第31話 宇宙の龍/大地の鬼神 その4
ヒリュウ改への襲撃と言うのは本来の計画にはない物だった。ただL2宙域にヒリュウ改が訪れると聞いていたロレンツォの部下の独断専行が今回の襲撃事件の発端であり、先に出撃した連中を連れ戻す為にムラタはこんな旨みも面白みもない戦場に立っていた。それこそヒリュウ改にジガンスクードがいなければ、そんな命令を引き受けるわけがないというレベルでやる気の出ない任務だった。
『よっしゃあ、合体完了ッ!! 覚悟しやがれ、サムライ野郎ッ! 生まれ変わったジガンの力! てめえに見せてやるぜぇッ!!』
シシオウブレードで切り裂かれた盾を捨て新たな武器を手にして吼えるジガンスクードを見て、にやりと獰猛な笑みを浮かべた。
「これで下らん任務にも張り合いが出てきたな」
捜索隊は既に離脱している、それに命令違反の対艦レールガンを装備したアーマリオンやガーリオン部隊も撤退した。もうムラタ自身もこの場にいることに意味がない事は判っているが、その気性から目の前にいる斬り応えのある特機に背を向けるという選択肢が無かった為にこうして、まだ戦場に立っていた。
(それにさっきの銃弾も気になる、殺気も何も無かったのがな……)
ガーリオン・カスタム・無明の突撃を止めたレールガンの一撃がどうしてもひっかかるムラタ。殺気も何も感じさせず、自分に放たれた銃弾は咄嗟に動きを止めなければコックピットを打ち抜かれていただろう。それ故に、一体この宙域には何が潜んでいるのか確かめるべきだと己の直感が訴えていた。
『オラアッ!!』
「良い気迫だ、だがまだ青いッ!!」
シールドから鋭角状の鋭いナックルガードに換装された一撃に向かって、シシオウブレードを振るう。
「ちえいッ!!」
『舐めんなよッ! この特製シーズアンカーはなぁッ! ゲッター合金でコーティングされた特別製だぜッ!!!』
それがどれだけ強固な物であれ、ムラタには両断する自信があった。だがジガンスクードから聞こえてきた声に咄嗟にシシオウブレードを止めた。
「……なるほど、自信の源はそれか……」
ゲッター合金――L5戦役を終結させた特機ゲッターロボを構成する合金。非常に軽く、そして強固であり、そしてなおかつ恐ろしい柔軟性を持つと言われるそれでコーティングされていると聞いて警戒の意味を込めて1度剣を引いた。
『へっ、ビビッたなッ!! ついでにこいつも見てちびれッ!!』
凄まじい音を立てて展開された鉤爪状のユニットがムラタの目の前で何度も閉じる。一撃でも受ければ、その瞬間に圧壊に追い込まれると判るほどの凄まじい威圧感を誇る一撃を後退しながら回避する。
『おらおら、今まで好き勝手やってくれたんだ! きっちり落とし前を付けて行ってもらうぜ!』
『逃がさないわよッ!!』
「ちっ、楽しむ所では無くなってきたか」
ガーリオン、アーマリオン部隊を撃墜させてきたのか、ゲシュペンスト・MK-Ⅲとガーリオンが放ったバーストレールガンと、パルチザンランチャーの一撃を回避すると、その直後にジガンスクードの豪腕がガーリオン・カスタム・無明の顔を掠める。
『ちいっ! これでも仕留めきれないか!』
『でも中尉明らかに動きが鈍くなっていますッ!』
『おう! タスク気合入れろよ!』
『うっす!』
ジガンスクードのパワーアップでヒリュウ改が勢いづいた。こういう時は厄介なんだとムラタが舌打ちすると更に苛立たせる通信がガーリオン・カスタム・無明に繋げられた。
『……ムラタ、応答せよ』
「何だ、中佐? 今俺がお前の部下の尻拭いで死に掛けているのに通信を繋げて来たのか?」
振るわれるジガンスクードの豪腕、そしてPTとAMの離脱を阻止する厭らしい立ち回りに苛立ちながら返事を返す。
『ガリバルディの離脱が完了した。それと今回の件はすまん』
「謝罪するくらいなら追加給金を払うんだな。謝罪の言葉等で腹は膨れん」
特機を切り裂く事を楽しんでいるムラタだが、自分が狩られるのは好きではない。死ぬのならば、一騎打ちで刀か剣で死ぬと思っていたムラタにとってジガンスクードに向かって追い立てられるのは不愉快極まりなかった。
『180秒後のその宙域にアンノウンが出現する。それを利用して離脱しろ』
「ふん、気楽に言ってくれるわッ!」
今も4対1と言う絶望的な状況で戦っているのに好き勝手言ってくれるとムラタが怒鳴ると、デブリ帯から奇妙な機動兵器が姿を見せた。
「あれは……アーチン、なるほど、アンノウンは異星人か」
『……と言うわけだ、離脱出来るな?』
自分にもヒリュウ改にも無差別に攻撃を仕掛けてくるアーチンを見て、推進剤も危険域なのでその混乱に乗じて離脱しようとしたムラタだが、アーチンを追うように……いや、アーチンに追われる様にして姿を見せたPTを見て、その顔を鬼の形相にさせた。
「ゲシュペンスト・タイプSッ!」
『何? ゲシュペンスト・タイプSだと? 見間違いではないのか?』
「俺が見間違える物か! あの操縦の癖、あの立ち回りッ! カーウァイ・ラウだッ!!」
己のプライドを、全て粉砕した忌むべき男。そして報復の機会も得る事なく、エアロゲイターに囚われた男……挫折、屈辱、憎悪、ありとあらゆる負の感情がムラタの胸を埋め尽くす。
『離脱するんだ。カーウァイ大佐は既に亡くなっている、良く似た別人か。ゲシュペンスト・タイプSを模造した何かだろう』
「中佐、貴様は俺を愚弄するのか?」
ムラタの築き上げた全てを打ち砕いた憎むべき怨敵――それを見間違えたと言われ怒りを露にするムラタ。だがロレンツォは冷静その物だった、それ所か怒らせた上で説得に打って出た。
『何らかの方法でカーウァイ大佐が生きていたとしよう。それでお前はその疲弊した有様で勝てるのか?』
「……それは……」
装甲はあちこちが凹み、稼動想定時間を越えて活動していたので機体の動きも鈍くなっている。それに幾つも機動兵器を切り裂いた事で、シシオウブレードの刀身も歪んでいる上にエネルギーと推進剤も枯渇寸前……満身創痍とまでは言わないが、カーウァイと戦えるコンディションではないのは明らかだった。
『リベンジをしたいのならば、場は整えてやれる。だが今はその時ではない、良いな?』
「……帰還する」
確かにムラタと言う男は剣鬼だが、それでも状況を見極める戦術眼は残っていた。このまま、残っていても己が望む戦いは出来ない。そう判断すればアーチンの襲撃によって混乱した戦況を利用して離脱する事に躊躇いは無かった。
(必ず、貴様の首を貰う! カーウァイ・ラウッ!!)
だがカーウァイへの恨みが消えることはない、離脱する最後の瞬間までゲシュペンスト・タイプSを睨みつけ、憎悪の炎を燃やしたままムラタは宙域を離脱して行くのだった……。
ジガンスクード・ドゥロの登場によってガーリオン・カスタム・無明との戦いを有利に進めていたヒリュウ改だが、デブリ帯から出現した小型の機動兵器……ガロイカの登場によって、ヒリュウ改の戦力の優位性は一気に崩された。
「くうっ!? 被弾状況は!?」
「甲板の一部が破損しましたが、主砲、副砲共に健在です!」
ステルス性の高いガロイカの強襲によって、ヒリュウ改のブリッジは何度も揺れていた。
「まさかアーチンと行方不明になった部隊の機体が同時に襲撃して来た上に、ゲシュペンスト・タイプSに救われるとは……まさかのような事態ですな」
ガーリオン・カスタム・無明への対応によってがら明きになっていたヒリュウ改を救ったのは漆黒のPT――ゲシュペンスト・タイプSだった。
「識別信号は!?」
「P、PTX-002! ゲシュペンスト・タイプSですッ!」
ユンの報告を聞いてレフィーナもショーンも顔を歪めた。ヒリュウ改のデータベースに残っていると言うことは、殉職したカーウァイ大佐のゲシュペンストであると言うことは確実だった。
「ま、まさか幽霊?」
「ゲシュペンストですから、幽霊と言えば幽霊ですが……熱源反応もありますし、幽霊とは言い難いですなあ」
飄々とした口調のショーンだが、その目はレフィーナ達が見た事が無いほどに大きく開かれていた。
「警報!? まだ何か来ると言うのですか!?」
しかし気を緩める事も出来ないままにヒリュウ改のブリッジに警報が鳴り響いた。
「あれは!?」
「いやいや……最早驚きの言葉すら出ませんな」
ガロイカと編隊を組んで現れた機体を見て、ショーンは肩を竦めた。仕草自体は飄々としているが、その顔は青くなっていた。
「ランゼン、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備、量産型ヒュッケバイン・MK-Ⅲですッ! 識別は行方不明となっていた部隊の物です!」
「これはほぼ決まりとなりましたな」
「ええ、最悪の状況っという事ですね」
エアロゲイターの兵器と言われていたガロイカだが、L5戦役では一切目撃されなかった。その事から別の異星人の戦力と言う噂もあった。それが、こうして行方不明になっていた部隊の機体と共に出てきた――それは今回の失踪事件が異星人の手の物によるものという可能性が真実味を帯びてきた瞬間だった。
『こちらオクト1! あたし達はどうすればいい!? ゲシュペンストもアーチンとも戦えば良いのか!?』
カチーナから混乱した声がブリッジに響く、ガーリオン・カスタム・無明に続いて、ゲシュペンスト・タイプSの出現、それに加えてガロイカと行方不明になった部隊が編隊を出て来て現れた。目まぐるしく変わる状況に流石のカチーナも自分の判断で部下もヒリュウ改も危険に晒す訳には行かないと、敵対行動を見せるガロイカ達と戦いながら、ゲシュペンスト・タイプSはどうすればいいのかとレフィーナとショーンに指示を仰いだ。
「副長……」
「艦長の思うとおりに、私は何も反対しませんよ。ただ1つ言えるのは……私も同じ思いという事です」
ゲシュペンスト・タイプSはL5戦役でのエアロゲイターによる被害者の末路の1つと言える。だが今のゲシュペンスト・タイプSはヒリュウ改を守る為に立ち回ってくれている。それらを見た上で、レフィーナは大きく1つ深呼吸してからカチーナ達に指示を飛ばした。
「ドラゴン2より、オクト各機へッ! ゲシュペンスト・タイプSと協力してアーチン及び、行方不明部隊の迎撃を行なってくださいッ! ただし、ゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備とヒュッケバイン・MK-Ⅲを1機ずつ完全に撃墜せずに鹵獲してくださいッ!」
レフィーナの下した決断はゲシュペンスト・タイプSと共闘して、ガロイカ達を撃墜せよという物だった。L5戦役の事を考えれば、ゲシュペンスト・タイプSは敵だ。だが今は守ってくれている――それがこちらの油断を誘うものなのか、それとも本当に味方なのか? それを決断するには余りにも判断材料が足りなかった。それでも、レフィーナは信じたいと思った。だからこそ、カチーナ達だけではない、ゲシュペンスト・タイプSのパイロットにも届くように、広域通信で共闘命令を下したのだ。
『オクト1了解! 行くぞ、野郎共ッ!!』
『『『了解ッ!!』』』
フォーメーションを組み直すオクト小隊と共闘するように動き出すゲシュペンスト・タイプSを見て、レフィーナは自分の判断が間違いでは無かったと感じていた。
ゲシュペンスト・タイプSの赤いバイザーが宇宙の暗闇に光の尾を残し、ついて来いと言わんばかりにカチーナ達の前を進む。
『良いんですか、中尉』
『助けてくれているのか、それともあの世に連れて行こうとしているのか……嫌な雰囲気だぜ』
ゲシュペンスト・タイプSは既に存在しない機体、そしてパイロットもまた死んでいる。だがそれが目の前にいると言う現実は宇宙と言う闇の世界と言うことも相まってあの世へと導かれているように感じる。
「良いも悪いもねぇ。艦長命令だ、あたし達は襲ってくる敵を倒す。ゲシュペンストが襲ってくるまでは味方として考えな」
カチーナだって本音を言えば、不気味ではあるし、蘇ったエアロゲイターの機体と言う線も捨て切れない。だがカチーナの勘では、あのゲシュペンスト・タイプSとエアロゲイターには何の繋がりもないと感じていた。
『ホワイトスター駐在艦隊からの連絡が無いからですね?』
「おう、もしもあのゲシュペンスト・タイプSがエアロゲイターに再生された機体なら、向こうで大騒動になっている筈だ』
『あ、そ、そうかッ!?』
『なるへそ、思ったより考えているッスねッ!』
「てめぇ、後でぶちおるぞッ! タスクッ!!」
命令違反の常習犯であるが、カチーナはれっきとした中尉であり、しっかりと部隊運用などの知識もある。考えるよりも先に敵を倒すという考えから、考えなしに見えるがその行動すべてにはちゃんとした裏付けがある。
『それにもしもエアロゲイターが復活しているのならば……最初に複製するのは量産型Gシリーズ』
「そういうこった。旧式のゲシュペンストを再生する旨みはねぇ。つまりあのアーチンと一緒にいるL2宙域の機体とゲシュペンスト・タイプSには何の関係性もねえだろう」
エアロゲイターの最大戦力と言えば量産型のドラゴン、ライガー、ポセイドンだ。それと比べればゲシュペンストを再生するには旨みが少ない。小数でも、ドラゴンかライガーを生産すればそれで戦力的には十分なのだから。
『ではあのアーチンとランゼン達は?』
「んなもんとっ捕まえてから考えりゃ良いんだよ! ラッセル、レオナッ! フォローに入れッ! ヒュッケバイン・MK-Ⅲを鹵獲するぜッ!」
『俺はッ!?』
「てめえはゲシュペンスト・MK-Ⅱをとっ捕まえろッ! 行くぜッ!!」
ゲシュペンスト・タイプSは両手に持ったやけに銃身の短いビームライフルでアーチンやランゼンを次々撃墜している。その動きを見て、ちまちましていると鹵獲対象を失うと判断し、カチーナはそう指示を飛ばした。
「!!!」
「へっ! んなもんがあたるかよッ!」
フォトンライフル改による狙撃でカチーナの突込みを止めようとするヒュッケバイン・MK-Ⅲだが、カチーナはその弾丸に自ら突っ込みライトニングステークで殴り飛ばす。
『中尉! またそんな無茶をしてッ!』
「心配ねぇッ! それよりもあたしの邪魔をさせんなよッ!」
ライトニングステークはプラズマステークの3倍近い出力を持つ、それを上手く扱えば簡易的なシールドになりビーム兵器を殴り飛ばす事も理論上は可能だ。それをぶっつけ本番で自分から敵に突っ込みながらやるカチーナにラッセルが心配そうな声を出すが、カチーナは無用の心配だと言って、距離を取ろうとするヒュッケバイン・MK-Ⅲを追いかける。
「!」
「舐めんなよッ!」
逃げ切れないと判断したのか、両腕にナックルガードを展開し電撃を纏わせてインファイトを仕掛けてきたヒュッケバイン・MK-Ⅲ。それに向かい合うようにゲシュペンスト・MK-Ⅲもライトニングステークを再び放電させて拳を構える。
「!?」
「はっ! おせぇッ!!!」
飛び込みながら振るわれたヒュッケバイン・MK-Ⅲの拳を首を傾けるだけで回避したゲシュペンスト・MK-Ⅲの反撃の拳が顔の右半分をごっそりと抉り取る。
「!?ッ!?」
「はっ! 今さらパニくっても遅いんだよッ!」
カメラアイを半分潰された事で後退しながら頭部のバルカンで、ゲシュペンスト・MK-Ⅲの突っ込みを止めようとするが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲは両腕でコックピットとカメラアイをガードして、ヒュッケバイン・MK-Ⅲの後を追う。
『レオナ少尉ッ!』
『ええ、判ってますわッ!!』
鹵獲する目的なのでカチーナの行動は間違いではない、ただ他の敵に完全に背を向ければ敵のガロイカやランゼンの集中放火が迫るのは当然。だがそれを阻止する為にラッセルのゲシュペンスト・MK-Ⅱとレオナのガーリオンが照準を合わせようとしているガロイカとランゼンに攻撃を仕掛ける。
『そこッ!』
『逃がしませんわよ』
照準に割り込むと同時にメガビームライフルとマシンキャノンの一撃でガロイカとランゼンを撃墜し、そのまま次の機体に向かって照準を合わせる。
『早いッ!』
『確かに、でも対応出来ないスピードではありませんわッ!』
奇襲により一撃で最初の機体は撃墜出来たが、ゲシュペンスト・MK-Ⅱとガーリオンを敵と見定めたガロイカとランゼンの動きは格段に早くなった。
『くそ、こいつッ! 思ったよりも強いッ!?』
『!!!』
『ぐっッ!? 狙いが正確すぎるッ!?』
ラッセルとレオナがランゼンとガロイカに翻弄されている頃、タスクもゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備に翻弄されていた。
『くそッ!』
『!!!』
『ぐあっ!? くそったれッ! こいつはなんなんだッ!?』
L5戦役を戦い抜いたタスクでさえも対応出来ない程にゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備の動きは良かった。それこそ、パイロットがいないからこそ出来る無人機特有の軌道なのだが、その癖有人機のような厭らしい精密射撃を織り交ぜてくる。そして苦戦を強いられているのは、タスクだけではなかった。
『この動きAIなのか?』
『その割には操縦の癖が人間臭いですけどねッ!』
互いに背中合わせになり背後からの射撃を防ぎ、迎撃に出るラッセルとレオナだが、想像以上にランゼンの動きが良かった。それも統合軍のエリートが乗っているような、しかし、重力装備を装備していないランゼンではパイロットに多大な負荷をかけるであろうその機動に翻弄されていると横から飛び込んできた熱線にランゼンが爆発炎上する。しかし、ランゼンを破壊したのはゲシュペンスト・タイプSではない、宇宙でもひときわ強く輝く航空力学に喧嘩を売ったような異様な形状の真紅の戦闘機の姿にラッセルとレオナは目を見開いた。
『『ゲットマシンッ!?』』
その形状は違っていても、そのゲットマシンを連想させるシルエットに思わずそう叫んだ。バレルロールしながらの精密射撃でランゼンとガロイカを沈黙させたゲットマシンらしき戦闘機は翡翠の粒子を宇宙空間にばら撒きながら反転し、ゲシュペンスト・タイプSにへと向かう。擦れ違い様にゲシュペンスト・タイプSはゲットマシンに掴まりゲットマシンに牽引されるように高速で戦闘区域から離脱する。
「てめえ! 待ちやがれッ!!!」
『おい! 手伝ってくれた礼も言えないうちにどこに行くんだよッ!』
カチーナとタスクがヒュッケバイン・MK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備をそれぞれ鹵獲するのを確認すると、もう用はないと言いたげに離脱する2機に向かってそう叫ぶカチーナとタスクだが、ゲシュペンスト・タイプSとゲットマシンらしき戦闘機は瞬きの間にその姿を宇宙の闇の中に消した。
「副長。今のは……もしや?」
「確かにその可能性は高いですが、今はなんとも……ユン伍長。敵機の反応は?」
「レーダーには反応はありません。完全に反応は沈黙しました」
ショーンの問いかけにレーダーに反応はないと返事を返すユン。その報告を聞いて、レフィーナは小さく安堵の溜め息を吐いた。突発的な遭遇戦、未知の戦力の登場に、ゲシュペンストとゲットマシンらしき物の出現……どれか1つでも大変だというのに、それが纏めて3つも立て続けに起きれば、流石のレフィーナも精神的な疲労を隠せないでいた。
「判りました。本艦は現状維持。周辺宙域の警戒を続行して下さい、ではすいませんが、今の内に着替えてきます」
「もう少しそのままでもよろしいですぞ?」
「「副長?」」
「……どうぞ着替えて着てください。失礼しました」
カチーナ達が帰還する前に着替えてくると言って席を立ったレフィーナは半分逃げるようにブリッジを後にし、ユンはその背中を心配そうに見つめていた。
「後でフォローしておいてください。今はもう暫く、艦長として頑張って貰わなければなりませんから」
「了解です」
鹵獲したゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F装備とヒュッケバイン・MK-Ⅲの2機の調査が終われば、レイカーからの指令でヒリュウ改は地球付近で待機する事になる。その間にフォローしてあげてくださいと声を掛け、ジガンスクード・ドゥロに牽引される大破したヒュッケバイン・MK-Ⅲとゲシュペンスト・MK-Ⅱにショーンは視線を向ける。
(鬼が出るか、蛇が出るか……なんとも嫌な予感がしますなあ)
見慣れたPTであるはずなのに、ショーンにはその2機があけてはいけないパンドラの箱のように見えてしまうのだった……。
ヒリュウ改のブリッジには重苦しい沈黙が広がっていた。その理由は当然、鹵獲したゲシュペンスト・Mk-Ⅱ・F装備とヒュッケバインMK-Ⅲが原因だった。
「艦長、ゲシュペンストMk-Ⅱ・F装備とヒュッケバインMK-Ⅲの調査結果が出ました」
「どうでした?」
主要メンバーが集められた中でショーンが整備班の調査結果を見ながら、その顔を歪めながら、それでも感情的にならず報告を続ける。
「ゲシュペンストの方は行方不明になった部隊に配属されていた機体で間違いありません。但しヒュッケバインMK-Ⅲに関しては謎です」
「やはりですか?」
「ええ、マオ社に問い合わせましたが量産型のヒュッケバインMK-Ⅲは全て残っていたそうです。やれやれ、どこから持ち出したのでしょうな」
少数生産のヒュッケバインMK-Ⅲは当然宇宙軍には配属されていない。このヒュッケバインMK-Ⅲがどこからやって来たのか? どういう経路で宇宙軍に渡り、そして異星人の手に渡ったのか? その全てが謎だった。
「それより副長。やっぱりエアロゲイターの仕業だったのか?」
「それに関してはエアロゲイターではないという事も確証が得れましたよ、タスク。出来ればエアロゲイターであって欲しかったんですけどね」
アーチンと共に出現した事でエアロゲイターの仕業ではない可能性は全員が感じていた。しかし、心のどこかでエアロゲイターならば1度撃退した事もあり、慢心する訳では無いがそちらの方がいいと感じていたのも事実。だがそれを改めてエアロゲイターではないと言われると複雑な物を感じずには居られなかった。
「それで副長どういうことなんだ?」
「簡単に言うと今回の物は中身が違ったのです、ゲシュペンストMk-Ⅱ・F装備とヒュッケバインMK-Ⅲの中身がね」
「AIの類ですか?」
「似て非なる物です、ですが敵に回すとあれほど厄介な物も無いでしょう」
ショーンの回りくどい言い方に気の短いカチーナが舌打ちする。戦闘の後で気が立っているのもある、それに加えて自分達を追詰めた物が何なのかを知りたいと強い口調でショーンに向かって尋ねた。
「じれってぇな。早く教えてくれよ、副長」
「簡単に言うとバイオロイド……一種の人造人間ですな。それがコックピットに搭載されておりました」
「人造人間だぁ? んなもん……いや、判りきってるか。また別の異星人ってこったろ?」
「……そう見て間違いないですな」
地球の技術では作れない人造人間――それが組み込まれている段階で、また別の異星人が地球に攻撃を仕掛けて来ているのは明白だった。
「道理でAIとは思えなかった訳ですわね」
「めちゃくちゃ厄介だったもんな。レオナちゃん」
AIの動きと言うのは予測しやすく、そして対処しやすい。ある意味AIと言ってもいい人造人間だが、その操縦の癖には人間らしいものがありこちらの動きを幻惑し、そしてなおかつパイロットの安全性などは考えなくてもいいので、軌道もめちゃくちゃで、そしてリミッターをつける必要も無い。そうなれば、エースクラスが集まっているオクト小隊が劣勢に追い込まれていたのも納得が行った。
「では、私達が戦った部隊全てが人造人間だったのですか?」
「残骸にそれらしいものもありましたので、まず間違いないですね。人格や自我を持たず、訓練や経験が不要で命令に忠実……『部品』としての替えも効く」
「機動兵器のパイロットとしては、理想的ですね」
育成する手間も無く、そして反乱する事も無い。命令に忠実な部品――そう考えれば理想的な存在だろう。人道的ではないという点に目を瞑り、なおかつそれを複数生産する技術があればの話だが。
「僅かな部品を解析する事ができましたが、地球の金属は一切使われていないそうです」
「そりゃ、もう異星人で決まりじゃねぇッスかッ!?」
地球の金属が使われておらず、なおかつ人造人間等というオーバーテクノロジー。それら全てが、今まで戦っていた敵が異星人による攻撃だというのは明らかだった。
「タスク、少し落ち着け、それで副長。あのゲットマシンもどきみたいのはどうだったんだ?」
戦いに乱入し、タスク、レオナ、ラッセルの3人を支援し、ゲシュペンスト・タイプSと離脱したゲットマシンみたいなものはなんだったんだ? とカチーナが尋ねると、ショーンは報告書に挟んでいた写真を取り出した。
「伊豆基地から撮影された物です、こちらを見てください」
差し出された写真をカチーナ達が覗き込み、その顔を驚愕に染めた。
「これは!? ドラゴンじゃねえかッ!?」
「いえ、良く見てください。ドラゴンに似てますけど、少し違うようです」
「待て待て、こいつが抱きかかえているのって!?」
「ゲシュペンストですわね……」
ショーンが差し出した写真には翡翠色の光に包まれ、細部までは判別出来ないが、ドラゴンに酷似した特機がゲシュペンストを抱きかかえている姿が映し出されていた。
「これは?」
「36時間前に地球で撮影された物です。単独で宇宙に出る事が出来るゲッター線で稼動する特機……ゲッターロボであると言うことは確実です、恐らくですが、先ほどの戦いに割り込んできたゲットマシンは分離形態の物でしょう」
「じゃあ、武蔵が生きていたって事か!?」
ゲットマシン、そしてゲッターロボと聞いて武蔵が生きていたのかとタスクが顔に喜色を浮かべながら尋ねるが、ショーンの顔は渋いままだった。
「いえ、そう判断するには早いでしょう。それに武蔵が最後に乗っていたのはゲッターロボ、ドラゴンではありません」
「武蔵さんと判断するに早いという事ですね?」
「そういう事です、仮に武蔵ならば連絡をしてくるでしょうが、それもないと言うことなので、武蔵と結びつけるのは早計ですな。まぁ、宇宙で活動する以上どこかでまた鉢合わせする事もあるでしょう。その時は、カチーナ中尉にお願いしましょうか」
「おうよ、ぶちのめしてでも連れ帰ってやるぜ」
「なんで戦う前提なんですか……」
逃げ回るというならぶちのめしてでも捕まえるというカチーナにラッセルは深い深い溜め息を吐いた。そしてその様子を見ながらショーンは小さく笑った。
「いずれにせよ、今回の件はすぐに上へ報告した方がよろしいでしょうな」
「……そうですね、どうもきな臭くなってきましたから」
人造人間が乗り込んでいたゲシュペンストとヒュッケバイン、そしてゲシュペンスト・タイプSと未知のゲッターロボ。地球圏に戻ってきたばかりのヒリュウ改だが、休む間もなく騒乱の中にその身を投じていくのだった……
そしてその頃地球では……正史ではありえないある出会いがあった。
「ラミア、こっちよ」
「レモン様……お待たせして申し訳ありませんでございましたですの」
「……ごめん、どうしたの?」
「すまんこってです……」
作られた人間――ラミア・ラブレスとその創造主レモン・ブロウニングが再会を果たしていたのだった……。
第32話 宇宙の龍/大地の鬼神 その5へ続く
ここで宇宙ルートは1回終了、次回からは地上ルート「桜花幻影」に繋がるオリジナルの話と久しぶりにそれも私おじさんなどを書いて行こうと思います。この段階でありえない、ラミアとレモンがエンカウントしてますが、原作のエキドナさんの代わりだと思ってください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い