進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第7話 星を追う翼と蘇る鬼 その1

第7話 星を追う翼と蘇る鬼 その1

 

 

イスルギ重工でミツコとの密約を交わして戻って来たヴィンデルに追跡失敗の報告をしたレモン。その報告を聞いたヴィンデルは眉を顰め、怒りを露にした。保険と言う意味を兼ねて3機も送り出したのに、1機も戻らず、その上バンも取り逃がしたと聞けば怒りを覚えるのは当然の事だった。机に拳を叩きつけるヴィンデルだが、レモンは涼しい顔をしていて、それが余計にヴィンデルを苛立たせることに繋がるが、その冷静さを買って技術顧問としてスカウトしたのだ。涼しい顔をしながら落ち着いた? と声を掛けられればヴィンデルも、1人だけ激昂している自分が馬鹿に思えて、冷静さを取り戻す事につながった。

 

「逃げられただと? エルアインスを3機も送り出してか? 一体何があった、それほどまでにあのガーリオンの性能が高かったのか?」

 

逃げたように見せたのはブラフで、逃げなくても勝てるだけの戦闘能力があったのか? と問いかけるヴィンデル。

 

「うーん、そうじゃなくて応援に来たのが厄介すぎたのよ」

 

正直な所レモンにしてもガーリオンを取り逃がしたのは想定外だった。確かにガーリオンにしては性能は高かったが、それでもエルアインス3体と言う劣勢を跳ね返せるほどの能力は無かった。だが、バンは逃げる事に秀でており3対1でも上手く立ち回り時間を稼いでいた。

 

「応援が来るまでの時間を稼がれたのか……しかし、リオンやガーリオンだろう、何故エルアインスが全滅した? それほどまでの大群が来たのか?」

 

リオンやガーリオンではエルアインスに勝てるとは思えず、相当数の応援が来たのか? と問いかけるヴィンデルにレモンは聞くよりも、見たほうが早いわと言ってコンソールを操作する。

 

「応援は3体だけど……流石に量産型Wシリーズじゃ荷が重かったわ」

 

レモンはそう言うとモニターにWシリーズが記録していた最後のデータと言われてモニターに映し出された光景を見て、失敗した理由にヴィンデル納得した。いや、納得せざるを得なかった。

 

「……なるほど、これならば仕方ないな」

 

「でしょ? 私達とは随分と離れた場所に転移した見たいね」

 

イスルギ重工から飛び立ったカスタムガーリオンは脚部、右腕を失い鹵獲寸前だったが、空中から打ち込まれたビームに鹵獲に動いたエルアインスが一撃で爆発四散し、一瞬の動揺を見せた隙にコックピットを一突きにされて2機。そして最後に空中から飛来した戦斧に頭部を粉砕されて最後のエルアインスも沈黙……この間約30秒。量産型ではなく、正規のWシリーズならまだしも、量産型にゲシュペンスト・タイプS、R-SWORD、そして漆黒のゲッターロボを相手にするのは能力不足が否めなかった。

 

「……ゲッターD2では無いようだが……これはなんだ」

 

「ゲッターロボ系列なのは間違いないわね。デザインからしてプロトタイプだとは思うけど、それ以上は判らないわ。ま、判っているのはイングラム達も転移に成功して、私達を止める為に動いているって事ね」

 

胴長、鉄板を丸めるだけの技術しかないような異様なデザインのゲッターロボが中破したガーリオンを抱え、その脇をゲシュペンスト・タイプSとR-SWORDがガードし、飛び去る光景が量産型Wシリーズが最後に記録した光景だった。

 

「カーウァイ大佐達が敵に回るのは想定内だ。だが武蔵はどうなった、武蔵に回収されたW-16からの連絡はないのか?」

 

「ないわね。最後まであの場所に残っていたのはソウルゲインとゲッターD2。転移の時間差も相当でてるみたいだし……まだ、こちら側には来てないのかも知れないわ」

 

テスラ研で最後までゲシュペンスト・MK-Ⅲと戦い、一番最後に転移したソウルゲインとゲッターD2。その2機の転移反応はまだ確認出来ていない……その理由はやはり戦いの中で記録された異常な数値のゲッター線が理由だろう。

 

「最後に記録されている転移反応も私達が転移した時の10倍の数値だし……武蔵が月でソウルゲインに会っているって言うんだから、探すならそっち方面ね」

 

「ちっ、アクセルの捜索と武蔵の捜索はお前に任せる。W-16からの連絡があれば私にすぐに報告しろ」

 

苛立ちを隠さずに部屋を出て行くヴィンデルは悠々と見送り、レモンは小さく微笑む。

 

(W-16……いえ、エキドナ。貴女と再会する時を楽しみにしているわ)

 

既にゲッターD2の反応は感知していたが、エキドナからの連絡が無いからそれを口にする事はしなかった。エキドナが報告しない……そこに何かが意味がある。レモンが求め続けた自我の覚醒……それが促されているのかもしれないと思えば、シャドウミラーの技術顧問としてではなく、1人の研究者としての好奇心が勝ったのだ。だからレモンは何も言わない、確かに義理固い性格のレモンだが……今はそれを上回る好奇心を覚えてしまっているのだった……。

 

 

 

 

地球連邦軍ヒューストン基地のオフィスでは、連邦軍基地には似つかわしくない服装――チャイナドレスを纏った妙齢の女性……「ミツコ・イスルギ」の姿があった。手にしている扇で口元を隠し、目元だけを露にしているが、その視線は目の前にいる男性の女性を品定めするような色を秘めていた。

 

「……プロジェクトは順調に進行しているようですね、これなら私も出資した意味があると言うものです」

 

ミツコの言葉に眼鏡を掛けた柔らかな雰囲気をした男性――「フィリオ・プレスティ」が手にしたタブレットを確認しながら返事を返す。

 

「はい。本日1500、このヒューストン基地にてシリーズ77・ コードβプロト『カリオン』のテストを行います」

 

フィリオの言葉を聞いてミツコは楽しそうに笑い、思い出したようにフィリオに注文を口にする。

 

「うふふ、結果が楽しみですこと、特にカリオンの武装がどれだけの力を発揮するか、出来ればこの目で確かめたい所ですわね。忘れないで記録映像を送って下さいましね。画像はSSSモード、音質はRS5モードで。後々、商品化するつもりですの」

 

「……シリーズ77に武器はどうしても必要な物なのですか?」

 

ミツコの言葉に僅かな嫌悪感を見せたフィリオにミツコは手にしていた扇を閉じて、それをまるで剣のようにフィリオへと突きつける。

 

「もちろん。ミッドクリッド大統領の東京宣言をお聞きになったでしょう? あれが異星人の存在と、彼らによる地球侵攻の危機が政府公認の物となりました。つまり地球の外には地球を狙う敵だらけ、そんな中を丸腰で進む事が出来ると本当に思っているのですか?」 

 

「しかし、『プロジェクトTD』の本来の目的は……」

 

フィリオが主導になって進めている計画……プロジェクトTerrestrial Dreamは外宇宙を行く恒星間移動を目的とした機体を作り出すプロジェクトであり、決してミツコの言っているような戦闘用の機体を開発するものでは無いと言おうとするが、ミツコの微笑みながらも、邪悪な色を宿した瞳に見つめられ、フィリオは言葉に詰まった。

 

「何を寝言を言っているのです? 7年前、太陽系外宙域で異星人と交戦した探査艦ヒリュウの事をお忘れ?……まさか、大事な大事な妹さん達を敵でいっぱいの外宇宙へ丸腰で送り出すおつもりですか? それに貴方は外宇宙に敵が居る事を知っている筈でしょう?」

 

図星を突かれ黙り込んだフィリオに畳み掛けるようにミツコは言葉を続ける。

 

「貴方はビアン博士の考えに賛同したからこそ、彼の下でリオンの開発に加わったのでしょう? 本来の計画を1度捻じ曲げて、それならもう1度捻じ曲げる事に何の抵抗があるのです?」

 

DC戦争時にDCの主力となったリオン――それはフィリオが設計していたプロジェクトTDの廉価版であり、本来の恒星間移動を捨て、安価、そして生産性に長けた機体として再設計された機体だ。イスルギ重工の社長であったレンジの娘であるミツコは隠されていたリオンの設計者であるフィリオの事を知っていた。だからこそ、1度軍事用に設計した機体をまた設計する事に何の抵抗があるのですか? とフィリオに告げる。

 

「良い機会ですから、はっきり申し上げましょう。私の仲介が無ければ、DCが壊滅した時点でプロジェクトは解散……それどころか、あなた達は反逆者として拘留される所でしたのよ? 恩人である私の言葉に反論など「うるさいぞ、女。そんなに文句があるのならばプロジェクトTDのスポンサーを降りろ、一々鬱陶しいぞ貴様」

 

司令室に踏み込んできた黒髪の目付きの鋭い男――「コウキ・クロガネ」とその後ろに隠れるようにして司令室に入ってきた「ツグミ・タカクラ」の姿を見て、ミツコは少しだけ目を吊り上げたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「コウキさんも来ていてくれたのですね。貴方にあえて嬉しいですわ」

 

「下らん世辞と色目使いは止めろ、目障りだ」

 

自分の容姿を自覚しているミツコは腕で胸の谷間を強調しながら、上目遣いでコウキを見つめる。だがコウキは下らないと言って腕を振ってミツコを自分の側に近づけさせない。

 

「L5戦役でビアン・ゾルダークは連邦に協力し、地球を勝利に導いた。確かにビアン・ゾルダークは反乱を起こしたが、それが無ければ地球はエアロゲイターに蹂躙されていた。違うか?」

 

「そ、それはそうですが……私が仲介しなければ……」

 

「ふん、貴様が仲介などしなくても、プロジェクトTDは伊豆基地のレイカー・ランドルフと、ラングレーのクレイグ・パラストルが興味を持っている。スポンサーなど幾らでも見つけれる。スポンサーなど何だの言って、貴様はやかましい上に目障りだ。とっとと失せろ、第一何故商人如きがこの場にいる。自分の立場を弁えろ女」

 

理路整然とミツコの言葉を論破し続けるコウキ、自分の色気も通じない、スポンサーだからと言う脅しも通用しない。そんなコウキをミツコは苦手にしていた。

 

「お前もお前だ。一々あの時の事を持ち出す性悪女に言い包めれられるなら、スポンサーを降りても構わないくらい言ってやれ」

 

自分に飛び火したとフィリオは苦笑する、その反応を見てミツコは眉を細めて再びフィリオに扇を向けようとするが、それはツグミによって防がれた。

 

「私達の研究に興味を持っていただけるのは科学者としては光栄です。ですが、スポンサーの地位を利用して脅すような真似はしないで欲しいですね。それに私達には既にラングレー、伊豆基地の両方からお声掛けしていただいております」

 

「なっ、そ、そんな話私は聞いてませんわよ!?」

 

つぐみの言葉に声を荒げるミツコ、そしてフィリオは意を決した表情で口を開いた。

 

「我々の研究を連邦軍で続けられるようにして下さったことに対しては感謝しています。ですから、貴女をスポンサーとして立てて、恩に報いる為に貴女の意向に従ってきました。ですが、プロジェクト・TDの基本理念は「恒星間移動」です。過度な武装は私の設計理念に反しますし、何よりもプロジェクトTDの機体は緻密なバランスによって速度を確保しております、過度の積載はスピードを低下させる所か、墜落事故のリスクを高めることにしかなりません」

 

畳み掛けるようにタブレットをミツコに見せて説明するフィリオだが、商人であるミツコにはその資料を見ても何を現しているのか理解出来ない。しかし、この場にいる全員が自分を馬鹿にしていると言う事は理解出来てきた、そしてそこにコウキが畳み掛けるように言葉を投げかけられる。

 

「商人が判らない世界に踏み込んでくるな。商人ならば商人らしく売り物が出来るのを待っているんだな……余りぐだぐだ言っているととんでもない粗悪品を掴むことになるぞ」

 

確かに武器を搭載する事を頑なに反対するフィリオに発破を掛ける為にミツコはここに居た。だが実際は自分が何も理解していないと馬鹿にするように言われ、司令室にいるオペレーター達にも笑われたミツコは顔を赤くさせ、怒りを露にした。

 

「……ッ! 失礼しますわッ!」

 

コウキの言葉にも、フィリオの態度にも腹が立った上に、自分が見下している基地のオペレーターにも笑われた。それはプライドが高いミツコに耐えれる物ではなく、ミツコは逃げるように司令室を出て行った。

 

「ふん、性悪女狐め、フィリオ。情けないぞ、男なら言い返せ馬鹿」

 

「……はは、ごめんよ。コウキ……一応逮捕される前の恩人だから無碍にも出来なくてね」

 

「それで機体のバランスを悪くして墜落させるのか? 無理な物は無理とはっきりと言うんだな」

 

コウキの言葉にフィリオは謝る事しか出来ない。武装の追加に反対していたのはコウキの言う通り、機体バランスを崩す可能性を考えての物で、今搭載している僅かな武装がカリオンを安全に飛行させる最大の積載量であり。それ以上は機体バランスを著しく崩すことになるのだ。

 

「少佐。コウキの言う通り、イスルギにそこまで拘る必要は無いと思うんです。伊豆基地でも、ラングレーでも良い。開発拠点を変えてはどうですか?」

 

「……でも一応ミツコは僕達の恩人だし」

 

「恩人だからなんだ、設計もわからないアホ女に何をそこまで義理立てする。無理だと思ったら、さっさとスポンサー契約を切るんだな。無能が一々口を挟んでくると成功するものも失敗するぞ……良く考えるんだな、では俺はアイビスとスレイに声を掛けてくる。お前達はデータ取りの準備を始めておいてくれ」

 

コウキが司令室に来たのはツグミからフィリオが追詰められていると聞いたからだ、そうでなければコンテナでカリオンの調整をしていたコウキが司令室に来る事は無いのだ。

 

「コウキ」

 

「なんだ?」

 

早足で司令室を出ようとするコウキを呼び止めたフィリオは優しげな、でもそれでも強い意思が込められた瞳で笑った。

 

「ありがとう、今度無理難題を言われたらハッキリと言い返すことにするよ」

 

「そうしろ、人の弱みに付け込んであーだーこーだ言う奴はろくでもないからな。ツグミもフィリオが言えないなら変わりに言ってやれ、調整が終わったら連絡する。それまでは訓練プログラムの確認をしていろ」

 

乱暴だがツグミとフィリオを気遣う言葉を口にして、コウキは司令室を後にした。

 

「はは、またコウキに助けられたね」

 

「そうね……あの人……口は悪いけど良い人よね」

 

ツグミは強面で歯に衣を着せないコウキを苦手としていたが、不器用ながら優しい人と言うのは良く判っていた。

 

「コウキは昔からの友人でね。SRX計画に参加しているロブと僕と、彼とでよく話し合ったものさ」

 

楽しそうに笑ったフィリオは椅子に腰掛けて、1500から開催されるカリオンのテストプログラムのデータの再確認をする。それを見たツグミはフィリオに問いかけた。

 

「ねえ、フィリオ。どうして、そこまでアイビス・ダグラスを買うの? 私は正直……今回のテストに参加させるには早すぎると思うわ」

 

プロジェクトTDのシリーズ77は繊細な操縦技術を求められる。DC戦争時に正規のメンバーの何人かはDCに所属することになり、欠員になってプロジェクトTDのパイロットに選抜されたアイビスはあくまで予備パイロット。今回のテストに参加させるのはツグミは反対していた。

 

「そうだね。アイビスはまだ未熟でツイン・テスラ・ドライブの実験機であるカリオンを操れるかどうかと言うのは別問題だと思う」

 

テスラドライブを2基搭載する事で爆発的な加速を得ると言うのがシリーズ77の試作機であるカリオンの設計された理由だ。通常のテスラドライブでも不安定なのに、2基をリンクさせるツイン・テスラ・ドライブのシミュレーションを始めたばかりのアイビスには荷が重いとツグミは思っていて、フィリオもそれを同意した、

 

「……それなら今回のテストは100時間を越える訓練をしているスレイだけの方が良いと思うわ」

 

「……君の意見は最もかも知れない。だが、テストは予定通り2機で行うよ。例え上手くいかなくても、今回の経験はアイビスにとって絶対にプラスになる」

 

失敗しても構わないと言うフィリオにツグミは驚いた表情を浮かべた。コウキによって吹っ切れたとは言え、それは想定外の言葉だったからだ。

 

「なんでそこまで彼女を……アイビスに拘るの? 確かに、メンバーの欠員によりテストパイロットは今や2名だけになってしまいましたが……他にパイロットを探す事だって、それこそコウキ博士のほうがカリオンを乗りこなせると……」

 

「……ツグミ、そこから先は聞きたくないよ。その考え方はミツコ・イスルギの考えだ」

 

嫌悪しているミツコに似ていると聞いて、ツグミは口を紡いだ。フィリオは柔らかく微笑みながら窓の外に視線を向け、空を見上げる。その視線の先が空ではなく、そのもっと先の宇宙を見ているのはツグミにも判った。

 

「テレストリアル・ドリーム……僕は外宇宙を飛びたいと願って、プロジェクトTDのα、β、Ωを考えた。そしてスレイは僕の願いを叶えようと頑張ってくれている……だけどそうじゃない、そうじゃないんだ。それは僕の願いであって、スレイの願いじゃない。だから星の海を飛びたいと願っているアイビスを僕は買う……星の海を飛びたいと願うアイビスならば星の海をいつかは飛べる。だって夢は何よりも前に進む原動力になるからね」

 

そう笑ったフィリオにツグミは何も言えなかった。自分もプロジェクトTDに参加した時は純粋に星の海を飛びたいと願った……それを忘れていた事に気付いたからだ。

 

「そうね、私は大事な事を忘れていたわ」

 

「ふふ、思い出してくれて良かったよ。さ、テストの準備を始めよう。コウキが手伝ってくれているんだ、僕達も頑張らないとね」

 

今頃カリオンのテストの準備をトレーラーでしてくれているであろうコウキの事を思い、フィリオとツグミはテストの準備を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ヒューストン基地の訓練場に隣接するように停車したトレーラー車の中でコウキはテスト前の最終調整を行っていた。

 

「コウキ博士。カリオンの調整具合はどうだろうか?」

 

ノックの音に作業を中断し、振り返ったコウキに声を掛ける青い髪の冷たい印象を受ける少女――プロジェクトTDの主任のフィリオの妹である「スレイ・プレスティ」の言葉にコウキは肩を竦めた

 

「……スレイか、俺に出来る範囲ではベストの調整をしたはずだ。後はお前達次第だな」

 

「コウキ博士のベストな調整と言えば、完璧と言うことだな。これで私は安心して飛べる」

 

スレイは最初はプロジェクトTDに関係の無いコウキがカリオンの調整に関わる事に難色を示したが、スレイの操縦の癖に合わせて完璧に調整したコウキの腕前を知り、今はカリオンの調整を完全に任せるほどにコウキを信用していた。

 

「アイビスはどうだ?」

 

「……あいつは知らん、コウキ博士からも言ってくれ、アイビスには早すぎる」

 

「まぁ、普通に考えればそうだろうな」

 

「それならばコウキ博士からも主任に言ってくれ」

 

「言って変わるものでもあるまい。お前の兄は柔和に見えても石頭だ、自分で決めた事は誰に言われても変えん」

 

補欠メンバーであるアイビスをテストに出すのは正直博打も博打、大博打だ。それでもテストに参加させると決めたのはフィリオだ。アイビスから辞退しない限りは、フィリオはその意見を変えることは無いだろう。

 

「失敗してイスルギからスポンサー契約をきられたら「別に切られても良かろう、既にラングレーと伊豆基地から新しいスポンサーに出るという話が出ている」……そんな話は聞いていない」

 

このテストに失敗してイスルギのスポンサー契約を切られたらと気負いすぎているスレイ。そんなスレイにコウキは軽い口調でイスルギがスポンサーを降りても、次のスポンサーが居ると軽い口調で告げる。

 

「これが最後と言う訳では無い、気楽に飛んで来い」

 

「……そうさせて貰おう。テストの前にその話を聞けて良かった」

 

少し肩の力が抜けたのか柔らかく微笑んで部屋を出て行くスレイを見送り、再びコンソールに向かい合うコウキは前を向いたまま口を開いた。

 

「アイビス、そう言う訳だ。お前も気楽に飛んで来い」

 

「……あ、ありがとうございます。コウキ博士……匿ってくれて」

 

ゆっくりと整備用のコンテナから顔を見せた赤い髪をした活発そうな容姿の少女――「アイビス・ダグラス」が申し訳なさそうにコウキに頭を下げる。

 

「別に匿った訳じゃない、それよりも聞いていたな。ここでイスルギがスポンサー契約を打ち切っても、プロジェクトTDには何の問題もない。そういう風に手筈を整えておいた」

 

カザハラは私生活こそだらしないが、決して無能な人間では無いし、冷酷な人間でもない。DC戦争を切っ掛けに袂を別つ事になったが、それでもフィリオの事を心配していたし、そしてイスルギ重工に拾われた事も聞いて気を病んでいた。フィリオの考えとイスルギ重工の考え方には隔絶した物があると言うことも知っていたからだ。だからイスルギ重工に無理難題を押し付けられ、自分の理想を曲げなければならない時の事を考え保険を用意していた。それが伊豆基地とラングレー基地にプロジェクトTDのスポンサー依頼だ。そしてその2つの了承を得た今、仮にイスルギ重工からスポンサー契約を切られたとしても、星の海を飛びたいというフィリオの夢が途絶えることは無い。

 

「そうですか……ありがとうございます! 少し気が楽になりました! それとカリオンの調整ありがとうございますッ!」

 

元気良く言うと部屋を出て行くアイビスにコウキは五月蝿い奴だと小さく微笑み、訓練用のプログラムとは別に立ち上げておいたモニターを展開した。

 

「念の為の備えは必要だからな……」

 

ラングレー基地のテロリスト制圧事件に始まり、今地球圏のあちこちの研究所や軍基地で試作機の強奪事件が多発している、今日のヒューストン基地でのカリオンのテストに……いやもっと言えば、プロジェクトTDにコウキを派遣したのもジョナサンの予想ではカリオンを狙ってテロリストの襲撃があると踏んでいるからだ。

 

(外れてくれればいいんだがな……)

 

カリオンを格納しているトレーラー車とは別にもう1台ヒューストン基地に運び込んだトレーラー車……それはジョナサンが最悪のパターンを想定した備えではあるが、出来ればそれは使いたくないなと苦笑するコウキだが……その願いは叶わず、ジョナサンが想定した最悪の予想は適中する事となるのだった……。

 

 

 

 

第8話 星を追う翼と蘇る鬼 その2へ続く

 

 




ミツコとコウキの相性は最悪、色仕掛けも利益や賄賂によって揺らぐ事のない鉄の意志の男であるコウキ・クロガネはミツコの天敵です。
次回はシロガネとスキップした「美しき侵入者」でシロガネに回収されているラミアの視点から入って行こうと思います。正直な所、インスペクター四天王が出る所までは中々話が動かない場所が多いのでスキップする部分、はしょる部分もしくはオリジナルの話になる予定です。最初からいきなり百鬼帝国出しすぎるとうーんってなりますし、かといって余り内容の無い部分を話にするのも難しいですし、そこのところは私の感じ方になると思いますが、全体的に文字数を増やして、そいう部分に対応しようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

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