進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第21話 古の呪歌 その2

第21話 古の呪歌 その2

 

リクセント公国を出て伊豆基地へ向かうハガネとシロガネの2隻のスペースノア級。その2つのブリーフィングルームでは百鬼獣と戦闘中に出現した3体の謎のPTと特機についての分析が行われていた。

 

「ラトゥーニ少尉と分析した結果だが、ゲシュペンスト・タイプSに関しては98.7%カーウァイ大佐の戦闘データ及びモーションデータと合致している。10%ほどの差異は恐らく改良された結果による重量などの変化によっての差異と見て間違いない、あの機体のパイロットはカーウァイ大佐と断言出来る」

 

「……やはり……か」

 

同じ教導隊メンバーとして、カーウァイを慕い、そして鍛え上げられたギリアムも認めたことで、カイは自分の思い過ごしでは無いと言う事が判ったが、それを上回る謎が残された。

 

『カーウァイ・ラウ大佐はエアロゲイターによって改造を施され、殉職なされたと報告が上がっている。それでもなお、少佐達はタイプSのパイロットがカーウァイ大佐だというのか?』

 

「ええ。間違いないですリー中佐……何故亡くなられた筈のカーウァイ大佐が生きているのか……その謎はゲッター線。それが握っているでしょう」

 

ゲシュペンスト・タイプSは非常に強力なゲッター線反応を残してその場から消えている。ビームライフル、ビームソードもゲッター線反応を残している事から動力がゲッター炉心に置き換えられていると考えて間違いない。

 

「もしかしてギリアム少佐って、武蔵と同じでカーウァイ大佐が過去へ跳んだって考えてます?」

 

エクセレンがおずおずと手を上げて尋ねる。現に武蔵は過去から新西暦へ来た、その逆もありえない話ではない。

 

「俺はそう考えている。そしてそれはR-SWORDの存在が証拠と言っても良いだろう」

 

「……イングラム少佐しか設計図を知らないからですか?」

 

「その通りだキョウスケ中尉。半年の間捜索しても見つからなかったゲッターロボの残骸……メテオ3との戦いで再び過去、旧西暦へ跳んだと考えてもありえない話ではない」

 

オカルト、そして余りにもSF染みた話だがブリーフィングに参加しているリーを除く、全員がギリアムの話が限りなく真実に近いと感じていた。

 

『頭が痛くなってきた……そんなことがありえるのか?』

 

『リー、俺は喋る猫を見たぞ』

 

『喋る猫だとッ!? そんなオカルト染みた事まで起きていたのかッ!?』

 

『ああ、後でデータを見せてやるよ。うん……自分の常識が崩れ去る瞬間って言うのを多分感じると思う』

 

テツヤが話しているのは恐らくサイバスターのパイロット。「マサキ・アンドー」と「シロ」と「クロ」の話だろう。あれを見れば、いかに自分の常識が偏った物かリーも思い知る事になる筈だ。

 

「R-SWORDはイングラムしか図面を知らない機体だわ。つまりあれが存在していると言う事はイングラムも生きている可能性が高い」

 

「そこに付け加えると、R-SWORDの戦闘とモーションデータは99.2%。イングラム少佐の物と合致している」

 

イングラムしか知らない機体の図面とほぼ100%のモーションデータの合致……それは誰が聞いてもイングラムの生存に繋がる。そして……リクセント公国で現れたゲッターロボ。

 

「武蔵もイングラム少佐も生きているなら何故、俺達の前に姿を見せてくれないのですか? 何か理由があるのでしょうか?」

 

ブリットがそう口にした。確かにL5戦役では武蔵とイングラムにすべてを押し付けた形になった、だから自分達に会いたくないと考えているのか、それとも合流したくとも出来ない理由があるのか? とブリットは口にした。

 

「こうして助けに来てくれたことを考えると恨まれていると言う線はないな」

 

「と言うか、武蔵が人をあんまり恨むって言うのが想像出来ない。少佐ならまだしもな」

 

「いや、それは言いすぎ……じゃないかもしれないわね。うちのキョウスケと同じくらい鉄面皮だから」

 

「おい、エクセレン」

 

「やだ、聞こえてた? キョウスケったら地獄耳♪」

 

何故武蔵とイングラムがハガネとシロガネに合流しないのかと言う話でエクセレン達がそれぞれの意見を口にしている中。ラミアは腕を組んで、その話に耳を傾けていた。

 

(合流しないのは恐らく私のせいだろうな……)

 

ラミア自身と武蔵、イングラム、カーウァイの3人は直接的な面識は無い、ラミアは3人の容姿と名前を知っているが、向こうはラミアの事を知らないだろう……しかしアンジュルグの存在は知っている。ハガネとシロガネにシャドウミラーの構成員がいる可能性を考えて合流しないと決断したのだろうとラミアが考えているとギリアムの手を叩く音が響いた。

 

「それに関しては俺とダイテツ中佐、リー中佐の中である可能性があると結論付けた。ハワイ、リクセントで現れた異形の特機……百鬼獣に関してだ」

 

「それはそう呼称するという事でしょうか?」

 

「いいや違う。百鬼獣の存在とはかつて……そう、武蔵が恐竜帝国と戦った後の時代に地球に存在した集団の戦闘兵器。そして、その集団の名前は「百鬼帝国」……そして更に付け加えて言うと……その目的は「世界征服」だ」

 

「ギリアム少佐、冗談……え? マジ?」

 

「大マジだ。失われた時代よりも前の話だからしっかりと文献も残っている。お前達は余り良い思い出はないかもしれないが……ゲッターロボGが百鬼獣と戦い、地球を守っている。その尖兵が百鬼獣――文献に残されている絵と完全に合致している」

 

「つまり、武蔵達は、その百鬼帝国とやらを探して、俺達と合流していない?」

 

「その可能性は……なんだ!?」

 

突如鳴り響いた警報にギリアムが声を上げるとすぐに館内放送が入った。

 

『現在中国のLTR機構の採掘現場が襲撃を受けている! 救難信号に基づき進路を変更! ハガネとシロガネは中国へ向かうッ!』

 

「採掘現場……いかんッ!!!」

 

採掘現場と聞いてギリアムがブリーフィングルームから飛び出す。

 

「ギリアムどうした!?」

 

「中国の採掘現場でゲッターロボに関する記述が見つかっている! 恐らくそこに、百鬼帝国の資料も眠っている可能性があるッ! それを失う訳にはいかんッ!! 俺が先行するッ!」

 

情報部であり、正式なハガネとシロガネのクルーではないギリアムだからこそ、独断で出撃出来る。

 

「ちいっ! キョウスケ戦闘班の指揮はお前に任せるッ!」

 

「了解ッ! すぐに出撃準備を整えます!」

 

ギリアムを1人で行かせるわけには行かないとカイはキョウスケに指揮権を依託し、ギリアムの後を追ってブリーフィングルームを飛び出して行き、その後を追ってハガネとシロガネも最大戦速で中国へと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

中国蚩尤塚の採掘現場を取り囲むリオン、アーマリオン、バレリオン、ランドグリーズの姿を見て採掘現場の主任であり、LTR機構の博士である「エリ・アンザイ」はその整った顔を驚愕に歪めた。

 

「どうして……やっと採掘が軌道に乗った所なのにッ!」

 

今回の採掘は古代中国に存在したと言う「超機人」それの採掘作業だった。旧西暦に存在したと言うゲッターロボ関連の石碑や、埋蔵物を発掘している最中にエリの元にも現れた武蔵。その姿を追いかけていくと、今まで見たことの無い区画を発見し、そこに巨大な「何か」が埋まっていることが判明。長い時間を掛けてやっと採掘に乗り出した所だったからこそ、その怒りは凄まじいものだった。

 

「アンザイ博士、すぐに避難して下さいッ!!」

 

「避難って何処に避難するの?」

 

避難しろといったスタッフにエリはそう尋ねる。蚩尤塚は一際高い山の上にある遺跡であり、ここに来るまでには遺跡を傷つけないように設置したエレベーターで昇ってくる。周囲をAMに囲まれている段階で逃げ道なんて何処にもなかった。

 

「し、しかし、このまま遺跡の中にいれば崩落の可能性がありますよッ!?」

 

「外に出て人質にされるくらいなら、この遺跡の中にいたほうが安全だわ。ここの遺跡の材質は非常に強固よ、外に避難しているスタッフを全員遺跡の内部へッ! 良い、遺跡に避難する前に国際救難信号を発信して! 運が良ければ何処かの連邦軍兵士が助けに来てくれるかもしれないわ!」

 

「わ、判りました! すぐに準備を整えます!」

 

下手に避難して人質にされるくらいならば、入り組んでいてそう簡単には進入出来ない蚩尤塚に篭城する事をエリは選択した。

 

「無謀って思うかしら?」

 

「いや、良い判断だと思うぞ。最近噂になっているテロリストも蚩尤塚の材質までも知らないだろうからな、目に物見せてやるわいッ!」

 

マイペースに採掘作業を続ける老人はカカカっと楽しそうに笑う。

 

「未知の合金……いいえ、ゲッター合金で出来ているんですよね?」

 

「恐らくですがね、下手なシェルターよりもよっぽど頑丈じゃよ、ああ、出来る事なら防衛用のミサイルでも組みつけておくべきじゃったのう……」

 

「そんな事をしたら遺跡発掘になりませんよ。シキシマ博士」

 

「かかかかかッ! じゃろうなあッ! エリよ、ワシは知りたいんじゃ。かつてご先祖様が手にしたゲッター線が、ゲッターロボが知りたい。だからLTR機構に来たんじゃ」

 

その目に狂気的な光を宿し、幾つも歯が抜けている口で楽しそうに笑う老人の名は「シキシマ」と言った。若い時は失われた時代を研究し、連邦によって投獄され、ゲッターロボが地球を救った事で狂人ではなく、博士として認められLTR機構に送られてきた老研究者だった。

 

「名前は思い出せた?」

 

「いいや、別に名等どうでもいい、ワシは知りたいんじゃ……ゲッター線が、ゲッターロボがッ! ああ、知りたい知りたいッ! この地で見つかったゲッターロボの石碑……あれは素晴らしいものじゃった」

 

エリの話もシキシマの耳には届かない。シキシマにとってはゲッターロボの謎を解明する……それだけがシキシマの原動力であり、そして生きる活力だった。シキシマと言うのも、遠い先祖にあやかって名乗っているだけで本当の名前は別にあるのだ。だが、本人はその名前を忘れており、そしてデータベースにもその名前はない。こうして目の前にいるが、記録上は存在しない男……それがシキシマ博士だった。

 

「ここにいるのは最後の超機人かもしれないわよ?」

 

「カカカカカッ!! それならそれで良しッ! 超機人の眠る場所にゲッター線あり! ワシは死ぬまでにゲッター線を、ゲッターロボをこの目で見るんじゃあッ!!!」

 

外で派手な爆発が起きていても、そんな事に気もくれず。発掘機を動かし続けるシキシマ博士の背中を見ながら、エリは思わず親指の爪をかんでいた。

 

(私の父の説……20世紀初頭に超機人が姿を現していたという説が本当だとしたら……超機人やゲッターロボに関する資料……神話や伝承以上に詳しいものが他に存在していてもおかしくない……だけど……まさかスパイがいる?)

 

今まで何の音沙汰もなかったのに、採掘が安定し始めた瞬間に現れたテロリスト……数日前にスポンサーに採掘が安定しそうと報告をしたが襲撃までのスパンが余りにも短すぎる。外から響く爆発音や避難して来るスタッフの悲鳴を聞きながらLTR機構内部か、スポンサーにスパイがいるかもしれないという可能性がエリの脳裏を過ぎるのだった……。

 

 

 

 

 

蚩尤塚の採掘現場を制圧したが、採掘現場から超機人らしき影は愚か、それらしい痕跡も何も無い。

 

「今というタイミングで確認する必要はなかったのでは? ハガネとシロガネが近づいているという情報もあります。早い段階で撤退するべきではないでしょうか?」

 

今何も無いのならば制圧を続け、ハガネとシロガネと事を構える必要はないのでは? とユウキがアーチボルドに進言する。だがアーチボルドは意見を変える事はなかった……。

 

「見つかってからでは遅いんです。動き出す前の超機人を押さえないと面倒なんですよ、採掘チームが見つけれ無いと言うのならば、僕達で発掘すればいい。簡単な話でしょう? ランドグリーズのような大型機を持ち出した意味を判っていますか?」

 

「……了解です」

 

アーチボルドの性格から言って、ユウキの進言で意見を変える事は無いと判っていた。少しでも時間を稼げれば程度に思っていたのだが、無駄に終わった事にユウキは小さく溜め息を吐いた。

 

(気分が悪い……最悪の気分だ)

 

武器を持たない民間人をAMで取り囲んでいると言うのもあるが、口では上手く説明出来ない嫌悪感のような物がさっきからユウキに付き纏っていた。

 

「……ねえ、ユウ。何か変な感じがしない?」

 

「どんなものだ?」

 

カーラが何を言いたいかと言う事は判っていたが、それをあえて指摘せず何を感じているのか? とカーラに逆に尋ねるユウキ。

 

「何か寒気みたいなの。地面の下から漂ってきてない?」

 

その言葉にユウキは眉を細めた。正式な検査を受けているわけでは無いが、ユウキもカーラも簡易的な念動力の検査では陽性と診断されている。つまりユウキとカーラにはリュウセイ達のような念動力の素質があると言うことだ、

 

「ゼオラ、アラド。お前達は何か感じるか?」

 

退路を確保する為に後衛に配置しているゼオラとアラドにも何かを感じるか? とユウキが問いかける。

 

「いえ、私は特には……ただ少し不気味な雰囲気だと……」

 

「ゼオラ、お化けとか苦手だもんな」

 

「アラド! 今はそういう話をしてるじゃないわッ!!」

 

異様な雰囲気に呑まれていないと言う事に安堵するのと同時に、アラドとゼオラには念動力の素質がない、あるいはまだ覚醒していないと言う所かと思うのと同時に、クロガネからゼオラとアラドを保護する為にエルザム達が出撃したと言う報告を受けていたユウキは今度こそ、ゼオラとアラドがクロガネに保護される事を心から祈った。

 

「ユウはもしかして、怖いからアラド達に話を振ったの?」

 

「そう言う訳ではない。俺も妙な気配は感じていた、こういう時の直感は侮れないからな、意見を聞きたいと思っただけだ」

 

からかうような口調のカーラに違うと断言し、アーマリオンやバレリオンが蚩尤塚を完全に包囲したのを確認してから、ユウキは改めてアーチボルドのランドグリーズに通信を繋げた。

 

「アーチボルド少佐、採掘班を捕えて採掘を続けさせるという事でよろしいでしょうか?」

 

「いえ、敵の追撃隊が現れる前に仕事を済ませましょうか」

 

「仕事? 少佐、貴方は何をするつもりですか?」

 

尋ねるというていを取りながらも、アーチボルドの口調に怪しい物を感じて、ユウキは顔を歪めた。アーチボルドは生粋のテロリスト……そんな男が何をしでかそうとしているかが容易に想像出来たからだ。

 

「さ、ユウキ君、カーラ君、アラド、ゼオラ。お仕事ですよ、ランドグリーズのリニアカノンで一気に土砂を吹き飛ばしますよ」

 

ちょっとそこまで買い物に行って来て下さいと言いたげな口調で遺跡に攻撃を仕掛けろとアーチボルドは口にした。

 

「い、遺跡ごとですか!? あ、あそこには民間人がいるのでは!?」

 

「ええ。そうですよ? でも僕達に必要なのは超機人だけですし、あれはそう簡単に壊れる物ではありませんからね。さ、ゼオラ、その狙撃の腕でどどーんっと吹き飛ばしてください」

 

民間人もろとも撃てと命令され、ゼオラは勿論、ユウキやカーラも嫌悪を露にする。

 

「しょ、少佐待ってくれよ! 少佐はゼオラに人を殺せって言うのかよ!」

 

「アラド、何を言っているんですか? 僕達は戦争をしているんです。それとも何ですか? 君は戦争をしておきながら人を殺したくないと? ああ、いい機会です。君も撃ちなさい、人を殺す経験をしておけばいざ殺す時に躊躇わずに殺せます。だから撃ちなさい、命令です」

 

上官命令で撃てとアラドとゼオラに命じるアーチボルドにカーラが噛み付いた。

 

「ちょっと待ちなよ! 相手は民間人だよ!?」

 

「カーラ君も何を今さら。僕達は戦争をやってるんですよ? 貴女だって人を殺しているでしょう? 何を善人ぶっているのですか?」

 

「ッで、でもッ! 相手は非武装なのにッ!」

 

確かにカーラだって人を殺している。だがそれは、PTや兵器に乗り込み自分を殺そうとした相手に対してだ。非武装の人間を攻撃するなんて非道な事はした事がないと声を荒げる。

 

「そんな事は僕には関係ありませんね、ほらほら、追撃部隊が来るかもしれないんですから早く撃ってください」

 

ぱんぱんっと手を叩き撃てと命令するアーチボルド。ゼオラのランドグリーズと、アラドのリオンからは荒い呼吸の音が聞こえてくる。兵士として命令に従うべきなのか、それとも、命令に逆らい民間人を撃たずに命令違反として裁かれるのか……その極度の緊張による呼吸困難であると言う事は明白だった。

 

「少佐、ここは彼らに退去勧告を出せば済むことだと思います。まもなく現れる敵を迎撃するためにも、弾薬は節約するべきでは?」

 

「なるほど。ユウキ君、君は無駄な血を流したくないと? 戦争をしているのに?」

 

「少なくとも、今という状況では無意味です。弾薬を消費し、必要ない所で劣勢になる必要はありません」

 

「そうですか。でも、僕は無駄な血を流すのが好きなんですよ。特に民間人のね」

 

ランドグリーズのリニアカノンが蚩尤塚に向けられ、今正に放たれると言った瞬間。上空から放たれた熱線がリニアカノンの砲塔を貫いた。

 

「ぐ、ぐうっ!? ど、どこからッ!?」

 

レーダーの範囲外から撃たれた事に困惑するアーチボルドの前に雲を切り裂いて、2機のPTが立ち塞がった。

 

『非武装の民間人を狙うとは恥を知れッ!!』

 

『貴様のような人間がいるから無駄に騒乱が広がる! 貴様のような人間を俺は決して許さんッ!』

 

緑と黒のフライトユニットを装備したゲシュペンスト……いや、ゲシュペンスト・リバイブの登場にアーチボルドは舌打ちした。

 

「元教導隊ですか……いやはや、主武装を潰されて相手をするには厳しい相手ですねえ……ユウキ君。悪いですが殿を頼みますよ、僕は離脱しますからねぇ……」

 

必要のない騒乱を巻き起こしておいて、被弾したら即座に逃げる。そのアーチボルドの汚い戦略にユウキは舌打ちをしたが、この場の最高責任者として指揮権を得た事には感謝していた。

 

「カルチェラタン1から各機へ、採掘場への包囲網の展開を解除、フォーメーションを組み撤退準備。必要以上に戦闘しようと思うな、全員機体の損傷を軽微にし、撤退することを最優先としろ」

 

「……良いの、ユウ」

 

「責任は俺が全て取る。だからお前達は気にするな、カルチェラタン7、8は後方待機。撤退する為の退路を確保せよ」

 

『ユウキ少尉!? わ、私達は戦えます!』

 

『どうして俺達が後方待機なんですか!?』

 

命令違反をした分戦闘で挽回しようと考えていたアラドとゼオラがユウキに通信を繋げるが、ユウキは冷静に2人に返事を返した。

 

「敵は教導隊の2人だけではない、見ろ。ハガネとシロガネだ」

 

『『!?』』

 

展開した部隊と向き合うように出現した2機のスペースノア級とPT隊。数も戦力も圧倒的にユウキ達が不利だった……。

 

「判ったな、これは撤退戦だ。俺達の退路を……待て、カルチェラタン7! ゼオラッ! 命令に従えッ!」

 

通信をきったままでハガネとシロガネに向かってランドグリーズを走らせる。

 

『ゼオラッ! ユウキ少尉! 俺がフォローしますッ!』

 

「ちょっアラド! ああっもう! ごめん、ユウ。アラドとゼオラのフォローに入るよッ!!」

 

ユウキの考えた陣はゼオラの暴走によって一瞬で崩れた。しかし、ユウキにとってこれは好都合だった。ゼオラとアラドをクロガネに保護させる……そう考えると今のこの命令系統の混乱はクロガネからの救援隊が割り込むには最高の状態だった。

 

「しかたない、各機。臨機応変に対応し、離脱せよッ!」

 

ユウキもそう命令を下し、カーラの後を追ってランドグリーズを走らせるのだった……。

 

 

 

 

 

 

採掘現場に辿り着いたギリアムとカイだが、目の前の光景を見て怪訝そうな顔を隠す事が出来ないでいた。採掘現場に砲撃を叩き込もうとしていた見慣れない砲撃機のキャノン砲を破壊すると、その機体は一目散に撤退し、残された機体もフォーメーションを組むもの、混乱している素振りを見せる物と非常に不安定な様子になった。

 

「命令系統の混乱……いや、指揮官の現場放棄か」

 

『それならばまだ救いはある』

 

採掘現場を取り囲んでいたAMは既に無く、撤退の準備をしているのを見て皆が皆非武装の研究員を攻撃しようとしていたのではないと判りカイとギリアムは安堵した。

 

「ハガネとシロガネも来たな。後はテロリストを制圧するだけだな、ギリアム」

 

『ああ、俺の勇み足になったようですまないな』

 

「何、気にする事はない、それに先行したから被害を抑えれたと思えば悪くはない」

 

シロガネとハガネから出撃するPT隊を見ながら、ギリアムとカイは同時にゲシュペンスト・リバイブを走らせ、テロリストの機体へと攻撃を仕掛けるのだった。

 

「なんだ、陣形がぐちゃぐちゃだ……」

 

「何があったのか、それともギリアム少佐達が指揮官機を落としたのかは判らないが、チャンスだな」

 

敵の数は多いが、明らかにパイロットに動揺が走っている。今ならばテロリストの機体を鹵獲し、情報を得ることも可能と考え、ライは好機だと判断した。

 

「各機散開! テロリストの制圧を行う! 戦況開始ッ!」

 

キョウスケの号令によってハガネのPT達がAMに向かって動き出す。だがヴァイスリッターだけがアルトアイゼンの上空に滞空したままだった。

 

「エクセレン、どうした?」

 

『あ、キョウスケ……ごめん、あのさ……なんか変な感じがしない? 凄く嫌な感じがするの』

 

いつもの明るい口調ではなく、酷く暗い声で尋ねて来るエクセレンにキョウスケは眉を顰めた。

 

「陣形の混乱は罠だというのか?」

 

『ううん、そういうのじゃなくて……上手く説明出来ないけど、何か起きそうな……そんな気がするの』

 

抽象的で要領を得ないエクセレンの言葉、だがエクセレンが普段そう言う事を言わないこともあり、キョウスケもこの場に何があると悟った。

 

「アサルト1から各機へ、この陣形の乱れは罠の可能性がある。各員警戒を緩めず戦闘を続行せよ」

 

エクセレンが嫌な予感を感じていると言う抽象的な事を言う事は出来ず、罠の可能性があるとだけ告げるキョウスケ。

 

「これで良いか?」

 

『……うん、ごめん。行きましょう』

 

普段のお茶らけた口調ではなく、深刻な口調のエクセレンに蚩尤塚には何かあるとキョウスケも感じ、普段はエクセレンにバックアップを受けるキョウスケだが、今日はキョウスケがエクセレンのバックアップを行いながら戦闘に参戦するのだった。

 

「くっ!? あの機体思ったより厄介だぞッ!?」

 

「ブリット、無理に突っ込むんじゃねぇッ!」

 

カーラの乗るランドグリーズの放つファランクスミサイルの雨によってゲシュペンスト・MK-Ⅲとアルブレードの足が止まっている間に、ゼオラのランドグリーズが2機の間を抜けて、ラトゥー二のヒュッケバイン・MK-Ⅲへと向かう。

 

「ラトゥー二ッ! ブリット、ここは任せるぜッ!!」

 

質量のあるランドグリーズがヒュッケバインMK-Ⅲに向かうのを見て、即座に反転しラトゥー二の支援に入るアルブレード。

 

「リュウセイがすまない」

 

「いや、大丈夫だよ。ライ、それよりも……この機体何なんだ」

 

重厚な砲撃戦特化の機体。こんな機体なんて見たことがないと困惑するブリット。

 

「ぬうんッ!!!」

 

「くっ、流石教導隊……と言ったところかッ!?」

 

ゲシュペンスト・リバイブ(K)の豪腕の直撃を受けても大破しない強固な装甲、そして支援機として完成しているその機体性能の高さ……それらはヴィレッタ達に何故と言う困惑を与えていた。

 

(地球製の機体であることに間違いはない……DCで開発されていたものか?)

 

(ラーズアングリフに似ている……テロリストがこれを運用していると言う事はシャドウミラーと結託しているのか?)

 

見た事がない機体ではあるが、それでも技術的には地球の機体だと分析するヴィレッタ。そしてギリアムにはあちら側にいた時に開発されていたラーズアングリフに似ていると思わせ、テロリストとシャドウミラーが協力体制にあることを感じさせていた。

 

「くっ! 超闘士グルンガストなんてあたしじゃ相手しきれないよッ!?」

 

「陸戦型の機体か。ちと時代遅れだが、調べさせてもらうぜ」

 

強固な装甲を持つランドグリーズ相手ではゲシュペンスト・MKーⅢでは分が悪いと判断したイルムがカーラの前に立ち、カーラは超闘士と名高いグルンガストが自分の相手なんて冗談でしょっと悲鳴を上げた。

 

「ブーストナックルッ!!」

 

「わわッ!! つつっう……ッ!?」

 

力強く踏み込まれると同時に放たれたグルンガストの鉄拳がランドグリーズの肩部を捉え、肩部の装甲ごとマトリクスミサイルの発射口を押し潰す。

 

「マ、マトリクスミサイルがッ!?」

 

「悪いな、撤退しようとしているのはわかってるが……その機体はいただくぜッ!!」

 

撤退や弾幕を展開するのに使っているマトリクスミサイルを優先的に潰し、ランドグリーズに隣接しようとしたグルンガストだが、その足を急に止めた。

 

「ひゅー、とんでもねえ無茶をするな」

 

ランドグリーズが飛び上がり、空中で強引に射角を確保し、グルンガスト目掛けリニアカノンを打ち込んだ。それに気付いたイルムは咄嗟に足を止めたが、そうでなければ肩部ごと粉砕されていただろう。

 

「援護するッ!」

 

「はいはーい、行くわよーッ!」

 

R-GUNのメガビームライフルとヴァイスリッターのオクスタンランチャーのEモードが放たれるが、ランドグリーズの装甲を前に弾かれ霧散する。

 

「ビームコートかッ!」

 

「ただのビームコートじゃない、桁外れに強力なビームコートだッ!」

 

メガビームライフルが弾かれるのは判る。だが、ヴァイスリッターのオクスタンランチャーまでも弾くとなるとビームコート自身の性能が桁並外れて高い事が容易に判る。

 

「ご、ごめん。ユウ」

 

「いや、相手が悪い。なんとか後退するぞ」

 

ホバーで後退しながらM-13を乱射するランドグリーズだが、グルンガストもゲシュペンスト・リバイブKもM-13ショットガンの弾雨なんで関係ないと言わんばかりに距離を詰め続ける。

 

「その動き……ゼオラッ!」

 

「ラト見つけたッ!」

 

ランドグリーズの装甲を頼りにし、ヒュッケバインMK-Ⅲへの突貫をやめないランドグリーズ。

 

「なんて無茶をッ!?」

 

「ラト! 貴女は連邦なんかにいたら駄目ッ!! こっちに来るのよ! 私とアラドが貴女を守ってあげるんだからッ!!」

 

被弾なんてお構いなしに両腕を伸ばしてヒュッケバイン・MK-Ⅲを捕えようとするランドグリーズ。

 

「な、なんだあいつ!? ラトゥーニに何か恨みでもあるのか!?」

 

「ちッ! 狙いはヒュッケバインの鹵獲かッ! 手の開いている者はラトゥーニの支援に入れッ!!」

 

ランドグリーズは確かに強い、だが僚機であるアーマリオンやバレリオンはそこまで強い機体ではない、数を的確に減らし、支援に入れと言うキョウスケの命令にラミアは少し逡巡してからファントムアローを構えた。

 

(あの機体からは通信などがない、だからWシリーズではない。ならば倒しても問題はない)

 

『ラミアちゃん、悪いけど足を狙って頂戴、あそこまで無理に突っ込んできている機体だから鹵獲するにはいい位置だから』

 

「了解でありんすッ!」

 

『……それ本当に何処の言葉?』

 

多少の被弾もお構いなしにヒュッケバインMK-Ⅲに迫っていたランドグリーズだが、アンジュルグのファントムアローと、ヴァイスリッターのBモードをピンポイントで膝に当てられては自重を支えきれず、その巨体を地面に沈める。

 

「ラトッ!!! 今助けてあげるからッ!」

 

アーチボルドの命令にそむいた事、民間人を撃てと命令された事、そしてラトゥーニを殺したかもしれないという恐怖……それら複雑な思いが入り混じったゼオラは助けるといいつつ、リニアカノンの照準をヒュッケバインMK-Ⅲに向けた。

 

(機体を壊して、ラトゥー二を助けて離脱する)

 

今のゼオラにはリニアカノンの直撃を受ければ、ヒュッケバインMK-Ⅲごとラトゥーニを殺してしまう可能性などは欠片も思い浮かばず、自分のやろうとしている事が最善だと思っていた。

 

『ゼオラ!? 馬鹿ッ! そんなもんで撃ったら!?』

 

アラドもヒュッケバインMK-Ⅲの動きから、それにラトゥーニが乗っていると悟り、通信で止めに入ったがゼオラの指はリニアカノンの引き金を引いてしまっていた。

 

「あ……」

 

撃った後に我に帰ったゼオラ、リニアカノンの砲弾がコックピットに真っ直ぐ伸びている事に気づき、全身を震わせた。今度こそ、ラトゥーニを殺してしまうという事に今初めて気付いたのだ。だが命中する寸前にアルブレードの飛び蹴りが砲弾を捉え、右足を大破させるのと引き換えにヒュッケバインMK-Ⅲを庇った。

 

「ラトゥーニ、大丈夫か!?」

 

「リュウセイ!? なにやってるの!?」

 

「俺の事よりもお前だよッ! 大丈夫なのかッ!」

 

自分の機体を大破させてまでラトゥーニを庇ったリュウセイの姿はラミアとゼオラに強い衝撃を与えた。

 

(機体を大破させてまで……何故だ。機体が大破しては任務の遂行が出来ない……それなのに何故……そして何故、私は安堵しているんだ)

 

「わ、私……ま、またラトを……ああ、あああああああーーーッ!?!?」

 

ラミアは自分の存在意義と違う内容を理解出来ないのに、それが正しい事の様に思えて激しく混乱し、ゼオラは再びラトゥーニを殺しかけた事に気付いてパニック状態に陥っていた。

 

「ユウ! ゼオラがッ!」

 

「判ってる! だが、くっ……!?」

 

ゼオラがパニックに陥っているのはユウキとカーラはグルンガストやゲシュペンスト・リバイブに追われていて、とても救助など出来る状況ではない。

 

「今だ、あの機体を鹵獲する!」

 

「ゼオラ、今助けてあげるッ!」

 

ラトゥーニを殺しかけた事に茫然自失になっているゼオラのランドグリーズを鹵獲しようと、R-GUNとヒュッケバインMK-Ⅲが動き出した瞬間、R-GUN達とランドグリーズの間にアラドのリオンが割り込んだ。

 

『投降する! 俺もゼオラも投降するッ! だからこれ以上は攻撃しないでくれッ!!』

 

「……各機攻撃中止」

 

「アラ……ど……」

 

割り込むと同時に投降するから攻撃しないでくれとアラドが広域通信で叫んだ。まだ声変わりもしていないアラドの声にハガネのPT隊はその動きを止め、そしてゼオラは目の前にアラドがいると言う安心感で僅かに自我を取り戻しかけていた。

 

「あの子達……ユウ」

 

「……離脱するぞ、カーラ」

 

「……良いの?」

 

「離脱だ」

 

無理をすれば助ける事が出来なくもない、だが投降すると言ったアラドにアーチボルドの所にいるよりかは良いと判断したユウキはこの場から離脱することを選択した。

 

ハガネとハガネのPT隊は投降すると言ったアラドを前にし、動きを止めた。

 

ゼオラは崩壊しかけた自我がアラドが側にいると言うことで安定するのと同時に、アラドと一緒ならと思いその動きを止めた。

 

そしてユウキとカーラはアーチボルドの元にいるよりも、ハガネの方が良いと判断しアラドとゼオラの救出をやめた。

 

誰もがその時最善の選択をし、そして最悪の選択をしてしまった。

 

「これは空間転移だ! 警戒しろ!」

 

「え?」

 

ラミアの叫び声と同時に大地から現れた亀裂から伸びた鉤爪と触手がゼオラを庇って投降すると叫んでいたアラドのリオンを貫き、アラドが乗っていたリオンの姿は爆発の中へと消えていくのだった……。

 

 

 

 

 

第22話 古の呪歌 その3へ続く

 

 




約束は炎に消えてよりも早くアラド退場。ゼオラのメンタルを容赦なく抉っていく展開、ラトゥーニを恨むっていうのが嫌で、アインストにヘイトを向けようかなとか思ってこういう展開になりました。そしてやっぱり食通達が間に合わないのはご都合展開ですね、次回はアインスト戦と食通達の登場になります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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