
「そうなのか、邪推してすまなかった、そうそう後でユーリアに顔を見せてやって欲しい、彼女は武蔵君を探して随分と頑張ってくれたからね」
「勿論ですよ。皆にも顔を見せて回ろうと思ってます」
「そうしてやってくれ、きっとユーリアも喜ぶ」
ユーリアが武蔵を思っているのは判っているので、少し背中を押してやろうと老婆心を出すビアンなのであった……。
武蔵達がクロガネと合流した頃。ラングレー基地第4試験場では……今回の事件の後処理が行われているのだった。
「そうか……奴らは逃げ切ったのか」
「はい。S-AWACSの方でも追尾不可能だったそうです」
ラングレー基地から逃亡したヴァルシオン改・タイプCFと量産型ゲッターロボの追跡を行っていた部隊からの、見失ったという報告を聞いてカイは小さく肩を落とした。
「詳細な情報がもっと早く来ていれば何とかなったかも知れんが……後の祭りか」
「そうですね、クレイグ司令も知らなかったようですしね」
「全くあの蛸坊主は余計な事しかしないなッ!」
ケネス・ギャレットと言う男は現場からとことん嫌われている軍人だった。自分の出世の為には捨て駒も平気で行う、カイも何度か顔合わせをしているが徹底的にそりの合わない人種だった。カイが悪態をついていると試験場の司令室の扉が開く音が響いた
「……カイ少佐、事情聴取が終わりました」
ラングレーからの応援部隊の事情聴取に同席していたラトゥーニがバインダーを手に入出してきた。
「あのヴァルシオンについて何か判ったか?」
「はい。あの機体はDC戦争後、イスルギ重工で秘密裏に開発が進められていたものだそうです」
「……連邦軍の依頼でか?」
ラングレー第4試験場に運び込まれていたと言う事、そしてケネスが失脚してからのことを考えると今回の事件は完全にクレイグの失脚を狙った妨害工作の可能性が高い。
「ええ。それで、この試験場でテストを行う予定だったと……命令はジュネーブからになっているそうです、命令書とジュネーブからのSSSクラスの通信履歴がありました」
ラトゥーニの報告を聞いてカイとライは眉を顰めた。命令書だけならまだ判る、しかしジュネーブからの直接の辞令となると前回のDCの戦争の時のように今回のテロリストと軍上層部が内通している可能性が浮上してきた。
「嫌な流れだな、クレイグ司令だけでは無い、伊豆基地のレイカー司令にも話を通しておこう」
「そうですね、クレイグ司令に責任を擦り付けるつもりかと思いましたが……ジュネーブが動いているとなると相当きな臭いですしね」
これが普通の機体ならまだ良い、だがDCのフラグシップのヴァルシオンのマイナーチェンジ機となるとDCの名を使いたい集団にとっては恰好の獲物だ。
「クレイグ司令も運が無いな、いきなり貧乏くじだ」
「大丈夫ですよ、カイ少佐。クレイグ司令は若いですが、芯のある人です。今回の件の逆境など笑って跳ね返すでしょう。それよりも問題はイスルギ重工の方かと」
「キョウスケ……そうだな、その通りだ。社長が代わっても、この体たらくだ……やはりイスルギ重工は信用ならんな」
司令室に入ってきたキョウスケの言葉を聞いてカイは眉を顰める。前回の戦争でDCに協力し、社長が変わったことでクリーンになったとアピールしているイスルギ重工だが今回の件でそのイメージは完全に瓦解しただろう。
「横流しをしたのは、DC残党のスパイか、それとも会社ぐるみの犯罪か……」
「少尉、その両方かも知れんぞ」
考えれば考えるほどにイスルギ重工の怪しさが浮き彫りになる。捕まった保安係長が捨て駒だったのか、それともDCのスパイが居たのか……叩けば幾らでも埃の出てくる企業だ。警戒を緩めることは出来ないだろう……
「いずれにせよ、そこら辺の追及は俺達の仕事の範疇外……問題なのは、活発化してきている残党共の動きだ」
「ええ。彼らは大規模な武装蜂起を目論んでいるのかも知れません……」
今回の一件が再び大きな騒乱の幕開けになる……キョウスケ達はそれを口にすることは無かったが、全員がそれを感じ取っていたのだった。
「そうか、ご苦労。輸送機を送るので、それに乗って帰還してくれ」
第4試験場での報告を簡潔だが聞いていたクレイグは態々呼び寄せた部下の前だが、深く溜め息を吐いた。
「大丈夫ですか? クレイグ司令」
クレイグの前で直立不動で待っていたアジア系の青年を見て、クレイグはすまないと謝罪の言葉を口にした。
「すまないな、リー・リンジュン中佐」
「いえ、問題ありません。むしろ私の方こそ、このようなタイミングで来てしまい申し訳ありません」
クレイグの謝罪の言葉に自分こそ悪いと謝罪するリーの姿にクレイグは苦労して引き抜いた甲斐があったと確信した。
「そう言って貰えると助かる。リー中佐、君とシロガネにはATXチームを預ける。遊撃部隊としての活躍を期待している」
「はッ! お任せください。ゲッターロボと共に戦ったL5戦役の英雄と共に戦えるとは光栄です」
その言葉に偽りは無い、リーにとって北京でゲッターロボと共に戦い、家族を守り抜いたハガネ、ヒリュウ改のクルーと共に戦えるというのは最大の誉れだ。クレイグによる引きぬきによって中国の連邦軍からアメリカの連邦に席を変えたが、それが無くてもリーは自分からアメリカへの転属を望んだろう。
「うむ、これからの活躍を期待しているぞ、リー中佐」
「はっ! ご期待に応えれるように励む所存であります」
正史では北京で家族を失ったリー・リンジュンだが……この世界では愛する者全てが生きているリーは決して歪むことなく、そして僻む事無く真っ直ぐに、そしてストイックに己を鍛え上げてきた。いずれは、ハガネ、そしてヒリュウ改のように地球を守る連邦軍の盾として、剣として己の職務であるスペースノア級の艦長として采配を振るう事を希望してきた。そのチャンスが訪れた事にリーは喜びを隠す事が出来ず、まるで新兵のようにクレイグに敬礼を返すのだった……。
クレイグにリーが着任挨拶をしている頃。ブリットはカタログを覗き込みながらうなり声を上げていた。
「どうした? なにをそこまで考え込んでいる?」
「キョウスケ中尉。いえ、そのヒュッケバイン・MK-Ⅱが大破し、修理が無理だという事でゲシュペンスト・MK-Ⅲを受領したんですが、どのカスタムにするかと」
「わお、ブリット君。オニューのゲシュちゃんのカタログ貰ったの? 見せて見せて」
キョウスケとブリットの話にエクセレンが割り込み、ブリットの持っているカタログをさっと奪って目を通す。
「へえーこんなに種類が増えてるんだ」
「ええ、俺としては剣撃特化のKタイプが好みなんですが……」
ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Kタイプ――肩部・脚部・背部に鋭利なシルエットのブースターと一体化した装甲を増設し、切り込む速度を強化し、頭部の角型のセンサーの感度を上げ、最大加速のまま避けると言ったことも可能にしつつ、数発程度の被弾ならば何の損害にもならない重装甲の胸部装甲を装着した剣撃特化型がブリットの好みらしいのだが……。
「腕の感覚か、試して駄目だったのか?」
「ええ、どうもK型では俺の感覚に合わなくて、それにシシオウブレードも今のままでは搭載できなそうなんです」
「え? そうなの? じゃあ、これは? 砲撃仕様のほうのSは? 武装を少しオミットして、装甲の一部をKに変えてもらうとか」
リオも使った砲撃装備をしたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sを進めるエクセレン。Kタイプと異なり、流線型の装甲とビームキャノンを内蔵したシールドと一体化した腕部装甲を装着し、肩部には複合型のビームコートを搭載しておりビームに対しては無類の強さを誇り、機動力を犠牲にした重装甲、そして背中のビームキャノンと実弾キャノンの計4門の砲塔を背負った姿は正しく動く要塞と言う形相だ。
「ブリットには合わないだろう」
「ええ、ちょっとこれは俺には合いませんよ、それにそこまで組み換えが出来るって言う話も聞かないですし」
「そうかな? 案外いけると思うけど……じゃあこれは? タイプA」
「死にます」
「乗ってみれば、案外マシかもしれんぞ? アルトより加速度は落ちている」
「キョウスケ中尉死にます。想定されるGだけで無理だって判ります」
タイプAはアルトアイゼンを簡略化しているが、右腕のリボルビングステーク、左腕の4連マシンキャノン、肩部のブースターとクレイモアの代わりに搭載された実弾の砲門など、アルトアイゼンの癖を減らしたような姿だが加速力はやはり段違いで、危険と大きく書かれていた。
「んーじゃあさ、ノーマルにする? でもあれだと今度はブリット君に付いてこれないんじゃない? あ、タイプKとかSとかWとかのパーツを少しずつ装備してる?」
「そんなのしたら機体バランスがバラバラすぎて操縦なんて出来ないですよ……でも困ったな、どうしようか」
妥協するか、どうするかと話し合っているとラングレーの開発チームと見覚えの無いツナギ姿の技術者が駆け足でやって来た。
「ブリット、お前に合わせてKタイプを改造してやるぜ!」
「サムライカスタムだぁッ!!」
「ヒャッハー行くぜぇッ!!」
「好きに改造できるとか最高だな!!」
「あれ分解許可貰ったか!?」
「貰いました! ヒュッケ・MK-Ⅱはもう解体してます!」
「しゃあ、行くぜぇ!!! おい、どんなのがいいんだ!? キッチリ要望を言えよ!!」
「え。ま、待っ……うわあああーーーッ!?」
ブリットを担ぎ上げて走っていく開発チーム。その一瞬の惨劇をキョウスケとエクセレンは呆れ顔で見つめる。
「なにあれ? あんな人達いた?」
「テスラ研からの応援チームではなかったか?」
「あー……なんかあれだけど、良いんじゃない? ブリット君にぴったりのゲシュちゃんになりそう」
「だな」
正規の仕様のカスタムでは感覚にあわないのならば、専用のカスタマイズしかないだろう。
「でもあの感じじゃ休めないわよね」
「軽い打撲程度だから大丈夫だろう」
出撃して軽い休憩はしているが、あの様子では休めそうに無いなとキョウスケとエクセレンは呟くのだった。
「どうだあ? 腕の感じは良くなったか?」
「はいッ! 後は出来たら肩部と頭部のパーツをもう少し鋭利な感じで空気抵抗のほうを」
「OKOKッ!」
疲れは感じていたブリットだったが、自分の為にすぐに装甲を調整してくれる整備班に悪い感情を抱く訳が無く、協力し合いながら自分の専用機のゲシュペンスト・MK-Ⅲの改造に全面的に協力しているのだった。
第6話 これから へ続く
次回は本来ならば「美しき侵入者」の回ですが、そこはスキップしたいと思います。話の流れで考えるとラミアはもう少し後で触れて行きたいので、アンジュルグの合流シーンは省いて、クロガネでの武蔵や、誰だお前状態のリーとATXチームの話を書いて行こうと思います。暗躍しつつ、動く予定を立てている武蔵達と若干ポンコツ疑惑のあるユーリアさんとかでほのぼの見たいな感じで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い