第50話 怒る海神 その2
月面でカチーナ達を苦しめた恐竜型の特機を一撃で大破させた巨大な特機――DC戦争時にはアードラーが、L5戦役ではエアロゲイターが運用したゲッターポセイドンに酷似したその機体の圧倒的なパワーにも驚かされたが、レフィーナ達の驚愕はポセイドンから響いた声によって齎されていた。
「い、今の声は……」
「間違いありませんな。やはりあの機体は武蔵が操縦しているようです……しかし、艦長。これは大きなチャンスです、今の内にギリアム少佐達に進路を確保していただき、我々は早急に離脱しましょう」
ショーンの提案は武蔵にこの場を任せるといえば聞こえは良いが、武蔵を囮にして離脱すると言う物だった。
「ふ、副長。何を言っているのですか!? や、やっと武蔵さんを見つけたんですよ!?」
「ええ、私も武蔵が生きていた事に安堵しております」
「ならば武蔵さんと共に帰還するのが「今の我々に武蔵と共に戦う力はありますか?」……ッ!」
自分の言葉を遮り、冷酷な響きさえも伴ったショーンの言葉にレフィーナは絶句した。ショーンがこんな冷たい目と声をしているのを見るのはレフィーナには初めての事だった。
「ここで残ればL5戦役の二の舞。今の私達は足手纏いなのです」
「……うっく……ッ」
ショーンの言う通りだった……武蔵の乗る新しいゲッターロボと自分達の戦力には雲泥の差があった。共闘しようにも機体性能が何もかも違いすぎる。そして武蔵の性格を考えればヒリュウ改を狙われれば守りに動く……そうなれば相手は武蔵ではなく、ヒリュウ改やギリアム達を狙うのは明らかだった。
「ご決断を、これ以上囲まれては離脱する事も出来ません。どうしても出来なければ私がやります」
悩んでいる時間はないとショーンに念を押され、レフィーナが命令出来なければ自分が言うというショーンにレフィーナはぐっと唇を噛み締めた。
「……ギリアム少佐に伝達を、この場は……武蔵さんに任せ、本艦はこの宙域を……離脱……します……」
「りょ、了解ッ!」
ユンが命令を復唱し、ギリアムに通信を繋げる。艦長として、最善の選択を取らなければならない……そして今の最善の選択とはホワイトスターがインスペクターを名乗る異星人に占領された事、そして防衛艦隊が全滅したと言うこと……それを地球の連邦本部に届けることが唯一生き残ったヒリュウ改がやるべきことだ。
『ちょ、ちょっと!? やっと武蔵を見つけたのに、武蔵を見捨てて離脱するって言うのかいッ!? あたしだけでも残るよッ!』
レフィーナの指示を聞いたリューネが通信を繋げてそう怒鳴り込んでくる。誰がどう考えたって死んだという状況――それでも生きていて欲しいと願いMIA認定させた武蔵が目の前にいるのに、無尽蔵に出現する無人機。そして大型の特機3体がいるこの状況で武蔵だけを残して行くというレフィーナの決断は到底リューネに受け入れることが出来る物ではなかった。
『リューネ言うな……レフィーナ中佐も苦渋の決断だ。今俺達がこの場に残って何が出来る? 武蔵にだけ負担を掛けるのか? 武蔵の事を思うなら俺達は逃げるしかない』
『私も少佐の意見に同意よ。敵は無尽蔵、こっちの弾薬とエネルギーは限りがある。応援は見込めない以上――私達は逃げるしかないのよ』
『だけど! やっと見つけたんだよ! アヤやリュウセイ達になんて言えば良いのさ!』
武蔵を見つけたが、自分達が生き残る為に囮にして逃げたなんて言えないとリューネは声を荒げた。ホワイトスターを強奪されたことを話せばどうやって逃げたのかという話に繋がる。そうなれば武蔵の事を話さない訳には行かなくなる――1度だけではなく、2度も武蔵を見殺しに出来ないとリューネは逃走する事を渋る。その時だったポセイドンから武蔵の声が響いたのは……。
『オイラも逃げるから心配しなくて良いさ。それに今度はちゃんと顔を出すからさ、気にしなくて良い行ってくれ』
ホワイトスター上部に陣取る3体と向かい合うポセイドン。その背中にはヒリュウ改を庇っている。
『今度は何も言わずに去らないと言うのか? お前は3回それをやっているが?』
『まぁそのなんだ……こっちも都合があったんですよ。ま、今回はそうも言ってられないんで』
ここまで派手に立ち回り、そして謎の異星人が出現したとなれば武蔵とてだんまりを決め込んではいられない。それも向こう側の世界でエアロゲイターの変わりに出現した異星人となれば尚のことだ。だから武蔵はビアンの指示を破り、ヒリュウ改に1度顔を出す事を決めた。
『ポイントマーカーを出しておく、それを頼りに合流してくれ』
『ういっす』
『ああ、そうそう。ライが怒っていたぞ。シャイン王女を投げるなんて何を考えていると』
冗談めいた口調のギリアムの言葉に場に満ちていた緊張感が僅かに緩んだ。
『ちゃんとシャインちゃんにもライにも後で謝ります。んじゃま、行ってください。今度はちゃんと合流しますから』
無人機の中を突っ切っていくのはギリアム達と言えど容易ではない、だがこのまま負け戦を続ける訳には行かない。武蔵にインスペクターの指揮官機を任せ、回頭したヒリュウ改の前方にゲシュペンスト・リバイブ(S)、ゲシュペンストMK-Ⅱ・タイプRが移動しヒリュウ改を守りながらL5宙域からの脱出を試みる。
『武蔵。1個聞きたいんだけどさ。もしかして親父は知ってるのか?』
『何の事かちょっと判らないですね』
『OK。親父はとりあえず1発殴る。武蔵……無理したら駄目だよ』
最後まで残っていたヴァルシオーネも武蔵にそう告げると、反転しヒリュウ改のほうへ向かう。それを追って動き出す無人機――本当ならば食い止めたい所だが……不意打ちで一撃で倒したガルガウと違い、完全に警戒心を露にしている3体を前に隙を見せる事に繋がるとヒリュウ改を追う無人機を武蔵は見過すしか出来なかった。その時だった1体の機体……グレイターキンからポセイドンに向かって声が掛けられた。
『おたくらの話が終わるまで俺達は待った。不意打ちも、強襲も出来たのにだ。やりあうにしても話をしたい』
ヒリュウ改が逃亡という選択を取るまでグレイターキン達も無人機も動く事はなかった。逃亡し始めたからヒリュウ改を追って動き出したが、確かに話が終わるまで無人機も動かなければグレイターキンも動かなかった……敵ではある、敵ではあるが筋を通してきた。筋を通した上で話をしたいと切り出してくる相手を武蔵は無碍にすることが出来なかった……これが竜馬や隼人に散々甘いと言われても治す事が出来なかった武蔵の弱点であると同時に、武蔵らしさだった。
「巴武蔵だ。オイラにゃ話す事はねえが……聞くくらいはしてやってもいい」
グレイターキンからの問いかけに武蔵はそう返事を返すのだった……。
グレイターキンのコックピットでメキボスは小さくガッツポーズをしていた。ヴィガジの暴走による駐在艦隊の壊滅、そして有無を言わさずの襲撃……そのどれもが敵対行動であり、宣戦布告と同意義だった。
「アギーハ、シカログ。動くなよ、頼むから勝手な事をしてくれるなよ」
『……さすがのあたいも判ってるよ。あの小娘に年増呼ばわれされたのは腹が立つけどさ……あたいはヴィガジみたいに馬鹿じゃない。だから交渉は頼んだよ。リーダー』
『……』
『シカログも言ってるよ。穏便にはすまないだろうが、この場は互いに引く程度の交渉は出来るって』
「さいですか……」
相変わらずだんまりにしか思えないが、アギーハにはその無言に隠された真意が判る。シカログの言葉を聞いて肩を竦めながら、メキボスは改めてポセイドンに向かって声を掛けた。
「星間連合ゾヴォークのメキボス・ボルクェーデだ。まずは話し合いに賛同してくれたことに感謝する」
『そっちが筋を通したから、こっちも筋を通しただけだ』
ぶっきらぼうではある。だが話し合いの余地は十分にある……メキボスはそう感じた。そして無人機も、己も攻撃行動に出なかった事は間違いではないと笑みを浮かべた。
「こっちの馬鹿が暴走したことについては謝罪する。すまない、俺はホワイトスターさえ手に入れば、全員を見逃しても良かったんだ。交渉ですめばそれに越したことはないだろ?」
この言葉に嘘はない。素直にホワイトスターを渡せばメキボスは地球人を追撃するつもりは無かった。無論反撃してくれば万々歳で抹殺したが、逃げるのならばそれを見逃すくらいの器量はあった。今殺すのも、後で殺すのも大差はないからだ。
『あの黄色いの……ガルガウだっけか? 月であれだけ暴れて、んで。今度は駐在軍をぶっ殺しておいて交渉? おいおい、冗談きついぜ……なぁメキボス。お前らの言う交渉っつうのは殴りつけてからやるもんなのか?』
その返答にメキボスは僅かに眉を細めた。嫌味はまだいい、それを言う資格が武蔵にはある。月の戦いを見られていた事もそうだが、ガルガウの名前を武蔵が知っていた。
(こいつ何でガルガウの名前を……)
シカログのドルーキンを除けば、メキボス達の機体は全て最新鋭機だ。何故名前を知っている? いや、名前だけではない、機体特徴も知っているのではないか? だからガルガウを優先して戦闘不能に追い込んだのではないか? という考えが脳裏を過ぎる。
『あん? もしかして間違ってたか? グレイターキン、シルベルヴィント、ドルーキンだよな? んであれがガルガウ。なんか違ってるか?』
それぞれの機体を指差さされ、メキボスは背中に冷たい汗が流れた……完全に名前を言い当てられている。アギーハとシカログも息を呑む音がした……圧倒的強者に自分の事を知られていると言うのは想像以上に恐ろしい事だった。
「い、いや、合ってるぜ」
『そうかい、そいつは良かった。んでウェンドロって奴はいないのか?』
次の言葉にメキボスは完全に交渉のイニシアチブを武蔵に取られている事を悟った。
(どういうことだ。なんで、あいつがあそこまで知ってる!?)
機体名もウェンドロの名前も武蔵が知るわけのない情報だ。ゾガルから何かを聞いているのか、もしそうならウォガルであるウェンドロ達は誘い出された形になる。何故という言葉ばかりがメキボスの脳裏を過ぎった――それでも問いかけに答えないと言う事で交渉が無碍になってはならないと思い、ウェンドロはまだいないと返事を返した。
「ウェンドロ様はまだいない」
結局の所震えながらそう返事を返すのがやっとだった。どこまで武蔵が知っているのか、ゲッターロボの存在もありメキボスには武蔵が下等な生物ではなく、自分よりも上位の存在のような気がしていた。だからこそ、やはり下手に出ても武蔵と正式に交渉のテーブルについて貰わなければならないと感じていた。もしも本国の場所を知っていたら? 宇宙を滅ぼすことも出来ると言われるゲッターロボが自分達に牙を向いたら? 己の言動1つで敵対関係になると言う緊張感を感じながらメキボスは口を開いた。
「俺達は武蔵と友好的な関係を……『くたばれええ!!』てめえッ! 良い加減にしろよこのハゲェッ!!!!」
ガルガウが機体を爆発させるのと引き換えにビーム砲をゲッターロボに撃ちこんだ。その光景を見て流石のメキボスも激怒した。交渉の余地も何もかもぶっ壊しておいて、しまいには話し合いの最中に背後から攻撃を撃ち込む……その余りに目に余る光景にメキボスが怒鳴り声を上げるのも当然だった。爆発の中に消えたゲッターロボ――惑星さえも破壊するビームの直撃を受けたのだから破壊出来たと思う気持ちが無い訳ではない。だが宇宙すべてを滅ぼすとまで言われたゲッターロボがこの程度で死ぬ訳無いという気持ちもあった。
『やったの?』
「それならそれでも良いが、せめて残骸だけでも……『フィンガァアアアーーネットッ!!』うおッ!?」
爆煙の中から射出されたネットがグレイターキンに巻き付き、凄まじい勢いで煙の中にグレイターキンが引きずり込まれた。至近距離で見たゲッターロボに損傷らしい物はなかった……いや、確かに損傷していたのだが、メキボスの前で恐ろしい速度で修復されていた。
『よーっく判った。話し合いですみゃあオイラもそれに越した事はねえと思ったさ。ウェンドロとか言う、お前達の親玉が殺した人達にあやまってくれりゃあそれで良いと思ったさ。だけど……やっぱり甘かったって事だよなあッ!!! てめえらが殺した人達の弔い合戦だ、覚悟しやがれこの馬鹿野郎ッ!!』
「ごばあッ!?」
グレイターキンのフレームを一撃で歪め、機体全身を軋ませるほどの剛拳が叩き込まれ、その凄まじい衝撃に肺から強引に酸素が押し出されつぶれた蛙のような声を出したメキボスは何とかグレイターキンを操り姿勢を立て直した……だがそのダメージは凄まじくメキボスの口からは血が溢れていた。
「げふ……くそ……交渉決裂だ」
手の甲で口元を拭いながらメキボスはゲッターポセイドン2に視線を向ける。全身から迸ると闘志と殺意を前に流石のメキボスも小さく体を震わせた。
『交渉決裂って言うか、あのハゲのせいでしょ。どうすんのよ、完全に怒らせちゃってるじゃない』
「んなもん、俺が聞きてぇ……」
確かに敵対する意思はあった。だがそれでも話を聞こうと言う素振りをゲッターロボのパイロット――武蔵は見せてくれていた。それを弾いたのはヴィガジだが、同じ陣営である以上その責任はメキボス達にもある。
「泣けてくるね。全く」
肌を突き刺すような殺気と闘志。そしてゲッターロボの全身から溢れ出すゲッター線の証である翡翠色のオーラ……それは完全に臨戦態勢に入っている証であり、交渉の余地が無くなったことを示していたのだった……。
グレイターキン、シルベルヴィントは地球の技術を元に作られた最新鋭の機体であり、ゾヴォークの科学力も相まって地球人の機体よりも遥かに強力に仕上がっているのは今までの戦闘で判っていた。事実地球側の最新鋭機である量産型ゲシュペンスト・MK-Ⅲ、そしてヒュッケバイン・MK-Ⅲも容易く撃墜し、鹵獲する事も出来ていた。ヴィガジが交戦したヒリュウ改にいた機体はどれも強力だったが、各個撃破もしくは物量で押し込めば負ける訳がないと考えていた。それはメキボスもアギーハもシカログも共通の考えだった。だが、力はより強い力に押し潰される――そんな単純な話をメキボス達は目の前で実感していた。
『!!!』
『ぬおらああッ!!!』
ドルーキンはゾヴォークの中では旧式で大型の砲撃機だったが、その分重装甲・ハイパワーが売りの機体で、地球制圧に向けて装甲の強化や近接戦闘のためのハンマーやメイスを新たに建造され、砲撃機から近接戦闘機に改造されたと言う経歴のある機体だ。機体構造が単純な分強化も容易く、60m級の大型特機ということもあり地球の機体では禄にダメージも与えられない――そう考えられていた。だがドルーキンを遥かに上回る全長――80mという巨体を持つゲッターD2にはドルーキンのパワーも装甲も何の意味もない物だった。ホワイトスターの上でがっぷり4つに組み合ってるポセイドン2とドルーキンを見て、メキボスとアギーハは己の機体を其方に向かって走らせた。
『シカログ! そのまま押さえてろッ! アギーハッ!』
「判ってる! 今行くよ! シカログッ!」
機体の性能差は明らか、それでもシカログは己の職務に忠実だった。その装甲とパワーで敵陣のど真ん中に切り込み、そして盾と矛となりメキボス達が有利に戦える環境を作る。ポセイドン2の剛力にその指を押し潰されながらも、その動きを封じグレイターキンとシルベルヴィントに向けてポセイドン2を引き摺るように動かす。
『やるなあ、あんた』
『!!!』
『自分達が悪いのは認めるが、それでも任務は遂行しなければならないか……軍人っつうのはどいつもこいつも頭がかてえなぁッ!!』
『!?!?』
ポセイドン2をがっぷり4つに組み合っていたドルーキンが持ち上げられ、ホワイトスターに力任せに叩きつけられる。1回ではない、2回、3回と叩きつけられ、その腕が反対方向に捩れかけていてもドルーキンはポセイドン2の両腕を押さえているその腕を放す事は無かった。
「シカログッ!!」
火花を散らすドルーキンを見てアギーハがその名を叫ぶ。すると膝をつきかけていたドルーキンが再び立ち上がり、完全に上から押し潰そうとしていたポセイドン2を押し返し始める。
『!!!!!』
『惚れた女の前で情けない姿を見せられんか……は。こんな形じゃなかったらあんたとは友達になれたかもな』
『!!!!』
『おう! 手加減なんてしねえさッ!!!』
ポセイドン2とドルーキンが掴みあっていた腕を放し、拳を握り締めその剛拳を互いに交互に繰り出しあう。だがドルーキンの拳はポセイドン2の装甲に弾かれ、ポセイドン2の拳はドルーキンの装甲を凹ませくっきりとした拳の跡をドルーキンに刻みつける。
『メガバスターキャノンを喰らいやがれッ!!!』
「シカログ! 今助けるよッ!」
グレイターキンが背中にマウントしている大型ビームライフルと、シルベルヴィントの胸部のフォトンビーム砲がポセイドン2の背後に向かって放たれる。
『当たるかよッ! うおッ!?』
飛び退いて交わそうとしたポセイドン2の脚部にドルーキンのハンマーが巻きつき、それを引き寄せられたことでバランスを崩したポセイドン2にメガバスターキャノンとフォトンビーム砲が直撃する。
『ぐっ!? 流石に3対1は厳しいかッ! ゲッタァアアーーーキャノンッ!!』
ポセイドン2の両肩のゲッター線キャノンが火を噴き、グレイターキンとシルベルヴィントを近づけさせまいとしながら、脚部をキャタピラに変形させドルーキンへと向かう。
「これ以上シカログはやらせないよッ!!」
『相手は遅い、一気に切り込むぞッ!』
グレイターキンとシルベルヴィントが急加速し、ポセイドン2に向かって高周波ブレードを振るう。
『うっ!?』
『しゃあッ! 悪いな、こっちが悪いのは承知してるが、こっちも仕事なんだよッ!』
細身の剣と言う事でポセイドン2の装甲は切り裂けないと判断し防御をしなかった武蔵。だがそれは大きな間違いだった……高周波ブレード……つまり高周波振動発生機によって刀身を振動させる事で原子間結合を強固にし刀身の強度を高め、逆に高周波エネルギーを帯びた刀身に触れた物体は原子間結合力が弱められるため、刀剣の切断能力を大きく高めるという能力を持ったブレードだ。ポセイドン2の装甲は確かに強固だが、装甲の間の原子結合を切断されれば、その強固な装甲も豆腐のように切り裂かれる。
『なんだ、なんかわからねえけどやべえッ!!』
『!!!』
『ぐうッ!?』
グレイターキンとシルベルヴィントと切りあっては不味いと判断した武蔵はポセイドン2を反転させようとするが、そこにドルーキンのタックルが叩き込まれ後退を阻害される。その隙を突いてグレイターキンとシルベルヴィントが一気に間合いを詰めようとしたその瞬間だった……ポセイドン2が自ら爆ぜた。
『オープンゲットッ!!!』
『しまッ! 追え!』
「判ってる! でも早いッ!」
ゲッターロボの最大の特徴が頭から抜け落ちていたのがメキボスとアギーハのミスだった。ゲットマシンに分離し高速で飛ぶゲッターロボを追うが、加速力が売りのシルベルヴィントでさえゲットマシンには追いつけなかった。
『チェンジライガーッ!!』
グレイターキンとシルベルヴィントが自分を追ってきているのを確認し、急反転と同時にライガー2へと合体を果たす武蔵。
『ドリルミサイルッ!!』
ドリルミサイルを放つと同時に背中の4つのブースターを吹かしたライガー2の姿がアギーハ達の目の前で消えた
『ゲッタービジョンッ!!!』
宇宙空間に眩い蒼い軌跡が描かれては消え、描かれては消えると繰り返す。その圧倒的な速度にメキボスとアギーハは完全に幻惑されていた。
「シルベルヴィントより早いだって!? うあッ!?」
『うおらぁッ!』
熱源を感知した瞬間背後に現れたライガーの回し蹴りでホワイトスターに向かって叩き落されるシルベルヴィント。その凄まじい衝撃にアギーハは思わず悲鳴を上げた、態勢を立て直すということすら考えられず。シルベルヴィントはホワイトスターの外郭に背後から叩きつけられた。
『アギーハッ!? うおッ!?』
「ドリルアタックッ!!」
目の前でシルベルヴィントが墜落するのを見てメキボスがアギーハの名前を呼んだの直後。ライガーがグレイターキンの背後を取り、高速回転するドリルをその背中に叩き込んだ。装甲が抉り取られ、アギーハとシカログが見ている中グレイターキンもホワイトスターに向かって叩き落とされた。
『オープンゲットォッ!! チェンジポセイドンッ!!!』
態勢を立て直す間もなく、ライガー2が爆ぜメキボス達の目の前で再びポセイドン2へと合体を果たす。そして新たな絶望を見せ付けるようにポセイドンの胸部装甲が展開された。
「やばいッ!」
『しくじったッ!!』
ゲッターポセイドン……その姿と能力はゾヴォークのデータベースにしっかりと残されている。その最大の武器は胸部に搭載されたファンから放たれるゲッター線を伴った暴風――それに1番最初に気付いたドルーキンがグレイターキンとシルベルヴィントをその背中に庇った。
『ゲッタァアアア――サイクロォォオオオオンッ!!!!』
ポセイドン2が放ったゲッターサイクロン――その凄まじい暴風が放たれたと思った瞬間。ドルーキン達は吹き飛ばされ一瞬意識が跳んだ――そしてアギーハが意識を取り戻したのはポセイドン2の手から放たれたフィンガーネットが各々の機体に巻き付き、容赦ない電流が流された事による痛みだった。
「が、がああああああッ!!!!」
『き、きやああああッ!!』
『!!!!????』
容赦ない電流はグレイターキンの帯電防御を貫き、コックピット内のコンソールがあちこち火花を散らす……だがそんな物はこれから始まる地獄を前にすればまだ天国に等しいものだった。
『うぉおおおおおお――ッ!!! 大ッ!! 雪ッ!!! 山ッ!!!! おろしぃいいいいいッ!!!!』
フィンガーネットで囚われたままメキボス達は激しく回転させられ、ホワイトスター周辺に浮かぶスペースデブリに何度も何度も容赦なく叩きつけられる。
「ごは、げほっ!?」
『うっぷ……うえッ!?』
余りの衝撃と振動にメキボスとアギーハの口から血液と吐瀉物の混じったものが溢れ出し、その意識が何度も目覚めては消え、目覚めては消えを繰り返す。
『こいつでトドメだッ!! 大雪山おろし……パン……うおっ!?』
グレイターキンとシルベルヴィントの動きが止まったのを見て、フィンガーネットを回収しながら右拳を握り、その鉄拳で文字通りグレイターキンとシルベルヴィントを叩き潰そうとした武蔵は驚きの声を上げた。
『う、うおおおおおおおお――ッ!!!』
シカログの雄叫びと共にドルーキンの両腕が爆発し、強引にフィンガーネットを打ち破り肘だけでグレイターキンとシルベルヴィントを抱えて逃げようとするドルーキンに流石の武蔵も驚きを隠しきれなかった。
『逃がすかよッ!!! ゲッタァアアア――サイクロォォオオオオンッ!!!!』
驚きはしたが敵を逃がすという事を武蔵がするわけも無く即座に胸部装甲をパージし、逃げようとするドルーキンに向かってゲッターサイクロンによる追撃を叩き込み、グレイターキン、シルベルヴィント、ドルーキンは錐揉み回転しながらヴィガジが破壊した地球の戦艦へと叩き付けられた。
「うげえっ……ごほっ! おい、アギーハ……シカログ……生きてるか……」
かすむ視界と口元を拭いながら生きてるかと問いかけたメキボスの耳に響いたのはヒステリックなアギーハの叫び声だった。
「シカログ! シカログ! 大丈夫かいッ!?」
ゲッターサイクロン、大雪山おろし、ゲッターサイクロンと猛攻撃を受けたグレイターキンとシルベルヴィントのダメージも大きいが、それでもドルーキンにかばわれていたから損傷はまだ軽微だ、だが最も攻撃を受け、そして戦艦の残骸に叩きつけられる寸前に2人を庇ったドルーキンは完全にスクラップ手前で、しかもコックピット付近に鋭い残骸が突き刺さり細かい爆発を続けているドルーキンは完全に死にたいだった。
『……』
『シカログぅッ!!!』
アギーハが必死に呼びかけるがシカログからの反応はない。コックピットは外しているが、ゲッターサイクロンの直撃を食らったことで、強い衝撃を受けたことが原因である脳震盪であるのは明らかだった。
『つっつう……こいつは不味いぜ』
シカログは意識不明、メキボスとアギーハは意識を残しているが、機体のダメージは深刻。ヴィガジはどうでも良いが今は戦力としては数えられない。それに対してポセイドン2は高周波ブレードによる損傷ももう回復し、完全に万全の状態だ。どう考えてもここから巻き返すのは不可能とメキボスは判断を下していた。しかしここでメキボスにとって予想外の幸運――いや不幸とも言えるが、この状況を覆す事が出来るかもしれない出来事が起きた。
『『『キシャアアアーーー!!』』』
『イ、インベーダーだとッ!?』
ゲッターサイクロンの凄まじいゲッター線の余波に引き寄せられたインベーダーの大群――ゲッター線に引き寄せられ、ありとあらゆる者を喰らう暴食魔――勿論その存在もゾヴォークの中では懐疑的だったが、今こうして目の前に現れればそれが実在の存在であるという何よりの証拠だった。
『おい。アギーハ、大博打に出るが乗るか?』
「何をするつもり?」
『もう1度交渉する。あの化け物が出て来たんだ、向こうだって対策を取らなきゃなんねえ。良い落とし所だろ』
シカログが意識不明、まだメキボスとアギーハは戦える状況だが、3つ巴になればどうなるかなんて容易に想像出来た。このままゲッターに殺されるか、インベーダーに喰われるかの2択――それしかメキボス達に残された選択は無かった。
『……頼んだ』
その時だったノイズ交じりだがドルーキンから確かに通信が繋げられた。頼んだとメキボスに任せると小さく呟いたシカログ、その声を聞いたメキボスはもう1度広域通信のスイッチを入れたのだった……。
ホワイトスター駐在軍の残骸を取り込みメタルビーストに変異しつつあるインベーダーを見て、武蔵は焦りを隠せないでいた。
「くそ、不味い不味い不味いッ!」
ストーンサークル周辺でインベーダーを見た。新西暦にもインベーダーが存在することを武蔵は知っていた、集まってくる可能性を考えて威力を絞ったゲッターサイクロンを撃ちこんだが……それでも夥しい数のインベーダーがホワイトスター周辺に集まってきていた。
(どうする。どうすればいいッ!?)
今は破壊された残骸を貪っているが、それだけでは足りない。インスペクターと戦いながら、インベーダーとも戦い、そしてなおかつコロニーを守ると言うのはどう考えても不可能なことだった。
『サンダァァアッ!! クラァァアアシュッ!!!』
何かを見捨てなければならない――その選択を迫られていることに武蔵が気付いた時だった。今まで武蔵と戦っていたグレイターキンがメタルビーストに変異しようとする残骸にむかって左腕を突き出し、そこから放たれた高圧電流がインベーダーが寄生しようとしていた残骸を焼き尽くし、インベーダーをも飲み込んだ。
『武蔵、ここは手打ちにしないか?』
「んだよ、急に」
インベーダーの進撃が一時的に止まった瞬間。メキボスから広域通信で手打ちにしないかと提案された武蔵が思わずそう尋ね返すとメキボスは会話を続けた。
『あの馬鹿で間抜けなハゲが暴走した事は謝罪する。すまない、俺達としては確かに武力による制圧も候補に入れてはいたが、交渉で済めばそれに越した事はないと考えていたのは本当の事だ』
「じゃあ、地球から手を引けや」
『それは出来ない。俺達にも都合って言う物がある。だから地球から手を引く事は出来ないが譲歩は出来る。インベーダーの出現はお前にとっても都合の良い話ではないだろう?』
メキボスの言葉に武蔵は黙り込んだ。確かにゲッターD2ならばインベーダーにも有利に戦える……だが余りにも数が多すぎる。地球への降下を許せばその数を爆発的に増やすのは容易に想像出来、更に言えばコロニーに到達されても同じ事だ。
『地球圏全域をインベーダーのコロニーにする訳には行かない。違うか?』
「……何が言いたい、オイラにはぐだぐだ話をしている時間はないんだよ」
インベーダーが徐々に再生を始めている。長話をしている時間はないと武蔵が声を荒げるとメキボスは本題を切り出した。
『俺達はお前を追わないし、邪魔もしない。お前が移動すればインベーダーはお前を追うだろうが、ホワイトスターという餌場が残っている以上インベーダーはこの場にも残るだろう。この場はこれ以上互いに争わず、インベーダー退治に集中する。これで手打ちにしよう』
「随分とお前に都合のいい話だな。メキボス」
インベーダーが最も好むのはゲッター線だ。インベーダーの大半は武蔵を追い、ホワイトスター周辺に残るインベーダーは少数になるだろう。
『そうだな、それは十分承知している。だが考えても見ろよ。俺達とここで押し問答をしているうちにインベーダーはその数を増やすぜ? それに俺達は地球圏から離脱してインベーダーを増やした後に惑星事滅ぼすって言う選択も取れる。だってそうだろ? てめえの住んでない星だ。滅ぼしても何にも感じねえ』
「下種が」
メキボスが言う手打ちとは地球全てを人質にし、武蔵にこれ以上自分達と戦うな。そしてこの場をされと言う一種の脅迫にも等しかった。
『悪いな。俺達はそういう種族なんだよ、その星が他の星に被害や危険を及ぼすなら制圧して占領下におく、それでも駄目なら滅ぼすつうのが俺達ゾヴォークだ』
「交渉で終わらせるつもりなんかねえじゃないか」
『まぁそこは俺達のボスと地球の代表次第だ。俺達は命令されればそれに従うだけだぜ、どうせ俺達は兵士だからな。俺達を殺しても次のが来るだけさ、捨て駒って言っても良い。だからここでお前と心中してもいいんだぜ? ゲッターロボが消えてくれれば、上も動きやすいしな。それなのに俺は譲渡しているここで手打ちにしてくれるならお前の邪魔はしない、後で戦うとしてもここは手打ちにするのが互いの為じゃないか? さぁ? どうする。お前の個人的な感情で地球全てを危険に晒すか?』
ゲッターD2の回りを囲うグレイターキンとシルベルヴィント、そしてドルーキンの3機――心中しても良いというのははったりだったが、ここでメキボス達が死ねばより上位の軍人が出張ってくる。そして危険惑星として地球を処理するだけというのは事実だった……武蔵はメキボスの言葉の中に嘘と真実が混ざっている事は感じていたが、どれが嘘で本当かが見抜けなかった。
「……判った。手打ちだ」
『OK。賢い選択をしてくれて感謝するぜ』
地球を全て引き合いに出されては武蔵は戦えない。自分の選択で地球が滅ぶかどうかの瀬戸際で、そして自分が引けば一時的にしろ戦いが終わるとなれば武蔵は手打ちの提案を受け入れるしかなかった。
「今は引くが、メキボス。てめえ覚えてろよ、お前らが殺した人達の分もきっちり落とし前を付けさせてやる」
ここで少なくとも1500人は死んだ。その仇を討てない事を武蔵は心の中で謝り、そして必ずこの落とし前を付けさせてやるとメキボスに凄んだ。
『ああ、そうしてくれ。じゃあな』
それに対してメキボスは軽く返事を返し、それが余計に武蔵の怒りを煽ったがヒリュウ改、そしてコロニーのほうに向かうインベーダーを見て、武蔵はメキボス達に背を向けてその場を後にするのだった。
『なんとかなったね』
『1時的な。だが今度は交渉の余地もねえ、完全に潰しあいだ』
インスペクターと武蔵の間には埋めることの出来ない亀裂が生まれた。戦いは避けることは出来ない展開にヴィガジのせいでなってしまった事にメキボス達は深い溜め息を吐くが、何時までも気落ちしている時間はない。
【キシャア!】
【シャアアッ!】
インベーダーの3割はヒリュウ改をおい、ゲッターD2を追って残り4割がホワイトスターを去った。しかし3割が残り雄叫びを上げている――ゲッターロボという脅威は去ったが、ゲッターに負けず劣らない脅威がまだメキボス達の前に残っていた。
『気合入れろよ。喰われたなんて報告したくねえからな』
『そっちこそよ。あーあ、やだやだ……こんな命令聞くんじゃなかった』
地球に再び現れたかもしれないゲッター線の捜索――それがとんでもない貧乏くじだったと悟ったがもう遅い。メキボス達を喰らおうと迫るインベーダー達との戦いが幕を開けた頃――ヒリュウ改もまたインベーダーとの戦いを始めていた。
「アンノウン接近中!!」
「くっ! ギリアム少佐達に再出撃要請をッ! なんとしても本艦は生き残り地球へと向かいますッ!!」
縦横無尽に襲ってくるインベーダーに恐怖を感じながらも、レフィーナは凛とした声でクルーに向かって指示を飛ばすのだった……。
第51話 怒る海神 その3へ続く
インスペクターと武蔵の初戦は途中中断となりました。インベーダーの出現で手打ちを選ばされた武蔵の怒りゲージはUP。今度インスペクター……特にハゲと遭遇すればぶち切れる事は確定ですね。次回はヒリュウ改のサイドで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
ゲッターアークでゲッター線を得た気分ですねぇ、4時間で1万3000文字は過去最高知れないです。
これからゲッターアークが放送される日曜日が楽しみですね。
あと感想というなのゲッター線はいつでも大歓迎です。
PS
アークに進化の光の武蔵を突っ込んでも良いよね
書いてる余裕無いけどね、進化の光の中の話でそんな話があってもいいじゃないかなと思ってます。
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い