2時間で1万文字強、過去最速の執筆完了です。
龍王鬼と虎王鬼との戦いをお楽しみください。
第34話 宇宙の龍/大地の鬼神 その7
存在しないテスラドライブを搭載したゲシュペンスト・MK-Ⅱの部隊に続き、まだ試作段階のはずのアルブレード、そして金色の龍と銀色の虎の登場には流石のキョウスケ達も困惑を隠せなかった。
『ラトゥーニ、アルブレードは確か3機しか製造されていない筈だよな?』
「はい、あの機体はリュウセイが乗った物を含めて、3機しか製造されていません。そのうちの2機は今も、月のマオ社でアルブラスター、アルガードナーの試験機として運用されています……つまりリュウセイが乗ってたアルブレードは完全なワンオフ、3機とも別々に改造されているので同じタイプのが2機も存在する訳が無い」
量産型Rシリーズのデータ取りにゲシュペンスト・MK-Ⅲを使い、そのデータを反映され、日々改造されているアルブレードがここに存在する訳が無いと断言した。
『ではマオ社から試作機のデータが流出した可能性は?』
『ないとは言い切れんが、可能性は限りなく低いです、キョウスケ中尉』
データの流出はどれほど厳重に警戒しても、完全に無いとは言い切れない。だが、その上でライは可能性は限りなく低いと断言した。
『ライの言う通りだ。それに、あれはこの世に存在している筈のない機体だからな』
『…存在している筈が無い? どういう事です?』
イルムの言葉にキョウスケがそう尋ねる。するとイルムは部隊を展開したまま動かないゲシュペンスト、金色の龍、銀色の虎、その上空のアルブレードに酷似したPTにグルンガストのコックピットから視線を向けた。
『細かい所は色々違うようだが、肩のビームキャノン、背中のテスラ・ドライブ……あれは試作機じゃない。エルシュナイデだ』
『え、エルシュナイデ!? それって確か、量産型R-1と別のコンセプトのレイオスプランのッ!?』
アルブレードはその低コストながら優れた性能から、R-1を模したアルブレード、そしてアルブレードとは別のコンセプトで製造される量産機エルシュナイデの2種に派生する予定の機体だ。
『最も……マオ社じゃ、まだ図面を引いてる最中だがな』
『現時点で 完成しているはずのない機体、か……どうやら、幽霊はゲシュペンストだけでは無いらしい』
マオ社が現在アルブレード、アルブラスター、アルガードナーの3体の量産型Rシリーズとヒュッケバイン・MK-Ⅲの開発に全てを注いでいる。量産型Rシリーズが完成した後に作る予定の更なる廉価版のエルシュナイデの建造はまだ始まってもいない。だからこそ、存在している筈の無い機体とイルム達は告げたのだ。
『それにあの龍と虎も半端じゃねえ』
『ああ、もしかするとあれがアンザイ博士の言っていた超機人なのかもしれない』
小高い丘の上に陣取っている金色の龍と銀色の虎――それがもしかしたら超機人なのかもしれないとカイ達が警戒していると広域通信から少女の声が響いた。
『……ラト、 聞こえているなら返事をなさい』
親しみさえ感じられるラトと言う愛称。その呼び方にラトゥーニの過去を知る全員が、エルアインスに乗っているパイロットがスクールの関係者だと悟った。
『ラトゥーニを知っているだと? まさか……!?』
「オウカ姉様……ッ!!」
カイ達が動揺しているとラトゥーニがエルアインスのパイロットの名を呼んだ。オウカ……、オウカ・ナギサ――スクールの最年長であり、ラトゥーニが姉と慕っていた人物が敵として立ち塞がった事にハガネのPT隊には少なくない衝撃が走った。
『久しぶりね、ラト。 貴女が生きていてくれて嬉しいわ』
「お、オウカね、姉様……どうして……」
広域通信であるから全員にオウカの声が届いているが、その柔らかく、甘い声は本当に妹に会えて嬉しいと感じている姉の声だった。その声を聞けば、本当にオウカがラトゥーニの事を思っていると言う事がひしひしと伝わってきた。
『貴女ともっと話をしたいけど、少し待っていてね。ダイテツ・ミナセ。私の声が聞こえていたら返答を求めます』
しかし突然その声から甘さと柔らかい響きが消え、冷徹とも取れる声が戦場に響いた。
『ハガネ艦長。ダイテツ・ミナセ中佐だ。ワシになんのようだ』
『条約に基づき、アラド・バランガを保護していた場合、彼の身元とラトの身柄の引渡しを要求します』
条約に基づいての捕虜の引渡し要求――だがテロリストであるオウカ達の要求を呑む必要は本来はない、それでもダイテツはオウカの要求に返答を返した。
『確かに本艦でアラド・バランガは保護した』
『それならばアラド・バランガの引渡しを、それさえ呑んで頂けるのならば今回は私達は撤退します』
アラドが生きていると聞いて声に喜色が混じったオウカは、アラドさえ引き渡してくれるのならば撤退するとまで口にした。だがダイテツ達はその要求を今は飲めない状況にあった。
『だが、アラド・バランガは現在月で彼の身元を引き渡す事は出来ない』
アラドは確かに保護されていた、だが今は月にいるから引渡しが出来ないとダイテツが返答を返すと、オウカの怒りに満ちた声が響いた。
『そうやって人の心をもてあそぶのですね、連邦は――そうやってラトも騙しているのですか?』
『間が悪かった。今はハガネにはいないと言うだけで、アラドは生きている』
『いいえ、私はもう信じません。この場にいないと言う事は私達の話を聞くために、拷問をしているのでしょう。許しません、私の弟を傷つけ、妹を騙している貴方達を私は決して許さないッ!!』
「違う……! アラドはちゃんと生きてるッ! 私と話もした! 拷問なんてされてもないッ! ダイテツ艦長達はちゃんとアラドの事を考えてくれてるッ!」
自分の居場所であるハガネのクルーを陥れるような発言をするオウカにラトゥーニが怒りに満ちた声で叫んだ。だがオウカには、その言葉は届かなかった。
『……可哀想なラト。自分が騙されていると判らないのね……思い出して、ラト。スクールで私達と過ごした日々の事を……』
ラトゥーニの事を心から案じているのは判る。だがそこにラトゥーニの意志を酌むという気持ちは無く、自分だけが正しいと言うのを押し付けてくるオウカ。それは愛玩動物かのようにラトゥーニを思っているのか、決して正しい姉妹愛と言う物ではないようにキョウスケ達には感じられた。
『本当の自分を思い出して。 そして、私と一緒に帰るのよ、母様とゼオラが貴女を待っているわ、私がずっと貴女を守ってあげる。だから私の所に帰ってきて』
「嫌……ッ!」
オウカの慈愛に満ちた声をラトゥーニは明確な拒絶の言葉で返した。
「私は……帰らない。騙されているのは、姉様達の方……」
『何を言うの。貴女は母様やメイガスに育てて貰った恩を忘れたの? 私達と一緒に過ごした日々を忘れてしまったの?』
オウカの悲しそうな声にラトゥーニは胸を痛めたが、それでも自分の意志をしっかりと口にした。
「……皆の事は忘れていない……」
『なら、何故? 何故私を拒むの? 私が貴女を守ってあげると言っているのに……』
「……私はスクールで本当の自分を失ってしまった……そして、それをジャーダやガーネット、リュウセイ、シャイン王女……ハガネやヒリュウ改の皆のおかげで取り戻せたの」
アードラーとアギラに捨てられ、そして死を待つ事しか出来なかったラトゥーニを助けてくれたジャーダとガーネット、そして自分の友達になってくれたシャイン、そして守ってくれたリュウセイ……自分の事を見守ってくれたハガネとヒリュウ改の皆が自分を取り戻させてくれたのだとラトゥーニは語る。
「だから、姉様…… 私は貴女達の所へ帰らない……そして、私が姉様達に掛けられた呪縛を解く……ッ!」
今も操られているオウカ達を、スクールの呪縛から解き放つとラトゥーニは、心からオウカの事を案じながら口にしたが、オウカにはその言葉は届かなかった。
『それは私の台詞よ、ラト。私の言う事が聞けないなら、力ずくでも貴女を連れて帰る。そして、私と母様の手で本当の自分を思い出させてあげるわ』
オウカの返答は自分こそが正しい、ラトゥーニは間違っていると言う物だった。
「オウカ……姉様ッ!」
自分の言葉が届かなかった……その事を悲しみ、オウカの名を叫ぶラトゥーニ。
『冗談じゃない! それじゃ、スクールの時と 同じじゃないか!!』
『その通りだ、本当にラトゥーニの事を思うのならば、彼女の言葉に耳を傾けたらどうだ!』
そしてオウカのやり方はスクールと変わらないと怒鳴るブリットとカイに向かってオウカの怒声が響いた
『お黙りなさいッ!! 部外者である貴方達に何が判ると言うのですッ!!? 私とラトの絆を知らぬ貴方達に口を挟まれるのは心外ですッ!! 姉妹の関係に割り込まないで「いやあ、そいつは違うんじゃねえかあ? オウカ」……龍王鬼さん』
ヒートアップするオウカを窘めるように、1人の男の声が響いた。
『おう、ハガネの艦長さんよ。1個聞きたいんだけどなあ、あー……アド? とか言うのは生きてるのかい?』
『アラド・バランガは生きている』
『男として二言は?」
『無い』
ダイテツの言葉を聞いて、龍王鬼と呼ばれた鬼は高らかに笑った。
『オウカ、こいつの言っていることは真実だ。アドは生きてるぜ、この場にいなくてもなッ!! この俺龍王鬼はその言葉を信じるッ!』
『な、何を根拠にッ!』
『はっ! それはこいつが男だからだッ!! その声を聞けば俺には判るッ!! こいつは嘘を言ってねえ、んでもっとラ……ら……『ラトゥーニよ、龍』おう! そうだ。ラトゥーニだ! こいつの言う事も間違ってねえな!! つうか、あの糞婆、あのみょうちくりんなコンピューターは俺は嫌いだッ! 人間を組み込まなきゃうごかねえなんて、欠陥品にも程があるぜッ!!』
『な、何を言うのですか!? 貴方は母様とメイガスを罵倒するのですか!?』
味方同士の筈なのに口論をしているオウカと龍王鬼――攻撃するチャンスなのは全員が判っていたが、その間に割り込めない不思議な感覚があった。今邪魔をすれば全員が死ぬ――そんな異様な空気があった。
『罵倒? 事実だ! 敵は倒す、それでいい。だからこそ、ああいう奴は好かん! 眼前の敵は全て倒すッ! 俺様の道を妨げるならぶっ潰すッ!! それが俺様龍王鬼様の生き様よッ!!!』
金色の龍から響く男の声はどこまでの真っ直ぐに、しかしそれでいて邪悪な響きを伴ってキョウスケ達に向かって放たれる。声だけだと言うのに、威圧される。凄まじい闘気とでも言うべき物が、キョウスケ達に叩きつけられていた。
『流石龍ね、あたしの旦那様はやっぱり格好良くて最高だわッ!』
『へっ、たりめえだッ! 俺様は何時だって格好良くて強いのさッ! ラトゥーニ、それにオウカよ、お前らの言う事はどっちも正しい! こういう時は、勝った方が更に正しいッ! さぁ、てめえらの意見を通したいのなら、戦って相手を打ち倒せッ! 野郎共! 戦闘開始だぁッ!!!』
金色の龍が雄叫びを上げると同時に崖の上から飛び立つ、そしてそれに付き従うようにゲシュペンスト達も動き出し再び戦いの幕が切って落とされるのだった……。
金色の龍と白銀の虎、そして存在しない筈のエルシュナイデとゲシュペンスト・MK-ⅡとハガネのPT隊の戦いは乱戦を極めた。金色の龍はグルンガスト、白銀の虎はゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム、そしてエルアインスはラトゥーニの駆るゲシュペンスト・MK-Ⅲをそれぞれの敵と定め、ゲシュペンスト・MK-Ⅱの軍団はキョウスケ達の足止めをするように部隊を展開していた。
『ッ!?』
「ちいッ! 分断策かッ! キョウスケは俺と一緒に包囲網をぶち抜くッ! ライ! ラミアッ! お前達は俺達が抉じ開けた包囲網を抜けてラトゥーニのバックアップに回れッ! イルムとブリットは何とか踏み止まれッ! すぐに合流するッ!」
『『了解ッ!』』
『了解したでありんす、カイ少佐』
敵機の戦力が未知数の為。分断されたままでは不味いと矢継ぎ早に指示を飛ばすカイ。だが、簡単に合流させないと言わんばかりに次々にゲシュペンスト・MK-Ⅱが戦場へと降り立つ。
「馬鹿なッ! 一体何機ゲシュペンスト・MK-Ⅱが存在すると言うんだッ!」
「落ち着け大尉ッ!!」
ハガネのブリッジで次々に現れるゲシュペンスト・MK-Ⅱを見て動揺と恐怖を隠せずにそう叫ぶテツヤにダイテツの一喝が飛ぶ。
「動揺した事で状況は変わらん! 冷静に対処せよッ! 副砲、対空、対地ホーミングミサイル照準ゲシュペンスト・MK-Ⅱッ! カイ少佐達の突破口を開くのを支援せよッ!」
「り、了解ッ! 副砲、対空、対地ホーミングミサイル、照準ゲシュペンストMK-Ⅱ! てぇッ!!」
高速で動き回る龍と虎にはハガネの攻撃は遅すぎる。かと言って、乱戦状態の中で主砲を撃てば友軍を巻き込む。それを踏まえ、ダイテツは小径の副砲とミサイルで分断する為に現れ続けるゲシュペンスト・MK-Ⅱの撃破を優先した。
「伍長はヒリュウ改とギリアム少佐達のシャトルへ通信を続けろ! 運が良ければそれが好機となる!」
「りょ、了解! こちらスティール2! ドラゴン2ッ! 応答せよッ!」
衛星上のヒリュウ改と打ち上げ途中の輸送機の両者に地上でしかも戦闘中のハガネが通信が繋がる可能性は決して高くない、むしろ低い部類になるだろう。だが、もしも通信が繋がれば、オウカとラトゥーニの戦闘だけは止める事が出来る可能性がある。
「ぬっぐう! 主砲へのエネルギーラインカット! E-フィールド維持に回せ!」
出現を続けるゲシュペンスト・MK-Ⅱからの攻撃はついにハガネを襲いだし、ハガネの船体を大きく揺らす。倒しても、倒しても出現を続けるゲシュペンスト・Mk-Ⅱを見て、冷静になれとテツヤを一喝したダイテツでさえもその背中に冷たい汗が流れるのを感じずには居られなかった。それでも艦長である己が動揺する訳には行かないと、己を鼓舞し、内心の恐怖を押さえ込みクルーへの指揮をとり続けるのだった……
「へえ、お前中々やるなあ? 名前は?」
高速で空を駆け、地面に着地したと思ったら、尾による叩きつけと爪による引き裂き攻撃に噛み付き、ほぼゼロ距離からの火炎放射と多彩な攻撃を繰り出す――金色の龍。自身と同じ名を冠する百鬼獣 龍王鬼のコックピットの中で龍王鬼は感心したように自らの攻撃を全ていなしたグルンガストに接触通信を繋げた。龍王鬼にとって強い敵を倒す事こそ誉れ、敵であれ強い相手には敬意を払う。それが四邪の鬼人 龍王鬼の流儀だ。だから気軽くイルムにその名前を尋ねた……だがイルムの返答は計都羅喉剣による鋭い一閃だった。
『人に名前を尋ねる時は自分からって教わらなかったかッ!』
計都羅喉剣の一撃で龍王鬼を弾かれ、空中で体勢を立て直しながら龍王鬼は高らかに笑った。
「そいつは礼を欠いていたな。謝るぜ人間、俺様は百鬼帝国の将。四邪の鬼人 龍王鬼つうもんだ。改めて聞くぜ、てめえの名は?」
『イルムガルト、イルムガルト・カザハラだ』
「おう、イルムガルトだな。覚えておくぜ、てめえが死んでもなぁッ!!」
『ファイナルビームッ!!!』
大口を開けて放たれた龍王鬼からの火炎放射をファイナルビームで相殺するが、凄まじい爆発に龍王鬼、グルンガストの両方が弾き飛ばされ、龍王鬼は背中から墜落し、グルンガストは背後の石壁に叩きつけられた。
「龍王牙ッ!!」
『ブーストナックルッ!!』
だがその程度で龍王鬼とイルムの戦いが終わる訳が無い、態勢を立て直すよりも先に龍王鬼の口から放たれた牙とグルンガストのブーストナックルがぶつかり、互いを弾き飛ばす。
「おらぁッ!!」
『ぐうっ! 舐めんなッ!!』
追撃の龍王鬼の尾の打撃がグルンガストの脇腹を穿つが、グルンガストは自分を殴りつけた尾を脇に抱えて、そのまま崖に向かって龍王鬼を叩きつける。
「がっ! はははははぁッ!! 楽しいなあ! ええ、イルムガルトッ!!」
『生憎だが、俺は戦いを楽しいなんて思った事は1度もねえ!』
「なんだなんだ、楽しめよッ! イルムガルト! これほど楽しいもんはねえだろッ!!」
『それなら、楽しんだまま死になッ! 龍王鬼ッ!!』
「はっはーッ!!! その殺気最高だッ!!」
計都羅喉剣と龍王鬼の鋭い爪が何度も交錯する。互いに互いを殺そうとしているが、それが紙一重で急所を避ける。イルムと龍王鬼のパイロットとしての腕はほぼ互角、特機同士の激しい戦いで周囲の地形を変えながら、イルムと龍王鬼の戦いはより激しさを増して行った。
「くっ! ぐっあっ!?」
『ふふ、ほらほら、どうしたの、ぼ・う・や?』
「ちえいッ!! い、いなっ!? がぁッ!?」
『ほらほら、鬼さんこちら♪ 手のなる方へ♪』
虎王鬼とブリットの戦いはイルムと龍王鬼との戦いとは打って変わって、完全にブリットが虎王鬼に翻弄されていた。
(目の前にいる……それなのになんて遠いんだッ!)
攻撃が当たったと思っても虎王鬼の姿は掻き消え、全く違う方向から放たれる一撃に確実にゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムはダメージを蓄積させていた。
『ふふふ……ほーら。あたしはここだよ?』
「ッ!!」
耳元から聞こえた声に振り返ると虎王鬼が大口を開けて迫っているのを見て、咄嗟にその牙を受け止めるゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムだが、その瞬間に伸びた尾の横殴りの一撃に弾き飛ばされた。
「くそッ! どうなってるんだッ!」
殴られた衝撃と叩きつけられた衝撃で額を切ったブリットはヘルメットを投げ捨て、パイロットスーツで血を拭うが、あふれ出す血でその視界が徐々に真紅に染まり、視界が狭まっていく。
『ふふ、面白かったわよ。でもそれも終わり、さよならね』
軽やかにゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムの周りを駆ける虎王鬼、視力を殆ど失ったブリットはその動きが見えなかった。それが焦りと恐怖を呼び起こす、次の攻撃で確実に自分の命を獲りに来る――それを直感で感じたブリットはシシオウブレードを鞘に戻し、目を閉じる。両目が見えていてもその姿を追いきれないのならば、視界をあえて閉じた。
(気配を切るッ!)
目で見るから幻惑される。それならば、視界は必要ない。一見無謀とも取れるブリットの行動だったが、研ぎ澄まされた集中力、そしてリュウセイほどでは無いが、L5戦役、そしてゲッター線に触れたブリットの念動力も半年前と比べれば遥かにパワーアップしていた。
「そこだぁッ!!!」
『ッ!!』
上空から飛び掛って来た虎王鬼の一撃を下から上に切り上げるようにシシオウブレードを振るい、弾き飛ばす。そしてそれと同時に前に踏み込み、横薙ぎの一撃を叩き込んだ。それは周りの人間には何にも無い場所に攻撃を振るったように見えたが、シシオウブレードの切っ先に引きずり出されるように虎王鬼が出現し、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムの前に居た虎王鬼は陽炎のように消え去った。
『ふふ、あたしの術が破られるなんて驚いたね。あたしは四邪の鬼人 虎王鬼。ぼうやの名前は?』
「ブルックリン、ブルックリン・ラックフィールド」
『そうブルックリンだね。あたしの術を破って見せてくれたんだ、そう簡単に倒れるなんて無様な姿は見せないでよねッ!』
虎王鬼が吼えるとその姿が4体に増え、ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムの周りを駆け回る。その音は確かにブリットの耳に届いていた、だが目を閉じているブリットには4体に増えている虎王鬼の姿は見えず、自分の回りを駆ける悪意だけを感じ取っていた。
「見えたッ!」
『っ! とっと、どうも完全にあたしの術は通用しないみたいだね、ふふ、面白くなってきたわね』
自分の術を初見で見破り、そして反撃さえして見せたブリットに虎王鬼は淫靡で、そして邪悪な笑みを浮かべ、舌で自身の唇を舐め再びゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムに向かって虎王鬼を走らせる。
ゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムに向かって虎王鬼を走らせる。
『さあ、ラト…… 私の所へ来なさい、私は貴女を傷つけたくないのよ』
傷付けたくないと言っておきながら、G・リボルバーでラトゥーニのゲシュペンスト・Mk-Ⅲを攻撃する姿は完全に異質だった。言葉と行動が全く合致していない
(やっぱりオウカ姉様は……)
その姿を見てラトゥーニは確信した。まだオウカがリマコンから脱せられていないのだと、あのアギラ・セトメを母と呼ぶ事でおかしいと感じていたが、今の動きを見てそれは確信へと変わった。
「姉様こそ、私と一緒に来て、そうすれば、本当の事が判るから……ッ!」
反撃……と言うよりも威嚇の意味合いが強いメガビームライフルによる射撃を放ちながら、必死に説得を試みるラトゥーニ。
『可哀想……それほどまでに 再教育されてしまっているなんて』
ビームライフルの熱線をかわすと同時に恐ろしい速度で切り込んできたエルアインスに、殆ど反射的にビームソードを振り上げるゲシュペンスト・MK-Ⅲ。メガプラズマカッターとビームソードの火花が散る。
「くうっ!?」
その光の明暗に一瞬視界を奪われたラトゥーニ、その隙に蹴りが叩き込まれゲシュペンスト・MK-Ⅲは大きく弾き飛ばされた。
(やっぱりブーストドライブッ!)
テロリスト達が使うリオン達に搭載されているASRSとブーストドライブ、それを完璧に駆使するオウカの戦闘技術は判っていた事だが、ラトゥーニの物よりも上だった。
「くっ! うあッ!?」
パルチザンランチャーを構えさせようとするが、クイックドロウのG・リボルバーの一撃がパルチザンランチャーの銃口に飛び込み、銃身を爆発させる。その衝撃に苦悶の声を上げるラトゥーニにオウカが再び優しい声を投げかける。
『でも、安心なさい。 私達があなたの呪縛を解いてあげる』
どこまでも優しいその声は確かにラトゥーニの記憶の中のオウカの物と同じだった……だがその言葉の中に本当の意味でラトゥーニを案ずる物はない、自分の独善的な、正義を押し付けるだけのオウカにラトゥーニは覚悟を決めた。
『ラト、貴女は自分の意思で戦っているのではない……それに……あなたでは私に勝てないわ』
だから自分に従いなさいと言うオウカの声を聞きながら、ラトゥーニは通常の――自分のモーションデータから別のモーションデータに切り替えた。
「シッ!」
『!? 動きが変わったッ!?』
バク宙の要領での爪先の蹴り上げによって、向けられていたG・リボルバーを蹴り飛ばし、立ち上がった勢いで拳を握りインファイトを仕掛けるゲシュペンスト・MK-Ⅲ。
「今度は私が助けるッ!」
『そんな、そんな動きはラトの動きじゃないッ!』
ラトゥーニが選択したモーションデータ……それはリュウセイのR-1のモーションデータだった。拳と蹴りを交えたPTを使った白兵戦、本来の射撃をメインにおいたラトゥーニの理詰めの戦闘パターンとは違う、荒々しささえ感じさせる行動にオウカは完全に混乱した。
『こんな事まで連邦は』
「違うッ! これはリュウセイの……私を助けてくれたリュウセイの物ッ! それを侮辱するのはオウカ姉様だって許さないッ!!」
飛び膝蹴りでエルアインスの手の中のメガ・プラズマカッターを蹴り飛ばし、着地と同時に足払いを仕掛ける、それを飛び上がることで回避するオウカだが、ラトゥーニの猛攻はより激しさを増していく。
『くっ! こんな……どうしてッ!?』
『逃がさんぞッ!』
『沈めッ!』
飛んで1度距離を置いて逃げようとした時、ゲシュペンストの包囲網を抜けたR-2のフォトンライフルとアンジュルグのシャドウランサーが放たれ、高度を取る事が出来ずゲシュペンスト・MK-Ⅲの飛び込みながらのライトニングステークの一撃を叩き込まれ、右腕が肘から拉げて完全にその機能を停止させる。
『そんな……ラトが私を上回るなんて……ッ!』
「今度は私がオウカ姉様を助けるッ!」
今のラトゥーニを突き動かしているのは、オウカを助けるという一念だった。それは、アギラとメイガスによって精神を操作されているオウカにはない、心から助けたいと願う心だった。そしてオウカを助けたいと願うラトゥーニの行動は更なる声を呼び起こした。
『姉さん! 俺は死んでないぞッ! 月で治療を受けてるッ! 姉さんッ! アギラの糞婆の言う事なんか聞いてるんじゃねえッ!!!』
『あ、アラド……?』
ヒリュウ改にはまだ合流していないと聞き、輸送機へのアプローチを続けた結果やっと繋がったハガネから、一方的だがアラドの叫びが戦場に木霊した。
『俺はひどいことなんかされてねえッ! ちゃんと助けて貰ってるッ!!!』
『あ、ああ……生きて? 連邦は……アラドを助け……うううっ!?』
アラドの叫び声が響く度にオウカの声が苦しそうなものになり、エルアインスの全身から力が抜けた。
「オウカ姉様、今助けるからッ!」
『ラミア、今だ。エルシュナイデを拘束する』
『了解した』
ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、R-2、アンジュルグがオウカの乗るエルアインスを鹵獲しようとした瞬間。空から降り注いだ雷撃がラトゥーニ達の動きを止めた。
『う、ううう……あ、頭がッ!!!』
「オウカ姉様ッ!!!」
その雷撃でゲシュペンスト・MK-Ⅲの動きが止まった、その一瞬にも満たない時間で脱力していたエルシュナイデの全身に力が戻り、ラトゥーニの呼び声から逃げるようにエルアインスは戦闘区域から離脱して行くのだった……。
ゲシュペンスト・MK-Ⅱも打ち止めになり、グルンガストとアルトアイゼンを相手にしていた龍王鬼、ヒュッケバイン・MK-Ⅲ・Sカスタムとゲシュペンスト・リバイブ(K)を相手にしていた虎王鬼は徐々にだが、押され始めていた。だが龍王鬼と虎王鬼の顔に不安の色は無く、むしろ楽しくなってきたと言わんばかりに牙を剥き出しにして笑みを浮かべていた。
「なぁ、虎よ。こいつら思ったよりもやるぜ」
『そうね、少し油断していたかもしれないわね』
リボルビングステークとブーストナックルを喰らい吹き飛ばされた龍王鬼と、メガ・プラズマステークの連撃で白銀の毛が焦げ付いている虎王鬼のコックピットで2人は笑う。今回はあくまでヴィンデルの足止め依頼と、オウカの戦闘能力を確認する為の偵察だったが、ここまで強ければ手加減なんてする必要はないと判断したのだ。
「本気でやるか! 虎ッ!」
『ええ、そうしましょうか。舐められたまま、終わりなんてあたしも嫌だしね』
龍王鬼と虎王鬼の瞳が赤く輝き、2体が同時に吼える事で周囲に凄まじい雷の嵐を巻き起こした。その雷の中、虎王鬼をその爪で持ち上げ、上空を舞う龍王鬼を見て、グルンガストのイルムが叫んだ。
『逃げるのか? 大層なことを言っておいて、情けねえなあッ!』
「逃げるだと、馬鹿を言うんじゃねえッ! 顔見せのつもりだったが、本気で戦うって決めただけだッ! 虎行くぜぇッ!」
『ええ、ふふ。ここからは本気で戦いましょう? アースクレイドルには行かせない、だってこれから始まるんだもの、こんな序盤で貴方達に退場されたら面白くないでしょ? だから、もっと遊びましょう?』
好戦的な龍王鬼の雄叫びと意味深の事を言う虎王鬼の声が周囲に響き、凄まじい風と雷がハガネとハガネのPT隊を襲った。
「な、なんだ!? 何が起きている!?」
「さ、さっきまで快晴だったのにッ!」
「ぐっ、くくっ! 1度ハガネまで下がれ、吹き飛ばされるぞッ!」
PTでも吹き飛ばされるような暴風と雷にカイは1度下がる事を決断し、ハガネのPT隊がハガネまで下がる、
「回復してる!?」
「自己再生能力だとッ!?」
嵐の影響を全く受けていないところか、嵐の中でその傷を癒しているかのように受けた損傷を瞬く間に回復させる。
「滅神雷帝ッ!!」
『神魔必滅ッ!!』
龍王鬼達の叫びに呼応するかのように嵐は激しさを増し、その嵐の中で龍王鬼の胴体が展開し、その中に吸い込まれるように虎王鬼が消えていく……いや、変形しながら脚部のような形状に変形する。
「おいおい、まさかあいつら合体するとかいわねえよな……」
「イルム中尉、そのまさかのようです……ッ!」
龍と虎の状態でも、恐ろしいほどに強かった龍王鬼と虎王鬼がキョウスケ達の見ている前でその姿を変える。
「『邪念合一ッ!!』」
獣から人……否魔神へとその姿を変えた龍王鬼と虎王鬼が凄まじい光を放ちながら、キョウスケ達の前に降り立った。
「無敵龍鬼ッ! 龍虎皇鬼推参ッ!!」
『さぁ始めましょう? 楽しい楽しい戦いを?』
金色の鎧を纏ったように見える屈強な上半身とそこから伸びる両肩には盾を思わせる装甲とPTでさえも容易に引き裂くであろう鋭い鉤爪。そして上半身と同じく金色の鎧を纏った細身だが、猫科の動物を思わさせるしなやかな形状をした下半身をした魔神……龍虎皇鬼の咆哮が響き渡り、凄まじい雷鳴が辺りを眩く染め上げるのだった……。
第35話 宇宙の龍/大地の鬼神 その8
オリジナルボス登場、龍虎皇鬼の登場です、味方にスーパーロボットを増やすなら、敵にもスーパーロボットが必要ですからね! と言う訳で四邪の鬼人と名乗っている通り、龍・虎・朱雀・玄武の4つの四聖獣モチーフの2機で1体の超機人ならぬ、超鬼人なるものを考えて見ました。次回で宇宙の龍・大地の虎は終了で、また地上ルート、宇宙ルートで別の章に入って行こうと思います! それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
おまけ
龍王鬼
HP90000
EN450
運動性150
装甲1800
特殊能力
HP回復(小)
EN回復(中)
牙 ATK3000
爪 ATK3300
尾 ATK3500
龍王牙 ATK3800
龍王鱗 ATK4000
火炎放射 ATK4500
虎王鬼
百鬼帝国の将 四邪の鬼人 虎王鬼が乗る自身の名を冠した百鬼獣。白銀の体毛を持つ虎の姿を持つ特機。外見通りの俊敏な運動性と爪と牙を用いた白兵戦に加え、相手の五感に作用し、距離感や間合いを誤認させる幻惑能力を併せ持つ。龍王鬼を上半身、虎王鬼を下半身としと合体し、龍虎皇鬼と呼ばれる魔神形態と、虎王鬼を上半身、龍王鬼を下半身にした虎龍皇鬼への2種の合体形態を持つ。
HP90000
EN450
運動性180
装甲1700
特殊能力
HP回復(小)
EN回復(中)
幻術 最終回避率+10%+被ダメージ-8%
牙 ATK3200
爪 ATK3500
白虎葬爪 ATK4000
龍虎皇鬼
龍王鬼と虎王鬼が合体した魔神形態の百鬼獣。全身が金色に染め上げられ、腹部に虎王鬼の顔を持つ超巨大特機。龍の上半身から放たれる強烈な打撃と虎の下半身による縦横無尽な機動力、ハイパワーのヒット&アウェイを得意とする形態。武器は巨大な三日月刀――「邪龍剣」を持つが、基本的には拳と爪による近距離での白兵戦に特化している。
HP????(19万)
EN550
運動性220
装甲1900
特殊能力
HP回復(中)
EN回復(大)
分身(確率回避)
龍虎双掌 ATK3500
龍虎爆撃脚 ATK3800
邪龍剣 ATK4000
龍虎爪撃破 ATK4500
龍虎猛撃拳 ATK5800
邪龍剣・逆鱗斬 ATK6500
虎龍皇鬼
龍王鬼と虎王鬼が合体した魔神形態の百鬼獣。全身が白銀に染め上げられ、腹部に龍王鬼の顔を持つ超巨大特機。龍虎皇鬼と打って変わり、どっしりと構え、龍王鬼の翼が変形した盾を駆使した防御特化の形態。しかし攻撃力が低い訳ではなく、鬼術による中~遠攻撃を自在に操り、バリアや念力と言った多彩な攻撃方法を持ち、打撃を駆使する龍虎皇鬼よりも遥かに厄介な相手である。
HP????(24万)
EN550
運動性120
装甲2400
特殊能力
HP回復(中)
EN回復(大)
結界 全ての攻撃の被ダメージを10%ダウン
氷虎 ATK3200
雷龍 ATK3500
龍鱗 ATK3800
牙龍双牙 ATK4400
龍皇月破 ATK5400
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い