進化の光 フラスコの世界へ   作:混沌の魔法使い

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第36話 進化の光を求める者 その1

第36話 進化の光を求める者 その1

 

 

キルモール作戦の発令から36時間――アフリカのアースクレイドルを目指している各連邦軍の部隊から届けられる報告は決して吉報とは言い難い物だった。

 

「思ったよりも苦戦しておりますね」

 

「ああ、やはり錬度不足が響いているな」

 

最新鋭機であるゲシュペンスト・MK-Ⅲを使いこなし切れていないと言うのが苦戦の原因だった。キルモール作戦は予定していた日程よりもかなり繰り上げられて実行されていた、部隊同士の連携やゲシュペンスト・MK-Ⅲの熟練訓練の不足が大きく響いていた。

 

「ハガネのダイテツ中佐から連絡です。メインモニターに回します」

 

「だ、ダイテツ! 何があったッ!!!」

 

オペレーターからの報告にレイカーとサカエはやっと吉報を聞く事が出来ると思ったのだが、モニターに映し出された血染めの包帯を巻いているダイテツの姿にレイカーは司令席から腰を上げて何があったのかと叫んだ。

 

『百鬼帝国の将を名乗る2人組みに襲撃を受けた。ハガネのPT隊はほぼ壊滅、ハガネもエンジンをやられた。応急処置の後ケイハム基地へ向かう』

 

疲れ切ったダイテツの声にレイカーとサカエに最悪の予想が脳裏を過ぎった。

 

「ダイテツ、殉職者は……」

 

『いや、幸いにも死亡者はいない。だが状況は決して良いとは言えないな、戦闘データは衛星通信で送信する』

 

死亡者がいないとは言ったもののそれに順ずる、もしくはそれに近い状況であると言うのがダイテツの覇気の無い声から伝わってくる。

 

『キルモール作戦に関しては状況を見て、続行か離脱かを判断する。期待に応えられず申し訳無い』

 

「いや、良くやってくれた。ケイハム基地にはこちらから連絡を入れておく、補給や治療の準備をさせておこう」

 

『すまないな。ケイハム基地に到着したら再び連絡を入れる』

 

その言葉を最後にハガネからの通信は途絶え、レイカーは尻餅をつく様に司令席に腰を下ろした。

 

「まさかダイテツ中佐達があそこまで追詰められるとは……」

 

「やはり今回の作戦には無理があったのだろうな」

 

無茶な日程で計画されている作戦だが、ダイテツならば、L5戦役を駆け抜けたキョウスケ達ならば大丈夫という考えが合った事は否定出来ない。だがこうしてハガネが轟沈寸前、そしてPT隊も壊滅寸前という報告を聞いてレイカーの顔にも強い焦りの色が浮かんだ。

 

「ハガネの進路予想はケイハム基地からムータ基地だな」

 

ダイテツの性格を考えれば、ケイハム基地で補給と修理をある程度進めたら限界だと判断するまではキルモール作戦に従事しようとするだろう。

 

「は、現在ムータ基地方面にはリー・リンジュン中佐とシロガネが向かっております」

 

「……ギリアム少佐達の輸送機とシロガネとヒリュウ改に緊急通信を、シロガネをムータ基地へ固定。リュウセイ少尉達はマオ社で機体を受理後、カチーナ中尉達と共にムータ基地へ向かうように通達を」

 

レイカーはさきほどのダイテツの報告を聞いて、キルモール作戦の失敗を悟った。連邦軍の最大戦力であるハガネが行動不能寸前となった事で、ジュネーブの総本部の作戦は大前提から崩された。それならば、作戦前提から大幅に変更をさざるを得ないとレイカーは決断を下した。

 

「……良いのですね?」

 

「ああ。ハガネをダイテツ達を失う訳には行かない」

 

元々無謀な作戦だったのだ。ここで無理をさせてハガネを失うだけならば良い、だがダイテツや優秀なハガネのクルーを失う訳には行かないとレイカーはハガネを無事に伊豆基地に帰還させる為に、同じスペースノア級のシロガネを護衛につけて伊豆基地へと帰還させる事を決断したのだった……だがレイカーの計画は宇宙からの来訪者によって、その予定を大きく崩される事となるのだった……。

 

 

 

 

 

 

輸送機で宇宙へと向かっているリュウセイ達は伊豆基地から送られて来た通信にその顔を歪めた。

 

「ハガネが轟沈寸前で、ハガネのPT隊も壊滅寸前ってどういう事なんだよ、隊長ッ! ギリアム少佐ッ!」

 

キルモール作戦はかなり無茶な作戦ではあったが、それでもハガネとキョウスケ達ならばと考えていたリュウセイはヴィレッタの報告に声を荒げた。

 

「百鬼帝国の将軍に襲撃を受けたらしいわ。龍と虎の特機が合体した超巨大特機を前に壊滅寸前に追い込まれたらしいわ」

 

龍と虎の特機と聞いてリュウセイとエクセレンの脳裏を過ぎったのは中国で採掘されている超機人の存在だった。

 

「まさか、百鬼帝国が超機人を手に入れたってことじゃないわよね? ギリアム少佐」

 

「それについては違うそうだ。中国の採掘現場に百鬼帝国は出現していない」

 

一国の運命を変えるとまで言われた超機人。それがキョウスケ達の前に立ち塞がったとエクセレン達は考えたのだが、そうではなく、純粋に百鬼帝国の戦力だったらしいが、それを聞いても安心出来る訳が無かった。

 

「くそ、そんなにも百鬼帝国は強いって言うのかよ……」

 

「怪我人とかは?」

 

「……酷い打撲を負っている者が何人かいるそうだけど、命には別状はないみたい。今はケイハム基地で治療と機体の修理を行う予定だそうよ」

 

死傷者がいないと言う事に安堵したエクセレンとリュウセイだが、状況は決していい物ではないと言うのは明らかだった。

 

「隊長。この状況でもホワイトスターの調査に行くのか?」

 

「今の段階では調査に行く予定よ。でも、状況次第ではこの予定も変えざるを得ないわね」

 

ホワイトスターを手にしても、地球のハガネや連邦軍が壊滅しては意味が無い。最悪の場合ホワイトスターの調査を中断して、リュウセイ達と再び地球に降下する必要があるとギリアムとヴィレッタは考えていた。

 

「なんにせよだ。まずは、ヒリュウ改と合流して、マオ社へ向かう。R-1の事やアラドの事もあるしな」

 

キョウスケ達の事は心配だが、まずは地球へと持ち帰るR-1達の方が重要だとギリアムは言う。試作機のアルブレード、そしてヴァイスリッターでは戦力的に不安があると言うことだ。焦って地球に帰って、足を引っ張るようなことになってはならないのだ。

 

「アラドで思い出したけど、あいつ大丈夫かな?」

 

ハガネからの緊急通信で一方的にだが、自分が生きていると姉に告げていたアラドだが、回収され撤退していく姉の乗った機体を見て落ち込んでいるのを思い出したリュウセイがそう尋ねる。

 

「うーん、精神的にはかなりタフみたいだけど……心配よね」

 

捕虜という扱いなのでブリーフィングには参加出来ないアラドは部屋で待機している筈だが、血の繋がりは無いと言え義姉が敵として出現したことに少なくない衝撃を受けている筈だ。

 

「そうね。ランデブー・ポイントまで時間が掛かるのなら、少し部屋から出してあげたらどうかしら?」

 

「そうだな、合流予定時間まで1時間以上ある。アラドを部屋から出してやるか……」

 

ブリーフィングは終わったからアラドを部屋から出してやろうとギリアムが席を立った時、輸送機の窓に赤い影が入り込んだ。

 

「ゲシュペンスト・MK-Ⅲ? おかしいわね。まだ合流予定時間まで大分あるはずなんだけど……」

 

「待ってくれ隊長。ゲシュペンスト・MK-Ⅱの姿もある。あれは……」

 

「ラッセルの奴ね……でもあの様子……ただ事じゃないわよ」

 

輸送機の窓から見えるゲシュペンスト・Mk-ⅢとMK-Ⅱを見てエクセレンは眉を細めた。

 

「確かに……まるで、いやまるで何て言葉は必要無いな」

 

「ええ、どう見ても戦闘の後でそのままこっちに合流しに来たって感じね」

 

一瞬リュウセイ達を過ぎったのはヒリュウ改が当たっていると言う行方不明部隊の捜索だったが、それでは説明出来ないほどのフル装備をしているのを見てリュウセイ達もその顔を引き締めた。

 

『こちらオクト1だ。ランデブー・ポイントまでの護衛に来た。最悪の場合に備えてギリアム少佐達は機体に搭乗してくれ』

 

そしてそれはカチーナの固い声で確信へと変わった……護衛に来たと言う言葉と機体に搭乗してくれと言う通達。良く見ればゲシュペンスト・MK-Ⅲの装甲はあちこち凹み、カートリッジホルダーやプロペラントタンク等も既に空になっているのが見て取れる。

 

「どうも宇宙も大変なことになってるみたいね」

 

「そのようだな……念の為に機体へ搭乗するぞ」

 

「「了解」」

 

ランデブー・ポイントまではまだ1時間以上時間が掛かる、それなのにカチーナとラッセルの2人が護衛に来た。それは地上と同じ、いや下手をすれば地上よりも遥かに激しい戦いが繰り広げられていると言う証なのだった……。

 

 

 

 

 

カチーナとラッセルに護衛され、ヒリュウ改に辿り着いたリュウセイとエクセレンはアラドを連れてヒリュウ改のブリーフィングルームに訪れていた。

 

「皆さん、ご無事で何よりです」

 

良かったと笑みを浮かべるレフィーナと、固い表情をしているタスク達を見て、ギリアム達は今ヒリュウ改が厳戒態勢だと言うのを一目で悟った。

 

「護衛を送っていただき感謝します。レフィーナ艦長、早速で悪いのですが、一体何があったのですか?」

 

「先日からアーチンや行方不明になった宇宙軍の機体による襲撃を受けているのです。既に聞いていると思いますが、人造人間らしき物が乗っている機体です」

 

伊豆基地から出立する前に報告されていた人造人間らしき物が搭乗した機体に襲われていると聞いてギリアム達は眉を顰めた。

 

「襲撃は受けていないと聞いておりましたが……」

 

「ランデブー・ポイントに向かい始めたと同時に襲撃を受け始めましてね。これはいかんと護衛を送り出したのですよ……それで、そちらの彼が例の?」

 

ショーンの鋭い視線に射抜かれたのか、アラドがびくりと身体を竦めて沈黙する。普段は飄々としているショーンだが、やはり戦闘が続いていると言う事もあり気が立っているのかとギリアム達は思っていたのだが、急に柔らかい笑みを浮かべた。

 

「君のお姉さんはどんなタイプの女性ですかな?」

 

「……はい?」

 

「いえいえ、ダイテツ中佐から話は聞いていたのですが……どんなタイプの女性なのかと気になりましてね。それでどんな女性なのですかな? 出来れば容姿などを教えていただけると嬉しいのですがね」

 

急に自分の義姉の容姿を尋ねてくるショーンにアラドがどうすれば良いのか? という助けを求める視線をリュウセイ達に向けた。

 

「もう副長ったら、変わってなかっちゃったり致しましちゃいますの事ですわ」

 

突然ラミアの真似をして変な口調で喋り出したエクセレンにブリッジの中に奇妙な空気が広がる。

 

「え……えっと?」

 

「……少尉。その喋り方は?」

 

あまりに奇妙すぎる敬語にレフィーナは首を傾げ、ショーンは苦笑いを浮かべる。アラドは小さくぷっと吹き出してしまっていたのだが、それを見てエクセレンは満面の笑みを浮かべてんふふっと笑った。

 

「義姉さんの事を言われてむっとしたかもしれないけど、副長なりのコミニケーションだったりしちゃったりするのよね」

 

「エクセレン少尉、もしかしてラミアの口調移ってない?」

 

「んふふ、あの子の口調って結構癖になる楽しさなのよね」

 

ブリッジの重い空気を払拭する為の悪ふざけだったが、これが実に効果を発揮していた。

 

「ラミア? 誰でしょうか?」

 

「あ、ウチのチームのニューフェイスなんです」

 

にこにこと笑うエクセレンが中心になって、話の流が大きく変わり始める。

 

(なるほど、上手いな)

 

(ムードメイカーっと言うのは伊達ではないか)

 

たった一言で場の空気を変えた。普段はおちゃらけた仮面を被っているが、エクセレンはやはり頭の回転が速い。ラミアの口調を使う事で、警戒心を緩めさせ、そしてラミアの事を紹介する。場の空気と話の流れを強引にエクセレンは変えていたのだ。

 

「名前から察すると女性の方のようですな。お会いするのが楽しみです」

 

「そりゃあもう、ボカン、キュッ、ボーンですよん♪」

 

「ボカン…ですか。それはそれは。数字の当て甲斐がありそうですな、アラド君のお姉さんもですが」

 

「お、オウカ姉さんにセクハラするのは駄目だからなッ!!!」

 

そしてエクセレンの悪ふざけにショーンも乗り、オウカがセクハラの対象になると思ったのかアラドが声を荒げた。

 

「ふふ、そうですかそうですか、オウカさんと仰るのですね」

 

「あ……」

 

「そんなに警戒しなくても結構ですよ。今のはちょっとしたジョークですからね? ショーン・ウェブリーです。ヒリュウ改の副長をやっております」

 

「あ、アラド……バランガです。その、すいません」

 

ショーンの自己紹介に続いてアラドが若干固い表情と口調で自己紹介をし、声を荒げた事を謝罪する。

 

「ふふ、緊張する事はありませんよ。あなたの事情はダイテツ中佐から聞いていますから、レフィーナ・エンフィールドです。ようこそ、ヒリュウ改へ」

 

「は、はあ……そのよろしくお願いします」

 

「完全に自由という訳には行きませんが、気を楽にしてくれて大丈夫ですよ」

 

ショーンのジョークと柔らかい笑みを浮かべるレフィーナにアラドは毒気が抜かれたのか、頭を下げながらレフィーナに視線を向けた。

 

(艦長さんが美人でおしとやか系なのか~なんか、軍艦って感じじゃないよなあ……でも美人だよなあ)

 

「お前、なに笑ってんの?」

 

柔らかい笑みを浮かべているレフィーナにアラドが見惚れていると、リュウセイになに笑ってんだ? と指摘されて頬が緩んでいたのに気付いたのかアラドは慌てて顔を上げて両手を振った。

 

「あ……いえ、何でもないッス。あ、それより誰か来たみたいですよ!」

 

助かったと言わんばかりに開かれたブリーフィングルームの出入り口に視線を向けるアラドの耳は、ほんのりと赤味を帯びていた。

 

(何焦ってるだろ?)

 

(何か焦ることがありましたでしょうか?)

 

(何故アラドは焦っているのだろうか?)

 

レフィーナに見惚れていた事を指摘された事に焦っているアラドをリュウセイ、レフィーナ、ヴィレッタは不思議そうに見つめた。

 

(おやおや、気が合いそうですなあ)

 

(お姉さんが好きなのかしらねえ。んふふ)

 

(……不憫な)

 

そしてレフィーナに見惚れていた事に気付き、ショーンはアラドに自分に似たものを感じ、エクセレンはからかうネタを見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべ、ギリアムは2人のそんな視線に気づき、アラドに心の中で不憫なと呟いているのだった……。

 

 

 

ブリーフィングルームに入ってきたのは疲労の色が濃いが、それでも笑みを浮かべたカチーナ達の姿だった。

 

「よッ! 元気だったか? エクセレン、リュウセイ」

 

「わお、カチーナ中尉。そちらは相変わらずお元気そうで」

 

自分達の疲れを見せずに笑顔で対応するカチーナにエクセレンも笑みを浮かべて声を掛ける。こういう時の下手な気遣いは余計に相手に負担を掛ける、相手が自分の疲労を隠そうとしているのならばそれを察して口にするべきではないとエクセレンは判断したのだ。自分達もハガネの事、キョウスケの事が心配だが、合流してすぐそれを口にする訳には行かないと互いに互いを気遣ったのだ。

 

「皆さんもお久しぶりですね」

 

「ああ。 変わりなさそうだな、皆も」

 

オクトパス小隊の4人が元気そうに声を掛けてくるので、リュウセイも疲れている気配を感じ取ったが、それを口にせず、自分が胸に抱えている不安を隠して、その口元に笑みを浮かべた。

 

「チッチッチッ! 判ってないねえ、リュウセイ君」

 

「へ?」

 

しかしそれにタスクが待ったを掛け、指を左右に振った。タスクのその顔には自信に満ち溢れた色が浮かんでいた。

 

「この俺とレオナの間に漂う空気……何か違うと思わない?」

 

「違うって何が?」

 

レオナが冷めた目でタスクを見ているのだが、それに気付かないタスクと何を言われているか良く判っていない様子のリュウセイ

 

「か~っ判んないかねえ。 このツーと言えばカーな関係。そんでもって……」

 

タスクが饒舌に語り、レオナがタスクを止める為に動き出そうとした時、ヴィレッタが口を開いた。

 

「何を勝ち誇っているのかは判らないけれど、リュウセイの家にはラトゥーニが下宿してるわよ」

 

「「「「ふぁッ!?」」」」

 

無表情で爆弾発言をするヴィレッタにヒリュウ改のメンバーが素っ頓狂な声を上げてリュウセイに視線を向ける。

 

「え? なにそれ……どうやったの?」

 

「ん? いや、なんか寮が遠いとか、浅草から通うのはとかラトゥーニが言ってて、それならお袋が下宿したら? って言ってそれからだな。前に帰ったらラトゥーニの部屋があってめちゃくちゃ焦ったぜ」

 

あっははっと笑うリュウセイだが、タスクの顔は引き攣ったままである。

 

「ヴィレッタお姉様、爆弾発言も考えたほうがいいとおもうんのですのよ?」

 

「何か問題でも? 下宿しているって言っただけじゃない?」

 

ああ、駄目だこりゃと天を仰ぐエクセレンと何を言われたのか理解していない様子のヴィレッタ。

 

「なんかこう、嬉し恥ずかしイベントとか無かっただろうなッ!?」

 

ラトゥーニがリュウセイに想いを寄せているのはヒリュウ改の面子も知っていた。そんな2人が、母親がいたとしても1つ屋根の下。タスクは当然勘繰るが、リュウセイは訳が判らないと言う表情を浮かべた。

 

「なにが? 偶に買い物とか一緒に行くくらいだけど?」

 

あ、こいつ何も判ってねえ……その純粋無垢とも言える瞳を見て全員がそれを悟った。こいつが相手では、絶対にきゃっきゃうふふ見たいなイベントには辿り着けていないと悟った。

 

「いや、なんで気付かないんだよ。完全に外も内も埋められてるじゃねえか……」

 

「リュウセイ少尉が純粋すぎるんですかねえ……」

 

「つうか信じられねえ……」

 

「貴方のように下心剥き出しではないからですわ……ただちょっとあれですけど」

 

「ラトの奴が健気で、なんか見ててかわいそうになるときがあるんッスよねえ」

 

「もう少しリュウセイの……ってお前誰だ?」

 

何時の間にかヒリュウ改のメンバーの中に混じって、ラトゥーニの話に混ざっていたアラドにカチーナが誰だ? と尋ねる。

 

「アラド・バランガだ。ラトゥーニと同じスクールの生き残りで、つい先日捕虜として投降し保護された少年だ」

 

「アラド・バランガです。よろしくお願いするっス」

 

ギリアムの紹介で頭を下げるアラドだが、投降し保護されたという言葉にカチーナが眉を細める。保護されたと言うのならば判る、しかし投降したと聞けば連邦軍に敵対していたと言うのは容易に想像出来る。

 

「つい先日までテロリストの派閥に属していたのです」

 

「何だってッ!? じゃあ、敵じゃねえかッ! どうして そんな奴がここにいるんだッ!?」

 

テロリストの派閥に属していたと聞いてカチーナが声を荒げ、アラドを睨みつける。

 

「落ち着くんだ。カチーナ中尉、アラドは投降し、条約で保護されている。それにだ、ダイテツ艦長、リー艦長、そしてカイ少佐と私が彼なら大丈夫と判断して、同行させている。警戒するのは分かるが理知的に対応して貰いたい」

 

ギリアムの言葉にカチーナはチッと舌打ちする。

 

「レフィーナ艦長はどうなんだよ?」

 

「レイカー司令からの話も聞いておりますので、私も承諾しています」

 

自分よりも上官全員が承諾していると聞いても、カチーナは警戒の色を緩めない。行方不明の部隊に人造人間らしき物が組み込まれ、それと幾度とも無く戦闘をしていることもあり、気が立っていたと言うのもあった。

 

「スパイじゃねえって言う保障もねえんだろ? そう簡単に出歩かせていいのかよ」

 

「まあまあ、アラド君がそうじゃないのは私が保障するから」

 

「俺もアラドは大丈夫だと思うぜ、そんなに警戒しないでやってくれよ。カチーナ中尉」

 

エクセレンとリュウセイもアラドのフォローに入る。これだけの人数がアラドの身の潔白を信じているとなれば、流石のカチーナも閉口するしかないが、その目はアラドに向けられていて、今も警戒の色が浮かんでいる。暫くそうしているとカチーナは再びキッとアラドを睨んで口を開こうとした時にタスクがアラドを庇うようにカチーナの前に立った。

 

「別に良いんじゃないスか、隊長。前例だってあるんだし。上の方で納得してるんなら、細かい事は抜きって事で」

 

「前例ィ?」

 

前例があると言われてカチーナは殆ど無意識にタスクが庇っているアラド――いや、その後にいるレオナに視線を向けてあっと呟いた。

 

「ほら、今に始まった事じゃないっしょ?」

 

ハガネではDCに所属していたリョウトが、そしてヒリュウ改では統合軍に所属していたレオナがメンバーとして加わり、そしてL5戦役を戦い抜いた。そういう面ではアラドも似たような立場だと言われ、カチーナの警戒心が僅かに緩まった。

 

「あ、あの……どういう事なんです?」

 

カチーナ達は納得したようだが、アラドは何故急に警戒心が緩められたのかが判らず、蒸し返す事になると判っていたが、どういう事情なのかを尋ねた。するとレオナが苦笑いを浮かべて事情を説明した。

 

「……私はDC戦争中、コロニー統合軍のトロイエ隊に所属していたのよ」

 

「え!? トロイエって……コロニー統合軍親衛隊のッ!?」

 

アースクレイドルの中で軟禁に近い状態だったとしても、軍に対する知識は与えられていた。その中には当然、コロニー統合軍の情報もあった。トロイエ隊がコロニー統合軍の司令、マイヤーの親衛隊と言うのは勿論知っていた。

 

「ええ。それで、今はこのヒリュウにいる、戦後の特別措置だけでなく、自分の意思でね」

 

小さくふっと笑ったレオナにアラドは少し驚いた。トロイエ隊に所属していた軍人なのだから、戦後の特別措置を利用していたと思ったのだが、レオナは自分の意志でヒリュウ改に留まる事を決めたとアラドに告げたのだ。

 

「……旧教導隊の出身で、統合軍やDC側についたエルザム・V・ブランシュタイン少佐や……ゼンガー・ゾンボルト少佐……それにクロガネを率いたビアン総帥にゲッターロボと武蔵……L5戦役では陣営の垣根を越えて色んな人達が私達に協力してくれた。この艦やハガネはそういう不思議な縁がある艦なのよ、だから……あなたがここへ来た事には何か意味があると思うわ」

 

ハガネではなく、ヒリュウ改にアラドを預けたのはマオ社のラーダにカウンセリングを受けさせる為だけではない、アラドと似た境遇のレオナやリョウトに会わせる事で自分が何をしたいのかを考えさせるという意味合いがあった。

 

(意味……俺が何をしたいか)

 

レオナという自分に似た境遇の存在に出会い、そしてヒリュウ改とハガネのもつ奇妙な縁――それを聞いた上でアラドは自分が何をしたいのかというのに考えを巡らせた。

 

「そんなに焦る事はないわ、良く考えて、自分が何をしたいのかを考えればいいわ」

 

「そう言うことだ。焦って決断を下す事はない」

 

ヴィレッタとギリアムの言葉を聞いてアラドは拳を握り締めた。自分が何をしたいか、それに悩む必要なんて無かった。自分が何をしたいかと言うのは、既に判りきっていた。

 

「俺はゼオラとオウカ姉さんを取り戻したい。百鬼帝国みたいな所にゼオラもオウカ姉さんもおいておけないからッ!」

 

百鬼帝国、そしてアーチボルドに言いように使われる事になるであろうゼオラとオウカを取り戻したい。それが、アラドの願いであり、ハガネへと投降した理由だった。

 

「と言う事よ。家族を助けたいからっていう理由なら信用出来るんじゃないかしら?」

 

下手な理由よりも家族を助けたいと言うアラドの願いの方が確かに信用出来た。

 

「アラドとか言ったな、本気で家族を助けたいんだな?」

 

「うっすッ!!!」

 

カチーナの目を見て真っ直ぐに返事を返すアラド。その姿にカチーナは初めてアラドに向けていた警戒心を僅かに緩めた。

 

「良し、良い返事だ。本気で家族を助けたいって言うならあたしだって協力してやる。みっちり鍛えてやるぜ」

 

「よろしくお願いしますッ!!」

 

「気合があるのは十分だが、まだアラドを部隊の一員として運用する事は出来ない。マオ社でラーダ子女にカウンセリングを受けてからだ」

 

今からでもシュミレータールームに向かいそうなアラドをカチーナをギリアムが呼び止める。

 

「っとそうだったな、所で百鬼帝国ってなんだ?」

 

「そうだな、地球のハガネの現状況と一緒に説明するべきだな」

 

アラドの話の中に出てきた百鬼帝国についてカチーナが尋ね、ギリアムがハガネが現在陥っている状況と含めて百鬼帝国について説明しようとした時。ブリーフィングルームにブリッジのユンからの呼びかけが響いた。

 

『艦長、副長。ブリッジへ上がってきて貰えませんか?』

 

レフィーナとショーンにブリッジへ戻って来て欲しいと言う呼びかけにブリーフィングルームにいた全員の顔が険しい物になった。

 

「まさかまた行方不明の部隊の反応ですか?」

 

『いえ、航路上に奇妙なエネルギー反応があります、重力反応とゲッター線反応を感知しました』

 

「判りました。すぐに行きます、ギリアム少佐達も出撃の準備をお願い出来ますか?」

 

「勿論だ。アラドは悪いが一応営倉で待機していてくれ、行くぞ皆」

 

「「「「了解ッ!」」」」

 

重力反応とゲッター線反応があると言う報告を聞いて、ギリアム達も出撃準備をする為にブリーフィングルームを後にする。だがそこに待ち構えていたのは、ギリアム達が想像にもしない、超常の存在なのだった……。

そしてゲッター線反応と重力異常を感知したのはヒリュウ改だけではなかった。

 

「カーウァイ大佐、武蔵君。異常重力反応とゲッター線反応を感知しました。ヒリュウ改が向かっているようですがどうしますか?」

 

「ゲッター線反応? 武蔵、どうする?」

 

「行きましょう。初めてオイラがインベーダーと戦ったのは宇宙でした。もしもインベーダーが居るとなったら、ヒリュウ改が危ない」

 

ヒリュウ改が近づいているのならどうするか? と尋ねるカーウァイの問いかけに武蔵は即答で行くと返事を返した。

 

「……生き残りがいないとは言い切れないか、良し。私と武蔵で出る。お前達はこの場で待機」

 

もしもヒリュウ改がインベーダーと遭遇すれば、有益な迎撃方法が無いと判断し、アルバトロス級に待機する事を命じ、武蔵とカーウァイもまたヒリュウ改が調査に向かっている宙域へと出撃して行くのだった……。

 

 

 

第37話 進化の光を求める者 その2へ続く

 

 




インターミッション終了で次回はアインストとの戦いを書いて行こうと思います。後はおまえらは駄目だろって言うゲストも出して行こうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
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