進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

162 / 400
第20話 古の呪歌 その1

第20話 古の呪歌 その1

 

様々な光景が浮かんでは消えていくを繰り返す、悪趣味なパッチワークのような世界で異形の影が浮かび上がる。樹木のような身体、肉食動物を連想させる牙が生えた腕、そして重厚な機械を思わせる紫色の装甲を持つ機械のような、生物のような、そして植物のような……相反するすべての要素を持つ異形はいくつも移り変わる光景の中で1つだけ、1回も景色が変わらない光景へと、その触手のような腕を伸ばした。

 

「……問題……あり……宇宙……監視……静寂……で……なければ……」

 

途切れ途切れで今にも消えてしまいそうだが、それでも強い意思がこめられた視線でその光景を……いや、1つの世界を見つめる異形の影。その背後には胸部が抉れ、ぐったりとした様子で横たわるどことなく、アルトアイゼンに似た異形の巨人の姿があった……それは武蔵とアクセルが決死の思いで倒した「アインスト・ヴォルフ」だった。

 

「望まれた……世界……破壊……された……許されない……進……化の光……我らの……物」

 

光さえない世界にほんの僅かに零れる翡翠の輝き……ゲッター線の輝きに異形――「アインスト・レジセイア」はその手を伸ばす。

 

「もう1つの世界……2つのルーツ……望んでいない……世界……混乱……混沌……守護者を……排除……進化の光……手に……世界の……修正……完成する……新たなる生命……新たな世界……失敗した……だけどまだやりなおせる……我ら……こそ……正当なる……進化の光……後継者なり……」

 

レジセイアも、傷を癒しているアインスト・ヴォルフもその瞳に怪しい光を宿し、零れ落ちるように現れるゲッター線を狂気を宿した瞳で見つめ続けているのだった……。

 

 

 

 

 

 

リクセント公国で国賓を降ろし、僅かだが補給を済ませ、ハガネとシロガネは忙しく出発の準備を整えていた。百鬼獣、百鬼帝国……そしてシャインの証言の全てを伊豆基地のレイカーへと伝える為に一刻も早く日本に帰る必要があった。

 

「シャイン王女。大丈夫ですか?」

 

「ラトゥーニ……ええ、私は大丈夫です。今までは不安と恐怖に怯えて過ごす毎日でした……だけど」

 

窓から夜空を見上げるシャインの顔はこの半年見た事が無いほどに輝いていた。

 

「武蔵様に会えました……だから私は大丈夫です。不安があっても、恐怖があっても……それに屈する事無く前へ進めます」

 

胸に手を当てて微笑むシャイン王女の瞳には強い意思の光が宿っていた。何があっても屈しない、不屈を訴える瞳を見てラトゥーニは安堵の笑みを浮かべた。

 

「良かった。もし、またあんな事があったらすぐに連絡を……どこにいても助けに来ます」

 

「ふふ、ありがとう。ラトゥーニ……でも私は武蔵様に助けて欲しいですわ。そう、貴女がリュウセイに助けて欲しいと思うように」

 

「しゃ、シャイン王女ッ!」

 

まさかこんな切り返しをされると思っていなかったラトゥーニが慌てた様子で手を振る。シャイン王女はそんなラトゥーニの様子を見て、してやったりと言う表情で笑いラトゥーニの手を握った。

 

「頑張りましょうラトゥーニ、恋する乙女は強いんですの、何があっても負けてはなりません、くじけてはなりません。私にはこんなことしか言えませんが……頑張って」

 

「……シャイン王女。はい、ありがとうございます」

 

再びラトゥーニは戦いに身を投じなければならない、自分の家族を取り返すために……そして再びこの世界に広がろうとしている戦火を止

める為にも立ち止まっている時間は無いのだ。

 

「行ってきます、シャイン王女。今度来る時は……武蔵と一緒に」

 

「……ふふ、ありがとうラトゥーニ。でも私は武蔵様が会いに来てくれるのを楽しみに待ちたいの、だから大丈夫よ」

 

幼い少女である筈なのに、全てが判っていると言わんばかりに微笑むシャインに頭を下げてラトゥーニはシャインの私室を後にした。

 

「もう行かれるのですか?」

 

「はい、まだ私達にはやることがありますから」

 

「そうですか……お気をつけて」

 

シャインの部屋の外で待っていたジョイスは柔らかく微笑んでいるが、その目に激しい怒気が浮かんでいるのを見て思わずどうしたんですか? とラトゥーニは尋ねた……尋ねてしまった。

 

「2度に渡りシャイン様を助けてくれた事に私は深く感謝をしております。ですが、顔も見せず、再び行ってしまった武蔵を私は許せません。ですので、今度は逃げれないようにしたいと思っております」

 

「そ、そうですか……」

 

ごきりっと拳を鳴らすジョイスに武蔵が以前叫んでいたやばい人と言う意味を知ったラトゥーニは若干引き攣った顔でその場を後にするのだった……。

 

「皆さん……どうかお気をつけて……武蔵様もお怪我などをなさらないように……」

 

リクセントから飛び立つハガネとシロガネを腕を組んで見送るシャインは、ジョイスがまさか今度武蔵が現れたら力付くでもリクセントに縛りつけようとしているなんて思いもせず、ラトゥーニ達と武蔵の無事を祈り続けていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

一報その頃。水上鬼からキラーホエールに乗り換え、中国を目指すアーチボルド達。その中でゼオラは与えられた個室で横になり、カーラに看病をされていた。

 

「具合はどう? ゼオラ」

 

濡れタオルを絞ってゼオラの額に当てながらカーラがそう尋ねる。

 

「すみません、頭痛と腹痛が酷くて……」

 

ビルトファルケンの奪取後から調子の悪いゼオラはユウキの命令によって、自室待機が多くなっていた。最初は女性特有の物を疑っていたが、明らかに病状が重く他の病気の可能性を考慮したユウキによって同性のカーラがゼオラの面倒を見ていた。

 

「ま、しょうがないよ。無理はしないでね」

 

「でも1回出撃しただけでダウンするようじゃスクールの名折れです」

 

スクールの生徒であるゼオラ。だが同じスクールのアラドはスクールを嫌っていた……アラドとゼオラの言うスクールの実態……どちらが正しいのかカーラには判らなかったが、心情的にはアラドの言い分を信じたかった。

 

「あのさ、1つ聞きたいんだけど良いかな?」

 

精神的に不安定であると聞いていた、そして不安や揺さぶりをかけるような事を言ってはいけないと念入りに注意されていたが、カーラは言わずにはいられなかった。

 

「別にスクールが悪いって言うつもりじゃないよ? でもさ、なんでスクールの人はビアン博士が死んだって貴女に教えたの?」

 

カーラの言葉が理解出来ないと言う様子のゼオラの目が激しく揺れた。それは聞きたくない事実を聞かされたと言わんばかりに柔らかな笑みを浮かべていたゼオラの表情が崩れた。

 

「生きている……ビアン総帥が? はは、何を言っているですか? リルカーラさん、ビアン総帥は死んだんですよ?」

 

何の感情も込められていない声と瞳で機械のように告げるゼオラにカーラは眉を顰めた。

 

「いやいや、ビアン総帥は生きてるでしょ? そっちこそ何を言ってるの?」

 

L5戦役の時にユウキによって助けられ、ユウキがいるからとアーチボルドみたいな外道と共にテロリストの真似事をしているカーラだが、これが全て人類の為に、ひいては地球を救う事に繋がるというユウキの言葉を信じて一緒に行動している。ユウキがいなければ、カーラはゼオラとアラドの2人を連れてとうの昔にキラーホエールを脱出して、連邦に逃げ込んでいる。ユウキが大丈夫だからと言うから、カーラはその時を待っているに過ぎない。

 

「私達は……ビアン総帥の仇を討ち、あの方の悲願であった軍事政権の樹立を実現させ……異星人から地球圏を守る為に……戦うのです……」

 

(これ本当に大丈夫なの、ユウ……あたし、判らないよ……)

 

想定外の言葉を言われ、機械の様になったゼオラを見て、カーラは激しい不安に駆られた。そもそも百鬼帝国も、百鬼獣もカーラは好きでは無い、自分の故郷を焼いた憎いメカザウルスを連想させるから……そしてその時に自分を助けてくれたユウキを信じて、アーチボルドに嫌な命令を下されても自分を庇ってくれるユウキがいるから、ここまでやってきたが……ゼオラの様子を見て本当にここにいて良いのかと言う不安がカーラの中で生まれた。

 

「……リルカーラ少尉はどうしてDCに?」

 

急に瞳に生気が戻り、声にも人間らしさが戻ったゼオラだが、自分達をDCと呼んだ。硬直していた数秒の間に一体何があったのかとカーラはいぶかしんだ。

 

(スクールなんて、誇るものじゃないよ。ゼオラ……アラドの方が正しいよ)

 

薬物投与、精神操作をして子供を無理にパイロットに仕立てていたスクール。ゼオラはその事を口にしないが、アラドはそれを言う。それは精神操作や薬物投与のレベルがゼオラよりもアラドの方が弱く、アラドが正常な理解力を持っていて、スクールの教えに抗い、ゼオラに自分を取り戻せと言っているようにカーラには感じられた。何故ならば、自分達はDCはDCでも、ビアンに反旗を翻したアードラー派のDCに所属しているのであって、誇れるような存在では無いのだから……。

 

「リルカーラ中尉?」

 

「あ、ああ……あたし? あたしもあんたと同じような感じかな」

 

2度声を掛けられ我に帰ったカーラ。ゼオラの事が心配でも、今はユウキを信じて待つしかない。今までもそうしてやってきた……だからユウキを信じて大丈夫だと自分に言い聞かせながらゆっくりと口を開いた。

 

「あたしの故郷さ、L5戦役の前にメカザウルスの攻撃を受けちゃってね……父さんや母さん、弟が死んで……あたしだけ生き残ったんだ」

 

今でも目を閉じればカーラの瞼にはあの時の恐怖が鮮明に浮かび上がる。機械と生身の体を持つ異形の恐竜がその牙を、爪を振るい、炎で生まれ育った街を焼く姿をカーラは1秒だって忘れた事はなかった。

 

「連邦は助けに来てくれなかった……だけどユウ達が助けに来てくれた」

 

ユウキは忘れていると思っているのか、その時の話をしないが、カーラはしっかりと覚えていたDCの旗艦……クロガネから現れたユウキ達の姿を、必死に救助活動を行っているその姿をカーラは知っている。今はこうしてテロリストとしてのDCに扮しているけど、ユウキが本当の意味でDCの兵士だとカーラは知っているからユウキを信じて待っていられるのだ。

 

「じゃあ、少尉は連邦への復讐を……?」

 

復讐の為にいるのか? と言われカーラが言葉に詰まっているとゼオラの私室の扉が開いた。

 

「……ゼオラ、薬を持ってきたよ」

 

「あ、セロ博士……ありがとうございます。カーラ少尉もありがとうございました」

 

ベッドサイドに置かれている桶やタオルを見てカーラはゼオラの看病をしていたと悟ったクエルボは穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ありがとうリルカーラ少尉。後は僕に任せて席を外してくれないか?」

 

柔らかな口調だが、自分が邪魔者と目が訴えているクエルボに眉を顰め、カーラは無言で部屋を後にし、そのままの足でユウキの部屋に足を向けた。

 

「ユウ、ユウ。今良い?」

 

『カーラ? 少し待て』

 

部屋の外で待っていてくれと言うユウキの言葉に判ったと返事を返し、カーラはユウキが呼ぶのを待った。確かにユウキは信じているし、大丈夫だと思っていた……だけど、今回の件はどうしてもユウキに話しておかなければならないとカーラは感じていた。

 

「すまないな、どうした?」

 

「……ちょっとゼオラとアラドの事で」

 

「……判った。はいってくれ、話を聞こう」

 

ゼオラとアラドの事と聞いて険しい顔をするユウキに招かれて、カーラはユウキの私室へと足を踏み入れるのだった……。

 

 

 

 

無言で自分への嫌悪感を見せながら退室したカーラを見て、クエルボは内心安堵の溜め息を吐いていた。

 

(良かった……ゼオラとアラドの事を心配してくれる人がいた)

 

クエルボは確かにスクールの人間であり、ゼオラ達に投薬や精神操作を施している張本人ではあるが、アギラのようにゼオラ達を道具とは思っておらず、今回のゼオラの不調だってクエルボの計算の内の事だった。スクールに、DCに、ビアンの事に疑問を抱いてくれと、リマコンは自分で疑問を持ち、それに抗わなければ解除出来ない。投与する薬の濃度を落とした事でゼオラには不調が出てしまったが、アラドはクエルボの計算通りスクールとDCについて疑問を抱いてくれた……博打に出た甲斐があったとクエルボは内心安堵していた。

 

「……前回の戦闘、ビルトファルケンの奪取任務の後からあまり調子が良くないようだね。何か悩んでいることでもあるのかい?」

 

優しく声を掛けるクエルボだがゼオラは布団を握り締めて、黙り込んでいる。

 

(……僕の想定外の事が起きている?)

 

ゼオラ達はクエルボやアギラの問いかけにはすぐ返事をするように調整されている。それなのに、黙り込むという行動に出たゼオラに何か計算外の事が起きているのかとクエルボは内心焦った。だが、ゼオラの口にした言葉に更なる焦りを見せた。

 

「実は……ビルトファルケンにラトが乗っていたんです」

 

「ラト? もしや、ラトゥーニ11か……ッ!?」

 

自分が名前をつける事が出来なかった少女……今でもずっとその事が心に引っかかっていたクエルボは思わず彼女の事を番号で呼んでしまった。

 

「あ、いや……すまない。あの子には名前を付けてあげることが出来なかったからね。しかし、彼女が生きていたとは……いや、嬉しいよ。そうか……そうか、彼女に会って驚いてしまったんだね?」

 

連邦の新型のパイロットをしていたと言う事にはクエルボも驚いた。ラトゥーニは暗所恐怖症などを発症していて、2度とPTには乗れないと判断されて訓練機と共に廃棄された……その場にいたクエルボは、アードラーとアギラに見つからないように時間差で救援シグナルをセットしていた、それが無事に発動した事に安堵していた。そしてゼオラの不調も想定外の事によるパニックによる物だと思っていた。だが次の言葉にクエルボは目を見開いた。

 

「ええ、私も驚きました。ビアン総帥が生きているって……地球に危機が迫ったら立ち上がるって……あの子……わ、私にこんな事をしたら駄目だって……私の手から拳銃を取ろうとして……そ、それで……それで……私ッ! 訳が判らなくなって、ラトに拳銃を……ラトを……ラトを撃ってしまったんですッ……あ、あんなに大事に思っていたのにッ……わ、私……あ、あの子を……こ、殺してしまったかもしれない……」

 

自分の手を見て震えるゼオラ……。ゼオラの不調はラトゥーニを殺してしまったかもしれないという恐怖から齎されているものだった。

 

(しくじった……だから反対したんだ)

 

ゼオラとアラドの調整を緩めている事を気付かれ、出発前にアギラに手を加えられていた事は知っていた。そして憎悪を利用する事でより連邦に強い敵意を向けさせるようにとビアンが死んで、ビアンの遺産を連邦が好き勝手使っていると認識させると言っていたが、それが完全に裏目に出ていた。

 

「せ、セロ博士……ビアン総帥は亡くなられたんですよね? そうですよね?」

 

「……ビアン博士は現在行方不明ではある。僕達はビアン博士を探しているんだ」

 

「ビアン総帥は……生きてるんですか? で、でもアギラ博士は……」

 

「行方が判らないから死んでいるかもしれないって言っただけかもしれない、それにラトゥーニだって死んでいるのを見たわけじゃないんだろ? じゃあきっと彼女も生きている」

 

「生きてる……ラトが……あの時、ビルトファルケンと一緒にラトも連れて帰ってあげれば……」

 

死んだような顔色をしていたゼオラの頬に僅かに朱が指した事にクエルボは小さく安堵の溜め息を吐いた。その場しのぎだが、ビアンが生きていると言うのと、ラトゥーニが生きていると言う事を繋げる事が出来た事でゼオラの中で整理がついたようだ。

 

「自分で悩んでいるくらいなら、僕に相談してくれたら良かったんだよアラドはこの事を知っているのかい?」

 

「い、いえ、アラドにも話していません……すいません。なんて言えば良いのか判らなくて……」

 

(アラドに依存している訳ではないか、こっちもアギラ博士か)

 

アラドとゼオラはペアでの行動を前提にしている。自分には話してなくても、アラドには話をしていたかもしれないと思っていたのだが、アラドにも話をしていないと聞いて今までのゼオラとは余りにも違うと感じ、クエルボは顔を顰めた。

 

「そうだ、博士。お願いです、博士。この事をオウカ姉様に伝えて下さい。ラトを一番可愛がっていた姉様が来てくれれば、きっとあの子も……私達についてくると思うんです」

 

オウカの名前を出したゼオラ。クエルボも本来ならば、それが名案だと思うのだが今アギラに調整されているオウカがラトゥーニに反応するかどうかがクエルボには不安要素だった。

 

「博士? 駄目なんでしょうか?」

 

「いや、良いよ。ラトゥーニの事は僕からオウカに伝えておくよ、とにかく、今は体調を整えることに専念するんだ。後はアラドはパートナーなんだから、自分で抱え込みすぎないで相談するんだよ?」

 

「……はい、判りました」

 

ゼオラの頭を撫でてクエルボがゼオラの私室を出た所で足を止めた。

 

「アラド。どうしたんだい?」

 

「あ、セロ博士……あのさ、俺気になる事があるんだけど……ビアン総帥って生きてるのか? ユウキ少尉とかは生きてるって言うんだけどさ」

 

「そうだね。正直僕も行方不明だからビアン総帥が生きているか、死んでいるかは判らないんだ」

 

「じゃあ生きてるかもしれない?」

 

「僕は生きていると思うよ。いつか合流出来ると良いね、さ、アラド。ゼオラのお見舞いに来たんだろ? 行くといい」

 

ゼオラの部屋の扉の前からどいて、アラドをゼオラの部屋に入れたクエルボは早足でゼオラの部屋の前から歩き出す。

 

(これは大きなチャンスなのかもしれない)

 

連邦では投薬もリマコンも既に利用されていない。ラトゥーニが自分の意志でPTの乗れるほどに回復していると考えれば、独断や偏見なく触れ合ってくれる人間がハガネにはいるという事になる。流石にゼオラ達に逃げろとは言えないが、もしも捕虜としてでも良いハガネに回収して貰えればとクエルボは願わずにはいられないのだった……。

 

 

 

 

 

ユウキからアーチボルドが中国に向かっていると言う情報を得たクロガネは東シナ海の海溝に潜みながら中国へと向かっていた。ちなみに独断出撃かつ、大暴れをして来た武蔵への説教は非常に長時間に渡り行われた。

 

『自分の立場というものを判っているのか? 武蔵君。君の優しい気持ちは良く判っているつもりだが、それとこれとは話は別だ』

 

エルザムは武蔵の性格を理解した上で、しかしそれでも独断専行は許されるものではないと怒った。

 

『馬鹿が、何故俺達が戻るのを待たなかった』

 

ラドラは余計な事は言わず、ストレートに馬鹿がと吐き捨てた。それがラドラなりの自分ひとりで何でも出来ると思うなというメッセージが込められているのに気づき、武蔵は凹んだ。

 

『……俺はなにも言わん』

 

そしてゼンガーは無言を貫いた。ゼンガーからすればアースクレイドルにソフィアが囚われているのを知っており、それを助けに行きたいが、それも出来ないと言うことで武蔵の気持ちは判るからこその無言だが、武蔵はそれを逆に勘繰り落ち着かなくなった。ちなみにゼンガーは武蔵とシャインが恋仲と勘違いしているのもある。

 

『もう少し頭を使え……ああ。無理だったな、ゲッターパイロットはその場の乗りで生きているような所もあるし、隼人がいなければストッパーすらいない暴走特急だ。物を考える事が出来なかったな。ああ、すまない。俺がもう少し見ているべきだったな』

 

イングラムのマシンガンの嫌味で武蔵は完全にグロッキーになっていたが、忘れてはいけないのはイングラムも武蔵とそう大差が無いという点だ。

 

『罰則として整備兵の手伝いと食堂の洗い物の手伝い2週間という所が落とし所だが、異論は?』

 

『ありません……』

 

そしてカーウァイによる罰則の発表で武蔵への説教は終わったが、罰則が発表されるまで5時間近く掛かっていたりしていて、武蔵のメンタルがボコボコにされていたのは言うまでも無い。

 

 

 

「ユウキからの報告でLTR機構の採掘現場を襲うという情報を得た。あの場所にはゲッターロボの情報もあるから下手に破壊等をされたくない。ラドラ、頼めるかね?」

 

「良いだろう。俺も身体が鈍っている、中国は任せてもらおう」

 

武蔵ではLTR機構のアンザイ博士が何としても武蔵を捕まえようとするだろうからゲッターロボでの出撃は今回は見送り。イングラムとカーウァイはハガネとシロガネが動いているので自分達がクロガネと行動を共にしていると思われては困るので、これまた見送りである。

 

「む、ビアン博士。エルザムも出撃すると聞いていたのだが……」

 

「ああ、エルザムは正体がばれてはいけないから変装すると言っていたな。実に素晴らしいアイデアだと思う」

 

輝く笑顔のビアンにイングラム達は額に手を当てて、天を仰いだ。何故ビアンは優秀なのにそういう事になると途端にIQが下がるのか……頭の良さが完全に裏目に出ている。

 

「完璧な変装だと思うのだが、どうだろうか?」

 

そしてそんな時に自信満々のエルザムがブリーフィングルームに入ってくるのだが、ファー付きのジャケットとサングラスで変装と言い切るエルザムにブリーフィングルームに嫌な沈黙が広がった。

 

「エルザム……それは「ゼンガー、この姿の時はレーツェル……レーツェル・ファインシュメッカーと呼んでくれ」れ、レーツェル?」

 

偽名まで考えてノリノリのエルザム……いや、レーツェルにビアンは手を叩き、武蔵も満面の笑みを浮かべた。

 

「素晴らしい、とても良い変装だ。エルザム……いや、レーツェル」

 

「エルザムさん……いや、レーツェルさん、マジ渋いっすよ」

 

信じられない物を見るような目を向けられるが武蔵達はそれに気付かず、エルザムの変装を褒め称えていた。

 

「武蔵君、君が着れそうなジャケットがあるのだがどうだろうか?」

 

「ええ、良いんですか!? 貰います!」

 

止めろと全員が思ったが、とうの武蔵とエルザムがノリノリなので誰も止める事が出来ないでいた。

 

「んん、その素晴らしいセンスの服は今はおいておいてだ。ハガネにシャドウミラーの構成員らしいものがいるのは問題だ」

 

素晴らしい服と褒め讃えている事にも問題があるが、武蔵がリクセントで見たアンジュルグも大きな問題となっていた。

 

「下手に撃墜すれば、俺達の立ち位置が悪くないか」

 

「そうですね、ちょっと見ただけですけど、かなり馴染んでいる様子でしたし……スパイだと訴えても……」

 

「証拠がない……か」

 

映像記録では連携も完璧に近かった。それを考えると下手に言うと武蔵やイングラムを語り、輪を乱そうとしていると感じられると困る。怪しくはあるが、エキドナと同じ様に記憶喪失の可能性もあるため。今の段階ではアンジュルグのパイロットに関しては様子見せざるをえないと言う結論になった。

 

「武蔵君、ユーリアのヴァルキリオンを2人乗りに改造している。今回はゲッターを使わずに様子を見てきてくれ」

 

「了解です! レーツェルさん、ラドラそれじゃあ行きましょうか」

 

「ああ、では大佐行ってきます」

 

「ゼンガー、クロガネは頼むぞ。大佐、行って参ります」

 

カーウァイに敬礼し出て行くラドラとレーツェル、その後を武蔵がついてブリーフィングルームを出て行った。

 

「さて、では私達は会議を続けよう。百鬼帝国、そしてアースクレイドルに関してだ」

 

そう告げてブリーフィングを始めるビアンにはさっきまでのエルザムの変装を褒めていた面影は何処にも無く、人知れず地球を守っている男の顔になっており、イングラム達も真剣な表情をしこれからクロガネがどう動くべきなのか、百鬼帝国の脅威をどうやって伝えるのか? そして今もなお姿を見せないシャドウミラーの事を話し合い始める。

 

「バン大佐が意識を取り戻してくれれば話は早いのですが……」

 

「そうも言ってられないのだよ、ゼンガー。バン大佐の傷は想像以上に深かった、それこそバン大佐でなければ死んでいてもおかしく無いだろう。今私達に出来るのはバン大佐が持ち帰ってくれた手がかり……イスルギ重工とシャドウミラーが繋がっていると言う確証を得ることだ」

 

バンはイスルギ重工の偵察で重傷を負った。その事からイスルギ重工とシャドウミラーが繋がっている事は間違いないが、証拠もなしに攻め込む訳には行かない。今は周辺偵察などを行い、事実確認を続けるしかないのだ……。

 

「アースクレイドルの事が心配なのは判る。だが今は耐える時なのだ、ゼンガー」

 

「……承知」

 

ゼンガーがアースクレイドルの責任者である、ソフィア・ネート博士と恋仲であると言うのはビアンも知っていた。だが天然の要塞であるアースクレイドルに今の戦力で攻め込むのは自殺行為に等しい……今ビアン達に出来る事は身を潜め、そして脅威へと備える事。そして地球へと迫る危機を振り払う剣を作り上げる事なのだ。今は姿を見せる事は無くとも、ビアン達もまた地球を守る為に戦っているのだから……。

 

 

 

第21話 古の呪歌 その2へ続く

 

 




アンザイ博士は次回の最初の方に入れて、戦闘開始とアインストの出現までを書いて行こうと思います。本当はこの話でアンザイ博士を出して行こうと思ったんですけど、ここで入れると変な風にきってしまうので、ここで終わることにしました。原作とは違う展開を違和感無く入れて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。