進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第17話 予想外の再会 その8

第17話 予想外の再会 その8

 

リクセントに強襲を仕掛けてきたAM隊。それらと戦闘を始めたと言うカイやリュウセイ達の報告を聞きながら、ダイテツとリーはその顔を歪めた。

 

「避難率はどうなっている!」

 

「げ、現在68%です! ハガネの浮上に掛かる予想時間後38分ですッ!」

 

奇襲はダイテツもリーも予測していた、だが厳重に警備が行われていたはずの会場とパレードの順路にどうやって爆弾を仕掛けたのか……それがダイテツ達には判らなかった。

 

「くっ、ライディース少尉達にも連絡がつかんッ!」

 

夜会でシャインの警護をしていた筈のライとラトゥーニの2人とも連絡がつかない事にリーは焦りを感じ始めていた。

 

「リー中佐。シロガネを浮上させよ」

 

「はっ……は?」

 

「シロガネを浮上させるのだ。危険ではあるがシロガネで対戦艦戦闘準備をしてくれ」

 

ダイテツの命令を理解出来なかったリーにダイテツは重ねて命令を下す。

 

「し、しかし、それでは避難が、シャイン王女もまだ避難が完了していないのですよ!?」

 

避難もそしてもっとも守らなければならないシャインの避難が完了していないと命令を復唱しないリー。そんなリーにダイテツが鋭い視線を向ける。

 

「夜会の会場には情報部の凄腕が紛れ込んでいる。彼とライディース少尉達がシャイン王女を救出してくれると我々は信じるしかないッ! AM隊の奇襲速度、数を考えれば近くに戦艦が控えていると見て間違いない。敵増援を阻む為にも、シロガネには上空の守りを固めて欲しい、ポイント4-E-0に停泊後E-フィールドを展開。これ以上のAMの侵入とミサイルによる空爆を防ぐのだッ!」

 

「りょ、了解ッ!!」

 

シャイン王女の護衛に回したライ達と、数日前から国際会議場に潜入していた男……その3人が居ればシャインを無事に保護出来ると信じ、ダイテツはこれ以上リクセント公国に被害を出さない為に動き出すのだった……。

 

 

 

シャインを背中に背負ったまま、武蔵は城の中を激走していた。その理由は1つ……出口が判らなかったのだ。

 

(だああーーッ! 出口は何処だよッ!? それかせめて知り合いとかいないかッ!)

 

極力喋らないようにする事と、顔を隠す事をビアンに厳命されていなければ、武蔵はとっくの昔にマフラーを外してシャインに素顔を見せて、出口は何処と尋ねていただろう。

 

「ッ!」

 

「ぎゃっ!?」

 

時折姿を見せるテロリストと思わしき男達は峰打ちで気絶させ、武蔵は自分の勘に従い走り続けていた。城に辿り着いたのも、その道中でキョウスケとエクセレンを助ける事が出来たのも、危ない所で間に合ったのも全て自分の勘を信じた結果だ。困ったら自分の勘を信じる……それはある意味竜馬、隼人、武蔵の3人に共通する1つの事だった。

 

「武蔵様……大丈夫ですか?」

 

「だ……んんっ!」

 

大丈夫か? と声を掛けられ、殆ど無意識に返事を返しかけて咳払いをする。背中のシャインはそんな武蔵の様子を見てくすくすと笑う。

 

「顔を隠して、会話もしてくれないのは何か理由があるんですわよね?」

 

シャインの問いかけに無言で小さく頷く武蔵。シャインはそうですかと少し寂しそうにして、武蔵の背中に抱きついた。

 

「……良いです、今はその理由を聞きません……こうして助けに来てくれましたから……それに生きているって判りましたから」

 

城の外から聞こえる悲鳴と爆発音……ビアンの危惧した通りリクセントの国際会議を狙ってテロリストが動き出した。獣の雄叫びも聞こえる所から百鬼獣も出現しているだろう――それが武蔵を焦らせる。少しでも早く、ゲッターロボVの元に戻らなければならない。だが先ほど斬り殺したシャインと同じ姿をした鬼の事を考えると信用出来る相手でなければシャインを託す事も出来ない。

 

「ガアアッ!!」

 

「っなろおッ!!」

 

窓ガラスを突き破り姿を見せた鬼の一撃をかわし、ゲッター合金で出来た日本刀を振るい、その首を切り落とす。

 

「ッ!」

 

「……ちっ」

 

女王だったとしても12歳の少女に人の首を刎ねる場所なんて見せるものじゃない。武蔵は舌打ちし、再び走り出す。シャインの所に行く前にライとラトゥーニを見かけていた……あの2人なら信用出来る。武蔵はそう考えて、2人を探して走り続ける。

 

「武蔵様……あの化け物が、武蔵様がまだ表に立てない理由なのですか? あ、いえ、返事がほしいわけでは無いのです。私の独り言を思ってくださいませ」

 

武蔵の背中に顔を埋めたまま、シャインはこの短い時間で立て続けに起きた事を整理していた。

 

「また地球に危機が迫っているんですね……もしかして顔を隠しておられるのは怪我をしているのですか?」

 

心配そうなその声に武蔵は首を左右に振り違うとリアクションを返す。

 

「そうですか、良かった……今はまだ、巴武蔵としては会いに来てくれないのですよね? それなら私……待ってますから、武蔵さんとして会いに来てくれるのを待ってますから」

 

シャインは泣かなかった……それでも震えている声に武蔵は罪悪感を抱かずにはいられなかった。シャインだけなら顔を見せても良いのでは無いか? 彼女なら口が堅いと判断し、少し減速して背中に背負っているシャインを降ろそうとした時。背後から強烈な殺気を感じ、地面を強く蹴って飛び退いた。

 

「おや、良い勘をしてますね?」

 

暗がりから姿を見せたアーチボルドに武蔵は眉を顰めた。死臭、血臭というべき匂いがこびり付いたアーチボルドが敵であると、一目見た瞬間で理解したのだ。即座に反転し、シャインを背中で隠しながら日本刀の切っ先を向ける。

 

「おやおや、ミイラ男……いや、マフラー男ですね? 日本刀なんかで銃に勝てるとでも思っているのですか?」

 

腰を落とし、刀を構えるだけで返事を返さない武蔵の反応を見てアーチボルドは詰まらないですねと呟いて肩を竦めた。

 

「王女様に用があるんですよ、渡してくれたら貴方は無事……「シッ!!」ギ、ギガア……へえ……貴方やりますね」

 

武蔵とアーチボルドしかいない通路に感じた殺気……それを感じ取り日本刀を振るった武蔵。何もいないはずなのに、切り裂いた手応えを感じ、火花を散らしながら倒れる仮面の男を見てアーチボルドはサングラス越しにその目を鋭く細めた。

 

「ううーん、貴方はとても良い腕をしておられる。どうですか? 僕の所に来ませんか? 雇い主に口引きしてあげますよ?」

 

武蔵の腕が立つと判るとスカウトに出るアーチボルド。武蔵が何も言い返さないのにアーチボルドは手をぽんっと叩いた。

 

「ああ、僕の組織が判らないのですね、大丈夫ですよ。腕が立てば、どんな地位も名誉も思うがまま。どうです? 悪い話では……」

 

アーチボルドの言葉を遮るように武蔵はマグナムの引き金を引いて、大きく飛び退いた。その直後武蔵がいた場所に巨大な拳が突き刺さっていた……。

 

「四本鬼さん! 実に良い人材なんですよ!? 殺すおつもりですか!?」

 

『馬鹿をいうな、その手の男は交渉などでは靡かん。敵に回るのならば殺すしかあるまい』

 

アーチボルドと百鬼獣を操る鬼の会話を聞きながら武蔵は崩壊した通路を見て途方にくれていた。

 

(オイラ1人なら何とかなるけど……)

 

シャインを背負ったまま跳ぶには距離がありすぎる。かといって脇道も無く、退路も塞がれた。八方塞のその状況をどうやって突破するかと考えていると反対側の通路に見知った顔を見つけた。危険は伴うが、これしかないと武蔵は判断し、背負っていたシャインを降ろしてシャインと視線を合わせた。

 

「シャインちゃん。怖いと思うけど、目をつぶって身体を小さくするんだ」

 

声を聞かせてはいけないとか、顔を見せてはいけないとか考えている場合では無いと、武蔵はマフラーを少しだけずらして顔を見せて、大丈夫と声を掛ける。目を瞑り、小さい身体をより小さくさせたシャインの頭を撫で、振り返り様にマグナムの引き金を引いた。

 

「貴方……とんでも無い物を使ってくれますねぇ……ッ!? 貴方何をするつもりですかッ!? やめなさいッ!!」

 

武蔵が扱うマグナムは敷島博士の特注品、通常弾頭と散弾銃のように広がる銃弾を放つことが出来る頭のおかしいマグナムだ。武蔵は散弾銃のように広がるモードに切り替え、シャインを捕えようとしていた仮面の男とアーチボルドの足を止めるとシャインの胴体を抱えて片手で持ち上げ、そのまま数歩助走をつけると大きく振りかぶり全体重をかけて力強く踏み込んだ。

 

「ラーーーイッ!!! 受け取れええええええッ!!!!!」

 

「っきゃああああああーーーッ!!!」

 

30キロ後半のシャインを10Mは離れた通路にいるライに向かって武蔵は全力で投げつけた。

 

「な!?!?、うおおおッ!!!?」

 

飛んで来たシャインに気付き、ライは慌ててシャインを受け止めたが、その場から2歩、3歩と後ろに勢いを殺しきれず後退してついには尻餅を付いたライに小さく笑い、武蔵は右手に日本刀、左手にマグナムを握り締めアーチボルドと量産型Wシリーズを睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

アーチボルドと仮面の男から逃げたライとラトゥーニの2人は煙幕を投げ、2人の逃亡の隙を作ってくれた男と合流することに成功していた。

 

「すいません。助かりましたギリアム少佐」

 

「なに、気にする事は無い」

 

「しかし、どうしてギリアム少佐が?」

 

2人を助けたのは情報部に所属し、かつて教導隊メンバーの1人であった「ギリアム・イェーガー」その人だった。情報部にいるはずのギリアムが何故? とラトゥーニが問いかける。

 

「今の情勢で国際会議なんて狙ってくださいと言っている様な物だろう? レイカー司令の命令で現地入りしていたのさ。それよりもシャイン王女は?」

 

「まだ発見出来ていません。定時連絡で逸れた短時間で逸れてしまいました……」

 

「そうか、だがライディース少尉達が来た通路と私が来た通路は1本道だ。この階ではなく、上の階にいると見て間違いないだろう。急ごうッ!」

 

ギリアムを先頭にして階段を駆け上って行くライ達。後からアーチボルド達が追いかけてくる可能性を考え、走りながらライは自分達が見たことをギリアムに伝える。

 

「この事件の首謀者はアーチボルド・グリムズです」

 

「グリムズ……そうか。辛かったな……」

 

エルピス事件の首謀者であるアーチボルドと対峙し、それでも任務を遂行すること選択し逃げたライ。その心中は察するに余りある……ギリアムは辛かったなと言ってライの肩を叩いて激励する。

 

「いえ、感情的になった私のミスです。今はシャイン王女の救出を最優先にしなければ……」

 

「ああ、だが向こうも探しているのなら付け込む隙はある。ダイテツ中佐やカイ少佐達がAMを食い止めてくれている間にシャイン王女を発見するぞッ!」

 

「「了解ッ!」」

 

階段を駆け上り、シャインの名を叫び部屋の扉を開けてシャインを探すギリアム達。

 

「っ! 窓から離れろッ!!」

 

3階へ続く階段へ向かおうとした瞬間ギリアムにそう言われ、ライとラトゥーニは窓から飛び退いた。その直後巨大な影が城を覆いギリアム達が向かおうとした階段と通路をその巨大な拳で粉砕した。

 

「ッ! ハワイのッ!」

 

「やっぱり繋がっていたのかッ!」

 

ハワイでも現れた異形の特機を見て声を荒げるライとラトゥーニ。だがギリアムとは2人とは違う意味でその目を大きく見開いていた……。

 

(馬鹿な!? 百鬼獣だとッ!?)

 

世界を渡り歩いたギリアムだからこそ知っている……あの異形の特機が百鬼獣と呼ばれる機体であると言うこと、そして百鬼帝国の尖兵であると言う事を知っているギリアムの脳裏は何故と言う言葉に埋め尽くされた。

 

(どうやって作りだしたと言うんだッ!?)

 

新西暦に百鬼獣を作る技術も材料もないはず、それなのに自分の前に立ち塞がる百鬼獣は完全体に見えた。そのありえない現実はギリアムの優秀な頭脳を強い混乱に陥れた……だが、それを越える更なる驚愕がギリアムを襲った。

 

「ラーーーイッ!!! 受け取れええええええッ!!!!!」

 

崩壊した3階の通路から聞こえてきた怒声――その声は紛れも無く武蔵の物で驚いて振り返ると、マフラーで顔を隠し、くたびれたコートを着た何者かが腕を振りかぶっていた。

 

「シャイン王女ッ!?」

 

「ま、まさか投げるつもりかッ!?」

 

通路は確かに破壊されていて、とてもではないが合流出来る立ち位置にない。だがそれでもまさか投げる事は無いと信じたかったが、大きく踏み込んだ何者か……武蔵は腕に抱えていたシャイン王女をライ達に向かって全力で投げつけた。

 

「っきゃああああああーーーッ!!!」

 

シャインの悲鳴が木霊し、ライも慌てて投げられて飛んで来たシャイン王女を受け止める為に走り出した。

 

「な!?!?、うおおおッ!!!?」

 

12歳の少女と言っても30キロはある。投げられた速度などが加わり、ライが2歩、3歩と後退し尻餅を付く中。ラトゥーニとギリアムはシャインを投げた相手を見つめていた。

 

「ッ!」

 

「おらッ!!」

 

日本刀とマグナムを駆使し、4人の仮面の男と戦っているその背中はどう見ても武蔵の物だった。生きていたと言う安堵が胸の中に広がるが、今はそれ所ではない。ライの腕の中で目を回しているシャインと青い顔で呼吸を整えているライに手を貸して立ち上がらせる。

 

「逃げるぞッ!」

 

「し、しかし! ギリアム少佐ッ! あ、あの人は……」

 

今も百鬼獣の攻撃をかわしながら、アーチボルドと仮面の男と戦っている武蔵をどうするのかとラトゥーニが言うが、ギリアムは逃げるという意見を変えなかった。

 

「この場に残っている方が危険に晒す事になるッ! 彼を思うのならば、俺達はシャイン王女を連れて逃げるんだッ!」

 

その強い一喝にライ達は何も言えず、ギリアムに先導されバルコニーに向かって走り出す。

 

「少佐、この先には非常階段はありませんよッ!?」

 

「心配はいらない、全て対策済みだッ! コード・クリアッ!」

 

ライに心配いらないと告げ、ギリアムは腕時計型のツールに向かって叫んだ。

 

「メインタームアクセスッ! モードアクティブッ!」

 

「「少佐ッ!?」」

 

バルコニーの手すりを踏み台にして跳躍したギリアムにライとラトゥーニが悲鳴を上げるが、ギリアムは余裕の表情を崩すことはなかった。

 

「CALLッ! GESPENSTッ!!!!!」

 

国際会議を祝う垂れ幕の下から姿を現したゲシュペンスト・リバイブが浮かび上がり、その手の上にギリアムを着地させる。

 

「君も早く逃げるんだ! 掃射ッ!!」

 

ゲシュペンスト・リバイブが手にしていたビームライフルから放たれた熱線が百鬼獣の顔面を打ち抜き、後退させると仮面の男と切り結んでいた武蔵は即座に日本刀を鞘に納め崩壊した通路から飛び降り瓦礫の山の中に姿を消した。

 

(武蔵……良く生きていてくれた……)

 

ギリアムもあの男が武蔵と確信していたが、姿と顔を隠すのに何か理由があると判断し何も言わず、走り去る武蔵を見送る。そしてゲシュペンスト・リバイブのコックピットの中に身体を滑り込ませるとライ達をその手の中に乗せ、夜会の会場から飛び去るのだった……。

 

「やれやれ会場の中にPTを隠すとはとんでもない人材が連邦にいる者ですね」

 

『作戦はまだ失敗していない、追跡班を出す。お前は水上鬼に戻れ、アーチボルド』

 

「はいはい、了解です。やれやれ、僕も錆び付きましたかねぇ……」

 

リクセントの旧城を破壊しただけでリクセント公国自体に被害はほぼゼロ、更に人質も取れなかった事にアーチボルドは肩を竦め、量産型Wシリーズに守られながらリクセント旧城から撤退して行くのだった……。

 

 

 

 

 

リクセント旧城を中心に襲撃を仕掛けてきたAM隊だが、倉庫街から姿を現したアルトアイゼン、ヴァイスリッター、グルンガストの3機に加えて、警備をしていたカイのゲシュペンスト・リバイブとブリットのゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム、アルブレード、R-GUN、アンジュルグ達の攻撃によってその数を減らし、状況が不利と悟ると攻撃を断念して撤退し始めていた。

 

「ふう……なんとか切り抜けれたか?」

 

『リュウセイ、まだ気を緩めるには早いわ。今ギリアム少佐から連絡が入ったわ』

 

「ギリアム少佐? あの人もリクセントにいたのか隊長」

 

『ええ、後詰の警備でね。ライとラトゥーニ、それとシャイン王女を救出したけど、伊豆基地にも現れたアンノウンに追われているそうよ』

 

『おいおい、マジか……伊豆基地のってあの鬼だろッ!?』

 

『そうよ、判ったら急ぎなさい。シャイン王女達が危ないわ』

 

冷静な口調のヴィレッタだが、言い終わるよりも早く飛び立っていくのを見れば相当焦っているのは誰の目にも明らかだった。

 

『キョウスケ、聞いてたわね。私先行するわよッ!』

 

『俺も行きますッ!』

 

「すまん、先に行ってくれ、俺もすぐに追いつくッ!」

 

百鬼獣の脅威は知っている。ギリアムが如何に凄腕でも、保護したままでは戦えず逃げに回るしかない。機動力に長けたヴァイスリッターとゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム、ウィングガストへと変形したグルンガストと次々に飛び立っていく。

 

『キョウスケ、俺達も続くぞッ!』

 

「了解ッ!!」

 

カイ、キョウスケ、リュウセイの3人は先遣隊から遅れて、リクセントを出てギリアムのゲシュペンスト・リバイブの救難シグナルを頼りに動き出す。

 

『くそ、まさかこんなことになるなんてよッ!』

 

『落ち着けリュウセイ、動揺すればいらん被害を出す。ギリアムと一緒にいるなら心配ない、絶対に無事だ』

 

予想されていた事だが、テロリストの襲撃。そしてアンノウンの出現……考えられる最悪の展開が全て同時に起きてしまった。ギリアムが補足される前に、なんとか合流しようとするキョウスケ達のコックピットに緊急アラートが鳴り響いた。

 

「巨大な熱源が接近中ッ!? カイ少佐ッ!」

 

『くそ、ここで食い止めるぞッ! ギリアムもハガネとシロガネの場所は判っているッ! 保護されるのを祈るしかないッ!』

 

『敵の増援を倒して、早く合流すれば良いだけだッ! 何の心配も不安もねぇぜ! カイ少佐ッ! キョウスケ中尉ッ!』

 

巨大な熱源反応が接近しているのを感知し、反転したキョウスケ達だがリクセントの方角から飛んで来た特機を見て、その目を大きく見開いた。

 

「馬鹿な……あれは」

 

『……まさか……いや、しかし……』

 

『あ……ああ……げ、ゲッター……ロボッ!? ゲッターロボだッ!!!』

 

折れた右角、皹の入った胸部装甲、そしてボロボロの赤いマントを翻しアルトアイゼンの上空を通過していくその特機は紛れも無く、ゲッターロボだった。

 

「追うぞッ!!」

 

殆ど反射的にキョウスケはそう叫び、リュウセイもカイも自分達の上を追い抜いて行ったゲッターロボを追って機体を走らせるのだった。

 

「シャアアアーーッ!!!」

 

「キイイイーーーッ!!!」

 

「あーんもうっ! 鬱陶しいわねッ!!!」

 

ゲシュペンスト・リバイブを視覚、そしてレーダーと共に捕捉したエクセレン達だが、伊豆基地にも出現した鳥獣鬼に阻まれギリアムとの合流を目前に邪魔されていた。

 

「シャアアアーーッ!!」

 

「なんてインチキッ! もう良い加減にしてよねッ!!」

 

オクスタンランチャーのEモードは機体の表面に弾かれ霧散し、かといってBモードは装甲に阻まれてダメージにならない。ヴァイスリッターは最大速度で鳥獣鬼を振り払おうとしているのに、その速度にぴったりと付いてくる鳥獣鬼を前にしては流石のエクセレンも普段の飄々とした態度を保てずにいた。

 

『くっ! 邪魔をするなあッ!』

 

「ギギィッ!!」

 

空中でゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムと切り結ぶ剣角鬼は嘲笑うかのようにシシオウブレードを受け流し、コックピットに向かって剣を突き出す、紙一重で回避したブリットだが躊躇う事無く殺しに来る剣角鬼を前に冷たい汗が背中に流れるのを感じていた。

 

『くそ、この巨体でこの運動性とか殆どインチキだろッ!』

 

「キキキーッ!!」

 

ウィングガストとドッグファイトを繰り返す半月鬼。機体のサイズはグルンガストとほぼ同じなのに、グルンガストを遥かに上回る機動力と防御力、そして攻撃力。半月鬼とウィングガストでは圧倒的に半月鬼の機体性能に軍配が上がっていた。

 

「ぐあっ!? くそっ! ウィングガストじゃ分が悪いにも程があるぜッ!!」

 

ウィングガストの上を取り、擦れ違い様に目から電撃を放たれウィングガストの高度が落ちる。それでもイルムもただではやられず、ビッグミサイルを撃ち込むが、半月鬼の装甲の前に掠り傷しかつける事が出来なかった。

 

『誰でもいい! 包囲網を抜けてギリアム少佐を合流をッ!』

 

「ゴガガッ!!」

 

R-GUNをおちょくるように跳ね回り、手にしていたブーメランを投げつけてくる猿鬼はPTを上回る機動力と正確無比な投擲技術を誇っていた。それはR-GUNの放ったツインマグナライフルの弾丸をブーメランで弾き、馬鹿にするようにお手玉をする姿に表れていた。

 

『化け物めッ!!』

 

「キキッ!!」

 

もう目の前に来ているのに、敵の攻撃が激しくエクセレン達は完全に足止めを喰らっていた、少しでも早くギリアムを助けたいと言う気持ちが焦りを産み、被弾するという悪循環を作り出していた。

 

「主砲、副砲照準! 撃てぇッ!!」

 

国賓の保護を終えたハガネとシロガネもゲシュペンスト・リバイブの保護に動いていたが、百鬼獣の壁は厚く思うように動けないでいた。

 

「エクセ姉様。支援をお願いするでございますッ!」

 

『ちょっ!? ラミアちゃんッ!?』

 

そんな中被弾しながらアンジュルグが強引に包囲網を抜けてゲシュペンスト・リバイブの元へ向かう。スカート状の装甲や肩や腕の装甲を破壊されながらもアンジュルグはゲシュペンスト・リバイブを……その手の中のライ達を文字通り身体で庇った。

 

(何故私はこんな事をしている)

 

自分のスパイ疑惑を晴らそうとか、そんな考えはなかった。ただ今までシロガネとハガネで行動してきて……こうする事が正しい事の様に思えたのだ。地面から飛び出してきた巨大な百鬼獣の牙がアンジュルグに迫るのを見て、何故自分がこんな行動をしたのかと考える。もっとも効率的なのは己の身を犠牲にしかけることで、同情や疑いの視線を逸らす事……だがそれもどこか違和感を拭えない。自分が何をしたいのか、ラミアには判らず殆ど反射的にリバイブを突き飛ばして、百鬼獣の口から逃がしていた。

 

(アンジュルグは大破するが、脱出すればいい。指令ディスクさえあれば、挽回は出来る。今は少しでも信用を……)

 

自分に向けられた疑惑やスパイ疑惑を払拭し、信用をと思いはしたが、それにもどこか違和感が拭えない。何か、何か理由をと考えるがそれらしい答えはどうしても思い浮かばず、アンジュルグごと自分を噛み砕こうとする百鬼獣の牙をどこか他人事のように見つめていると上空から翡翠色の光の柱が降り注いだ。

 

「ぎ、ギャアアアアーッ!!! ゴガアッ!? ぎ、ギギィ……」

 

光の柱に焼かれ苦悶の雄叫びを上げ、自らを傷つけた何者かを睨む百鬼獣。それは生物であり、それと同時に機械である百鬼獣の反射的な行動だったが、今回ばかりはそれは愚かな選択だった。

 

「ッ!!!!」

 

「ギャアアアアーーーッ!?!?」

 

上空を睨みつけた百鬼獣 土龍鬼が見たのは箒星のように自分に向かって真っ直ぐに急降下してくる翡翠色の輝き。そしてそれを認識した瞬間、頭から巨大な戦斧の刃が突き刺さり、急降下する勢いで頭から足に向かって両断される。その間も身体の内部を焼き尽くす翡翠の輝き……ゲッター線のエネルギーに苦悶の叫び声を上げながら百鬼獣 土龍鬼は両断され爆発する。

 

『ラミアちゃん! 大丈夫!?』

 

「は、はい、大丈夫です……し、しかしあれはなんでございますでしょうか?」

 

アンジュルグを噛み砕こうとした百鬼獣を粉砕した何かはそのままの勢い着地し、やっとの思いでこの場に到着したリュウセイ達の目の前で着地の際に巻き上がった砂煙と百鬼獣の爆発したことで発生した煙の中にその姿を隠す。

 

「い、今のはま、まさか……」

 

「ふっ……やはり生きていたか」

 

高性能のレーダーと、モニターを搭載しているシロガネとハガネのメインモニターには急降下してくる何者かの姿がしっかりと映し出されていた。信じられないと目を見開くリーと、確信めいた口調で笑うダイテツ。そして百鬼獣達と戦っていたエクセレン達を間に合って良かったと言わんばかりに光り輝く力強いカメラアイの輝きと共に煙の中からゆっくりとその姿を現した。

 

『久しぶりだけど、ちょーと派手すぎる登場じゃない?』

 

『……イングラム少佐の次はお前かよ……ったく、生きてたなら一報くらいいれろ馬鹿野郎ッ!!!』

 

『む、武蔵ッ! 武蔵なのかッ!?』

 

『や、やっぱりゲッターロボ! ゲッターロボだッ!!』

 

『……そうか、生きていたか……武蔵』

 

『これは皆にも伝えてやらんとな……』

 

煙を弾き飛ばしゆっくりと立ち上がる機体。折れた右角と全身に入った細かい亀裂と満身創痍に見える筈なのに、この場を支配する圧倒的な存在感を放つ特機……その姿は紛れも無くアイドネウス島でメテオ3と共に姿を消したゲッターロボの姿なのだった……。

 

 

 

 

第18話 予想外の再会 その9へ続く

 

 




凄く良いところで切れたので、少し短いですが、今回はここまでにしたいと思います。ついにシロガネ、ハガネのクルーの前に現れたゲッターロボ。そしてハガネ達を襲う百鬼獣達、次回は戦闘回をバッチリ気合をいれて書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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