進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第11話 予想外の再会 その1

第11話 予想外の再会 その1

 

薄暗い研究室のような場所にしゃがれた老婆の諭すような……いや品定めするような言葉が響いた。

 

「ブロンゾ27、ブロンゾ28……お前達の出番が来たぞ。フェフェフェフェ……」

 

赤い服に身を包み、まるで御伽噺に出てくる魔女のような風貌の不気味な老婆。「アギラ・セトメ」はまだあどけなさを残した少女と少年に向かって名前ではなく、番号で呼んだ。

 

「はい、アギラ博士の期待に応えれる様に頑張ります!」

 

銀髪のおさげ髪の少女が元気よくそう返事を返すが、その隣の紫色の髪をした少年は返事を返さず、それ所か敵意すら感じさせる視線でアギラを見つめている。

 

「アラド! アギラ博士に失礼でしょう! すいません、この子。ちょっと緊張しているみたいで」

 

「フェフェフェ。構わんブロンゾ28が反抗的なのは今に始まった事では無いからな。セロ、ブロンゾ27とブロンゾ28をアーチボルドの元へ連れて行け」

 

「……はい。さ、ゼオラ、アラド。行こう」

 

アギラの言葉に少し迷う素振りを見せてから、茶髪の優しそうな雰囲気の男性……「クエルボ・セロ」がブロンゾ……いや「ゼオラ・シュバイツァー」と「アラド・バランガ」を連れてアギラの研究室を後にする。

 

「ふん、あの男も甘いな」

 

番号ではなく、名前を呼んだセロに吐き捨てるように言ってアギラは研究室のモニターに視線を向け、背後に立っている2人を見て、驚きながら振り返る。

 

「コーウェン、スティンガー。いつアースクレイドルに来たんじゃ? 連絡をくれたら出迎えた物を」

 

笑みを浮かべ、コーウェンに手を差し出すアギラ。コーウェンはその手を握り返しながら笑みを浮かべる。

 

「いやあ、イーグレットに用がありましてな! その帰りにこうして顔を見せに来たのですよ。アギラ博士も元気そうで何よりです、ね、

スティンガー君」

 

「うんうん! アギラ博士も元気そうでなによりだよッ!!」

 

「お主らのお陰じゃよ、豊潤な資金、十分な実験体! お前たちには感謝してもしきれんわい!!」

 

かつて特脳研で念動力などの研究を行い、そしてかつて連邦軍に存在したパーソナルトルーパーパイロットの養成機関「スクール」にアードラー・コッホと共に非道な人体実験を繰り返し、指名手配となっていたアギラが逮捕される寸前で救出したのがコーウェン、スティンガーの2人組である。

 

「おぬしらのお陰でクエルボに預けていたサンプルとも合流出来た。本当に感謝しておるよ」

 

「ははっ! そう言って貰えると何よりですなあ。所で見ておりましたが、ゼオラでしたか? 何故アラドと言う少年と組ませているのですかな? ゼオラはアギラ博士に従順なようですが……彼はとてもそうには見えませんでしたが?」

 

「ゼオラ? ああ、ブロンゾ27の事か、仕方あるまい。あの娘はブロンゾ28に依存しておってな。あやつがおらんと、精神的に不安定になりとても実戦に耐えれた物では無いわい」

 

「ああ、なるほど、ただの精神安定として与えられている道具と言う事ですな?」

 

「そういう事じゃ、出来るならワシもブロンゾ27だけで運用しておるわ」

 

人間としてではない、あくまで道具としか見ていないアギラの言葉にコーウェン、スティンガーは笑みを浮かべる。

 

「なるほど、イーグレット博士との共同研究が上手く行く事を祈っておりますよ」

 

「そういうのならば、お前達の後におる小僧を少し預けてはくれんかのぉ?」

 

アースクレイドルでイーグレットとアギラが研究している新人類の創造は後一歩と言う所で足踏みを繰り返している。しかし、コーウェンとスティンガーは既に新人類「マシンナリーチルドレン」の製造に成功し、その1号機を自分達の助手として連れ回していた。

 

「いやあ、それはお断りですなあ。彼は親離れが出来ていなくてですね、私達と離れると暴走するかもしれません」

 

「も、もう少し安定したら出向させますよ」

 

「そうか……ならばそれを楽しみにしておるよ。また何時でも尋ねて来てくれ、お主らならば大歓迎じゃ」

 

笑顔で見送るアギラに手を振りコーウェン達はアギラの研究室を後にする。

 

「どうだったかな? 何か思うことはあったかな?」

 

「……いえ、記録上は「アギラ・セトメ」と同僚だったということは理解しておりますが、特には何も感じませんでしたね」

 

「そうかそうか、それは良かった! フォーゲル。アギラ博士にあって何かを思い出すんじゃないかと思ったんだけどねぇ」

 

「うんうん。別に君が記憶を取り戻す事に不安も何も無いけど、その優秀な頭脳を使いこなす切っ掛けになればと思ったんだけどねぇ」

 

2人の言葉にフォーゲルと呼ばれたマシンナリーチルドレンは被っていたフードを脱いだ。

 

「大丈夫です。僕は父さん達を裏切りません、必ずや役に立って見せます。父さん達がくれた「アードラー・コッホ」の頭脳を使って、必ずお役に立って見せます」

 

フォーゲルの言葉を聞いてコーウェンはフォーゲルを力一杯ハグする。

 

「なんて健気で可愛いんだ! これは帰りにご馳走を用意しないとだめだね!」

 

「スシ、スキヤキ、テンプーラだね! さぁ! 行こう! 遠慮しないで沢山食べるんだよ!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

フォーゲル……かつて「アードラー・コッホ」と呼ばれた男の記憶をダウンロードしたマシンナリーチルドレンは笑う。無邪気に、そして邪悪に、己に与えられた記録を全て使い、自分を愛し慈しんでくれるコーウェン、スティンガーの期待に応えて見せると、その澄んだ瞳にどす黒い悪意だけを宿して微笑むのだった……。

 

 

 

 

 

ハワイ島沖に差し掛かった所で、百鬼獣 水上鬼は1度浮上していた。アースクレイドルからASRSを展開した輸送機の受け入れをする為だ。

 

「アーチボルド。お前の所の補充要員が来たぞ。ブリッジにいないで顔見せくらいして来い」

 

二本鬼が手を振りながらブリッジから出て行けとアーチボルドに告げる。

 

「いやあ、未知の技術に年甲斐も無く興奮してしまって申し訳無いですねぇ」

 

全然申し訳無いと言う顔をしていないアーチボルドに二本鬼は眉を顰めながら、アーチボルドを窘める。

 

「上官だというのならば部下の到着くらいは労え」

 

「……鬼なのに随分とお優しいのですね。二本鬼さんは……」

 

「上官としての心構えを言っているに過ぎん。さっさと行け、作戦開始時間まで4時間あるのだからな!」

 

「はいはい、判りましたよ。有意義な時間を過ごさせていただきありがとうございました」

 

一礼してブリッジを出て行くアーチボルドに目もくれず、二本鬼はモニターに映し出されるハワイ基地に視線を向ける。

 

「……弱い敵しかいない所に攻め込むか……いい加減俺も戦いたい物だな」

 

水上鬼の艦長と言う立ち位置になっているが、二本鬼自体は百鬼帝国全体で考えれば大尉ほどの地位しかない下っ端の鬼だ。艦長の立場など二本鬼にとっては邪魔に過ぎず。出来る事ならば、血湧き、肉踊る戦いがしたいと呟いたが、すぐに頭を振った。

 

「叶わん願いは考える物では無いな、潜行用意! 深度300まで潜行後、連邦のレーダーを回避し、ヒッカム基地周辺に向かうぞ」

 

「「「了解です!!」」」

 

部下達の返事を聞きながら2本鬼は腕を組んで艦長席に腰掛けた。だが二本鬼は知らない、ハワイのヒッカム基地で己が戦うに相応しい好敵手が己の前に立ち塞がると言う事を……。

 

「やぁやぁ、お待たせしました。セロ博士」

 

格納庫でユウキ達と話をしていたセロにアーチボルドが全く悪びれた様子も見せず声を掛ける。

 

「アーチボルド少佐、補充パイロットと、ブースト・ドライブ搭載のガーリオン2機、アーマリオン5機を確かに運んできました」

 

「ああ、それは助かりますねえ……それで彼女達が補充兵ですかね?」

 

セロの後のゼオラとアラドに何の興味も示さず、アースクレイドルで製造された新しいガーリオンとアーマリオンを見ながらおざなりに尋ねるアーチボルド。

 

「2人共、自己紹介をするんだ」

 

セロはそんなアーチボルドの態度に不快そうに顔を歪めたがゼオラ達に自己紹介をするように促す。

 

「初めまして、自分はゼオラ・シュバイツァー曹長であります。以後、よろしくお願い致します」

 

「自分はアラド・バランガ……以下同文であります」

 

敬礼するゼオラとその隣で不愉快そうに顔を歪めているアラドを見てユウキは顔を歪めた。

 

(彼らが補充兵だとッ!? まだ子供じゃないかッ!)

 

ビアンの命令でアーチボルドの部下として活動しているユウキは内面の怒りを顔に表す事は無かったが、その内心は激しく怒り狂っていた。見た所16歳前後――戦場に立つには余りにもゼオラ達は若すぎた。

 

「あーはいはい、僕が上官のアーチボルド・グリムズです。ま、与えられた任務さえしてくれれば、別にどうでも良いので精々死なないでくださいね」

 

お前達などどうでも良いと言いたげなアーチボルドの態度にゼオラはアラドの無礼な態度が原因だと感じた。

 

「ちょっと、アラドッ! 何よ、その言い方ッ! 貴方のせいで上官に怒られたじゃないッ! それに敬礼を忘れてるわよ、敬礼をッ!」

 

「ったく、うるせえなあ……俺の態度が悪いんじゃなくて、向こうは最初からこっちに興味なんか無いだろうよ」

 

「何ですってッ!? それはアラドの勝手な思い込みでしょッ!」

 

水上鬼の格納庫に響くゼオラの怒鳴り声。それは深海を進む水上鬼の中ではやたら大きく響いていた。

 

「ちゃんとやりゃあいいんだろ?……あんまカリカリしていると、頭の血管切れるぜ、ゼオラ」

 

「もうとっくの昔に切れてるわよッ!」

 

いい加減な性格のアラドとピシッとした性格のゼオラ。短いやり取りだが、この場にいる全員がゼオラとアラドの関係性を大まかにだが把握していた。

 

「お、おい、お前達……いい加減にしないか。少佐の前だぞ」

 

しかし、この場は学校などではなく、軍艦の中だ。セロが注意に入るが、ゼオラは更にヒートアップする。

 

「いえ、この子はビシッと言っておかないと駄目なんですセロ博士。良いアラド? その一言多い性格、直しなさいッ! ちゃんと少佐にも謝るのよッ!」

 

「それじゃ……アーチボルド・グリムズ少佐ッ! 先ほどは申し訳ありませんでしたッ! 自分はアラド・バランガ曹長ッ! 以下同文でありますッ!」

 

しょうがないという感じで謝罪するアラドにアーチボルドは丸眼鏡を外して、眼鏡拭きで汚れを拭いながらセロにジト目を向ける。

 

「セロ博士……僕はミドル・スクールの教師になった覚えはないんですがね? 優秀と聞いていたのですが、虚偽報告ですか?」

 

「も、申し訳ありません、し、しかしゼオラとアラドは優秀なパイロットである事は間違いありません」

 

アーチボルドの嫌味にセロが慌てて謝罪の言葉を口にする。だがアーチボルドはそんな謝罪の言葉も無視してアラド達に懐疑的な視線を向けた。

 

「やれやれ、期待のルーキーが子供だとはね……これはアースクレイドルに文句を言わなければならないですね」

 

「お言葉ですが、少佐。自分とアラド曹長は『スクール』の出身であります」

 

ゼオラの言葉を聞いてアーチボルドは更に眉を顰めた。スクールは連邦軍のPTパイロット特殊養成機関だ、その非人道的な訓練にスクールの生徒は殆どが死に絶えている。ゼオラは誇らしげだが、スクールの名はPTに関わる物からすれば忌み名に等しい。

 

「……セロ博士、これは厄介払いと考えていいのですか?」

 

「い、いえ、そんな事はありませんッ!」

 

新型機の強奪は危険が伴う、失敗してもが替えが効く兵士と感じるのは当然の事だった。スクールの生徒を使っていると知られれば、批判の視線が向けられる。だから失敗して死んでも構わない兵士を応援として送ったのですか? と尋ねられセロは慌てて手を振る。

 

「ま、新人とは言え、人手が増えるのは助かりますが……僕達のターゲットの中にはあのハガネもいますから、大変ですよ?」

 

「望む所です。この手でDC総帥ビアン・ゾルダーク博士の仇が討ちたいと思っています。ビアン博士の研究成果を全て奪った連邦は憎むべき敵です」

 

ビアンの名前が出たことにユウキは顔を顰めた。仇も何も、ビアンは死んでおらず。地球の為に戦っている……それなのにゼオラの言い回しは連邦によってビアンが殺されたと言っている様なものだった。

 

「結構。では、ユウキ君……次の作戦には彼らも連れていって下さい。君達を部下と認めるかは、この作戦が上手く行ってからにしましょうかねえ。ではユウキ君、作戦の説明をお願いしますね。それとセロ博士は2本鬼さんに紹介するのでこっちへ」

 

顔見せは済んだと言わんばかりに手を振り、ブリッジに向かうセロとアーチボルドを見送り、ユウキはゼオラとアラドに視線を向ける。

 

「ユウキ・ジェグナン少尉だ。今回のヒッカム基地襲撃の指揮官を務めている、よろしく頼む」

 

「はい、よろしくお願いしますッ!」

 

「うっす、よろしくお願いします!」

 

「ちゃんと挨拶しなさい!」

 

アラドを怒鳴りつけているゼオラを見てユウキは顔を顰め、そして彼らは戦場に立つべきではないと改めて認識した。

 

(危険だが……クロガネに連絡を取るか)

 

ヒッカム基地襲撃の作戦は既にクロガネに流していたユウキだが、そこにスクールの犠牲者であるアラドとゼオラが参加すると言う事を伝えるべきだと考えていた。

 

(……エルザム少佐達ならば上手くやってくれる筈だ)

 

スクールと言えば薬物やリマコンによる精神操作が十八番だったと聞く、今もその薬物を投与されている可能性は十分にある。だがビアンの元に保護されれば、それらを解除する手段も見つかる筈だとユウキは考え、クロガネに救助要請を出すのだった……。

 

 

 

 

 

地球連合軍ヒッカム基地のブリーフィングルームで指令通信を見ていたカイは眉を顰めた。

 

(ヒューストンの基地司令が逮捕か……これはますますやばいな)

 

ヒューストン基地での量産型ヒュッケバインMK-ⅢとゲシュペンストMK-Ⅲの奪取。それにヒューストン基地の司令が関わっていたと聞いてカイは顔を顰めた。

 

(……出来ればシロガネが来るまで待ちたいんだが……な)

 

クレイグ司令とレイカー司令によってヒッカムに向かっているシロガネが来てから出来れば試験を行いたいが、ヒッカム基地の司令から30分後の機動試験が命じられているのでそれを反故にすることは出来ない。しかしだつい先ほど演習場を急遽変更せよという命令が下され、更にシロガネとの合流時間がずれ込んでいる事を考え、きな臭くなってきたとカイが考えているとラトゥーニがブリーフィングルームに入ってきた。

 

「失礼します。少佐、試作機の重力下調整が終わりました」

 

「うむ。わざわざすまんな、ラトゥーニ」

 

指令を見る為に調整をラトゥーニに頼んでいたカイはラトゥーニに感謝の言葉を告げる。

 

「ああ、そうだ。お前、海には行ったのか?」

 

「え……? いえ、まだですが」

 

予想外のカイの言葉に困惑する素振りを見せるラトゥー二にカイは肩を竦める。

 

「これから試験だから泳ぎに行けとは言わんが、その後の自由時間に泳ぎに行っても構わないぞ。ガーネットからも水着が送られてきたんだろう?」

 

軍を退役したガーネットから水着が送られてきたんだろう? とカイが尋ねるとラトゥーニは頬を赤らめる。

 

「えっとその……日本に帰ってから……そのリュウセイと一緒にプールに行こうかと……思っているのでその時にでも……」

 

意中のリュウセイとプールに行く時までは水着を誰にも見せたくないと言うラトゥーニに一瞬カイはきょとんとしたが、すぐに豪快に笑い出す。

 

「そうか! それは余計なお世話だったな。では日本に帰ったら休暇要請を出すといい、すぐに了承をしてやるからな! では試作機のテストを行うとしよう。準備を頼むぞ、ラトゥーニ」

 

人形のようだった少女が頬を赤らめ、歳相応の表情を見せるようになった事をカイは喜び、ラトゥーニと共にブリーフィングルームを後に、格納庫に足を向けるのだった……。

 

『そうか、量産型のヒュッケバインMk-ⅢとゲシュペンストMK-Ⅲが強奪されたのか……そいつはかなり不味いな……』

 

「報告によれば、ヒューストン基地の司令が情報の横流しをしたのが、後手に回った理由だそうです」

 

試験前にマオ社から最終報告を受けていたライはそのままイルムガルトに近況報告をしていた。

 

『配備された途端にそれか。情報の横流しがあったとしても随分と無茶をするな、犯人はDCの残党なんだろう?』

 

「予想になりますが、アードラー派のDC残党だと思います」

 

ビアンの率いる正しい意味のDCは、今も人知れず地球を守っている。アードラー派の傭兵崩れの単発的な事件は多数記録されていたが、ここまで続けて行動に出るのは初めての事だ。

 

『とりあえず、そっちも気をつけろ。量産型Rシリーズの試作機を奪われるなよ、ライ』

 

「了解です。イルムガルト中尉もマオ社の方でも充分に気をつけて下さい」

 

『そうだな……連中がビルガーやブレード、ヒュッケバインMk-Ⅲを狙ってくる可能性もあるか……やれやれ、SRX計画とATX計画

の続行はマオ社がメインだからなあ……宇宙軍の大量襲撃とか勘弁してくれよ……』

 

L5戦役の後規模は縮小したが、今もATX計画、SRX計画は続行されており、ヒッカムで行われる新型もATX計画とSRX計画の新型の実験だ。情報の秘匿には尽力しているが、基地司令クラスが情報の横流しをしていると判れば細心の注意を払う必要がある。

 

『ま、お前なら大丈夫だと思うがな……それで話は変わるが新しい特殊戦技教導隊の居心地はどうだ?』

 

カイが主導になって復活した教導隊の具合はどうだ? とイルムが尋ねるとライは小さく笑った。

 

「メンバーは私とカイ少佐、ラトゥーニ少尉の3名ですし……任務は主力機用のモーション・データ作成ですから、今の所は平和な物です」

 

ラングレーでの新部隊員のテストは全員不合格となり、メンバーの増加も無く知り合いだけしかないので気が楽ですよとライが笑いながら告げるとモニター越しのイルムが思い出したように手を叩いた。

 

『そうか。俺は今度、ブレードの試作機と一緒に地球へ降りることになった。行き先は伊豆だ』

 

「ということは……あの機体は我々でなく、リュウセイ達の所へ?」

 

ATX計画の新型機は格闘戦用と射撃用。そのうちの射撃機……ヴァイスリッターの流れを汲んだ「ビルトファルケン」そしてアルトアイゼンの流れを汲んだ「ビルトビルガー」それがマオ社で開発されたATX計画の新型の名前だ。

 

『ああ、基が基だからな。じゃあ、ファルケンは任せるぞ』

 

「了解です、イルム中尉もお気をつけて」」

 

通信を終えてライは通信室を出て格納庫へ足を向ける。だがその顔は険しいものだった……。

 

(急に訓練位置の変更……ヒューストンの事もある。気を緩めることは出来ないな……)

 

ATXチームがヒッカムに向かっていると聞いて、急遽時間を早め、訓練場の変更を命じた基地司令にきな臭い物を感じながらライは格納庫へと早足で歩き出すのだった……。

 

 

 

基地司令から命じられた山に囲まれた旧試験場で2機のPTがトレーラー車から音を立てて立ち上がる。1機は青いカラーリングの標準的なサイズのPTだが、もう1機は重厚なシルエットの、背部に巨大な砲門を背負い、両腕にシールドを装備した濃いブルーのカラーリングをしたゲシュペンスト・MK-Ⅲだ。

 

『どうだ、ラトゥーニ? ビルトファルケンの具合は』

 

指令車からのカイの言葉にラトゥーニは搭乗機であるビルトファルケンの設定を行いながら返事を返す。

 

「機動性や射撃性能が高く、単独でも有効な運用が可能だと思います。しかし、良くマリオン博士がEOTの採用を了承しましたね」

 

マリオンはEOT嫌いで有名なATX計画の技術主任だ。よくそんなマリオンがEOTの搭載を了承しましたねとラトゥーニは笑う。

 

『L5戦役の事もあるし、技術の好き嫌いを言っている場合じゃないと判断したんだろうな。まぁ、安定性があるのは良い事だ。ライの方はどうだ?』

 

「出力がやはり不安定ですね、R-2ほどでは無いですが……操縦の癖がかなり強いかと」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタム。R-1の量産試作機の「アルブレード」の完成に続いて、R-2の量産機「アルブラスター」のデータ取りの為に改造を施された機体だ。R-2ほどでは無いが、その操縦の癖はかなり強いらしい。

 

『トロニウムではないのにか?』

 

「プラズマジェネレーターと核エンジンと搭載していますからね。もう少し時間をください、機体調整を行います」

 

R-2の高出力を再現する為に2つの動力を搭載したゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムはR-2同様、繊細な機体調整が要求されピーキーな機体に仕上がっている。

 

『やれやれ、無理に高出力にしないで、まずはデータ取りを優先すれば良い物を』

 

「フッ……そうですね、お待たせしました。準備完了です」

 

『良し、俺も久しぶりにリバイブを起動させる。俺が出撃したら模擬戦を開始するぞ』

 

ライからの機体調整が完了したと言う報告を聞いて、カイもつい先日やっとテスラ研からオーバーホールを終えて戻って来た愛機に乗り込み、ビルトファルケンとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムの間に立たせる。

 

『それでは模擬戦を始める、2人ともカートリッジは模擬弾だな? それでは模擬戦……な、なんだッ!?』

 

模擬戦の開始を告げようとした瞬間。沖合いで複数の水柱が上がった。

 

『カ、カイ少佐! て、敵機の反応がっ!』

 

「何ッ!? あんな近くにだとッ!? 何故気付かなかったんだ!?」

 

指令車からの兵士の混乱した声に落ち着けと口にする前にカイはゲシュペンスト・リバイブ(K)を反転させ、飛来した特殊徹甲弾を回し蹴りでリオンへと蹴り返えさせる。まさか放った銃弾を蹴り返させると思っていなかったのか、混乱する素振りを見せるリオン、アーマリオン、ガーリオンをカイは鋭い視線で睨みつける。

 

「あの距離からここまでの精密射撃、相当な手練れかッ! ちいっ!? 狙いはやはりビルトファルケンとR02カスタムかッ!?」

 

高速で飛来したリオン、アーマリオンの部隊に囲まれ動きを封じ込められるリバイブ(K)の横を抜けてリオンVがビルトファルケンとR02カスタムへと肉薄する。

 

「ラトゥーニッ!! ライッ! 機体を奪取させるなッ! ええいッ! 邪魔をするなッ!」

 

模擬戦と言う事で武装を搭載しておらず、拳と蹴りで応戦するしかないカイの苛立った声が響く中。ビルトファルケンにリオンVが襲い掛かる。見覚えのあるコンバットパターンに一瞬動揺した物の、ラトゥーニはファルケンを操りリオンのレールガンとミサイルを回避する。

 

「今の攻撃パターンは……ッ!」

 

「この距離でかわしたッ!? それに、さっきのパターンはッ!?」

 

急旋回してファルケンの射撃軸から逃れるリオンVの中でゼオラは先ほどの光景が信じられず、目を大きく見開いた。そしてそれはラトゥーニも同じだった。

 

「もしかして……ゼオラッ!?」

 

「ラ、ラト……なの……? い、いえ、そんなことはあり得ないわ。きっと、あの子のデータが流用されてて……! そうよ、ラトがこんな所にいる訳無いもの! だって、あの子は……! もうPTに乗れないはずなんだからッ!!」

 

ありえないと自分に言い聞かせるようにゼオラはリオンVを再び反転させる。

 

「ライ! ラトゥーニの援護に回れッ!」

 

「そうしたいのは山々ですがッ! こっちもそう簡単にはッ!」

 

特殊鉄甲弾による遠距離射撃とPTのコンピューターを停止させるエレキネットによる執拗な攻撃にカイもライも動きを止められて、ラトゥーニへの応援に入れない。その隙に再びゼオラの駆るリオンVがビルトファルケンに組み付いてコックピットハッチに手を伸ばす。

 

「ラトゥーニッ! 動けッ!! くそッ! 邪魔をするなあッ!」

 

旋回してきたアーマリオンを捕まえて、一本背負いの要領で地面に叩きつけるリバイブ(K)一瞬包囲網が開くが、再び沖から出現したリオンとアーマリオンの執拗な攻撃に包囲網を突破出来ず、足止めを喰らっている目の前でファルケンのコックピットがカイとライの目の前で吹き飛ばされた。

 

「さあ、命が惜しければ機体を放棄しな……」

 

手にしたハンドガンを向けながらビルトファルケンのコックピットを覗き込んで硬直した。

 

「ラトッ!?」

 

「ゼオラ……ッ!」

 

互いに捜し求めていたスクールの生き残り同士……それが戦場で出会ってしまったという不幸。

 

「ゼオラ……生きて……いた……ッ!」

 

「ラ、ラトこそ……ッ! 何でパーソナルトルーパーにッ!? 貴女はもう……ッ!」

 

ゼオラの記憶の中ではラトゥーニはPTのコックピットに恐怖を抱き、PTに乗れなくなって捨てられたはずだ。そんなラトゥーニがPTに乗っている事が信じられなかった。

 

「ゼオラ……どうしてアードラー派のDC残党なんかにッ! あの男が私達に何をしたのか忘れたのッ!?」

 

「ち、違う! 私はビアン総帥のッ!」

 

「ビアン博士がこんな事を命じる訳が無い! だってそうでしょう! あの人はL5戦役で私達と一緒に戦ってくれた! 地球に危機が迫ったらまた立ち上がるって言ってた!」

 

「え、生きてる? ビアン総帥が……え、え……死んだんじゃ……」

 

ビアンが生きていると聞いてゼオラが目に見えてうろたえるのを見て、ラトゥーニはシートベルトを外してゼオラに飛び掛る。

 

「ゼオラッ! あんな所にいたら駄目ッ!」

 

「ううっ! ら、ラト?」

 

幼い妹みたいに思っていたラトゥーニが自分に飛びかかり、手にしている銃を奪おうとしているのを見てゼオラは咄嗟に銃を振るった。

 

「ううっ!」

 

「じゃ、邪魔をしないでッ! その機体を奪うのが私の任務なのよッ!」

 

「あうっ……!!」

 

至近距離で引き金を引いたゼオラだが、ビアンが生きていると言う言葉。そしてラトゥーニの強い意思が込められた目に気圧されて銃口がそれた、それでも至近距離の銃撃によってバランスを崩したラトゥーニがカイとライの見ている目の前でファルケンから落ちる。

 

「ラトゥーニッ!」

 

「機体から落ちたッ!? くそッ! 誰でも良い保護に回れッ!」

 

ビルトファルケンが飛び立とうとするのを見て、保護に回れと命じ両腕のプラズマステークをオーバーロードさせて、電磁波を回りに撒き散らし、強引に包囲網を抜けたリバイブ(K)が飛び立とうとするビルトファルケンに両腕を伸ばした瞬間。リバイブ(K)が海中から伸びた豪腕に殴り飛ばされた。

 

「ぐうっ!? な、なんだ!?」

 

『カイ少佐! 大丈夫ですかッ!?』

 

背中から砂浜に叩きつけられたリバイブ(K)、それをフォローするようにゲシュペンスト・MK-ⅢR02カスタムが支援に入る。そんな中巨大な泡と立てて、リバイブ(K)を殴り飛ばした何者かが姿を現した。

 

「キシャアアアアーーーッ!!!」

 

「ゴアアアアアアーーーッ!!」

 

海面を引き裂き現れたのは両腕が剣となった異形の特機と、リバイブ(K)を殴り飛ばした豪腕の持ち主である両腕が機体よりも遥かに肥大した特機だった。

 

「な、なんだこいつらはッ!?」

 

『メカザウルス……いや、違うッ!?』

 

見たことのない異形の特機達の出現にカイもライも混乱を隠す事が出来ず、特機と入れ代わりで離脱していくビルトファルケン達を見ていることしか出来ない。

 

「シャアッ!!」

 

「な、こいつ早いッ!?」

 

50M近い特機とは思えない速度で両腕の剣を振りかざし、突撃してくる百鬼獣 双剣鬼にカイが反応出来ず、咄嗟にリバイブ(K)の肥大した両腕でコックピットを守ろうとした瞬間……双剣鬼の巨体が何かにぶつかり弾き飛ばされた。

 

「ミサイル……? いや、ロケットか?」

 

それは巨大なロケットにしか見えなかった。地上すれすれを通り双剣鬼を弾き飛ばし、そのままの勢いで上空に機首をあげたロケットはカイ達の目の前で爆発……いや、外部装甲を捨て、発生した煙幕の中から銃撃を異形の特機達に叩き込む何か。

 

「PT……?」

 

「そんな……馬鹿なッ! あれはッ!?」

 

強い浜風によって煙幕から姿を現したPTを見てカイは叫び声を上げた。光を反射する漆黒のボデイ、赤いバイザー型センサーアイ、装甲のデザイン、装備している武装は違うが、カイがそれを見間違える訳が無かった。

 

「P、PTX-02ッ!? げ、ゲシュペンスト・タイプSだとッ!?」

 

ゲシュペンストMK-Ⅲ・R02カスタムの中でライが叫び声を上げる。識別も、機体コードも連邦のデータベースに残されていた、それが目の前にいる機体がゲシュペンスト・タイプSであると言う事を示していた。

 

「そんな馬鹿なッ!? ゲシュペンスト・タイプSは俺達が破壊したッ! それなのに何故だッ!! 何故カーウァイ隊長の機体がここにあるッ!!!」

 

ライとカイの驚愕の叫び声が海上に響く中、ゲシュペンスト・タイプSの赤いバイザー型のセンサーアイが力強く光り輝くのだった……。

 

 

 

第12話 予想外の再会 その2へ続く

 

 




カイの前に現れたゲシュペンスト・タイプSと言う所で今回の話は終わりです。予想外の再会はゼオラとラト、そしてカイ達とゲシュペンスト・タイプSと言う所ですね。次回はクロガネの視点から入って行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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