第9話 星を追う翼と蘇る鬼 その3
ガーリオン・カスタムと切り結ぶゲシュペンスト・MK-Ⅲを見てフィリオはやっと安堵の溜め息を吐く事が出来た。
(カザハラ博士、ありがとうございます)
テスラ研にいるであろう恩師の顔を思い出し、フィリオは心の中で感謝を告げる。正直な所テスラ研からコウキがプロジェクトTDの為に出向すると聞いて最初にフィリオの脳裏を過ぎったのは何故の言葉だった。コウキは確かに優秀な研究者であり、技術者だがその専門はグルンガスト等を始めにした特機だ。プロジェクトTDが作ろうとしているリオン系列の研究はコウキにとっては未知の領域だった筈だ……現にコウキが合流した直後はプロジェクトTDの資料をひたすらに読み漁り、知識を付ける事を最優先にしていた。1ヶ月ほどでフィリオとツグミと専門的な議論を交わす事が可能になっていたが……それでも何故と言う疑問は尽きなかった。だがそれも今、この瞬間に解決した。コウキはプロジェクトTDの護衛としてテスラ研から派遣されていたのだと理解した。
『ふんッ!!!』
手にした戦斧でアーマリオンもリオンもお構いなしに引き裂き撃墜する。コウキの駆るカスタムタイプのゲシュペンスト・MK-Ⅲは縦横無尽に戦場を駆け回り、リオンやアーマリオンを盾にするガーリオンを執拗に追い続ける。
『馬鹿ですねぇ、皆さんやってくださいッ!!』
アーマリオンの背部に搭載されているコンテナが開き無数の無数のミサイルの雨が降り注いだ。
『その程度で俺の首を取れると? 舐めるのも大概にしてもらおうかッ!』
ゲシュペンストの両腕が背後に回ると、両腕のアタッチメントに新しい装備が装着されていた。
『ガトリングアームッ!!!』
両腕から放たれるガトリング弾がミサイルを迎撃し、ヒューストン基地の上空に火薬の花を咲かせる。
『逃がさんぞッ!!』
『っととっ!』
ガトリングの銃口を見せていたパーツが変形し、蕾のようなマニュピレーターアームに変化し凄まじい勢いで射出される。ガーリオン・カスタムは直撃寸前で近くに居たアーマリオンを盾にする事で防いだ。
『少佐!? 何故ッ!?』
『そうですねえ、あえて言えば近くにいた貴方が悪いと言う事で、運が悪かったですね』
胸部のバルカンで動力部を打ち抜き、爆発するアーマリオンをゲシュペンスト・MK-Ⅲに向かって蹴り飛ばすガーリオン・カスタム。
『嫌だ!? 嫌だああああッ!!!』
脱出装置も機能しなかったのか、パイロットが嫌だと叫びながらアーマリオンと共に爆発する。
『おや、これでもダメージを受けませんか……やれやれ、相当頑丈ですねぇ……』
マントで身体を覆うようにして防御したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムにはダメージを受けた様子が無く、アーチボルドも驚きの声を上げる。しかしその前の部下を殺してまで攻撃しようとしたアーチボルドにコウキが凄まじい怒気を放った。
『外道が……そこまでするか』
部下を躊躇う事無く盾にし、あまつさえ脱出装置を破壊して敵への爆弾にする。その余りに人道に反する戦術を見て、司令室にいた全員が絶句した。だがその中でも基地地司令だけは違っていた……。
「貴様ッ! 研究者如きが我が軍の最新兵器を使いおってッ! この件はテスラ研の責任だ! お前達もだ! 何がプロジェクトTDだ、肝心な所では何の役にも立たないではないかッ! 今回の一件は貴様らの責任だ! 軍法会議物だッ!」
量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲ、そして量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲを奪われた事で自分の首が危ないという事が判っているのか、目を血ばらせ、唾を散らしながら叫ぶ基地司令に司令室にいる全員の冷ややかな視線が向けられる。
「失礼ですが、軍法会議に出席するのは基地司令。貴方です」
「な!? き、貴様ら何をする!?」
「量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲの不法な移動命令、防衛隊への出撃禁止命令、今回の一件での敵ガーリオンの警備網の突破速度から、貴方には情報漏えい、反逆の疑いが掛かっております」
「な!?」
「弁明は軍裁判所でお聞きします。連れて行け!」
「「「はっ!!」」」
警備兵に両腕を掴まれ、引きずらて行く基地司令に変わり、副司令が司令室に腰掛ける。
「ここから先は私が指揮を取る。フィリオ少佐、カリオンのテストパイロット2名へ撤退命令を急げ! あの機体を奪取される訳にはいかない! コウキ・クロガネ技術主任! 後3分ほどでATXチームが当基地に合流する。3分間なんとか耐えれるか!?」
『スレイとアイビスを下げろ。足手纏いを庇いながら戦うには分が悪い』
「テストパイロットには既に撤退命令を出しているから心配ないッ! それでどうだ? 出来るか?」
『任せておけ、子供の御守が無ければ何の問題もない。お前達は基地の防衛に専念しろ』
「頼もしい言葉だな、コウキ技術主任。すまないがよろしく頼む」
副指令が基地の指揮を取るようになり、漸くヒューストン基地が一丸となって基地防衛の為に動き出すのだった……だがそれは余りにも遅い出来事なのだった……。
カリオンに乗るスレイは目の前の光景を見て、驚愕に目を見開いていた。コウキはあくまで研究の支援要員だと思っていた……事実カリオンのメンテやスレイの操縦の癖に合わせ微調整をしてくれる様はプロジェクトTDの専属メカニック顔負けだった。
(本職はパイロットだったのか……)
「凄い……どうやったらあんな操縦が出来るの……」
リオンとアーマリオン、そしてガーリオン・カスタムを相手にしているのにも拘らず、自分達の支援まで行っているコウキを見て、スレイもアイビスも目の前の光景を最初は受け入れる事は出来なかった。
『トルネードを喰らえッ!!』
背部にマウントされていたパーツが両肩に装着され、そこから放たれた暴風がリオン達の動きを乱し、そこに即座に手にした戦斧を投げつける。
『いやあ、お強いですねぇ……でも……足手纏いがいて勝てるとお思いですか?』
ブーストドライブでゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムの脇を抜け、カリオンに接近するアーマリオン。
「くっ! アイビス! 何を気を抜いているッ!」
「うっ! くくっ……駄目だ振り切れないッ!?」
スレイは緩急を自在に駆使し、接近するアーマリオンを回避した。だが、操縦技術に劣るアイビスはアーマリオンはおろかリオンからすらも逃げ切れず、レールガンでバランスを崩した所を急接近したアーマリオンの両腕がカリオンに伸ばされたその瞬間。
『ちいっ! とっとと離脱しろ! スレイ、アイビスッ!!』
『ぐおっ!? なんだ。何が起きているッ!?』
マニュピュレーターアームが伸び、アーマリオンの胴体に巻き付き、それを引き寄せる事でアーマリオンをカリオンから引き離すゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタム。だがそれは対峙しているアーチボルドに対して、隙だらけになることを現していた。
「ほらね、正義の味方は仲間を見捨てられないんですよ。ソニックブレイカーッ!!」
「ぐふうっ!?」
基地に向かって叩きつけられるようにソニックブレイカーの直撃を喰らい、ゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムが背中から格納庫に叩きつけられる。
「コウキ!?」
「コウキさんッ!?」
自分達を庇ってコウキが攻撃を受けたと聞いて思わずコウキの身を案じてその名を叫んだ。だがコウキの返答は怒声だった……。
『俺の心配をしている場合があったら、さっさと撤退しろッ!! 邪魔なんだッ!!』
その言葉に続くように司令室からフィリオの通信がカリオンへと届けられる。
『スレイ、アイビス、コウキの言う通りだ。コウキを心配するなら、早く離脱してくれ』
フィリオからの撤退命令が出るが、スレイとアイビスは即座に反対意見を口にしていた。
『私はまだやれます! コウキの援護だって出来ますッ!』
『あたしだって! それに、コウキさん1人じゃ危険だと思います』
敵は20機以上いる。如何にコウキが優れたパイロットだったとしても危険だとスレイとアイビスは口にする。
『うぬぼれるなよ、実戦も経験していないお前達が居たら足手纏いにしかならないッ!! とっとと離脱しろッ! これ以上拒むというのならば俺がお前達を撃墜するぞッ!!』
遠慮も何もない、年上の異性からの本気の怒声にスレイもアイビスも思わず目尻に涙が浮かんだ。
『コウキの言う通りだ、これ以上君達がいても出来る事は何も無い。改めて、プロジェクト責任者としての命令する。直ちに撤退するんだ』
有無を言わさない口調にスレイもアイビスも目に僅かな涙を浮かべ、試験場から離脱する。
『すまないコウキ、憎まれ役を押し付けてしまった』
「気にするな、あれ以上渋るなら俺が撃墜する所だ」
数の不利を覆す立ち回りが出来ていたのはゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムの装備が初見であり、それを警戒して相手が踏み込んでこない事が大きかった。だが実戦経験の無いスレイとアイビスがいればそれをカバーする為にコウキは動かざるを得ず、そこを狙い打たれてはコウキも劣勢に追い込まれる。
「ATXチームも来た。ここから巻き返す」
ヒューストン基地にやっと到着したATXチーム。スレイとアイビスが抜けたが、それを上回る戦力が登場し、ヒューストン基地での攻防戦は仕切りなおしとなるのだった……。
ヒューストン基地に到着したキョウスケ達は驚きに目を見開いていた。
「中尉、あれってゲッターロボじゃ!?」
「いいや、よく見ろ。ゲシュペンスト・MK-Ⅲをゲッターロボに似せた改造をしているのだろう……あんな物まで開発されていたのか……」
「いやーそれも違うみたいよ。識別がヒューストンじゃないわ、テスラ研みたいだし……試作機か実験機かしらね?」
ヒューストン基地で20機近いリオンとアーマリオン、そしてガーリオン・カスタムとたった1機で戦っていたゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムには流石のキョウスケ達も驚きを隠せなかった。
『こちらテスラ研所属、コウキ・クロガネだ』
「ATXチーム隊長。キョウスケ・ナンブだ。これより援護に入る」
『そうか、それは助かる。それとこのリオンとアーマリオンはブースト・ドライブを搭載している』
コウキの警告の声が途中で途切れ、凄まじい速度で切り込んできたアーマリオンにカウンターの要領で拳を突き出し粉砕するゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタムを見て、コウキが並みのパイロットでは無いと悟った。
『急に加速してくる、奇襲に注意して対応してくれ』
「了解、警告に感謝する。話は聞いていたな、エクセレン、ブリット、ラミア。敵機の速度に惑わされる事無く対応しろ、戦況開始ッ!」
キョウスケの言葉に従い弾かれたように動き出すヴァイスリッターと、ヒュッケバインMK-Ⅱの代替機であるゲシュペンストMK-Ⅲ・Sカスタムに乗っているブリットがアーマリオンとリオンへと向かっていく。
「ラミア、お前は無理をせず援護に集中しろ」
『了解したでありんす、キョウスケ中尉は背後を気にせずに戦いくださいませでございます』
ラミアの返答にキョウスケは内心お前に背後を任せるのは不安だがなと呟き、アルトアイゼンをガーリオン・カスタムに向かって走らせる。
「せいっ!!」
ゲシュペンストMK-Ⅲ・Sカスタムが擦れ違い様にシシオウブレードを一閃し、時間差でアーマリオンが両断され爆発する。
「ブリット君やっるう!」
「いえ、俺じゃないです。ゲシュペンスト・MK-Ⅲが凄いんですよ」
茶化すように言うエクセレンにブリットがそう告げる。ムラタとの戦いで大破したヒュッケバインMK-Ⅱの変わりに与えられたゲシュペンストMK-Ⅲ・Sカスタムは操縦性もさることながら、ブリットのイメージ通りに動く足回りの良さと、安定した出力――それら全てが高次元で纏まっていた。
「はいはい、そんなに急いで何処に行くの?」
『なっ!?』
ブースト・ドライブでヴァイスリッターに向かおうとしたアーマリオンだが、加速に入ろうとした瞬間モニター一杯に広がったのは大口径の銃弾。ブースト・ドライブに入る事無く、アーマリオンは頭部を吹き飛ばされ墜落していく。
(使いこなせている訳じゃないみたいね。ま、早々扱いきれる物じゃないのは当然だろうけど)
今までの機体の常識を遥かに超える機動力。それらは早々扱いきれるものでは無い。加速力で幻惑し、背後を取って倒そう等と言う甘い考えで勝てるほどエクセレン達の経験は甘いものではなく、数回ブースト・ドライブを見た事でブースト・ドライブが直線的な軌道しか出来ないと判れば、相手の進路を予測してその先にミサイルやビームを配置する事は容易いことだった。
「ブラスターキャノンッ!!」
「あのお兄さんもやるわねぇ……」
キョウスケ達が到着する前に1人であれだけの大群と戦っていたコウキを見て、素直にエクセレンは感心していた。
「あの腕前ならばテスラ研で研究者をしていなくても十分に活躍出来たでしょうに」
「そうね。適材適所って言うし、彼にとっては戦場よりも研究所の方が良かったんでしょうね」
会話をしながらもエクセレンとブリットはアーマリオン達を撃墜しながら、敵の錬度の低さを感じていた。確かにブースト・ドライブの機動力は厄介な物であったがそれだけだ。操縦錬度で考えれば新兵とまでは言わないが、それでもルーキーの域は出ないという錬度しか持ち合わせていなかった。
(どーも、きな臭くなってきたわねぇ……)
ブースト・ドライブ頼りの奇襲戦法――そしてまるで用意されていたかのような警備の薄い基地と新型……それはDC戦争時の時のように内通者がいるようなスムーズさだ……その動きを見て、今回の一件はテロリスト達に新型を渡す為だけに用意された舞台のようにエクセレンは感じていた。
『さて……腕前を見せてもらいましょうか、キョウスケ・ナンブ君』
「俺の名前を知っているだと? お前はDC戦争の生き残りか?」
ガーリオン・カスタムに乗っている男は挑発するように広域通信でキョウスケへと声を掛けている。
『残念ながら、外れです。それに、君達は僕達の間でかなりの有名人でしてね……これからは長いお付き合いになると思いますのでどうぞよろしく』
人当たりのよい柔らかい声……だがその中に隠されている陰湿な響きにエクセレンは顔を歪めた。敵に回すと厄介なタイプの人種だ、可能ならばここで倒しておきたいとエクセレンは感じていた。そしてそれはキョウスケもコウキも同じだった。
「……断る」
『貴様はここで死ね、お前の声など聞きたくも無い』
アルトアイゼンとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの攻撃を受けてもなお、ガーリオンカスタムは原形を保っている。それはガーリオン・カスタムのパイロットの腕の良さを如実に現していた。
「泥棒さん、何なら私のハートも奪ってみる?」
完全に命中のタイミングだったが、ガーリオン・カスタムはあえて動力を落とす事でヴァイスリッターのオクスタンランチャーをかわした。
『いやあ、随分と熱烈な歓迎嬉しいですねぇ。でも今日の所は量産型のヒュッケバインMk-ⅢとゲシュペンストMK-Ⅲで充分です、貴方の心を奪うのはまた今度にしましょうかねえ』
「あらん、残念。でもこれだけ好き勝手してくれたお代は高くつくわよ?」
自然落下で墜落していくガーリオン・カスタムに向かって3連ビームキャノンとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムのガトリングが迫る。動力を切っているので回避する術など無い完全にエクセレンもコウキも必中を確信したが、ガーリオン・カスタムは手首からアンカーを射出し、それを巻き取る事でビームの雨を完全に回避した。
「逃がさんッ!」
「その首貰ったぁッ!!」
アンカーワイヤーによる巻き取りでビームをかわしても、それを上回る速度で迫ってくるアルトアイゼンとゲシュペンストMK-Ⅲ・Sカスタムの攻撃は回避できる訳が無い。
『キョウスケ中尉、支援しますッ!』
アンジュルグのシャドウランサーによって周囲を囲まれたガーリオン・カスタムは誰がどう見ても完全に詰みに追い込んだように見えた。
『折角勉強させて貰ったんですから、ここで終わる訳には行きませんねぇ』
しかしガーリオン・カスタムのパイロット――アーチボルドは余裕の態度を崩す事無く、ガーリオン・カスタムの踵に内蔵された車輪をカタパルトにつけるとそれを利用しアルトアイゼン達からの攻撃から逃れる。
『僕は生き汚いのが売りでしてねぇ。それではまた会いましょう、ATXチームの皆さん。そしてコウキ・クロガネさん』
悠々と飛び上がり、ブースト・ドライブで生き残りのリオン、アーマリオンと共にヒューストン基地を離脱していくガーリオン・カスタム達にキョウスケ達は歯を噛み締める。数の利は確かに向こうにあった……だがそれでも確実に1度は詰み寸前に追い込んだのに逃げられた。
(想像以上に上手い……厄介な相手だな)
これだけの数を相手にしても余裕を失うことは無かった。詰みに追い込んだとキョウスケ達は感じていたが、実際はそうではなく詰みと思わせられる状況を演出され、それにキョウスケ達が引っかかった形になってしまった。
「隊長。敵機の反応、消えちゃったりしたりしてます」
上空のアンジュルグのラミアからの報告にキョウスケは考えを中断し、頭を振った。
「こちらでも確認した……基地司令とシロガネにコンタクトを取る。各機、連絡があるまで待機」
待機命令を出し、ヒューストン基地の司令部に連絡を取ろうとするキョウスケにコウキから声が掛けられる。
『ここのアホは反逆と情報漏えいの疑いで拘束されている。司令室がばたばたしているからコンタクトなど取れんぞ』
道理で連絡がつかない訳だとキョウスケはアルトアイゼンのコックピットの中で頷いた。
『失礼しました。ATXチーム キョウスケ・ナンブ中尉ですね。臨時でヒューストン基地を預かっている、ユーリ少佐であります。ヒューストン基地への救援感謝します。シロガネのリー中佐から連絡を頂いておりますので、シロガネが到着するまで休息と補給を行ってください』
「ユーリ少佐。ご配慮感謝します。では少しの間お世話になります」
ヒューストン基地の副指令のユーリの言葉に感謝を告げ、キョウスケ達は地球連邦軍ヒューストン基地の格納庫にそれぞれの機体を向かわせるのだった。
機体から降りたキョウスケ達の耳に飛び込んできたのは、ヒステリックな少女の怒鳴り声だった。
「アイビス……さっきの無様なフライトは何だ! 判っているのか! 成果を見せなければ、我々のプロジェクトは即刻解散だ! お前のミス1つで全てが終わるのだぞ!」
戦闘で疲れている中聞こえてきたその怒声にキョウスケ達も眉を顰め、声の方角に視線を向ける。そこには一方的に1人の少女を罵っている少女の姿があった、周りの整備兵も細目で見つめているのに、少女……スレイはそれに気付かずにアイビスに怒鳴り続けている。
「それは判っている……! だから……だから……!」
いつまでも一方的に怒鳴られているのに腹が立ったのかアイビスが口を開きかけると、それを封殺するようにスレイの怒声がアイビスを襲う。
「意気込みを見せるのなら、結果を出して貰いたいなッ! それが出来ない者にシリーズ77のシートに座る資格はない……ッ!」
自分のミスが判っているかまともに反論出来ないでいるアイビスに怒鳴り続けるスレイにコウキが怒鳴り声を上げた。
「きゃんきゃん喚くなスレイッ!! 成果を出せというがお前だってまともな戦闘が出来たかッ!!」
格納庫に響くコウキの凄まじい怒声にスレイは身体を竦めながら、コウキをキッと睨んだ。
「私はテストで成果を……」
「テストが何だ! テストでいい成果を出せても実戦で成果を出せなければ意味等は無いッ!!!」
スレイの反論を封殺するコウキの怒声に一緒に格納庫に来ていたエクセレンは肩を竦めた。
「あっちゃー、あの色男さん。随分と怖いわねぇ……」
「でも、俺はコウキの意見はわかります。それに相手が何も言わないのに一方的に怒鳴りつけるのは正直どうかと」
「ま、それは私も判るけどね。新兵特有のあれよ」
自分が死ぬかもしれないという状況を体験して、恐怖を忘れる為にミスをした同僚が悪いと怒鳴りつける……初めて実戦に出た兵士が良く行ってしまう事だ。
「しかし」
「しかしも糞も無い! 周りにこれだけ人間がいるのにヒステリックに叫んでいてどうするッ! 実戦を経験して気が高ぶっているのは判るが回りから見られていることを理解しろッ!」
凄まじい怒声スレイは何も言えず黙り込むしかない、コウキがふんっと鼻を鳴らして背後を振り返る。
「ツグミ、後は任せる。スレイとアイビスのメンタルケアを頼む」
「……それは判るけど、相手は女の子なんだから」
「それがどうした。女だろうが、男だろうが戦場に出れば等しく1人の人間だ。死ぬと言う事に変わりは無い、俺に出来るのは死なないように心構えをさせることだけなんだよ」
コウキの言葉にツグミは何も言えず、アイビスとスレイを連れて格納庫を出て行った
「すまないな。疲れているのに内輪揉めを見せて申し訳無い」
スレイを怒鳴りつけていた時と打って変わって、柔らかい声で言うコウキにキョウスケ達は気にするなと返事を返す。
「あれ、もしかしてあれがこの基地でテストされていたって言う新型機?」
丁度その時カリオンが格納されてきて、エクセレンが興味深そうに目を輝かせてコウキに質問を投げかける。
「ああ、プロジェクトTDの試作機のカリオンだ。内輪揉めを見せたお詫びだ、プロジェクトTDの機体をお見せしよう」
「あの、良いんですか? 勝手にそんな事をして」
「構わないさ。それにキョウスケ中尉達が来なければ、俺1人では守り切る事は出来なかった。だから貴方達には見る権利がある」
コウキはそう言うとキョウスケ達を連れて、カリオンが格納された格納庫にキョウスケ達を案内する。
「PTでもAMでもないのだな……新型の戦闘機を開発しているのか?」
カリオンが収納されていたのは戦闘機用のハンガーで、そこに固定されている白銀と真紅の機体を見つめながらキョウスケがコウキにそう尋ねる。
「いや、そう言う訳ではない。最終的には人型にはするが今はアストロノーツとしての訓練を積む為に戦闘機の形状をしている」
「アストロノーツって……一体プロジェクトTDって何を開発してるの?」
宇宙飛行士としての技量が必要な機体を開発していると聞いてエクセレンがより詳しい説明をコウキに求める。
「シリーズ77 恒星間航行機の開発計画だ。外宇宙を目指す機体の開発をしている」
外宇宙を目指すと聞いて、ブリットはカリオンを見て信じられないと言う顔をした。
「あんな小さな機体で外宇宙へ行こうだなんて……随分と思い切った計画ですね」
戦艦ではなく、戦闘機サイズで外宇宙を目指す。その無謀とも言える計画は正直正気かといわれても仕方ない計画だ、よく連邦軍が開発に協力しているとブリット達が思っているのを感じ取ったのかコウキは苦笑した。
「連邦軍が注目しているのは新型のテスラ・ドライブだ。カリオンに搭載されているテスラ・ドライブは小型だが従来の物よりも遥かに性能がいい。パイロットが耐えれるのならば、単独で大気圏離脱も不可能では無い」
戦闘機のサイズで単独で大気圏離脱も可能な高性能のテスラ・ドライブ……それだけでも十分に連邦が出資する価値はある。
「なるほど、新型のテスラ・ドライブか」
「キョウスケ中尉。この女は誰だ? ATXチームの新メンバーか?」
興味深そうにカリオンを見つめているラミアが何者かとキョウスケに尋ねるコウキ。
「イスルギの新型のパイロットだ」
「……イスルギの? どこの部門のパイロットだ? 俺は何度かイスルギに行っているがお前など見たことが無いぞ」
コウキの言葉にラミアが身を竦めた。ラミアからすればイスルギの関係者がいるとは思っておらず、コウキからすれば軍に仮出向を許されるようなパイロットなのに、ラミアを見た事が無い。コウキの何気ない一言にキョウスケの目も細くなり、ラミアは自分が疑われている事を感じていた。
「特殊大型機動兵器の開発部門です」
「特機部門か……確かにあそこは秘密主義だが……」
じろじろとアンジュルグを見たコウキは疑いの眼差しをラミアに向ける。
「随分と少女趣味の機体だな、お前の趣味か?」
「……いえ、社長の趣味と聞いておりますであります」
社長と聞いてコウキは小さく溜め息を吐いて、額に手を当てた。
「なるほど、あの女狐が自分の趣味とバレたくないから出向させたのか、納得した」
「……納得出来るのか? コウキ主任」
「ああ、以前に動物型の機械を作れとか言っていたからな。変な所で少女趣味があるんだよ、あの女」
言われも無いミツコに対する悪評と偏見が生まれたが、ラミアは何とか自分への疑いの眼差しを避ける事が出来た事に内心安堵の溜め息を吐いていた。
「まぁあの女をおちょくる武器が1つ手に入ったから良しとしよう。プロジェクトTDの話に戻るぞ、最終的には、探査用と居住用のモジュールを取り付けて、小型の宇宙船にする予定なんだが、本来武器を積載する予定は無かったからな、開発が難航している」
「……武器を搭載していない? 兵器なのにか?」
「ああ、プロジェクトTDの主任……フィリオは未知に満ちた外宇宙を飛びたいと願ってそれを計画した。だから本来のシリーズ77は機動兵器ではなく、あくまで調査艇だったんだ。まぁ、それではスポンサーがつかないから武器を搭載したが……本来は平和利用のための機体だ」
コウキの言葉にラミアは信じられないと目を見開いた。兵器はどこまで言っても兵器に過ぎない。それなのに、平和利用を目指すと公言するプロジェクトTDが未知の存在に思えてしまった。
「キョウスケ中尉。こちらにおいででしたか、リー中佐とユーリ少佐の話が長くなりそうなので、食事をご用意しました、どうぞこちらへ」
「わーおッ! ねね、ヒューストン基地の皆って優しいわねぇ、ほらキョウスケ行きましょうよ」
「あんまりはしゃぐな、迷惑になるぞ」
呼びに来た兵士に連れられて格納庫を出て行くキョウスケ達、一番後ろを歩きながらラミアは平和利用の為に開発された戦闘兵器……カリオンの事を考えながら、キョウスケ達から少し遅れて歩き出すのだった……。
第10話 暗躍する者
次回は本来は「聖十字軍の残身」になりますが、聖十字軍の残身はスキップして、色んな陣営での視点の話を書いて行こうと思います。その次はゼオラ達が出てくる「ブーステッドチルドレン」ですね。スキップする話もありますが、内容などをちゃんと整理して、違和感などが無いように話をころがして行こうと思いますので、次回もどんな話になるのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い