進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第24話 騒乱の火種 その2

第24話 騒乱の火種 その2

 

クロガネも百鬼帝国に襲われていると言うレーツェルとラドラの言葉はダイテツ達に少なくない衝撃を与えていた。

 

「クロガネは大丈夫だったのか?」

 

「ええ、私達は私達で独自に戦力を生産していますし、ビアン博士の繋がりでゲシュペンスト・MK-ⅢもヒュッケバインMK-Ⅲも手にしていますから」

 

ゲシュペンスト・MK-ⅢとヒュッケバインMK-Ⅲを手に入れていると言う言葉にダイテツは驚いたが、良く考えればそれはありえない話ではない。表立ってビアンには協力していないが、レイカーもビアンとのつながりは太い。トライアウトの為に作られた試作型のゲシュペンスト・MK-ⅢとヒュッケバインMk-Ⅲを入手したのだろう。

 

『失礼だがレーツェル。貴方に聞きたいのだが、百鬼帝国を退けたのはゲッターロボの力を借りたのではないのかな?』

 

「ゲッターロボ。武蔵君の事ですね、私達も武蔵君の事を探していますが……どこかでそれらしいものを見たのでしょうか? リー中佐」

 

ダイテツはリーの言葉に内心しまったと感じていた。もう少し話の中で情報を集めたいと思っていたのだが、武蔵が生きていると言う確信が欲しかったのか、すぐにそう尋ねてしまったのだ。

 

「リクセント公国でボロボロのゲッターロボが確認されているのだが、何か知らないか?」

 

「いいえ、私達は何も、しかし……武蔵君が生きているのならば、リクセント周辺を探してみるのも良いかもしれないですね」

 

「貴重な情報に感謝しよう」

 

レーツェルとラドラの言葉が嘘なのか、真実なのか……長い艦長生活をしているダイテツから見ても2人が嘘を語っているのか、真実を語っているのかは判らなかった。

 

「しかし、ゲッターロボは見ていないですが、ゲシュペンスト・タイプSと黒い見慣れないPTならば目撃しましたが、そちらはどうでしょうか?」

 

「こちらもハワイで確認している。繰り返して聞くが、クロガネにゲシュペンスト・タイプSとゲッターロボは合流していないのだな?」

 

「合流していたら報告するでしょう? 貴方達だって武蔵君が死んだと思っていない筈だ。仮にダイテツ中佐が武蔵君が生きていると言う

証拠を手にして、武蔵君が生きていると判ったのならば、その喜びを分かち合いたいと思う筈だ。私達だってそれは同じですよ」

 

横目でギリアムとカイに視線を向けるが、2人でもレーツェルが真実を述べているか判らないのか首を左右に振る。

 

「判った。失礼な事を聞いて申し訳無い」

 

これ以上ゲッターロボと武蔵の事を聞いてもレーツェルもラドラも何も語らないだろう。真実であれ、虚偽であれ、これ以上ゲッターロボに関する話を聞こうとしても何の成果も無く時間だけが過ぎるのならばとダイテツは話を切り上げた。

 

「そちらが手にした百鬼帝国についての情報を知りたい」

 

「了解です。とは言え、私達もそこまで詳しい事を手にしている訳ではないのですが……百鬼帝国は「大帝」と呼ばれる1人を頂点にした

組織のようです。角の数が地位や名誉、そして階級を表すのです」

 

「角が階級を表す?」

 

「はい、百鬼獣も頭部の角があったでしょう? その角の数が強さと階級を現しているのです。雑兵は1つ、指揮官は3つといった風にです。また角の形状などでもある程度は変化するようですが、基本的に角の数が多い百鬼獣は他の百鬼獣よりも強いと見て間違いないでしょう」

 

角の数……そう言われるとリクセントに出現したパイロットが乗っていると思われる百鬼獣は四本の角で他の百鬼獣よりも立派な角をしていた事を思い出した。

 

「角で階級や権力を現すねえ……判りやすいのは良いけどさ、随分と子供染みているんじゃないか? それは確かな情報なのかレーツェルさん」

 

イルムがほんの少しの疑惑の色を瞳に映して問いかける。レーツェルが口を開こうとした時、それよりも早くギリアムが口を開いた。

 

「それに関しては俺も似たような情報を得ているから、信憑性は高いだろう。鬼の象徴と言えば角、強さと権力の証であると考えるのは当然の事だと思う」

 

鬼と言われれば、思い浮かぶのは言うまでもなく角だ。その大きさと数で強さや階級を示すというのは原始的だが、わかりやすい選別方法だろう。

 

「OK、判った。不躾なことを聞いて申し訳無い」

 

「いや、気になることは尋ねてくれて構わない。疑問は解決するべきだ」

 

疑問は解決するべきだと言うレーツェル。その為にここに来ているのだ、気になっていることは聞くべきだと促され、ブリットが手を上げた。

 

「ゼンガー隊長はお元気ですか?」

 

それは違うだろうっと言う視線が向けられるブリットだが、若干天然気質のブリットはそれに気付かない。

 

「元気にしている。修行と鍛錬に明け暮れているぞ」

 

「そうですか、ありがとうございます! 俺も頑張っていると伝えてくださいッ!」

 

レーツェルではなく、ラドラの返答にブリットはありがとうございますと返事を返した。だがレーツェルが聞くべきだと言ったのは、百鬼帝国の事であり、決してレーツェル達の陣営の話ではないという事を忘れてはいけない。

 

「こちらもある議員を1人保護している。その時にその議員と同じ顔をした鬼を目撃している」

 

「我々は姿を見てはいないが、シャイン・ハウゼン国家元首が自分と同じ顔をした存在を見ていると話を聞いている」

 

「それで判ると思うが、百鬼帝国の目的は上層部の入れ替えだろう。だがこの事を公にすることは出来ない」

 

指導者が鬼に入れ代わっているかもしれない。そんな事を言えば、まず正気を疑われ、次に疑心暗鬼に陥り人間社会が大混乱に陥る。

 

「だからビアンが警戒しろと言うのだな?」

 

「ええ、今1番利用しやすいのはビアン博士ですから」

 

DC戦争を起こし、そしてL5戦役では地球の為に戦い。そして現在は行方不明――百鬼帝国が隠れ蓑として使うのにビアンほどの適役はいない。

 

「ビアン・ゾルダークが再び決起したとなれば、燻っているDC残党は一気に息を吹き返す」

 

『しかし、ビアン博士のL5戦役の事を考えればそう簡単に乗ってこないのでは?』

 

L5戦役で地球を守る為に連邦と共に戦ったという経歴があるビアンが再び決起したと言っても、前回ほどのインパクトはないのでは? とリーは言うが、テツヤは違うと断言した。

 

「テロリストやアンノウンを使って、俺達の怠慢をアピールするという手がある」

 

『それはマッチポンプと言うことか』

 

百鬼帝国の鬼がビアンに扮し、百鬼帝国やテロリストの襲撃を受けている街を救う。そうなれば連邦の怠慢だけが目立つ形になり、ビアンの元で地球を守る為に再びDCに賛同する者は多くなるだろう。

 

「もしくは、地球連邦では地球守る事が出来ないと、今の地球が危ないのは連邦の杜撰な政策のせいだとすると言う手も考えられる」

 

「そのために政治家に成り代わっていると考えれば、辻褄は合う」

 

ビアンを正義の味方として立たせ連邦を批難させる。そして政治家は鬼が成り代わり国民を追い詰める政策を打つ……それらで連邦に対する信頼は一気に落ち込み、以前以上にDCに賛同するものが増えると言った展開が容易に想像出来た。そして成り代わりの事を知っていても、それを公言する事は出来ず疑心暗鬼に駆られる……何重にも張り巡らされた謀略がダイテツ達を囲んでいた。

 

「警戒を続けて欲しい。急に言動が変わった議員や軍上層部の人間の把握、それ位しか備える術はない」

 

『今度の戦いはL5戦役以上に厳しい戦いになるな』

 

仲間、味方と思っていた相手が敵が成り代わった存在かもしれない。親しい相手が殺され、全く別の化け物に入れ代わっているかもしれない……その恐怖は計り知れない物となるだろう。

 

「今私達に出来るのは上層部や指導者が全て鬼に入れ代わる前に、百鬼帝国の存在を立証する事……我々はまだ表舞台には立てません。だから確実に大丈夫だと信用出来るダイテツ中佐達にお願いしたい」

 

成り代わられること無く、地球を守るために戦い続けてくれると、ダイテツ達ならば大丈夫だと言う確信があってビアンはレーツェル達に百鬼帝国の目的を伝え、そしてそれをダイテツ達に伝えさせた。

 

「その期待と信頼に応えれるようにワシ達も頑張ろう」

 

「よろしくお願いします。また何か判れば伝えに来ます。ラドラ行こう、まだやらねばならない事がある」

 

「ああ、ではな、カイ、ギリアム。また会おう、今度はゆっくり酒を酌み交わせる時にでもな」

 

レーツェルとラドラは言いたい事を伝えるだけ伝え、すぐにハガネを後にした。

 

「旧西暦の悪意の存在、そして成り代わりか」

 

『正直我々だけでは荷が重いですね』

 

「弱音を言っている場合ではないぞ、リー中佐。我々が地球を守る剣であり、盾となるのだ。弱気にも不安を感じている時間など無い」

 

『ダイテツ中佐……はっ! 私も地球を守る為に全力を尽くしたいと思います!』

 

中国に現れた百邪と言う太古に存在した敵性存在、そして旧西暦に存在したと言う百鬼帝国の復活、台頭するテロリストの蛮行……そして今まで見たこともない謎の人型機動兵器の存在――だが地球圏を脅かす新たな火種が地球に迫っている事をダイテツ達は知る良しも無いのだった……。

 

 

 

 

ラドラとレーツェルがハガネを後にした後。ダイテツ達はレイカーに連絡を取る為、ブリーフィングルームを後にし、残りの面子はアンノウンについての話し合いをしていた。

 

「ライ、アンノウンの残骸の分析結果は?」

 

「現時点では生物……のような物だと推測されています。詳しくは伊豆基地に戻らなければ判りませんが……全く未知の存在と言っても良いでしょう」

 

ビームコートに似たバリア機構とグルンガストやゲシュペンストの装甲に深い傷を与えたアンノウンが生物と聞いて、カイ達は怪訝そうな顔をした。

 

「あれだけの攻撃力があって生物だと言うのか?」

 

「ゲシュペンストの装甲をへこませていたんですよッ!? あれが生物だとはとても思えないッ!!」

 

ビームを放ち、自己再生能力を有し、攻撃ではPTや特機の装甲を傷つける。そんな異様な能力を持つアンノウンが生物と聞いて信じられないとブリットが声を荒げる。

 

「生物だと断言している訳ではない。ただ機動兵器特有の熱源反応や金属反応が無く……かと言って生物でもない。アンノウンとしか言いようがないんだ」

 

生物に似た特徴もあるが、機動兵器としての特徴もある。そして死ねば、僅かな残骸を残し消滅する。それらの特徴を聞いていたキョウスケがライに向かってある事を尋ねた。

 

「あれは地球上の物体なのか?」

 

アンノウンを構成してた物質。それが地球の物体なのか? と言う疑問だ。自己再生する金属なんて物は当然ある訳も無く、また機動兵器を傷つけるような生物が存在するなんて事も信じたくはない。

 

「まだ判りません。ただ……サイバスターやマサキの事を考えると……ありえない話ではないかと」

 

地球の内部の世界からやってきたというマサキとサイバスターと言う例もある。自分達が知らないだけで、地球にそういう生物がいたと言う可能性はゼロではない。

 

「メカザウルスの同類と言う可能性もあるんじゃないのか? ギリアムはどう思う?」

 

「いや、メカザウルスのDNAは地球に存在する爬虫類の物とほぼ合致している筈だ、ライディース少尉。あのアンノウンのDNA構造は?」

 

「それらも今解析段階ですが、やはり伊豆基地に戻らなければ詳しい事はなんとも……」

 

ハガネにある設備では正確な検査は出来ない。ほんの僅かに残されている手掛かりで、推測を立てるしか今のライ達には出来なかった。

 

「地球外から来たという可能性はないのでございましょうか?」

 

「現段階では、地球外生命と言う可能性が1番高いが……あくまで可能性の話だ。ラミア、何か思い当たることでも?」

 

「い、いえ、私には化け物にしか見えなかったでございますですから」

 

何か思い当たる節があるのか? と尋ねられ、見た目を見て化け物にしか見えなかったと言うとブリーフィングルームにいた全員が納得した。

 

「確かにあの見た目じゃ化け物にしか見えないな」

 

「そうね、それにエアロゲイターの兵器には見えないしね」

 

エアロゲイターの機体にはある程度の共通性があった。そういう意味ではアインストも共通性があったが、エアロゲイターの兵器とは根底から違うと言うのが良く判った。

 

「そう言えば、ライ。見た目と言えば……貴方のお兄さんはどうしたのかしら? 頭でも打ったの?」

 

ヴィレッタが思い出したようにレーツェルと名乗っていたエルザムの事をライに尋ねる。その瞬間に死んだ目になるライと、触れなかったのにと言う嫌な沈黙がブリーフィングルームに広がった。

 

「その、兄さんは少し影響を受けやすい部分がありまして、恐らくビアン博士の影響かと」

 

「そう……ライはお願いだからああいう服装は控えてくれるかしら?」

 

ヴィレッタの天然な言葉にますます死んだ目になるライに慌ててカイが助け舟を出した。

 

「そ、そう言えば、キョウスケ……お前、奴らの声がどうとか言って無かったか!?」

 

アンノウンの声を聞いたと言って、しきりに他のメンバーに声が聞こえなかったかと尋ねていたキョウスケ。

 

「ええ。しかし、自分とエクセレン以外には聞こえなかったようです」

 

「何だったのかしら、あれ。キョウスケも聞いてるんだから、空耳じゃないと思うけど……ん! もしかして、私ってエスパーの素質があるとか?」

 

何故キョウスケとエクセレンだけにアンノウンの声が聞こえたのか? と言う謎についての話にブリーフィングルームの話題がすり替わる。

 

「考えられるのはキョウスケ達がアンノウンの思考波を受信したと考えるのが妥当な所だな」

 

「しかし、ギリアム少佐。それでは何故、俺やリュウセイが聞こえなかったのですか?」

 

思考波となれば念動力者であるリュウセイやブリットの方が受信する確率は高いだろう。しかし、実際に声が聞こえたのはキョウスケとエクセレンだけという事を不思議そうに尋ねるブリット。

 

「んーあれじゃない? ラジオの電波の違いとか……と、リュウセイで思い出したんだけど、リュウセイとラトちゃんは? まさか2人で密会とか!? 先生不純異性交遊は許さないわよ!?」

 

少し良い感じだったリュウセイとラトゥー二の姿が見えない事に気付き、エクセレンが業と明るい声で言うとキョウスケの手刀がエクセレンの頭を捉えた。

 

「もう痛いわね」

 

「無理にテンションを上げなくても良い。普通にしてろ」

 

「……はい」

 

キョウスケに言われるとエクセレンは途端に静かになり、キョウスケの後ろに回ってそのジャケットの裾を掴んだ。

 

「すまない、エクセレンも一杯一杯でな……」

 

アンノウンに撃墜されたリオンとそのリオンの搭乗者の名を叫んで半狂乱になっていた少女の声――それは今もなおキョウスケ達の耳にこびり付いていた。

 

「完全に日暮れになる前に捜索許可が下りるといいんだがな……」

 

「確率は低いが……生存している可能性があるのならば見捨てる事はできん」

 

アンノウンに撃墜されたリオンは脱出装置を起動させた素振りは無かったが、胸部ブロックだけが射出されるのが戦闘記録に残されていた。可能性は限りなく低いが、アラドと言う少年が生きているのならば保護したいとダイテツ達は考えていた。それが伊豆基地に向かって出発せずに、中国にハガネとシロガネが残っている理由だった。

 

「もしかして、リュウセイ達は……」

 

「格納庫で待機してる。出撃許可が出たらすぐに捜索に出るためにな」

 

ラトゥー二が捜し求めたスクールの生き残り――生存率が低くても生きている可能性があるのならばとラトゥー二とリュウセイは出撃許可が下りるのをレーツェルとアンザイ博士の話の後からずっと格納庫で待ち続けていた。

 

「生きていると良いですね。あの子の為にも……」

 

「そうだな。あの取り乱しようを思い出すだけでも、胸が痛くなる……」

 

自分のパートナーであろう少年の名を叫び、助けを求め、返事をしてくれと叫び続けた少女の事を思えば生きていて欲しいとカイ達が願うのは当然の事だった。

 

(俺とエクセレンの共通点と言えば……あの時の事故か? だが、理由が判らん奴らは一体……)

 

その中でキョウスケだけは自分とエクセレンにだけアンノウンの声が聞こえていた理由を考えていた。1番可能性があるのは士官学校時代の事故だが……とそこまで考えた所でキョウスケはあることを思い出した。

 

「ラミア、お前はあのアンノウンが出現する前に空間転移と言っていたな? お前……何か知っているんじゃないのか?」

 

キョウスケの指摘にラミアはびくりと肩を竦めた。その反応を見れば、何かを知っていると言うのは明らかだった。

 

「お、おほほほ……何と申し上げますればいいのでしょうかしら。何となく……でいいじゃござんせんかでしょう? ……それに、異星人も同様の技術を持っちゃっていることでございましたですし」

 

「反応が全く同じなら、な。だが、そうだったら、ハガネの方でも気付く筈だ」

 

確かにエアロゲイターも転移装置は所持していた。だがそれならば転移パターンがハガネに残されているから、ハガネが気付く筈だと言うとラミアは目を泳がせて、キョウスケから目を逸らす。

 

「ラミアだったわね。何か知っていれば、話してくれるかしら?」

 

「そうだな。疑っている訳では無いが……君の戦闘中の言動には些か引っかかる所がある。その疑惑を払拭する為にも、何か思い当たる節があるのならば教えてくれないか?」

 

ヴィレッタとギリアムも加わり、逃げ道を断たれたと気付いたラミアは小さく溜め息を吐いた。

 

「実は……その、イスルギの社長ミツコ・イスルギはエアロゲイターの転移術に強い興味を抱いておりましたのです」

 

「あの戦争屋か……確かにあの女ならば興味を抱きそうなものだが……それと何か関係があるのか?」

 

ラミアは必死に頭を働かせ、自分への疑惑をミツコへの疑いへと逸らす為の話を考え始める。

 

「転移には独特な周波数があることが判っておりますでしょう? もしも単独で転移出来るような機体の反応があればと、探知装置の様な物がアンジュルグには搭載されていると聞いた事がありましたのです、あの時そのレーダーに反応があったので、空間転移だと咄嗟に叫んだのです」

 

苦しい言い訳ではある。だが兵器を売る商売をしているミツコの事を考えれば、転移装置を求めるのは当然の事。

 

「……ふむ、ギリアム。どう思う?」

 

「そうですね。筋は通っているかと……シロガネにもイスルギ重工の転移反応を感知するレーダーが搭載されていますし、無差別に探知すると言うレーダーを開発するというのは不可能ではないかと」

 

「ラミア、そのレーダーを提出すること可能か?」

 

「は、はい、大丈夫でありますですの、ただ転移反応を感知したことでオーバーヒートをしているので、正常に機能するかはわかりませんでありますですのよ?」

 

「それでも……「各員に告げる。採掘現場周辺の捜索許可が下りた、各員は採掘現場周辺の撃墜された機体のパイロットの捜索準備を行なえ」……ッ! で、では私も捜索準備を行いますのでこれで失礼したりしなかったりしますの」

 

破損していても構わないからレーダーを提出するようにキョウスケが言おうとした時。タイミングよく、捜索命令が下り逃げるようにラミアはブリーフィングルームを後にした。

 

「中尉、俺達も行きましょう」

 

「ああ、先に行っていてくれ、俺もエクセレンを部屋に届けたらすぐに出撃する」

 

「キョウスケ、私大丈夫「そんな酷い顔色で何を言っている」カイ少佐、ギリアム少佐。申し訳ありませんがよろしくお願いします」

 

エクセレンの手を強引に握り、ブリーフィングルームを出て行くキョウスケ。そのまま早足でエクセレンの自室まで連れて行くとベッドに横になるように告げて踵を返そうとする。

 

「ねえ、キョウスケはラミアちゃんを疑ってるの?」

 

「……今はな。だが……あの時、ラミアが警告してくれなければ間違いなく、俺達の中にも被害が出ていた」

 

散れという叫び声がなければ間違いなく出現したばかりのアンノウンに襲われていただろう。それがあるからキョウスケはラミアを疑いきれないでいた。

 

「信じたいから話を聞きたいのね。それならもう少し優しく聞いてあげなさいよ?」

 

「そうだな……次は気をつける。エクセレン……お前は休んでいろ」

 

「うん、ありがと……それとごめんね」

 

部屋に入ると取り繕うのも限界になったのか青い顔で謝るエクセレンに気にするなと告げて、キョウスケも捜索の為に格納庫に足を向ける。

 

(ラミア……お前は何者なんだ)

 

怪しくはある、だが、命を賭けて皆を救おうとしてくれた。疑う気持ちと信じたい気持ち……その両方を感じながら、キョウスケはハガネの通路から出撃していくアンジュルグの姿を見つめているのだった……。

 

 

 

 

 

時間は少し遡り、キョウスケ達がアンノウン――アインストについて話している頃。格納庫では、リュウセイとラトゥー二が待機室のベンチに腰掛け、出撃命令が降りるのを待ちながらどういう事情なのかをリュウセイに話していた。

 

「そっか。大変だったな、ラトゥーニ」

 

「……うん」

 

「俺でも悩むよ。それでもラトゥーニは助けようとしたんだ。絶対それは間違いじゃない」

 

「……そうかな?」

 

「そうに決まってる。仲の良い友達……いや、家族だったんだろ? それと戦うなんて俺だったらと思うと怖くて仕方ねえよ」

 

スクールはラトゥーニにとっては恐怖の記憶だ。だけどそれでも温かい思い出は確かにあったのだ……その温かい優しい思い出をくれた家族と戦うなんて考えるだけでリュウセイには恐ろしかった。

 

「あの時助けれたら良かったんだ。ごめんな」

 

「う、ううん。リュウセイは悪くないよッ! わ、私を庇ったから……動けなくなったんだもの……」

 

もしもあの時リュウセイがラトゥーニを庇わなければ、リニアカノンでラトゥーニは死んでいたかもしれない。

 

だがもしあの時リュウセイが動ければ、2人で暴れるゼオラを確保できたかもしれない……。

 

そんな色んなもしもが2人の脳裏を過ぎった……。

 

「それならまずはアラドだっけ? そいつを見つけようぜ、絶対生きてる。んで、次はゼオラだよな? その子もちゃんと助けよう」

 

「……手伝ってくれるの?」

 

「当たり前だろ! 俺も手伝うッ! 取り返そうぜ、お前の家族をッ! 奪われたら取り返せばいいんだ。俺達だってそうした」

 

L5戦役終盤でエアロゲイターに洗脳されたイングラムをリュウセイ達は死に物狂いで取り返した。リュウセイの言葉には凄い説得力があった……自分を助けてくれたようにリュウセイなら助けてくれるそう判った途端ラトゥーニの目から涙が零れた。

 

「ちょっ、ちょっ!? ハンカチハンカチッ!」

 

泣いてるラトゥーニを見て慌ててハンカチを探すリュウセイ。立ち上がりパイロットスーツのあちこちを探し回るリュウセイの背中にラトゥーニが後から抱きついた。

 

「リュウセイ……ありがとう」

 

「……お、おう……どういたしまして? あ、ハンカチあったッ!」

 

良く判らない様子でもどういたしましてと返事を返し、やっとハンカチがあったと笑うリュウセイにラトゥーニはその背中に顔を埋めたまま、ぎゅっと腕を回した。

 

「ラトゥーニ?」

 

「……ごめん。少しだけこのままで……」

 

背後から自分を抱き締めているラトゥーニの腕が振るえているのに気付き、リュウセイは何も言わずラトゥーニの好きにさせるのだった。なお待機室の外では……。

 

「やべえ、すごく良い感じなんだけど」

 

「どうするよ、アルブレードの修理間に合わないぞ?」

 

「でもさ、回せる機体もないぞ?」

 

待機しているリュウセイに回せる機体が無いと伝えに来た整備班達がリュウセイの背中に顔を埋めて泣いているラトゥーニを見て動けないでいると出撃許可の放送が入った。やばいと思っているまに待機室から出てきたリュウセイとラトゥーニと鉢合わせする整備班……。

 

「呼びに来てくれたのか! ありがとな!」

 

「……」

 

呼びに来てくれたと感謝するリュウセイと自分がリュウセイに抱きついているのを見られたと悟り、絶対零度の視線で整備班を見つめるラトゥーニ。このままでは殺されると判断した整備班の副リーダーは慌てて叫んだ。

 

「アルブレードの修理が済んでいないので、ラトゥーニ少尉のヒュッケバインMK-Ⅲで出撃してください!」

 

「え? 2人乗り? 出来る「行こうリュウセイ!」え、待て待て待て!? 無理じゃないか!?」

 

ラトゥーニにつれられてヒュッケバインMK-Ⅲに向かって歩き出すリュウセイ。なお、この時リュウセイに整備の状況を告げに来た整備班達はラトゥーニが人殺しの目をしていたと震えながら酒の席で口にしていたのだった……。

 

「リュウセイ。何か感じる?」

 

「いや、何にもだな。もう少し北上してみるか」

 

「うん、判った」

 

コックピットシートにラトゥーニが腰掛け、リュウセイはその後の非常用の救難キットとかの間に座り。背後からラトゥーニを抱き締める形でヒュッケバインMK-Ⅲに乗っていた。

 

(……いや、なんかこれ不味くね?)

 

自分よりも幼い少女を背後から抱き締めている形になっている事が明らかに事案のように思えて、挙動不審のリュウセイ。だがラトゥーニもパイロットスーツ越しだが、リュウセイに抱き締められているのを感じ、その顔を紅く染め上げていた。

 

「ライディース少尉達も出撃したみたいだね」

 

その気恥ずかしさを誤魔化す為にライ達も出撃したと話を振るラトゥーニ。

 

「そ、そうだな。これだけ人数がいれば……ラトゥーニッ!」

 

「え、な、なにッ!?」

 

後から身を乗り出して操縦桿を掴んだリュウセイ。その顔が自分の胸を覗き込むように形になっているのに気付き、ラトゥーニも上擦った声で何かと尋ねた。

 

「あそこ! あれリオンの胸部ブロックじゃないか!?」

 

リュウセイが操縦し、視点が変わった事で気付いたのだ。残骸の中に埋もれるようにして逆さまになっているリオンの胸部ブロックの存在に、それに気付いたラトゥーニはリュウセイの手の上から操縦桿を握り、進路を変更する。

 

「アラド、アラドッ!」

 

『っくう……ら、ラト……? か……お、俺……どうなった……』

 

逆さまの胸部ブロックに向かって叫ぶラトゥーニ。ノイズ交じりだが返事がある事に気付き、慌てて胸部ブロックを抱えさせ、ハガネへとヒュッケバインMK-Ⅲは引き返していく。

 

「え? 2人で乗ってたのか?」

 

「「あ……」」

 

しかしそこで2人でPTに乗っていた事を指摘され、アラドを救護班に引き渡した後。リュウセイとラトゥーニの顔は真っ赤になり、やましい事は無かったと身振り手振りを交えながら必死に弁解するのだが、その必死さが余計にリュウセイとラトゥーニの関係を勘繰る物となった事に2人は気付く余裕が無いのだった……。

 

 

 

 

アラドがハガネに回収されたことなんて知らないカーラは格納庫のベンチに座り深い溜め息を吐いていた。

 

「あのさ、ユウ……そのもしかして……」

 

最後に帰還したアーマリオン隊の報告を聞いていたユウキの姿を見て、俯いていたカーラは勢い良くその顔を上げた。

 

「すまない。無理だったようだ」

 

アラドの捜索を戦闘中ギリギリまで行っていたアーマリオン隊が戻って来たのを見て、カーラの顔に僅かな希望の光が宿ったがすまないと言うユウキの言葉にその顔が暗く沈んだ。

 

「……ゼオラは?」

 

「今、セロ博士と一緒にいる。さっきまで大暴れしてて手がつけられなかったんだ」

 

体力の限界が来るまで泣き叫び、暴れていたと聞いてユウキは胸が痛んだ。

 

(くそっ、上手く行く筈だったのにッ!)

 

やはりユウキの予想通り、百鬼獣の妨害を受けて、エルザム達の到着が遅れた。それさえなければユウキの計画通りにアラドとゼオラはクロガネに保護されていたのだ。それを思うとユウキは居た堪れなくなった……。

 

「だが、希望はまだある」

 

「ハガネ……の事?」

 

「ああ、アラドは投降すると叫んでいた……運が良ければ、アラドを保護してくれているかもしれない」

 

「……そっか、うん……そうだね、そう思うほうが良いよね?」

 

それが希望的観測であると言う事はユウキもカーラも判っていた。虚空から出現したアンノウンに貫かれ爆発するリオンの姿は今もなお、2人の脳裏に焼き付いていた。

 

「今に始まった事じゃないけど……堪んないよね……アラド、ホントに死んじゃったのかな……」

 

「生きている」

 

「え?」

 

「アラドは生きてる。あいつは、悪運が強かったし、何よりも生きるって言う意思が強かった。だからきっと……生きてる」

 

普段理路整然としているユウキが感情論を口にした。その事にカーラは驚いたが、小さく笑った。

 

「そうだね……きっと生きてるよね」

 

「ああ、生きてる……そう信じよう」

 

確証なんて無い、だけど生きていてほしいとユウキとカーラは心から祈るのだった……。

 

「いや、いやああッ! アラドアラドッ! どこっ! どこにいるのッ! アラドぉッ!!!!」

 

体力が無くなるまで暴れていたと言うゼオラだが、少しでも体力が回復すれば泣き叫びアラドの姿を捜し求めていると言うことを何度も繰り返していた。

 

「ゼオラ! 落ち着くんだ、ゼオラッ!」

 

「セロ博士ッ! アラド、アラドがいないのッ! アラド……アラドぉ……」

 

へたり込んで泣き叫ぶゼオラにクエルボは危ういものを感じた。元々ゼオラはアラドに依存し、アラドがいるから自我を保っていられた。だがそのアラドが死んだかもしれないと言う現実はゼオラの精神に強い負担をかけていた。

 

「ラト……ラト……アラド……アラド……どこ、いや、嫌よ……私1人じゃ……無理よ。助けて……あ、ああ……いや、いやあああああッ!! 化け物ッ! 化け物がッ! やだ、やめてッ! 殺さないでッ! アラド、アラドを殺さないでええッ!!」

 

「お、落ち着くんだ、ゼオラッ! こ、ここに化け物はいないッ! いないんだッ!」

 

クエルボもアラドを殺したかもしれない化け物の映像は見ていた。その光景がフラッシュバックしたのか、暴れ出したゼオラの腕を掴んで必死に動きを封じに掛かる。

 

「いやッ! やだ、いやああッ!! アラド、ラト……やだ、やだあああああーーーッ!! 化け物、いや、いやああああッ!!!」

 

半狂乱なんて生易しいものではない、自分が傷ついてもそれさえお構い無しで暴れるゼオラにクエルボは最終手段として、鎮痛剤の注射をゼオラの首筋に打ち込んだ。

 

「! うっ……!」

 

途端に脱力したゼオラを抱きかかえ、ベッドに横にするクエルボ。ベッドで横たわり空虚な瞳で天井を見ているゼオラの姿にクエルボは自分が如何に間違った事をしているのかを思い知らされていた。

 

(……このままではゼオラの精神が異常をきたしてしまう……だが、これでは……手の打ちようが無い……)

 

アラドを失ったかも知れないと言うこと、そして化け物の存在がゼオラに深いトラウマとして刻まれている。これではクエルボでは手の打ちようが無かった。

 

「……ゼオラ、僕達はこれからアースクレイドルへ帰る事になる。向こうに着くまでの間、睡眠カプセルの中に入るんだ。そうすれば、気分はいくらか和らぐよ」

 

「……セロ博士」

 

「なんだい?」

 

「私……連邦に投降したい」

 

ゼオラから告げられた予想外の言葉にクエルボは驚きに目を見開いた。

 

「それはどうして?」

 

「……ハガネ、そう、ハガネがいた。ハガネなら、ハガネならアラドを助けてくれてるかもしれない……私。私はアラドがいれば……それでいい。何処でも良いの……博士……アラド……アラドに会いたい……」

 

そう言うと電源が切れた人形のように意識を失ったゼオラ。眠りながらもアラドの名を呼び、涙を流し続けるゼオラ。その涙を拭い、クエルボは立ち上がり、睡眠ポッドの準備をする為にゼオラの部屋を後にする。

 

(なんとか、僕に何とかできないだろうか……やはりゼオラはここにいてはいけない……僕は2度間違えた、3度目はもう……間違いたくない)

 

1度目はマン・マシン・インターフェイスの研究に従事していた時、そして2度目はEOTI機関に移りスクールの検体への非道な実験……そして3度目の間違いを今起そうとしている……もうこれ以上自分の良心は裏切れない。

 

(見つけるんだ。オウカ達をたくせる相手を……それまでは動けない)

 

人間を人間として見ないアギラにもうんざりしていた。それでも自分には何も出来ないと動かないでいたがゼオラの消耗具合を見て、クエルボは覚悟を決めた。従う振りをして、ゼオラを、オウカを逃がす機会を待つことを心に決めたのだった……。

 

味方などいない、周囲が全て敵――それでも敵を、味方を欺き、ゼオラ達を逃がすと決めたクエルボの顔は覚悟を決めた1人の男の姿なのだった……。

 

 

 

 

 

軽井沢での気分転換を終えた武蔵とユーリアを待っていたのは自分を置いて行ったと頬を膨らませ不貞腐れたエキドナの姿だった。

 

「……」

 

「いや、別において行ったわけじゃ」

 

「つーん」

 

「ごめんなさい」

 

「ユーリアだけずるい」

 

「いや、本当ごめんなさい」

 

子供じみた事を言い出すエキドナに武蔵はぺこぺこと頭を下げ続ける。

 

「抱っこ」

 

「はい?」

 

「抱っこ」

 

「あの、どういうことですか?」

 

「ん!」

 

「いや、マジで何を?」

 

「んーッ!」

 

抱っこしろと要求するエキドナとええっと困惑を隠しきれない武蔵の背後では……。

 

「やりましたね隊長、1歩成長しましたよ!」

 

「デートおめでとうございます」

 

残念なユーリアがデートに成功したとトロイエ隊が総出でユーリアを祝っていた。

 

「デデ、デートじゃないと思うぞ!?」

 

「いや2人で遊んだらそれはデートでしょう?」

 

「こうなんか青少年を惑わす大人のお姉さん的なムーブは出来たんでしょう?」

 

隊員達の問いかけにユーリアは軽井沢で何をしたのかを口にする。

 

「饅頭を食べて、釣りをしただけなんだが……?」

 

「は? 何してるんですか隊長」

 

「駄目だ、ポンコツ過ぎる」

 

「恋をするのが遅すぎたんだ、枯れてやがる」

 

タンデムでも何もなくて、軽井沢でも何も出来なかったというユーリアにトロイエ隊の面子は駄目だわとかポンコツとか残念すぎると口々に言う。

 

「そ、そんなに駄目か?」

 

「「「駄目すぎるって言うか馬鹿」」」

 

「そこまで言うか!?」

 

「いやいや話せば判りますから」

 

「嫌だ。抱っこだ」

 

女子力が皆無のユーリアが声を荒げ、抱っこしろと詰め寄るエキドナに格納庫の壁際まで追い込まれている武蔵……クロガネの格納庫は地獄絵図の様相を呈しているのだった……。

 

第25話 星追う翼 その1 へ続く

 

 




クエルボ覚悟完了、アギラノ命令に従うふりをしながらリマコンや投薬のレベルを下げて、反逆準備。ユウキがこれを知ることが出来れば、ゼオラとオウカの救出フラグ成立ですね。クエルボがどうなるかは判りませんけどね。次回は、少しハガネとクロガネの話をして、テスラ研の話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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