第26話 星追う翼 その2
動き始めたシミュレーターを前にツグミは首を傾げた。ハガネに搭載されていたシミュレーターと言うのならばPTの物だろう。だが、今稼動しているシミュレーターはPTの物よりも大型で、それこそプロジェクトTD用のカリオンなどのシミュレーターの規模に良く似ていた。
『これは戦闘機か、操縦は……なんだ、ハガネのクルーはこんな簡単な戦闘機も飛ばせないのか?』
コウキは何人ものパイロットを医務室送りにしたシミュレーターだと言っていた。スレイのあまりに傍若無人の言い回しにコウキが怒って、試作機のシミュレーターを回したと思っていたのだが、シミュレーターの内部のスレイの話を聞く限りではそれほど操縦が難しいと言う訳ではなさそうだ。
「御託はいい、操縦方法を把握しろ。操縦方法を確認したらさっさとシュミレーターを稼動させろ」
スレイの言葉を両断して、さっさとシミュレーターを稼動しろとコウキは命令する。
『まぁ良いだろう。こんなシミュレーターをクリアするだけでコウキ博士が口引きしてくれるんだ。私に文句はない』
スレイはそう言うと通信を切り、シュミレーターの動作確認を再開する。
「コウキさん、これ本当に乗せて大丈夫なんですか?」
「荒療治だが、天狗になっているスレイにはこれくらいしなければ何の意味もない。なにあいつなら心が折れる事はないだろう」
「ちょっと待ってよ。コウキ博士、そんなにこのシミュレーターってやばいのッ!?」
荒療治、天狗になった鼻を折ると言う余りにも物騒な言葉にアイビスがそう尋ねる。だがコウキはしれっとした顔をして、シミュレーターに視線を向けている。
「ああ、それとさっきの発言は撤回する。すまなかったな、ツグミ」
テスラ研の研究主任だから発言力は上だと言った事を謝罪するコウキ。ツグミはコウキの謝罪の言葉に驚いた表情をした、深く頭を下げていることからコウキが深く謝罪しているのが判った。
「そ、それは別に良いんだけど、なんでスレイをこのシミュレーターに乗せたの? このシミュレーターは……『う、うわああああああああーーーーッ!?』
す、スレイッ!?」
このシミュレーターが何なのか? とツグミが尋ねた瞬間。スレイの悲鳴がシミュレータールームに響き渡り、シミュレーターが緊急停止した。シミュレーターの内部で気絶してぐったりしているスレイを見てクスハもコウキも予想通りと言う顔をしている。
「こ、コウキ博士。クスハ……このシュミレーターは何? スレイが気絶する所なんて見たことないんだけど……」
カリオンなどのシミュレーターで気絶する候補生は何度も見たことがあるアイビス。かく言う彼女も最初はカリオンのシミュレーターに耐え切れず気絶していた口だ。だがだからこそスレイが気絶したと言うのが信じられなかった……一体このシミュレーターは何なのかとアイビスが尋ねるとクスハがアイビスの疑問に答えた。
「ゲットマシンのシミュレーターですよね? コウキさん」
「ああ。ハガネでロバートが作った物を譲り受けたんだ」
ゲットマシンのシュミレーターと知って二人は驚いた。L5戦役の最終盤でアイドネウス島のメテオ3が動き出した時に、メテオ3と共に自爆し、MIAになったゲッターロボの話はツグミ達も知っていた。まさかそのゲッターロボのシミュレーターがテスラ研にあるとは思っても見なかったのだ。
「ゲッターロボのシミュレーターなんて物があったのね。でも、なんでそのシミュレーターで気絶を?」
「ゲットマシンもゲッターロボもパイロットの安全性なんて度外視しているからこその高性能だ。俺の知る中では「ハジをかく」なんて言う言葉もあったくらいだぞ」
気絶しているスレイを引きずり出しながら淡々と言うコウキ。ぺいっと投げ捨てられたスレイは乙女あるまじき姿で床に放置されているのをみて、ツグミが自分の着ていたジャケットをスレイにタオルケットのようにして被せた。
「恥をかくって気絶する事?」
「まさか、そんな甘っちょろいもんじゃない。ツグミ達はゲッターが合体する所を見たことがあるか?」
「う、うん。こうぶつかって……」
ゲットマシンの合体は追突事故もかくやと言う合体方法だ。そこまで口にした事でハジをかくの意味をツグミ達は理解した。
「そうだゲットマシンのハジをかくとは死ぬという事だ。それほどゲットマシンの操縦は危険な物だ、だが逆を言えばこのシミュレーターをクリア出来れば「ベガリオン」や「アステリオン」の操縦をしてもホワイトアウトを起す事はないだろうし、どんなマニューバだって完璧に乗りこなせるだろう。なんせゲットマシンのシミュレーターは最高加速にまで到達したハイペリオンの倍近い負荷が掛かる。これを乗りこなすという事は、プロジェクトTDのどんな機体をも乗りこなせると言う事と同意義だ」
「……ふっ、面白い……続けさせて貰おうか……」
「スレイ! 今日は16時から実機訓練があるのよ!? 無茶をしてどうするの」
「まだ7時間もある。その間に体調は整える……コウキ博士、続けさせてくれるよな?」
「お前がやるというのなら俺は止めない。好きにしろ」
ふらつきながら身体を起こしたスレイがシュミレーターに乗り込もうとするが、その肩を背後からアイビスが掴んだ。
「なんだ。アイビス」
「スレイはさっき試しただろ? 今度はあたしだ」
その腕を振り払おうとしたスレイだが、アイビスの目に強い決意の色が浮かんでいるのを見て小さく笑った。
「どうせ私よりも早く気絶する」
「そんなのやってみないと判らないよ! コウキ博士、スレイは何秒で気絶した?」
「4秒だ」
「な!? 10秒は耐えた筈だ!」
「いえ、4秒ね。じゃ、アイビスはまず4秒を越えましょうか」
「そ、そうだね。よっしっ! 行くよッ!!」
スレイですら4秒しか耐えれなかったゲットマシンのシミュレーター。恐怖も相まって、半分泣きそうになりながらも、それでも強い決意の色をその瞳に宿し、アイビスがシミュレーターに乗り込んだ。
『に、にゃああああーーーッ!? な、なななななななななあああああーーーッ!!!! 落ちるッ!!! 落ちるうううううううううーーーーッ!!!』
「凄いな、案外耐えてるぞ。アイビス」
『みゃああああああああーーー……』
「結局駄目でしたけどね」
猫のような悲鳴を上げ、それが徐々に途絶えてアイビスも気絶したがスレイの倍近い8秒を耐えたアイビスにスレイが対抗心を燃やし、再びシミュレーターに乗り込む。コウキが意図したわけでは無いが、切磋琢磨する状況になりコウキは小さく微笑むのだった。
「じゃあ、クスハも乗っておくか」
「え? い、いえ私は」
「なに遠慮するな、乗っておけ、ああ、そうだなツグミも乗るか?」
「え? いやいや、私は、そ、それよりもコウキも」
「俺も乗る。いい経験だ、全員乗っておけ、な?」
有無を言わさないコウキにツグミ達も全員ゲットマシンのシミュレーターに乗せられ、テスラ研のシミュレータールームから少女達の悲鳴が途絶えることは無いのだった……。
テスラ・ライヒ研究所の休憩室にアイビス、ツグミ、クスハ、スレイの4人はぐったりとした様子で座り込んでいた。粗相をしてないだけ乙女の尊厳は守ったが、完全に消耗し切っていた。
「なんだ、情けない。そんな様で大丈夫か?」
1人平然としているのはコウキ1人だけだった。しれっとした顔でケーキを口にしているコウキにアイビス達が信じられないと言う顔をする。
「コウキ博士、普通に乗れてましたね」
「コウキ博士なら普通にプロジェクトTDの機体を乗れるんじゃない?」
コウキは平然とゲットマシンのシミュレーターを乗りこなし、合体にまで漕ぎ着けていた。その姿にツグミ達は普通にプロジェクトTDのパイロットになれるんじゃないか? と口にする。
「俺は俺で研究している専用機がある。それにプロジェクトTDの機体は好かん」
「兄様の機体に不満があるとでもいうのか?」
普段の凜とした雰囲気は無いが、それでもキッとコウキを睨むスレイにコウキは苦笑しながらコーヒーを口にする。
「俺は特機の方が好きなんだよ、もしもパイロットをするのならな」
「でも、コウキさんの機体ってゲシュペンスト・MK-Ⅲのカスタムタイプでしたよね?」
クスハが思い出したように尋ねるとコウキは肩を竦める。
「俺は一応研究主任と言う立場ではあるが、テスラ研の防衛隊も兼ねているからな。専用機が出来るまではデータ取り用のゲシュペンスト・MK-Ⅲを借りているだけだ。まぁあれでも俺の作りたい機体の武装のテストが出来ると思えば御の字だ」
ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタム。両腕と背部に特長的な武装を装備をしているのはクスハも知っていた。
「あの、失礼なんですけど、あのOカスタムの装備ってもしかしてゲッターロボをモチーフに?」
斧にドリル、ミサイルに腹部のビーム。マントや赤を基調にしたカラーリングを見て、クスハも初めて見た時はゲッターロボと驚いたのだ。だから武装のモチーフはゲッターロボなんですか? と問いかけた。
「……そうだな。ゲッターは参考にしている……ずっと、そうだな。ずっとずっと前からゲッターを越えたいと思っていてな」
「ずっと?」
コウキの口ぶりでは何年も前からゲッターを知っていると言わんばかりの口ぶりでクスハがそれを指摘しようとした時、休憩室の扉が叩かれて、振り返るとジョナサンが腕を組んで笑っていた。
「おいおい、コウキ、何時までお嬢さん達とお茶をしてるんだ? 私の研究を手伝ってくれる時間はとうに過ぎているぞ?」
「カザハラ博士。すいません、少し話し込んでいました」
「何気にする事はない、お嬢さん達も英気を養って、午後からの実機のトレーニングも頑張ってくれたまえ」
ジョナサンはそう言うとコウキを連れて休憩室を出て行った。
「珍しい事もあるのね」
「珍しいことって?」
「何かおかしいことでもあったか?」
やっとシミュレーターの衝撃から回復したアイビスとスレイがチーズケーキを口にしながらクスハに尋ねる。
「カザハラ博士なら、私達がお茶会してたら混じってくると思ったんだけど……コウキさんが怖かったのかな?」
テスラ研の女性職員の合言葉として、ジョナサンにナンパされたらコウキを呼べと言うものがある。クスハも現にテスラ研に来てすぐそう教えられていた。
「そういえば、コウキ博士って口は悪いけど、あたし達が質の悪い兵士に絡まれている時に助けてくれたよね?」
「確かにな、色々と助けられてはいる」
プロジェクトTDは女性ばかりがメンバーで集められているのでフィリオの趣味だ、ハーレムだと言った風の下種な勘繰りをする兵士が多く、事実アイビスとスレイもフィリオに抱かせているんだから抱かせろと言って絡んできた兵士に腕を捕まれ、部屋に連れ込まれそうになった事がある。その時にスレイとアイビスを助けたのはコウキだった。
「そういう意味での護衛も兼ねていたのかも知れないわね」
ゲシュペンストMK-Ⅲを使ってのテロリストなどからの襲撃からアイビス達を守る、そして女性だけという事で妙な勘繰りをする兵士からも守る。そして極め付きにはカリオンのメンテのエキスパートでもある。
「コウキ博士って実際何者なんだろうね?」
「記憶喪失でカザハラ博士に保護されたと兄様は言っていたが……」
「え? そうなんですか?」
「ああ、兄様がテスラ研で研究している頃から何度か顔合わせはしているが、コウキ博士は自分の生まれも、親も知らない記憶喪失の浮浪児だったらしい。本人が気にしてないようだが……一時期はそれでずいぶんと言われたらしい」
「でもそれなのに、今はテスラ研の研究主任なんだよね? コウキ博士って何者なの?」
「あら? アイビスはコウキが気になるの?」
「い、いやあ!? そういう訳じゃないよ? でもさ、色々助けられてるのにあたし達はコウキ博士の事何にも知らないなあって思ってさ」
テスラ研で最も謎多き男――「コウキ・クロガネ」の話題でアイビス達は16時の実機訓練までの間を姦しく過ごしているのだった。
「……と言う訳なんだ。コウキ、君も協力してくれるかい?」
ジョナサンに連れられてコウキが訪れたのは研究室ではなく、テスラ研の管制室だった。フィリオの説明を聞いて、コウキは深く溜め息を吐いた。
「俺がやった以上の荒療治になるぞ?」
「そうだね」
「下手をすれば、再起不能だ。それでもやるのか?」
「必要な事なんだ」
何を言っても無駄だと悟り、コウキは額に手を当てながら頷いた。
「良いだろう。付き合ってやる、リシュウ先生もやるんだ。俺が呆然と見ているわけには行くまい」
何を言っても無駄だと悟り、コウキはフィリオ達の狂言に付き合うことを決めるのだった……。
16時の実機訓練の前にブリーフィングと言う事でクスハ達が管制室に呼ばれたのだが、そこで信じられない言葉をフィリオによって告げられた。
「え? リシュウ先生とコウキさんも訓練に参加するんですか?」
「そうじゃ、ワシはグルンガスト2号機でな」
「俺はOカスタムのTC-OSの挙動を確かめる為に参加する」
今まで訓練に参加する事はなかったリシュウが訓練に参加すると聞いてクスハは嫌な予感を感じていた。
(コウキさんなら判るんだけど、リシュウ先生も?)
何度かコウキも実機訓練に参加し、厳しくはあるは生き残る為に必要な術をアイビス達に教えていた。その事に関しては何の疑問も無いのだが、何故リシュウが参加するのか? クスハにはその意図が判らなかった。
「この老いぼれに特機が扱えるのか……とか言いたげな顔じゃのう」
リシュウとコウキを交互に見ていたアイビスにリシュウがそう問いかける。アイビスはしまったという顔をして、慌てて手を左右に振る。
「い、いえ、そんな……!」
「心配せんでいい。ワシは立会人みたいなもんでのう。機体制御はTC-OS任せじゃ」
「あ……それなら……安心ですね」
アイビスは実際心配していたのだろう。リシュウのような高齢の男性が特機に乗ると聞けば誰だって心配する、それは当然の事である。オート操縦と聞いて明らかに安堵していたアイビスだが、訓練概要を見ていたスレイの言葉にその顔を凍りつかせた。
「少佐、実戦に近いデータということは実弾を使用するということでしょうか?」
「えッ!?」
慌てて訓練概要に目を通したアイビスとクスハ、そしてツグミの3人。しっかりと訓練概要に実弾を使った限りなく実戦に近い訓練と言う文字が書かれていた。
「……その通りだ。ここ最近テロリストの動きも活発化しているし、謎の特機の話もある。プロジェクトTDの想いには反するが……必要な事なんだ」
「望む所です。所詮、シミュレーションはシミュレーション……緊張感のない訓練で実力は向上しませんから」
スレイは実弾を使った訓練と聞いて好戦的な笑みを浮かべているが、アイビスとツグミの表情には強い不安の色が浮かんでいた。
「タカクラチーフ、君には現場でオペレートを担当して貰う」
考える時間も反論する余地も与えないと言いたげに続けざまに指示を出すフィリオ。その姿にクスハは強い違和感を抱いた……柔和な笑みを浮かべているフィリオは自分の意見を押し付けたりしない、仮にそうなる場合もきっちりと説明し、納得するまで話し合いを設けてくれる……そんな理解のある理想の上司とでも言うべき性格だった筈だ。
(どうしたんだろ? フィリオ少佐)
クスハ自身は実戦をその肌で経験しているので全く気にならないが、ルーキーのアイビス達では厳しいのでは? と思い口を開こうとしてコウキに首を振られ開きかけた口を閉じた。何か、思惑があるのならば余計な茶々を入れるべきではないと理解したのだ。
「私も戦闘に参加するという事ですか?」
「場合によっては、そうなる」
フィリオの固い表情を見て、ツグミもこの訓練に何らかの意図があると悟り、反論を口にする事無く頷いた。
「……判りました」
「タカクラチーフはAMの操縦が出来るんですか?」
しかし、ツグミの了承の言葉に驚いたのはクスハだった。オペレーターとしての活躍は何度も訓練をしているので知っていたがAMも操縦出来るのかと心配になりそう尋ねる。
「大丈夫ですよ。最低限の訓練は受けていますから」
「まあ、そう心配しなくてもいい。あくまで訓練の一環だからな」
訓練は受けていると言うツグミと訓練だから大丈夫と言うジョナサン。やけに訓練と言う言葉を強調するなとクスハを含めて全員が感じていたが、それを口にすることは無く、フィリオの言葉に耳を傾けた。
「訓練は1600から開始する。各自は30分前にブリーフィングルームへ集合してくれ、では解散」
実弾を使った訓練と言う事で口数が少なくなったアイビス、それに対して口数が多くなったスレイ。そんな2人を見て、クスハは大丈夫かなと思いながら管制室を後にし、ブリーフィングルームに足を向けた。
『CCより各機へ。事前に話した通り、ターゲットは実弾を装填している。威力は弱めてあるが、当たり所が悪ければ致命傷になりかねない。油断をしないように』
フィリオから淡々とした訓練内容を聞きながら、クスハは久しぶりに乗る実機のグルンガスト弐式の感覚を確かめていた。
(違和感は……無い、これなら大丈夫)
ラングレーの制圧事件の際にブリットが乗った事で再調整をしていた弐式。T-LINKシステムに違和感があるかもしれないと言われていただけに、訓練の前に念入りに挙動確認を続けていた。
『各機は連係を取り、全てのターゲットを5分以内に破壊してくれ。クスハはカリオンと連携を合わせる為にGホークに変形してくれ』
「了解です」
弐式のコンソールを操作し、Gホークへと変形させ2機のカリオンの後につけ、ターゲットの確認をする。
(バルドングと……M-ADATS……落ち着いてやれば何の問題も無いかな?)
旧式の戦車とミサイルとレールガンを装備しているがこれもカリオンやGホークの運動性にはついて来れないM-ADATSならば、操縦ミスや妙に焦らなければ大丈夫だとクスハは判断した。問題は、クスハよりもアイビス達の方だった。
『集中しろ、アイビス。お前のミス1つで、このミッションは失敗になる。お前は私のサポートに回れ。万が一、私が敵を撃ちもらす事が
あったら、それを狙うんだ。クスハは右全面に展開されたバルドング達を頼む、私とアイビスで左全面のバルドングを撃墜する』
『う、うん……了解!』
「判った、スレイさん達も気をつけてね」
本当ならば3機でフォーメーションを組むべきなのだが、スレイの指示に従うようにと文章通信が管制室から送られてきたので、それに従う事にする。
『ワシは何もせんからの。頑張れよ、嬢ちゃん達』
『行動パターンは記録しておく、訓練の後の見直しの準備も出来ている。まずは深く考えず、思うようにやってみろ』
管制室の前で左右に陣取っているグルンガストの2号機とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムのリシュウとコウキから通信が繋げられる。
「でも、リシュウ先生、コウキさんも……どうしてグルンガストとゲシュペンストMK-Ⅲに?」
TC-OSの挙動確認とは聞いていたが、それでもやはり違和感を拭いきれずそう尋ねるクスハ。するとリシュウとコウキは若干間を置いてから返事を返した。
『む……まあ、ちと思う所があっての。リハビリみたいなもんじゃな、な、コウキ』
『そう言う所だな。まぁ、お前達は気にするな。俺とリシュウ先生もそれなりに考えている事があると言うことだ』
「リハビリですか?」
その口ぶりではまるで実戦に出ることを想定しているように感じて、思わずそう尋ね返す。
『ああ、いやいや。ワシにこんな物は扱えん、歳も歳じゃしのう。ここでおぬしらの訓練を見物させて貰うわい』
とって付けたような言い訳にますますこの訓練の違和感を感じ始めるクスハ。その事を指摘するか、しまいか悩んでいるとツグミの乗るガーリオンからGホークとカリオンに通信が繋げられ、違和感所の話ではなくなったため、クスハは操縦に専念する。
『所要時間は5分を想定していますが、私の計算では4分で遂行可能の筈です』
『え……ッ!? ツ、ツグミッ!?』
『……面白い。4分だな?』
想定している訓練時間よりも1分短縮して見せろというツグミにアイビスは動揺し、スレイは闘志を燃やす。
(やっぱり、この訓練どこかおかしい)
クスハだけがこの訓練に違和感を抱きながら、フィリオの合図で実機による実戦訓練が始まるのだった……。
ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムのコックピットの中でコウキはキーボードを叩きながら、訓練の様子を見ていた。
「クスハはやはり高水準だな。スレイとアイビスとは格が違う」
L5戦役を駆け抜けたと言うのは伊達でもなんでもない、Gホークの装甲と運動性能、そして増設したブースターとスラスターを使い、バレルロールを交えながらバルドングとM-ADATSを撃墜している。
「念動力……か、ここまでの汎用性があるとは驚きだ」
T-LINKシステムを用いる事でグルンガスト弐式のパフォーマンスはカタログスペックを完全に超えている。その数値の高さと念動力の凄まじさを記録しながら今度はスレイとアイビスのカリオンに視線を向ける。
「ふむ、こっちも悪くないな」
ゲットマシンのシミュレーターが生きたのか、アイビスとスレイの動きも格段に良くなっている。
『そこだッ!』
『!?!?』
スレイの射撃は正確無比で、ワンアプローチでの撃墜に特化している。動力部のみを狙い撃てば弾丸の消費も、ENの消耗も最小限に抑えることが出来る。それは以前からのスレイの戦闘スタイルだが、ゲットマシンのシミュレーターの経験を生かしたのか、緩急を交え、バレルロールや急速反転も組み合わせ、1発も被弾しない。
「なるほど、スレイ自身の目標は被弾しない事か……」
スレイは訓練ごとに自分に目標と課題を課している。今回の実機訓練では被弾しない事を課題にしているらしく、ミサイルなどを迎撃しその爆風でミサイルを完全に回避している事から被弾しない事を目標にして上手く立ち回っている。
『うわっ!? ま、まだまだッ!』
「アイビスは……まだまだか」
スレイと比べればアイビスの操縦テクニックは格段に劣る。確かにゲットマシンシミュレーターで思い切りの良い操縦が出来るようになったとは言え、それらを全て自分の物には出来ていないのか、被弾しながら懸命にバルドングへのアタックを試みている。
『そこだッ!!』
『!?!?』
「十分及第点だ。前よりも勇敢になっている』
元々戦闘が得意ではないアイビスが勇敢にアプローチしていると言うのはコウキから見て、十分に評価出来る物だった。自分達で課した4分でクリアするというノルマもクリアしている。
『ほほう。やるじゃないか、君の天使達は』
その動きはジョナサンから見ても十分に合格点だったのだろう。声も弾んでいる、しかしそれに対してフィリオの声は固い。
『ええ、操縦能力に関しては……十分及第点です、いや合格と言っても良い。でも、実弾を使っているとは言え、所詮訓練です。戦闘に関しては落第点です。コウキ……打ち合わせ通り頼めるかい?』
「本当に良いんだな? スレイとアイビスが脱落しても、俺は責任を取らんぞ」」
『大丈夫。僕の選んだパイロットだ、この程度じゃ折れないよ』
フィリオの言葉に頷き、コウキはキーボードのエンターを押し込んだ。
『な、なに!? 警報ッ!?』
『ま、まさかテロリストか!?』
鳴り響いた警報にスレイとアイビスが動揺している隙にカリオンの間を抜けて、高速で飛来した戦闘機がグルンガスト2号機とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムに向かって何かを射出する。
『な、何!? 何が起きているの!?』
『自爆した!? あの戦闘機は何ッ!?』
ツグミ達の混乱した声に若干の罪悪感を感じながら、コウキはシートベルトでしっかりと身体を固定する。
『な、何じゃ!? グルンガストがッ!? い、いかん! 機体が勝手に動きおる!』
『こっちもだ! 機体のコントロールが一切利かないッ!!』
あの戦闘機により、操縦経路を乗っ取られたと言う設定で、アイビス達の実践訓練に乱入する……それがフィリオの考えた本当の実戦トレーニングだった。
(ここで潰れるかどうか、見届けさせてもらう。折れるのならば……お前達はここで退場しろ)
コウキがこの狂言に参加することを決めたのは、伊豆基地から送られてきた異形の特機……「百鬼獣」の存在を見たから、これからより激しい戦いが地球で始まる。その中にアイビスとスレイも参加することになるだろう……ここでもし心が折れるのならば、退場した方が良い。それがコウキの親心であり、そしてかつて「鉄甲鬼」として、百鬼帝国に属していたからこそ知る百鬼帝国の悪辣さから、戦えぬというのならば戦場から遠ざけようとするコウキの思いやりなのだった……。
第27話 星追う翼 その3へ続く
次回は暴走した降りのグルンガスト2号機とOカスタムの話になります。その後は、クロガネの話をしていく予定です。後、ここら辺からですが、シナリオの前後を含め、地上/宇宙ルートの同時展開とか言う無茶に踏み切ります。なので話数が増えるという事を先に報告しておきますね。今回は2話連続更新ですので次の更新もよろしくお願いします
おまけ
ゲシュペンスト・Mk-Ⅲ・Oカスタム
テスラ研に戻って来た先行量産試作機のゲシュペンスト・MK-Ⅲをコウキが改造した物。主な改造点としては背部にブースターと兼用のフレキシブルウエポンシステムの搭載、腕部に可変式のアームズユニットの装備。そしてビームと実弾に高い防御を誇るマント型の防具と腹部のブラスターキャノンの新設である。赤と黒のカラーリングとマントからゲッターロボを連想させる意匠となっている。この機体自身はコウキが自分専用の特機のテストタイプではあるが、換装武装などを装備出来なくした代わりに出力を向上させておりPTでありながら特機に迫るパワーを有している。可変式アームズユニットは腕に装着時はブレード、展開し斧、腕の先に装着しガトリングとミサイル、そしてドリルに腕先に装甲を展開し射出するなどの多岐に渡る機能を有するが、武装の8割をアームズユニットに頼っている為、それを失った場合は戦闘力が一気に低下するという弱点も有しているが、高水準で纏まった性能を持つ機体である。
ゲシュペンスト・Mk-Ⅲ・Oカスタム
HP7200(9200)
EN190(340)
運動性155(190)
装甲1700(2100)
特殊能力
マント HP4000(HPフル改造時、6000まで上昇) 攻撃命命中時、HPが減る変わりにマントのHPを消費する。ビーム系・実弾のダメージを40%カット
格闘 ATK3300
ガトリングアーム ATK3500
ミサイル ATK3500
斧 ATK3900
チェーンアタック ATK3900
トルネード ATK4200
ブラスターキャノン ATK4900
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い