進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第15話 強襲その2

 

第15話 強襲その2

 

究極ロボ「ヴァルシオン」の強襲。それは確かにピンチでもあるが、それであると同時にチャンスでもあった。ここでDCの総帥であるビアンを倒す事が出来ればその地点で連邦の勝利は決まる。

 

「各員ヴァルシオンへの攻撃を開始しろッ!」

 

特機ではあるがヴァルシオンは1機。究極ロボだとしてもハガネのPT7機に加えてゲッターロボとグルンガストと言う特機もいる、勝機は十分にあると思うのは当然の事だ。

 

「行けッ!!!」

 

先陣を切ったのはリュウセイだ。ヴァルシオンの威圧感は確かに凄まじい物だった、だがその機体のサイズもあり狙わなくても当たると考えM-13ショットガンの引き金を引く。

 

「グルンガストとゲッターを攻撃の基点とする。各員援護を忘れるな」

 

イングラムは指示と共にM-950マシンガンの引き金を引く、数はハガネの方が圧倒的に有利だ。だが20m級のPTに対して、ヴァルシオンは60m近い、有効な打撃をPTで与えるのは難しい。それならば弾幕による支援を行いつつ、グルンガストとゲッターを主力にすえるのは当然の事だ。だがイングラムには1つ計算外の事があった……

 

「ふふふ……どうした?お前達の力はその程度か?」

 

ヴァルシオンにPT隊の射撃が命中する寸前、なんらかの干渉があり弾幕はその威力を削がれ、ほんの数発が被弾しただけであった

 

「んなッ!」

 

「マジかッ!?」

 

その弾幕と同時に突っ込む予定だったグルンガストとゲッターがその足を止める。ヴァルシオンは一切のダメージを受けておらず、その手にしているディバインアームの切っ先をグルンガストとゲッターに向けていたからだ。これが装甲に阻まれたならば判る、だが明らかに装甲では無い何かに阻まれた。その現象を前にイルムと武蔵もヴァルシオンに踏み込む事が出来なかった

 

「い、今の……見た!?」

 

「あ、ああ……!!」

 

マシンガン、ショットガンの弾頭は何かに衝突したように潰れ、ヴァルシオンに届かなかった。その異様な光景に先ほどまでの雰囲気は一気に霧散した、究極ロボとビアンが自信を持って告げた。それだけ誇る事が出来る能力をヴァルシオンは目の前で見せたのだ、警戒度が跳ね上がるのは当然の事だった。

 

「ヴァルシオンは何かのフィールドで守られている……?」

 

「ラトゥー二、何か判る!?」

 

ヴァルシオンの間近にいたアヤは一瞬だけ、奇妙な力場が発生したのを見ており。その言葉を聞いたガーネットがラトゥー二に何が起きたのかと問いかける。

 

「ヴァルシオンの機体周辺に、均質化力場が発生している。そのためにこちらの攻撃の運動エネルギーは湾曲されて、境界面に沿って張力拡散してしまう……ッ!」

 

ラトゥー二の言葉を理解出来たメンバーが息を呑む中、通信を聞いていた馬鹿2名が叫ぶ。

 

「悪い、オイラ馬鹿だから何言ってるかわからねえッ! もう少し判りやすく教えてくれッ!」

 

「俺にも判りやすいように言ってくれッ! 均質化力場と運動エネルギーってなんだッ!?」

 

武蔵とリュウセイだけがラトゥー二の説明を理解できないでいた。だがそれも無理は無い、2人は民間人であり、専門的な知識など持ち合わせていないのだから。

 

「つまりだ。こちらの攻撃はエネルギーフィールドのような物で、威力が落ちてしまうって事だ」

 

溜息交じりでライが武蔵とリュウセイに簡単に説明する

 

「なるほど、要はバリアで身を守ってるって訳か……」

 

「バリアか、ならぶっ飛ばせばいいなッ!」

 

脳筋の武蔵がゲッタートマホークを装備し、ヴァルシオンに突貫して行こうとする。竜馬と一緒に考えなしと良く隼人に怒鳴られていたのだ、難しい事を言わずに単純に言うと突貫する性質の竜馬と武蔵に隼人がフォローするのにどれだけ苦労したか想像するのは容易い。

 

「待て武蔵、バリアと言ったがそのバリアはハガネの物と比べられないほどに強力だ。単機で出撃した理由がこれか」

 

生半可な攻撃を跳ね返すバリア、60m近い特機による攻撃力。これならば確かに単機で出撃してくるのも納得だとライが呟く

 

「んじゃあどうすればいいんだ、難しい話とかしないで簡単に教えてくれ」

 

「単純な話だ、力場に負荷を与えつつ、張力拡散をさせつつ攻撃を続けろ」

 

イングラムが2人にも判りやすいかはどうかは別に説明を続ける。だが馬鹿2人は内容を全く理解出来ないでいた

 

「「ど、どう言う事!?」」

 

「気合を入れて集中攻撃して、相手のバリアをぶち破れってこった」

 

イルムが疲れたように言うと、武蔵とリュウセイは漸く理解した様子だ。イルムの話を聞いた武蔵はゲッターにゲッタートマホークを両手に持ち走らせる。

 

「うおおおおおッ!!!」

 

雄叫びと共にヴァルシオンに向かって行き、あいつ話聞いてたかッ!? と言うイルムの叫びが木霊するのだった……

 

 

 

 

ヴァルシオンのコックピットでビアンは薄く微笑んでいた。自らを打倒せんと隊列を組むPT部隊、テスラライヒのスーパーロボット「グルンガスト」そして異世界からの来訪者である「ゲッターロボ」壮大とも取れるその光景はビアンの心を熱くした。

 

「ゲッタートマホークッ!!!」

 

「ふっふふふ、甘いな」

 

両手に斧を持ち突っ込んできたゲッターロボの一撃を敢えて湾曲フィールドで受け止める。ゲッターほどの出力ともなると、湾曲フィールドは突破されるが、それでも致命傷には程遠い。

 

(……同調は上手く行っているか)

 

シュウ・シラカワによって齎された技術により、元々研究していた湾曲フィールドの技術は大きく飛躍した。そして更にゲッターロボの修理で得た技術で複製したゲッター炉心も組み込んだヴァルシオンは比喩でもなんでもなく究極ロボの名に相応しい性能となった。ただし炉心のサイズダウンは出来ず、60M級のヴァルシオンで漸く組み込めるレベルであったが……ゲッターに組み込めるほどサイズダウンさせた早乙女博士の頭脳にビアンは既に敬意すら払っていた、旧西暦の技術でよくこれほどまでに素晴らしい特機を作り上げたと心の底から思ったのだ

 

「今度はこちらから行くぞッ!」

 

「こいやあッ!!」

 

ハガネのPT部隊からのおいっと言う叫びが響くが、ゲッターロボは両手に斧を構えビアンの攻撃を受け止める気満々だ。

 

「この一撃で死んでくれるなよッ!!」

 

ディバインアームを大上段から振り下ろす。ゲッタートマホークとぶつかり火花が散り、ゲッターの巨体が地面に沈む……だがそれだけだった。PTならそのまま両断しかねない一撃を完全にゲッターは受け止めていた

 

「ぬ、ぬうううううッ!!!」

 

「おおおおーッ!!!」

 

ビアンと武蔵の唸り声が重なる。出力を上げて断ち切ろうとするヴァルシオンとそれを耐えるゲッターロボ、サイズの差は明らかだったが信じられない事にゲッターは完全にその攻撃を防いでいた。

 

「今だッ!撃てッ!!!」

 

ゲシュペンストや、そのマイナーチェンジのシュッツシバルト、バニシング・トルーパーと悪名高いヒュッケバインがビルトシュバインに乗るパイロットの指示で弾幕を放つ。

 

「ふふふふ、無駄だ」

 

防ぐ素振りも必要ない、ゲッター線によって強化された湾曲フィールドの防御力は今までの非では無い。実弾もエネルギー弾もその全てが湾曲フィールドの前に弾かれる

 

「これでも駄目なのかッ!?」

 

「化け物かッ!」

 

恐れ戦くハガネのPT部隊のパイロットの叫びに笑みを浮かべる。元よりDCのフラグシップとして建造し、そして地球圏の盾であり、矛として作成したヴァルシオン。その強さはビアンにしても満足できる物であった……だがビアンにとっての計算外が1つあった。それはゲッター線のエネルギーの特徴を十分に理解していなかった事にある、放射能による無限動力。僅かであれど莫大なエネルギーに変化する魔法の光……もっと研究していればゲッター線の特徴を把握する事も出来ただろう。だがビアンには研究をしている時間も、理論を纏めている時間も無く、また炉心を完成させたと言う事を喜びそのままヴァルシオンに搭載してしまったのだ。

 

「ゲッタアアア……ビィィームッ!!!!」

 

トマホークでディバインアームを受け止めたまま、腹部が展開しゲッタービームが発射される。だがそれを見てビアンは笑う、ゲッターロボの炉心には現段階でリミッターが3つ設置されており、そのビームの破壊力は本来の半分以下にまで落ち込んでいる。そんな攻撃で湾曲フィールドを貫くことは出来ないと確信していた。

 

「ふん、無駄……何ッ!?」

 

無駄と言おうとした瞬間ゲッタービームと湾曲フィールドが眩い翡翠の光に包まれ対消滅する。ゲッター線とゲッター線はぶつかり合えば対消滅する、無論エネルギー量に差があればその通りでは無い。だが湾曲フィールドに含まれるゲッター線とゲッタービームではゲッタービームの方が僅かに上であった、その結果が湾曲フィールドの消滅だ。

 

「計都羅喉剣ッ!!!」

 

その隙を見逃さずグルンガストがヴァルシオンに肉薄し、計都羅喉剣を振るう。その横薙ぎの一撃はヴァルシオンの装甲に傷をつけることは無かったが、その巨体を僅かに吹き飛ばす。

 

「むっむう……まさかこんな弱点があろうとはッ……」

 

ゲッター線同士の対消滅……ビアンの頭脳を持ってしても計算出来なかった現象だ。だがビアンはその程度ではうろたえない、再び湾曲フィールドを展開する。その直後に弾幕が湾曲フィールドにぶつかり軌道が逸れていく、僅かに命中した弾丸に気勢が上がる

 

「よっしゃあ! 武蔵! またそのビームを撃ってくれれば俺達の攻撃も通るッ!」

 

「うっし! 武蔵! ジャンジャンビームを撃ってくれッ!」

 

リュウセイとジャーダがそういうのは無理も無い。相手の無敵のバリアを貫いた、これで僅かながら勝機が見えたのだから……だが武蔵の返事は無理と言う言葉だった。

 

「……いや、悪い。無理だ……炉心が安定しない、ゲッタービームは後撃てて2発が限界だ」

 

ゲッターロボには通信機能は付いておらず、武蔵の言葉はスピーカーで外にも響く。初めて有効打撃を与えたが、後2発が限界……僅かに見えかけた光明だが、それは余りに分が悪すぎる。

 

「武蔵、無闇にビームを使うな。各員、ゲッターロボを支援しチャンスを作るまで耐えろ」

 

この戦いゲッターロボが落ちればハガネの敗北は決まる。故に支援しろと言う命令が下されるが、ビアンもそれを大人しくさせるつもりは無かった。ヴァルシオンの身体から放たれた光が周囲を黒く染め上げていく……

 

「なんだ……何が起きて」

 

「ちょっと! 機体が動かないわよッ!? どうなってるのッ!?」

 

パニックになった声があちこちから響く。それはヴァルシオンに搭載されている重力制御装置による行動阻害……ヴァルシオンが究極ロボと言うのはその防御力では無い、重力操作による超広範囲における攻撃性能にあるのだ。

 

「う……うおおおおおッ!?!?」

 

「む、武蔵ッ!」

 

だがゲッターロボだけは違った……重力を遮断され上空へと舞い上がり、空中で固定される。

 

「武蔵君、そしてゲッターロボ。君達はこれに耐えられるか?」

 

ヴァルシオンが手首についた砲身をゲッターロボへ向ける。発射口にエネルギーが溜まるのを見て武蔵もリュウセイ達も動き出そうとする……だが機体は動かない

 

「ぐっぐくうう……マジかッ!? どうなってるんだ! 畜生ッ!!」

 

「無理に動かすなリュウセイ! モーターが焼ききれるぞッ!!」

 

重力で固定されている以上無理に動けば、機体の駆動装置が壊れる。だがそれが判っていてもジッとなど出来る訳が無い

 

「ツイン……ビームカノン……発射ッ!!」

 

「ファイナルビームッ!!!」

 

「ゲッターロボの救助を行う! 主砲の照準あわせッ! てえッ!!」

 

機体が動かなくてもその位置で狙う事が出来れば動けなくても攻撃出来る。シュッツバルト、グルンガスト、そしてハガネの主砲がヴァルシオンを襲う。普通のPTや特機、戦艦ならば撃墜が可能な一撃もヴァルシオンの湾曲フィールドに弾かれる

 

「クロスマッシャー……発射ッ!!!」

 

そして赤と青……そして翡翠色のエネルギーが螺旋回転し、巨大なエネルギー波となり、空中で縫い止められたゲッターロボへ向かって放たれた……

 

「む、武蔵ぃーーーッ!!!」

 

リュウセイの悲痛な叫びが響く、ゲッターロボは螺旋状のエネルギーに飲み込まれ光の中へと消えてしまったから……1人を除いて武蔵とゲッターロボが光の中へと消えたと思った

 

(爆発はしていない……紙一重で交わしたか……だがどこにいる)

 

ヴァルシオンの力で動揺しているが、直ぐに気づくだろう。爆発もなく、そして破片も落ちてこない。それはゲッターの生存を意味していた……だがどこから出てくるとイングラムが鋭い視線で周囲を見回す。だがセンサーでも肉眼でもゲッターの姿は確認出来ない、一体何処へ消えたのか……

 

「……さて、次は君達だ」

 

ビアンもまた周囲を観察しながらも、PT隊に視線を向ける。爆発もしていなければ、破片も落ちてこない。更に言えばあれは威嚇のつもりで、ゲッターの足元を狙ったのであってゲッター本体は狙っていない。余波でダメージは受けているかもしれないが、撃墜する目的の攻撃では無かったのだ。だからゲッターは生存している、ビアンはそれを確信していた。だからゲッターを、武蔵を誘き出すために一歩踏み出した瞬間

 

「ドリルアターックッ!!!」

 

「ぬおっ!!!」

 

地面が突如爆発し、そこから現れた新たなゲッターの一撃が背部を貫く。咄嗟にディバインアームを振るうがゲッターは残像を残し、その一撃をかわす

 

「なるほど、それが最後のゲッターの形態か」

 

「ふふふふ……ゲッター2の登場よッ!!!」

 

ゲッター1のような人型では無い、そしてゲッター3のような重厚な姿でもない。細身のスラリとした脚部、白銀に輝く胴体と鋭い目……だが一際目を引いたのはその両腕だった……右腕は万力の様な異形の姿をしていたが、左腕は更に異常な姿をしていた

 

「おい、あれって……」

 

「ドリルだな、どっからどう見てもドリルだな」

 

「ドリルだぁッ! すげえっ!!!」

 

「ドリルって武器なの?」

 

「わ、判らない……でも効果的なの……かな?」

 

太陽の光を浴びて煌くその左腕は見間違う事も無くドリルなのだった……

 

 

 

 

ハガネのブリッジから戦況を見つめていたダイテツは小さく舌打ちをする。状況は悪いを通り越して最悪だ、ヴァルシオンのバリアを貫く事が出来ず、そしてハガネのPTは弾薬とエネルギーが心許ない

 

「おおおおおーーーーッ!」

 

「ふっ! 来い!武蔵君ッ! ゲッターロボッ!!!」

 

唯一ヴァルシオンと戦闘が出来ているのはゲッターロボのみと言う状況だ。攻撃力ではグルンガストもゲッターに匹敵するが、その分エネルギーの効率が悪い。だがそれも当然である、元々は短期決戦用の特機だ。長時間の戦闘に耐えるように計算されていない……数は有利であっても戦闘に参戦出来るだけの弾薬もエネルギーも無ければ、もうハガネかゲッターの盾になる事しか出来ない。

 

「リオ、PT各機の状態は!?」

 

「苦戦しています! 戦闘がこれ以上長引けば……いずれは……!」

 

リオがそこで言葉に詰まる。だがブリッジにいる全員が理解していた、撤退も補給をする余裕も無い。完全なジリ貧に追い込まれていた

 

「ドリルアタックッ!!!」

 

「ぬっ! ぐうううッ!!!」

 

だがハガネもPT隊の誰も撃墜されていないのは武蔵の奮闘のおかげであった。ゲッター2と言う細身のゲッターが高速機動でヴァルシオンを撹乱し、ドリルで攻撃を繰り返している。ドリルの回転でフィールドの一点に衝撃を与え続け突破してくる以上ヴァルシオンもそちらに対応しなければならず、他の機体を攻撃している余裕は無かった。完全に後手に追い込まれていたが、それでもハガネの方が圧倒的に不利な状況だ。

 

「このままではヴァルシオン1機に全滅させられてしまうッ!」

 

テツヤが唇を噛み締め、絞る出すように告げる。

 

「……こうなったら、やむを得ん。 テツヤ大尉、艦首トロニウムバスターキャノンの充填を始めろ」

 

「……! し、しかし、あれはまだ調整中で……しかも今回の作戦では1回しか使用出来ませんッ!」

 

トロニウム・バスターキャノン。ハガネが単独でアイドネウス島の攻略に送り出されたのはこの艦首の超大型のキャノン砲にある。だがメテオ3で発見されたトロニウムの制御は難しく、下手をすれば周囲を巻き込み自爆となりかねない。テツヤはそれを知って止めに入る

 

「それは承知しておる。だが今こそがビアン・ゾルダークを倒す好機なのだ」

 

「で、ですが……「命令を復唱せんか大尉ッ!!我々の最大の敵は眼前にいるのだぞッ!!」

 

どうしても躊躇うテツヤにダイテツの一喝が入る。もはや止める事は出来ない、テツヤは顔を引き攣らせながら命令を復唱する

 

「……りょ、了解しました! バスターキャノンのエネルギー充填開始しますッ! リオ、ゲッターを主軸にして各機に発射までの時間を稼がせるんだ!」

 

テツヤがそう指示を飛ばすがリオは返事を返さない。テツヤはリオを睨みつけながら怒鳴り声を上げる

 

「何故命令を復唱しないッ!」

 

「ね、熱源多数接近中ッ! 数……20……30……そんな! まだ増えていますッ!!」

 

リオの悲鳴にも似た叫びがブリッジに響く、いや実際悲鳴だったのかもしれない。疲弊しきったこの状況で敵の増援……

 

「識別確認ッ! さきほど撤退した統合軍ですッ!」

 

エイタの報告にダイテツは唇を噛み締める。刺し違える覚悟でトロニウム・バスターキャノンの使用を決めた……それなのにこのままでは刺し違える所か、バスターキャノンを発射する前に轟沈する

 

「……大尉、各機に……「ま、待ってください! これは……統合軍が追われているッ!」

 

撤退指示を出そうとしたダイテツだったが、その言葉をエイタが遮る。

 

「どういう事だ!? まさか連邦軍の応援か!?」

 

「ち、違います。識別反応はありません、ですが……速い、75秒後にこの空域に侵入して来ますッ!」

 

そしてハガネのモニターに映し出されたのは傷だらけで逃げる統合軍のリオンと巨大な翼竜の姿なのだった……

 

 

 

 

ユーリアとレオナ、そして僅かに生き残ったトロイエ隊のメンバーは死を覚悟していた。突如海中から現れた4つ首の化け物、それから飛び立った翼竜に追われ再びこの空域に戻って来たトロイエ隊。だが無事にこの空域に到達出来たのはユーリアとレオナを含めて僅か8機……残りの12機は翼竜にコックピットブロックを噛み砕かれ、押し潰されながらも助けてくれと叫ぶ隊員の声は生き残った全員の耳に焼き付いて離れない。生きたまま噛み砕かれる、逃げる事も出来ず、しかも恐怖を与えるかのようにゆっくりと噛み締めていく翼竜に恐怖と憎悪を抱くのと同時に、これが自分達の罪なのかと呟く。

 

「隊長ッ! もうエネルギーが……」

 

「くっ……投降するしかないのか……」

 

このままでは翼竜に追いつかれて死ぬしかない、だが投降するという選択肢はユーリアの中には無かった。自分達はマイヤー司令の為に果たすべき使命がある、助かる為には投降するしかないと判っていてもその判断を下す事が出来なかった。

 

「キシャアアアアッ!」

 

「しまっ! ぐうううッ!!!」

 

隊長として部下を犠牲にする訳には行かない、だが投降するわけにも行かない。その迷いがユーリアの駆るリオンの動きを鈍らせた……その一瞬で翼竜は加速し、ユーリアのリオンの胴体をその鋭い牙で咥え込む。ゆっくりと、ゆっくりと圧力が掛けられ狭まってくるコックピットブロックに反射的に両腕で押さえに掛かるが、人間の力で抗える訳が無くゆっくりと着実に自身の体へと迫ってくる。

 

「ぐっ……自爆するッ! レオナ! 部下を連れてハガネへと投降しろッ!!!」

 

「そんな、隊長ッ!」

 

最初から投降すれば良かったと後悔する。人智を超えた相手……最初から投降すれば良かった。そうすれば化け物に噛み砕かれるなんて言う惨たらしい死は無かった。自爆する事でせめて部下だけはと思いコードを入力する為のコンソールを開こうとしたその瞬間

 

「ドリルハリケェェェンッ!!!!!」

 

地上から放たれた竜巻が自身を噛み砕こうとしていた翼竜を穿ち、風の刃で切り裂く。

 

「「「隊長ッ!」」」

 

翼竜が離れたその一瞬でレオナ達のリオンがユーリアのリオンに牽引用のロープを射出する。だがユーリアは直ぐに自分を見捨てろと叫ぶ、今の一撃でリオンの動力は破損し飛行する事が出来ない。こんな足手纏いを捨てて逃げろと叫ぶが、レオナ達も叫び返す。

 

「「「その命令は承服できませんッ!」」」

 

自分はこれほどまでに部下に慕われていたのかと嬉しくなるユーリアだが、今はそんなことを言っている場合ではない。何とか説得しようとするが、レオナ達は断固としてユーリアの命令を聞かない。

 

「キシャアアアアッ!!!」

 

翼竜が再び牙を向きリオンに喰らいつこうとした瞬間。男の雄叫びと共に白銀の風が駆け抜けていく

 

「止めろおオオオオオッ!!!」

 

それは自分達が先ほど対峙したゲッターロボの姿だった。ドリルを翳し、翼竜の群れへと突っ込んでいく。すれ違いの一瞬でユーリアの目はその背中に鋭い傷跡がついているのを見た、それは明らかに軽く見て良い筈では無いダメージ。

 

「早く! 早く逃げろッ! 死にたいのかッ!!!」

 

それでも翼竜からユーリア達を庇いながら逃げろと叫ぶゲッターにユーリアもそしてトロイエ隊のメンバーも思わずその背中を見つめた

 

「「「キシャアアアアーーーッ!!!」」」

 

明らかに空中戦に対応しているとは思えない機体で翼竜の攻撃を防ぎ、そしてドリルで撃墜していくゲッターロボ。

 

「隊長! 近くにエルザム様のキラーホエールが来ているそうです」

 

「判った、総員撤退だ」

 

レオナ達のリオンに牽引されていくユーリアのリオン。半壊したコックピットブロックの中でユーリアは自分達を庇い戦っているドリルを手にしたゲッターロボを見つめ続けていたのだ……

 

 

 

 

突如現れた翼竜の群れ……ビアンもリュウセイ達も困惑した。PTよりもでかい翼竜……しかも全滅したと思われていたプテラノドンの群れ。そんなありえない光景に全員が絶句した。

 

「うっ、ううあわあああーーッ!!」

 

武蔵が絶叫と共に落ちてくる。その叫びで一番最初に我に返ったのは皮肉にもゲッターと対峙していたヴァルシオンだった

 

「大丈夫かッ!?」

 

「うっぐぐ……な、何とか……」

 

空中でゲッターを受け止めたヴァルシオンはゆっくりと降下し、オープンチャンネルで叫ぶ

 

「見たか! ハガネよ! これが私が危惧した物だッ! 人類を脅かす外敵! 判るか! 連邦は! 政府はッ! 戦う事を諦めて降参する道を選んだのだッ!」

 

ビアンが訴えていた外敵。エアロゲイターは無人機であったが、意思を持つ恐竜による襲撃。それはリュウセイ達に少なくないショックを与えていた

 

「ぐ……ぐぐっ! イングラムさん! 1回ハガネにもどれッ! 敵が来るッ!」

 

「敵だと? 武蔵お前は何を言っている!」

 

「オイラじゃないッ! ゲッターだ! ゲッターが言っているんだ! 敵が来るって!!」

 

ヴァルシオンの腕から降りたゲッター2はドリルの切っ先を海面に向けて叫ぶ。だが武蔵の言う事は要領を得ず、イングラムもダイテツも撤退命令を出せないでいた。自分達の理解を超える現象に思考が停止していたとも言える……そして武蔵の言う敵は海面から現れた

 

「はーははははははッ! 流石! 流石だッ! ゲッターロボッ! いや巴武蔵ッ!! 我ら爬虫人類の怨敵よッ!!!」

 

4つ首の異形の恐竜とそしてその4つ首の1つの上に立つ鎧を纏った異形の男の姿。その姿を見たダイテツとイングラムはここで初めて撤退命令を出した、だがそれは逃げるためでは無い。戦う為の補給指示だった

 

「各員ハガネへと後退しろ、どうやら逃げる事は出来なさそうだ」

 

海から上陸してくる機械化された恐竜の群れ……ハガネは完全に包囲されていた。逃げる為にはこの場を何とかしなければならない

 

「教官、でもこれなんなんだよ!」

 

「リュウセイ! 質問している暇があればハガネに戻るぞッ! 死にたいのかッ!!」

 

上陸した恐竜達は口を開き、火炎弾を無作為に吐き出している。それはラトゥー二を襲ったものよりは小さいが、それでも直撃を食らえば致命傷になりかねない威力を秘めていた

 

「ビアン・ゾルダーク、一時休戦と言う事で良いか」

 

「賢明な判断だ。ダイテツ・ミナセ。今DCからの増援もこちらに来ている、この場を切り抜ける為な。武蔵君、大丈夫か? まだ戦えるか?」

 

「……エネルギーは十分にあります! オイラもゲッターも戦えますッ!」

 

ハガネへと撤退するPT隊をヴァルシオンとゲッターが守る。そして海面から完全に島に上陸した4つ首の異様な恐竜の頭上で男……バット将軍が叫ぶ

 

「ふーッはははははははッ!!! 我ら恐竜帝国は今再び復活したのだッ!! 愚かなる人類よッ! 我らの力の元にひれ伏すが良いッ!!!」

 

 

第16話 強襲その3へ続く

 

 




トロイエ隊→ビアン→恐竜帝国と連続強襲。はい、普通に無理ゲーですね。ゲームならプロペラントとか、リペアキットとか精神で回復しますけど、そんなの無いですからね。戦闘は難しいですが、次回も戦闘メインで頑張っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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