第35話 宇宙の龍/大地の鬼神 その8
先ほどまで快晴だったそれが黒く重い雷雲に覆われ、そこから降り注ぐ漆黒の雷電――それらを呼び出したのは目の前の金色の巨大な百鬼獣。メカザウルスよりも、そしてメテオ3をも超える圧倒的な存在感を放つそれに全員が唾を飲み込んだ。その存在感と威圧感はアストラナガン、そしてジュデッカに匹敵していた・
『がっはははははッ!! さぁ人間共ッ! ここからが本番だぜッ! 俺様と虎の無敵龍鬼ッ! 龍虎皇鬼を打ち倒せるもんなら、打ち倒して見せなぁッ!!!』
『龍、それは酷よ? 死なないで足掻いて見せろ位にしてあげた方が良いわ』
『お? そうか、なら精々死なないで足掻いて見せなぁッ!!!』
龍虎鬼皇がパイロットである龍王鬼の叫びに呼応するように口を開けて雄叫びを上げる。その咆哮は周囲を覆っていた暗雲を吹き飛ばし、歴戦のキョウスケ達でさえも足を竦ませる。生理的、いや、生きている生き物が当然のように持つ死にたくないと言う本能――それを掻き立てる咆哮にキョウスケ達の闘志が一瞬かき消された。目の前の龍虎皇鬼の脅威を、その強さを感じ警戒していた糸が強制的に断ち切られた。
『龍虎双掌ッ!!!』
「が、がはぁッ!?!?」
龍王鬼の雄叫びにも似た叫び声と、大地を踏み砕く踏み込みの音。その直後に凄まじい轟音とイルムの絶叫が響き渡り、アルトアイゼン達の頭上をグルンガストの巨体がボールのように吹き飛び、崖に背中から突っ込み瓦礫の中に消えるグルンガストを見て、正気に返ったカイの怒声にも似た指示が飛んだ。
『散開ッ! 1箇所に留ま……『オラアッ!!!』 ぬおおおおッ!!!』
だがその指示も最後までキョウスケ達の耳に届く事は無く、地面を破壊しながら飛び込んできた龍虎皇鬼の巨大な拳とゲシュペンスト・リバイブ(K)の豪腕が音を立ててぶつかる。
『ぬっ、ぬううッ!』
『がはははッ!! 良いぜッ!! 良い拳だぁッ!!』
豪腕同士がぶつかるが、吹き飛んだのはゲシュペンスト・リバイブの方だった。電極と拳を潰され、火花を散らすゲシュペンスト・リバイブ(K)。だが龍虎皇鬼にはダメージらしいものがあるようには見えなかった。
『行くぜッ!!』
足の筋肉が盛り上がり、追撃に駆け出そうとしているのを見たキョウスケはアルトアイゼンを龍虎皇鬼に向かって走らせる。
『やらせんッ!! ステークッ! 撃ち……なッ!?』
リボルビングステークが突き刺さる瞬間に龍虎皇鬼の姿が残像を残して掻き消え、リボルビングステークが空を切った。
『惜しい、本当に惜しいぜ? だが踏み込みが遅いッ!!』
『がぼっ!?』
アルトアイゼンを背後から蹴り上げる龍虎皇鬼。その一撃で背部のスラスターやブースターが纏めて拉げ、アルトアイゼンの最大の武器である加速力は完全に潰された。
『はっはぁッ!! 死ぬなよ、赤いカブトムシッ!!!』
龍虎皇鬼の両手にエネルギーが溜まるのを見るまでもなく、ゲシュペンスト・MK-ⅢやR-2が手にするビームライフルの熱線が龍虎皇鬼へと迫る。
『き、利いてない!?』
『馬鹿なッ!?』
確かに直撃した筈――だが改良されたメガ・ビームライフルや、パルチザンランチャーの一撃はその体表に弾かれて完全に無効化されていた。
『うふふ、そんな豆鉄砲じゃ龍虎皇鬼に傷1つつける事も出来ないわよ?』
『そういうこったッ!! 俺達を倒したければ、もっと魂を込めて打ち込んできなぁッ!!!』
再び放たれた咆哮にライとラトゥーニの動きが止まったが、カイとブリットだけでその咆哮にも怯まず龍虎皇鬼へと立向かっていた。
『リミッター解除ッ!! ぶち抜けッ!!』
『一意専心ッ! 狙いは1つッ!!』
周囲を歪めるほどの電圧を放つメガ・プラズマステークと念動力の刃でコーティングされた刃の一撃。それはアルトアイゼンにトドメを刺そうとしていた龍虎皇鬼の背中と右腕に命中し、龍虎皇鬼をたたらを踏ませた。
『おおッ! 良い踏み込みだ、褒めてやるぜッ!!!』
『『なッ!?』』
間違いなく渾身の一撃だった。だが、龍虎皇鬼を倒すには火力が全く持って足りておらず。裏拳の一撃でゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムは右腕を大破させられ、そのまま崖に叩きつけられ、背中から崩れ落ち、ゲシュペンスト・リバイブは回し蹴りを叩き込まれ、両腕でガードしたが大きく弾き飛ばされる。
『ファントムフェニックスッ!!!』
拳が再び構えられるまでの僅かな隙に上空のアンジュルグの放ったファントムフェニックスが龍虎皇鬼へと向かった。
『ぬるいッ!!!』
『そんな……馬鹿なッ!?』
龍虎皇鬼はファントムフェニックスに自ら両腕を突っ込み、炎をかき消してファントムアローをその手に掴んでいた。
『おらよ、返すぜッ!!!』
『うあッ!?』
投げ返されたファントムアローがアンジュルグの右肩ごと翼を貫き、アンジュルグは真っ逆さまに墜落し砂煙の中に消えた。
『お? もう終わりか? なんだつまら……『まだだッ!!!』ッ!!! 良いねえ、その強い闘志……これだから戦いはやめられないッ!!』
ブースターを失い、自慢の加速力は見る影も無くなったアルトアイゼンだが、それでも残されたブースターで加速したアルトアイゼン――キョウスケの捨て身のリボルビングステークの一撃は龍虎皇鬼の腕と脇の間で挟み込むようにして受け止められた。
『ば、馬鹿な……』
『もうちょい鍛えなおして出直して来なッ!! おらぁッ!!』
『ぐ、うぐああああああ――ッ!!!』
腕を挟まれたまま投げ飛ばされ、右腕を肘からねじ切られ再び地面に叩きつけられたアルトアイゼンのカメラアイから光が消えた。龍虎皇鬼が出現して僅か5分――たったそれだけの時間でハガネのPT隊の殆どは沈黙してしまったのだった……。
ハガネのブリッジにいたテツヤは目の前の光景を現実として受け入れられないでいた。
「そんな馬鹿な……カイ少佐達が……殆ど何も出来ずに……」
戦力的にはハガネだけでも、他の連邦軍と比べれば頭1つ……いや、頭2つは飛びぬけた戦力を持っていた。それなのにたった1機の特機に壊滅寸前に追い込まれていた、その現実を受け入れられず、茫然自失のテツヤ、いやテツヤだけではない、ブリッジのクルーはただ1人を除いて戦意を完全に喪失させていた。
「E-フィールド解除! 全エネルギーを主砲に収束ッ!!」
「か、艦長……」
「復唱せんかぁッ! テツヤ大尉!! お前は何の為にこの場にいるッ!!」
思わず逃げ出したくなるようなダイテツの一喝。それはテツヤ達だけではない、ブリッジのクルーに再び戦意を取り戻させていた。
「い、E-フィールド解除! ハガネの全エネルギーを主砲に収束!」
「りょ、了解!!」
E-フィールドが解除され、主砲にすべてのエネルギーが集束される。
「しゅ、主砲の砲身に焼き付き発生! この一撃で主砲が大破すると思われますッ!」
「構わん! どの道あの鬼を撃退しない事にはワシらに道はない!」
ここでハガネは轟沈する訳にはいかず、そしてキョウスケ達もまたここで死んではいけないのだ。その為には生き残る事が最優先だとダイテツは判断を下した。
『まだだッ!』
『ほーこの戦力差を前にしても挫けないかッ! 良いぜ良いぜ、遊んでやる……『ファイナルビームッ!!!』 がはッ! はははははッ!! まだ立ち上がってくるか! イルムガルトぉッ!!!』
そして不屈を訴えているのはダイテツだけではない、ハガネのPT隊のパイロットは誰1人諦めてはいなかった。
『ぺっ! 当たり前だぁッ! 計都羅喉剣ッ!!!』
最初の一撃で胸部が殆ど潰されたグルンガスト。ファイナルビームの照射で完全にお釈迦になり火花を散らしているが、それでもイルムの闘志は折れておらず、計都羅喉剣を手にして龍虎皇鬼へと切りかかる。
『はははっ!! 良いぜ、最高だ!! 邪龍剣ッ!!』
肩と足の装甲が弾け、それが合体した巨大な三日月刀を手に龍虎皇鬼とグルンガストがそれぞれの獲物を振るう。
『どうしたどうした! 気合の割には踏み込みが足りてねえぞ!!』
『うるせえ! ヒーローは負けないんだよッ!!』
一号打ち合うたびにグルンガストの巨体が大きく弾かれる。それでもイルムの心は折れない、不屈を吼え龍虎皇鬼へと立向かう。
『は、気合だけじゃ……っと? 『おらあッ!!』 ぐっ!? はははッ!! 良いぜ良いぜ、これくらいのハンデは必要だわなッ!!』
大きく振りかぶった龍虎皇鬼の邪龍剣にゲシュペンスト・Mk-ⅢとR-2のフォトンライフルとメガビームライフルの狙撃がぶつかり、その軌道を僅かに逸らし、その隙にグルンガストの一撃が龍虎皇鬼の脇腹を穿った。
『究極ッ!! ゲシュペンスト……キィィイイイイイイクッ!!!!』
『おおッ!?』
邪龍剣にゲシュペンスト・リバイブ(K)の最高加速から繰り出された一撃が叩き込まれ、咄嗟に邪龍剣を縦にしてその一撃を受け止めた龍虎皇鬼。だが上空からの一撃に必然的に両腕を上げる姿勢になり、ブースターが焼きつくのも覚悟で加速を続けるカイからの絶叫にも似た指示が飛んだ。
『今だぁッ!!! 畳み掛けろぉッ!!!!!!』
『お、おああああああああーーーーーッ!!!!!!!』
だがそのカイの指示が飛ぶよりも先にブリットもキョウスケも動き出していた。
『全弾くれてやるッ!!! 持って行けえッ!!!!!』
残された脚部、そして腰部のブースターで強引にアルトアイゼンを走らせ、ヒートホーンで龍虎皇鬼の胴体に深い切り傷をつけると同時に跳弾を覚悟でスクエアクレイモアを打ち込む。
『捨て身かッ!! ははッ!! 随分と思い切りが良いなッ!!!』
『がっ……ブリットォッ!!!!!』
ボロボロのアルトアイゼンはクレイモアの跳弾に耐え切れず、龍虎皇鬼のストレートを叩き込まれ全身から火花と煙を散らしながら吹き飛ぶ。だがそれでも、クレイモアの至近距離からの全弾射出は龍虎皇鬼の胴体に深い傷を残していた。
『う、うお、うおおおおおおおおおおおおッ!!!!!』
『ははぁッ!! 良い踏み込みだなぁッ!!!』
シシオウブレードを左腕に構え、ブースターを全開にし体当たりの要領で突っ込みながら振るうゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタム。その一閃を受けると同時に龍虎皇鬼は剣を振るい、ゲシュペンスト・リバイブ(K)とゲシュペンスト・MK-Ⅲ・Sカスタムを同時に弾き飛ばす。
『どうしたどうしたこれで『ファントムフェニックスッ!!!!』だからぬるいって……『計都羅喉剣ッ!! 暗ッ! 剣ッ!!! さぁぁああああつッ!!!!』
ファントムフェニックスを隠れ蓑にし、残されたエネルギー全てをつぎ込んだグルンガストの一撃が龍虎皇鬼の胴を捉えた。それはカイ、キョウスケ、ブリットと執拗に攻撃を続けた箇所だった。同じ所に連続して攻撃を喰らい、龍虎皇鬼の胸部が爆発し、その姿を大きく弾き飛ばした。
「今だぁ! 主砲てぇッ!!!!!」
『う、うおおおおおおッ!?!?』
PT隊と龍虎皇鬼の距離が開いたと同時に、主砲を爆発させながら放たれたハガネの渾身の一撃が龍虎皇鬼を飲み込んだ。
『や、やったか……』
『これで倒しきれてなかったら打つ手がもう……』
この場にいる全員が持てる全てを出し切った――これで倒せていなかったら終わりだと全員が感じたその時。煙が弾け飛び、そこから飛び出した白銀の閃光がハガネの船体の横を通り過ぎた。
「う、おおおッ!? こ、高度が維持出来ない!」
「つ、墜落するッ!!!!」
「そ、総員対衝撃防御ぉッ!!!!!」
爆発を繰り返し墜落するハガネ。そして煙の中から姿を見せたのは巨大な盾を構えた白銀の巨人の姿……。
『マジか……』
『また変形したッ!?』
『こ、ここまで……か……』
金色の龍神から、白銀の獣人へと変貌を遂げていた無傷の龍虎皇鬼の姿の姿にキョウスケ達の脳裏にあまりにも大きい、絶望の2文字が過ぎるのだった……。
流石にハガネの主砲の直撃を受けるのまでは容認できず、強引に龍虎皇鬼から、虎龍皇鬼へと転身し、ハガネの主砲から身を守り、反撃した所で虎王鬼は龍王鬼に苦言を呈した。
「ちょっと気を抜きすぎたんじゃない?」
『がはははッ! 何、あの闘志に惹かれてなッ! すまんすまんッ!』
「もう、しょうがないわね」
夫である龍王鬼の気質を知っている虎王鬼はそれ以上龍王鬼を責める事は無かった。それ所か、この飽くなき闘争心こそが虎王鬼が龍王鬼を愛した理由なのだから、それを責める事などあるはずはないのだ。
「さて、どうする?」
『もう足止めは十分だろ、うん。これであーキルモールにハガネは参加出来ない。これでいいだろ?』
少しやりすぎた感はあるが、再起不能になるまえなのだからヴィンデルからの足止めの依頼は十分だろうと龍王鬼と虎王鬼は判断した。
「ふふ、楽しかったわ。今度は最後まで戦いましょう」
『楽しかったぜ! またやろうぜッ!!』
これ以上戦えば本当に殺してしまうと判断し、龍王鬼と虎王鬼も虎龍皇鬼への合体を解除して、再び龍と虎の姿になり、また会おうと告げてその場を後にした。
「見逃された……のか」
「そうみたいですね……だがこの有様では……」
「ああ、キルモールには参加出来ないかもしれないな、参ったぜ」
亡霊のように現れるゲシュペンスト・MK-Ⅱと存在しない機体アルブレード、そしてハガネの全戦力をつぎ込んでも掠り傷をつける事すら出来なかった百鬼帝国の将軍龍王鬼と虎王鬼、そしてその搭乗機の龍虎皇鬼の圧倒的な強さにハガネは完全に行動不能に追い込まれていた。
『各機はその場に待機、回収機を向かわせるので、回収機と共にハガネへと帰還せよ。その後本艦は応急処置を終えた後、ケイハム基地へと向かう』
墜落し、煙を上げているハガネから響くダイテツからの命令を聞きながら、キョウスケ達は満身創痍と言う言葉がぴったりな状態の己の機体の中で回収機が訪れるのを待つ。
「次は勝つ……」
「ああ。そうだな、次は負けない。絶対にな」
しかしその心は折れておらず、再び龍虎皇鬼を対峙した時は必ず勝つと闘志を燃やしていた。確かにキョウスケ達は敗れた、だがその心までは敗れていないのだった。
「楽しかった?」
『おうさ、楽しかったぜ!! 良い気分だ、今日は良い酒が飲めそうだな!!』
楽しそうに笑う龍王鬼に虎王鬼は良かったわねと返事を返し、アースクレイドルへと帰還して行った。
「おう、今戻ったぜ。ユウキ、カーラ」
「ただいま、ハガネは大分攻撃しておいたからキルモールには参加出来ないと思うわよ」
格納庫で出迎えに来ていたユウキとカーラに手を上げて今戻ったぜと言う龍王鬼と、今回の戦闘の結果を告げる虎王鬼。だが2人の反応は芳しくなく、龍王鬼と虎王鬼は首を傾げた。
「あら? どうかしたかしら? もしかしてやりすぎたかしら?」
「それかあれか? お前らを連れて行かなかった事にでも不満があったか?」
虎王鬼は足止め依頼の割りにやりすぎたのが問題だったのか? と尋ねる。
龍王鬼はユウキとカーラを連れて行かなかったのが問題だったのか? と尋ねる。
ユウキとカーラの返答は2人にとって想定外のものだった。
「朱王鬼と名乗る鬼が、オウカとゼオラを連れて「何時だ! 何時の話だッ!!!!」……30分くらい前の……」
「ちいっ!! くそがぁッ!」
30分前に連れて行かれたと聞いて龍王鬼は怒りに満ちた怒声を上げて、地面を蹴りあっという間に姿を消した。
「お仲間では?」
「冗談じゃないわ、朱王鬼と玄王鬼はあたしも嫌いなのよ。間に合ってくれればいいんだけど……」
姿を消した龍王鬼の行き先を心配そうに見つめ、虎王鬼は間に合って欲しいと告げてユウキとカーラに視線を向けた。
「2人もおいで」
「え、えっと? それはそのどういう意味なんですか?」
付いて来いと言われ、カーラが困惑した様子で尋ねる。すると虎王鬼はごめんなさいと呟いてから2人の頭を優しく撫でた。
「あたしと龍王鬼が貴方達を守ってあげる。貴方達も自分が自分でなくなるとか嫌でしょう?」
「自分が自分で無くなる?」
「……朱王鬼は洗脳や心を砕く専門家なの、アースクレイドルにはいないから大丈夫って思ってたんだけど……出撃の前にゼオラや貴方達に術を施しておくべきだったわね。ごめんなさい」
龍王鬼と虎王鬼は鬼ではあるが、その気質から鬼の中では異質だ。四邪の鬼人と呼ばれるのは龍王鬼、虎王鬼、そして朱王鬼と玄王鬼――しかし、その気質と性格の違いから決して相容れない存在だった。朱王鬼の術に囚われては並の人間では、それを解除する事が出来ず、下手に解除すれば2度と元の姿に戻る事はない。だから間に合ってくれと虎王鬼は心から祈るのだった……。
「ゼオラ? ゼオラ!」
「アネサマ?」
「ゼオラッ! ゼオラどうしちゃったのッ!?」
「ヘンナアネサマ……ワタシはナンニモナッテナイヨ?」
「貴方、ゼオラに何をしたの!!」
「別に何も? ただ矮小な人間が下らない悩みを持っているようだから、それから解き放って上げただけだよ。君も救ってあげよう、オウカ・ナギサ」
アギラの部屋から聞こえてきたオウカの悲鳴と何の感情も感じられないゼオラの声。それを聞いた龍王鬼はアギラの部屋の扉に蹴りを叩き込み、扉を粉砕すると同時に部屋の中に飛び込んだ。
「朱王鬼ぃッ!! てめえ、随分と面白いことをしてくれたなあッ!!!」
オウカの頭に手を伸ばしていた紅い導師服の男の腕を握りつぶさんばかりに握り締め、無理やりオウカの前から引き離す龍王鬼。
「なんだ、もう戻ったのか? 龍王鬼。駒は駒らしく制御しなければイレギュラーを起す。そうだろ? お前が出来ないのなら僕がやってやろうと思っただけじゃないか、何をそんなに怒っているんだい?」
「ふざけんなよッ! てめえッ!!!」
瞳から光を失い、何の感情も込められていない声でオウカの名を呼ぶゼオラと、そんなゼオラを抱き締めているオウカをその背中に庇って龍王鬼は怒声を上げる。
「こいつらは俺の部下だッ! 俺が守るべき部下だッ! よくも勝手に手を出してくれたなッ! 元に戻しやがれッ!!」
「痛いな、龍王鬼。無理なことを言う物じゃない、僕の術はそう簡単に甘いものじゃない。判っているだろう?」
襟首を掴んで持ち上げられた優男風の朱王鬼はやれやれと肩を竦めるのを見て、龍王鬼は朱王鬼を壁に向かって投げつけた。
「アギラぁッ! てめえ、この糞婆ッ!!!」
「ひ、ひいいいいッ!!!!」
朱王鬼への怒りはアギラへと飛び火し、龍王鬼の叫び声にアギラは腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
「てめえの娘なんだろ!! なんで止めなかった!」
「わ、ワシの娘なんだから何をしても怒られる……ぎゃああッ!!!」
自分の所有物なのだから何をしてもいいと言ったアギラの腕を踏み砕き、そのまま足を振り上げ胸に前蹴りを叩き込んだ。ボールのように吹き飛び壁に叩きつけられたアギラの胸部は陥没し、血反吐を吐いて痙攣する死ぬ一歩手前のアギラを一瞥し、龍王鬼は涙を流すオウカと光を失った目で虚空を見つめているゼオラを抱きかかえる。
「いぎ、いぎゃああッ!」
「うるせえ!! わめくな、糞婆ッ!!! アギラ、朱王鬼。覚えてろよ、てめえ……絶対落とし前を付けさせてやるからな」
怒りに満ちた視線で朱王鬼を睨む龍王鬼だが、朱王鬼は微笑むを崩すことはない。
「僕はアラドとか言う人間が生きていると聞いて、錯乱したから何とかしてくれと言われたからそうしただけだ。お前がちゃんと処置していれば、こんな事にはならなかったのさ」
龍王鬼が悪いという朱王鬼、その言葉に龍王鬼は大きく舌打ちし、血反吐を吐き痙攣しているアギラと笑い続ける朱王鬼に背を向けて龍王鬼はその場を後にする。
「ゼオラを元に戻したければ、お前の弟か妹を殺すがいい、それだけがお前が妹を取り戻す手段だ。どうしても辛ければ僕の元へ来るといい、君の心も砕いてあげよう」
朱王鬼の嘲笑うような言葉を聞きながら龍王鬼は虎王鬼の元へ走る。
「げぼ……ごぷ」
「死んだら治すくらいに思っていたけど好都合だね」
血反吐を吐き痙攣しているアギラの頭を掴み、無造作に引き摺りながら朱王鬼もその場を後にする。
「すまねえ、すまねえな、オウカ。許してくれ、俺様が悪かった」
ゼオラの名を呼んで涙を流すオウカと、オウカの腕の中で何の光も宿していない瞳でオウカの名を呟くゼオラの姿に龍王鬼は拳を強く握り締めた。興が乗って龍虎皇鬼まで持ち出してハガネと戦った。それが姉妹の絆を引き裂いた……その事に龍王鬼は心を痛め、これをやった朱王鬼にも、朱王鬼に許可を下したアギラにも激しい怒りを抱いた。
(どうせあいつは死なない)
確実に心臓を破壊したことを確信していたが、イーグレットと仲の良い朱王鬼にアギラは救われるだろう。その時にアギラへの落とし前を付けさせてやると龍王鬼は決意し、自分の部屋へと飛び込んだ。
「虎ぁ! ゼオラを見てくれ! まだ間に合うか!」
「龍! あの外道の仕業ねッ!!」
「ああ、頼む! まだ間に合うかもしれないッ!!」
朱王鬼の術が完全にゼオラに馴染む前ならば元に戻せるかもしれない……そんな淡い希望を抱き、龍王鬼は抱きかかえていたゼオラとオウカをベッドの上に寝かせて虎に頼むと叫ぶのだった……。
キョウスケ達が龍虎皇鬼に敗れ去った頃。赤黒い光に照らされた不気味な世界に声が響いた。
「……刻が……近い……世界の……修正……新たなる……創造……新たなる……純粋な……生命体を」
幾重にも折り重なった男性の声が響き、闇の中から異形の影が姿を現した。
「……進化の光……再び現れた……英知の源……我らがより進化する為に……必ずや……進化の光を……」
無数に浮かぶ様々な光景――その中の1つ、小惑星に偽装したアルバトロス級を異形は見つめる。
「進化を果たし……『扉』を開き、我の依り代となる物を……捧げよ」
この異空間を潜む異形はキョウスケ達の世界に現れるだけの肉体がない、肉体が無ければ進化の光を手にすることは出来ない。故に異形は自分の寄り代となるべく肉体を捜し求める。
「もう1つのルーツを抹消……そして、新たなる種子を……そして更なる進化を……」
異形が虚空に視線を向けると影の中から小柄な少女の影が現れた。
「……承知いたしましたの……私が調べて参りますので……ご心配なく……」
少女の影から現れる鬼のような異形の影――宇宙を進むヒリュウ改。しかしその行く先には人智を越えた異形が待ち構えているのだった……。
第36話 進化の光を求める者 その1へ続く
次回は宇宙ルートから入って、地上ルートの話にはいって行こうと思います。このルートも当然オリジナルの要素を入れていくので、どんな展開になるのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い