進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第33話 宇宙の龍/大地の鬼神 その6

第33話 宇宙の龍/大地の鬼神 その6

 

ハガネがエチオピアを目指し伊豆基地を発った頃――ユウキとカーラ達はアースクレイドルに辿り着いていた。

 

「地下シェルターって 聞いてたけど……プラント所か、 街みたいな物まであるんだね。これなら何年も篭城する事になっても平気そう」

 

「ここは人類の方舟となるべく造られた施設だからな、人工冬眠をするだけでなく、内部で人が暮らせるようにもなっているそうだ」

 

そう説明しながらも、本来箱舟となるべく作られた施設が百鬼帝国、そしてテロリストの手に落ちて、本来守るべき人間に攻撃を仕掛けていると言う現実にユウキは内心失望しながらも、カーラには素晴らしい設備なのだと説明する。

 

「農場もあるみたいだし、紅茶の葉っぱを栽培してるかもよ? 見に行ってみる?」

 

そしてカーラはユウキのそんな内心の複雑な感情に気付いたのか、ユウキの好きな紅茶の葉っぱがあるかもと声を掛けるが、ユウキは頭を振った。

 

「天日で育っていない物は邪道だ。それに良い茶葉は買い込んであるから心配ない」

 

「あっそ。でも、こんだけ広いと、ダンスの練習をするスペースにも困らなさそうだね……少し踊っても良い?」

 

ユウキの言葉に苦笑したカーラは跳ねるようにユウキの前に移動して、上目目線でそう尋ねる。

 

「……だからあの時下りれば良かったんだ。お前にはこんな世界は相応しくない」

 

ユウキは何度もカーラに降りろと告げていた。だがその度にカーラはユウキを1人にするのは嫌だと言って降りなかった。そのせいでカーラの手も鮮血に染め上げられてしまっていた……自分が助けた少女が、自分の後を追いかけて、その手を鮮血に染めた。その事にユウキは口にはしないが、心を悼めていた。こんな世界に入らせるために救ったのではない、明るく、幸せな世界に行ける様にと助け、そしてシェルターまで連れて行ったのにと言う後悔があった。

 

「ユウを1人に出来ないし、それに今は戦わないと駄目だからさ……ね、考えてみてよ。戦いが終わってさ、もう何にも怯える事が無くなって……あたしはダンサー、ユウはお洒落な喫茶店でマスターをしてさ……楽しいと思わない?」

 

それはありえたかもしれない1つの結末だろう。ユウもカーラもPTなどに乗らず、また戦争等が起きなかった平和な世界――だがそれは願っても叶わない夢だ。

 

「本気でそう思っているのか?」

 

「……思わない、思わないよ。でも……どうせ夢なら平和な世界を夢見てもいいでしょ?」

 

「そう……だな」

 

自分達は何処まで言ってもテロリストなのだ。そして百鬼帝国の傘下にいる以上、望む、望まないにしても戦いからは逃げられない。

 

(……俺は良い。だが、カーラだけでもなんとかしてやりたい……な)

 

ユウキはスパイとして、テロ組織に潜り込んだ段階で己の死は覚悟していた。それでもカーラは違う、ユウキを追いかけてここまで来てしまったのだ。自分と共に、死なせる訳には行かないとユウキが考え込んでいるとカーラの声がユウキの耳に飛び込んできた。

 

「あ……見て、ユウ。あれ、ランドグリーズだよ。結構な数が揃ってるんだね」

 

そう言われて顔を上げるユウキ。何時の間にか保養施設や、街の区画から離れて格納庫の区画に来ていたのに今気付いたユウキも格納庫のハンガーに視線を向けた。

 

「それに見慣れん機体もあるし……あれは龍と虎?」

 

「なんだろうねえ。あれ……」

 

ランドグリーズの横に固定されている、PTサイズの青い機体、そしてその隣の金色の龍と銀色の虎を模した特機を見つめていると、背後から頭の上に手を乗せられた。

 

(う、動けんッ!)

 

軽く手を乗せられているだけなのに、ユウキの身体は動かなかった。腕力だけではない、恐怖で身体が金縛りにでもあったような……そんな感覚を感じ、冷や汗を流して硬直しているとふっと身体の痺れが取れ、咄嗟に振り返り様の裏拳を放った。

 

「いーい拳だ。信念の篭もった良い拳だぜ、人間」

 

「ッ! 失礼しましたッ!!」

 

ユウキの拳を受け止めていたのは左側頭部から金色に光る角を生やした漆黒の着流し姿の鬼だった。鬼に拳を向けたことを謝罪するユウキだが、鬼は上機嫌に笑う。

 

「何気にするな、俺が悪戯をしただけさ」

 

「そうそう、貴女達は悪くないわよ? 何か言われたらあたしが庇ってあげる」

 

舞うように鬼の隣に対になるように、右側頭部から銀色に輝く角を生やした、真紅の着物姿の女の鬼が現れた。

 

「俺様は龍王鬼。てめえの名は何だ? 人間」

 

「あたしは虎王鬼。よろしくねえ」

 

二本鬼、四本鬼とも違う、だが圧倒的な威圧感を持つ鬼にユウキとカーラは冷や汗を流しながら頭を下げる。

 

「ユウキ・ジェグナン少尉です」

 

「り、リルカーラ・ボーグナイン少尉です」

 

「あー、その少尉とか言うのはどうでもいい、ユウキとカーラだな。今回の作戦では俺らの部下つっうことでよろしくな」

 

「ふふ、そう言う事。でも良いじゃない、2人とも中々良い顔をしてるわ龍」

 

「そうだな。あの仮面の連中よりもよほど良いな、虎よ」

 

何故気に入られたのか判らないが、それでも今は自分の身の安全を確保出来たと内心安堵するユウキ。しかし龍王鬼は、これから発令させる作戦について心配していると判断したのか、大丈夫だと豪快に笑った。

 

「なーに、そう心配すんな。デザートクロスなんつう大層な名前だけどよ、ようは名乗りだ。んな、緊張するもんじゃねえ」

 

ユウキとカーラの首に丸太のような太い腕を回し、にかっと笑う龍王鬼にユウキとカーラが愛想笑いを返すと、龍王鬼は肩を竦めた。

 

「もうちっとよ、楽しそうに笑えないか? お前ら」

 

「ふふ、貴方の顔は怖いからしょうがないわ。でも大丈夫よ、龍は優しいし強いわ、何よりも全部大帝に任せておけば何の心配もない。異星人にだって勝てるわ、そうすれば……ふふ、貴方達の夢、ダンサーと喫茶店のマスターだっけ? それも叶うわ」

 

「き、聞いていたんですか!?」

 

虎王鬼の言葉にカーラが声を上げると虎王鬼は楽しそうに笑う。

 

「ええ、良いじゃない。素敵な夢よね?」

 

「おう、良いじゃねえか、ユウキよ、番は大事にしなきゃなんねえぞ」

 

「「つ、番ッ!?」」

 

龍王鬼の言葉にユウキとカーラが声を上げると龍王鬼の首に虎王鬼が腕を回し、その身体にしがみ付いて、からかうように口元を隠して笑った。

 

「あら、あたし達の勘違いみたいね」

 

「そう見てえだなあ。だがまぁ……見込みがないわけじゃ無さそうだ。かっかっか、堅物だと後悔するぜ、人生楽しく生きろよ。俺みたいな、美人の嫁さんを貰って、戦って、酒飲んで、飯食って、ああ、素晴らしき人生かなッ! あ、鬼生か?」

 

「ふふ、どっちでも良いじゃない。龍、まぁ、出撃前の顔合わせ。ふふ、今度は一緒に食事でもしましょう?」

 

虎王鬼を抱きかかえたまま、歩き去っていく龍王鬼。その巨大な背中を見つめているとカーラが顔を赤くさせる。

 

「あ、あたしと、ユウってつ、つ……な、なんでもないッ! ごめんッ!」

 

「お、おいッ! カーラッ!」

 

龍王鬼の番発言を聞いて、自分とユウキが夫婦に見えるのかと尋ねようとしたカーラは耳まで赤く染めて、逃げるように駆け出していく、呼び止めはしたが走り去ったカーラの背中に伸ばした手を握り締めるユウキ。

 

「こんな浮ついた気持ちでは駄目だな」

 

自分は死んでも、カーラは死なせない――鬼も、アーチボルド達も騙し続けて、その先にある平和な世界にカーラを連れて行くためにこんな浮ついた気持ちは不要だと口にして、ユウキは歩き出す。連邦の大規模作戦――「キルモール」しかし、そこに待ち構えているのは土龍等ではなく、誘い込まれた全てを噛み砕く邪悪な鬼と言う事をクロガネに伝える為にその場を後にするのだった……。

 

 

 

 

薄暗い研究室の中に安置された睡眠用のポッドに向かって声を掛けるアギラをクエルボは冷めた目で見つめていた。

 

「さあ……目を覚ますんじゃアウルム1。ワシの可愛い娘……お前の出番が来たぞ」

 

(何が娘だ、オウカの事を番号でしか呼ばないくせに)

 

精神操作を繰り返し、スクールの子供達に自分を母親と呼ばせるアギラは醜悪な化け物にしか見えなかった。自分の目的を、自分の価値を上げる為にだけに何度も子供達を犠牲にしたアギラはクエルボにとって嫌悪する存在だった。

 

「……母様……おはようございます」

 

ポッドから身体を起こした黒髪の少女――「オウカ・ナギサ」は辺りを見つめ、アギラを見つけると柔らかく微笑んで母様と呼んだ。

 

(駄目か……)

 

クエルボは眠っている間のオウカやゼオラの調整を任されていたが、やはりアギラが最も執着するオウカには、クエルボの小細工など何の効果も無かった。アギラに会えて嬉しいという顔を見て、クエルボは痛ましそうに目を背けた。

 

「気分はどうかえ? アウルム1」

 

気遣っているように見えるアギラだが、アギラが必要としているのはオウカの戦闘技術であって、オウカ本人ではない。だがそれに気付かないようにされているオウカは心配されていると思い柔らかい笑みを浮かべる。

 

「……悪くありません」

 

「そうかい。それは良かったのう、フェフェフェ」

 

「母様、弟や妹達は……?」

 

「もう目覚めておる。お前も早う支度をするんじゃ」

 

アギラに促され、オウカが退室した所でアギラはやっとクエルボに視線を向けた。

 

「そうか、化け物にブロンゾ28がやられたか」

 

「はい、それでゼオラは不安定となっております」

 

アインストに対する恐怖は百鬼獣に対しても同じ感想を抱くようになってしまい、今も部屋で休ませているとクエルボが言うとアギラは考え込む素振りを見せたが、それはアラドの安否を思っての物ではなかった。

 

「ラトゥーニ11がPTに乗っていると言う事が驚きじゃな……廃棄したが、今捕えれば面白いデータが取れそうじゃなあ……」

 

アラドの事も、ゼオラの事も、そしてオウカの事も何も考えていないアギラの姿を見て、クエルボは改めて離反の決意を固めた。

 

「まぁ、良かろう。ブロンゾ27に関してはワシが調整する」

 

「しかし、今下手に調整するのはゼオラの精神を壊す事に繋がります。今はもう少し様子を見るべきかと……」

 

「ふむ、精神崩壊しては調整も何も無いな、よし、ブロンゾ27とアウルム1の様子を見に行くぞ」

 

「……はい」

 

アギラに連れられて、クエルボはゼオラの私室に足を向ける。

 

「オウカ姉様……! ば、化け物……化け物が……アラドを、アラドを撃墜したの……」

 

「話は聞いたわ、大丈夫。大丈夫よ、ゼオラ。貴女を怖がらせる化け物はここにはいないわ」

 

オウカがゼオラを抱き締めて、大丈夫と繰り返し声を掛ける。

 

「で、でもラト……そう、ラトが! ラトがハガネにいたの……も、もしかしたらアラドはハガネに」

 

「ラトがハガネに? 本当なの?」

 

「う、うん。私見たの! あれはラトだった。だから、だからハガネに……「ゼオラ。大丈夫かい?」

 

「せ、セロ博士……」

 

ハガネにアラドがいるかもしれない。だからハガネに行きたいと繰り返し言っていたゼオラ。それをアギラに聞かせる訳にはいかないとクエルボが強引に話に割り込んだ。

 

「セロ博士、ラトの事は私は聞いていませんが……?」

 

「すまないね。ゼオラの調子が悪かったからね、僕はそれに掛かりつけだったんだ」

 

ゼオラのハガネに行きたい、投降したいという発言は早々許容出来る物ではなく、それをアギラに聞かせないために色々と対策を講じていたのだが、それが全て無駄になってしまった。

 

(でも肝心な部分は聞かれていない、大丈夫だ)

 

まだハガネに投降したいと言うのはゼオラ自身の口から出ていない。だから大丈夫だとクエルボは小さく安堵の溜め息を吐いた。

 

「そう、ラトならアラドを助けてくれているかもしれないわね」

 

「アラドは投降したから! 捕虜になっていると思うのッ! アラドは死んでない、死んでないよね?」

 

「ええ、大丈夫よ。アラドは生きている、私が確かめて来てあげるわ。だから少し眠りなさい、酷い隈よ」

 

オウカに抱きかかえられ、頭を撫でられている内にゼオラの身体から力が抜けオウカの胸の中で眠りに落ちた。オウカはゼオラを抱きかかえ、ベッドの上に寝かせるとアギラとクエルボに身体を向けた。

 

「……母様、私を出撃させて下さい。ラトとアラドを連れ戻したく思います」

 

「良いじゃろう。 ちょうどヴィンデルの配下の者達と龍王鬼達が出る所じゃ、奴にはワシが話をつけておく。ウォーミングアップも兼ね、共に出撃するが良い」

 

「承知致しました、母様。ゼオラ、大丈夫よ。起きた頃にはラトもアラドも私がちゃんと連れて帰ってくるから」

 

泣きながら眠っているゼオラの頬を撫で、オウカはゼオラの部屋を出て行った。その姿をアギラとクエルボは並んで見送り、アギラはクエルボに視線を向けた。

 

「ブロンゾ28がハガネに回収されたのかい?」

 

「いえ、それは確認しておりません……ですがアラドなら生存している可能性は十分にあるかと……」

 

映像で確認したが、アンノウンの攻撃はリオンのコックピットブロックを避けていた。脱出装置が発動した保障は無いが、もし生きていればハガネに捕虜として回収された可能性は十分にあるとクエルボは考えていた。

 

「ふん、お前はブロンゾ28に過度な期待を抱きすぎておるわ、あやつは新型のベースとして 肉体を改造しただけのサンプルに過ぎん。それ以外はロクな成績を残さなかった欠陥品だからのう。惜しくはないわ」

 

クエルボのアラドが生きていると言う根拠はアラドは身体能力を改造された存在だからだ。常人よりもはるかに強靭な肉体を考えれば、もしかしたらと言う希望を抱くのは当然の事だった。

 

「まぁ良い、ワシからすれば廃棄されたラトゥーニ11が戦っていると言う事に興味があるな。アウルム1が連れ戻して来たら調べる価値はありそうじゃ」

 

アギラの言葉にクエルボの目付きが鋭くなる。すべてを騙すと決めていても、それでも隠し切れない嫌悪感などはどうしてもある。

 

「何じゃ、その顔は。 不満でもあるのかえ?」

 

「……いえ」

 

不満でもあるのか? と言われクエルボはなんでもないと返事を返すが、アギラはクエルボの心境を見抜いていた。

 

「フン……くれぐれも、ブーステッド・チルドレンにつまらぬ情けなどかけるでないぞ。あやつらはただのサンプル、道具に過ぎないんじゃからな」

 

「……はい、判りました。では失礼します」

 

アギラのどこまでもオウカ達を人間として見ない発言。その発言にアギラを殴り倒してやりたい気持ちになりながらも、クエルボはぐっと拳を握り締め、それに耐えてアギラの前から姿を歩き去るのだった……。

 

 

 

 

アラビア半島に向かって進むハガネの格納庫――忙しなく出撃準備をする整備兵やキョウスケ達をぼんやりと見つめながらラミアはレモンから言われた言葉を考えていた。

 

(正しい事とは何なのですか……レモン様)

 

自分で考えて、自分で決断を下せと言われ、自分が何をすれば良いのか、それはレモンなら判ると思い尋ねたのに、容易に答えを求めるなと突っぱねられ、自分が何をすれば良いのか、そして何が正しい事で、何が間違った事なのか……それがラミアには判らなかった。

 

(指令ディスクに命令は入っていた……デザートクロス作戦のスケジュールに基づき、潜入任務の続行……)

 

Wシリーズとすれば、指令ディスクの内容に従って動くべきだ。だがレモンは自分やヴィンデルに命じられた内容だけではない、自分で考えて正しいことをしろと告げた。では正しい事が何なのか……それが判らないラミアが悩んでいると艦内放送が響いた。

 

『間もなく、 本艦はアラビア半島に進入する。総員、第二種戦闘配置』

 

その放送に考え事を中断し立ち上がるラミア。その顔には先ほどまでの迷いの色は無かった、戦いの中にいれば何も考えないで済む。悩む必要も無いと考えれば気が楽だった。

 

「どうしたんです、ラミアさん?」

 

アンジュルグに乗り込もうとしたその時、ブリットに背後から声を掛けられラミアはその足を止めた。

 

「え?」

 

「そんな顔をするなんて珍しいですね。 何か気になることでも? それなら今の内にカイ少佐やキョウスケ中尉に相談してきても構いませんよ?」

 

心配そうにしているブリットにラミアは何を言われたのか一瞬理解出来なかった。自分は何時も通りにしていた筈だ、それなのに何故心配されているのか判らなかった。

 

「そんな顔とは……どんな顔でございますの事なのですか?」

 

「落ち着きがないって言うか、不安そうって言うか……イルム中尉はどう思います?」

 

ラミアとブリットが話している事に気付いたのか、アンジュルグと同じ特機のハンガーに固定されているグルンガストに乗り込みに来たのか、近くにいたイルムにブリットがそう尋ねる。

 

「さしずめ、母親とはぐれた子供だね。何か悩みがあるんなら聞くぜ?」

 

「そ、そんな事……全く持ってありませんでございます……」

 

ラミアは自分で何時も通りの表情を浮かべていたつもりだった。だがブリットやイルムが気付いた通り、その瞳は不安げに揺れ、その表情も曇っていた。ラミアは自分の感情が、自分の迷いが顔に出ている事を指摘されるまで全く気付いていなかった。

 

「無駄話はそこまでだ。さっさと機体に……」

 

ラミアと話をしているブリットとイルムを見て、カイが機体に乗り込めと言おうとした瞬間、格納庫に警報が鳴り響いた。

 

「敵襲ッ!?」

 

「各員機体に乗り込め! 緊急発進だッ!!」

 

突然の警報に驚いているブリット達にカイは格納庫中に響き渡る怒声で機体に乗り込めと叫び、自分の乗機であるゲシュペンスト・リバイブに乗り込むのだった。

 

「本艦の前方より、機動兵器群が急速接近中ッ! 友軍機ではありませんッ!」

 

アラビアの第21・23・24混成機動師団と合流する為にアラビア海を進んでいたハガネのレーダーに機動兵器の熱源反応が感知され、ハガネのブリッジは一気に慌しくなった。

 

「アースクレイドルからの迎撃部隊かッ!?」

 

「総員、第一種戦闘配置ッ! PT各機を出撃させろッ!」

 

「了解ッ! エイタ、敵機の識別はッ!?」

 

ダイテツからの出撃命令を聞いてテツヤが出撃命令を下し、敵機の識別を行えとエイタに命ずる。

 

「待って下さい……こ、これはッ!? そ、そんな馬鹿なッ!?」

 

識別を行なっていたエイタのうろたえた声がブリッジに響き、ハガネのブリッジに映った敵影にダイテツとテツヤもその顔を驚愕に歪めた。

 

「馬鹿なッ!? あれはッ!」

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅱだとッ!?」

 

テロリスト達が送り出してきた機体はリオンでも、アーマリオンでもなく、連邦の主力であったゲシュペンスト・Mk-Ⅱの大軍なのだった……。

 

 

 

 

ハガネから出撃したハガネのPT隊も空を埋め尽くすゲシュペンスト・MK-Ⅱの大軍に驚きに目を見開いていた。

 

「あ、あれはッ!?」

 

「量産型のゲシュペンストMK-Ⅱだと……?」

 

「妙ですね。あの機体は生産が終了されているのに……」

 

既に連邦軍は主力をゲシュペンスト・MK-Ⅲに切り替え、ゲシュペンスト・MK-Ⅱは生産されていない。それなのに新品同様のゲシュペンスト・MK-Ⅱの登場には流石のカイ達も驚いた。

 

「フライトユニット装備型ならまだしも、ノーマルのゲシュペンスト・MK-Ⅱなんてどこの部隊も使っていないぞ」

 

ゲシュペンスト・Mk-Ⅲの生産が間に合うまでは、ゲシュペンスト・MK-Ⅱにフライトユニットを装備して運用している部隊は確かに存在するが、ノーマルのゲシュペンスト・MK-Ⅱを運用している部隊なんて存在しないとカイは訝しげに呟いた。

 

「それにあれだけの数がテロリスト側にあるのも妙だ」

 

「もしかして、彼らが量産していたんでしょうか?」

 

「リオンシリーズがあるにも関らずにか?」

 

ブリットの呟きにライが即座にそう突っ込みを入れると、ブリットはしまったと言う様子であっと呟いた。テロリスト側の主力はリオンやアーマリオンだ、それなのに態々ゲシュペンスト・MK-Ⅱを量産する意味は殆ど無い。

 

「L5戦役を潜り抜けたゲシュペンスト・MK-Ⅱ・F型装備は確かに保管されているが……」

 

「それが盗まれたって言う話も聞かないわな……それにフライトユニットじゃなくて、テスラ・ドライブを積んだタイプなんて聞いた事が無いぜ」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱにテスラドライブを搭載するくらいならば、改造費も、制作費もぐっと安い上に、武装を搭載する事も出来るフライトユニットを製造するだろう。

 

「態々テスラドライブを搭載したゲシュペンスト・MK-Ⅱを作るくらいなら、アーマリオンやガーリオンを量産するだろうな」

 

「だな。今時ゲシュペンスト・MK-Ⅱを量産しても、友軍機に偽装する事すら出来ないぜ?ったく、何処の馬鹿があんなもんを量産したんだ?」

 

DC戦争当時ならまだしも、今頃フライトも装備せず、テスラドライブを搭載したゲシュペンスト・MK-Ⅱなんて時代遅れにも程がある。動揺が広がる中、ラミアだけはゲシュペンスト・MK-Ⅱを冷静な視線で見つめていた。

 

(あれは本隊のゲシュペンスト……こちら側の戦力偵察か。それとも足止めか……アースクレイドルに今はハガネにこられては困るという事か)

 

順調にハガネが進んでいればアースクレイドルを攻撃するキルモールに間に合ってしまう。それを阻止する為の足止めだとラミアは考えていた。

 

「「「!!」」」

 

展開されたゲシュペンスト・MK-Ⅱの部隊からメガビームライフルによる射撃が放たれる。それを見て、カイが全機に通信を繋げる。

 

「各機へッ! 詮索は後だッ! 散開して敵機を撃破しろッ!」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱからの攻撃を受け、カイは敵の詮索をしている場合ではないと叫び戦闘命令を下した。

 

「なんだ、こいつら……?」

 

「弱い?」

 

狙いは正確無比、そしてテスラドライブによる機動力の向上、そして改良された武器を扱っているゲシュペンスト・MK-Ⅱは確かにかつてのゲシュペンスト・MK-Ⅱと比べれば確かに高性能だった。だが、ゲシュペンスト・MK-Ⅲに乗っているブリット達からすれば、脅威には程遠い性能しかなかった。

 

「ふんッ!!」

 

「!?!?」

 

リバイブ(K)の装甲にゲシュペンスト・MK-Ⅱのメガビームライフルは完全に無効化され、メガ・プラズマステークの一撃でガードした両腕ごと粉砕され爆発四散する。

 

「確かに弱いな。テスラドライブを搭載しているだけか?」

 

ツインマグナライフルを避けきれず、爆発するゲシュペンスト・Mk-Ⅱを見てR-2のコックピットでライが怪訝そうに呟いた。

 

「確かにそんな風に思えますね」

 

ヒュッケバイン・Mk-Ⅲが中破したので、ノーマルのゲシュペンスト・MK-Ⅲに乗り込んでいるラトゥーニがライの言葉に同調すると、キョウスケとカイからの警告の意味を込めた通信が全機に繋げられた。

 

「本命は別の部隊かもしれないですね。カイ少佐」

 

「ああ。俺もその可能性を考えている、各員。敵機の応援、増援に備え慢心せず対応せよ」

 

弱いと連呼するカイ達にラミアは内心複雑な物を抱いていた。

 

(シャドウミラーの本隊がこうもあっさりとやられるとは……やはりあちら側と同じでハガネは強い)

 

決してゲシュペンスト・MK-Ⅱの部隊は弱くない、だがそれを上回る戦力をハガネが有しているのだ。ゲシュペンスト・MK-Ⅱよりもはるかに性能が高い、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてヒュッケバイン・MK-Ⅲを主力として量産しているこちら側の世界はラミア達の世界よりも遥かに戦力が充実し、技術も向上していた。それがシャドウミラーの本隊のゲシュペンスト・Mk-Ⅱがろくに抵抗も出来ず撃墜されている理由だった。圧倒的な戦力差によって、シャドウミラーのゲシュペンスト・MK-ⅡはハガネのPT隊が出撃してから、20分と経たず殲滅されてしまっていた。

 

「敵機殲滅完了、アサルト1からスティール2へ、敵機の増援はあるか?」

 

『スティール2からアサルト1へ敵の増援部隊、 本艦へ向けて急速接近中ッ! 特機の反応ありッ! 繰り返す、特機の反応ありッ!』

 

キョウスケの要請から数秒と経たずエイタからの警告が広域通信で繋げられ、ハガネとキョウスケ達の進路を塞ぐように再びゲシュペンスト・MK-Ⅱの部隊が上空から降り立った。

 

「なんだ、虎と龍ッ!?」

 

「おいおい、マジか……あれ超機人って奴じゃないのか?」

 

ゲシュペンスト・MK-Ⅱの後に地響きを立てて着地する金色の龍と白銀の虎――それは中国のLTR機構の博士、エリ・アンザイから聞かされていた超機人の特徴を全て満たしていた。そして更にその上空に2体のPTが出現し、更なる混乱が戦場に広がった。

 

「馬鹿なッ!? 何故あれが……」

 

「あれは……そんなありえない」

 

「リュウセイがテストしてたアルブレードなのか……?」

 

フライトユニットを装備したグレーのPT――それはリュウセイがテストしていたR-1の量産試作機、アルブレードに酷似していたからだった……。

 

 

 

 

第34話 宇宙の龍/大地の鬼神 その7へ続く

 

 




ゲシュペンスト・MK-Ⅱは前座、百鬼帝国の龍王鬼、虎王鬼とオウカがこのステージのボスになります。次回はメイン戦闘開始になります。新たな百鬼衆の龍王鬼、虎王鬼との戦いがどんな物になるのか、そこを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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