進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第25話 星追う翼 その1

第25話 星追う翼 その1

 

 

クロガネへと帰還したレーツェルとラドラの2人だが、その表情は暗い。ユウキによる命懸けの情報の受け渡し……2回に及ぶそれを2度とも失敗した。それはエースパイロットであるという自負があるエルザム達に深い影を落としていた。

 

「良く戻った。エルザム、ラドラ」

 

ハガネにいる間は堂々としていたが、クロガネに着艦した事で意気消沈としたレーツェル……いや、エルザム達を出迎えたのはカーウァイだった。

 

「カーウァイ大佐……」

 

「申し訳ありません。失敗しました」

 

万全を期したはず、作戦予定時間よりも早く中国に到着する筈だった。だが運悪く、百鬼帝国の偵察機と鉢合わせし、足止めを受けてしまったのが救出作戦の失敗の理由だった。

 

「そうだな、ユーリアから報告は聞いている。だがそう気を落とすな、アラド・バランガをハガネが回収したそうだ」

 

「本当ですか!? 大佐ッ!?」

 

カーウァイの言葉にラドラが顔を上げた。慰めの言葉ではない、確かにハガネにユウキから救出を頼まれていたスクールの生き残りの1人が救出されたとカーウァイは告げた。

 

「そう……ですか、良かった。」

 

「ああ。また間に合わなかったのかと思ったぞ……」

 

ユウキから搭乗機が撃墜、ゼオラ撤退の文章通信を受けて絶望感に溢れていたエルザム達だが、ハガネに保護されたと聞いて漸くその顔色に明るさが戻って来た。

 

「全てはビアン所長の繋がりだな」

 

この半年の間、ビアンは戦力の強化、武蔵の捜索に加えて、DCが出資……いや正しくは監視していた危険な研究者の捜索。そしてDCと繋がりがないように偽装して連邦に潜り込ませた兵士もいる。その中の10人ほどがシロガネとハガネのクルーとなり、アラドが保護されたという通信を送ってきたのだ。

 

「ああ、後はゼオラ・シュバイツァーだけだが……これは思った以上に骨が折れるかもしれない」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「……アースクレイドルは百鬼帝国の手に落ちている、恐らくだが、中国で出現したと言う砲撃戦用の機体はシャドウミラーの物だろう。つまり地球の最後の砦として建造されたアースクレイドルは既に敵の拠点になっていると見て間違いないだろう」

 

ムーンクレイドル、アースクレイドルの2つは地球人と言う種を残す為に作り上げられた拠点だ。DC戦争では、ムーンクレイドルが統合軍によって徴収と言う名の保護をされたが、ジーベルの暴走によってその機能の殆どが死んでおり、地球に残された揺り篭も敵の手に落ちている。

 

「この事はゼンガーは?」

 

「……暴れるから気絶させて、縛り上げて部屋にほりこんでおいた」

 

ゼンガーとアースクレイドルの主任のソフィア博士が恋仲と言うのはエルザムも知っていた。そのゼンガーがソフィアが敵の手に落ちていると聞いて落ち着いていられる訳が無い、もしもカーウァイがいなければ暴走してアースクレイドルに突貫して、百鬼帝国の手にゼンガーが落ちていたかもしれないと思うとカーウァイの取った手段は決して褒められた物では無いが、最善の手だっただろう。

 

「アースクレイドルは暫く放置ですか?」

 

「ああ。戦力が足りない、出来る事ならば早い段階で奪還したいが……それも叶わないだろう」

 

あくまで人類を保護するための揺り篭だが、自衛の為の機動兵器の製造プラントもある。そこを制圧するのにクロガネだけでは戦力が足りない。

 

「それにだ、これは不確定の情報だがアギラ・セトメが研究者として招かれている」

 

リマコン、投薬等を行い犯罪者として追われている元スクールの研究者にして、連邦の負の遺産の半分は作ったと言われているアギラがアースクレイドルにいるかもしれないと言う言葉にエルザムとラドラは顔を歪める。

 

「追いきれなかったのが悔やまれる」

 

「そうだな」

 

「犯罪者と言うのは痕跡を消すのが上手い物だ。仕方ないとは言わないが、取り返せばいい」

 

失敗したのならば取り返せばいいとカーウァイが言うとコバルトブルーのユーリアのパーソナルカラーに染め上げられたヴァルキリオンが着艦する。

 

「武蔵とユーリアも戻ったか、エルザム、お前が許可したそうだな?」

 

「はっ、武蔵君にストレスが溜まっているように見えたので……」

 

「怒っているわけではない、良い判断だった。戦力として優れていても武蔵は民間人だ。軍人のようには振舞えない」

 

スポーツドリンクとタオルを持ってヴァルキリオンに足を向けるエキドナ。その姿を見てカーウァイは眉を細める、記憶喪失になっているエキドナだが、記憶を失っている方が幸せなのかもしれないと、武蔵とユーリア、そしてエキドナの3人が笑いあっている光景を見て心からそう思っていた。兵器として作られただけの人造人間としてではない、エキドナ・イーサッキとして生きている方が幸せだとカーウァイは思わずにはいられなかった。

 

「大佐?」

 

「あ、ああ。すまないな、少し考え事していた。戻って来たばかりで悪いが緊急会議だ」

 

脱線していたが、カーウァイがこうして格納庫で待っていたのは会議があったからだ。

 

「それは構いませんが、何があったのですか?」

 

「今ビアン所長とイングラム達が裏付けを取っているが、ホワイトスター周辺で連邦軍の警備の行方不明が多発している」

 

「それはまさかッ!? エアロゲイターが復活したとでも言うのですかッ!?」

 

「判らない、だが地球だけではない、宇宙もきな臭くなってきたという事だ」

 

地球に騒乱の種が生まれたように……宇宙にも新たな戦火の篝火が灯ろうとしていた。そしてそれが何か調べる為にクロガネ……いや、ビアンは再び動き出そうとしているのだった……。

 

 

 

 

ハガネの医務室で包帯塗れの青年――アラドが魘されながらベットに横になっていた。額に浮かぶ汗を拭い、額に濡らしたタオルを置いて看病をするラトゥーニ。出撃し、アラドを発見してからずっと休まずに看病を続けているラトゥーニを見て、リュウセイが壁際のイスから立ち上がった。

 

「ラトゥーニ……ちょっと休んだほうが良くねえか?」

 

「……リュウセイ、うん。でももう少し見ていたいの……」

 

「そ、そうか……」

 

「リュウセイ? どうしたの?」

 

「い、いや……なんでもねえ、なんでもないと思うんだけど……」

 

心配そうにアラドを見つめているラトゥーニを見て、そわそわした様子のリュウセイ。その様子を見て不思議そうにしていたラトゥーニだが、何かに気付いたかのように小さく笑った。

 

「大丈夫。アラドは家族だから」

 

「ッ!? い、いや、そういう訳じゃなくてッ!? えっとえっと、何か軽く腹に入れるものでも作ってくるぜッ!」

 

ラトゥーニにそう言われ、自分がアラドに嫉妬していると気付いたのかあわあわしながら医務室を飛び出て行くリュウセイを見て、ラトゥーニも僅かに頬に朱色が入る。自分がリュウセイを意識しているように、リュウセイが自分を意識してくれている事がラトゥーニには少し嬉しかった。だがその喜色もすぐに消え、今も魘されているアラドを見つめ沈鬱そうな表情で看病を続けるのだった。

 

「……アラド……。ねえ、アラド。起きて」

 

アインストの攻撃によって爆発したリオンの熱によって全身に軽度の火傷を負ったアラドはアースクレイドルを出る前のゼオラとの会話を思い出していた。

 

「アラド、私達の配属先が決まったわ」

 

(配属先……? どこだよ?)

 

嬉しそうなゼオラに対してアラドは全く心が踊らなかったのを覚えている。

 

「遊撃隊だけど活躍すれば、本隊に配属されるのも夢じゃないわ。頑張りましょうッ!」

 

(頑張ってどうするんだよ?)

 

下っ端も下っ端、そんな部隊に配属されて何が嬉しいんだよと尋ねたのをアラドは覚えていた。そしてアラドの言葉にゼオラが怒りを覚えていたのも良く覚えていた。

 

「ここで活躍してビアン総帥の捜索隊に加わって、活躍すれば私達だって自由に動けるようになるッ! そうなれば皆を探せるわッ!」

 

(そっか、……そう思えば悪くないよな……やっとアースクレイドルから出られるのか)

 

L5戦役の後からずっとアースクレイドルで訓練を積んでいた。寝る所もある、食事も貰えるから外に出れなくてもアラドには文句は無かった。そして外に出ればいなくなったスクールの皆を探せると思えば、あんまりやる気が出なかったがそれでも自分に出来る範囲で頑張ろうと思えた……。

 

「……ね、アラド。私と約束して」

 

(約束? 何だよ?)

 

「これから先、何があっても2人で頑張って……必ず生き残りましょ。そして、散り散りになったスクールの子達を……ラト達を捜すの」

 

(ラト……ラトゥーニ……)

 

「……オウカ姉様と一緒に……皆で暮らせたら良いな……。今度はスクールと別の場所で……戦いなんて無い平和な場所で……」

 

(ああ、そうだったな……それが……お前との約束だった……でも……すまねえ、ゼオラ…俺は…………)

 

走馬灯のようにゼオラとの約束を思い出した所で、アラドの目はゆっくりと開いた。

 

「あ、美味しい。ありがとう、リュウセイ」

 

「そ、そうかあ? おにぎりと卵焼きを作ってきただけだぜ? 礼を言われるほどじゃないって」

 

「ううん。凄く嬉しい……」

 

……全身に走る痛みに顔を歪めながら目を覚ましたアラドが最初に見たのは、捜し求めたスクールの生き残りの1人のラトゥーニと、連邦軍の制服に身を包んだ青年が並んでおにぎりを食べている姿だった。いちゃいちゃしているとまでは言わないが、妙に甘酸っぱい雰囲気をしている2人に向かって思わずアラドは口を開いていた。

 

「あの、お2人さん。俺起きているんっすけど?」

 

「「!?!?」」

 

物凄く驚いたという顔をするラトゥーニの姿は記憶の中のラトゥーニと違い、青年と共にあたふたしているラトゥーニは年頃の少女と言う感じであのラトゥーニに春が来たのかあっとぼんやりとアラドが思うほどに、医務室の中は混沌としていたのだった……。

 

 

 

 

 

 

「うめえッ! いや、あんた料理上手だな!」

 

「いや、普通のおにぎりだぜ?」

 

「いやいや、ごま油を使ってるからめちゃくちゃ美味いっすよ!!」

 

目を覚ましてすぐ空腹を訴えたアラドにリュウセイは自分の分のおにぎりをアラドに渡していた。美味い美味いと喜んで食べるアラドに大したことをしてないんだけどなあとリュウセイが首を傾げている間に4個のおにぎりと卵焼きはアラドの口の中に消えた。

 

「ご馳走様でした、いや美味かったです……それでここはどこっすか?」

 

「ハガネの医務室だよ、アラド」

 

「そ、そうッスか。俺、助かったのか。そりゃラッキー……って、ラトッ!? と言う事はさっきのアオハルは夢とか……「アラド?」 うっ! いててててっ!!」

 

自然に会話に混じってきたラトゥーニにさっきの青春していた事を指摘しようとして、ノーモーションでボディブローを叩き込まれアラドは身体のくの字に折った。

 

「ラ、ラトゥーニ? 今殴らなかったか?」

 

「え? そんな事してないよ。リュウセイの気のせいだよ? きっと怪我してるのに急にご飯を食べたからだね」

 

「そ、そうか?」

 

違うと言いたかったアラドだが、ラトゥーニの目に光がないのを見てアラドは口を開くのをやめて、腹を押さえてくくくっと呻いていた。

 

「ま、まぁあれだ。動いたら駄目だぜ? 怪我は命に別状はないけど、安静にしてないとよ」

 

リュウセイがアラドにそう声を掛ける。するとアラドは思い出したように顔を上げた。

 

「で、でも、俺はあの時、化け物に撃墜されて……ゼオラッ!? ゼオラは!? 投降したんだから保護してくれたんだよなッ! いっつつつつ……」」

 

自分が保護されているようにゼオラも保護されているんだろっと傷を押さえながらアラドが叫ぶ。

 

「すまねえ、化け物に囲まれてあの子は保護できなかった……だけど、離脱しているのは確認してるから無事だと思う」

 

「そ、そうか……いや、すまねえ。俺の都合の良い事ばかり言ってるよな……」

 

未知の化け物に攻撃され、脱出装置も起動しなかったのだ。それで良く生きていた。そしてそれに加えてハガネに保護されたのだけでも、アラドにすれば感謝するべき事だった。

 

「アラド・バランガっす。改めて……投降します」

 

「えっと、了解。俺はリュウセイ、リュウセイ・ダテ。ラトゥーニは知ってるよな? 取り合えず、俺とラトゥーニの2人で投降を認める……ってことで良いんだよな?」

 

「うん。ダイテツ中佐とリー中佐に許可は得てる。正式に、アラドは捕虜としてハガネに保護される」

 

正式に投降したアラドはこれでハガネの捕虜となった。リュウセイは捕虜の処理などやった事が無く、ラトゥーニが大半の処理をする事になったが、それでもアラドが正式にハガネの捕虜になったという事は間違いない。

 

「えっと、じゃあ、俺はこれをキョウスケ中尉達に伝えてくるから、ラトゥーニはアラドを見ていてやってくれ」

 

リュウセイはそう言うとラトゥーニがDコンで処理した捕虜の書類を手にして医務室を出て行いった。

 

「……」

 

「……」

 

久しぶりに会った事もあり、2人きりになるとアラドとラトゥーニは黙り込んでしまった。色々話をしたいのに、何を話せば良いのか判らなかったのだ。

 

「それにしても、久しぶりだな、ラト。お前がスクールから出て以来だよな」

 

そんな中アラドが意を決したようにラトゥーニに声を掛けた。

 

「うん……そうだね、アラドも元気そうで良かった」

 

「元気つっても、化け物に攻撃されて本気で死ぬかと思ったぜ」

 

蔦と骨の化け物による強襲。それを受けた時、アラドは本気で死を覚悟していた。それでもこうして助かって、ラトに再会出来たことは嬉しかった。

 

「あのさ……この船は俺達のいた部隊と戦うんだろ? ゼオラは……ゼオラと戦うのか?」

 

今聞くべきではない、そう判っていてもアラドは尋ねずにいられなかった。その返答によっては、捕虜として投降したばかりだがハガネから脱走することになるとも覚悟をしていた。

 

「敵として出てくれば戦う事になると思う」

 

俯きながらラトゥーニが口にした言葉に、アラドは布団の中で拳を握った……だが次の言葉にその拳を開いた。

 

「でも、皆ゼオラを助ける為に手伝ってくれるって」

 

「え? ま、マジか? だ、だってハガネは連邦だろ!? なんで敵を助けてくれるんだよッ!?」

 

アラドの常識とは異なる事を艦全体でやろうとする。そのありえない事に思わずアラドは声を荒げた。

 

「私が助けたいって言ったからかな?」

 

「それこそ嘘だろ……?」

 

「そうでもないよ? L5戦役の時だってエアロゲイターに操られた仲間を助ける為に皆頑張ってくれた。だからアラドも信じて、皆を……絶対ゼオラを助けるから」

 

信じてくれと言うラトゥーニの目には強い意思の光が宿っていた。それを見てアラドの身体に入っていた力が抜けた、大丈夫だと頭ではない、心で理解してしまったのだ。

 

「そっか、お前がそこまで言うなら、俺も信じるよ」

 

「ありがとう、アラド」

 

小さく微笑んだラトゥーニにアラドは少し驚いた。昔のラトゥーニは笑わなかった、そんなラトゥーニが幸せそうに、楽しそうに笑ったのだ。それを見て驚くなと言うのが無理な話だった。

 

「お前は変わったよな。昔は大人しくて、ほとんど喋らなかったし、オウカ姉さんやおれ達の前でも、あんまり笑わなかった……それにさ、その眼鏡……似合ってるぜ」

 

アナライズツールで目を隠していたラトゥーニの姿しか覚えていなかったが、今のラトゥーニは眼鏡を掛けていてその目を見せている事で、美しい少女と言う印象をアラドに与えていた。

 

「ありがと……大切なお友達からの贈り物なの」

 

「友達……か。お前……スクールから離れて、ハガネに乗れて良かったみたいだな。そのあれだ、好きな人も……うっ!?」

 

少しのやり取りだがリュウセイにラトゥーニが思いを寄せているのが判り、それを指摘しようとして再びボデイブローを喰らってアラドは小さく呻いた。

 

「それは言わないで、まだ……その……ね? 判るでしょ?」

 

照れ隠しのつもりだろうなのだが、凄まじい威力のボデイブローに額に脂汗が浮かんでいるアラドはわ、判ったと震える声で返事を返すのがやっとだった。

 

「お、俺は応援するぜ? 頑張れ、ラト」

 

「う、うん。ありがとう」

 

ぱぁっと華の咲くような顔で笑うラトゥーニを見て、ハガネのクルーが、そしてリュウセイがラトゥーニを救ってくれたのだと判った。だからゼオラを助けようとして動いてくれているハガネの事をアラドは信用することにした。

 

「アラドの部隊の事を聞くことになると思うけど、協力してね」

 

「ああ、大丈夫だぜ。捕虜としてちゃんと知ってる限りの事は話す。その代り……」

 

「判ってる。ゼオラは絶対に助ける」

 

ラトゥーニの言葉に安堵し、アラドは柔らかく微笑み気絶するように眠りに落ちるのだった……。

 

「大丈夫だよアラド。ゼオラもオウカ姉様も絶対に助けるから」

 

根拠なんてない助けるという言葉、それなのに心から大丈夫と安心出来る力強さに満ちた声なのだった……。

 

 

 

 

中国から伊豆基地に向かってシロガネとハガネが進んでいる頃。テスラ・ライヒ研究所では……ヒューストン基地から、テスラ研に研究の舞台を移したプロジェクトTDのチームが到着していた。

 

「ようこそ、テスラ研へ。というより、お帰り……フィリオ」

 

玄関で出迎えてくれたジョナサンの姿にフィリオは一瞬驚いた顔をし、こうして顔を見合わせた事で罪悪感が込み上げてきたのか悲しそうな顔をし、ジョナサンへと頭を下げた。

 

「ご無沙汰しています、カザハラ博士。僕がEOTI機関へ行って以来になりますね……あの時は……「まあ、そう緊張するな。ここは君にとって学舎だったんだ。そんな顔はしなくていい」

 

謝罪の言葉を口にしようとしたフィリオの言葉を遮り、ジョナサンは明るく笑いながらフィリオの肩に腕を回して笑う。

 

「ありがとう……ございます」

 

それはジョナサンなりの過去の清算とこれからまた一緒に頑張ろうと言う激励のつもりだったのだが、フィリオの顔は曇ったままだった。

 

(……まだ彼はリオンシリーズを設計した自分を責めているのか……?)

 

ビアンに賛同し、リオンシリーズを設計したフィリオ。だが、フィリオの設計したリオンのおかげでL5戦役で戦う事が出来た。そう考えればビアン同様フィリオは責められるべきではない人間だ。ジョナサンがその事を言おうとすると研究室の扉が開く音が玄関に響いた。

 

「ふ~っ、やれやれ。また刀身の形状固定に失敗したわい」

 

「リシュウ先生。お疲れ様です、しかしリシュウ先生でもやはり厳しいですか?」

 

新型の斬艦刀の開発をしているリシュウにそう問いかけるとリシュウはううーむと唸った。

 

「あの新型斬艦刀の刀身な、ゲッター合金も流用できんか?」

 

「ゾル・オリハルコニウムとゲッター合金の流用が可能なのですか?」

 

時折匿名で送られてくるゲッター合金の加工方法と、ビアンから譲られたゲッター炉心によって少量だが、ゲッター合金の生産がテスラ研で可能となっていた。今はまだ、機体や武装に完全に応用出来ていないが、その第一弾として斬艦刀をゲッター合金とゾル・オリハルコニウムで作ることをリシュウはジョナサンに提案した。

 

「理論上は可能じゃ、試してみる価値はあるじゃろ?」

 

「う~ん……しかしゲッター合金の性質は完全に把握できている訳ではないでしょう? 出来るのですか?」

 

「ゲッタートマホークの展開理論を使えば、形状固定も……」

 

「しかしそれだと斧になってしまうのでは?」

 

「ううーむ、まずは斧の形状から剣に変える方法を……」

 

ゲッタートマホークの展開方法とゲッター合金を使用して新型斬艦刀の開発について話し込んでいるジョナサンとリシュウを呆然とフィリオが見つめているとジョナサンが我に帰ったのか頭を掻きながら苦笑した。

 

「ああ、すまない、フィリオ。思わず話し込んでしまった」

 

「ふふ……そういう所は相変わらずですね、博士。しかし、テスラ研では既にゲッター炉心の研究をしているのですか?」

 

DC戦争、L5戦役で圧倒的な強さを見せたゲッターロボ。その動力がゲッター線と言う放射能であるという事は広く知られているが、実用段階には至っていない。それをフィリオも知っていたので、テスラ研でゲッター合金が実用段階になっていると聞いて、驚いた表情でそう尋ねる。

 

「客人かの?」

 

この時リシュウが初めてフィリオに気付いたのかそう尋ねる。するとジョナサンは肩を竦めて苦笑いを浮かべた。

 

「……先生、一昨日言ったでしょう。プロジェクトTDのフィリオ・プレスティですよ」

 

「おうおう。すまんの、最近物覚えが悪くてな。ワシはリシュウ・トウゴウじゃ。見ての通りの爺で、ここの顧問をやっておる」

 

「ご高名は聞き及んでおります。グルンガストシリーズの剣撃モーションは、先生の剣技が基になった物だとか」

 

リシュウ・トウゴウの名はPTや特機に関わる者ならば全員が知っている。その優れた剣技をPTと特機に再現させるという分野において、リシュウに並ぶ者は誰もいないからだ、暫くそのまま話をしていたジョナサン達だが、思い出したように手を叩きフィリオにからかう様な笑みを向けた。

 

「さてと、で、フィリオ。君のハートを射止めたキュートな女神は?」

 

「タカクラチーフなら、TDのパイロット達と機体の搬入作業に立ち会っています」

 

「そうか。銀河を翔ぶ天使達にも早く会いたいものだねぇ」

 

「お前そんな事を言っておるとコウキに睨まれるぞ?」

 

プロジェクトTDのチームが来たと言う事は出向していたコウキも戻ってくるという事だ。リシュウにそれを言われて不味いという顔をするジョナサンを見て、昔のテスラ研を思い出してフィリオは笑った。ジョナサンがナンパをし、それをコウキが咎め土下座する。ある意味名物とも言える光景を思い出して、フィリオはやっと帰って来たという実感を感じていた。

 

「その前に……お願いがあるのですが」

 

「……何かな?」

 

真剣な顔で協力して欲しい事があると言うフィリオにジョナサンも真剣な表情を向ける。ヒューストン基地での襲撃、そしてあちこちで起きている新型の強奪事件――これから起こりえる事件の可能性を考えてフィリオはあることをジョナサンに頼むのだった……。

 

 

テスラ・ライヒ研究所 シミュレータールームではヒューストンから移ってきたばかりだが、プロジェクトTDのメンバーが一刻も早く機体を乗りこなす為の訓練に汗を流していた。

 

「プログラム終了。各パイロットはシミュレーターから降りて下さい」

 

「今日はここまで、良く頑張ったな」

 

ツグミとコウキが戦闘データを記録しながらシュミレーターから降りるように言うとシミュレーターが開き、ふらふらで荒い息を整えているアイビスが姿を見せた。

 

「はぁ……はぁ……あ、ありがとう……クスハ」

 

「い、いえ、私は良いんですけど……大丈夫ですか、アイビスさん……」

 

アイビスのシミュレーターの相手をしていたのは新型グルンガストの開発の為にテスラ研に出向していたクスハだった。

 

「う、うん……あ、ありがとね」

 

息を切らし、今にも倒れこみそうなアイビス、息を切らすことも無く余裕の表情のクスハ。それが今のアイビスとクスハの隔絶した実力差の証だった。

 

「無様だな。この程度の訓練でここまで醜態をさらすとは」

 

「人の事をいえた成績ではないぞ、スレイ」

 

先に訓練を終えていたスレイがアイビスを睨みながら言うと即座にコウキにお前も人の事を言えた成績ではないと告げられる。それを聞いてツグミがうーんっと唸った。

 

「スレイとアイビスの対戦はスレイの20戦全勝……スレイとアイビスの連携戦闘による対クスハ戦はクスハの10戦3勝7敗……まずまずの成績だと思うけど?」

 

「クスハとのシングルの成績は20戦0勝20敗。1勝も出来てない、そんな成績で人の事を言えた様か」

 

コウキの最もな言い分にスレイはぐっと唇を噛み締め、怒りの表情を浮かべる。

 

「なんだ? その顔は、言いたいことがあるなら言ってみろ」

 

「連携戦闘では勝利している。クスハにも私は勝てるッ!」

 

確かにシングルでの成績は全敗だが、アイビスとのコンビでの戦闘では7勝を上げている。だからシングルでも勝てるのも時間の問題だとスレイが叫ぶが、コウキはそんなスレイを鼻で笑った。

 

「コンビのほうは設定をいじってある、出力制限70%、視界制限80%。ハンデを貰っての勝利を誇るんじゃない」

 

ハンデを付けられていたと聞いてスレイが振り返るとクスハが目を逸らす、それが何よりもハンデを付けていると言う証だった。

 

「く、それならば、もっと単独戦闘での訓練時間を増やしてくれッ! 無駄にしかならない連携訓練など私はやりたくないッ!」

 

悔しそうに唇を噛み締めたスレイは本気のクスハに勝つために単独戦闘の訓練時間を増やして欲しいとツグミとコウキに訴える。

 

「プログラムはフィリオ少佐との検討の上で決めています。私の一存で変更は承認できません」

 

「俺はあくまで出向の研究員だ。今はお前達の正規の訓練に口を挟む事は出来ない」

 

「でも、タカクラチーフ……テスラ研に来てからあたし達、戦闘訓練ばかりだけど……これって……やっぱりあたし達も前線へ配属になるということですか?」

 

訓練内容について不安を感じていたのかアイビスもスレイの訴えている内容とは違うが、今の訓練に対する疑問を口にする。

 

「私も詳細を知らされていません……ですが、そうなった場合も連邦の管轄にある以上、TDに拒否権はないでしょう。アイビス……あなた個人はその決定を拒否することは出来ますが、それはTDの脱退を意味します」

 

プロジェクトTDは恒星間移動のプロジェクト。星の海を飛びたいと願っているアイビスにとって前線に配置されるかもしれないと言うのは恐怖でしかなかった。ヒューストン基地でのテロリストとの戦いを思い出したことも、アイビスの身体を震わせるには十分なのものであった。

 

「フン……どうやら、この前の戦いは勢いに任せての物だったらしいな。正気に戻ったら怖気づいたか。力が伴わないからそうなる。死にたくないのなら、腕を上げるのだな。ツグミ、コウキ、もう1度シミュレーターを使わせて欲しい」

 

好戦的なスレイはツグミとコウキにもっとシミュレーターを使わせてくれと言う。訓練の時間は過ぎているから、駄目だとツグミが言おうとしたが、コウキがそれを腕で制した。

 

「良いだろう、お前のために特別なシミュレーターを使わせてやる。このシミュレーターをクリアできたのなら、俺の方からもお前の訓練の変更を承諾するようにフィリオに言ってやっても良い」

 

「コウキ! 貴方何を言っているのか判っているんですか!?」

 

「言っておくがツグミ。今はまだ出向という立場だが、テスラ研に戻った以上俺はテスラ研の技術・防衛主任と言う立場に戻ることになる。そうなればお前達の訓練内容にも口を出す権利があるという事を知れ」

 

今まで口は悪いが、ツグミとフィリオを立てて来ていたコウキの突然の豹変にツグミは驚いて何も言えない。

 

「アイビス、お前も出来るならやってみろ」

 

「え? あ、あたしも?」

 

「そうだ。このままプロジェクトTDに関わるのならば、お前達は高速での飛行訓練を行う、その訓練の予行演習だと思え。

言っておくが、今まで使っていたシミュレーターと同じだと思うなよ。ハガネのシミュレータールームで何人も医務室送りにした曰く付きのシミュレーターだからな」

 

「こ、コウキさん。それって……まさかッ!?」

 

「お前は知っているな、今は黙っていろ。アイビス、スレイ。こっちだ、乗りこなして見せろとまでは言わないが、30秒は耐えて見せるんだな」

 

「ふん、約束は守ってもらうからな。コウキ博士」

 

旧式のシミュレーターの前に立ち挑発するコウキ。そしてコウキにも噛み付くスレイがシミュレーターに乗り込み扉が閉まる。それが何かを知っているクスハが青い顔をしている中シミュレーターがゆっくりと起動する……それが地獄逝きの特急便であるという事をスレイが知るまで30秒、そして半分泣きそうになりながらも強い決意をその瞳に宿したアイビスがシュミレーターに乗り込むまで50秒――スレイとアイビスの受難は今ここに幕を開けるのだった……。

 

 

 

第26話 星追う翼 その2へ続く

 

 

 




アイビスとスレイが乗せられたシミュレーターが一体何なのか、勘のいい人は判ると思いますがお口にチャックでお願いします。
次回はグルンガストとの模擬戦まで進めていけたらなと思っております、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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