第29話 宇宙の龍/大地の鬼神 その2
オペレーションキルモールの発令前の2日間の休息。ラトゥーニは伊豆基地に戻ってきた事もあり、リュウセイと共にユキコの顔を見に行くつもりだったのだが……リュウセイの言葉に目を見開いた。
「え、リュウセイ。マオ社に行くの?」
「おう。R-1とかを取りに行けって言う命令でさ、エクセレン少尉と一緒にマオ社に行けってさ。トホホ……休暇だと思ったのに俺とエクセレン少尉は伊豆基地に缶詰だよ。ん? どうしたラトゥーニ」
クセレン少尉は伊豆基地に缶詰だよ。ん? どうしたラトゥーニ」
「う、ううん!? 何でもない、何でもないよッ!?」
エクセレンと2人で月へ行くと聞いて完全に平常心を失っているラトゥーニの目が泳ぎまくっているが、リュウセイはそれに気付かない。
「それでさ、もしも休暇で伊豆基地を出るならお袋の様子見て来てくれないか? 大分元気になったけど、やっぱり心配だからさ」
「うん。判った!」
「すまねえ。今度休暇取れたら埋め合わせをするから」
ラトゥーニとリュウセイのやり取りは完全に彼氏彼女のやり取りなのだが、当の本人達が全く気付いていないのが謎である。
「俺、なんであの2人が付き合ってないのか理解出来ないっす」
「だろうな。まぁ、良いんじゃねえの? と言うか、お前食いすぎだろ?」
捕虜と言う扱いのアラドだが、精神操作などの疑いが無いと診断され、流石にハガネの外に出る事は許可されなかったが、ハガネの中では監視付きだがある程度は自由に出歩く許可を得ていた。
「え、そうっすかね? あ、すいませーん。カツ丼おかわり」
「……武蔵を思い出すぜ、マジで」
武蔵を彷彿とさせる凄まじい食欲にイルムは若干疲れた様子で溜め息と共にそう呟いた。
「むひゃし?」
「ああ、こっちの話だ。気にすんな、しかしリンの奴に伝えておいたほうがいいかねえ」
これからリュウセイとエクセレンと共にマオ社に行く予定のアラド。この食欲では、大変なことになるかもしれないと判断しイルムは食欲お化けが行くぞとリンに伝えることを心に決めていた。
「しかしリュウセイ、エクセレン少尉と月に行って、新型を受け取って来てもキルモールには間に合わないだろう?」
リュウセイとラトゥーニが座っていた机に自分の食事のトレーを自然な素振りで置いて、声を掛けるブリットにまわりにいた全員が驚きの表情を浮かべた。良く、ラトゥーニとリュウセイの間に割り込めたなと言う驚愕の瞳だ。
「ああ、俺もそう思う。R-1は細かい調整が必要だし……なんでそんなに急げって言われるのか理解できないぜ」
「……」
「ラトゥーニ? どうかしたか?」
「う、ううん。なんでもないよ?」
明らかにリュウセイと2人きりを邪魔されて不機嫌なラトゥーニなのだが、それに気付かないブリットを見て、アラドとイルムは揃って一言呟いた。
「「天然って怖いなあ……」」
普通あの中に割り込んでいくのとか無理だろと思いながら、イルムとアラドは揃って溜め息を吐いた。
「と言うか、知ってるか? ラトゥーニの奴、リュウセイの家に居候してるし、お袋さんとも仲良しなんだぜ?」
「ええ……いや、なんで、マジでそれで付き合ってないんっすか?」
「簡単だ。リュウセイがお子様過ぎるからさ、リュウセイは完全攻め落とされているのにそれに気付いてないんだよ」
「……すっげえ納得。あ、すいませーん。豚肉のしょうが焼き定食、飯メガ盛で」
「お前まだ食うのかッ!?」
アラドの底知れぬ食欲にイルムは驚愕し、絶対にこの事をリンに伝えるべきだと改めて思うのだった……。
「オーライ! オーライッ!!」
「おーいッ!! 換装パーツの搬送はどうなってるッ!!!」
キルモールに向けてハガネへ様々な機体が搬入されるのを私服姿のライが見つめていた。
「ライ、まだいたの?」
「隊長……ええ、自分の機体が搬入されるのを見てからと思いまして」
R-2が格納庫に搬入されている作業を見つめていたライはヴィレッタの手の中の書類に気付いた。
「それはもしかして」
「ああ、あの時のアンノウンの簡易的な分析資料だ。これからケンゾウ博士に見て貰う予定だ」
「……キルモールに出現する事を危惧しているのですか?」
「ありえない話ではないからな」
アースクレイドル攻略戦。そこにあのアンノウンが出現する可能性は捨て切れない、そして百鬼獣が出現するのもまた然りだ。
「それよりもだ。半日休暇を取ったんだろう。早く行け」
「……ええ、すいません。では、失礼します」
小さく頭を下げて格納庫から出て行くライを見送り、ヴィレッタはハンガーに固定されているゲシュペンスト・MK-Ⅲ・R02カスタムを見つめる。
「ヴィレッタ大尉。どうかしましたか?」
「ああ、オオミヤ博士。R02カスタムが勿体無いと思ってな。いや、もうR02カスタムではないか……」
R-2が搬入された為、パワードパーツを外され素体に近いそれをロブも見上げて大丈夫ですよと笑った。
「クライウルブズのアルベロ少佐専用にカスタマイズして、再利用するそうですから」
「そうか。まぁ考えれば当然の事か」
ゲシュペンスト・MK-Ⅲは今の連邦の主力量産機だ。汎用性を高めた一般兵用とカスタマイズされた専用機が日々量産されている、そんな中でテスト機ではあるが高性能の試作エンジンを2つ積んだゲシュペンスト・MK-Ⅲを遊ばせている訳がないかと苦笑する。
「そうだ。後でいいんですけど、リュウセイにこれを渡しておいてくれますか?」
「これはヒュッケバイン・MK-Ⅲの仕様書?」
「はい、量産型ではなく、エース用に開発したヒュッケバインMK-Ⅲのテストを行なうそうなので、リュウセイの意見も記録しておいて欲しいと思いまして、でも俺はこれから搬入とかの確認があるから直接言ってる時間が無いんですよ。すいませんが、よろしくお願いします」
「しょうがないわね。まぁ、いいわ。任されたわよ」
トライアウトではない、レイオスプランの一環として作成されたヒュッケバインMK-Ⅲと、そのパーツの意見をリュウセイに聞いてレポートとして頼むと言うロブの頼みを聞いて、その書類を手にしてヴィレッタは伊豆基地のSRX計画のラボに足を向ける。
「今戻ったわ」
「おかえりなさい、隊長」
アヤに出迎えられヴィレッタはモニターに視線を向けた。
「また見ていたの?」
「……ええ。見れば見るほど確信するんです」
モニターに映されているのは便宜上R-SWORDと呼称された漆黒のPTだった。
「それも良いけど、ハガネから送った情報の分析結果は?」
「あ、はい、こちらになります」
中国でのアンノウンとの戦闘情報を元に伊豆基地で分析された物にヴィレッタは目を通す。
「やっぱりね」
「隊長の言う通りでしたよ。エアロゲイターの兵器とは構成が全く異なりました」
僅かに回収されたサンプルとエアロゲイターの兵器――バグスやスパイダーを構成する金属とは全くの別物と言う事が明らかになった。
「正体の見当は?」
「エアロゲイターとは別の異星人の兵器か……アンザイ博士のレポートにもあった通り、古の地球に存在していた物か……いずれにせよ、あのデータだけでは答えを導き出せそうにないわ、百鬼獣も含めてね」
謎のアンノウンとかつて地球に存在したと言う百鬼帝国の復活。それらはL5戦役よりも激しい戦いの前触れのようにアヤは感じられた。
「隊長はやっぱりホワイトスターへ?」
「ええ、破片の解析が済み次第、私はホワイトスターへ戻るわ。予定を繰り上げてでも、あれを例のバリアの中継点として仕上げなくてはならないから」
イージス計画で使用される予定のホワイトスター。それの調査にヴィレッタは向かうと告げる、リュウセイとエクセレンが月へ向かうのにヴィレッタも相乗りする事になった。
「ホワイトスターに機能回復の兆しは見られないんですよね? 本当に使えるんですか?」
「ホワイトデスクロスという中枢を失っているから無理だとは思うんだけど、それでも命令なら従うしかないわ。後はハガネが回収した例の破片ね」
今の段階では使い物にならないホワイトスター。それでもそれを使えるようにしろと命令されれば、ヴィレッタは軍人としてそれに従うしかない。
「さ、行きましょう。ホワイトデスクロスの破片の解析に参加しないとね」
「はい」
SRX計画ラボの地下の更に奥の極秘研究室に白亜の建造物が固定されていた。
「ヴィレッタ大尉。良く戻ってくれた」
「いえ、それでオブジェクトの現在の状況は?」
「TP反応がレベル2のままです。表面材質にも変化はない」
ハガネに回収された段階では修復を繰り返していた謎の物質だが、伊豆基地に着いたと同時に修復作業の一切が停止している。その謎の物質を見つめながらケンゾウはヴィレッタに問いかける。
「ヴィレッタ大尉、どう思う?」
「破損が激しいが、間違いなくあれはホワイトデスクロスのコア……で間違いないわ」
「え……ッ!? で、でも隊長は最初ホワイトスターの構成物質だと言っていたではないですか!?」
捜し求めていたホワイトデスクロスのコアと言われ、アヤが声を荒げるとヴィレッタは小さく溜め息を吐いた。
「あの時は何の反応も無かった。だけど今はTP反応がある。それが何よりの証拠よ」
「じゃ、じゃあ、あの中にはれ、「……修復率の事もある。それ以上は今は言うべきではないわ」……隊長……はい」
ホワイトデスクロスのコア……それが何を意味するかアヤには判っていた。それが判っていて、ヴィレッタはあえて修復率と言う言葉を口にした。それはアヤの希望を打ち消すような冷酷な響きがあった――。
「よし……切開作業を開始しろ」
「お、お父様……ッ!? しかしッ!」
修復作業が止まっている。切開すれば、自分達の前に現れるのは恐ろしい何かかもしれない。そう思って止めに入るアヤだが、ケンゾウは首を左右に振った。
「アヤ……真実はあの中にある。そして、我々はそれを確かめなければならない……それがどれだけ残酷な物だったとしてもだ」
「……わ、わかりました」
ケンゾウの言葉にアヤが頷き、ホワイトデスクロスのコアの切開作業が再開される。
「あ、あれは!?」
「やはり……か」
解放されたデスクロスのコアから培養液と共に姿を見せた小柄な影を見て、ケンゾウ達はその顔を大きく歪めるのだった……。
地下研究室で大騒動が起きているなんて知る良しも無いラミアはハガネのデータ室にいた。
(……キーワード入力、ヘリオス。検索開始)
リクセントで受け取った命令ディスクの内容を実行する為にデータ室の使用許可を得て、ヘリオス・オリンパスについて調べていた。
(結果はゼロ、か。どうやら、この艦との関わりはないらしい……もっとも、そう簡単に尻尾が掴める相手だとは思えんが……前提条件が間違っているのか?)
あちら側でヘリオスと名乗っていたが、その素顔は誰も知らない。この世界に転移している事で名前を変えて、隠していた素顔を晒している可能性もあると言う可能性にラミアは辿り着いていた。
「これは骨が折れるな」
ヘリオスと言う名前自身が偽名の可能性が高いのだ、それを馬鹿正直にヘリオスで探しても見つかる訳が無い。
「何か手掛かりがあれば……」
ヘリオスに通じる何かがあればとラミアが考えているとデータ室の扉が開く音が響いた。
「ギリアム少佐。お疲れ様でありますでごんす」
「……なんと言うか凄い口調だな。ラミア・ラブレス」
入ってきたギリアムに内心不味いと思いながらそれでもラミアは笑みを浮かべた。
「ギリアム少佐はデータ室に何を調べにきちゃったりしちゃったり?」
「……喋りにくければ敬語でなくても構わない。普通に喋れるのだろう?」
「ん、すまない。どうも敬語は苦手でな」
「苦手にしても酷いと思うがな。俺はリクセントに現れたゲッターロボの分析に来たんだ。何、邪魔はしないさ」
ラミアから離れた所に座り、解析を始めるギリアム。
(監視……か?)
ギリアムと言う男はラミアにとって未知の存在だった。教導隊らしいが、あちら側では該当データが無い。そして妙な雰囲気を感じるギリアムは調べなくてはと思うのと同時に近づいては危険と思わせる相手だった。
「ああ、そうそう。ラミア、君が提出してくれたレーダーだが」
「それがどうかしたか?」
「やはり破損が酷く、修復は出来なかったので返却しよう。しかし、あれだな? あれは本当にイスルギの作った機械なのか?」
ギリアムからの問いかけを聞いて不味いと思いながらも笑みを浮かべる。
「そうなのではないのか? アンジュルグはイスルギの機体だからそうとしか思えないが?」
「……ふむ。それもそうだが……あのレーダーはどうも個人が作成したように思える。既製品とはまるで違う構造だからな、何か知っていれば教えてくれないか?」
柔らかい口調だが、攻め立てるような口調にラミアがどうやってこの場を切り抜けるかと考えていると再びデータ室の扉が開く音がした。
「ああ、やっと見つけた。 ラミアさんこんな所で何やってるんですか、迎えが来てますよ?」
データ室に入ってきたエイタがDコンを操作して、見つけたという報告をしている。
「迎え? どういうことだ?」
「あ、ギリアム少佐。お疲れ様です、はい。イスルギ重工のスタッフが1度定期健診を行なうと伊豆基地へ見えられているんです。所が連絡がつかないと言われて、皆で探していたんですよ」
「定期健診? そんな物があったのか?」
「わ、忘れていたでございますですのよ。教えていただいでありがとうございましたですの」
定期健診なんて物は知らないが、それでも今この場を切り抜けれるならとラミアはエイタに笑みを浮かべて、慌ててデータ室から逃げ出していった。
「あー、でもラミアさんって美人だな」
「なんだ。エイタはラミアのような女性がタイプなのか?」
「え、あ……まぁ、その……そ、それよりも! ギリアム少佐こそ、何故データ室に、ミーティングだとカイ少佐が探してましたよ?」
「おっと忘れていた。教えてくれてありがとう、ではな」
エイタの肩を叩いてデータ室を出て行くギリアム。その背中を見つめながらエイタは小さく溜め息を吐いた。
「暗いデータ室で2人きり……俺もしかしてお邪魔虫だったかなあ……」
美男美女であるギリアムとラミアの関係を勘繰ってしまったエイタは失敗したなあと呟きながら、データ室を後にするのだった。
「お待たせしましたでありますでごんす」
「……おめえ、どうした、その変な喋り方は?」
伊豆基地の敷地内に待っていたイスルギ重工のエンブレムの入った車に乗り込んだラミアは、運転席から顔を見せた男を見て目を見開いた。
「ば、バリソン少佐! しつれいしちゃったりなんかり……すみません」
シャドウミラーの上官であるバリソンが運転手に扮しているのを見て、慌てて謝罪をするラミアだが思ったように喋れず謝罪の言葉を口にする。
「……なんか調子悪そうだな。ま、レモンに見て貰えよ」
「定期健診とはレモン様が?」
「ま、お前の様子を見に来たのはついでらしいけどな。行くぜ」
バリソンはラミアに軽く声を掛け車を走らせ伊豆基地から出て行く。バリソンの運転する車に揺られながら、ラミアは目的地に到着するまでの間自分が何か失敗をしたのではと言う恐怖にその身体を小さくさせているのだった……。
ハガネの艦長室の扉を叩き、入れという声を聞いてからキョウスケは艦長室に足を踏み入れた。
「失礼します」
「キョウスケ中尉。ご苦労」
艦長室にいたのはダイテツとカイ、そしてギリアムの3人だった。
「失礼ですが、私はリュウセイ少尉とエクセレン少尉の件についてのお呼び出しだったと思っているのですが……?」
リュウセイとエクセレンが月に行くと言う話の打ち合わせだと思っていたキョウスケはギリアムとカイがいた事に驚きながらそう尋ねた。
「俺がダイテツ中佐に頼みがあってきたんだ。とは言え、俺の独りよがりだったが」
「ふふ、鬼隊長と言われたカイも随分と丸くなったな」
ギリアムのからかうような言葉にカイはうるさいと声を上げた。
「アラド・バランガの件についてだ。リュウセイ少尉達にアラド・バランガも同行させる」
「それは構いませんが……何故?」
「マオ社でラーダに様子を見てもらうためだ。それで異常なしと判れば、本人の希望もある。義勇兵として招き入れる予定だ」
リョウト、そしてヒリュウ改のレオナと言う前例もある。だから決断についてはキョウスケ自身には反論も何も無かった。
「了解です。出発予定時刻は明朝と言う事でよろしいですね?」
「それについてだが、出発時間をキルモール作戦でワシ達が出航した後にずらしてもらう」
出発時間の大幅な変更を聞いてキョウスケは驚いたように目を見開いた。
「しかし、それではキルモール作戦には間に合わないのでは?」
「うむ。そうなるが、どの道無理な計画だった。遅れること自体には何の問題も無い」
元々キルモールにR-1を投入する事自体問題があった。だからキルモールにR-1が間に合わないのはダイテツにとっては想定内、想定外なのはその次だ。
「ギリアム少佐、キョウスケ中尉にも、あの情報を」
「了解です。キョウスケ中尉をこれを」
差し出された資料を受け取り目を通したキョウスケ。最初は目を通しているだけだったが、その顔が徐々に険しい物になる。
「ダイテツ中佐。エクセレン少尉達を今宇宙に送るのは危険です」
キョウスケに差し出された資料には、L2宙域に駐留している部隊の相次ぐ失踪事件の事が記されていた。
「うむ、ワシもそう思うが軍本部の命令ではワシも逆らえぬ。時間をずらしたのがワシとレイカーに出来る限界だった。すまない」
レイカーが尽力しても2日。出発までに2日の猶予を与えるのがやっとだったとダイテツは謝罪の言葉を口にする。
「いえ、こちらこそ失礼しました」
部下思いのダイテツが、むざむざ部下を危険に晒す訳が無い。キョウスケは自分の失言を謝罪し、再び資料に目を通した。
「何者かと交戦した後、消息を経った部隊や……戦艦ごと反応が消えてしまった部隊もいるとありますが……この部隊の規模は?」
「詳しい事は不明だが、フライトユニットを装備したMK-Ⅱが10機、アーマリオンが7機、ガーリオンが8機とある」
「かなりの大部隊ですな……残骸などは?」
「確認されていない。だから嫌な予感がするのだ、レイカーもそれを指摘して、シャトルでマオ社に向かうのではなく、輸送機で宇宙へと向かって貰うように計画を変更させた」
「……では当初の計画では、パイロットのみの?」
「その通りだ。ギリアム少佐、ワシもレイカーもその指示書を見て、すぐに反論をした」
この時期にパイロットのみを送り出すという事は無謀にも等しい。それを強行した軍本部、誰も口にしないが百鬼帝国の成り代わりによる仕業の可能性があると全員が感じていた。
「レイカーの権限でヒリュウ改を調査の為に呼び戻した。調査の後、大気圏付近で待機、リュウセイ少尉達と機体を回収後マオ社へ向かう手筈となっている」
アステロイドベルトから戻ってきたと言うヒリュウ改と合流できると判ればある程度は安心出来る。
「だがそれでも不安はあるな、ダイテツ中佐。俺もリュウセイ少尉達に同行してもよろしいでしょうか?」
「ギリアム少佐が良いと言うのならばワシは反対などせん」
教導隊のギリアムもリュウセイ達に同行する。それだけ宇宙が危険であるという認識だった。そしてそんな最中にリュウセイ達を宇宙へ送り出すという事に全員が不安を抱いているのだった……
L2宙域付近を進む赤い龍を思わせる戦艦――レイカーの要請によって地球圏に戻って来たヒリュウ改だ。周囲を警戒しながら、ゆっくりとL2宙域へと進路を取る。ヒリュウ改のブリッジでは艦長のレフィーナの姿は無く、副艦長のショーンとオペレーターのユンの姿だけがあった。
「宙間座標、太陽、月、星座確認」
「……確認終了。現在位置、L-SU8875」
「艦内各部点検の結果報告を」
「艦首超重力衝撃砲は、ボルトキャリアー点検中のため使用不可。それ以外は異常ありません」
ユンの報告を聞いて、ショーンは満足そうに笑い、その手を叩いた。
「ふむ……私の予測クリア時間より15分早い。イカロス基地での訓練の成果が出ておるようですな」
「ですが、艦長不在というシチュエーション設定が冷や汗ものでした」
地球圏に戻るまでの間に訓練として、レフィーナ艦長不在でのユンとショーンのみのヒリュウ改の運用訓練。それが終わりを向かえ、ユンは小さく溜め息を吐いた。
「まあ、これから忙しくなりますからな。艦長には今の内に休んで貰いませんと、それにいざって言う時に艦長に頼りきりと言うのは良くない傾向ですから」
戦闘によってレフィーナが負傷しないとは言い切れない。いざと言う時に備え、レフィーナ不在でも運用出来るように訓練しておく必要があったのだ。
「さてと、L2宙域の調査任務開始まで少々余裕が出来ましたな」
「艦長を起こした方がいいでしょうか?」
ユンに問いかけにショーンは首を振る。地球圏が見えるまではレフィーナがワンマンオペレーションをしていた、その時の疲労を考えればまだ起すべきではないと告げた。
「緊急時ではないですから、まだ暫く私達で行動しましょう。L2宙域へ偵察ポッドの射出、それとオクト小隊に格納庫での待機命令を」
「了解です」
ショーンの指示に従い、偵察ポッドが射出されその後を追うようにゆっくりと行方不明事件が起きたポイントへと向かうヒリュウ改。その格納庫ではせわしなく機械の動き回る音が響いていた。
「ラッセル、そっちのゲージの数値を読み上げてくれ」
巨大な赤いユニットを組み上げている機械の操作をしながらタスクがラッセルにそう声を掛ける。
「359.18……予定以上の値が出てますよ。」
「よっしゃ、これでグラビコン・システムの調整はチリバツだぜッ!」
想定していた数値をはるかに上回る数値をマークした事にタスクは嬉しそうに笑い、やっと形になって来た己の機体を見上げる。
「ラドム博士のジガンスクード改造プラン……実現まであともう少しですね」
タスクが顔を上げたのにつられて、ラッセルも顔を上げながらそう呟いた。ゲシュペンスト・MK-Ⅲの正式採用に喜んだマリオンがタスクに押し付けた設計図とパーツ。殆ど形になっていないそれをここまで組み上げたのはタスク達の努力の証だった。
「おう。餞別代わりに設計図とパーツを渡された時はどうなる事かと思ったけどよ、皆が色々手伝ってくれたおかげで、何とかなったぜ……毎日の訓練に加えて、イカロス基地周辺のパトロール、機体の整備、炊事の手伝い、トイレの掃除にレクリエーションの仕切り……その合間を縫って、ジガンを改造するのは大変だったな~」
「そ、そんな事までしていたのは、知りませんでしたが……漸く形になってよかったですね」
完成間近のジガンスクードの強化パーツを見て満足そうにタスクとラッセルが笑っていると格納庫の扉が開き、カチーナがその姿を見せた。
「おう。どうだ、タスク? ジガンのマ改造は?」
「マ、マ改造? 何スか、それ?」
からかわれていると思いきや真面目な顔をしているカチーナに何の事かとタスクが尋ねる。するとカチーナはふふんっと自慢げな顔して、マ改造が何かを告げた。
「マリオン・ラドム博士のマッドな改造プラン……略して、マ改造だ」
「それ聞かれたら大変なことになると思いますよ?」
頭のおかしい改造だったとしても本人は大真面目に作成している。それをマッドな改造なんて呼べばマリオン博士が怒りますよとラッセルが注意するが、いない相手を恐れる必要はねぇと言ってハンガーに固定されているジガンスクードを見上げるカチーナ。
「で、実際作業はどうなんだ? 今んとこ、見た目は変わってねえみたいだが」
「ああ、後でシーズシールド・ユニットをシーズアンカーに変えるんスよ」
タスクが格納庫の隅を指差す、そこに置かれているパーツを見てカチーナはにやりと獰猛な笑みを浮かべる。
「おう、アレか。男らしくて良い武器じゃねえか。あたしのゲシュにも付けてみてえぜ。そしたら、アルトに負けねえ突撃野郎になるかもな」
シーズアンカーを見て、羨ましそうな顔をしているカチーナを見て、タスクが考え込むような素振りを見せる。
「……中尉が本気で欲しいなら準備するっすよ?」
「お? マジか?」
「うっす。ゲシュペンスト・MK-Ⅲの改造案を出して受理されたらの話っすけど」
ゲシュペンスト・MK-Ⅲが1機だけヒリュウ改に受領されている。熟練訓練中の機体なので、それを無許可で改造することは出来ないが、改造案を出して受理されれば改造しますよと言うタスクの言葉にカチーナはパシッと拳を自身の手の平に打ちつける。
「口を切ったんだからやっぱり無理とか言うなよ。あのMK-Ⅲはあたしのになるんだからな」
本来の機体色であるグレーを既に真紅に塗装しているのを見れば、誰もがあのゲシュペンスト・MK-Ⅲがカチーナの搭乗機になると言うのは一目で判った。だからタスクも苦笑しながら返事を返した。
「判ってますよ。ドゥロの作業が終わったら、手も空きますしズィーガーを弄りながら、換装パーツの改造も一緒にやりますよ」
「ズィーガー? ああ、そいつもマ改造だっけか?」
地球でのトライアウトに参加する前にいくつかマリオンが残した強化プラン。それを実行しようとしているタスクの言葉に思い出したようにカチーナが尋ねる。
「ええ。ラドム博士のプランを基に、このタスク・シングウジの愛を込めつつ、レオナちゃんのガーリオンを改造するッス。言うなれば、2人の愛の結晶……、お、そうだ機体に相合い傘のマークを入れとくか」
「……そんなことをしたら、ズィーガーリオンで踏み潰すわよ」
黙って話を聞いていられなかったのか、ガーリオンの整備の作業を止めてレオナがタスクに釘を刺した。
「ゲッ! レオナッ!? だ、駄目? 相合傘?」
「私の新作の方を食べてくれるなら、考えますけど?」
「どっちも嫌です。ごめんなさい」
レオナに猛アタックをしているタスクだが、それを差し引いてもレオナの料理を食べるのはごめんだった。しかも食べれば入れて良いのではない、考えても良いのでは流石のタスクも諦めざるをえなかった。医務室送りの上に、相合傘のマークを入れることも出来ないのでは踏んだり蹴ったりにも程があるからだ。
「やれやれ、従兄弟の『黒い竜巻』はスーパーシェフだってのにな、何時になったら料理の腕が改善されるんだ?」
「が、頑張ってはいるんです。中尉」
「頑張ってても成果が出ないんじゃ、しょうがないだろうよ? ったく何度教えても改善しねえなあ」
口は悪いカチーナだが、本人の性格的にあんまりやらないだけで、実は料理や裁縫といった一般的な事は人並み以上に出来るのだ。面倒見の良い性格もあり、レオナにも何度も料理の指導をしているのだ。
「す、すいません。中尉」
「まったくッス。良い加減に腕が良くなって欲しいっすね、毒味役はキツいッス」
カチーナの注意に隠れてタスクはぼやくように呟くとギロリと睨まれ、即座にタスクは降参と言わんばかりに両手を上げた。そんなやり取りを見てカチーナは楽しそうに笑い、レオナに詰め寄られているタスクへと助け舟を出した。
「所で、タスク。改造後のジガンの名前は?」
「ドゥロってのが後ろに付きます。ジガンスクード・ドゥロ。ラドム博士の命名ッスよッ!」
天の助けと言わんばかりにカチーナの方に逃げるタスク。その背中を見て、若干さびしそうにしているレオナを見て、カチーナは小さく素直になれよなと呟き、タスクに向かって指を向けた。
「長え。舌噛むぞ。略してガンドロだ、ガンドロ。語呂も良いだろうが」
「う~ん……ガンドロ、ねえ。なんか超スッゲー光線を撃ちそうだな」
ドゥロではなくガンドロで良いだろとカチーナが笑っていると警報が鳴り響き、カチーナ達はその顔を引き締め、ブリッジからの詳しい報告に耳を傾けるのだった……。
「熱源多数、識別信号からロレンツォ・ディ・モンテニャッコ大佐の部隊と思われますが、どうしますか?」
「……状況によっては出る。私のタイプSの準備を、武蔵はどうする?」
「そうすっね。操縦訓練って事でゲットマシンで出ますよ」
ヒリュウ改は気付いていなかったが、スペースデブリに偽装した外装の中のアルバトロス級の中で、武蔵達もまた熱源を感知し、出撃準備を整えているのだった……。
第30話 宇宙の龍/大地の鬼神 その3へ続く
次回はやっと戦闘回に入ります、疑惑の宇宙と守るべき者を混ぜるのでムラタとあーチンとの連続バトルですね。途中でカーウァイ大佐とゲットマシンで武蔵も乱入する予定です。オリジナルユニットの紹介等の準備が間に合わなかったのでストックを1つ放出し、2話連続更新とします。次の話もよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い