第19話 思い
百鬼獣を撃退した後、ハガネとシロガネは保護していた国賓を安全な場所に送り届ける為にリクセント公国へと向かっていた。
「キョウスケ中尉達も久しぶりだな! 元気そうで何よりで良かったぜッ!」
「危うく負傷する所だったがな、互いに怪我などをせずに会えて良かった」
ギリアム、カイ、そしてヴィレッタの3人を除く隊員は久しぶりに会う面子との再会を喜んでいた。国際会議の警護の時はシロガネとハガネは完全に役割分担していたこともあり、会話している時間も無かった為。リクセントに向かう間の短い時間だが、こうしてゆっくりと話が出来るのはリュウセイ達にとっても、キョウスケ達にとってもありがたい事だった。
「リュウセイも怪我がなくて良かった」
「いやいや、俺なんかよりもテロリストと鉢合わせしたラトゥーニ達の方が大変だっただろ? 怪我とかしてないか?」
「わ、私は大丈夫だよ」
そっか良かったと笑うリュウセイはゴスロリドレス姿のラトゥーニの顔を見て、目を細めた。
「な、何?」
ジッと見つめられているのに気付いて気恥ずかしそうにするラトゥーニだが、リュウセイはジッとラトゥーニを見つめている。
「なになに? 久しぶりに見るラトちゃんに見惚れちゃった?」
エクセレンがリュウセイとラトゥーニをからかうように声を掛けるが、リュウセイはその言葉に反応を見せずラトゥーニに声を掛けた。
「なんかあっただろ? 大丈夫か?」
「ううん、何でもない」
なんでもないと言うラトゥーニは普段通りに笑うが、リュウセイは首を左右に振った。
「それが何でもねえって顔かよ、なんかあったんだろ? 大丈夫か?」
心底心配した様子のリュウセイにラトゥーニは口を開きかけたが、口を閉じて目を伏せた。
「……ごめんなさい、今は言えない……」
「そっか、じゃあ無理には聞かないぜ、ハワイで色々とあったのは聞いてる。詳しい事情は知らねえけど……奪われた物は取り返してやる、ぐらいの気持ちでいた方がいいんじゃねえかな、勿論俺も手伝うからさ、そんなに気に病まない方が良いぜ」
ラトゥーニを心配しているが、そのラトゥーニが何も言えないと言うのなら無理には聞かないと言うリュウセイ。
「リュウセイも随分と雰囲気が変わりましたね。イルム中尉」
「そりゃなあ、外堀も完全に埋められて、本丸に侵入されてちゃ人間も変わるぜ?」
イルムの意味深な言葉に首を傾げるキョウスケ達の前でエクセレンが楽しそうに笑った。
「ブリット君。今のを聞いたわね、心配しつつも無理に聞かない! これはかなりポイントが高いわよッ!」
「わわッ!」
「ッ!?!?」
伊豆基地にいた時は朴念仁と言う感じだったリュウセイだったが、それが半年の間にかなり成長しているとエクセレンは笑いブリットに話を振りながら、ブリットにやるように頭を撫でる。
「しょ、少尉。離れて、離れてッ!」
「あら、成長してるのはリュウセイだけじゃなかったのね」
明らかに嫉妬の色を見せてリュウセイとエクセレンの間に割り込むラトゥーニを見て、エクセレンはますます楽しそうに笑う。
「と、ところでさ、クスハは一緒じゃないのか? まだテスラ研にいるのか?」
普段みないラトゥーニの反応に内心驚きながら、シロガネと共に来ると思っていた幼馴染のクスハの姿が無い事が気になったのかそう尋ねるリュウセイ。そしてそんなリュウセイを見てショックを受けている様子のラトゥーニを見て、エクセレンは口元に手を当てて、ますます楽しそうに笑った。
(ちょっと見ない間に随分と変わってるじゃない)
ゲームとロボットにしか興味のなかったリュウセイと対人恐怖症の気があるラトゥーニの関係性が大分変わっている事に微笑ましい物を見るような目をしていた。
「テスラ研でね、ちょーっと用事があったのよ。クスハちゃんに会えないのは気になる?」
「いや、ほらクスハの親父さんとかお袋さんに色々聞かれても俺じゃ答えれないし、どうなったかなあって」
「久しぶりに会えるかもしれない幼馴染が気になるとかじゃなくて?」
「元気かどうかは気になるけど?」
エクセレンの問いかけに何気なく返事を返すリュウセイの後で100面相をしているラトゥー二を見て笑うエクセレン。
「あまり苛めてやるな」
「いやん、キョウスケったら乙女の頭を叩くとか酷いわねぇ」
軽くコツンと頭を叩かれただけなのに大袈裟に痛そうな素振りを見せるエクセレン。そんなエクセレンを見てキョウスケは肩を竦め、小さく溜め息を吐いた。
「すまないな、久しぶりに会えたからエクセレンも少し興奮しているようだ」
「ブーブー、興奮してるんじゃなくて、リュウセイとラトゥーニが良い雰囲気じゃなぁい? 何かあったのかなあって女教師の私は気になってしょうがないのよ」
エクセレンの言葉にリュウセイは首を傾げるだけだが、意中のリュウセイと良い感じと言われてラトゥーニに喜びの色が浮かんだ。
「もしかしてもしかすると、私達のいない間に…ラブラブなフラグ立っちゃったとか?」
「ラ、ラブ……ッ!? そ、そんなことは……」
「いやん、お姉さん聞いてないわよ……そこんとこどうなの? うりうり」
頬を赤らめて初々しい反応を見せるラトゥー二を見て、絶対何かあったと悟りエクセレンが肘でリュウセイの脇を突いた。
「待て待て、それは聞くな。踏み込んだら……」
容易に踏み込んだからいけない話題だとイルムが静止に入るが、それよりも早くリュウセイが口を開いてしまった。
「何って、ゲームセンターに行ったり、買い物に行ったりしたくらいで」
「わお! それって、デートじゃない? リュウセイが誘ったの?」
「おう、こういうのは男から誘うもんだってお袋に言われて、荷解きしてたラトゥーニに声を掛けたぜ」
「へえ……ん? 荷解き?」
あちゃーっと言う顔をするイルムと聞き捨てならない言葉が出てきたエクセレンは目を丸くした。
「浅草から伊豆基地に通うのは遠いからって、お袋がさ、空き部屋あるからラトゥーニに下宿するかって」
「……え、ラトちゃん。リュウセイと1つ屋根の下?」
頬を赤らめ顔を逸らすラトゥーニ、その反応自体は初々しいが……妙に不味い雰囲気を感じていた。
「りゅ、リュウセイからラトゥーニに声を掛けたのか!?」
クスハとの関係が今一進展していないブリットが若干慌てた素振りでリュウセイにそう声を掛ける。
「いや、俺がいない間にお袋とラトゥーニが話をしててな。帰ってきたら引越し屋とか来ててすげえビビッたんだよ、でもまぁ、1週間もすればなれたけどさ」
あっはっはと笑うリュウセイだが、それは明らかに笑える話では無い。
「ラトちゃん……貴女……」
「にこっ!」
満面の笑みを浮かべるラトゥーニだが、その笑みに邪悪な物を感じてエクセレンはそれ以上口を開く事が出来なかった。
「本丸まで攻め込まれているってこう言う事だったんですね」
「おう、ラトゥーニのやつ、リュウセイのお袋さんを味方につけてるんだよ。こりゃあ詰みに追い込まれるまで時間の問題じゃね?」
半年の間に男女関係を良く判ってないリュウセイではなく、その母親を味方につけて、リュウセイの家に転がり込んだラトゥーニは初々しいのではなく、計算高いという事が分かり嫌な沈黙がキョウスケ達の間に広がった。
「んで、やっぱりクスハはテスラ研?」
「……ああ、テスラ研で新型機のテストを手伝っているよ」
「そうか……んじゃあ、クスハに俺は元気だって伝えておいてくれよ」
「ああ。ちゃ、ちゃんと伝えておくよ」
「……」
ジッとブリットを見つめるラトゥーニにブリットは引き攣った顔で返事を返すのがやっとなのだった……たった半年……されど半年……その時間は1人の少女を変えるには十分すぎる時間なのだった……。
リクセント公国に向かう道中でシャインから話を聞いていたダイテツはこのままリクセントに向かうべきなのかと悩んでいた。
「……成り代わり……か、それがあの異形の特機を操る連中の作戦か」
『正直はいそうですかと信じるのは難しい話ですが……事実なのでしょうね』
シャインが怯えながら口にした角の生えた自分と同じ顔の少女に襲われたという事、そして武蔵によって助けられたと言う事はブリッジに重い沈黙を齎していた。
「他の国賓を狙ったのも、それが大前提にあったのかもしれないですね」
「カイ少佐は、あの集団の目的が国のトップを殺して、すり替わる事にあると?」
「シャイン王女の話を聞く限りではそうとしか考えられないだろう……」
同じ顔、同じ声の人員を送り込み、殺して成り代わる……そんな恐ろしい事を容易にやってのける鬼にダイテツ達は心から恐怖した。
「ダイテツ中佐はどうするおつもりですか?」
「……正直、リクセントにシャイン王女を帰すのは不安ではある、だが……」
「ハガネに乗っている訳にも行きませんし、他の人間に話す事も出来ませんわ」
こんな話をすれば異常者か、政治の転覆を狙っていると思われてもしょうがない。そうなれば、追われる身になる事は明らかでダイテツ達は未曾有の危機が迫っている事が判っていても、それを声を大にして言うことが出来ないでいた。
「そうだ、武蔵が殺したシャイン王女に成り代わろうとした」
「そんな証拠を残している訳がなかろう。とっくに回収されているに違いない」
「そ、そうですか……」
がっくりと肩を落とすテツヤ、人間は確固とした証拠がなければ人智を越えた現象を信じることが出来ない。
『あの異形の特機を公表して、ある程度警戒させるという事しか出来ないでしょうな』
「ああ、ワシ達に出来る事は警護を増やす事くらいだが……」
「その警護に紛れられていたらと思うとどうしようもなりませんね……」
下手に護衛を増やし、その中に敵がいたのでは話にならないと顔を顰めるヴィレッタ。そんな中でギリアムが挙手をし、注目を集めた。
「私の家にほんの僅かだけ伝わっている旧西暦の話があるのですが、その中で今回の件に該当する事件があります」
「何? お前の家にだと?」
「昔の文献を集めるのが趣味なんだ。その文献は古いもので、失われた時代よりも更に前の話になります。百鬼帝国と言う異形の集団が現れ、百鬼獣と言う巨人を操り世界征服に乗り出したと、そしてそれを食い止めたのが……「ゲッターロボG」……つまり武蔵が恐竜帝国との戦いの中で時間を越えた後に出現した脅威になります」
「……ギリアム少佐はその百鬼帝国が復活したと考えているのか?」
「可能性の段階ですが、恐竜帝国が復活したことを考えると……ありえない話では無いかと」
ますますオカルト染みてきたが、今までのPTを越える異形の特機、シャイン王女と同じ顔をした鬼の存在を考えるとギリアムの話も信憑性を帯びてくる。
「私はこの後、百鬼帝国が本当に存在しているのかそれを特定する為の証拠を集めたいと思っています。それにここまで失敗してすぐ百鬼帝国が再び動き出すとは思えません。与えられた僅かな猶予を使い、証拠を集め、警戒を強めるというのが最善だと考えます」
「……そうだな。百鬼帝国に関してはギリアム少佐に任せる。皆を説得する証拠を集めてくれる事を願う」
『そして私達は急に言動が変わった政治家や上層部の人間を探すと言うことですか……』
「うむ、今の我々にはそれしか出来る事が無いようだ……」
ギリアムによって告げられた百鬼帝国の存在、だがそれは公表する事が出来ない内容であった。未曾有の危機が迫っているのに、それを警告する事が出来ない事にダイテツ達は唇を噛み締める事しか出来ないのだった……。
リクセントで人質を取る事も出来ず、最優先だったシャイン王女の成り代わりを成功させる事も出来ず水上鬼に逃げ帰ったアーチボルドは深い溜め息を吐いていた。
(いやいや、僕も錆び付いてますねぇ……)
テロリストとして動き回っていた時の事を考えれば、こんな失態はありえない。これではスポンサー……百鬼帝国から見限られるかもしれないと飄々とした表情をしている中、内心は不安に揺れていた。
「アーチボルド。今回はご苦労だった」
「二本鬼さん……いやいや、失敗してしまって申し訳ありません」
「なに気にするな、人間だろうと鬼であろうと失敗はする。それにゲッターロボと巴武蔵が出てきたかもしれないという情報を持ち帰って
きてくれただけで十分だ。ゆっくりと休んでくれ」
「温情ありがとうございます。次はこんな失態はしませんよ」
アーチボルドにとって温情にしか思えなかった。確かにアーチボルドもゲッターロボと武蔵の事を知る数少ない、新西暦の人間ではあるが……それを初見で気付けなかったのは許されないミスだろう。それでも許すと言った二本鬼には感謝しかなかった……。
「お前が報告してくれた超機人にあのお方は大層興味を抱いておられる」
「では次の目的地は極東ですか?」
「ああ、俺達は1度百鬼帝国に戻る。キラーホエールを用意しているから、それに乗り超機人の捜索を行えとの事だ」
温情ではあるが、失態によって水上鬼を追い出されたと悟り、アーチボルドは先程よりも深い溜め息を吐くのだった……。
「アーチボルド少佐。任務お疲れ様です」
「失敗していて、お疲れ様もないですが……ユウキ君……次の作戦内容は聞いておりますか?」
「はっ我々はキラーホエールに移動後、黄海方面へ転進……中国山東地区沿岸でアーマードモジュール隊を出撃させ、ポイントF2234を偵察を行います」
自分が戻る前に二本鬼と打ち合わせは済ませているのですねと小さく微笑むアーチボルド。
「しかし、少佐。あのポイントには連邦軍の基地などありませんが……そこに向かう価値はあるのですか?」
「ああ、そこまでは聞いてなかったのですね。分かりました、ではそちらに関しては僕が説明しましょう」
流石に超機人の事は説明していなかったと判り、アーチボルドは古い文献のデータをモニターに映し出す。
「これは?」
「僕の家に代々伝わる古文書でしてね。今から向かうポイントには我々の戦力となり得るものが眠っているのかもしれません」
眠っている? と理解出来ない様子のユウキにアーチボルドは文献を指差す。そこには子供の落書きのような絵が描かれていた。
「古代中国で造られていたという『超機人』……かつて、LTR機構のマコト・アンザイ博士がその存在を立証しようとした古の機械人形……伝説では悪魔と戦ったと言われる巨大なロボットですよ。最近の話ではなんでもゲッターロボらしきものも確認されていたとか……?」
「そ、そんな物が過去に実在していたのですか……?」
「まあ、にわかには信じられない話だと思いますがね、これはかなり信憑性のある話ですよ、ユウキ君」
「古代中国でロボットが造られていたなど……非常識ではありませんか?」
「おやおや、君は意外に頭が固いようで……旧西暦時代ならともかく……今は異星人の存在が実証されている世の中ですよ? なぜ非常識などと言えるんです? 恐竜帝国とメカザウルスを貴方は見ているはずですよね?」
アーチボルドの言葉に黙り込むユウキ。その沈黙こそが認めたくないが、事実だと悟っている反応だとアーチボルドは小さく笑った。
「いいですか、ユウキ君。事実は小説より奇なり。この世界には、君の想像を遥かに超えた物が実在しているのです。現に超機人は過去の文献にもいくつか記述が見られるんですよ、それにほら、ここを見てください旧西暦の世界大戦前後に超機人が出没したという記録も残されています」
「……読めないのですが?」
「ああ、失礼古代中国の文字ですから一般人には読めませんでした。これは失礼しました」
失礼したと言いつつ、まったく悪びれた様子もないもアーチボルドにユウキは眉を顰めた。
「まぁ良いでしょう。僕の家は元々イギリス貴族でしてね。一時期は財団を持つほどの隆盛を誇ってましたが……どうやら超機人と関わったことが没落のきっかけになったようです。おかげで、今は貴族などとは無縁の生活ですよ。ま、別に困っちゃいませんが……自分の家が没落した存在を自分が好きにすると言うのも面白いでしょう? 詳しくは中国が近づいたら説明します。僕とユウキ君だけではそこまで念入りに説明しても意味がないですしね」
アラド、ゼオラ、カーラの3人は今キラーホエールへの機体の乗せ変えなどを行っており、この場にはいないからこの話はここで終わりましょうというアーチボルドにユウキはどうしても気になっていた事を尋ねた。
「少佐、貴方はその超機人の存在を信じているのですか?」
態々中国に向かう価値があるのか? と問いかけるユウキにアーボルドは楽しそうに笑った。
「正直、僕もこの間まではマユツバものでした。しかし、ローズからの情報でLTR機構が遺跡の発掘をしていることが判り……是非、自分の目で真実を確かめてみたいと思いましてね。納得していただけましたか?」
「了解です。それが作戦であり、命令ならば私はそれに従います」
「それは結構。ああ、ユウキ君。後で良いのですがセロ博士にブロンゾ27と28は次の任務で使えますかと聞いておいてくれますか?」
「彼らはかなり頑張っていると思いますが?」
「それがですねえ、どうも精神的に不安定らしくて、今回の作戦で使えないのならば駒としても使えないでしょう? 一応彼らの主治医に
どういう状況なのか尋ねておいてください。使えない駒に巻き込まれるのはごめんですから」
「……了解」
生きている人間を駒と堂々と言うアーチボルドに隠し切れない嫌悪感を感じながらもユウキは頷き、ブリーフィングルームを後にする。
(これはチャンスだな)
水上鬼から離れ、キラーホエールに乗り移る。そして百鬼帝国も百鬼獣もいない……アラドとゼオラを助ける最大のチャンスだと思い、ユウキはクロガネへと次の定時報告の時間を考えながら、自分も資材や物資の乗せ変えをする為に格納庫に足を向けるのだった……。
僅かに船体を浮上させたクロガネにゲッターVが着艦し、武蔵がベアー号から降りると格納庫をうろうろしていたエキドナに視線が止まった。
「武蔵、怪我は無いようだな。良かった……」
そちらに声を掛けるよりも先にユーリアに声を掛けられ、武蔵は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「シロガネとハガネもいましたしね。久しぶりに皆に会えて良かったです……所で……エルザムさんとか怒ってますか?」
「……かなり怒ってるな。言い訳頑張ってくれ」
「まぁ、しょうがないです。覚悟してますよ……」
シャインを助けれて、久しぶりにリュウセイ達にも会えた。そう思えば、エルザム達の説教も怖くないと笑ってユーリアと共に格納庫の出口向かって歩き出す。
「エキドナさん、今帰りまし……だ、大丈夫ですか!?」
「ど、どうした!? 何があった!? どこか痛いのか!?」
格納庫を出る前にエキドナに声を掛けた武蔵だが、エキドナは武蔵を見るとその場にへたり込んでぐすぐすっと泣き始めた。それには流石の武蔵もユーリアも慌てた。見た目完全に大人の女性が幼女のように泣き出す姿は武蔵とユーリアを動揺させるには十分な光景だったから……エキドナは溢れ続ける涙を服の裾で拭いながら武蔵を見つめる。
「よ、良かった……怪我してない。良かった、武蔵が怪我をしないで帰ってきて……」
どうやらエキドナは武蔵が無事に帰って来た事に安堵し、腰が抜けてしまったようで泣きながら良かった良かったと言って、立ち上がれないでいた。
「すいません。エキドナさん、心配かけたみたいで。立てますか?」
「……無理」
「しょうがないな、私が肩を貸そう」
「オイラも手伝いますよ」
ユーリアと武蔵に肩を借りて立ち上がったエキドナは意外そうな顔でユーリアを見つめた。
「残念お前、案外優しい?」
「残念ってユーリアさんに失礼ですよ。それにユーリアさんは優しいですよ?」
全く汚れのない瞳で信用しきった目で優しいと武蔵に言われ、ユーリアはうっと呻いた後、ま、まぁなっと恥ずかしそうに笑った。
「武蔵君……それはどう言う状況だ?」
武蔵が帰って来たと知って格納庫に来たエルザムだが、エキドナをユーリアと武蔵が両サイドから支えているのを見てさすがに怪訝そうな顔をする。
「オイラが無事に帰って来たって知って腰が抜けちゃったみたいで……後で説教でも何でも聞くんで、ちょっと待っててくれますか?」
「そういう話ならばしょうがない。医務室に連れて行って上げるといい、武蔵君は後でちゃんとブリーフィングルームに来るんだぞ」
エルザムの言葉に判ってますと武蔵は返事を返し、ユーリアと共にエキドナを医務室に運んでからエルザムに呼ばれているからと言ってエキドナとユーリアだけを医務室に残して出て行った。
(いやいや、何をしろと?)
エキドナと2人きりにされたユーリアはどうすればいいのかと困惑していた。普通なら部屋を出て行けば良いのだが、エキドナに服を捕まれているので立ち上がることも出来ない。互いに何も言えず、ベッドに腰掛けるエキドナと椅子に座っているユーリアと言う奇妙な光景がそこにあった。
「ユーリアは武蔵といると嬉しそうだ」
「きゅ、急になんだ!?」
口を開いたと思ったら武蔵といると嬉しそうと言われ、ユーリアは思わず声が上ずった。
「私は武蔵といると嬉しい。でも、ユーリアと一緒なのを見ると何か寂しい……判らない。これは何?」
「判らないとは? 何がだ?」
「判らない、武蔵といるとここが温かい……でも、ユーリアと一緒なのを見るとここが痛い」
胸が痛いと訴えるエキドナ。その姿はとても小さな幼子のように見えて、何度も出し抜かれていたり、武蔵がエキドナを甘やかしているのを見て面白くないと感じていたユーリアだが、今のエキドナを見ているとそれがとても大人気ないことのように思えた。
「そうだな、それが何かって言うのは口で説明するのは難しいな」
「お前もあるのか?」
「あるさ。でも……そうだな、エキドナはその感じは嫌いか?」
「ん、嫌いじゃない。ユーリアはこれが何か知ってるか?」
「知っていても口にするのは難しいな……でも、そうだな。うん、悪い物では無いとだけはいっておこうか」
自分だけを見て欲しいと思うのも、一緒にいると楽しいのも全ては恋によって齎されるものだ、だけどそれを口にするのは難しく、そしてそれを口にするには気恥ずかしい。
「そうか、いつか私も判るときが来るだろうか?」
「来るよ。私もそうだった」
武蔵がブリーフィングルームでエルザム達にビアンと共に謝罪を繰り返している頃。医務室ではユーリアとエキドナが奇妙な友情を結ぼうとしていたのだった……。
第20話 古の呪歌 その1へ続く
次回はハガネを見送るシャイン、アラドとゼオラ、そして安西博士などを出して戦闘開始までを書いて行こうと思います。ほんの少しゲッターの要素も出して行こうかなとか思いますね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い