進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第32話 宇宙の龍/大地の鬼神 その5

第32話 宇宙の龍/大地の鬼神 その5

 

バリソンにラミアを迎えに行かせ、イスルギ重工の中のカフェでラミアを待っていたレモンはカフェに入ってきたラミアを見てその瞳を輝かせた。

 

(前と全然違う……凄いわ)

 

自分に気付き、しまったと言う顔、そしてレモンに会えた事で喜ぶ仕草、目まぐるしく変わるその表情は調整中や、あちら側の時のラミアでは決してしない顔だった。その表情の変化は武蔵と触れ合っている時のエキドナと同じ様に、生きている女その物だった。

 

「ラミア、こっちよ」

 

どうしようかと悩む素振りを見せているラミア。その姿すら愛おしいと思いながらも、何時までも観察している訳には行かないので手を上げてラミアを呼ぶと不安と喜びのその瞳を揺らしながらレモンの側に駆け寄ってきて、頭を下げながら口を開いた。

 

「レモン様……お待たせして申し訳ありませんでございましたですの」

 

「……ごめん、どうしたの?」

 

その奇妙すぎる口調にレモンは驚きに目を見開き、ラミアは耳まで真っ赤にして俯きながら再び口を開いた。

 

「すまんこってです……」

 

その意味不明な言葉にレモンは始めて思考停止するという状況を味わっていた……。

 

「そっか、転移の衝撃で……大変だったわね」

 

「本当に申し訳なかったりしちゃったりしてしまうのです」

 

レモン達が転移した時もヴィンデルとウォーダンと逸れていた時期もある。その間にミツコと言うスポンサーを得て、散りじりになったメンバーを集めた。その事を考えればラミアが敬語を喋れないと言う不調だけですんでいるのは御の字かもしれない。

 

「敬語でなければ喋れるのでしょう? 良いのよ、敬語じゃなくて」

 

「そんな、とんでもないのでございますのですッ!」

 

私には無理だと言って手を振るその仕草を見て、レモンは小さく笑った。エキドナの変化はゲッター線が影響していると思っていたが、ゲッター線だけではない善良な人間と触れ合っているラミアにもその変化は現れていたのだ。

 

「判ったわ、それに可愛いから許しちゃう。貴女が何を見たのか、そして何を感じたのか教えてくれる?」

 

「はい、了解したのでござる……」

 

「ふふ、そんな顔をしないの、折角の可愛い顔が台無しだわ」

 

自分の口から出た奇妙な言葉に100面相をしているラミアの頭を撫でて、柔らかく微笑みレモンはラミアの報告に耳を傾けた。

 

「そう、アインストが……大丈夫だった?」

 

「はい、大丈夫でごんした。ただその……私達の知るアインストよりも弱い、弱すぎたであります」

 

戦闘データのコピーを差し出しながら弱いというラミアにレモンは首を傾げた。

 

「弱いってどんな風に?」

 

「実弾系の武器でコアが簡単に砕けちゃったりして、再生能力も無いよりましと言う感じでありました」

 

レモン達の知るアインストは実弾もビームも効果が薄く、そして何よりもコアが砕けても再生する時すらあった。

 

「ふーん、判ったわ。教えてくれてありがとう、偉いわ。ラミア」

 

「あ、いえ……レモン様をここまでご足労させてしまい、本当に申し訳無いで気持ちで胸が張り裂けそうなのです」

 

奇妙な言い回しだが、申し訳無いと言う風に感じているラミアを見て、人間らしい感情に芽生えているのが一目瞭然だった。

 

(ラミア、貴女は私の最高傑作……そして愛しい娘。貴女は私に何を見せてくれるの?)

 

エキドナは武蔵と触れ合い、恋や愛といった感情らしき物を見せた。そしてラミアは人の善性に触れて、様々な感情を理解しようとしている。それが何よりもレモンには嬉しかった。

 

「ヘリオスの方はどうかしら?」

 

「すまんこってす。痕跡らしい物は……ただ、ヘリオスは仮面をしていたでありんすよね?」

 

「え、ええ。そうね、それがどうかしたのかしら?」

 

「素顔はご存じないのでしょうか? もし素顔を知っていれば、教えていただきたいのでありんす」

 

「あ」

 

ラミアに指摘されて初めてレモンは気付いたのだ。ヘリオスの素顔を知らないのだと……。

 

「盲点だったわ。そうね、うん。そうに決まってるわよね」

 

転移した時に仮面を捨てて、別の名前を名乗っている可能性もある。そうなれば、ヘリオスと言う名前で探しても見つかる訳が無いのだ。そんな単純な事にレモンもヴィンデルも今まで全く気付かなかった。

 

「ヘリオスの事はとりあえず、今はいいわ。他に何か気になっている事は?」

 

「……ラドラ、ギリアム、エルザムの教導隊の他のメンバーに遭遇しましたです」

 

「戦闘データは?」

 

「バッチリ記録してあるでごんす」

 

あちら側ではいなかった、あるいは死去している教導隊メンバーの戦闘データ。それはレモン達にとっては非常に貴重なデータだ、対策などを練る重要な資料になる。

 

「もしかしてゲシュペンスト・MK-Ⅲとかのデータは?」

 

「……さすがにそれは無理でごんした」

 

「いえ、普通に考えて無理よね。ごめんなさい」

 

この世界の主力量産機「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ」のデータがあれば、複製できるかもしれないという考えは流石に欲張りすぎだったとレモンは苦笑を浮かべた。その後もラミアがハガネで見た物等の話にレモンは耳を傾ける、戦闘に関する物や、シャドウミラーの常識では考えられない甘い上官に混乱した話など、子が親に話すようなそんな他愛もない話だった。

 

「はい、これ通信機と解析機。この後は指令ディスクの内容に従って行動してね。今日は話せて楽しかったわ」

 

「レモン様……はい。ありがとうございます、その出来れば今度お会いする時は言語系のパーツも」

 

「ふふ、それは考えておいてあげるわ。今の貴女の口調は可愛いからね、もうそんな顔をしないの。それじゃあ帰りなさい、ラミア」

 

「……はい、レモン様」

 

レモンに言われてやや肩を落として歩き出したラミア。その小さくなった背中を見つめながらレモンが紅茶を口にしていると、ラミアが弾かれたように振り返った。

 

「レモン様、私は、私は……ハガネとシロガネで様々な物を見ました。それを見て、私は何が正しいのか、何が間違っているのか判らなくなってきました。レモン様、私は……私はどうすれば「ラミア、それは貴女が見つけ出す事よ。私に命令されたからじゃない、ヴィンデルに命令されたからじゃない、自分で考えて自分で正しいと思う決断をしなさい。容易に答えを求めたら駄目よ」……はい」

 

人造人間W-17と呼んで欲しかったのだろう、だがレモンはあえてそう呼ばず、ラミアと呼んで助けを求めるラミアを突き放した。レモンの求める新たな生命になろうとしているラミアの成長を止めない為に……。

 

「お前、ラミアに優しくしたいのか、厳しくしたいのかどっちだ?」

 

「ふふ、勿論優しくしたいに決まってるじゃない。でもね、優しいだけじゃ成長はしないのよ」

 

「そういうもんかねぇ……」

 

レモンとラミアの話を聞いていたバリソンが食べかけのサンドイッチを頬張り、コーヒーを口にしているとレモンがバリソンの机に上に1枚のカードキーを乗せた。

 

「……お前、これ」

 

「ふふ、私はラミア達だけに優しい訳じゃないわよ?」

 

「嘘言え、これを俺に渡してどうするつもりだ?」

 

レモンがバリソンに渡したのはゲシュペンスト・MK-Ⅱの起動用カード。しかも量産型ではない、レモンがあちら側で乗っていたカスタムタイプのワンオフのゲシュペンスト・MK-Ⅱの起動カードだった。

 

「だって貴方永遠の闘争とか興味ないでしょ? こっちに来たら明らかに私達と距離置いてるし」

 

「……」

 

「沈黙は肯定とみなすわよ。と言う訳で、優しいレモンさんは貴方に逃げる為の手助けをしてあげるのでした」

 

「嘘付け、絶対ウォーダンとか送り出すだろうが」

 

「うん。逆に言うと、それから逃げれないようじゃどの道死ぬでしょ? それなら殺してあげるのが優しさだと思わない?」

 

「……お前が優しいとか絶対ないわ。怖い女だよ、お前は」

 

怖い女と言いつつも起動キーを懐にしまうバリソンを見ながらレモンは席を立った。

 

(ああ。楽しみだわ)

 

正直な所、もうレモンには永遠の闘争に対しての興味はない。ゲッター線、そしてゲッターロボが齎す進化によって、Wシリーズがどんな進化を果たすのか、それだけが今のレモンの知りたいと願う全てであり、興味のすべてだった。それでもヴィンデルに拾われたという恩義があるから協力しているだけに過ぎない。

 

「何をしても最後まで見届けないとね」

 

行方不明のエキドナ、そして自我と感情に芽生え始めているラミア……自分の最高傑作と傑作の2人がどんな答えを出すのか、それを見届ける。それだけが今のレモンの全てなのだった……。

 

 

 

 

 

 

伊豆基地から飛び立つハガネとシロガネをリュウセイとエクセレンが休憩室から見送っていた。

 

「なーに、随分とブルーな感じじゃない? 愛しのラトちゃんと離れたのがそんなに嫌?」

 

「そういうエクセレン少尉だって、キョウスケ中尉と離れて寂しそうな顔をしてるぜ」

 

「やだ、ブーメラン。いつそんな高等手段を覚えたのッ!?」

 

実際の所エクセレンもリュウセイも気落ちしていたのは事実だ。ギリアムとヴィレッタが同行するとは言え、L5戦役の後の最大規模の作戦に参加出来ないと言うのはやはり精神的に来る物がある。

 

「2人には悪いけど、気落ちしている時間はないわよ」

 

「悪いがすぐにブリーフィングルームに集まってくれ」

 

ヴィレッタとギリアムに呼ばれ、リュウセイとエクセレンは慌ててブリーフィングルームに足を向けた。

 

「え、人造人間ッ!?」

 

「それらしいものと戦闘したって言うヒリュウ改からの報告があったわ」

 

L2宙域で多発している部隊の行方不明事件――それの捜索に当たっていたヒリュウ改からの報告はすぐに伊豆基地と連邦政府に届けられていた。

 

「これ……量産型のヒュッケバイン・MK-Ⅲですね、少佐」

 

「ああ、宇宙軍にはまだヒュッケバイン・MK-Ⅲは配備されていない筈なんだがな……」

 

少数生産のヒュッケバイン・MK-Ⅲはマオ社にデータ取りに残されている2機と、カークの全精力を告ぎ込んだヒュッケバイン・MK-Ⅲが2機存在しているだけだ。勿論マオ社に残っていると言う報告があった以上、この宇宙で発見されたヒュッケバイン・MK-Ⅲがどこからやってきたのが謎なのだ。

 

「地上から打ち上げられたって言うのは?」

 

「いえ、それらしい痕跡も無いわ」

 

「じゃあどこからヒュッケバイン・MK-Ⅲが……」

 

何故宇宙で発見されたのか、何故そのヒュッケバイン・MK-Ⅲに人造人間らしい物が乗っていたのか全てが謎だ。

 

「考えられるのはマオ社に百鬼帝国の手が伸びている可能性だが……これを口にするわけには行かない」

 

「疑心暗鬼になると大変ですしね……あーやだやだ、どうしてこんなに鬱陶しい手を打ってくるのかしら」

 

百鬼獣と言う凄まじい性能を持つ特機を複数所持しているのに、それで力押しするのではなく絡め手によって味方同士の疑心暗鬼を煽ると言う戦略はエクセレンの言う通り、鬱陶しい戦術である。

 

「それとこれを見て欲しい」

 

次に差し出された写真はゲシュペンスト・タイプSと真紅の戦闘機の姿が映されていた。

 

「ゲットマシンッ!?」

 

「もう宇宙で行動してる訳ね」

 

ゲッターロボらしきものがゲシュペンスト・タイプSを抱えて、宇宙に飛びだったのは伊豆基地でも確認されていた。それが既にヒリュウ改と異星人らしき部隊との戦いに出現している。と言うのはリュウセイとエクセレンに少なくない衝撃を与えていた。

 

「出発予定時間を1時間早めるわ。ヒリュウ改と合流後、すぐにマオ社へ向かうわ、リュウセイとエクセレンは自分の機体の設定を宇宙用に変更しておいて、下手をすればヒリュウ改と合流する前に戦闘になる可能性もあるからね」

 

「「了解!」」

 

ブリーフィングを終えて、格納庫に向かうリュウセイとエクセレンの2人を見送り、ヴィレッタとギリアムはゲットマシンらしき戦闘機を見つめる。

 

「ギリアム、どうみる?」

 

「そうだな。ゲットマシンであることは確定だ。だが……これが武蔵のものであるとは言い切れない」

 

「リクセントの事ね?」

 

「ああ、あのボロボロのゲッターロボの事もある。別の誰かが、このゲッターロボに乗っている可能性もある」

 

今地球圏では3体のゲッターロボが確認されている。

 

1体はリクセントで目撃された角の折れたボロボロのゲッターロボ。

 

1体はグライエン議員の屋敷が爆破された際に目撃された漆黒のゲッターロボ。

 

そして最後の1体はゲシュペンストと共に宇宙に向かったゲッターロボGに酷似したゲッターロボだ。

 

「……全員バラバラのパイロットなのか」

 

「それとも、武蔵が別の機体に乗っているのか……だ。ゲッターロボを見たから武蔵と繋げるのは危険すぎる」

 

LTR機構とリ・テクで発見されたゲッターロボの壁画の存在――それはギリアムが知らないゲッターロボも複数存在すると言う証拠だった――だからゲットマシン=武蔵と繋げるのは危険だとギリアムは呟いた。

 

「それもあるけど、貴方が調べている件は何時になったら教えてくれるの?」

 

「……確証を得てからだ。もう少し待っていてくれ」

 

「ふう、貴方も随分の秘密主義よね」

 

「すまないな、俺も確証が無い事を言う訳にはいかないからな、俺達も準備を始めよう。時間が無い」

 

これ以上話すことは無いとヴィレッタとの話を切り上げ、格納庫に向かって歩き出すギリアム。その背中を見つめながら、ヴィレッタは机の上の写真を持ち上げた。

 

「ゲシュペンスト・タイプS……か、どうせならR-SWORDなら良かったのに……」

 

イングラムが生きていると言う確信が欲しいヴィレッタはそう呟いた後に頭を振って、格納庫に足を向けた。

 

「見つけたら絶対引っぱたいてやるんだから」

 

だがそれは心配して、R-SWORDが良かったと言ったのではなく、心配を掛けさせられた分引っぱたいてやりたいと言う意味での発言であり、鋭く何度もビンタの素振りをしながらヴィレッタは格納庫に向かって歩き出すのだった……。

 

「む……」

 

「どうした? イングラム」

 

「いや、何か強烈に嫌な予感がしてな……」

 

「キルモール作戦に何かあると言うのか?」

 

「いや……そういうものではなくて……うーむ」

 

アースクレイドル攻略戦に内密に参加するために南米に向かうクロガネの中でイングラムはどうしようもない寒気を感じて、その身体を震わせているのだった……。

 

 

 

 

 

連邦政府・大統領府――執務室ではブライアンがレイカーからの報告を聞いていた。

 

『……以上がヒリュウ改からの報告内容であります、ミッドクリッド大統領』

 

「すまないね、レイカー少将。職務に戻ってくれたまえ」

 

ヒリュウ改が遭遇したガロイカと行方不明になった部隊のランゼンとゲシュペンストやヒュッケバインに人造人間らしき物が乗っていたと聞いたブライアンは背もたれに深く背中を預け、深い深い溜め息を吐いていた。

 

「……総合参謀本部を通さぬコンタクトは感心せんな」

 

「お疲れのようだな。ブライアン大統領」

 

ノックもなしに入ってきたグライエンとブライの来訪――それがブライアンの深い溜め息の理由だった。

 

「彼とはL5戦役からの縁でね。信頼出来る男だよ、少なくとも勝手に執務室に入ってくる貴方達よりも信用出来る」

 

軽い嫌味のジャブから入ったブライアンだが、ブライとグライエンは全く気にした素振りを見せない。

 

「そういう問題ではない。組織の縦の繋がりという物をもう少し意識して貰わねば困る。その上、民間人の前で機密事項の話など……言語道断だ」

 

グライエンの鋭い視線がブライアンの執務室のソファーに腰掛けているチャイナドレスの女性に向けられる。心臓の弱い人間ならば引き付けを起してしまいそうな視線だが、女性――ミツコ・イスルギは飄々とした態度を崩さない。

 

「なに、そう嫌味を言う物ではないのでないかな? グライエン議員。確かに縦の繋がりは大事だが、その間に情報を操作されては困る。

そうなれば信用出来る男から話を聞くのは間違いではないと思うよ」

 

「ご理解頂けたようで何よりだ。ブライ議員」

 

ブライアンを擁護するような発言をするブライだが、その口元には弱みを握ったぞと言わんばかりの笑みが浮かんでいた。その笑みを見て、ブライアンは表面上は笑っていても、内面はこれ以上無いと言うほどにしかめっ面をしていた。

 

(前から感じていたけど、やっぱりブライ議員は信用出来ない)

 

これ以上弱みを見せる訳にはいかないとブライアンは小さく溜め息を吐いた。そう思いたく無いが、余りにもブライとグライエンの来訪したタイミングが良すぎた。

 

「……さて、ああいう事態が発生した以上、ミツコ・イスルギ君の査問は中断だ。DC残党に対する軍事物資の横流しの件は、次の機会に回すからまた後日尋ねて来て欲しい」

 

帰ってくれと言っているのに帰る気配の無いミツコにブライアンは一瞬嫌そうな顔をしたが、ミツコにだけ構っている時間が無いとグライエン達に視線を向けた。

 

「宇宙での出来事、そして今全世界で発見されている異形の特機について――ここにいる面々の意見を聞きたいな」

 

宇宙での新型機の強奪事件とそれに乗っていた人造人間。

 

そしてハワイ、伊豆基地、リクセントと現れた異形の特機。

 

その両方について尋ねると、まずグライエンが口を開いた。

 

「DC残党の仕業とは思えん。……『ケースE』だな」

 

「私もそう考えます」

 

「その根拠は何かな? ニブハル・ムブハル特別補佐官」

 

この部屋にいる面子の中で最もブライアンが信用していない人間――ニブハル・ムブハルにその根拠は? と尋ねるとニブハルは笑みを浮かべてブライアンの問いかけに返事を返した。

 

「ヒリュウが接触したというアーチンです。今になって姿を現したという点が気になります、やはり別の敵性異星人の可能性は捨て切れないでしょう」

 

「……確かに、アーチンは一説にはエアロゲイターの戦力と言われていたが、L5戦役ではその姿は一切確認されなかったな……そう思うと、ケースEは確かにありえる話だ」

 

「そら見た事か、ブライ議員も私と同じ意見だ。早く、ケースEの発令をするべきだ」

 

我が意を得たりとグライエンがブライの発言にあわせるようにケースEを発令するべきだとブライアンに詰め寄る。だがブライアンはグライエンに視線を向けず、ブライへと視線を向けてその発言の真意を尋ねた。

 

「ブライ議員はケースEの促進派なのかな?」

 

ブライアンの問いかけにブライは肩を竦め、その顔に笑みを浮かべる

 

「あくまで可能性の話ですよ。大統領――私としてはそうですね。イスルギ重工についての責任追及をしたい、私の促進しているゲッターロボ量産計画――イスルギ重工の試験場から次々奪われている件についてね」

 

自分はあくまで中立、今回は自分が主導になって計画しているゲッターロボ量産計画の試作機の強奪事件についての話だとブライは告げる。

 

「な、お前は!? 私に協力するのではなかったのか?」

 

「協力しますとも、ですが、状況を把握し、最も効果的な場面で打たなければ意味が無いのですよ。グライエン議員」

 

口論をするグライエンとブライを見て、ブライアンは更に混乱する。

 

(演技……それとも本気どっちだ? 判らない)

 

ブライとグライエンの関係性が全く見て取れず、これ以上話を聞いているとブライ、グライエンの両者の真意が判らなくなると強引に話をすり替える事にした。

 

「……ミツコ君。弁明は何かあるかな?」

 

「先程もご説明した通り、イスルギ社のアーマードモジュールはライセンス生産されております。故に戦後の混乱した状況で、製品の先行きを全て把握することは到底不可能……この件に関しましても、弊社の与り知らぬことでございますわ。ゲッターロボに関しては私の不徳の致す所ですが、L5戦役を終結させた英雄機――それを欲するのはどこの陣営でも同じことでは?」

 

「ふむ……確かに一理ある」

 

英雄機ゲッターロボ。行方不明になっている悲運の英雄武蔵と共にその存在とネームバリューは到底無視出来ない物である。反政府に対しては英雄が今の情勢に反対していると言う旗頭になる、そして政府と連邦軍からすれば英雄機と言う事で絶対的な正義の象徴としても使える。どの陣営からも例えレプリカだったとしても、喉から手が出るほどに欲しいのがゲッターロボだ。

 

「大統領閣下。私共より、マオ・インダストリー社を疑われた方がよろしいのでは? 主力機として導入されたばかりの機体が、謎の組織に使われるなど由々しき事態でございますし」

 

考え込んでいるのを見て、これ幸いと矛先を変えようとするミツコの言葉にブライアンはにやりと笑った。

 

「確かにね。でも拘束されたヒューストン基地の元司令は君の頼みでヒュッケバイン・MK-Ⅲを運び込ませたと言っているのだけど……そこはどうなのかな?」

 

先日情報漏えい、そして反逆罪で収監されたヒューストン基地の司令が自白したのだ。ミツコに頼まれ、無理にヒュッケバイン・MK-Ⅲを2機自分の基地に運び込ませたと、ミツコはブライアンの問いかけに一瞬目を泳がせたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「……確かにマオ社の最新鋭機には興味がある言いはしましたが……別にそれが内通していると言う……」

 

「おや? 僕は内通なんて言ったかな? ただ僕はイスルギ重工の社長として、ライバル会社の最新鋭機に興味があるのかな? と尋ねたかっただけなのだけど?」

 

「ッ」

 

「それと、うーん。やっぱり今の発言を聞く限りだと、ミツコ君。君は随分とヒューストン基地の司令と仲が良かったようだね? 彼は色々と喋ってくれているんだよ?」

 

「それは私共がスポンサーをしているプロジェクトTDの開発拠点ですから、スポンサーとして何度もヒューストン基地に足を向ける機会はありましたわ、でも男女の関係ではありませんわ」

 

「そうかい? でも何度も彼は君と酒を飲んで、一晩を過ごしたと言っていたけれど……」

 

「……プライベートの事に踏み込みすぎですわよ?」

 

「うん、プライベートと言うのなら、君も黒だよね? 僕は今君をここで拘束しても良いんだよ?」

 

ヒューストン基地の司令の発言は決して多くない。だが、ミツコと一晩を過ごしたと言う事、そして酒を飲んだというのは事実だし、ヒュッケバインMK-Ⅲに関しては間違いなくミツコの頼みだったと自白している。

 

「ブライアン大統領。ミツコ・イスルギに関してはヒューストン基地の口からでまかせと言う可能性もあると思うぞ」

 

「おや、今度はグライエン議員がミツコ君を庇うのかな? さっきまで責めていたのに?」

 

「確かにそうだが、証拠もないのにせめて立てるのは違うだろう。正規の手続きをとった上でやるべきだと私は言っているに過ぎない」

 

「ふむ、まぁ、そういう事にしておこうか――、ミツコ君。君の会社は限りなく黒に近いグレーだ、確かにイージス計画などに協力はしてくれているが……あまり黒い噂が多くなると、僕も連邦軍もそれなりの対応をしなければならない」

 

「……存じておりますわ。ですが、私は己の身が清廉潔白だと声を高らかにして言えますわ」

 

「そう、それならそれで良いけれど、僕は君を信用していないし、ミツコ君をフォローするような発言をしたグライエン議員も信用出来ない。だけどケースEの発令は承認する、今日はそれでお引取り願おう、今度は正規のアポイトメントを取って来てくれ、アルテウル。と言うわけだ、お帰りだ。見送ってくれてあげてくれ」

 

「はい、判りました。では皆様、こちらです」

 

強引に話を切り上げ、ブライ、ミツコ、グライエンの3人を執務室から追い出すブライアン。

 

「ああ。そうだ、グライエン議員。先日の贈り物、とても助かったよ、また今度お願いするね」

 

「……喜んでもらえて何よりだ。また送らせて貰おう」

 

グライエンの返答にブライアンは一瞬眉を動かし、それでも笑みを浮かべて執務室を出て行く3人を見送った。

 

「さてと、ニブハル特別補佐官、1つお願いがあるんだ」

 

「おや? 皆さんを追い出して、私に何の頼みですかね?」

 

「彼らとの接触手段を検討してくれ」

 

ケースEの発令を認めたのはニブハルのルートを利用して、平和的に戦争を回避出来ないかと検討する為でもあった。

 

「ケースEを発令しておいて、それですか?」

 

「警戒するのは仕方ない事だろ? それでどうかな? 頼めるかな?」

 

「……良いですよ、任せてください。大統領」

 

にこやかに笑うニブハルを見送り、ブライアンは個人端末のDコンを取り出した。

 

【気をつけろ。ブライアン……旧西暦の悪意は広がっている、知人でも信用するな。私を含めてな】

 

「ああ、そのようだね。グライエン議員……」

 

それはグライエンの屋敷が爆破される前日に送られて来たグライエンからのメールだった。ブライアンが言っていた贈り物とは、このメールの事であり、決して同じ様な内容のメールを送れという意味ではない、だがそれを贈り物だと勘違いしたグライエンは間違いなく、グライエンではない。同じ顔をした別人だと確信した……。

 

「どこまで持つかな……出来る限りの備えはしておきたいんだけどなあ……」

 

アルテウルに送られ、大統領府を出て行く3人を見つめ、政府の高官であるグライエンですら、もう傀儡にされている事が判り、ブライアンは深い溜め息を吐くのだった……それはもう、自分が頼れる味方がどこにもいないと言う絶望感からもたらされる諦観の混じった物なのだった……

 

 

第33話 宇宙の龍/大地の鬼神 その6へ続く

 

 




次回は前回のあとがきの通り、桜花幻影の話に入って行こうと思います。こちらもかなりのオリジナルルートが入っておりますが、難易度マシマシでお送りするのは変わりはないので、それでは続けて第2話もお楽しみください

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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