進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第8話 星を追う翼と蘇る鬼 その2

第8話 星を追う翼と蘇る鬼 その2

 

シロガネのハンガーに固定されたPTを見上げる扇情的な意匠に身を包んだ、緑色の髪をした女性――「ラミア・ラヴレス」は眉をひそめて、まるで睨むかの様にハンガーに固定されたPTを見つめていた。

 

(PTX-003C、アルトアイゼン。PTX-007-03C、ヴァイスリッター……か、形状にパーソナルカラー、型式番号、名称が私のデータと異なっているな)

 

イスルギ重工の新型の特機のパイロットとして登録されているラミアだが、それは偽装工作であり、この世界に「ラミア・ラヴレス」と言う人間は存在しないのだ。シャドウミラーの作り出した人造人間……その最後にロールアウトした個体「Wー17」と言うのが彼女の本当の名前であり、シャドウミラーのヴィンデルからすれば人間ではなく、ただの道具に過ぎない存在……それがラミアと言う名前を与えられた人造人間……それが彼女の正体だった。

 

(上手く潜り込めたのは良いが、本隊とは通信も取れず、言語機能に障害か……これでは任務に支障が出るな)

 

シャドウミラーの本隊と連絡が取れなければ追加の指示を聞く事が出来ない。当面はATXチームとシロガネの戦力分析をすればいいと考えていた。

 

(しかし、私のデータとはまるで異なるな)

 

データ状ではゲシュペンスト・MK-Ⅲと呼ばれていたベーオウルフ――この世界のキョウスケ・ナンブの乗るPTはゲシュペンスト・MK-Ⅲとは呼ばれず、古い鉄と言うまるで忌み名のような名称で呼ばれていた事にラミアは納得行かなかった。

 

(それにヒュッケバインの後継機と連邦軍の次期主力量産機ゲシュペンスト・MK-Ⅲ……か)

 

自分の知るゲシュペンスト・MK-Ⅲと酷似しているが、武装を交換するのではなく、役割に応じた装甲やパーツに交換する事が出来ると言うそれは自分の知るゲシュペンスト・MK-Ⅲとは異なり、整備性は低下しているが汎用性などは格段に向上しているのが良く判る。それにヒュッケバインの後継機は既に大破し、部品も取り外されておりフレームと装甲が残っているだけだが確かにあれは間違いなくヒュッケバインの後継機だった。

 

(それにフライトユニット……か、あんな物まで開発されているのか)

 

ゲシュペンストの背後のハードポイントに装着する武装付きのバックパック……テスラドライブを搭載したシャドウミラーのゲシュペンスト・MK-Ⅱより小回りは利かないが、手持ち火器ではなく背部に装備している事で両手を自由にしつつ、複数の装備を使えると言うのはラミアから見ても作戦遂行率に直結する上に、作戦ごとに搭載武装を交換する事でどんな作戦にも対応出来ると感じていた。

 

(やはり事前情報の通り向こうの状況とは色々と違っているらしい……な)

 

この世界のイングラム・プリスケン中佐とカーウァイ・ラウ少将、そして巴武蔵の協力によって無事に転移に成功し、その上で得ていた情報があるからある程度は混乱せずに済んでいたが、それでも自分の知る情報とのすり合わせに数日の時間を有していた。

 

(しかしあの女……エクセレン・ブロウニングのことも気になる。ただの偶然だと思うが……)

 

自分にエクセ姉様と呼ぶようにと言った明るい性格のエクセレン・ブロウニング……自分の創造主であるレモン・ブロウニングと同じ姓を持つエクセレンの事を考えていると背後から声を掛けられた。

 

「……俺達の機体に興味があるのか?」

 

「キョウスケ中尉。私もパイロットの端くれでございましてからに、他の機体には興味がありますのでございましますの……自社の機体ならともかく、軍用のカスタム機……そうそうお目にかかっちゃえませんのでして」

 

転移の衝撃でおかしくなっている言語機能に内心顔を顰めながらも、顔は笑顔を浮かべてキョウスケへ返答する事が出来た。

 

「カスタム機が珍しい、ということか。その割には随分と熱心にゲシュペンスト用のフライトユニットを見ていたようだが?」

 

その問いかけにラミアは内心舌打ちを打った、この世界ではL5戦役で使用された強化パーツ。それをしげしげと見つめているのは自分で考えても不信感に繋がるだろう。

 

「軍用のカスタムパーツございますですから、それに武装も色々と変わっているようですので、興味がありましたのです」

 

自分でも苦しい言い訳だと判っているがそれでもラミアは笑顔を浮かべたまま、返答する事が出来た。

 

「まぁ、良いだろう……そう言う事にしておいてやる。それよりもだ、お前の機体――アンジュルグだったな、イスルギの機体とは思えん。どこの技術を使っている?」

 

「どこも何も、イスルギ重工の技術に決まっちゃっているのでしょうですが……」

 

イスルギ重工所属のパイロットの乗る機体なのだから、イスルギ重工の技術に決まっていると返事を返すが、キョウスケの目が鋭くなるのを見て、警戒されていると言う事を改めて実感していた。

 

「アンジュルグの件は良いだろう、そういうことにしておこう……今は……だがな。では質問を変えるお前の操縦技術、身のこなし……民間のパイロットにしては少々出来すぎている気がしてな。似ている者を挙げれば……特殊戦技教導隊のパイロットに近い、お前は一体どんな訓練をしていたんだ?」

 

その問いかけにラミアは内心で顔を顰めた、アンジュルグよりもキョウスケの本命はこっちなのだと理解したからだ。アンジュルグで誤魔化した以上、操縦技術や体捌きに関しては誤魔化すことが出来ないと悟ってしまった。

 

「私も常々疑問に思ってはいたんでございますのですが……毎日、言われた訓練を、何も考えず行っていただけですので」

 

「言われるがままに訓練を受けただけというのか? 通常の軍人でも悲鳴をあげるような教導隊基準の訓練を?」

 

だがラミアの返答はキョウスケの勘繰りから逃れる事が出来る内容ではなかった。駆け引きに関しては完全にラミアが劣っていた……稼働時間の短さが露見する結果となってしまったのだ。

 

(しくじった……)

 

教導隊を例えにだし、教導隊レベルの訓練をしていたと暗に認めてしまった。

 

「なるほど、それならばお前がどんな訓練をしていたのか、是非俺にも教えて欲しい物だ。若年だが、ATXチームの隊長だ。部下の面倒を見ることもある、民間人であるお前をそこまでに鍛え上げた訓練の内容を教えてくれないか?」

 

(仕掛けてきたか。さて……どうする)

 

毎日繰り返していると言った以上訓練の内容は嫌でも覚えている事になる。しかしラミアは戦闘用に作られた人造人間――最初から対人、PT技術を覚えて生まれている。それを教えることなど出来る訳が無い……この場をどうやって切り抜けるかとラミアが考えを巡らせていると格納庫の扉が開いた。

 

「キョウスケ中尉、ここにいらっしゃいましたか」

 

「どうした?」

 

「艦長からの命令です。ATXチームはメインブリッジに集合せよとの事です」

 

どう返答するか悩んでいるラミアを救ったのは、キョウスケを呼びに来た一般兵士だった。

 

「了解した。訓練の件は後でまた聞くことにしよう。行くぞ、ラミア」

 

「判りました。しかしイスルギ重工のスタッフからの訓練内容なので……本社の許可を得たいと思うのでございましょう」

 

苦しい言い訳ではあるがラミアにはそう言うしか出来なかった。イスルギ重工が優秀なパイロットを育成し、機体と共に軍に売りつけようとしていると言うことにするしか、キョウスケの追及から逃れる術が無かった。

 

「……そういう事にしておこう」

 

(明らかに納得して無い表情でよく言う……やはり『こちら』でも『向こう』でも……注意すべきはこの男か。動きづらくならんといいがな)

 

侵入したばかりだが、前途多難だなとラミアは内心溜め息を吐き、キョウスケと共にシロガネのメインブリッジに向かうのだった。

 

「良く来てくれた、キョウスケ中尉。本艦は本来ならば、メキシコ高原に向かう予定だったが、進路を変更する。それに伴い、ATXチームとラミア・ラブレスには至急出撃準備を整えて貰いたい」

 

シロガネ艦長のリーの言葉を聞いて、ラミアは驚いた。軍人が与えられた命令を無視する……そのありえない事に驚きを隠せなかった。

 

「それは構いませんが、メキシコ高原からどこへ進路を変更するのですか?」

 

「ヒューストン基地だ。偵察部隊がヒューストン基地へ向かうリオンやアーマリオンの部隊を発見した。そうなると派手に移動しているメキシコ高原の部隊は陽動と予測される。本艦はメキシコ高原への対応を周囲の基地に対応を依頼し、ヒューストン基地へ向かうことにした。ラングレーの一件の事を考え、慎重になるべきだと判断したからだ」

 

「ヒューストンには少数生産された量産型ヒュッケバインMk-Ⅲが配備されており、特別プロジェクトの実験機もあるのが進路変更の理由ですか」

 

「その通りだ。ヒューストンには僅かに生産された量産型のヒュッケバインMK-Ⅲと、素体のゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そして換装パーツが保管されている。メキシコ高原で陽動を行い、ヒューストンから新型を狙うと考えたからだ」

 

(量産型のヒュッケバイン? それに、実験機だと?)

 

キョウスケとリーの言葉を聞いてまだ自分が知らない情報があるのだとラミアは驚く中、リーとキョウスケの話は続いていた。

 

「命令の変更は既にクレイグ司令に伝えてあるから命令違反にはならない。現時点で量産型ヒュッケバインと量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲの素体が配備されている基地は北米地区で4つ……その中で保有戦力が最も少ないのはヒューストン基地だ。私の取り越し苦労で済めば良いが、警戒しておくことに越した事は無いと思う。仮に私が敵の指揮官ならば、警備の薄い所を狙う。キョウスケ中尉はどう思う?」

 

「異論はありません。それならばATXチームで先行した方が良いと思うのですがどうでしょうか?」

 

「そうか、ではATXチームは直ちに出撃し、ヒューストンへ向かってくれ、本艦もすぐにヒューストンへと向かう」

 

自分の艦で命令の変更を上官に頼み、そしてそれを通す上官……自分の常識を覆すやり取りを目の前で行われたラミアは驚きながらもキョウスケ達と出撃する為に格納庫へと足を向けるのだった……。

 

 

なおラミアが任務をどうやって成し遂げるかと思い悩んでいる頃クロガネ改のエキドナはというと……。

 

「ぱぁぁあああ」

 

エルザムの作った食事を食べて華のような笑みを浮かべていたりする。その顔を見て何人かの独身のLB隊が頬を赤らめるが、エキドナは武蔵にしか興味が無く、武蔵相手には小鳥のように後をついて回っているが、それ以外の相手には警戒心むき出しですぐに逃げてしまうのである意味ツチノコのような扱いをされていた。

 

「あ、美味しいみたいですよ。エルザムさん」

 

「それは良かった。武蔵君はどうかな?」

 

「んー美味しいんですけど、これはなんか違うかなあ」

 

武蔵の手にしている丼の中身はカツ丼だったのだが、カツは小さく見栄えを重視しされており、薄い豚バラを何枚も重ねその間に大葉やチーズ等を挟み、カツを煮込んでいるタレは和風ではなくコンソメを利用した洋風の物だった。

 

「武蔵は美味しくない?」

 

「んーオイラはこれあんまり好きじゃないかなあ。丼はこう、もっと量が多くて米が多い方が」

 

「分かる。確かに美味いんだが……これは違う」

 

武蔵だけではなく、ゼンガーにもこれは違うと言われたエルザムだったが、気落ちしている様子は無くむしろやる気に満ちた表情で武蔵とゼンガーに美味いと言われる洋風のカツ丼を作ってみせると気合を入れていた。

 

「隊長……何してるんですか?」

 

「武蔵が何を好きなのか、どんなものを好むのかを調べている」

 

エキドナが一緒に食べているのに離れた所で双眼鏡を片手に、メモ帳にひたすらペンを走らせていたのだが、その姿を見てトロイエ隊の隊員は残念な物を見るような目でユーリアを見つめていたりする……。

 

 

 

 

 

シロガネがヒューストン基地に進路を向けた頃。ヒューストン基地ではプロジェクトTDの最終目標の為に建造された試作機……「カリオン」のテストが始められていた。

 

「ターゲットはバルドングか……やれやれ、あの女狐め、また一噛みしてきたか?」

 

バルドングはPTやAMからすれば旧式の取るに足りない戦車だが、それでも装甲単体と主砲の攻撃力で考えれば訓練時間の短いアイビスにとってはかなりのプレッシャーになることは明らかだ。

 

「ちっ、やっぱりか……」

 

加速力のアピールで飛行している2機のカリオンの内、アイビスの乗る白銀のカリオンが僅かに遅れている。バルドングを確認する前では直線に限ってスレイよりも良い速度を記録していたのに、バルドングがターゲットと判り萎縮したかとコウキは小さく呟いた。

 

「想定内……か、フィリオめ、妹が可愛いからと言って甘やかしすぎだな」

 

スレイの操縦技術はコウキから見ても高水準で纏まっている。だが、それ故にスレイには伸び代がない。訓練内容を完全に熟知し、そして機体の操縦も己の手足のように行える。だがそれだけだ、いやむしろ成果を上げなくてはならないと気負いすぎていると言っても良い。ああいうタイプはイレギュラーにとことん弱い、そう考えると恒星間の移動と言う不確定要素しかない星の海を飛ぶにはスレイには酷だが、適してないと言わざるを得ない。

 

「そういう面ではアイビスの方が優れているか……」

 

技量はまだまだだが、それでも星の海を飛びたいと言う熱意がアイビスにはある。その熱意をコウキは買いたいと思うし、何よりもフィリオもそれを考えてのアイビスの大抜擢だろう。

 

「……今はまだまだだがな……」

 

スレイはワンアプローチでバルドングを沈めて見せたが、アイビスはバルドングの主砲を破壊し、機体上部を中破させたが撃墜する事が出来ず、上空で旋回し再アプローチを仕掛けようとしたがツグミとフィリオに止められていた。

 

『すいませんッ! 再アプローチに入りますッ!』

 

『その必要はないよ、アイビス。テストに関しては充分な結果が出た』

 

『でも……!』

 

必要ないと言われてまだ自分は出来ると言おうとするアイビス。だがフィリオの言葉は柔らかいが、アイビスの熱意を否定する物だった。

 

『今の君の最優先事項は、一刻も早くカリオンに慣れる事だ。熟練訓練20時間と言う事を考えれば、君は良くやってくれたよ』

 

『そうよ、アイビス。スレイは100時間を越えるカリオンの稼動実績があるわ。それを考えれば、まだ訓練段階なのに良くここまで操縦したわ。次のテストに進みましょう』

 

インカムから聞こえてくるフィリオ達とアイビスの会話を聞いていたコウキは小さく溜め息を吐いた。

 

「そんな言い方をするな、馬鹿共……」

 

通信機をONにしていないのでその呟きが司令室に届く事は無いが、コウキはそう言わざるを得なかった。スレイは自分こそがプロジェクトTDのエースだと自負している、事実エースと言うだけの能力もある。だからこそ、他人にも己にも厳しく行動していた。そんなスレイの前でアイビスの失敗を容認するような言動は本来避けるべき物だ。フィリオとツグミは研究者としては優秀だが、それ以外の能力に問題があるなとコウキが冷静に分析していると警報が鳴り響き、5機のガーリオンとリオン、アーマリオンの混成部隊の姿を見て、コウキは外部スピーカーをONにし、マイクを掴んでアイビスとスレイに指示を飛ばした。

 

「ちいっ! 嫌な予感は的中か、アイビスッ! スレイッ! 1度後退しろ」

 

トレーラー車からスレイとアイビスに撤退命令を出すコウキだが、トレーラー車にヒステリックな基地司令の怒鳴り声が響いた。

 

『テスラ研の研究者如きが命令を出すなッ! フィリオ少佐、パーソナルトルーパーが出撃するまでの時間をカリオンで稼げ!』

 

「貴様は無能かッ! カリオンは試作機でパイロットに実戦経験がないッ! そんなパイロットに基地の警備網を抜けてくるような熟練パイロットの相手をしろと言うのかッ!」

 

コウキの剣幕に基地司令は息を呑んだ。だがすぐに再び耳触りな怒鳴り声を上げる。

 

『私はお前に話をしているのでは無い、越権行為をやめてもらおうか、コウキ・クロガネ技術主任。フィリオ少佐、命令を復唱せよッ! ただちにカリオンで迎撃に出るようにとなッ!』

 

基地内部にPTが居ない訳が無い。執拗にカリオンで出撃しろと言う基地司令の姿にコウキの脳裏には、厭らしく笑うミツコの姿が浮かんだ。

 

「フィリオ! 命令を復唱するな! 実験機への実戦命令こそ基地司令の越権行為だ!」

 

『コウキの言う通りです。カリオンは実験機で、パイロットにも実戦経験はありません、それとも基地司令が全責任を取ってくれるというのですか?』

 

コウキとフィリオの言葉に一瞬怯んだ様子の基地司令だが、自分の我を通すために更なる怒鳴り声を上げる。

 

『カリオンには実弾が装填されているのだろうッ! それならばテストの延長で実戦経験を積ませればいいッ! 当基地のPT隊はすぐには出撃出来んッ! あの2機に時間を稼がせるのだッ! 戦えぬ機体ならば伊豆基地もラングレーもスポンサーに等はならんぞッ! お前達のプロジェクトなど誰も協力などしなくなる!』

 

『……了解しました。こちら01。これより敵機を迎撃します』

 

『スレイ! 駄目だ、カリオンは撤退するんだッ!』

 

フィリオが静止するが、基地司令の言葉にプロジェクトTDに全てを賭けているスレイが戦闘姿勢に入ってしまった。

 

「ちいっ、無能なくせに権力を持っているから手に負えんッ!」

 

トレーラー車の座席から立ち上がり、コウキはリオンとアーマリオンと戦闘を開始したカリオンを見て舌打ちし、後部座席からコンテナの中に足を踏み入れる。

 

「カザハラ博士の言う通りだな、結局こいつを使う事になったかッ!」

 

テスラ研から運んできた保険……データ取りの為に用意されていたゲシュペンスト・MK-Ⅲのコックピットにコウキは身体を滑り込ませる。

 

「外部モニターとゲシュペンストのモニターをリンク……OS起動、機体の安定稼動まで……276秒。間に合うかッ!」

 

カリオンのデータを取るのに作業を中断していたのが災いし、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの動力はまるで温まっていなかった。1分1秒が惜しいこの時に約5分と言う時間は普段冷静なコウキから冷静さを奪うには十分な時間だった。

 

「くそ、流石に欲張りすぎたかッ!!」

 

L5戦役で武蔵が戻らなかった……それは少なくないショックをコウキに与えていた。ゲッターロボの強さを知っているからだ……だから自分は必要ないと思い裏方に回った。その結果が武蔵の特攻であり、武蔵の戦死であった……驕る訳では無い。だがそれも頭の中にもしも自分が「鉄甲鬼」の開発を続けていて、L5戦役に参加出来れば武蔵は死ななかったのでは無いか? と言う考えがどうしてもコウキの頭から消えなかった。仮に鉄甲鬼がなかったとしても、コウキならばゲッターロボを操る事が出来た。共に戦う事も出来たのだ、それでもコウキは自分が戦場に出る必要は無いと考えた……武蔵ならば、ゲッターロボならば大丈夫と思い込んだのだ。

 

「くそっ、急げ……あの馬鹿が余計なことをする前にッ!」

 

さっきのやり取りでヒューストンの基地司令がミツコに何か言われているのは確信していた。あんな見え見えのハニートラップに引っかかる無能が余計な事をする前に出撃準備が整ってくれと願ったがコウキの願いは叶わなかった……。トレーラーの外部モニターとリンクしているゲシュペンストのモニターに量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲが2機と量産型ゲシュペンストMK-Ⅲが2機起動する姿が映し出されていた。

 

「2機!? ヒュッケバインは1機だった筈だッ!? 何故だ!?」

 

量産型ヒュッケバインMK-Ⅲは連邦全体で50機ほど生産されただけで、アメリカ全体で考えれば6機ほどしかない筈のそれが2機もヒューストンにある訳がないとコウキはコックピットの中で声を荒げていた。コウキは知る良しもないがミツコのハニートラップに引っかかり、無理に他の基地から量産型ヒュッケバインを回させていたのだ。今まで沈黙していた4機のガーリオンが爆発的な加速が格納庫から出たばかりの量産型ヒュッケバインMK-ⅢとゲシュペンストMK-Ⅲに組み付いた。その光景を基地司令と共に見ていたツグミとフィリオは大きく目を見開いた。何故ならば、それはプロジェクトTDの新技術だったからだ。

 

「ブースト・ドライブッ!?」

 

「馬鹿な、あのシステムは……ッ!」

 

「ちいいっ!! あの女狐ぇッ!!!」

 

「パイロットは何をしている! ヒュッケバインとゲシュペンストを守れぇッ!!」

 

最終的にはカリオンにも搭載される予定のシステムであり、理論上は可能であるとイスルギ重工に伝えたばかりの新技術だったからだ。アイビスとスレイも最終的に搭載される予定のシステムであるブースト・ドライブに対応出来るわけが無く、簡単に機体の横を抜けられ、ヒステリックに機体を奪取させるなと叫ぶ司令官の声を聞きながら、ガーリオンにコックピットを抉じ開けられ、機体を奪取される様を見ていることしか出来ないのだった……。

 

 

 

 

連邦にとって虎の子であるゲシュペンスト・MK-Ⅲと量産型ヒュッケバインMK-Ⅲの強奪に成功した。その光景を見ながらこの作戦の指揮官である「アーチボルド・グリムズ」は自分用のカスタマイズされたガーリオン・カスタムの中でほくそ笑んでいた。

 

「流石は「ローズ」良くやってくれましたねぇ……」

 

自分達をこの基地に導き、そして連邦の新型を4機も回収させてくれたスポンサーである「ローズ」にアーチボルドは心から感謝していた。

 

『アーチボルド少佐。あの機体はどうしますか?』

 

部下からの報告にアーチボルドは旋回している2機の戦闘機……プロジェクトTDの機体を見て思案顔になる。

 

(あれは手土産としては素晴らしい物なんですがねぇ……)

 

まだリオンもアーマリオンも残っている……それに新技術が使われているプロジェクトTDの機体はアーチボルドがこれから所属する「組織」への手土産と考えればここで鹵獲しておきたい機体ではある。

 

「あれは置いておきましょうか、スポンサーの機嫌を損ねると怖いですしね」

 

『了解です。では撃墜せずに、適度にダメージを与えると言う事でよろしいですか?』

 

「ええ、それで結構です。よろしくお願いしますね」

 

撃墜するなと言われているが、戦うなとは言われていない。それにローズもあの機体の戦闘データが欲しい筈だからある程度……撃墜しない程度で実戦経験のないパイロットに軽くトラウマを刻む程度の恐怖を与えるように命じて、アーチボルドはガーリオンの背もたれに背中を預けた。

 

(楽な仕事ですねぇ……私の趣味が出来ないのは残念ですが、それでも良い仕事です)

 

警備が薄くされている基地に襲撃を掛け、新型機体を強奪して帰る。生粋のテロリストであり、快楽殺人者であるアーチボルドは虐殺行為が出来ない事に不満を抱いていたが、ここで下手に暴れて「取引」が無碍になっては困ると警備がいないヒューストン基地への襲撃を必死で我慢していた。

 

『うわああッ! ううっ……』

 

『くっ!? こいつら上手い……ッ!?』

 

傍受している通信から恐怖と痛みを感じているスレイとアイビスの声を聞いて、ほんの僅かでも自分の嗜虐心が満たされるのを感じていると周囲の偵察を行っていた部下からの報告が入った。

 

『アーチボルド少佐! こちらの包囲網を抜けて4機の機体がヒューストン基地へと向かいましたッ!』

 

「おや、メキシコ高原には掛かりませんでしたか、やれやれ……勘の良い軍人もいる物ですね」

 

メキシコ高原にライノセラス2隻、そしてアーマリオン、ガーリオンの部隊に陽動を行わせ、その間にヒューストン基地の新型を奪う計画だったが、そちらの陽動には掛からなかった部隊がいると聞いてアーチボルドは再び操縦桿に手を掛けた。

 

「突破した機体は? 確認出来ましたか?」

 

『PTX-003C、PTX-007-03C、新型ゲシュペンスト1機、天使型の特機1体です』

 

部下の報告を聞いてアーチボルドは笑みを浮かべた。L5戦役で活躍したATXチームが来ていると聞いて、退屈だったこの任務も面白みが出てきたと口元に獰猛な笑みを浮かべる。

 

『アーチボルド少佐、如何しますか?』

 

「噂に名高いATXチームがお相手してくれると言うのならば、今後の戦いの予行演習にもなるでしょう。全機彼らへの攻撃を許可します。前々から手合わせ願いたいと思っていましたからね、貴方達も勉強させて貰いなさい。危険と思えばブースト・ドライブで脱出……『出来ると思っているのか、貴様はここで死ねッ!』ッ!!」

 

数多の犯罪を犯し、死を偽装し、幾つもの偽名を操り生き抜いてきたアーチボルドでさえも、背筋が泡立つような殺気を感じ慌ててガーリオンを急上昇させた。その直後に地面に突き刺さる巨大な戦斧を見てアーチボルドは珍しく目を見開いた

 

「危ない危ない……ふふ、まさか貴方のような男がこの基地にいるとは思いませんでしたよ。貴方……私と同じ側の人間でしょう? それに……その機体、ふふ、ゲッターロボの真似をしているつもりですか? その機体を操って正義の味方とでも言うつもりですか?」

 

ヒューストン基地に配置されていたトレーラー車を破壊して現れたゲシュペンスト・MK-Ⅲを見てアーチボルドは嘲笑うかのように告げた。赤と黒のツートンカラーに、背部にあるマント。そして両腕の明らかに試作型のアタッチメントはゲッター1の両腕に酷似していた。

外道である事を認めているアーチボルドだからこそ、感じ取れた気配……目の前のゲシュペンスト・MK-Ⅲに乗る男が自分と同類であると言うのを感じ取っていた。

 

「さてな……答える義理は無い」

 

「ふふ、格好良いですねえ……そういう澄ました……自分は違うと思っている奴が1番気に食わないんですよッ!!」

 

ディバインアームを振りかざし、コウキの乗るゲシュペンストMK-Ⅲ・タイプOカスタムに斬りかかるアーチボルドの駆るガーリオン・カスタム。緩急を利用した目の錯覚を利用し、背後に回りこんだ一撃をゲシュペンストMK-Ⅲ・タイプOカスタムは正面を向いたまま、戦斧でディバインアームで切り払うと同時に蹴りを叩き込む。

 

「ぐうっ!? 中々やりますねえ……」

 

完全な奇襲だったにも関わらず簡単に迎撃された事にアーチボルドは、コウキの腕前が並大抵では無いと一瞬で理解し、観察するような動きに切り替える。それを見たコウキはあえて広域通信のまま、挑発するようにゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムの右手をガーリオンにむけ、掛かって来いと言わんばかりに指を動かしながら告げた。

 

「ふん、来い三下。格の違いを教えてやる」

 

「ふふふ、良いですねぇ……その澄ました顔を歪ませてあげますよッ!!」

 

ヒューストン基地上空で外道「アーチボルド・グリムズ」とかつて鬼であった男「コウキ・クロガネ」の戦いが幕を開けるのだった……。

 

 

 

第9話 星を追う翼と蘇る鬼 その3

 

 




アーチボルドVSコウキ開幕。コウキの機体はゲッターロボを模したゲシュペンストMK-Ⅲではなく、鉄甲鬼をベースにした機体で、新西暦で「鉄甲鬼」を作り出すための試作機となります。次回は戦闘をメインで書いて行こうと思います。特にゲシュペンストMKーⅢ・オーガ・カスタムを見てゲッターロボ!?と思うキョウスケ達を書いて見たいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

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