進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第16話 予想外の再会 その7

第16話 予想外の再会 その7

 

グライエンからリクセント公国、そしてシャイン王女が危ないと告げられた武蔵はビアンにリクセントに向かう事を伝えに言ったのだが、ビアンの返答は武蔵の求める物ではなかった。

 

「どうしても駄目だって言うのかい? ビアンさん」

 

「……そうだ。ハワイ、そして日本での動きを見る限りでは向こうは私達をおびき出そうとしている。リクセントにはシロガネとハガネが

向かうと言う情報もある……今回は辛いと思うが、動かないでくれ」

 

ビアンの言う事も一理ある。明らかに百鬼帝国は威力偵察を繰り返している、それはビアンを名乗る百鬼帝国の鬼がいた事からビアン、そしてクロガネを誘き出し、今度こそビアンを亡き者としビアンへと成り代わる事を考えている可能性が高い以上そう簡単に動く事は出来ない。更に言えば、ゲッターロボは有名すぎるのだ。

 

「……ビアンさん。オイラはもう1度約束を破ってるんです……2度も約束を破ったら、オイラはオイラを許せないんだ」

 

何の話か判らないと言う表情のビアンの目を真っ直ぐに見つめて武蔵は口を開いた。

 

「ホワイトスターを壊したらオイラはもう1度シャインちゃんに会いに行くと約束したんだ。でも、オイラは行けなかった……確かにシャインちゃんは王女様でがんばっていると思う、だけどまだ子供なんだ。きっと泣かせてしまった……」

 

シャインと武蔵の記憶の中の元気……それが重なって見えてしまった。きっと自分が戦死したかもしれないと聞いて、シャインは泣いただろうと武蔵は心を痛めていた。

 

「それにオイラはまた危ない事があったら助けに行くって約束したんです。男が約束して、それを2回も破ったら……オイラは男を止めなきゃいけない……ビアンさん。お願いします……オイラに行かせてください、お願いします」

 

土下座しそうな勢いにビアンは折れるしかなかった。武蔵の言う事は理論的に、そして知性的に考えればもっともやってはいけない感情論……だがそれでもビアンにとっては何よりも心に響く言葉だった。

 

「ゲッターVをゲッターロボに偽装して出撃準備を整える。エルザム達にはきっと反対されるだろうから……内密にな」

 

「……すいません。オイラの我侭で……」

 

「いや、武蔵君の言う事も判る……そう私も思ってしまった。思ってしまったのなら……私はもう止めれないよ」

 

男だから、約束を破った自分を何よりも許せない……そして悲しませた子を助けたいと言われたらビアンはもう止めれない。仮にビアンが同じ立場でもそうしていたからだ、立場も役職も擲って自分はそうしていたと言う確信がある。

 

「エルザムさん達に怒られるときは一緒に叱られてくれますか?」

 

「仕方ない、送り出したのは私だ。武蔵君と一緒に謝ろうじゃないか」

 

にやりと互いに笑いあう。年齢も、人種も違うが何もかもが判っている……そんな不思議な信頼関係が武蔵とビアンの間にはあった。

 

「しかし、鬼が出るとしたら生身での戦闘になるかも知れないが……そうなるとバレてしまうのではないか?」

 

「とりあえずこのマフラーで顔を隠して、えっと上にコートでも着ようかなと」

 

「なるほど、悪くない変装だ。もしも、もしもだ。最悪の場合はハガネに身を寄せるといい」

 

「……まぁとりあえずばれない様には頑張ります」

 

今はまだ武蔵が生きていると、この世界にいると知られるわけにはいかない。今は意識を失っているが、グライエンが目を覚ましてからそこから改めてビアン達は自分達がどう動くべきなのかの舵きりをしなければならないからだ。

 

「エルザム達がクロガネに戻るまで、1時間……急ごうか」

 

「ういっすッ!」

 

今頃離島でトレーニングを積んでいるエルザム達が戻る前に出撃準備を済ませようと武蔵達が部屋を出る。

 

「……総帥、武蔵」

 

「「あ……」」

 

部屋を出るなり、呆れた目で自分達を見つめているリリーと鉢合わせし、武蔵とビアンは言い訳するでもなくその場に正座をして、頭を下げた。土下座しながら確実に止めに入るであろうリリーの説得を試みる武蔵とビアン。

 

「すいません、行かせてください」

 

「すまない、行かせてやってくれ」

 

武蔵とビアンのリクセント公国救助作戦は、最初の最初で躓いてしまうと思いきや……。

 

「リクセントは支援をしてくれてますからね。武蔵、ちゃんと助けて来てあげてください」

 

「い、良いんですか!? リリーさん!?」

 

「私の気が変わる前に行って下さい。あとビアン総帥はちゃんとエルザム様達に説明してくださいよ」

 

「判ってる! よし、行くぞッ!」

 

「はいっ!!」

 

格納庫に走っていくビアンと武蔵を見てリリーは深く溜め息を吐きながらも、その顔には笑みが浮かんでいるのだった……。

 

「うーうーッ!!」

 

「うーじゃないです! 駄々を捏ねない!」

 

少しでも早くリクセントに出発したい武蔵だったが、ゲットマシンの前でエキドナの妨害に会っていた。

 

「ゲットマシンに乗れるから着いて行くッ!!

 

「駄目ですッ!!」

 

エキドナの主張はゲットマシンに乗れるから自分も連れて行けと言う物だったが、当然武蔵がそれを了承するわけがない。

 

「嫌だッ!!」

 

「嫌じゃないですッ!!」

 

「じゃあやだもんッ!!!」

 

「そういう問題じゃなーいッ!!!」

 

埒が明かないとエキドナの脇を強引に抜けてベアー号に乗り込もうとした武蔵。

 

「着いて行く!」

 

「駄目だ! 大人しくしているんだ! ユーリア!」

 

「はいッ!」

 

それを追おうとするエキドナだがユーリアを初めとしたトロイエ隊に妨害され、武蔵の側にいけない。だがそれでもエキドナは諦めなかった。

 

「ふしゃあああーーッ!!」

 

「ふぐおッ!!!!」

 

逃がすかと言わんばかりに伸ばした腕が武蔵のマントを掴み、思いっきり首が絞まった武蔵が奇声を上げる。

 

「武蔵君ッ!?」

 

「馬鹿! 何をしている!」

 

「うーうー!!」

 

「げほっ! ううっ!」

 

マントは駄目だと判断した武蔵は片手でマントを解き、小脇に抱えている変装用のコートやマフラーを持ったままベアー号に乗り込む。エンジンが点火し、飛び立つ姿を見てエキドナも流石に諦めたのだが、今度は邪魔をしたユーリアにその怒りの矛先を向ける。

 

「残念が邪魔した!」

 

「誰が残念だッ!?」

 

「皆言ってた! ユーリアは残念だって!」

 

「皆って誰……まて、何故そこで目を逸らす!?」

 

トロイエ隊の全員に目をそらされ、部下に残念と言われていることにショックを受けるユーリアとそんなユーリアを指差して残念と連呼するエキドナ。

 

「……私にどうしろというんだ」

 

それは優秀な頭脳を持つビアンでさえも途方に暮れる地獄絵図なのだった……。

 

「本当に1人で行くのですか、アーチボルド少佐」

 

「ええ、こういうのは私の得意分野ですし、兵士もお借りしましたからね。ユウキ君達はのんびりと私が戻るのを待っていてください」

 

水上鬼に搭載された水上船に乗り込もうとするアーチボルドはその顔に押さえきれない嗜虐の色を浮かべる。

 

「国際会議の重鎮を捕えて身代金を得る。実にテロリストらしくて良い、私の得意分野ですよ。ええ、全く」

 

にやりと笑いヘルメットを被った集団と共に水上鬼から出撃していくアーチボルド。ユウキはその姿を睨まずにはいられなかった。

 

「お前も苦労しているな、ユウキ」

 

「これは、二本鬼さん、どうも」

 

「俺もあの男は好かん。あの天狗のように伸びた鼻っ柱をへし折ってやりたいものだな」

 

二本鬼はそう言うと地響きを立てながらブリッジへと足を向けるが、思い出したように足を止めた。

 

「ゼオラとアラドを今回は出撃させるな。あいつらは百鬼獣と連携を取るには力不足だ、お前とカーラの2人で準備を整えておけ」

 

「了解です」

 

確かに二本鬼は鬼である。だが、その武人気質と非人道的な手を嫌う高潔な精神は鬼ではあるが、尊敬に値するとユウキは感じていた。だがそれでもユウキにはユウキの任務がある……鬼にも、部下にも本音を見せる事が出来ないスパイ任務――ユウキはクロガネにリクセントに危機が迫っている事を伝える為に格納庫を後にするのだった……。

 

 

 

 

 

シロガネのリーによって国際会議場の警護の手筈が整った所で、日本から応援に来たハガネが到着した。艦同士を通路で繋ぎ、シロガネに乗り込もうとしたダイテツとテツヤを出迎えたのはリーだった。

 

「ダイテツ・ミナセ中佐ッ! テツヤ・オノデラ大尉! お待ちしておりましたッ!」

 

新兵もかくやと言う大声と敬礼で出迎えられ、ダイテツとテツヤも敬礼を返す。

 

「リー・リンジュン中佐だな、こうして顔を見合わせるのは初めてになるな。ダイテツ・ミナセだ」

 

「リー・リンジュンです。本日はご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」

 

握手をかわすダイテツとリー、2人の間にはリーがダイテツを心から尊敬しているような雰囲気があった。

 

「テツヤ、お前も元気そうだな。士官学校の卒業式以来か?」

 

「あ、ああ……そうだな」

 

にこやかに挨拶をかわしてくるリーにテツヤは思いっきり引き攣った顔をし、ダイテツに咳払いをされ、慌てて顔を戻した。テツヤの中では士官学校の時のリーと今のリーがどうしても重ならず、何度もリーの顔を見つめ、そして意を決した表情で口を開いた。

 

「ミスターパーフェクトのリーはどうしたんだ?」

 

理詰めでどんな事でも規則に従えと口にしていたリーと今のリーは違いすぎていた。上官に対して失礼だと思ったが、テツヤはそう尋ねずにいられなかった。

 

「同期の皆にも同じ様な事を言われたよ。だが完璧であると言うことが正解であると言う事では無いと言う事を学んだのさ、人には心がある。その心を捻じ曲げるような事をしてはいけないと私は学んだのだよ」

 

憑き物が落ちたような表情で笑うリーはシロガネのブリーフィングルームへとダイテツとテツヤを案内する。

 

「ダイテツ中佐が到着する前に私の方で警備プラン等を考えております、1度目を通してください」

 

「うむ、見させて貰おう」

 

リーの計画ではATXチームのキョウスケとエクセレンをパーティ会場及びパレードに配置、ライとラトゥーニの2名をシャイン王女の護衛。カイ少佐にリクセントに配置されている僅かな連邦兵士との指揮を取って貰い国際会議場とパーティ会場の警備を行うという物だった。

 

「なるほど、悪くない。ここの空白の部分はハガネの戦力と言うことだな?」

 

「はい、可能ならばアルブレード、R-GUNの2機の使用を望みます」

 

「グルンガストは使わないということか?」

 

「はっ! その通りです。ATXチームのキョウスケ中尉達を会場の警護に回したのは機体が有名すぎるからです。ただでさえ、シロガネとハガネとスペースノア級を運用するのに加えてアルトアイゼン、ヴァイスリッター、グルンガストを運用しては敵の過剰な戦力投入を促す事になると考えております。それに伴い、ブルックリン少尉にはアルブレード、RーGUN、そしてアンジュルグとチームを組んで貰う事を想定しております」

 

リーのはきはきとした説明にダイテツはうむと頷き、顎髭を摩る。

 

「ではアルトアイゼン等はハガネかシロガネに待機させるのか?」

 

「いえ、このポイントに倉庫街がありますのでそちらに運搬しております。ここは夜会の会場とパレードの順路の中間点にありますので、

最悪の場合でも対応しやすいと考えております」

 

襲撃があった際に夜会の会場でも、パレードの最中でも敵AM等に対応出来るように考えられている。遊撃と固定防衛の2つと優先するべき国賓の警護……今ハガネとシロガネのクルーは少ないが、それでもその人数でも可能な最善の一手だと言えた。たった1つの懸念材料を除いてだが……。

 

「悪くない、悪くは無いが……鬼と言うアンノウンの計算をしていないように思えるが?」

 

「……それに関してなのですが、もし襲撃があると仮定した場合。私の考えではテロリストと鬼の目的は国際会議に参加した来賓や重鎮を人質に取る事であると考えております、そうなった場合は人質を取る為に歩兵を投入してくる可能性が高く、陽動を兼ねてアンノウンの投入などが想定されます。グルンガストはそれらの襲撃に備えてもらい、我々は重鎮の警護および保護に回りたいと思っております」

 

今回の国際会議はリクセント公国から離れた場所にある会場で行われる。山と海に囲まれた天然の要塞であり、旧式ではあるが滞空砲塔なども用意されている。そして今回の会議での最も最悪な展開は国賓の拉致であり、それを防ぐ事を第一目標とリーは考えていた。

 

「概ねはリー中佐の案を採用する。だがハガネはリクセントの海中に配置する」

 

「その理由は?」

 

「お前の考えと同じだ。ハガネは有名すぎる、戦略ミサイル等を打ち込まれては話にならないだろう?」

 

ダイテツ達にとって最善の勝利とは国際会議とパーティを無事に終える事、次点で襲撃を受けても国賓を守る事にある。そのどちらかでも損ねれば、その時点でダイテツ達の負けは確定してしまう。

 

「それでしたらハガネをここに配置するのはどうでしょうか?」

 

「ほう。いい所に目を付けたな」

 

テツヤが指差した場所は旧船着場。PTが運用される前に使用された寂れた場所だが、会場から近く潜水艦なども運用していた事からスペースノア級でも十分に潜水出来る区画だ。

 

「避難用のダストシュートで会場とハガネを繋げる事も可能ですね」

 

「うむ、その方針でいくとしよう」

 

シロガネでリーとダイテツ達が警備計画を立てている頃、ラミアは会議場の下見、警護の位置を確認するという名目でシロガネを降りていた。自分に宛がわれた区画の下見をすると見せて、会場の裏路地に足を向けていた。

 

「……ここならば問題はない。出てきたらどうだ?」

 

ラミアがそう声を掛けると人形めいた顔の作りをしている若い男が姿を見せた。

 

(量産型……か)

 

ナンバーズと違い人間味が薄い――恐らく情報収集の為に配置されている量産型だと確信した。

 

「レモン様から、何故連絡がないと叱責を預かっております」

 

それはレモンではなく、ヴィンデルだと思ったラミアだがそれを口にしない。

 

「すまない、機密通信装置の破損が恐らく理由だ。決して離反しよう等とは思っていない、可能ならば通信機の受け渡しを求める」

 

「……了解しました。ではこちらを」

 

「指令ディスク……すまない、助かった」

 

差し出されたディスクを受け取ると、背を向けて歩きだす量産型Wナンバーズに思わずラミアは声を掛けていた。

 

「……任務遂行用の名称は?」

 

「そんなものは我らの間では何の意味はありません、私は量産型104番です」

 

名前ではなく番号を名乗る量産型Wシリーズ、それが正しい事であるとラミアには判っていた。だが何の感情も示さず、淡々いう量産型Wシリーズがラミアにはなぜか恐ろしく思えた。

 

「すまない、変な事を聞いた」

 

「いえ、問題ありません。では失礼します」

 

頭を下げて再び人混みの中に消えていく量産型Wシリーズ。その姿と自身の手の中の指令用ディスクを交互に見つめる……かつての自分はああだった、与えられた命令に従い、そこに迷いも疑問も抱かず、与えられた任務を実行する。それだけで良かったのに、何故自分は今こんなにも思い悩んでいるのか……今まで自分が抱く事がなかった答えのない疑問、それを胸に抱いたままラミアもまた人ごみの中にその姿を消すのだった……。

 

 

 

 

 

国際会議は問題なく閉幕し、親睦を深める夜会へ滞りなく進んでいた……国際会議の主な議題はブライ議員が提唱する量産型ゲッターロボに関係する物、そしてDC戦争時によって失われた観光地としてのリクセントを取り戻すと言う政治的なやり取りであった。ある程度既に話が固まっていたからか、話が拗れることも無く会議は進んで行ったのだ。

 

「外の巡回をしたら夜会の警備に合流するぞ」

 

「もう、キョウスケったらもう少しロマンティックな事を言えないの?」

 

「……任務の後ならば言ってやるさ」

 

文袴姿のキョウスケと肩を出しているドレス姿のエクセレンは、国際会議の成功を喜ぶリクセント公国のパレードを見つめていた。テロの可能性がもっとも高いパレードを監視していたが、パレード終了も間近に迫った今これ以上本命の夜会の警備に戻らねばならなかった。

 

「……そう、じゃあ今度は休暇で来ましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

任務ではある――だがそれでも恋人同士の男女がいれば良い雰囲気になるのも当然の事だった。キョウスケの後を1歩遅れて夜会の会場である旧リクセント城に足を向けていた。

 

「あ、見て、あれってもしかして」

 

「……武蔵だな。そうだな、リクセントではあいつは人気者だからな」

 

ヘルメットに剣道の胴、そしてマントを羽織ったふくよかなキャラクターがシャインをモチーフにしたであろう、魔法使いの少女を肩に担いで笑っている。

 

「皆楽しそうね」

 

「そうだな」

 

寡黙な性格なキョウスケでは話が続かないが、それでもキョウスケとエクセレンは楽しそうに、そして懐かしそうにパレードを見つめていた。

 

「武蔵……生きてるわよね」

 

「ああ、生きているさ」

 

ハガネと合流したときに伊豆基地に現れた謎のPT。僅かな通信記録に残されていたイングラムの声……それを聞いて全員が改めて武蔵、そしてイングラムの生存を確信した。

 

「ふふ、今頃何をしているかしら? もしかしてボス達と一緒なのかしら?」

 

「その可能性は高いな。元気でいてくれれば良いが……」

 

キョウスケ達だって思う事は1つだ。自分達が戦えず、武蔵とイングラムだけが戦う姿を見ていることしか出来なかった……あの時の無力感は今も、キョウスケ達の胸に深く圧し掛かっていた……。

 

「ふふ、もしかしたらシャイン王女がピンチだったら助けに来たりして」

 

「……それだったらますます武蔵はシャイン王女の王子様になってしまうな」

 

もしも武蔵が生きているのならば、自分を慕う少女を助けに来ない訳がないなと笑いあうキョウスケとエクセレン……2人らしからぬ雰囲気だが、パレードの中にあった武蔵を模したキャラクターの存在がどうしても武蔵を2人に思い出させていた。

 

「帰りましょう。カイ少佐達が待ってる」

 

「ああ。そうだな、戻ろう」

 

パレードの終わりを告げる鐘がなる前にと再び歩き出したキョウスケとエクセレン。だが時計塔が19時を示した時――時計塔が大爆発を起した。

 

「きゃあっ!?」

 

「エクセレンッ!」

 

その爆風から咄嗟にエクセレンを庇ったキョウスケの背中に向かって崩壊した瓦礫が迫る。腕の中のエクセレンを守ろうとキョウスケが身体を強張らせたその瞬間、一陣の風が吹いた。

 

「シッ!!!」

 

裂帛の気合と鋭い風切り音……閉じていた目を開いたキョウスケの視界には顔を赤いマフラーで隠し、ボロボロにくたびれたコートを着た人影が鞘に日本刀を納め、城に向かって駆け出す背中が広がった。その服装は記憶の中の武蔵とはまるで異なるのに、何故かキョウスケとエクセレンは城に向かって走って行った人影が武蔵に思えてしょうがなかった。

 

「……きょ、キョウスケ……今の……ッ」

 

「考えている暇は無いッ! エクセレン掴まれッ!」

 

爆発と共に急降下してくるリオン、アーマリオンの編隊、そして遠くに聞こえる獣の叫び声……今城に向かって行った人影は確かに気になるが、今はそれ所ではないとドレス姿のエクセレンを抱き抱えキョウスケは逃げ惑う人混みを駆け抜け、アルトアイゼンとヴァイスリッターが隠されている倉庫街に向かって走り出すのだった……。

 

 

 

 

シャインはクローゼットの中に隠れ、その身体を小さくさせていた。突然の爆発にジョイスに隠れるように言われ、押し込まれるようにクローゼットに閉じ込められてしまっていた。本来のシャインの気質ならば、隠れる事を良しとせず、自ら避難誘導などに率先して動くが、今回はどうしてもシャインは前に出ることが出来なかった。

 

(怖い……怖いですわ)

 

本当は国際会議なんてやりたくなった。必要な事だと判っていてもリクセントで国際会議をやるのがシャインには恐ろしい物に通じる何か

にしか思えなかった……その恐怖がシャインの動きを完全に縛っていた。

 

(ラトゥーニ……ライディース少尉……)

 

ついさっきまで一緒にいた2人の事がシャインの脳裏を過ぎる。あの2人ならば助けに来てくれる……そう信じているのに、恐ろしくて仕方ない。最近何度も夢に見ていた……恐ろしい鬼に追いかけられ、どこまで逃げても追いかけられ、捕まってもう駄目だと顔を上げると角と鋭い牙を生やした自分が自分の腕を掴んでいる夢を何度も何度も見ていた。それが不安から見る夢なのか、予知なのかが判らなかったが……今それが予知夢なのだとシャインは薄っすらと気付いた。不安から身体を小さくして、恐怖に震えていると部屋の扉が開く音がした……ラトゥーニ達と一瞬期待したが、その顔が恐怖に引き攣った。

 

「早く見つけるんですの、私が今度からシャイン・ハウゼンになるのですからね」

 

自分と同じ声……夢で見た角の生えた自分が目の前に現れる……それが現実の事なのだと判った瞬間。今まで堪えてきた恐怖が、そして誰に1番助けて欲しいと言うのをシャインに思い出させていた。

 

(助けて武蔵様ッ!)

 

「きゃ……ぎゃあああああーーーッ!?」

 

必死に身体を小さくさせて、余りの恐怖からか居る筈の無い人物であるその人を思い浮かべ、思わずシャインは武蔵に助けを求めた――その直後おぞましい悲鳴が周囲に響き渡った。一体何が起きたのか判らず、恐怖に震えていると何かを探す音や足音が響き、ついにはクローゼットに手が掛けられた音がした時、もう駄目だと言う気持ちと先ほどのおぞましい悲鳴が脳裏を過ぎり、シャインの中で恐怖が振り切って、その小さな拳を握り締めてクローゼットを開いた何者かに殴りかかっていた。数発殴る事に成功したが、逆に自分の手を痛めそれでも拳を振るっていると両拳を捕まれたのを感じ、シャインはその声を張り上げた。

 

「このッ! このッ!! 無礼者ッ! 賊が私に触れるなんてッ!! 私が誰か判っての狼藉ですかッ!!」

 

目の前が涙で霞み、それでも絶対に思い通りにならないという強い意志で自分の腕を掴んでいる何者かに向かって、ドレスの裾が捲れるのもお構いなしで足を振り、何処でもいいから蹴ってやろうとしていると初めて襲撃者の声が聞こえた。

 

「いててッ!、シャインちゃん。痛いってッ!!」

 

「えっ……?」

 

その声で始めてシャインは自分を捕まえている相手に視線を向けた。赤いボロボロのマフラーで顔を隠しているが、その姿を見てシャインの目から先程とは違う意味で大粒の涙が零れた。

 

「武蔵様……?」

 

シーッと言いたげに口元に手を当てて、シャインの頭を撫でるマフラーの男。顔は見えないが、困ったように笑っているのがシャインには判った。

 

「……乗れと?」

 

「こくり」

 

自分の前にしゃがみこんだマフラーの男の背中に抱きつくと、マフラーの男はゆっくりと立ち上がり右手でシャインの身体を支え、左手に日本刀を握り締めて走り出した。

 

(ああ……間違いないですわ)

 

恐ろしいゲッターロボGに乗せられた時。危険を承知で助けてくれた武蔵……その時と同じ安心感を感じ。震えながら武蔵の首に腕を回す。

 

「生きて……生きておられたのですね……武蔵様」

 

武蔵からの返事は無かった。だけど、困ったように肩を竦める動作にこのマフラーの男が武蔵であるとシャインは確信し、首元に顔を埋めるのだった……。

 

 

 

 

ラトゥーニとライはシャインを探し、絨毯の敷き詰められた通路を走っていた。ほんの僅か、定時連絡の為にリクセントの近衛兵と交代したタイミングでのパレードの行われている居住区での爆破テロ、AMの強襲……余りにも手際が良すぎるそれは今までの新型奪取事件と同じ犯人が行っていると全員が察していた。

 

「くっ、シャイン王女ッ!」

 

「ぐ、ぐあッ!?」

 

「ラトゥーニ、落ち着けッ!」

 

ヘルメットとマスクで顔を隠していた兵士に回し蹴りを叩き込み、昏倒させると同時に駆け出そうとするラトゥーニの腕を掴んでライが強引に動きを止める。

 

「ライディース少尉ッ! 放してッ!」

 

「駄目だッ! 状況を考えろッ!」

 

スクールの友人がテロリストの一派に加わっているという事でラトゥーニの精神はボロボロだった。それに加えて、唯一の同年代の友人とも言えるシャインを失うかもしれないという恐怖で半狂乱になっているラトゥーニにライは容赦なく一喝した。

 

「ここで暴走してシャイン王女に怪我を負わせる訳にはいかない。俺達は冷静に、戦況を見極めて動かなければならない」

 

「ライディース……少尉?」

 

この時ラトゥーニは初めて気付いた、落ち着けと冷静にと自分に言い聞かせているように見えて、それはライが自分自身に言い聞かせているそんな風に感じられたのだ。

 

「いやあ、格好良いですねえ……ええ、とても格好良いですねぇ」

 

自分とライしか居ない筈の通路に第3者の声が響き、その時初めてラトゥーニは自分が進もうとした通路に待ち伏せしている存在が居る事を知った。

 

「すいません、ライディース少尉」

 

「良い、気にするな」

 

互いにハンドガンを手にし、柱の影に身を隠す。鬼のような表情を浮かべているライにこの通路の影に身を潜めている何者かとライに何らかの因縁があるように感じられた。

 

「んんー、シャイン王女を人質に取らなければならないので、僕は忙しいんですけどねぇ……と、言う訳で通してはくれませんかね?」

 

挑発するような口ぶりで通路の影から丸眼鏡を掛けた男――アーチボルドが姿を見せた。

 

「ね、悪い事は言いません。僕を通してくださいよ、アーチボルド……この名前に聞き覚えくらいあるでしょう?」

 

アーチボルド……国際指名手配をされているテロリスト。脅しを兼ねてその名前を名乗ったアーチボルドの顔の横に銃弾が撃ち込まれた、銃弾が掠り頬から流れる血に驚いた様子を見せるアーチボルド。

 

「少尉!? なにをしてるんですか!?」

 

頬を掠めたのは手が震え僅かに照準がずれたから、そうでなければライの放った銃弾は額を貫いていただろう。警告も無く、射殺しようとしたライにラトゥーニが諌めるようにその名を呼ぶが、ライは隠れていた通路から飛び出し、ハンドガンの銃口をアーチボルドに向けていた。

 

「ふーっ!! ふーっ!! アーチボルド・グリムズゥ……ッ! やっと、やっと見つけたぞッ! エルピス事件の首謀者ッ!!」

 

「仕事柄人様には良く恨まれますが……さて、貴方は何者でしょうか? よろしければお名前をお聞かせ願えますかね?」

 

「ライディース・F・ブランシュタインッ! 貴様のせいで義姉上はッ!!!」

 

「ブランシュタイン……義姉上……ああ。なるほどなるほど、君はあの黒い竜巻、エルザム君の弟ですか! いやあ、まさかこんな所でお会いするなんて思っても見ませんでしたよッ!!!」 

 

ノーモーションで放たれた投げナイフがライの手にしていたハンドガンの銃口を貫き、ライの手からハンドガンを弾き飛ばす。ライが呆然としている間にアーチボルドがハンドガンの銃口をライに向けるが、それはラトゥーニの射撃によって弾かれる。

 

「少尉ッ!!」

 

「っと、お嬢さんと侮ってましたが、いやいや中々良い腕をしておられる」

 

互いに通路に身を隠すアーチボルドとライ、ラトゥーニの3人。

 

「んふふふ、はははッ!! ひゃはははははッ!!! ああ、良いですねぇ。懐かしいですよ、今の君はあの時のエルザム君にそっくりだ、自分は冷静だと取り繕っていても動揺と妻を失うかもしれない恐怖で顔を歪めていたあの顔ッ!! ああ、今思いだしても胸がすく思いですよッ!!!」

 

「ッ! アーチボルドォッ!!!!」

 

「少尉ッ!! 駄目! 罠ですッ!!」

 

さっきまではラトゥーニを戒めていたライだが、アーチボルドの挑発に激昂し、警備兵が手にしていたアサルトマシンガンを拾い上げ、アーチボルドに向かって引き金を引くライ。

 

「何ッ!?」

 

「んふふ、君はエルザム君と違って頭に血が上りやすいようですねえ……」

 

「「「「……」」」」

 

アーチボルドとライの間に浮かび上がるように姿を見せた仮面で顔を隠した5人組。それらがアサルトマシンガンの銃弾を全て受け止めて、アーチボルドを守っていた。

 

「んふふふ、凄いでしょう? まるで忍者のようで、いやあ、僕もこの人達を借りているだけなんですけどね。凄く優秀なボディガードなんですよ」

 

ナイフを手にジリジリと迫ってくる仮面の5人組の後で嘲笑うアーチボルド、その距離は10Mも無いが、ライにはその10Mにも満たない距離が絶望的な距離に見えていた。やっと見つけた敬愛する義姉の仇……それを目の前にしても仇を討つ事も出来ない事に歯噛みするライ。

 

「ラトゥーニ、撤退するぞッ!」

 

「っ! 了解ッ!!」

 

「んー思ったよりも冷静ですね。でも、逃がしません……ッ!?」

 

シャインを救出しなければならないと判っていても、数の不利、そして未知数の敵を前に歯が砕けんばかりに噛み締めながら撤退を選択したライ。この情報を仲間に伝える事を優先し、ラトゥーニと共に出口へと走るライの背中目掛けハンドガンの引き金を引こうとしたアーチボルドだが、視界を覆い隠す煙幕に舌打ちし、ハンドガンを懐に戻す。

 

「久しぶりの仕事で少し興奮してましたかねぇ……でもあちらに逃げ道はありませんし、ゆっくりと追詰めるとしましょうか」

 

「「「「……」」」」

 

5人の仮面の男を連れて狩でも行うように歩き出すアーチボルド。その耳につけたインカムから通信が入った。

 

「作戦は成功ですかね?」

 

『しくじった、シャインの代わりになる鬼が殺された。気をつけろ、その会場の中に鬼を殺せる者が居るぞ』

 

「……へえ……なるほどなるほど、では予定よりも早く百鬼獣を出すのですね?」

 

『……そうなるな、お前はなんとしてもシャイン・ハウゼンを捕えろ。成り代わりが失敗したのなら、本人を使うぞ』

 

「ええ、判ってますよ。安心してくださいよ四本鬼さん、さ、皆さん始めましょうか。楽しい、楽しい鬼ごっこの時間ですよ」

 

「「「「「……」」」」」

 

アーチボルドの言葉で5人の仮面の男達が走り出す。アーチボルドはその姿を見ながら、まるで散歩のようにゆっくりと歩き出す――リクセントで始まった悪夢はまだ終わらない……。

 

 

 

第17話 予想外の再会 その8へ続く

 

 




ギリアム少佐まで行けなかった……無念です。これ以上続けると文字数が大変なことになるので、ここで1度切って、ギリアム少佐と武蔵には次回出てもらおうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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