進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第27話 星追う翼 その3

第27話 星追う翼 その3

 

謎の戦闘機の攻撃によって暴走状態に陥ったグルンガストの2号機とゲシュペンストMK-Ⅲ・Oカスタム。そして正規のトレーニングのターゲットであるバルドングとM-ADATS達とスレイ達3機で相手をするのには厳しすぎる相手がアイビス達の前に立ち塞がった――と、アイビス達には見えているだろう。

 

(いやいや、フィリオ。これは荒療治にも程があると思うぞ。私は)

 

この事を知っているのはフィリオ、ジョナサン、リシュウ、コウキの4人だけで、他のオペレーター達がパニックになっているのを見て罪悪感を感じながらも、これアイビス達の為と自分に言い聞かせ、混乱している演技を続ける。

 

『カザハラ博士ッ! 少佐ッ!? 何が起きているのですかッ!?』

 

ガーリオンのコックピットからツグミが何が起きているのか説明を求める声に、ジョナサンは通信機のスイッチを入れた。

 

「原因は恐らく、先ほどの戦闘機だ。それから射出された何かががこちらにハッキングしているッ! フィリオ状況は!?」

 

「メインコンピューターへのハッキングはブロックしましたが、制御系へハッキングは止めれませんッ! 依然全機暴走中ですッ!!」

 

実際に仮とは言えハッキングを行なわれているので、それをブロッキングしながら報告を上げるフィリオ。その切羽詰った声にオペレーター達も必死にハッキングに抵抗するが、コウキお手製のハッキングプログラムだ。経験の足りないオペレーター達ではその動きを止める事すら出来ないでいると管制室にツグミの悲鳴が木霊した。

 

『きゃああっ!!』

 

ガーリオンの周辺にミサイルが着弾し、直撃はしていないがガーリオンの姿が煙の中に消える。

 

『タカクラチーフッ!』

 

『仕掛けてきたッ!?』

 

姿が見えなくなったガーリオンにアイビスとスレイの焦った声が響いた。

 

「くっ、武装系のコントロールまでッ!」

 

「アイビス君、スレイ君、クスハ君! 聞こえるか! ターゲットとグルンガスト2号機、ゲシュペンスト・MK-Ⅲが暴走中だ。こちらも何とかコントロールの奪還を試みるが、4人で協力して鎮圧してくれッ! 」

 

管制室からのジョナサンの声――それは本当に真に迫っていた。まるで本当に何者かの攻撃を受けて、機体がハッキングされて暴走しているとスレイ達も信じ込んだ。

 

『こ、これじゃ、正真正銘の実戦……!』

 

『ど、どうすればいいんだ……!? あ、兄様。わ、私はどうすればいいッ!?』

 

本当に実戦に巻き込まれたと思っているアイビスとスレイは半分パニックになり、フィリオにどうすれば良いのかと助けを求める。これが実戦に出た事が無い、スレイとアイビスの限界だった。だが、ここにクスハがいることで状況は大きく変わる。

 

『戦うしかありません……ッ! スレイさんとアイビスさんでタッグを、私がグルンガスト2号機とゲシュペンストを食い止めます。2人で砲台とバルドングを止めてくださいッ!』

 

クスハならばその選択をする。だから、フィリオは今回の訓練にクスハを参加させた。L5戦役で戦い抜いたクスハだからこそ、この状況でも冷静に自分が何をすれば良いのかを判断出来るからだ。

 

『クスハ!?』

 

『で、でも、そんな事をしたらリシュウ先生とコウキがッ!』

 

リシュウとコウキの身を案じるアイビス達だが、当の本人達からの通信がカリオンにへと繋げられる。

 

『ワシの事は心配いらん。こいつは頑丈だからなッ! 関節を壊して、動きを止めてくれいッ!』

 

『こっちは背部のプロペラントタンクを破壊してくれ、そうすれば動きが止まるッ!』

 

切羽詰った口調だが、アイビス達にどうすればいいのかを告げるコウキとリシュウ。

 

『で、でも少佐ッ! ターゲットは私達を敵だと認識しているッ! これでは実戦と同じだわッ!』

 

『し、失敗したら死ぬ……ッ』

 

しかし実戦経験の無いアイビスとツグミは自分達が撃墜される光景を想像したのか、声が震え照準を合わされると大袈裟な動きで逃げ回る。完全に心が折れかけていた……コウキが危惧したとおり、荒療治が過ぎたのだ。

 

『……覚悟を決めろッ!アイビス、タカクラチーフッ! どうやら、やるしかないようだ……ッ!』

 

だがスレイだけはやるしかない。と震える声ながら戦う事を決めた、しかしアイビスとツグミは今も逃げ回っていた。

 

『う、うう……ッ!』

 

『わ、私も……ッ!?』

 

『タカクラチーフは無理をせず、支援に回って下さいッ! 作戦はさっき伝えたとおりですッ! スレイさん、アイビスさんッ! バックアップをお願いしますッ!』

 

クスハはそう言うと格納庫を飛び越え、腕の側面のブレードを下にして急降下してきたゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムとの戦闘を始める。しかし、アイビスとツグミは戦闘に参加出来ず、砲台を止めようと動き出したスレイと、グルンガスト2号機とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムと戦うグルンガスト弐式を震える目で見つめているのだった……。

 

 

 

 

グルンガスト二号機のコックピットの中でリシュウはその顔を痛ましそうに歪めていた。

 

(やはり荒療治が過ぎる)

 

元々リシュウはこの訓練には反対していた。だがプロジェクトTD――恒星間を飛ぶという目標を掲げる以上敵性の宇宙人と遭遇する事もある。失敗してもやり直しが利く内に訓練をするべきだというフィリオの熱意に折れた形になったが、やはり止めるべきだと感じていた。

 

『リシュウ先生、我慢してくださいッ!』

 

その声と共に振るわれるグルンガスト弐式の拳。胸部に命中し、激しい振動がリシュウを襲う。だが身体を鍛えているリシュウにとってはそんな衝撃はなんでもない、むしろクスハに言った通り今回グルンガスト二号機に乗っているのはリハビリなのだ。ラングレーの制圧事件の時に目撃されたガーリオンカスタム――それを打ち倒すために、再び戦う事を決めたのだ。だからこの程度の衝撃なんて、何の問題もない。

 

『弐式! お願いッ!!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムのガトリングアームを念動フィールドで防ぎ、ブーストナックルで反撃に出る弐式。

 

『ぐっ!? な、中々やるな』

 

『す、すいません。大丈夫ですか!?』

 

確かにゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの装甲は並のPTよりも遥かに上だ。だが特機の攻撃の直撃を受ければダメージを受けるのは当然の事だった。

 

「中々骨が折れるの」

 

『しかたありません、それよりもリシュウ先生は大丈夫ですか?』

 

「なんのなんの、ワシは平気じゃよ」

 

実戦だと思っているからかクスハの攻撃もかなり強烈だが、念のためにコックピット周りを強化しているので衝撃の割にはリシュウとコウキに掛かる負担は小さかった。

 

「しかし、やはりアイビスは脱落じゃろうか?」

 

『……それならばそれでいいでしょう。それも運命です』

 

スレイは果敢にバルドングとM-ADATSに攻撃を仕掛ける。しかしそれだけではない、実戦と思っている事が響いているのかスレイの動きは格段に良くなり、戦況全体を見ていた。

 

『クスハ、下がれッ!』

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムと弐式の間にミサイルを打ち込み、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの動きを止めると同時にクスハの逃げる隙を作り出す。

 

『スレイさん! ありがとうございますッ! 行って、ブーストナックルッ!』

 

『!!!』

 

弐式と二号機のブーストナックルがぶつかり火花を散らす。その直後にカリオンのレールガンがグルンガスト二号機の脚部の装甲を狙い撃つ。

 

「ほっほ、中々やりおるな」

 

『スレイにはこのやり方があっていたようですね』

 

追詰めるほどにスレイはその才能を開花させた。今だってバレルロールでミサイルでバルドングを破壊しながらの超精密射撃――これは訓練では出来なかった事だ。フィリオの想定した通り実戦の中でスレイはその才能を開花させた。

 

『少し衝撃が来ますが我慢してください』

 

「む、良かろう」

 

テスラ研の周りと格納庫周辺のM-ADATSの放ったミサイルの弾幕が弧を描き急降下してきて、テスラ研のカタパルトを爆破する。その爆風にグルンガスト弐式を含め、全員の機体は激しく揺れる。それはアイビスやツグミが動かない事で、生き残っていたM-DATSのミサイルによる絨毯爆撃――逆を言えば、スレイが当たっていたM-ADATSは全て沈黙しており、アイビスが動いていれば当たる筈のない攻撃だった。これを見てもアイビスが動けないのでは、プロジェクトTDからアイビスは手を引くしかない。ここがアイビスにとっての分水嶺となるのは誰の目から見ても明らかだった……。

 

 

 

 

目の前の光景を見て、アイビスは手が震えた。爆発の中に飲まれたグルンガスト弐式達は既に姿を見せているが、自分が動いていればクスハ達も今のミサイルのダメージを受けなかったと判っていた。だがアイビスの手は震えて、操縦桿を握り締めることすら出来なかった。

 

『2人共、どうしたんですッ!?』

 

クスハが広域通信で叫ぶ声が聞こえる。クスハはアイビスを信じて、バルドング達を止めてくれと言ったのに動けなかったアイビスに何故と言うのは当然だった。

 

『放っておけ、クスハ。あの2人には実戦は無理だ』

 

無理と言うスレイの落胆した声が聞こえても、アイビスは奮起出来なかった。実戦への恐怖が、死への恐怖がアイビスの負けん気さえも奪っていた。

 

『でも、この状況で気持ちが負けていたらッ! きゃあッ!?』

 

役に立たないと言うスレイの言葉に反論するクスハ。だが、バルドングの戦車砲やグルンガスト2号機のブーストナックルが弐式を掠めクスハの悲鳴がカリオンに響き、アイビスはますます身体を小さくさせた。恐ろしくて、今すぐにもでもカリオンで逃げたいという気持ちが込み上げてくる。

 

『あの2人が役に立たないなら、私達でやるまでだッ! 戦えない奴を信じて、私は死ぬつもりはないッ! 私は プロジェクトTDのナンバー01だ。敗北は許されないッ! 戦うべき時に戦えないのならば、星の海になど行ける物かッ!』

 

戦うべき時に戦えないアイビスとツグミを断ずるスレイ。星の海を行くと言う事は戦う事もあるという事だ、夢を見ているだけでは星の海を飛ぶ事など出来はなしないと、アイビスの夢を知るからこそそう発破を掛けるスレイ。それでも、アイビスが動けないでいると今度はクスハがアイビスに声を掛けた。

 

『……アイビスさん、私だって戦うのは怖いんです』

 

集中砲火に晒され、弐式の腕と念動フィールドで攻撃を防ぎながらアイビスへと声を掛け続ける。

 

『それに、戦うのは辛い……でも、私には守りたい人達や守りたい物があるんですッ!』

 

クスハだってDC戦争に巻き込まれなければ、争いなんて関係のない穏やかな世界で生きていただろう。戦いに巻き込まれ、そしてその中でクスハは自分の戦う意味を何の為の力なのかを、知ったのだ。そして自分が守りたい人達、守りたい物を守る為に怖くても戦う事を決意したのだ。

 

『思い出して下さいッ! フィリオ少佐が教えてくれた物を、アイビスさんの夢をッ! それこそが、あなたの守りたいものじゃないんですかッ!? だから戦って下さいッ! プロジェクトTDの為にッ! 自分の夢の為にッ!』

 

『……判ったよ、クスハ……』

 

被弾しながらもアイビスを庇い、そして激励したクスハの叫び声は消えかけていたアイビスの闘志を再び燃え上がらせるには十分な物だった。

 

『タカクラチーフ……あたし、やるよ』

 

腕の震えは止まり、さっきまで力の入らなかった手は握力が戻っていた。

 

『あたし、嫌だよ……銀河を見る前に……星の海を飛ぶ前に……こんな所で終わっちゃうなんて……嫌だッ!! だから、戦うよ! チーフとスレイとあたしで、夢を叶える為にッ!』

 

皆で星の海を飛ぶ、それがアイビスの夢であり、辛いプロジェクトTDの訓練にも耐えてこれた原動力だった。それを思い出したアイビスの瞳には燃え盛るような意志の光が宿っていた。そしてそれはツグミにとっても同じ事だった。

 

(フィリオの夢……私の夢……アイビスの夢……スレイの夢……それがプロジェクトTD……)

 

フィリオと同じ夢を見た。そしてそれをかなえるのを手伝いたいと思った、そしてフィリオの夢がツグミの夢になり、フィリオとツグミの夢がスレイとアイビスの夢になった。皆で1つの夢を叶える為にこんな所で止まれないとアイビスは吼えた、消えかけた闘志が戻り、夢を叶えるという決意を取り戻したアイビスは操縦桿を握り締め、ペダルに足を乗せた。その目にはもう迷いは一切なかった。

 

『アイビス、動きを止めるなッ! グルンガストが来るぞッ!』

 

『逃げるんじゃ、 アイビスッ!』

 

グルンガスト弐式を振り切ってアイビスのカリオンに向かってグルンガスト2号機の計都羅喉剣が振るわれた瞬間。カリオンは垂直に急上昇し、その一撃をかわし空中で反転し、機首を下にして急降下する。

 

『アイビス!? 貴女何をするつもりなのッ!?』

 

『そのままのスピードで突っ込んで何をするつもりだ! 早く機首をあげろッ!』

 

スレイとツグミの声を聞きながらアイビスは歯を食いしばって、急降下の衝撃に耐えていた。

 

(出来る出来る出来るッ! 絶対に出来るッ!)

 

テスラドライブでも殺しきれない衝撃、何度も意識が飛びそうになる中。アイビスの脳裏を過ぎっていたのは、シュミレーターでのゲットマシンの動きだった。テスラドライブなども搭載されておらず、航空力学に喧嘩を売るようなフォルム――それでもゲットマシンの飛ぶ姿は美しかった。誰かが言った、早い事は美しいのだと……アイビスはゲットマシンの飛ぶ姿に恐ろしさと美しさ、相反する2つの要素を感じていた。

 

「うあああああああああああーーーッ!!!」

 

地面に突っ込む寸前で機首を上げ、超低空飛行からミサイルとGレールガンを放ち、M-ADATSとバルドングに向かってフィールドを展開したまま突っ込むカリオン。

 

『な、何て無茶をッ!?』

 

『アイビス! カリオンを壊すつもりかッ!?』

 

最高速度で搭載武器とソニックブレイカーを併用しての突貫。それはカリオンの装甲や骨組みを揺らし、アイビスに少なくない負荷をかける。それでもアイビスは操縦桿を握り締める手とペダルを踏み込む足の力を緩めない。

 

「いっ、けえええええええーーーーッ!!!!」

 

地面スレスレから急上昇しグルンガスト2号機へと突っ込むカリオン。だがグルンガストは計都羅喉剣を構え、カリオンを待ち構えていた。

 

『アイビス、無茶じゃ! 退避しろッ!』

 

あの速度では軽く合わせるだけでもカリオンが両断される。それを悟ったリシュウがアイビスに叫んだ瞬間、カリオンの姿が消えた。

 

『『『!?』』』

 

全員が何が起こったのか判らなかった、グルンガスト2号機の計都羅喉剣が何もない空間を斬る。

 

「ブースト・ドライブッ……ゴーーーーッ!!!」

 

種を明かすと簡単な話だ、最高速度でカリオンを横から縦にし急上昇する。面から点になった事でモニターからは一瞬カリオンの姿が消え、急降下しながらグルンガストの2号機に正面から体当たりを叩き込み、右肩と右腕の関節を一撃で粉砕したのだ。

 

「やったッ!」

 

アイビスがやったのはオリジナルマニューバーの実行。しかもスレイも出来なかったゲットマシンの動きを組み込んだ。超音速の新マニューバーだった……強いて名付けるのならばマニューバーGAX。ゲットマシンの超音速の連続下降・上昇を組み込んだ新たなコンバットパターンだった。

 

『そ、そんな無茶をしてカリオンを壊すつもりかッ!?』

 

「大丈夫! まだあたしもカリオンも飛べる!」

 

『アイビスのカリオンのダメージチェックはこちらでしますッ! アイビス達は戦闘に集中して下さいッ!』

 

「了解! 行こう、スレイ、クスハ!」

 

今までの意気消沈が嘘のように明るく言うアイビス。再び飛ぶ意味を、飛びたいと願った理由を思い出したアイビスに実戦に対する恐怖は無く、以前のように飛ぶ喜びだけが胸を埋め尽くしていたのだった……。

 

 

 

 

 

薄暗い研究室の中で繰り返し戦闘画像が流される、コウキはそれをジッと見つめ時折思い出したようにキーボードを叩き、コーヒーを口にする。

 

アイビスとスレイのコンビネーションでゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムの背部プロペラントを的確に打ち抜く姿。

 

グルンガスト二号機のブーストナックルをGレールガンで迎撃し、そのままソニックカッターでグルンガスト2号機にカリオンを突っ込ませる姿。

 

そして最後はやはりこの暴走事件が狂言だと気付いたのか計都瞬獄剣峰打ちで行動不能にさせられたグルンガスト2号機とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Oカスタムを見て苦笑するコウキだったが、小さく溜め息を吐いて振り返った。

 

「俺に文句があるか?」

 

「……そうね、言い訳を聞いてからにはしてあげる」

 

ツグミが研究室に入って来たのを見てコウキは立ち上がりコーヒーサーバーでツグミのコーヒーを用意する。

 

「どこまで辿り着いた? そうでなければここにこない筈だ」

 

「そうね、貴方が連邦のデータベースにハッキングを繰り返してた事を思い出したら割りとすぐだったわ」

 

「ふっ、そうだな。俺もテスラ研にいなければ犯罪者扱いだ」

 

ジョナサンに保護されていると言う立場だが、それを利用してハッキングなどを繰り返している。それを思い出せば、今回の件の黒幕がコウキであると言う事に辿り着くのは確実だった。

 

「フィリオに頼まれたの?」

 

「……頼まれたが、最終的に決断したのは俺だ」

 

今回の訓練が狂言であると言うのはツグミにも判っていた。判らないのは、コウキが何故フィリオに協力したのかだった。

 

「普通なら貴方が止めるわよね?」

 

「そうだな普通なら止めている。だが時間が無かったんだ」

 

「……それはフィリオの事?」

 

時間がないと聞いてツグミの脳裏を過ぎったのはフィリオの病の事だ。だがコウキの返答は違う物だった……。

 

「この世界には美しい光景と優しい人間が溢れている。カザハラ博士、ユーナさん、そしてフィリオやお前達だ」

 

「コウキ?」

 

窓の外を見つめ遠い目をしているコウキを見てツグミは違和感を覚えた。普段のコウキは決してこんな事を言わないし、こんな不安を感じさせた顔をしない。

 

「だが美しい物と同じくらいこの世界には悪意が満ちている。その悪意がお前達に降りかかった時……お前達は立向かわなければならない」

 

「コウキ。貴方は……何を知っているの?」

 

「さてな……だが時間がないのは確か、だから俺は今回の事に協力した……荒療治だったが、確実にアイビス達は成長した。それで良しとしてくれ」

 

コウキはそう言うと黙り込んだ。これ以上何も聞けないと悟ったのかツグミは溜め息を吐いて、コーヒーを口にした。

 

「男って皆そうなのね、黙っていれば女が何もかも理解すると思ってる。良いわ、その時が来るまで待ってあげる、その時が来たら説明してくれるのよね?」

 

「ああ、その時が来ればな。それよりもツグミ、お前はこんな所にいないで、フィリオの所にいてやれ。あいつはあいつで気にしているからな」

 

「はいはい、後悔するくらいならこんなことやらなければ良かったのよ」

 

「だろうな。ま、それに1枚噛んだ俺が言える事ではないがな」

 

コウキの言葉にしょうがないわねと言う口調で軽く注意したツグミを見送り、コウキが再び椅子に腰を降ろそうとした時。コウキの目はある物を映した、そしてそれはアメリカのテスラ研だけではない、日本に向かうハガネ、シロガネを初め、ありとあらゆる場所でその姿を見せた。

 

「……やはり時間がないと言うことか」

 

地上から宇宙に向かって真っ直ぐに伸びる翡翠色の輝き――ゲッター線を発する何かが大気圏を突破し、宇宙へと飛び出していく光景を見ながらコウキは改めて自分に……いや、地球に残されている時間が無い事を悟った。

 

『もしもし? あんたから電話とか珍しいわね? コウキ』

 

「……そうだな。だが用件はわかっているだろ? アゲハ」

 

『……ええ、あーあ。楽しい女優業も終わりか』

 

「戻れるさ。全て終わればな」

 

『……全て終わって生きていたら……でしょ? 私はギリアムに連絡を付けて、日本を出るわ。あんたも気をつけなさいよ、コウキ。裏切りは許されないわよ?』

 

「はっ! 先に裏切ったのはあっちだ。俺は俺のやりたいようにやる……それだけだ。お前も気をつけろよ』

 

『うん。ありがと、そっちも気をつけて……』

 

百鬼帝国の復活――それを知るのはかつて百鬼帝国だった者と、世界を渡って来たギリアムだけ……世界を滅ぼしかねない悪意が目覚める前に、その悪意に立向かう鎧と剣が必要だった。L5戦役の後から準備をしていたが、それでも完成するのが先か、それとも百鬼帝国が本格的に動き出すのが先か……コウキの勘ではギリギリ間に合うか、間に合わないかと言う瀬戸際。しかしコウキに出来る事は無く、ただ目覚めるのを待つしかなかった。その焦りと不安、そして百鬼帝国の危険性を知るからこそ、コウキは理知的で効率的であれと言う己の信念を曲げてまでフィリオの狂言に付き合った。全ては……新西暦で生きて、育った自分を愛してくれた者を、美しいと思った者を守る為に、壊すためではない、守る為の力を欲したのだ。

 

「……間に合ってくれよ。相棒……俺達の守りたい物を守る為に……」

 

テスラ研に託されたマグマ原子炉、そしてコウキが隠れながら製作したゲッター炉心を組み込んだコウキの新たな鎧にして剣、そして己自身――新たな「鉄甲鬼」が目覚めるのが先か、それともテスラ研が襲われるのが先か……残された時間は本当に極僅かなのだった……。

 

 

 

 

クロガネのブリーフィングルームでは、ビアンの親派からもたらされた宇宙で今起きている事件についての会議が行なわれていた。

 

「……と、言う訳なのだが、問題が1つ。今の我々には宇宙に行く術がない」

 

「AMや戦艦の行方不明事件か……もう少し詳しい情報はないのか?」

 

「宇宙の連邦軍が情報封鎖を行なっているからそれも難しいな、ホワイトスター周辺と月周辺までは特定出来てはいるがそれ以上は難しいな」

 

統合軍はその殆どが今連邦の管理下にある。そして再び異星人の襲撃の可能性があるとかも知れないとなれば地球圏が混乱すると判断した現場によって情報封鎖が行なわれている。

 

「仮にクロガネで宇宙に行ったとしても、そうなれば地球が手薄になる」

 

「しかし、宇宙の捜査もしない訳にはいかない」

 

今確実に百鬼帝国、しいては百鬼獣と戦えるのはクロガネだ。そのクロガネが宇宙に行くのは危険すぎる、だが宇宙で起きている事件の詳しい情報を得なければならないのもまた事実。会議の内容を聞いていた武蔵が手を上げた。

 

「オイラが行きます、ゲッターD2なら単独での大気圏突破も出来る筈」

 

「し、しかしだな、武蔵君。単独で大気圏を突破出来るとしても、身体に掛かる負担を考えたらそれはするべきではない」

 

「エルザムさん……ゲッターD2のパワーが上がっているんです。宇宙に何かある、気をつけろってオイラにゲッターが言っているんですよ。それに地球じゃあ、周りの被害が大きすぎてゲッターD2の操縦訓練も出来ないですけど、宇宙なら周りさえ見れば訓練も出来ますしね」

 

今まで何度もゲッターの炉心のパワーが上がっていた、その都度大きな事件が起きた。今回もその前触れだと武蔵は感じていた、だからこそ単独で大気圏を突破出来るゲッターD2で宇宙へ行くと告げたのだ。

 

「だが武蔵君。君はコロニーの事を何も知らない「それなら私が行く。武蔵、ゲッターD2ならPTを1機抱えても大丈夫だろう?」

 

ビアンの言葉を遮ってカーウァイが自分も宇宙に行くと告げた。

 

「いやまぁ、バトルウィングで囲えば熱とかは大丈夫だとは思いますけど……」

 

「それなら決まりだ。ビアン所長、私と武蔵で宇宙を見てこよう」

 

「し、しかし大佐! 大佐が知るコロニーはもう何年の前の話ですよッ! それならば私かゼンガーの方が適役かと」

 

決定事項だというカーウァイにエルザムが自分かゼンガーの方が適役だと言う。事実確かにその通りだろう、道案内と言う意味ではエルザム、ゼンガーの方が適役だという事もわかっている。

 

「コロニーでお前やゼンガーが動いていれば、いらぬ疑いを受ける。武蔵の顔写真が非公開にされているのと、死人の顔など覚えていないという事だな?」

 

イングラムの言葉にカーウァイはふっと笑った。コロニー統合軍司令のマイヤーの息子であるエルザムも、ゼンガーも宇宙では地球以上に有名人だ。そんな2人が歩いていれば諜報部などに目を付けられ情報収集所ではないだろう。

 

「俺のシグでは今は宇宙には耐えれない」

 

「俺も顔が知られすぎているから無理か……」

 

消去法で宇宙に行けるのはD2とD2のパワーに耐えれる、R-SOWRDとゲシュペンスト・タイプSの2機だが、イングラムも顔が知られているので宇宙に受けず、武蔵とカーウァイだけが宇宙にいけるフリーの人員だった。

 

「……武蔵君、カーウァイ大佐。頼んでも良いかね?」

 

ビアンも2人しかいないと判断し、武蔵とカーウァイを宇宙へ送り出すことを決めた。

 

「武蔵、気をつけて」

 

「ユーリアと待ってる」

 

「大丈夫ですよ、ちょっと様子を見てくるだけですからね」

 

「訓練を怠るなよ。後、ゼンガー。気持ちは判るが、今は動くべきではない。時を見誤るな」

 

「……承知。カーウァイ大佐、申し訳ありませんでした」

 

「地球はお任せください、お気をつけて」

 

「こちらも情報が判ればすぐに送る。気をつけてな」

 

武蔵とカーウァイはビアン達に見送られ、それぞれの機体に乗り込んだ。するとハンガーが稼動し、ゲッターD2とタイプSが浮上したクロガネの甲板に姿を現す。

 

『こちらは準備OKだ』

 

「了解、行きますよ。ゲッターD2ッ! 発進ッ!!!」

 

ゲシュペンスト・タイプSをゲッターD2がタイプSを抱え、更のその上からバトルウィングで囲う。そしてゲッターD2とタイプSは夜空に翡翠色の尾を残し、宇宙へと飛び立っていくのだった……。

 

 

 

第28話 宇宙の龍/大地の鬼神  その1 へ続く

 

 

 




ここら編からルート分岐入りますが予告通り同時進行で行きます。完全にオリジナルではなく、ゲームシナリオがある程度あるので同時進行でもいけると思う(無謀)のでそれで行きます。チャレンジ精神でGOGOですね! それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い
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